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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

新年を迎えて・第2話

緑の法衣を初めて纏ったキース君が導師を務めた修正会が終わり、私たちは宿坊に引き揚げました。いつも真夜中の新年会をやっていたのに今年は無し。ジョミー君とサム君が去年に続いて初詣のお手伝いをするからです。早めに休んで疲れを取って、初日の出を拝んでからお雑煮の予定。
「お疲れ様。キースは見事にやったと思うよ」
褒めて来たんだ、と緋色の法衣の会長さん。初めての導師で一つのミスも無くやり遂げるには集中力が要るのだそうで、素人さんには分からなくても何かしらドジを踏むのが普通。しかしキース君は完璧にこなし、所作も歩幅もパーフェクトだった、と会長さんはベタ褒めです。
「キースはぼくの弟子じゃないけど、ああいうのを見ると感激するよね。猛スピードで出世を遂げて緋色の衣になれそうだ。…二足の草鞋さえ履いてなければ」
「「「は?」」」
「シャングリラ学園の特別生だよ。出世するには璃慕恩院にも度々顔を出さないと…。決まった修行や論文なんかはソツなくこなしていくだろうけど、それだけじゃ位は順当にしか上がらない。ぼくみたいに普段の授業に顔を出さない生活だったら、楽勝で本山ベッタリなのにさ」
キースの性格からしてそれは無理だ、と会長さん。キース君は大学生をやっていた時でもシャングリラ学園に通ってましたし、今更サボリはしないでしょう。そうなると総本山の璃慕恩院に詰めっぱなしとはいかないわけで…。
「まあ、それでこそキースだけどね。正攻法でも緋色の衣は貰えるんだ。…多分、気長にやるんじゃないかな。真面目に論文を書きながら…さ。論文だけ出しても場合によっては大抜擢も有り得るし」
「え、そうなの?」
そう尋ねたのはジョミー君です。正座で痺れてしまった足を法衣の上から擦りながら…ですが。
「おや、ジョミーも興味が出たのかい? 君もいつかは通る道だし、知っておくのはいいことだ。お坊さんの位を上げるには試験と論文が必須なんだよ。そこで素晴らしい成績を上げて、凄い論文を提出すれば偉い人たちの目に留まる。黙っていても璃慕恩院の役がつくとか、大学で教えないかと言ってくるとか」
「大学ってキースの大学かよ?」
サム君の問いに、会長さんはニッコリ笑って頷いて。
「もちろんさ。だから君たちが大学に入る頃にはキースが教授かもしれないね。…シャングリラ学園の方があるから講師しかしないかもしれないけれど、教壇に立つ可能性は充分あるかと」
「「えーっ…」」
それはキツイ、とサム君とジョミー君が唸っています。シャングリラ学園では同級生なのに、大学に行けば教授と学生。なんだか悲しい上下関係が生じるような…?
「キースが教授だと嫌なのかい? だったら早めに大学に行って資格を取るか、でなきゃ鉄拳道場だよね」
そっちだったらキースは無縁、と楽しそうに笑う会長さん。鉄拳道場というのは璃慕恩院とは別の場所にある迦那里阿山・光明寺、通称カナリアさんの修練道場です。キース君の大学には全寮制で二年通えば資格が取れるコースがあるのですけど、修練道場に行けば一年。ただし厳しさは半端ではなく…。
「やだよ、鉄拳道場なんて…」
ジョミー君が呻けば、サム君も。
「だよな、俺もそっちは御免だぜ。でもなぁ、キースが教授っていうのもキツイよなぁ…」
同級生のよしみで高得点が貰えたとしても嬉しくない、とぼやくサム君ですが、あのキース君が手加減するとは思えません。グレイブ先生に負けず劣らず、厳しい教授になるんじゃないかと…。
「…やっぱ、みんなもそう思うよな? やべえ、俺たち、急いだ方が良さそうだぜ」
キースが大学に来る前に、とサム君が拳を握りましたが、ジョミー君は。
「慌てなくてもいいじゃない。…いつまでも資格を取らないって道もあるんだからさ」
「………。お前、ホントにやる気がねえのな…」
何処まで逃げるつもりなんだ、とサム君は脱力、私たちと会長さんは大爆笑。ジョミー君は百年経っても小僧さんのままかもしれません。その頃、キース君とサム君が緋色の衣を着ていたとしても、何の不思議もありませんってば…。

元老寺の宿坊でぐっすり眠った私たちを叩き起こしたのは例年どおり「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「かみお~ん♪ あけましておめでとう! 起床、起床ーっ!」
パタパタと廊下を走る足音も声も朝から元気一杯です。この声が聞けるのも無事に卵が孵ったからで、私たちは神様への感謝をこめて初日の出に深々と頭を下げました。山門から拝んだ朝日はとても神々しく、いい年になりそうな気がします。それから本堂で朝のお勤めを済ませ、庫裏で揃ってお雑煮で…。
「「「あけましておめでとうございます!」」」
アドス和尚とイライザさんも一緒にお雑煮とおせちの朝食でしたが、サム君とジョミー君を待っているのは初詣。去年と同じでお参りに来る檀家さんの子供さんにお菓子を渡す役目です。
「頑張るんだね、二人とも。とっくに顔が売れてるんだし、師匠の顔に泥を塗らないでよ?」
会長さんは出てゆく二人に軽く手を振り、おせちと真剣に向き合っていたり…。
「さてと、食べて許されるのは何処までかな? 完食しちゃうとジョミーに恨まれそうだしねえ…」
悩ましいよ、と並んだお重を見回す会長さんに、イライザさんが。
「大丈夫だと思いますわよ? 初詣が済んだら新年会ですよ、と言っておきましたし、そちら用に別のおせちがありますの」
「そうなのかい? じゃあ遠慮なく頂こうかな」
「かみお~ん♪ 美味しいもんね、ぼくも貰おうっと!」
そういうわけでキース君とジョミー君、サム君とアドス和尚を除いた面子はイライザさんのお世話で食べ放題。お昼御飯にジョミー君たちが戻った時には別室に移ってお餅などを食べ、午後はお茶とお菓子でのんびりと…。元老寺の初詣は午後三時までです。
「あー、疲れた…。やっと終わった~!」
もう懲り懲り、と法衣を脱いだジョミー君がお座敷にへたり込み、サム君は正座して会長さんにお辞儀。会長さんは満足そうに微笑んで…。
「お疲れ様、サム。ジョミーの方は自業自得だ、日頃の修行が足りなさすぎる」
そこへ法衣のキース君とアドス和尚が入って来て。
「なんとか形になっていたとは思うんだがな…。どうだった、親父?」
「ジョミー殿はアレじゃが、サム殿は充分及第点かと…。まずはお疲れ様と言っておかんとな。イライザ、新年会の用意じゃ」
「はい、すぐに」
イライザさんが言っていたとおり、私たちが食べまくったのとは別のおせちがズラリと机に並びました。朝は伝統おせちでしたけど、洋風や中華風まであります。ジョミー君たちは大歓声! お酒こそ無いものの、賑やかな宴会の始まり、始まり~。

「…ところでですな…」
アドス和尚の口調が改まったのは宴たけなわとなった頃。視線はジョミー君とサム君に向けられています。
「お二人は今年もシャングリラ学園で過ごされるそうですが、お二人に朗報がございましてな。…キースの大学に一年コースを設けよう、という運びになりまして」
「「「え?」」」
なんのこっちゃ、と顔を見合わせる私たちを他所に、会長さんが。
「へえ…。あの話、本決まりになったのかい?」
「来年度から予算が下りるようですな。学寮の建設場所の選定などがございますから、まだまだ先になりますが…。カナリアさんの修練道場だけでは心許ない、という声も上がっておりますし」
「良かったね、ジョミー。一年コースが出来るらしいよ、全寮制になるけれど」
これで資格を取るのも安心、と会長さんは嬉しそうです。一年くらいならジョミー君でも辛うじて我慢出来るかも? でも、どうして一年コースを作るんでしょう? 二年コースがちゃんとあるのに…。
「ん? それはね…」
会長さんが人差し指を立てて。
「急いで資格を取らなきゃならない人もいるのさ。でも現状だと一年コースはカナリアさんしか無いわけで…。急いでる人には酷な所なんだよ、カナリアさんは。…急ぐ事情が事情なだけに」
「「「???」」」
「住職が急死しちゃって資格を持った跡継ぎがいない、というのが急ぎの時。法類の話はしただろう? 法類にお寺の仕事を代わって貰って、その間に誰かが資格を取って来ないと……お寺を出なくちゃいけないのさ」
「「「えぇっ!?」」」
それは全く知りませんでした。お寺は個人の家では無いらしいのです。住職がお寺の仕事をする代償として家族も住ませて貰えるのだとか。じゃあ、キース君がお坊さんになっていなかったなら、いつかは元老寺から出て行くことに…?
「そうなるね。シャングリラ・プロジェクトのお蔭でアドス和尚も当分は安泰なわけだけれども、いつかはね…。お寺の世界は厳しいんだよ」
「キース先輩、そこまで知ってて継がないって決めてたんですか!?」
シロエ君の責めるような口調に、キース君は。
「ああ、そうだ。今となっては若気の至りだが、おふくろくらいは俺の稼ぎで面倒見られると思っていたしな。…そっちの方向に行かずに済んだのはブルーのお蔭だ。改めて礼を言わせてもらう。…感謝する」
畳に額をつけたキース君に、アドス和尚とイライザさんも続きました。会長さんは「何もしていない」と笑っていますが、本当にそうかどうかは分かりません。普通の一年生だった夏にキース君の家へ遊びに行こう、と言い出したのは会長さんですし…。
「堅苦しいのは御免なんだよ、賑やかにやろう。でもって、ジョミーとサムが一年コースに行ってくれる日を祈って……乾杯よりもお念仏かな?」
「「「ちょ、ちょっと…」」」
お念仏は似合いません、と止めに入れば「冗談だよ」と返されて。何処まで本気で何処から先が遊びなのかがサッパリ謎な会長さん。これも高僧ゆえの境地でしょうか? ともあれ、今年も新年早々、みんなで騒げるのはいいことですよね!

元老寺でのお元日の次は三日にアルテメシア大神宮への初詣。これも恒例になった行事です。去年はその後に食べ歩きをしに出掛けましたが、今年は特に予定も無くて。
「いいかい、買い食いはお参りを済ませてから!」
会長さんの注意が飛ぶのも今やお馴染み。小さな子供の「そるじゃぁ・ぶるぅ」は行きの参道からあれこれ買い食いしていますけど、私たちには許されません。
「でもさぁ…。行きしか見かけない店ってあるよね」
ジョミー君がボソリと呟き、サム君が。
「ある、ある! 帰りに食うぞ、って目を付けてたのに無いんだよなぁ…」
「それは同じ所へ行かないからだよ、君たちが悪い」
行きたい露店は覚えなくちゃ、と会長さん。
「参道は混むから流れを決めてあるだろう? 普通にお参りするだけだったら、クルッと一周して終わりなんだ。どうしても行きたい店があったら最初から出直しするしかないよ」
「「「あ…」」」
言われてみればそうでした。初詣に来る度に流されるままに歩いてましたが、奥の本殿に参拝した後は通ってきた参道とは別のルートへ入っていたような気がします。そちらも露店がギッシリですから同じ店があるものと思い込んでいましたけれど、そっか、無いお店もあったんだ…。
「じゃ、じゃあさ、覚えていたら戻って来ても構わないわけ?」
あの店とか、とジョミー君が指差したのは焼きそばの露店。焼きそばの露店は他にも沢山ありそうなのに、何かこだわる理由でも? んーと…。あらら、見えなくなっちゃった…。人の流れに合わせて歩くとアッと言う間に前を通り過ぎてしまいます。
「あーあ、ぶるぅも止まってくれなかったし…。後で来ようよ」
未練たらたらのジョミー君に、キース君が。
「激辛焼きそばが食いたかったのか? ぶるぅに頼めば幾らでも作ってくれるだろうが」
「かみお~ん♪ 激辛くらい簡単だよ!」
「そうじゃなくって…。今日までの間に激辛のお店で割り箸を貰えば抽選なんだよ」
「「「はぁ?」」」
意味不明な台詞に誰もが首を捻っているのに、ジョミー君は真剣そのもの。
「ホントだってば! 激辛グルメのキャンペーンでさ、買ったら割り箸をくれるんだ。それを捨てずに持って行ったら割り箸の数だけ抽選が出来て、豪華賞品ゲットなんだって」
だから絶対チャレンジしたい、とジョミー君は燃えています。元日の新聞にそういう記事が載っていたのだ、と主張されては頭から否定することも出来ず…。
「あっ、ほらほら、あそこ! 書いてあるだろ、キャンペーン中って!」
ジョミー君が伸び上がるようにして示した先には焼き鳥の露店がありました。テントにも看板にも『激辛』の文字が躍っています。そして『激辛キャンペーン中・本日まで』と書かれた張り紙も。
「…うーん、確かに激辛キャンペーンってヤツは存在するねえ…」
だけどお参りを済ませてから、と会長さんがキッチリ釘を。
「帰りの道にも激辛の店はあるかもしれない。…不幸にして無かったとか、もっと色々食べたいとかなら出直しルートも検討しよう。激辛キャンペーンにチャレンジするのはジョミーだけかい?」
「え、えっと…。俺も食べたい…かな?」
何の店かによるけれど、とサム君が右手を挙げれば、シロエ君も。
「ですね、モノによっては食べたいです! キース先輩たちはどうしますか?」
「俺か…。興味が無いと言ったら嘘になるな」
「ぼくは辛すぎるとダメなんですけど……ちょっと興味はありますね」
キース君とマツカ君が手を挙げ、スウェナちゃんと私も好奇心を抑えられません。会長さんはクスクスと笑い、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「ぶるぅ、みんなは激辛が食べたいそうだよ。お参りが済んだらもう一度回って来なきゃいけないかも…。歩き疲れたら先に帰っていいからね」
「ううん、平気! ぼく、激辛はどうでもいいけど、また来るんなら食べたいお店は色々あるもん♪」
フライドポテトも唐揚げも…、と大喜びの「そるじゃぁ・ぶるぅ」は今はクレープを握っていました。これぞ子供の特権です。でも、私たちも今日は我儘な買い食いコースを一直線! 帰りに激辛の店が無いとか、美味しそうな店じゃないとかだったら、大鳥居から出直しです~。

お正月も三日目とはいえ参拝客は途切れなく流れ、本殿の前も人で一杯。鈴を鳴らすのも押し合いへしあい、お賽銭を入れて柏手を打って、それから絵馬を奉納して。
「さてと、ハーレイの絵馬はあるかな?」
会長さんが鈴なりの絵馬をチェックしています。教頭先生がロクでもない願掛けをしたのは一昨年のお正月でしたが、それ以来、会長さんは警戒し続けているようで…。
「あった、あった。良かった、今年も普通のお願い事だ。向こうの端っこ」
指差された先に教頭先生の絵馬は見当たりません。サイオンで透視出来ない私たちには探せない場所にあるのかも?
「今年も無理? まあ、端から期待はしてないけれど…。ほら、あそこ」
会長さんが思念で送ってくれたイメージはやはり沢山の絵馬の下。元日に一番乗りして書いたのではないか、と思ってしまうほどベストな位置に吊るされた絵馬には『心願成就』の文字がデカデカと。
「恋愛成就と書かない所がセコイよね。…ぼくに見つかったらマズイと思って心願成就にしたんだろうけど、何を思って書いていたのかバレないとでも? いっそ堂々と書けばいいのに」
クスクスと笑う会長さんには残留思念が読めるそうです。今年こそ、という決意も新たに絵馬をしたため、想いをこめて吊るす姿が伝わって来そうな勢いだとか。
「そこまで結婚したいんだったら神頼みよりも努力あるのみ! 毎日花束を贈ってくるとか、せっせとデートに誘うとか…。当たって砕けろって言うじゃないか」
「…砕けてばかりだから神頼みだろう」
キース君の指摘に私たちはプッと吹き出し、会長さんは。
「まだまだ砕け足りないってば! もっと楽しませてくれないと…ね。おっと、忘れるとこだった。激辛キャンペーンの食べ歩きだっけ?」
「そう! 忘れないでよ、今日のメインを」
これから色々食べるんだから、とジョミー君。本殿への参拝を終えると、会長さんが言っていたとおり帰りのルートは別でした。大鳥居から真っ直ぐだった参道と並行してはいますが、庭や摂社を間に挟んだ裏参道というヤツです。そちらにも露店がギッシリですけど。
「えーっと、激辛、激辛…。あっ、あそこだ!」
ジョミー君が発見したのは唐揚げのお店。見るからに辛そうな唐辛子粉をビッシリまぶした唐揚げが並び、『激辛キャンペーン中』との謳い文句も。んーと、辛さの調節は出来ないのかな?
「唐揚げ1個お願いしまーす!」
勇ましく注文したジョミー君が受け取った紙袋には唐辛子粉と油で赤い染みが。これは初心者にはキツイかも、とスウェナちゃんと私はパスしましたが、男の子たちは次々に注文。マツカ君も少し躊躇したものの、勢いで買ったみたいです。
「うひゃーっ、激辛!」
だけど美味しい、と歩きながら齧るジョミー君は割り箸をしっかり握っていました。唐揚げに割り箸は不要ですけど、抽選の必須アイテムとして貰えるのです。キース君たちも「思った以上の辛さだな」などと言いつつ齧っていますし、案外、食べれば平気なのかも?
「さあ、どうだろうね? ぼくは買ってないから分からないけど…」
店によってはチャレンジするのもいいかもね、と会長さんが笑っています。
「せっかく来たんだし、話のタネっていうヤツさ。あ、あれなんかどうだろう? 激辛ドーナツって面白そうだ」
会長さんが見付けた露店はドーナツの店。それくらいなら、と買ってみたスウェナちゃんと私でしたが…。
「……か、辛すぎ……」
「…ドーナツでこれなら他のは推して知るべしよね…」
君子危うきに近寄らず、と激辛は二度と買わないことに。けれど会長さんはペロリと平らげ、その後は男の子たちと一緒になって露店巡りをしていたり。
「行きの参道で見た激辛クレープは無かったねえ…。戻るかい?」
「うん、もちろん! 激辛バーガーもお好み焼きバージョンが見当たらないし」
出直しだよ、と会長さんに訴えているジョミー君。他の男の子たちも異存は無くて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も歩き疲れていないというので私たちは再び大鳥居から出発です。こうして激辛を食べ歩いたお蔭で抽選用の割り箸もたっぷりと入手。駐車場の一角に設けられた特設テントに行って…。
「えっ…。豪華賞品って、こういうものなの?」
張り出されていた賞品一覧にジョミー君がポカンと口を開け、キース君が。
「王道だと思うが、お前は何を期待していたんだ?」
「…旅行券とか、金券とか…」
違ったのか、とガックリしているジョミー君を押し退け、サム君が割り箸の束を差し出して。
「抽選、お願いしまーす!」
「はいはい、全部で十回ですね。どうぞ!」
係のお兄さんが景気良く叫び、サム君はガラガラを十回も回しましたが貰ったものはティッシュでした。キース君もダメ、シロエ君もダメ、もちろんマツカ君もダメ。スウェナちゃんと私もティッシュを1個。会長さんがクスクスと…。
「ほらね、ジョミー。欲が無くても当たらないんだよ、君の言うような賞品だったとしても無理かと…。ぼくも試してみようかな?」
お願いします、と会長さんが渡した割り箸は五回分。しかし…。
「おめでとうございます! 一等、グルメチケット三十枚です!」
「「「えぇっ!?」」」
絶対にサイオンを使ったな、とジト目で見詰める私たちを他所に会長さんはガラガラを回し、二等と三等も引き当てました。残り二回はティッシュですけど、グルメチケットが六十枚も…。
「これだけあれば全員で六回繰り出せるよね。ハーレイを誘ってもいいかもしれない。有効期限が一年間の食べ放題だし、今年は激辛グルメを楽しもうよ」
テントで貰ったマップを手にして満足そうな会長さん。キャンペーンに参加していた店なら何処でも使えるグルメチケットが豪華賞品の正体です。言い出しっぺのジョミー君もティッシュだけで終わり、大当たりしたのは会長さんだけ。でも……激辛の店ですよ…?
「ふふ、君たちもまだまだ読みが甘いね。激辛の露店を出してたってだけで、普通のお店も沢山あるんだ。此処は本格派カレーの店だし、こっちはチジミの店だったけど名物料理は参鶏湯と石焼きビビンバ」
なんと! そんなお店で食べ放題とは…。チケットに「激辛に限る」との注意書きは入ってませんし、これは春から縁起が良さそう。ジョミー君が見付けた激辛キャンペーンと会長さんに感謝しなくっちゃ!

そんなこんなで初詣が終わり、遊び歩く内に冬休みも終わって三学期開始。シャングリラ学園の新年はお雑煮の大食い大会で始まります。1年A組には今年も会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が現れ、白味噌仕立てのヘビーなお雑煮を食べまくり。…会長さんの分は「そるじゃぁ・ぶるぅ」がコッソリ食べているらしいのですけど。
「1位、1年A組!」
ブラウ先生が高らかに宣言しました。
「副賞は先生方相手の闇鍋だ! 担任の他に二人指名出来るよ、誰にする?」
「教頭先生でお願いします!」
会長さんが指名し、もう一人はクラスメイト一同で相談した結果、ゼル先生に。理由は「怒ると怖い先生だから」。生徒ってヤツの恨みを買うと悲惨な末路になるようです。私たちは学校から届いた「これだと思う食品を一つ」とのメールで用意したモノを取りに戻って、校庭の中央に据えられた大鍋へ…。あれっ?
「初心に帰ってみたんだよ」
会長さんが放り込んだのは大福でした。隣では「そるじゃぁ・ぶるぅ」が肉まんを鍋に投げ入れています。大福と肉まんは確かに合わないでしょうが、さほどインパクトは無いですよ?
「あんたとぶるぅがそんなのだったら、俺たちの方が悪辣だよな…」
教頭先生に申し訳ない、と溜息をつくキース君がドボドボと鍋に注いでいるのはチョコレートシロップの徳用ボトル。本当に悪いと思っているなら最後の一滴まで注がなくても良さそうな気も…。そう言う私もカキ氷用のメロンシロップを一リットルも抱えていたりしますけど。ジョミー君が苺シロップ、スウェナちゃんがキャラメルシロップと甘いシロップで揃えました!
「なるほどねえ…。君たちも慣れてきたのかな? 素敵な味になりそうだ」
ベースが醤油味だけに、と会長さんは笑っています。クラスメイトたちも辛子明太子やバナナを入れて鍋はカオスな見た目と匂いに。そこで先生方が目隠しをされ、鍋を掻き混ぜさせられてから一杯ずつお椀に掬い入れると、ブラウ先生が。
「よーし、目隠しはもう取っていいよ! さて、ここからが勝負になる。一人でも掬った分を完食したら先生方の勝ち。ギブアップしたら1年A組の勝ちで、食堂のランチ券が貰えるってわけさ。始めっ!」
全校生徒が固唾を飲んで見守る中で、真っ先にギブアップしたのはゼル先生。続いてグレイブ先生が棄権し、残るは教頭先生ただ一人。しかし…。
「闇鍋はブルーの手料理…だっけ?」
ジョミー君の言葉に深く頷く会長さん。
「そう。そして根性で探り当てたようだよ、ぼくとぶるぅが入れたヤツをね」
教頭先生のお椀には大福と肉まんが入っていました。これは完食コースです。会長さんったら、なんてことをしてくれたんですかー! 去年みたいにヤラセの交渉もしていないのに…。あれれ?
「勝者、1年A組!」
教頭先生がバッタリと仰向けに倒れ、闇鍋勝負は私たちの勝ち。大福がよほど不味かったとか、肉まんが激マズだったとか? ともあれ、1年A組に万歳三唱!



 

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