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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

君と代わる日  第3話

週が明けて期末試験は順調に過ぎ、ついに最終日の金曜日。ソルジャーが会長さんと入れ替わる日がやって来ました。私たちはいつもより早く登校してきて、校門が開くと同時に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に向かって一直線。生徒会室の壁を抜けた向こう側には既に二人の会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が…。
「かみお~ん♪みんな早いね!朝ご飯、ちゃんと食べてきた?」
よかったら食べて、とサンドイッチを盛ったお皿が運ばれてきます。真っ先に手を伸ばしたのは会長さん…じゃなくてソルジャーかな?
「みんな、おはよう。今日はよろしくお願いするよ」
夏物の制服を着たソルジャーがサンドイッチ片手にウインクしました。隣に座った会長さんが溜息をついて。
「…試験の答えは教えるけどさ…。くれぐれもクラスの中での悪戯は…」
「それはしないって約束する。君を騙した負い目もあるしね」
「…騙した…?」
目を丸くする会長さん。私たちにも何のことやらサッパリです。
「うん。この前、ぼくとベッドを交換するか、ぼくに生徒をやらせてくれるか、どっちか選べって言っただろう。君はハーレイに抱かれたくなくて、こっちの方に決まったけれど…。あの時、嘘をついたんだ。ぼくのハーレイに君は抱けない」
「「「えぇっ!?」」」
驚いたのは会長さんだけではありませんでした。あんなに脅しをかけていたのに嘘だったって言うんですか?
「正確に言えば、君が嫌がるに決まっているから無理だってこと。…ぼくのハーレイもヘタレなんだ。嫌がる相手を抱くなんて真似は出来っこない。ぼくそっくりの君が相手なら尚更さ」
「じゃ、じゃあ…君のハーレイとどうこうって話は最初っから…?」
「ううん、最初は本気だった。途中で思い出したんだよね、ハーレイはヘタレだったっけ、って。だけど怯えてる君が可愛かったし、訂正するのはやめにしたんだ」
クスクスとおかしそうに笑うソルジャー。会長さんはガックリと肩を落として「はめられた…」と呟きました。
「ブルー、本当に何もしないんだろうね?…凄く心配になってきた」
「しないってば。クラスでは誓って何もしない。ぼくのお目当ては君のハーレイを口説くことだから」
これだけは譲れないよ、と言ってソルジャーはソファから立ち上がります。
「サンドイッチ、御馳走様。それじゃ試験を受けに行くね。えっと、教室はどっちだっけ」
「教えてもらっていないのか?」
キース君の問いにソルジャーは「まさか」と微笑んで。
「教室の場所も校舎の配置もバッチリ頭に入っているよ。試験問題も多分、自力で解ける。クラスの命運がかかっているっていうから、ブルーに確認してもらうけど。…その他のフォローはよろしくね」
私たちは覚悟を決めて頷きました。トラブルメーカーなソルジャーですが、クラスでは何もしないという言葉を信用するしかありません。試験さえ無事に終わってくれれば、後は野となれ山となれです。

影の生徒会室を出て1年A組に着くまでの間、ソルジャーは完璧に会長さんを演じていました。すれ違う生徒と挨拶したり、女の子たちに手を振ったり。そしてA組の教室でも…。
「おはよう。試験も今日でおしまいだよね」
試験勉強とは無縁のクラスメイトに声をかけ、アッという間に女の子たちに囲まれています。
「…あれが目的だったのか…?」
呆れた声のキース君に、マツカ君が。
「女性には興味が無いんじゃないかと思うんですけど…」
「分からんぞ。食う方も出来ると言ってたからな、興味が無いとは言い切れん」
なるほど。あちらのシャングリラ号にどんな人たちが乗っているのか知りませんけど、ソルジャーともなれば気軽に女の子たちと話せる機会は少ないのかも。ソルジャーは包囲網を上手に抜け出してアルトちゃんとrちゃんに話しかけたり、好き放題。フォローなんて全く必要ない様子に、私たちは感心するばかりでした。やがてカツカツと足音が近づいてきて、教室の扉がガラリと開いて。
「諸君、おはよう」
グレイブ先生もソルジャーを見破れないようです。サイオンを持つ仲間ですから、もしかしたら…と思ったんですが。お馴染みの注意に続いてプリントが配られ、試験開始。いつものようにスラスラと答えが書けるのはソルジャーの力のせいでしょうけど、自分で解いているのでしょうか?この問題って世界史ですよ!…次の試験の前に尋ねてみると、ソルジャーはいともアッサリと。
「ぼくが解いた。ちゃんとブルーに確認したから正解だよ」
そんな調子でソルジャーは試験を楽々とこなし、最後のテストが終わった後はクラス中から御礼を言われて上機嫌でした。終礼が済むと私たちを集めて微笑んで。
「ね?…約束通り何もしなかっただろう。ブルーの所へ帰ろうか」
会長さんの鞄を持ったソルジャーは何処から見ても会長さんにしか見えません。本物の会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に隠れてるなんて、誰も思いもしないでしょう。残るは打ち上げパーティーと…。
「ハーレイのこと?」
廊下を歩きながらソルジャーが私の方を振り向きました。思考が零れていたようです。
「うん、教頭室にも行かなきゃね。今日のメインイベントはそれだし、とても楽しみにしてるんだ」
「…やっぱりロクでもないことを…」
そう言ったのはキース君。ソルジャー相手でも遠慮しないのが凄いです。
「どうだろう?…君たちのブルーも色々やってたみたいじゃないか。ぼくが少々羽目を外しても、許されるんじゃないかと思うな」
「「「!!!」」」
恐ろしい言葉をサラッと口にし、ソルジャーは意気揚々と生徒会室に入ってゆきました。壁を抜けると「そるじゃぁ・ぶるぅ」と会長さんが出迎えます。
「かみお~ん♪おかえりなさい!凄いや、ホントにバレなかったね!」
「癪だけど、君は完璧だったよ。…1問も直す所が無かった」
大感激の「そるじゃぁ・ぶるぅ」と憮然としている会長さん。次は打ち上げパーティーの費用を貰いに教頭室へ行くわけですけど、ソルジャーが一人で行くのでしょうか。
「ブルー、みんなを教頭室に連れて行ってもかまわないよね?」
え。ソルジャーがニッコリ笑っています。
「ぶるぅも連れて行かせてもらうよ、怪しまれないための必須アイテム。…君はどうする?」
「…行くさ。ぼくがしっかり監視してないと、君は暴走しそうだし。でもシールドを張って隠れてるから」
「ハーレイが気付かないと思っているのかい?…まあ、いいけど」
会長さんは姿を隠して行くようです。ソルジャーは私たちの方を振り向いて。
「じゃあ、資金調達をしに出掛けようか。楽しい時間を約束するよ」
ああぁ、いよいよ教頭室です。本日のメインイベントとやらが、とっても心配なんですけど~!

ソルジャーは私たちと「そるじゃぁ・ぶるぅ」を引き連れ、まっすぐ本館に向かいました。すぐ後ろには会長さんがいる筈ですが、全く姿が見えません。同じ能力を持つタイプ・ブルーでないと分からないものと思われます。ジョミー君もタイプ・ブルーですけど、思念波で話すのが精一杯のようですし…。
「ジョミー。お前、ブルーが見えてるのか?」
サム君が落ち着かない様子で尋ねました。会長さんが心配なのでしょう。
「ううん、全然。ぶるぅ、どの辺にいるのか教えて」
「えっとね、あそこ」
指差された先には何の気配もありませんでした。よく『見えないギャラリー』にされてきましたけれど、こんな風になっていたんですねぇ。周りの景色を遮りもせず、会長さんは静かに隠れています。触ろうとすれば上手に逃げてしまうのでしょう。私たちはソルジャーを先頭に本館に入り、教頭室の扉の前に立って。
「失礼します」
ソルジャーが扉をノックしてガチャリと開けると、書きものをしていた教頭先生が顔を上げました。
「ブルーか。今回も多めに入れておいたぞ」
引出しから熨斗袋を取り出したのを、ソルジャーが笑顔で受け取ります。
「ありがとう、ハーレイ。…ねえ、足りなかったらどうしたらいい?」
「どうするも何も、いつも私の名前でツケにしてくるのはお前だろう。今日は焼肉か?」
「うん。…でね、貰ってばかりじゃ悪いから…」
ソルジャーの身体が教頭先生と机の間にスッと入り込み、膝の上に腰かけたかと思うと両腕を教頭先生の首に絡み付かせて。
「これ、お礼。…好きだよ、ハーレイ」
耳もとで甘く囁き、唇を重ねるだけのキス。そのまま教頭先生に抱きつこうとしたソルジャーでしたが…。
「やめ…!……いえ、ふざけるのはおやめ下さい、ソルジャー」
「どうしたのさ、ハーレイ? 言葉が変だよ」
膝の上に座ったままでソルジャーが首を傾げます。教頭先生は溜息をつき、ソルジャーの顔を見つめました。
「…ソルジャーと呼ぶのは駄目ですか?…では、ブルー。降りて下さい。どういうおつもりかは存じませんが」
「その言葉、やめてくれないかな。なんで敬語を使うのさ!」
「あなたがブルー…いえ、私の世界のブルーではないと分かるからです。あなたは別の世界のブルー。我々には想像もつかない世界を生き抜いてこられたソルジャーですから」
教頭先生の目は確かでした。正体を見抜かれたソルジャーは教頭先生の膝から滑り降り、机にもたれかかりながら。
「きっとバレると思っていたよ。…誉めてるんだろうけど、普通の言葉の方がいい。いつもブルーに話すみたいな」
「…ですが…」
「また敬語。いいけどね、今はブルーがソルジャーだから」
「なんですって!?」
教頭先生の叫びは私たちの心の声でもありました。会長さんがソルジャーだなんて、何を意味しているのでしょう。ソルジャーはニヤリと意地悪い笑みを浮かべて。
「分からないかな。ブルーがいなくて、ぼくがいる。ブルーとぼくは姿も力もそっくり同じだ。入れ替わっても気付かれない。…ブルーはぼくと賭けをして負けて、ぼくの代わりにソルジャーをやっているんだよ」
「…い、いつから…」
愕然とする教頭先生。何故ソルジャーが嘘をつくのかは謎ですけれど、そう聞かされた教頭先生が驚愕するのは当然でした。ソルジャーの世界がどんな所か、十分に知っているのですから。
「いつからって言われても…。もう1週間になるのかな?試験が始まる前のことだし」
「そんな無茶な!ブルーを帰してやってくれ!!」
頼む、と頭を深々と下げる教頭先生にソルジャーはクスッと小さく笑いました。
「言葉が普通に戻ったね。…よっぽどショックだったんだ」
「し、失礼を…。お願いです、どうかブルーを元の世界に…」
「期限は明後日までなんだよね。大丈夫、大きな戦闘は起こってないから。作戦途中でちょっと怪我したみたいだけれど、それはブルーが慣れてないからで…」
「怪我!?」
教頭先生は真っ青になり、両の拳を握り締めて。
「ブルーが…怪我を…。慣れていないのは当たり前です。ブルーもソルジャーを名乗ってはいますが、あなたとは全く違う世界で生きてきて……戦ったことなどただの一度も…」
「そうだろうね。でも約束は明後日まで。流石に命が危なくなったら、ぼくが助けに戻るけど」
「帰してやって下さい、すぐに!ブルーの代わりに私が何でも致しますから!!」
すっかり騙された教頭先生は絨毯に頭を擦りつけるようにして土下座しました。えっと…会長さんは多分その辺りにいるんですけど…。

「ブルーの代わりに何でもするって?…そこまで言うほどブルーが大事?」
懇願する教頭先生の背中を見下ろし、ソルジャーは冷やかに笑います。
「さんざんオモチャにされているのは知ってるよ。なのにブルーを心配するんだ?…たまにはお灸を据えられた方が大人しくなるかもしれないのに」
「ブルーはあれでいいのです。あなたとの賭けも、軽い気持ちだったに決まっています。なのに本当に入れ替わるなど…。ブルーがどれほど困っているか、心細い思いをしているか…。お願いです。ブルーを帰して頂けないなら、せめて私もあちらの世界に」
教頭先生は泣きそうな顔をしていました。土下座したまま必死に訴えかけるのですが、ソルジャーは嘘だと明かそうとはせず、会長さんもシールドの中から出てきません。
「お願いです、ソルジャー…いいえ、ブルー。ブルーが帰ってこられないなら、どうか私をブルーの側に」
「それは出来ない。キャプテンまでが入れ替わったら、誰がシャングリラを守るんだ?…仕方ない、期限にはまだ早いけど…ブルーを帰すことにしようか。その代わり…」
「…その代わり…?」
縋るような眼の教頭先生に、ソルジャーは勝ち誇った顔で言い放ちました。
「さっき、ぼくが二度目のキスをあげようとしたのに断ったよね、ブルーじゃないから。ブルーだったらキスさせたろう?…その罰だ。キスにはキスを。ぼくの靴にキスして貰おうかな」
「「「!!!」」」
ソルジャーったら、なんてことを!調子に乗るにも程があります。それに会長さんはすぐそこに…って、教頭先生?
「…分かった。それでブルーが戻るなら…」
教頭先生は身体を起こし、ソルジャーの右足に両手を添えると、躊躇いもなく身を屈めました。その唇が靴に触れようとした、まさにその時。
「ストップ!…もういい、ブルーはそこにいる」
弾かれたように振り返った教頭先生の視線の先で、会長さんのシールドが解かれます。ソルジャー服ではなく制服ですから別世界から戻ったにしては妙なのですが、教頭先生は会長さんが帰ってきたのだと完全に信じ込みました。
「ブルー!!」
会長さんの側に駆け寄り、ギュッと抱き締める教頭先生。
「…すまない、気付いてやれなくて。怖かったろう、一人ぼっちで…。怪我は大丈夫か?痛まないか…?」
「痛いよ、ハーレイ。…馬鹿力だってこと、自覚したら?」
「す、すまん、つい…。傷に響いてしまったか?」
済まなそうに謝る教頭先生の腕から逃れた会長さんは、ソルジャーの隣に立って艶やかな笑みを浮かべました。
「ぼく、怪我なんかしてないし。…それにソルジャーもやってない。入れ替わってたのは今日だけだよ。ブルーが生徒をやりたいって言うから、ぶるぅの部屋に隠れてたんだ」
「ぶるぅの部屋!?…ブルーの代わりにソルジャーをやっていたんじゃないのか?」
「それは無理だってブルーが言った。ぼくにソルジャーを任せちゃったら、シャングリラ号が沈むんだってさ」
「…………」
騙されていたと気付いた教頭先生がヘタヘタと床にへたり込みます。ソルジャーと会長さんは瓜二つの顔でクスクスと笑い、熨斗袋を開けて中身を数えて。
「ありがとう、これ、貰っていくね。靴にキスしようとしてくれたことも忘れないよ」
「ごめんね、ハーレイ。ブルーも悪戯が好きなんだ。…先にキスしてもらってたんだし、キスにはキスってことで許してあげてよ」
教頭先生の返事を待たずに、二人はクルリと背を向けて歩き出しました。会長さんは再びシールドの中。そっくりな二人が学校の中で並んで歩けば、混乱を招くからでしょう。
「みんな、帰るよ。お店を予約してるんだから」
早くおいで、と手招きされて教頭室を出る私たち。教頭先生は絨毯の上で白く燃え尽きてしまっていました。

いつもの焼肉屋さんへはタクシーで。ソルジャーは私たちとタクシーに乗り、会長さんはお店の近くに瞬間移動してきて合流です。個室で美味しい焼肉を頬張りながら、ジョミー君が尋ねました。
「ねえ、ブルー。教頭先生を騙してたけど、あれって打ち合わせしてあったの?」
「…それはぼくに対する質問?それとも君の世界のブルー?」
「え、えっと…。ブルー…ううん、会長に聞いたつもりだったんだけど、答えが聞けるならどっちでもいいや」
「いい答えだ」
ソルジャーは網の上のお肉を上手に裏返し、焼き上がった野菜を器に取って。
「ぼくもその話をしたかったんだよ。打ち合わせなんか一度もしてない。ブルーにはハーレイを口説く許可しか貰ってなかった。だからブルーは誘惑だけだと思っていたんじゃないのかな」
「そうだよ。なのに君が勝手に…」
どんどん暴走しちゃうんだから、と会長さん。ソルジャーは肩を軽く竦めて。
「ごめん、ごめん。でも、君だって止めなかったじゃないか。シールドを解けばすぐ嘘だってバレるのに」
「あんなハーレイ、滅多に見られないからね。面白そうだし放っておいた」
「やっぱりね…。そして今でも面白かったと思ってるわけだ」
溜息をつくソルジャーの姿に、会長さんは首を傾げました。
「え? だって本当に楽しかったし…」
「ハーレイがぼくに土下座をしたり、靴にキスまでしようとしたのは君のためだよ。あそこまでする姿を見ても、ハーレイを好きになれないのかい?」
「………。ああすれば、ぼくがハーレイに惹かれるとでも…?」
「うん。飛び出してきて止めに入ると思ってた。土下座くらいは笑って見てても、靴にキスしろって言った辺りで。…そして恋が始まると期待したのに、世の中、上手くいかないものだね」
だからヤケ酒、とソルジャーはチューハイを一気飲み。けれど瞳は笑っていて…。
「まぁ、シナリオどおりに始まる恋なら、とっくに恋人同士だろうけれど。でも、ハーレイが君を大切に想ってることは知ってて欲しいな。…遊び道具にしてるだなんて、ぼくには信じられないよ」
「ハーレイはあれでいいんだってば!本人もそれで満足してる」
「そうかなぁ?…ヘタレ直しの修行にも来たし、進展させたい気持ちはあると思うんだ。とことん報われないのが気の毒で」
ソルジャーと会長さんは不毛な論争を始めました。あちらのキャプテンと両想いなソルジャーと、女の子が大好きなシャングリラ・ジゴロ・ブルーの恋愛観が一致するわけありません。二人とも経験だけは積んでいるので、アヤシイ単語もチラホラと…。
「どうする、あいつら?」
キース君が二人を示すと、シロエ君が。
「ほっとけばいいんじゃないですか?食べながら言い合いしてるんですし」
「注文は俺たちに丸投げだけどな…。焼くのもぶるぅが頑張ってるぜ」
「あの調子なら激辛醤油と取り換えちゃっても気付かないかも!」
激辛ハバネロ醤油の瓶と取り皿を持つジョミー君。それはそれで…楽しいかも…。
「ブルーにやるのはやめてくれよ。あいつにやるのは止めないけどさ」
サム君が主張し、取り換えるのはソルジャーのお皿に決まりました。ワクワクしながら『激辛8倍』と書かれたハバネロ醤油を取り皿に注ぎ入れ、ソルジャーの席の方へ回していこうとした時です。
「こんばんは」
スッと個室の扉が開き、部屋に滑り込んできた人物は…。
「「「ドクター!!?」」」
嫌というほど見覚えのあるエロドクターがスーツを着込んで立っていました。なぜドクターが出てくるんですか~!

「…ノルディ…?」
引き攣った顔の会長さんを他所に、ドクターはスタスタとソルジャーに近付いていって。
「お招き下さって嬉しいですよ。少し早すぎたでしょうか?」
「いや。…約束通り呼んだだろう?ちゃんと大人しくしていたかい?」
「それなりに。1週間は長すぎました」
げげっ。これって、前にドクターの家で交わした会話の続きでは…。ソルジャーが差し出した手にドクターが恭しく口付けています。凍りついている私たちをソルジャーは赤い瞳で見回しました。
「ぼくの招待客なんだけど。一緒に食事をしてもいいかな?」
「「「………」」」
誰も返事が出来ませんでした。会長さんは固まってますし、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も混乱中。そんな様子にソルジャーは苦笑し、自分の席から立ち上がって。
「ここじゃ落ち着いて食べられないね。他の店に移る?それとも…」
「あなたはかなり召し上がったのではないですか?まだ食べたいと仰るのなら行きつけの店にお連れしますし、そうでなければ…」
「ぼくを食べたいっていうのかい?…いいよ、その方が楽しめそうだ」
バイバイ、と軽く手を振り、ソルジャーはドクターに肩を抱かれて部屋を出て行ってしまいました。取り残された私たちは暫し呆然としていましたが…。
「ブルー!おい、ブルーたちは何処へ行ったんだ!?」
我に返ったキース君が叫び、会長さんはサイオンを周囲に広げているようです。会長さんの力なら二人を追うのは簡単な筈…って、あれ?なんだか難しい顔…。
「駄目だ、ブルーが邪魔をしていて何処に居るのか掴めない。ノルディの家へ行くんじゃないかと思うけど…」
「ホテルってこともありますよ」
シロエ君の言葉に会長さんは頭を抱え、私たちもとても焼肉どころでは…。エロドクターとソルジャーが何をするのか分からないほど小さな子供じゃないんですから。…と、個室の扉が音もなく開いて。
「ただいま」
「「「えぇっ!?」」」
入ってきたのはソルジャーでした。平然と部屋を横切り、元の席に腰を下ろします。
「うん、肉も野菜も減っていないね。5分もかかってないのかな?」
「ブルー!…ノルディは何処に置いて来たのさ!?」
「君のマンション、って言いたいけれど、残念ながら車の中。ぼくが消えたんで此処に戻ろうとしているようだ」
「「「!!!」」」
「大丈夫、絶対戻ってこられないから。自分の意志とは反対の方に走りたくなる暗示をかけた」
ぼくたちの宴会が終わるまでね、とソルジャーはニッコリ笑いました。
「ノルディを呼んだのはサプライズだよ。ちょっとドキドキしただろう?せっかくの打ち上げパーティーなんだし、そういうスリルもいいかと思って」
「心臓が止まりそうになったじゃないか!」
「ブルーはノルディが苦手だものね、からかい甲斐があって面白いのに…。さあ、淫乱ドクターがドライブをしている間に食べようか。ぼくは参鶏湯も注文したいな」
メニューを覗き込むソルジャーは子供みたいに楽しそうでした。キース君がフゥと溜息をついて。
「…悪戯は大目に見ようって言ったんだっけな…」
「そうだったわね…」
スウェナちゃんが応じ、ジョミー君が。
「じゃあ、悪戯には悪戯を!」
その手には再びハバネロ醤油の瓶が握られていました。ソルジャーは気付いていないようです。よし、こうなったら激辛8倍!私たちのドキドキを乗せて取り皿は次から次へと回され、ソルジャーの前にコトリと置かれて…。それから後はあまり語りたくありません。ソルジャーのポーカーフェイスは見事だ、としか。
「じゃあ、ぼくはブルーの家で着替えて帰るから。また会おうね」
会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はソルジャーと一緒にタクシーに乗り込み、私たちは歩いて最寄りの駅へ。ハバネロ醤油を美味しいと誉めて皆に勧めた会長さんのそっくりさんは、最後までトラブルメーカーでした。まだ舌がヒリヒリしています。あまりの辛さに「かみお~ん!」と泣き叫びながら走り回った「そるじゃぁ・ぶるぅ」も可哀相。…ソルジャー、会長さんとの入れ替わり体験、ご満足して頂けましたか…?




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