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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

始まりは甘く  第2話

いきなり乱入してきたソルジャーに水着姿を撮影されて、固まってしまった会長さん。更にデジカメを持ち出された上に撮影会だなどと物騒な単語を口にされては、たまったものではありません。顔を引き攣らせて制服に戻ろうとしたようですが…。
「おっと。逃げるのはナシだからね」
サイオンの光が立ち昇ったと思う間もなく、ソルジャーが会長さんの腕を掴みました。青い光は封じられてしまい、会長さんは水着のまま。
「自分で水着を着たんだろう? 慌てることはないと思うな。…よく似合ってるし」
「君が写真を撮るっていうから! 一枚撮ったら十分じゃないか!」
「十分じゃないと思うけど。そうだよね、ハーレイ?」
視線を向けられた教頭先生は答えることができません。頷いたら撮影会に突入しちゃって会長さんが怒るのですし、否定すればソルジャーが怒りそう。どちらを選んでもロクな結果にならないような…。ソルジャーはクスクスと笑い、会長さんの腕から手を放して。
「ぼくとぶるぅの分の料金を支払ってもらう代わりなんだから、ぼくの写真でもいいのかな。ブルー、そんなに嫌なんだったら君が撮影係をしたまえ。ぼくがモデルをするからさ」
「「「ええっ!?」」」
今度はソルジャーがスクール水着を!? そっくり同じ姿ですからサイズは問題ないでしょうけど、なんとも思い切った提案です。
「あ、そうか…。君たちもいたんだっけ。女の子はちょっとマズイかもね」
は? 女の子だと何か問題が…? 首を傾げるスウェナちゃんと私に、ソルジャーは「分からない?」と微笑みかけてマントの端を手に取りました。
「せっかくモデルをしようっていうのに、同じ格好じゃつまらないだろう? ブルーが水着で迫ったんなら、ぼくも対抗しなくっちゃ。…ストリップなんかどうかと思って」
「「「ストリップ!?」」」
「そう。…こっちのハーレイは見たこと無いと思うんだよね、ソルジャー服を脱いでいくところ」
うっ、と短い呻き声が聞こえました。教頭先生がティッシュで鼻を押さえています。
「ふふ、やっぱり一度も見たことないんだ。そりゃそうだろうね、ブルーは君の前で脱ぐ必要なんかないんだから。…ぼくと違って。で、ハーレイ。君はどっちの写真が欲しい? ブルーの水着か、ぼくのストリップか」
どっちでもいいよ、と楽しそうなソルジャーでしたが、会長さんがキッと赤い瞳で睨み付けて。
「水着の撮影会でいいっ! ストリップなんかお断りだし、撮影係にされるのも嫌だ!」
「なるほどね。じゃ、君の水着姿の撮影会だ。ぼくの指示通りに動いてもらうよ、選んだのは君の方なんだからさ」
「………分かった………」
教頭先生の意向とはまるで関係なく、撮影会が始まることになりました。
「この部屋って鍵がかかるよね? 閉めておいた方がいいと思うな、誰か来ちゃったらハーレイの立場がまずくなる。謹慎処分を食らったことがあるんだろう?」
ソルジャーの言葉を受けてキース君が鍵を閉めに行きます。教頭先生は不安と期待が入り混じった複雑な顔で見ているだけ。もしかしてストリップの方が好みだったとか? そういえばソルジャーの全身エステをさせられたことがありましたっけねぇ…。

デジカメを持ったソルジャーは会長さんを部屋の真ん中に立たせ、微笑むようにと言いました。
「違う! もっと自然に笑わなきゃ。ここは教頭室じゃなくて砂浜だよ。そんな感じで…。うん、いいね」
何枚か撮影しながら回り込んで…。
「ちょっ、ブルー! どこ撮ってるのさ!」
「サービスショット。気にしない、気にしない」
次は座って、と指差したのは応接セット。一人掛けのソファに会長さんを腰掛けさせると、肩膝を抱えてポーズを取るよう命じます。ポーズを変えて何枚か写し、大きなソファに移動して…。
「…まるで水着グラビアの撮影会だな」
溜息をつくキース君。ソルジャーは完全に面白がっているようでした。サム君の顔は真っ赤で、教頭先生は咳払いをしたり窓の方へと目を逸らしたり。
「ブルー! そのポーズだけは嫌だってば!」
「じゃあ、交替してぼくがストリップを…」
「……それは……」
困る、と呟く会長さんは教頭先生の机に上らされ、膝を曲げて両足を開いたセクシーなポーズを取らされて…。
「オッケー、いいのが沢山撮れた。最後に一枚、特別サービスしておかないと。…ブルー、肩紐」
「え?」
「だから肩紐。右でも左でもいいから、片方だけ少し落として欲しいんだよね」
「……!!」
唖然とする会長さんにソルジャーがツカツカと歩み寄り、スクール水着の肩紐に指をかけます。
「そう、こんな風に」
「!!!」
「いいから、そのままニッコリ笑って。もっと艶やかに、艶めかしく…ね。無理? ふふ、その顔もいいな」
シャッターが切られ、屈辱のあまり真っ赤になった会長さんを捉えたようです。ソルジャーは撮影した写真を全て確認してから、会長さんに。
「お疲れ様。着替えていいよ」
安堵した瞬間の会長さんの笑顔をソルジャーは逃がしませんでした。肩紐が片方ずり落ちた姿で幸せそうに微笑む会長さんのバストショット。どうやら最高傑作らしく、私たちに「見てごらん」と自慢して回ります。
「…ブルー……」
地を這うような声がし、制服に戻った会長さんが柳眉を吊り上げて怒っていました。
「その写真、全部どうする気なのさ! とんでもないのが一杯あるよね」
「もちろん君のハーレイにプレゼント。…おっと、消せないようにプロテクトしておかないと」
青い光がデジカメを包み、ソルジャーはそれを教頭先生の手に押し付けて。
「はい、お宝画像がドッサリだよ。プリントするも良し、業者に頼んで写真集を作るも良し。ブルーにデータを消去されないよう、ちゃんと細工をしといたからね。…ぼくとぶるぅのデザート・バイキングの料金、これで足りると思うんだけど」
「え、ええ…」
締まりのない顔で照れ笑いしながら財布を取り出す教頭先生。
「二人分…と。どうぞ楽しんでいらして下さい」
「悪いね、ハーレイ」
「なんでブルーに渡すのさ!」
ソルジャーが手を伸ばすより早く、会長さんが叫びました。
「デザート・バイキングに行こうって言い出したのは、ぼくたちだよ。ぼくたちの分は!? ブルーの分もぼくが預かる!」
「…しかし写真を撮ってもらって…」
「水着を着たのはぼくなんだからね! ブルーたちの分を足して、これだけ。さっさと出して。水着はたっぷり楽しんだだろ、写真も山ほど貰ったんだし」
会長さんに毟り取られて、教頭先生の財布にお札は残りませんでした。追加の二人分がトドメを刺したみたいです。ソルジャーは「ぶるぅと一緒に土曜日に来るから」と言い残して消え、会長さんは写真のデータを消去しようと必死になっていましたが…。
「…ダメだ、ケータイの方も消せない。…ハーレイ、言っておくけど、その写真が表沙汰になったら謹慎だよ」
「そうだろうな。しかし、この写真は大切に持っておきたいのだが」
「消せない以上、仕方ないけど…。写真集を作らせたら学校にバラしてやるからね。ついでに慰謝料も取り立てるから。デザート・バイキングくらいじゃ済まないよ」
行こう、と私たちを促す会長さん。首尾よく軍資金は手に入れましたが、ずいぶん計算が狂ったような…?

不機嫌な会長さんを先頭に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に入ると、そこに先客が座っていました。
「やあ、ブルー。さっきはモデルお疲れさま」
ニコニコと笑うソルジャーの前には胡桃のタルトとカヌレが載ったお皿があります。どちらのお菓子も食べかけで…。
「美味しいね、これ。ぼくの世界のゼルは料理がとても上手いんだけど、こっちのゼルの腕もなかなか…」
「…それは?」
不審そうな会長さん。ゼル先生の特製お菓子は完売になった筈でした。ソルジャーはクスッと小さく笑って。
「ハーレイの部屋に配られた分を失敬したんだ。君のハーレイも甘い物は好きじゃないだろう? ちゃんと手紙を置いてきたよ、御馳走様って」
「帰ったんだと思ってたのに…」
額を押さえる会長さんですが、ソルジャーは全く気にしません。
「なんだ、帰ってほしかったんだ? 言いたいことがあるかと思って来てあげたのに。…ぶるぅ、紅茶を貰えるかな? エラ秘蔵でなくてもかまわないよ」
「オッケー! みんなも飲むよね」
キッチンに走った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が紅茶を運んでくるまでの間、ソルジャーは悠然と胡桃のタルトを食べています。会長さんはソルジャーをキッと睨んで…。
「いったい、いつから見てたのさ! 君が来るって分かっていたら、水着なんか着たりしなかったのに!」
「しばらく来なかったから油断してた? ハーレイのギックリ腰で色々と大変そうだったしね、ぶるぅも看病に行ったきりでさ。…そんな時にお邪魔するのは悪いと思って」
だけど時々見てたんだ、と悪びれもせずに言うソルジャー。どうやら水泳大会の少し前からソルジャーは私たちの世界に来ていなかったみたいです。そのくせに会長さんが水泳大会で女子の部だったことも知ってるんですから、タイプ・ブルーって凄いかも。
「君が家で水着を試着してたのも知ってるよ。似合わないって怒ってたけど、ぼくにはそうは見えなかったな。そしたらハーレイに見せるって言い出したから、ちょっと悪戯してみたくなって。…デザート・バイキングにも行きたかったし」
デザートが食べ放題になるんだよね、とソルジャーの瞳が輝いています。そこへ「そるじゃぁ・ぶるぅ」が人数分の紅茶のカップを運んで来ました。
「ブルー、デザート大好きだもんね。ぶるぅも一緒に来るんでしょ? 楽しみだなぁ!」
「ぶるぅも喜んで来ると思うよ。…ブルー、いい加減に機嫌を直したら? せっかくの美味しい紅茶なのに」
ねぇ? と優雅にカップを傾けるソルジャー。胡桃のタルトはすっかり無くなり、カヌレも最後の一口です。ゼル先生こだわりのお菓子をゆっくり味わってフォークを置いたソルジャーに、会長さんが溜息をついて。
「…最初からデザート・バイキングに行きたいって名乗り出てくれた方が良かったな。そしたら別の策を考えたんだ。ハーレイから毟り取るにしてもね」
「水着写真がそんなにショック? …だったらハーレイの記憶を書き換えて…写真もぼくのと置き換えようよ」
「普通の写真じゃなくてストリップだろ? カメラマンをするのも嫌だ…」
「あれも嫌、これも嫌って言っていたんじゃソルジャーは務まらないと思うけどな。まぁ、ぼくとは住んでる世界が違うし、それでいいのかもしれないけどさ」
ソルジャーの言葉は最高の殺し文句でした。ソルジャーが住む世界の厳しさを知っている会長さんは、これを言われると逆らえません。死と隣り合わせで生きているソルジャーが羽を伸ばせるのが私たちの世界です。悪戯されても大目に見るしかないわけで…。
「…分かった…。水着の写真は諦める。でも、あんなポーズはもう御免だよ」
「そう? ぼくがこの世界をまだ知らなかった頃、かなり大胆なことをしてたじゃないか。白いぴったりしたアンダーを着てさ」
「なんでそれを!?」
「ハーレイの心が零れてた。…君の写真を撮ってた時にね」
あーあ、白ぴちアンダー事件がソルジャーにバレてしまいましたか…。まりぃ先生が特注してきた身体の線がはっきりと出る白いアンダーを着て、教頭先生の机の上で妖しいポーズを次から次へと決めまくっていた会長さんの姿は今も瞳に焼きついています。
「あれに比べたら今日の写真なんて可愛いものだよ。ああ、写真に残ったことが許せない? いいじゃないか、写真集が出るわけじゃないし」
それじゃ土曜日にね、とソルジャーは立ち上がりました。
「ぶるぅを連れて遊びに来るよ。ありがとう、今日は楽しかったな」
ばいばい、と手を振ってフッと姿が見えなくなります。会長さんはもう何を言う気力もないのか、ぐったりとソファに身体を沈めたままで、紅茶を飲もうともしませんでした。

突然現れたソルジャーのせいでケチがついたデザート・バイキング。言いだしっぺのスウェナちゃんは責任を感じて落ち込んでしまったのですが、翌日登校するとスウェナちゃんの机の上に「昨日は心配かけてごめんね」とメッセージがついた可愛いクッキーの包みが一つ。そして放課後「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと会長さんは見事に立ち直っていました。
「スウェナ、ごめんね。君を落ち込ませるつもりはなかったんだ。それに、ぼくならもう大丈夫」
細かいことを気にしていたら人生楽しくないだろう、と微笑む顔はいつもどおりで…。
「キースたちが来てるってことは、今日もハーレイは柔道部の指導を欠席、と…。教頭室で仕事中と言えば聞こえはいいけど、いったいどんな仕事だろうねぇ?」
「「「???」」」
「昨日の写真をどう整理するか、妄想が尽きないみたいだよ。プリントアウトしたのをどう並べるか、あれこれ楽しく悩んでいるんだ。きわどいショットを集めて夜のお供に…なんて、脳内バラ色」
得々と説明する会長さんにキース君が。
「あんたはそれでかまわないのか? データはともかく、プリントアウトしたヤツなら一瞬で消せると思うんだが」
「最初は消そうと思ってたけど、面白いから放っとく。覗き見してたら笑えてきてさ…。ヘタレのくせに夜のお供っていうのが泣かせるじゃないか。完成を楽しみにしておくさ」
「「「………」」」
そういえばこういう人だった、と呆れ果てた顔の私たち。スウェナちゃんには「そるじゃぁ・ぶるぅ」が特別に焼いたパウンドケーキのお土産もあって、ソルジャーが巻き起こした騒動は平穏無事に収束です。そして土曜日がやって来て…。

「かみお~ん♪ みんな、お待たせ!」
待ち合わせ場所に決めたホテル・アルテメシアのロビーに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が駆けてきました。後ろに「ぶるぅ」が続いています。もちろん会長さんと、会長さんの私服を借りたソルジャーも。…えっと、今日の二人はシャツのデザインが違うんですね。二人の見分けがついた所で私たちはエレベーターに乗り、トップラウンジへ。予約しておいたので窓際の眺めのいい席です。
「ふぅん、素敵な所だね。君のハーレイに感謝しなくっちゃ」
「君が強引に来たんだけどね…」
ぶるぅまで連れて、と言う会長さんにソルジャーは「だって楽しそうだったし」と答え、早速ケーキを何種類も取って来ました。お皿の中身を眺めた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が食べる順番を指南しています。
「あのね、これは最後にした方がいいよ。重たいケーキを最初の方で食べてしまうと負けなんだ」
「負け?」
「お腹一杯になって、食べられなくなったらおしまいだからね。それが負け。沢山食べるにはバランスが大事なんだから!」
でも「ぶるぅ」には関係ないね、と眺める先では「ぶるぅ」が次から次へとお皿ごと食べそうな勢いで試食中。そう、試食中なのです、全種類を! どれが美味しいか見定めてから本格的に食べるそうですけれど、試食というレベルではありません。どう見ても普通サイズのものばかり…。
「あいつ一人で俺たち全員の元が取れるな」
キース君の言葉に、違いない、と頷く私たち。でも「ぶるぅ」ばかりに任せていては、来た甲斐が無いというものです。ジョミー君たちも、負けじとケーキを取って来ました。スウェナちゃんと私は全種類を制覇しようと、小さめのケーキを選んでたりして…。会長さんはマイペースです。
「そうそう、こないだの写真だけれど」
シャーベットが何種類か盛られたお皿を前にして、会長さんが微笑みました。
「ハーレイがアルバムを完成させたんだ。こんな感じで」
他のお客さんから見えない所で宙からパッと取り出したのは…。
「「「えぇっ!?」」」
淡く優しいピンク色の表紙にセピア色のリボンがかかったように見えるデザイン。リボンの部分は薔薇の写真がレイアウトされているようですけど、私たちが驚いたのは表紙に刷られた文字でした。
「HAPPY WEDDING DAY…」
誰かが棒読みで呟きます。それはどう見てもウェディングアルバムそのもので…。
「笑っちゃうだろ? こんなの買って来たんだよ。それで中身はこうなってるわけ」
ほら、とページをめくってゆく会長さん。そこには会長さんの水着写真が大切に貼られていますが、乙女チックに見えるのは気のせいでしょうか?
「あちこちに花のシールなんか貼っちゃってさ。どこまで夢を見てるんだか…。たかがスクール水着の写真で」
「じゃあ、この次はぼくがストリップを…」
「しなくていいっ! ちゃんと別バージョンもあるんだから」
次に出てきたのは表紙が真紅のバラの写真で埋め尽くされたアルバムです。そっちの方は…。
「…へえ…。ヘタレにしては頑張ったね」
ソルジャーがクスッと笑い、サム君は耳まで真っ赤になりました。ジョミー君たちも恥ずかしそう。きわどいショットばかりを集めたアルバムは、会長さん曰く「夜のお供」バージョンだそうです。
「この二冊。ハーレイの家宝らしいよ、ぼくが嫁入りしてくる日まで…ね。無くなったら騒ぐだろうから返しておこう」
フッとアルバムが消え失せた後、会長さんとソルジャーは先日の撮影会の話で盛り上がっています。会長さんったら、本当に立ち直りを果たしていたんですねぇ…。

デザート・バイキングは「ぶるぅ」の一人勝ちでした。とはいうものの、美味しいケーキやアイスクリームなどを好きなだけ食べて、みんな幸せ気分です。教頭先生から奪い取ったお金で支払いを済ませ、下のロビーに降りた時。
「あっ!」
会長さんが小さな悲鳴を上げてサム君の後ろに隠れました。
「ん? どうしたんだよ、ブルー?」
サム君と私たちが視線の先を追うと、おじさまの団体がロビーにたむろしています。見知った顔は無いようですが…って、あれはもしかしてエロドクター!?
「…医師会の集まりがあったらしいな」
「そうみたいですね」
キース君とシロエ君がロビーの案内板に目を止めました。宴会場の一つに『アルテメシア医師会』と書かれています。エロ…いえ、ドクター・ノルディはそれに出席して、これから二次会にでも行くのでしょう。会長さんに目をつけているドクターだけに、いると気付かれたらマズイかも。私たちは会長さんを隠すようにしてコソコソと歩き出しました。ところが…。
「ちょっと行ってくる。ぶるぅをよろしく」
ソルジャーがスッと列から離れます。
「ちょっ…。ブルー!?」
会長さんが止める間もなく、ソルジャーはエロドクターがいる方へ真っ直ぐ行って、声を掛けて、エロドクターが振り向いて…。
「おい、やばいんじゃないか?」
キース君に言われるまでもなく、私たちの頭の中では警報が鳴り響いていました。エロドクターはソルジャーをロビーの椅子に座らせ、医師仲間を送り出しに出かけて行った様子です。つまり二次会には行かない、と…。
「ど、どうしよう…。ブルーはいったい…」
会長さんはパニックでした。この状態でエロドクターに傍受されずにソルジャーにだけ思念で呼びかけるような高等技術、私たちにはありません。それが出来そうな会長さんは真っ青ですし、どうしたら…。
「ブルーと連絡とればいいの?」
ツンツン、と私たちの服を引っ張ったのは「ぶるぅ」でした。
「そ、そうだ! お前ならブルーだけに思念を送れるな?」
キース君の問いに「ぶるぅ」は「うん!」と頷きます。
「よし。じゃあ、頼む。…いいか、ブルーにこう言ってくれ。すぐにこっちへ戻って来い…とな」
「オッケー♪」
通路の奥に隠れた私たちの間から「ぶるぅ」はソルジャーに思念で呼び掛け、振り向いて。
「帰らないって言ってるよ。…っていうか、先に帰って…って言ってるんだけど」
「「「え?」」」
何ごと? と思った私たちの頭にソルジャーの思念が響きました。
『君たちは先に帰ってて。ぼくは少し遊びたいから、ぶるぅを連れて帰っていてよ』
用が済んだらブルーの家に帰るから、と告げたソルジャーは一方的に思念を切ってしまったらしく、「ぶるぅ」がショボンとした顔で…。
「ブルー、遊びに行くんだって。ぼくが連れてってもらえないってことは、これから大人の時間なのかなぁ?」
「「「大人の時間!?」」」
思わず叫んでしまって口を押さえる私たち。それには全く気付かない風で、「ぶるぅ」はつまらなそうに俯いています。
「いいなぁ、きっと大人の時間だよね。今、ノルディと一緒に出て行ったもん」
「「「出て行った!?」」」
「うん」
タクシーに乗って行ったよ、と「ぶるぅ」はロビーの方を指差しました。ジョミー君が「ぼく、見てくる!」と走って行って、慌てた様子で戻ってきて。
「いなかった…。ソルジャーもドクターも何処にもいないよ!」
「「「えぇぇっ!?」」」
それから後は上を下への大騒ぎです。会長さんは顔面蒼白になり、ソルジャーの行方を探すどころではありません。キース君は入口にいたドアマンを捕まえ、ソルジャーとエロドクターが二人でタクシーに乗り込んだことを確認してから「ぶるぅ」にソルジャーの思念を追うよう頼んだのですが…。
「んとね…。ぼくにも分からないや。ブルーが遮蔽しちゃうと追っかけることはできないんだ。ごめんね」
いいなぁ、と「ぶるぅ」はドアの向こうを眺めています。
「何処へ遊びに行ったんだろう? ブルーが大人の時間だよって言ってる場所は、シャングリラだと青の間なんだよね。後はキャプテンの部屋くらいかなぁ…。でも、ここはシャングリラの中じゃなくって地球だし! 海に行った時のお部屋みたいに、色々な所があって楽しそう」
海へ行った時というのはマツカ君の別荘のことでしょう。ソルジャーの世界のキャプテンが教頭先生のふりをして、ソルジャーと過ごしてましたっけ。きっと「ぶるぅ」は大人の時間だから、と二人に言われて納得して一人で寝たのでしょうが…。
「ぶるぅ、ぼくの家でブルーが帰るの待っていようよ!」
ブルーも気分悪そうだから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言いました。
「みんなも一緒に来てくれるでしょ? ぶるぅが退屈しちゃわないよう、トランプとかしてみんなで遊ぼう」
そう言われると断れません。会長さんのことも心配ですし、何よりソルジャーが気がかりです。私たちは教頭先生から巻き上げたお金の残りでタクシーに乗り、会長さんのマンションに移動することに決めました。ソルジャーったら、いったい何処へ、何をしに…? 本当に大人の時間だったら、会長さんは再起不可能かも…。




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