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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

夢の甘い生活

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




今年も秋の気配が忍び寄って来ました。やっと残暑にサヨナラなのだ、と思う間もなく急転直下な冷え込みというのが凄いです。週の頭には「暑い」と文句を言っていたのに、昨夜は寒くて上掛けを追加。今日は土曜日、会長さんの家に来てみれば…。
「かみお~ん♪ 寒くなったよね!」
バス停からの道が寒かったでしょ、とホットココアで迎えられるという始末。実際、それが有難いと思う寒さだったのが強烈かも。
「俺としたことがホットココアの一気飲みか…」
コーヒー党なのに、とキース君が嘆きつつも。
「だが、ホッとしたぞ。なにしろ今朝は朝のお勤めがキツくてキツくて…」
「あー、分かるぜ…。寒いもんなあ」
本堂はきっと冷えるよな、とサム君が言えば。
「それもなんだが、花入れの水を取り替えたりといった水仕事がなあ…。これからどんどん辛くなってくるな、まあ、その内に慣れるんだが…」
冬になる頃には慣れっこの筈だがそれまでが辛い、とお坊さんならではの泣き言が。私たちにとっては他人事ですし、「頑張れ」と無責任に励ますだけで午前のティータイムに突入しました。それにしても寒い、なんて言い合う間にお昼時で。
「お昼、フカヒレラーメンにしたよ!」
冷えるもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。大歓声でダイニングに移動、熱々のフカヒレラーメンを啜り、大満足でリビングに戻って「こんな生活なら寒すぎる秋もいいな」なんて話していると。
「こんにちはーっ!」
「「「!!?」」」
誰だ、と振り返った先に私服のソルジャー。お出掛け前か、お出掛けの後かが問題ですが…。
「えっ、ぼくかい? デートの帰りに決まってるじゃないか!」
ノルディとランチだったのだ、と悪びれもせずに報告すると、空いていたソファにストンと腰を下ろして。
「ぶるぅ、ぼくにも何か飲み物! 甘いのがいいな!」
「オッケー、ホットココアでいい?」
「ホイップクリームたっぷりで!」
今日はそういう気分なんだ、と言っていますが、ソルジャーは元々甘いものが好き。甘いお菓子に目が無いですから、別に驚いたりはしませんとも…。



ソルジャーの乱入も別段珍しいことではないから、と食後のお茶を続行していると、ホットココアの出来上がり。受け取ったソルジャーはコクリと一口、如何にも甘そうなココアを飲むと。
「ブルーは甘いものは好きだったっけ?」
「え、ぼく? 嫌いじゃないけど?」
それが何か、と会長さん。
「フカヒレラーメンの後に君のみたいなココアは如何なものか、ってコトでジャスミンティーを飲んでいるだけで、甘い飲み物も大好きだけどね?」
「甘いお菓子も?」
「もちろん好きだよ、でないとぶるぅも腕の奮い甲斐が半減だよ」
お菓子作りが大好きだしね、と会長さんが答える隣で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ぼくのお菓子の試食係はブルーなの! いつも色々食べてくれるの!」
「ほらね、ぶるぅもそう言ってるだろ?」
「それは良かった。甘いものは嫌だと言われちゃったらどうしようかと…」
「君のおやつが無くなるとでも?」
そういう心配は無用だから、と返されたソルジャーは「そうじゃなくって!」と。
「甘い生活っていうのもいいよね、と思っちゃってさ」
「「「甘い生活?」」」
「うん。毎日がうんと甘い生活!」
ドルチェ・ヴィータと言うらしいのだ、とソルジャーは耳慣れない言葉を口にしました。ドルチェ・ヴィータって何ですか、それ?
「ドルチェは「甘い」って意味らしいんだよ、音楽用語でもあるって聞いたね」
「「「へえ…」」」
それは学校では習わないな、と音楽の授業を思い返してみる私たち。それとも高校一年生の授業範囲ではないというだけで、上の学年なら習ってますか?
「習わないけど?」
会長さんが即答しました。誰の心が零れてたんだか、ナイス・フォローに感謝です。ソルジャーの方は全く気にせず。
「習うかどうかはともかく、音楽! もっと甘く、って時にドルチェという指示!」
「「「ふうん…?」」」
ソルジャー、今日はデートついでに音楽鑑賞もしたのでしょうか? 生演奏を聴きながらフルコースを食べるっていう豪華なプランもあるそうですしね?



ドルチェだかドルチェ・ヴィータだか。仕入れ立てらしい知識を披露するソルジャーに、会長さんが「今日は音楽鑑賞かい?」と質問すると。
「ただのランチだけど? ああ、もちろんフルコースを御馳走になったけれどね!」
「それじゃ、何処からドルチェなんて…」
「ノルディの理想ってヤツらしいよ? ドルチェ・ヴィータが」
それでドルチェから教えて貰った、とソルジャーは胸を張りました。
「どうせだったら知識は多い方がいいでしょう、っていうのがノルディの信条で…。あれはインテリって言うのかな? 博識だよねえ、流石は遊び人!」
「まあねえ…。知識不足だと歓迎されないからねえ、遊び人はね」
会長さんが頷きましたが、遊び人ってそういうものですか? 知識も必須?
「そうだね、少なくともノルディが行くような高級な店だとそうなってくるね」
「かみお~ん♪ ブルーだっていつも言ってるよ! 自分だけ遊んじゃ駄目なんだよ、って!」
舞妓さんたちも楽しませてあげないとダメなんだって、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「えっと、えっとね…。自分も一緒に歌を歌ったり、楽器を弾いたり…。そういうのが無理なら、お喋りが上手くないと歓迎されない、って言ったかなあ…?」
「「「ええっ!?」」」
そ、そこまで要求されるんですか、遊び人って? 歌に楽器にお喋りですって?
「そうだけど? ぼくの場合はお喋り専門。その気になったら歌や楽器も出来るけどねえ…」
柄じゃないしね、と会長さん。じゃあ、エロドクターもそういったスキルを持ってると?
「持ってるようだよ、専門はトークの方だけれどね。頼まれればピアノも弾くらしい」
「「「うわー…」」」
エロドクターのスキル、恐るべし。ソルジャーに音楽用語を教えるわけだ、と納得です。ドルチェでしたっけか、それのどの辺が理想だと?
「音楽じゃなくて、ドルチェ・ヴィータの方だってば! 甘い生活!」
其処を間違えないように、とソルジャーに指摘されました。
「ノルディはそれを夢見ていると言っていたねえ、ラ・ヴィ・アン・ローズは間に合ってるとか」
「「「ラ・ヴィ・アン・ローズ?」」」
なんじゃそりゃ、と思わず復唱。それも音楽用語でしたか、ラ・ヴィ・アン・ローズって聞いたことがあるような無かったような…。
「薔薇色の人生って意味らしいけど?」
音楽は関係なくってね、と言うソルジャー。そういうタイトルの歌だの曲だのはあるそうですけど、音楽用語じゃないそうです、はい~。



ドルチェ・ヴィータの次はラ・ヴィ・アン・ローズ。薔薇色の人生って意味らしいですが、エロドクターは間に合っているという話。夢見ているのがドルチェ・ヴィータ…?
「そう、ドルチェ・ヴィータ。ラ・ヴィ・アン・ローズは既にゲット済みってことらしくって」
毎日が薔薇色、とソルジャーはエロドクターの人生の充実っぷりを語りました。お金持ちで大きな邸宅に住んで、あちこちで美少年やら美形の男性やらを口説いて回って、人生、薔薇色。まさにラ・ヴィ・アン・ローズという話ですが、それなのに夢がまだあると…?
「足りないらしいよ、人生に愛と幸せが。それでドルチェ・ヴィータ」
甘い生活に憧れるらしい、とソルジャーは残ったホットココアを飲み干し、おかわりを希望。ちょうどいいから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がタルトを切ってきてくれました。アーモンド粉がたっぷりのスポンジに松の実を乗っけて焼き上げたタルト、ラズベリーのジャムがアクセントです。
「「「美味しい!」」」
「でしょ、でしょ~! ちょっと秋らしく松の実なの!」
秋にはナッツ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。収穫の秋にナッツは似合う気がします。スポンジの方もしっとり甘くて美味しくて…。
「まさにドルチェだね、このタルト」
いいね、とソルジャーがタルトを切って頬張りながら。
「ノルディの人生にはこういう甘さが、ドルチェが足りない。だからドルチェ・ヴィータな甘い生活にはなってくれなくて、これからの季節、その侘しさが身に染みるとか…」
「「「???」」」
「分からないかな、ノルディの好みは色々あれども、本当に惚れててゲットしたいのはブルーなんだよ! それが全く振り向かないから、代わりにぼくとデートなわけで…」
「「「あー…」」」
そっちか、と理解出来ました。会長さんと二人で暮らす甘い生活、ドルチェな生活。それがエロドクター御希望のドルチェ・ヴィータで、ラ・ヴィ・アン・ローズでは足りないと…。
「そういうこと! 今日のランチの話題がそれでさ、何度も溜息をついていたけど、ぼくは結婚しちゃった身だし…。ブルーもノルディに嫁入るつもりは無いだろうしね?」
「あるわけないだろ、なんでノルディと!」
「ハーレイの方は?」
「そっちも絶対、お断りだよ!」
ぼくはとっくに間に合っている、と会長さんは言い放ちました。フィシスさんとの甘い生活、ドルチェ・ヴィータはゲット済み。人生の方も毎日が薔薇色、ラ・ヴィ・アン・ローズで何の不自由もしていないのだ、と。



「これ以上のドルチェ・ヴィータもラ・ヴィ・アン・ローズも要らないねえ…」
もう充分に満足だから、と答えた会長さんですが。
「うーん…。君は満足なんだろうけど、ノルディはともかく、ハーレイがねえ…。人恋しい秋で、最近は急に冷え込んだって? 良くないねえ…」
ドルチェな生活が欲しいだろうに、とソルジャーの方も譲らなくって。
「この際、秋冬限定のボランティアでもいいからさ! ハーレイの家で甘い生活!」
「秋冬限定だなんて、お菓子とかでもあるまいし!」
なんでぼくが、と会長さんは不機嫌そうに。
「そもそもハーレイに甲斐性が無いから未だに独り身、寂しい独身男なわけで! なんでぼくからボランティアだと行ってあげなきゃいけないのさ!」
「やっぱり駄目かい? 甘いものは好きだと言ってたくせに」
「間に合ってるとも言っただろう!」
ぼくのドルチェ・ヴィータは充実の日々、と会長さん。
「此処の連中と遊んでない時はフィシスとデートで、夜ももちろん! これ以上を望んでどうすると! 君と同じで満足なんだよ、自分のパートナーっていうヤツには!」
結婚していないというだけなのだ、とフィシスさんとの愛の絆の確かさを熱く語ってますけど、なにしろシャングリラ・ジゴロ・ブルーです。遊びたいから結婚しないのか、高校生を続けたいから結婚しないのか、その辺りは謎。
「えっ? 女神は結婚なんていう俗なものとは無縁なんだよ」
「「「………」」」
そういえばコレが定番だった、と久々に聞いた決まり文句。ともあれ、フィシスさんで甘い生活が足りているなら、教頭先生の出番なんぞは全く皆無で、あるわけが無くて。
「こっちのハーレイ、ホントに気の毒なんだけどねえ…」
「ぼくはどうでもいいんだよ! ハーレイなんかは!」
君と違って健全な思考と精神を持っているものだから、と一刀両断。
「ハーレイの面倒を見たいんだったら、君が見てやれと言いたいけどね! 君の場合は面倒の見すぎでロクな方へと向かわないから、そっちも禁止!」
「えーっ!? ぼくがボランティアで面倒を見るのも駄目なのかい?」
「絶対、禁止!」
ハーレイに餌を与えるな、と会長さんはガッチリと釘を刺しました。ただでも人恋しくなる季節が来るのに、ドルチェ・ヴィータを味わわせるなど論外だ、と。



「駄目かあ…。ちょっと憧れないでもなかったんだけどな…」
ドルチェ・ヴィータ、とソルジャーの口から妙な言葉が。甘い生活、結婚していてバカップルなソルジャーも充実していそうなのに、どうして憧れるんでしょう?
「え、だって。ぼくとハーレイ、結婚していることも内緒だからねえ…」
結婚生活どころか愛の巣も無くて、とソルジャーは溜息をつきました。
「ぼくの青の間は結婚前から何も変わらないし、ドルチェ・ヴィータが目に見える形にならないんだよ! いわゆる新居ってヤツが無いから!」
「今更、新居も何も無いだろ?」
結婚してから何年経っているんだっけ、と会長さんが突っ込んだのに。
「其処は年数、無関係だから! ノルディが言うには、永遠のドルチェ・ヴィータだから!」
甘い生活は永遠なのだ、と流石のバカップルぶり。お互いに熱く惚れている限りは甘い生活、それに相応しい家やベッドも欲しくなるのだ、と言い出して…。
「こっちのハーレイの家でだったら揃いそうだな、って…。だから憧れ」
「揃ったとしても、君のハーレイの家じゃないだろう!」
そもそもハーレイが別物だから、と会長さん。
「それともアレかい、君はカッコウをやらかそうとでも言うのかい?」
「カッコウ?」
「鳥のカッコウだよ!」
知っているだろ、と出て来たカッコウ。カッコー、と鳴くアレでしょうけど、何故にカッコウ? ソルジャーもそう思ったらしく。
「なんでカッコウ? ぼくにカッコウの知り合いなんかはいないけど?」
「カッコウの真似をやらかすのか、って訊いてるんだよ!」
あれは托卵をするからね、と会長さんはカッコウの習性なるものを話し始めました。自分で子育ては面倒だから、と他の鳥の巣に卵を産んで放置のカッコウ。産みの親とは種類まで違う鳥に温められて孵ったヒナは、他の卵をポイポイと巣の外へ。
「卵を上手く捨てられるように、背中に窪みまでついてるそうだよ、カッコウのヒナは」
「「「窪み…」」」
卵を放り出すためにだけ、背中に窪み。何処まで厚かましい鳥なのだ、と思いますけど、それがカッコウ。他の鳥の巣にドカンと居座り、餌を貰って巣立ちしたならサヨウナラ。
「君はそういうのをやらかす気かい、と言ったんだけれど?」
どうなんだい、と会長さん。えーっと、ソルジャーがカッコウを真似たらどうなると…?



訊かれた当のソルジャーでさえも面食らっているカッコウ発言。どう真似るのか、と怪訝そうで。
「…ぼくはとっくに育っているから、ハーレイに育てて貰わなくてもいいんだけれど…」
「そうだろうねえ、それは図太く、ふてぶてしく育っているようだねえ?」
この上もなく、と会長さん。
「まるで無関係なぼくにドルチェ・ヴィータだの何だのとボランティアに行けと言い出すくらいの無神経さ! 結婚している相手がいながら、自分が行ってもいいだとか! 行きたいだとか!」
でもカッコウを真似るなら話は分かる、と会長さんは続けました。
「こっちのハーレイの家に出入りしながら、ああだこうだと自分の好みを取り入れまくって、憧れの新居とやらを仕上げて…。それからハーレイを放り出すなら理解できるね」
「放り出すだって? ぼくがこっちのハーレイを?」
「なんだ、違うわけ? 出来上がった新居を乗っ取っちゃって、君のハーレイと暮らそうってわけではなかったんだ?」
そっちだったら応援したのに、と会長さんは恐ろしいことをサラッと口に。
「そういうカッコウ計画だったら止めはしないし、ぼくも応援するんだけどねえ?」
「…ハーレイを騙して放り出せと? カッコウみたいに?」
「そう! カッコウの卵は喋らないけど、君は巧みに喋れるだろう? 上手く騙して自分好みの新居を作らせて、用済みになったら巣の外へポイと!」
外へ捨てたら代わりに君のハーレイを呼べ、と会長さんの計画は強烈なもので。
「お、おい…。それじゃ教頭先生は…」
どうなるんだ、と訊いたキース君に対して、アッサリと。
「ホームレスに決まっているじゃないか! 庭にテントを張って暮らすのも良し、寒いんだったら車の中で暮らすというものもいいねえ…」
「「「ほ、ホームレス…」」」
冬に向かおうかという秋なんて時期はホームレスには向きません。せめて夏とか、暖かくなってくる春だとか…、と言いたいですけど、会長さんの場合、思い立ったが吉日で。
「ホームレスに何か問題でも? どうせブルーは直ぐに飽きるし、永遠のホームレス生活が待っているっていうわけでもないしね」
問題無し! という結論。
「それで、君の意見はどうなんだい? ハーレイを騙してドルチェ・ヴィータは?」
「カッコウで甘い生活かあ…」
夢の新居が手に入るのか、とソルジャーの顔は既に夢見る表情で。教頭先生、言葉巧みに騙される道が待ってそうです、甘い生活…。



カッコウよろしく教頭先生の家に出入りし、自分好みに作り上げたら教頭先生を外へポイッと。そうすればキャプテンとの甘い生活が可能とあって、ソルジャーはすっかり乗り気になってしまい。
「いいねえ、君のカッコウ計画! それなら応援してくれるんだね?」
「ぼくに被害が及ばないからね」
たとえハーレイがホームレスになっても放置あるのみ、と会長さん。
「騙されたハーレイは自業自得だし、自分の面倒は自分で見ろと言われても仕方ないだろう。そしてハーレイが騙されてる間は君に夢中で、秋にありがちなラブコールってヤツも今年は来ないと思うから!」
「ああ、なるほど…。人恋しい季節は危険だったね、こっちのハーレイ」
デートしたくなったり色々と…、と頷くソルジャー。
「それじゃ今年の秋対策はぼくにお任せ! カッコウ計画で騙しておくから!」
「よろしく頼むよ、必要だったら口添えしようか?」
「嬉しいねえ! だったらお願いしようかな? こっちのハーレイが怪しまないように」
「オッケー! 今から行くなら全員で口裏を合わせてあげるよ、甘い生活」
ねえ? と私たちの方に視線が向けられ、断れそうもない雰囲気。とはいえ、今回の被害者は一方的に教頭先生、私たちはただの傍観者ですし…。
「ヤバイって予感はしないな、今日は?」
キース君が見回し、シロエ君も。
「そうですねえ…。ぼくたちには対岸の火事ってヤツです、教頭先生の家が隣にあるんだったら大変ですけど」
「だよなあ、誰の家から近いってわけでもねえもんな!」
関係ねえな、とサム君が改めて確認を。教頭先生の家が建っている場所、私たちの中の誰のお隣さんでも無ければ、隣組でもご町内でもありません。庭でホームレスなテント生活をなさっていたって見えもしないし、本当にどうでもいいわけで…。
「よし。対岸どころか彼岸の火事だな」
キース君の例えにプッと吹き出す私たち。対岸だったら煙くらいは見えるでしょうけど、彼岸の火事ならあの世なだけに煙どころか火事になったという事実すらも全く知りようがなくて。
「彼岸だったら無関係だね!」
いいんじゃない? とジョミー君が。私も大いに賛成です。マツカ君も、もちろんスウェナちゃんだって。というわけで…。
「じゃあ、君たちも証人ってことで。甘い生活は素敵ですよ、という件の」
ブルーと一緒に出掛けようか、と会長さん。教頭先生の家にソルジャーなるカッコウが入り込みそうですが、知ったことではございませんです~!



教頭先生の家への出発が決まり、まずは周到に下準備。瞬間移動でのお出掛けですけど、目指すは甘い生活、ドルチェ・ヴィータというだけに…。
「ハーレイが仰け反るパターンは回避するのがベストだろうね」
礼儀正しく訪問せねば、と会長さんの論。思念波どころか、なんと電話のご登場。会長さん好みのレトロな電話機、ダイヤル式に見えてはいても短縮番号で一発、発信。ただし受話器は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が握っていて…。
「かみお~ん♪ もしもし、ハーレイ? あのね…。えとえと、今から行ってもいい?」
みんないるの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は説明しました。いつもの面子とソルジャーなのだと、これから出掛けて行ってもいいか、と。
「えっ、大丈夫? うん、分かった!」
チンッ! と受話器を置いた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「五分後だって!」と元気な声で。
「えっとね、お片付けをして待っているから、五分経ったら来て下さい、って!」
「お片付けねえ…」
全く散らかっていないようだけれども、と会長さん。
「何に五分も…って。ああ、トイレかな?」
「ぼくは身だしなみってヤツだと見たね」
もちろんトイレにも行くだろうけど、とソルジャーも教頭先生の家がある方向へ視線をやって。
「先にトイレか…。うん、あのトイレにも素敵なカバーをかけたいねえ…」
「そういうグッズはハーレイが豊富に揃えているよ、多分」
「それは君との結婚生活に備えてだろう? そんなお宝、出してくれるかな?」
「宝の持ち腐れになるよりいいだろ、布とかだって経年劣化というものが…ね」
恐らく気前よく出すであろう、と会長さんは読んでいました。死蔵するより使ってなんぼで、使ってしまえば補充してなんぼ。
「だからね、リネン類とかも! 君の気に入ったものがあったらバンバン頼む!」
「とことん毟っていいのかい?」
「どうせ置いておいても劣化しちゃって、買い替える羽目になるんだからね」
今までだってそうだったのだ、と言われてビックリ、初めて知った教頭先生の夢と律儀さ。会長さんとの結婚生活に備えて買い揃えているガウンやネグリジェなんかも入れ替えしているらしいです。衣替えのついでにチェックしてみて、せっせと買い替え。
「じゃあ、古いのは?」
捨ててるのかな、とジョミー君が訊くと。
「バザーに寄付しているようだよ? 質がいいだけに、人気商品」
「「「うーん…」」」
捨てる神あれば拾う神あり、教頭先生が買い集めたグッズ、慈善バザーに大いに貢献しているようです。買って行く人、まさかそういう裏があるとは知らないでしょうね…。



キッチリ五分後、会長さんとソルジャー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の青いサイオンに包まれ、瞬間移動。教頭先生の家のリビングに全員でパッと出現しましたが、予告してあっただけに向こうも余裕たっぷりです。髪の毛もきちんと撫でつけてあって。
「ようこそいらっしゃいました」
ソルジャーに挨拶をして、私たちにも「よく来たな」と。
「何をお飲みになりますか? …ああ、ブルーたちも好きなのを」
「ホットココアはあるのかな? うんと甘いのがいいんだけど…」
ホイップクリームもあるといいな、というソルジャーの注文に教頭先生は見事に応えました。御自分は甘いものが苦手なくせに、ホイップクリーム入りのホットココアを手際よく。もちろん私たちが好き勝手に注文したコーヒーや紅茶なんかも出揃って…。
「すみません。お菓子がこれしかありませんで…」
「上等じゃないか、フルーツケーキ!」
美味しいんだよね、とソルジャーは見るなり御機嫌です。日持ちするからと教頭先生が買っておくお菓子の中では大当たりの部類、ドライフルーツがずっしり詰まったフルーツケーキ。それに早速フォークを入れながら、ソルジャーが。
「これも美味しいけど、明日からはもっと甘いのがあると嬉しいんだけど…」
「は?」
「明日からだよ! 実はね、君にドルチェ・ヴィータを提供したくて」
「ドルチェ…ヴィータ…?」
何ですか、と尋ねる教頭先生は遊び人ではありませんでした。古典の教師だけに音楽の方もサッパリですから、ドルチェ・ヴィータで何が閃くわけでもなくて。
「分からない? ドルチェは甘いって意味の言葉で、ドルチェ・ヴィータで甘い生活!」
「甘い生活…。し、しかし、私は甘いものは…!」
「苦手だって? 食べ物じゃなくて生活でも?」
「生活…ですか?」
まるで分かっていない教頭先生に、ソルジャーは指をチッチッと。
「今日、ノルディとランチに出掛けたんだけど…。そのノルディの夢がドルチェ・ヴィータで、ブルーとの甘い生活なんだ。君もそういう甘さの方なら好きじゃないかと」
「ブルーと? …ブルーとの甘い生活ですか!?」
「そうなんだよねえ、ブルーそのものは無理っぽいけど」
本人に却下されちゃって、と舌をペロリと出したソルジャー。
「だから代わりにぼくでどうかな、甘い生活。人恋しい秋にドルチェ・ヴィータ!」
それを提案しに来たんだけれど、とパチンとウインク。はてさて、教頭先生は…?



「…甘い生活…。ブルーの代わりにあなたとですか…」
そんなことが本当に出来るのでしょうか、と首を傾げながらも教頭先生の頬は微かに染まっていました。甘い生活とやらの中身を考えているに違いありません。
「ぼくとしてはね、趣味と実益を兼ねているんだよ! ハーレイと結婚したのはいいけど、新居ってヤツを持てないし…。その点、君なら素敵な新居をぼくに提供してくれそうだし!」
「し、新居ですか!?」
「うん。ぼくの好みで色々揃えて、これぞ新居だって家が出来たらいいな、と…。それを目指して甘い生活、君と二人であれこれ選んで!」
どう? と艶やかな笑みを浮かべるソルジャー。
「そういう新居が欲しいんだけど、って前から思っていたんだよ。其処へノルディがドルチェ・ヴィータって言葉を教えてくれてさ、閃いたんだよね、君の家なら出来るかも、って!」
そうだったよねえ? と私たちの方を振り返られて、「はいっ!」とばかりに首を縦に。どうせ彼岸の火事なのです。ソルジャーのお気に召すまま、望むまま。教頭先生は目を丸くして。
「ほ、本当に私の家でよろしいのですか?」
「君の家だからこそ出来るんだよ! どうかな、明日から君と二人で!」
甘い生活を始めようじゃないか、とソルジャーに言われた教頭先生、ポーッとした顔で。
「あ、あなたと二人で…」
「そうだよ、愛の共同生活! もっとも、ぼくも忙しい身だし、そうゆっくりは出来ないけれど…。必要なものを買いに行くとか、選ぶとか。そういう時間は取れるようにするよ」
もちろん君さえ良かったらだけど、と付け加えるのをソルジャーは忘れませんでした。バカップルでも恋の駆け引きウン十年だか、何百年だか。殺し文句を放つタイミングは実に見事で、教頭先生は深く考えもせずに。
「よ、良かったらも何も、大歓迎です!」
是非来て下さい、とガバッと頭を。
「私の一番はブルーで間違いないのですが…。初めてはブルーと決めていますが、そこまで仰って頂けるのなら、す、少しくらいは譲っても…!」
「決まりだね? ぼくと二人の甘い生活、してくれるんだね?」
「喜んで!」
明日からと言わず今日からでも! と教頭先生は胸を叩いて、ソルジャーと二人の甘い生活、ドルチェ・ヴィータが決定しました。いいんですかね、そのソルジャーは実はカッコウなんですが…。夢の新居が出来上がった時は教頭先生をポイと捨てる気ですが…?



ソルジャーが本当は何を考えているか、ドルチェ・ヴィータなんて嘘八百でキャプテンと暮らす新居が欲しいだけだなんていう真実をバラす馬鹿は一人もいませんでした。私たちはフルーツケーキを美味しく御馳走になって、瞬間移動で帰って来て。
「よーし、明日から夢の新居を実現ってね!」
頑張るぞ、とソルジャーが拳を握っています。
「ブルーが言ってた通りだったよ、あの家、ホントに宝の山だよ! トイレのカバーから部屋のカーテン、その他もろもろ揃ってるってね!」
思い切り新婚向けっぽいのが、と満面の笑顔。
「ああいったヤツを活用しながら、家具とかも買い替えていきたいけれど…。流石にマズイか…」
「ずうっと住もうって言うんだったら止めないけどねえ…」
飽きたら青の間に帰るんだろう、という会長さんの指摘にソルジャーは「うん」と。
「こっちの世界に住み着くわけにもいかないし…。だから家具類までは無理かな。それにこっちのハーレイにしても、家具は君と二人で買いたいだろうしね」
特に愛を育むためのベッドは! という言葉に、会長さんが顔を顰めて。
「ぼくにそういう趣味は無いから! 今、ハーレイが買い揃えているリネン類だけでも充分、悪趣味だと前から思っているから!」
「そうなのかい? いいと思うけどねえ、フリルやレースがたっぷりなのも…」
あの辺りのは明日にでも引っ張り出そう、とソルジャーは瞳を煌めかせています。
「ぼくの好みにピッタリのヤツもありそうだ。これぞ新婚! っていう雰囲気のが!」
でも足りない、と不穏な台詞も。
「あらかじめ買ってあったのを使うだけでは物足りない。洗い替え用とかも沢山要るしね、店はハーレイが詳しそうだから、明日の午後には買い出し第一弾だよ!」
二人であれこれ見て歩くのだ、とニコニコニッコリ。
「これがホントのボランティア! ハーレイとしっかり腕を組んでさ、どれがいいかなと見て回るんだ。気に入ったのがあればお買い上げ! そうやって甘い生活を!」
明日も、明後日も、その次も! とブチ上げるソルジャーは極悪なカッコウと化していました。教頭先生が買い集めた分を使うだけならまだ可愛いのに、足りないからと買わせるつもりです。リネン類とか、カーテンだとか、他にも色々…。
「いけないかい? ハーレイが幸せに買い物するなら問題ないと思うけど?」
「無いねえ、ハーレイが自分で選んだ道だしね?」
あのスケベが、と会長さんが吐き捨てるように。そういえば教頭先生、「少しくらいは譲っても」とか言ってましたね、あわよくばソルジャーを食べる気ですねえ、ヘタレのくせに…。



こうしてソルジャーのカッコウ計画がスタートしました。翌日の日曜日、会長さんのマンションに出掛けてゆくと、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が中継画面をリビングに用意して出迎えてくれて、「さあ、どうぞ」と。
「まあ、見てよ。朝も早くからこうなんだよねえ…」
「かみお~ん♪ 全部、ハーレイのコレクションなの!」
画面に大きく映し出された教頭先生の家の寝室。其処の床にドッサリと広げられているリネン類。白にピンクに、可憐な小花模様とか。フリルやレースをふんだんに使ったものやら、贅沢に刺繍がしてあるものやら。
「これなんかどうかな、ぼくの肌によく似合いそう?」
ソルジャーがマントよろしく一枚羽織って、教頭先生が「素晴らしいです…」と鼻の下を伸ばし。
「どれもお似合いです、ブルーのためにと買い集めた甲斐がありましたよ」
「そう言われると嬉しいねえ…。ぼくとしてはさ、もっと他にも選びたい気分なんだけど…」
これだけあるのに厚かましいかな? と小首を傾げたソルジャーが放ったおねだり目線に教頭先生はハートを射抜かれたらしく。
「それならば、買いに行きましょう! 昼食がてら、是非とも二人で!」
「いいね! それなら他にも買ってみたいな、新居に相応しい色々なものを二人でね」
時間をかけてゆっくり探そう、とソルジャーは別の一枚を取り上げて身体にフワリと巻き付けて。
「カーテンだとか、トイレのカバーだとか…。少しずつ揃えていくのもいいねえ、吟味しながら二人でね」
「そうですねえ…。遅くまでやっている店もありますし、二人で毎日出掛けてみましょう」
「もちろん夕食も一緒に…だね?」
「ええ!」
仕事は早めに終わらせます、と教頭先生は燃えていました。ソルジャーが厚かましいカッコウとも知らず、お好みの品を揃えて新居を完成させるのだと。
「見事に家が出来上がったら、そのぅ…。あなたとの甘い生活も…」
「より甘くなるかもしれないねえ? 君さえヘタレていなかったらね」
「頑張りますとも!」
ブルーとの甘い生活に備えて予行演習だと思っておきます、と教頭先生はすっかり本気。ソルジャーとの甘い生活とやらで新居に相応しい品を揃えて、それにどっぷり浸るのだと。ヘタレじゃ最初から無理っぽいのですが、それ以前にソルジャー、カッコウですしね…?



それから毎日、来る日も来る日も、教頭先生はソルジャーとデート。二人で外食、新居のためのお買い物。あれこれ揃えて、とうとうソルジャー好みの品々が集まったようで…。
「今日はこれから、ハーレイと模様替えなんだよ!」
とある土曜日、ソルジャーが会長さんの家に揃っていた私たちの前に現れました。
「アイテムは全部揃ったからねえ、後は取り替えるだけってね! 甘い生活の総仕上げなんだ、二人でカーテンもベッドカバーも、それにシーツも枕カバーも、全部交換!」
力仕事はこっちのハーレイにやらせないと…、とソルジャーはニヤリ。
「完成したらハーレイはお役御免なんだよ、ぼくのハーレイを呼ばなきゃいけないからね!」
そのために土曜日を選んだのだ、と極悪な笑みが。
「しっかり特別休暇が取れる日! もう思いっ切り楽しまなくちゃ!」
「…で、ハーレイは家から放り出されるわけだね」
「もちろんさ! カッコウってそういう生き方なんだろ、君もお勧めの!」
「巣を乗っ取るんだから、そんなものだね。あ、そうだ。ハーレイを放り出す時は…」
財布くらいはつけてやって、と会長さん。
「それと車のキーとだね。それがあったら何とかなるだろ、ホームレスでも」
「安心してよ、学校に着て行くスーツとか下着類くらいはお情けで投げてあげるから!」
ただしクリーニングのサービスは無し、とソルジャーはキッパリ言い切りました。
「今日まで甘い生活をたっぷり提供してあげたんだし、ぼくの役目はそこまでなんだよ」
「かみお~ん♪ ハーレイ、ホームレスになるの?」
「どうなんだか…。ケチりさえしなきゃ、ビジネスホテルに泊まるお金はある筈だけどね?」
だけど当分、家ってヤツは無くなるねえ…、と会長さんはクスクスと。
「でも本望だろ、これから夢の新居が実現するんだし! 自分の手でね!」
「そこはぼくとの共同作業と言ってよ、甘い生活の最終段階!」
じゃあ、行って来まーす! とソルジャーの姿がパッと消え失せ、代わりに会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が中継画面を用意して…。
「ブルー、トイレのカバーはこれでしたね?」
「そうだよ、トイレが済んだら次はカーテン!」
「最後がベッドルームでしたね、今日は二人で頑張りましょう!」
「うん、もちろん。甘い生活を楽しまなくちゃね、君と二人でたっぷりとね…」
愛しているよ、と熱く囁かれて教頭先生は耳の先まで真っ赤ですが。甘い生活、もうすぐ終わりが来るんですけど…。カッコウなソルジャーに放り出されて代わりにキャプテンが暮らすんですけど、分かってますか? 甘い生活、暗転するまでお楽しみになって下さいね~!





          夢の甘い生活・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 ソルジャーの夢の甘い生活。実現するためにはカッコウになって教頭先生の家を乗っ取り。
 そうとも知らない教頭先生の方も、甘い夢を描いたようですが…。お気の毒としか…。
 シャングリラ学園は、去る4月2日で連載開始から11周年になりました。なんと11周年。
 アニテラは4月7日で放映開始から12周年、つまり干支が一周したという…。
 更に新元号まで発表、二つの元号をまたいで書くことになってしまって、自分でもビックリ。
 次回は 「第3月曜」 5月20日の更新となります、よろしくです~!

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 こちらでの場外編、4月は、マツカ君の別荘でお花見。花板さんの御馳走つきですけど…。
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