忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

旅には道連れ・第2話

元老寺で春のお彼岸のお手伝いをすることになってしまったジョミー君とサム君を労うために会長さんが提案したのは慰安旅行。それに便乗しようと押し掛けてきたソルジャーですけど、参加したいだけではなかったのでした。会長さんがやっとの思いで口を開いて…。
「…ぼくの聞き間違いでないなら、婚前旅行って聞こえたように思うんだけど? なんでジョミーたちの慰安旅行が婚前旅行になるっていうのさ? いったい誰が結婚すると!?」
「結婚じゃないよ、婚前だってば! ぼくとハーレイはまだ結婚していないからね。ハーレイのヘタレ具合からして、結婚式は当分無理だと踏んでるけども」
いけしゃあしゃあと答えたソルジャーに、会長さんが額を押さえました。私たちだって同じです。この流れではソルジャーばかりか、キャプテンまでもが乱入しそうじゃないですか! けれどソルジャーはまるで気にせず、さも良いことを思い付いたという風に。
「どうせ慰安旅行の費用はこっちのハーレイに丸投げだろ? だったらハーレイも一緒に行って貰えばいいんだ。そして指導をお願いしたい」
「「「…指導…?」」」
いったい何のことでしょう? 首を傾げる私たちに向かって、ソルジャーは。
「ぼくもハーレイを連れてくるから、婚前旅行の心構えと振舞いについてレクチャーを…ね。こっちのハーレイはぼくのハーレイの師匠だし! 新婚生活をどうするべきかを習いに来ていたことがあっただろ?」
げげっ。それはすっかり忘れていました。確かにキャプテンが講習を受けに来ていたことがありましたっけ。あの時は教頭先生がキャプテン相手に「夢の新婚生活」を滾々と説いて、二人で熱く妄想語りを…。
「だからさ、今回もこっちのハーレイに色々と指導して欲しいんだよ。前にブルーが連れ出していた婚前旅行は採点係がついてたせいで散々なことになってたけれど……ぼくのハーレイも採点をして貰おうかな?」
「「「………」」」
採点係。それは情けない思い出でした。会長さんが教頭先生を旅に連れ出し、婚前旅行だからと前置きした上で私たちに採点係をさせたのです。教頭先生の会長さんに対する思いやりはどうか、とか幾つもの項目を細かくチェックし、一定の点数に達したら「結婚を前提としたお付き合い」が始まるというトンデモ企画。
もちろん会長さんに結婚する気は最初から無く、教頭先生はオモチャにされただけなのですけど、採点対象には『お床入り』なんていう名の大人の時間への導入部分まで含まれていて…。
ひょっとして、あれを私たちにもう一度やれと? ソルジャーとキャプテンの旅の様子を逐一チェックしていろと…? 全員が呆然とする中、我に返ったのはやはり会長さんで。
「ちょっと待った! 採点だなんて…。いいかい、ぼくのハーレイでもヘタレてしまってロクな点数が出なかったんだよ? 君だって知っている筈だ。第一、君のハーレイは…」
「うん。ぼくは見られていても平気。だけど、ハーレイは見られていたら意気消沈! …ぶるぅが覗きをしていた時にはED寸前になっちゃったしねえ…。その節はお世話になったっけ」
ソルジャーが言っているのは「ぶるぅ」が大人の時間の覗き見をして記録をつけた事件でした。「ぶるぅ」の影に怯えたキャプテンが使い物にならなくなったとかで、私たちの世界で「ぶるぅ」を暫く預かっていたという…。そんな悲惨な過去のあるキャプテンの旅の態度を採点だなんて、マイナスにしかならないのでは…?
「平気、平気。ぼくがハーレイに求めるものは二人の世界というヤツだから! こっちのハーレイの指示に従って甘い時間の演出を……ね。婚前旅行じゃマズイというなら新婚旅行でも構わないよ? 二人の世界に入ってしまえば周囲は絶対気にならない!」
バカップルって言うんだろ、とソルジャーは笑みを浮かべました。
「それに採点はどうでもいいのさ。採点係がついているから迂闊な真似は出来ないぞ、とプレッシャーをかけてくれればOKなんだ。ぼくのハーレイが素晴らしい婚前旅行を実現できるよう、力を貸してほしいってわけ」
どうかな? と私たちを見回すソルジャー。…「どうかな?」なんて訊かれても……拒否権は無いも同然でした。お断りすれば「SD体制」だの「ソルジャーとしての苦労」だのを持ち出し、押し切ってくるに決まっています。…会長さんは何と返事をするのでしょう? 慰安旅行は早くも波乱の兆候ですよ~!

「…君の言いたいことは分かった」
会長さんが苦虫を噛み潰したような顔で頷きました。
「要は君のハーレイも一緒に温泉旅行に行きたいわけだ。そして新婚旅行のバカップル並みに甘い時間を過ごしたい…、と。だけど、ぼくのハーレイが承知するかな? 旅行費用を丸投げするのは当然だとして、あのハーレイが君と君の世界のハーレイとのベタベタっぷりを拝みにやって来るとでも…?」
見せつけられたくはないだろうさ、と会長さん。確かにそれはそうでしょう。教頭先生、会長さんと一緒に旅行となれば喜んで飛んで来そうですけど、その旅先でソルジャーとキャプテンがイチャつくとなると…。しかもイチャつくシチュエーションについて自分が指導を行うとなると…。なのにソルジャーは平然として。
「絶対に来るね、君のハーレイには極上の餌を提供するから! ところで温泉って何処に行くのさ? ちょっと変わった場所だって言っていなかったっけ?」
「えっと…。まあ、ハーレイが役に立ちそうな場所ではあるかな、労働力に」
「「「労働力?」」」
なんですか、それは? 慰安旅行で温泉旅行。それなのに何故に労働力が必要だと…? 出稼ぎに行くんじゃないんですから、労働は御免蒙りたいです。そういえば特別生になって初めての夏は埋蔵金探しだと言われて男の子たちが総出でレンコン掘りを…。
私たちの表情に気が付いたのか、会長さんが「ああ、それはね…」と微笑みました。
「労働と言っても娯楽の内だよ? きっと楽しめると思うんだけど、より素晴らしい温泉にするなら労働力は多い方がいいかもしれない。ハーレイは喜んでやってくれるだろうし…。でも君たちだってきっと労働したくなる」
それは請け合い、と片目を瞑ってみせる会長さん。なんだか面白そうな温泉ですけど、教頭先生は来るのでしょうか? おまけにソルジャーとキャプテンが参加するのは既に決定事項のようで…。
「なるほど、どんな温泉かは出掛けてみてのお楽しみ…というわけだね。じゃあ、君のハーレイと交渉しよう。温泉旅行に来てくれるかい、って」
ソルジャーは早速出掛けようとしましたけれど、放課後とはいえ此処は学校。アヤシイ話を持ち出されては困ります。会長さんが懸命に説得をして、話をつけるのは夜ということになりました。教頭先生が帰宅してから、会長さんのマンションに呼びつけようというわけです。
「…善は急げだと思うんだけどねえ…。まあいいや、夜まで待たせてもらうよ。そうそう、ジョミーとサムは明日からキースの家でお坊さんをやるんだって?」
素敵だよね、とソルジャーは明らかに面白がっています。ジョミー君は仏頂面でしたが、元老寺でお彼岸のお手伝いをするという運命が変わる筈も無く…。サム君もジョミー君も明日から法衣の生活です。その見返りとして温泉旅行が企画されたのに、ソルジャーに乗っ取られてしまうとは気の毒としか…。

夜を待つと決めた私たちは早々に会長さんのマンションに移動しました。もちろん瞬間移動でです。急に大勢が押し掛けることになっても「そるじゃぁ・ぶるぅ」は慣れたもの。手早くおやつや飲み物を用意し、夕食は旬の魚介類をたっぷり使ったブイヤベースを作ってくれて…。
「かみお~ん♪ 前にシロエが言ってたヤツにしてみたよ! お魚屋さんの生簀で泳いでた鯛を入れたんだ♪」
ワッと歓声を上げる私たち。ブイヤベースはシロエ君のパパの得意料理で、これだと思えばデパートの生簀の鯛でもブチ込んでしまうのが味の秘訣だと聞いていたのです。その話が出た時、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が「いい出汁が出そうだよね」と相槌を打ってましたが、ついに実現しましたか!
「美味しいね、これは」
ソルジャーが満足そうに舌鼓。天然モノの鯛が入ったブイヤベースは絶品でした。なのに、食後に私たちを待っていたものは…。
「そろそろいいかな? 君のハーレイも夕食を終えたようだし」
教頭先生の家をサイオンで伺っていたらしいソルジャーが尋ね、会長さんが渋々ながらも頷き返すと、たちまち迸る青いサイオン。それが消えると、教頭先生がリビングにポカンと立っていました。
「………???」
「こんばんは。急に呼び出してすまないね」
ニッコリ笑ったソルジャーを見て、教頭先生は慌てて挨拶。
「ああ、これは…! こんばんは。…何かご用がおありでしたか?」
「んーと…。まずはブルーの方からじゃないかな? どうせ事後承諾のつもりだっただろうし」
「事後承諾?」
怪訝な表情の教頭先生に、会長さんが「仕方ないね」と溜息をついて。
「…温泉旅行を企画したんだ。サムとジョミーをぼくの弟子として本山に届け出たものだから…。二人ともお彼岸の最終日には僧籍として登録される。その前に心構えをさせておこうかと、明日からキースの家を手伝わせるのさ。慣れないお坊さん生活をすることになるし、慰安旅行をしようかなぁ、って」
「ほほう…。ついに正式な弟子にするのか。ジョミーたちの成長を見るのが楽しみだな。…で、事後承諾とか言っていたのは旅行費用を私に出せと?」
教頭先生の理解の早さは流石でした。「そういうことなら」と喜んで旅行費用を出すそうです。本当に会長さんには甘いのだなぁ…、と私たちは呆れ顔。そこへソルジャーが「次はぼくだね」と割り込んで…。
「旅行費用の件だけだったら事後承諾だし、請求書が行っただけじゃないかと思うんだ。…君を呼び出したのは旅行費用を二人分プラスしてくれないかってこと」
「二人分?」
「ぼくと、ぼくのハーレイも行きたいんだよ。…そう、正確にはプラスする旅行費用は三人分になるのかな? 君にも参加して欲しくって…。ブルーたちの了解は取ってある」
「私も…ですか?」
驚いている教頭先生に、ソルジャーは極上の笑顔で続けました。
「悪くない話だと思わないかい? 君のブルーと一緒に温泉旅行! それに素敵な御褒美もつく。…いや、特典と言うべきか…」
「「「特典…?」」」
なんのこっちゃ、と首を傾げる私たち。教頭先生も首を捻っています。ソルジャーが続いて告げた言葉は…。
「ぼくのハーレイを徹底的に指導して欲しいんだ。君が三百年の片想い生活の間に練り上げた夢の新婚旅行! ブルーと新婚旅行に行ったとしたらどうするか、ってヤツをぼくのハーレイにやらせるのさ。思念波を使えば簡単に指示が出来るだろう? ここでこう、とかそういうのを」
「…………」
あまりのことに返事も出来ない教頭先生。けれどソルジャーは断られないものと踏んでいるらしく、畳みかけるように。
「指導係をしてくれるんなら、特典として写真撮影と録画をし放題! ぼくとハーレイのバカップルぶりを好きなだけ記録していいよ。えっと、まりぃ先生だっけ? 妄想イラストを描いてもらってオカズにしているみたいだけれど、絵よりも断然、実写だよね」
とんでもない提案に誰もが声も出ませんでした。ソルジャーの言う特典とやらも大概ですけど、教頭先生に写真撮影だの録画だのをするだけの度胸があるのでしょうか? 指導するのが精一杯では…? 私たちの疑問を読み取ったのか、ソルジャーはパチンとウインクして。
「君に撮影する度胸が無いなら、そこの子たちに頼めばいい。採点係をする予定だから参考画像として記録を……ね? ぼくが責任を持ってアルバムとかに仕上げてあげるよ」
ひぃぃっ、そういう展開ですか! 私たちが採点した上、写真撮影だの録画だのまで…。どんどん恐ろしい方向へ向かっている気がするんですけど、教頭先生、なんとか断ってくれないでしょうか…? 祈るような気持ちの私たちを他所に、ソルジャーは。
「もちろんOKしてくれるよね? ぼくもハーレイもSD体制が敷かれた世界で大変なんだ。たまには二人きりで甘い婚前旅行がしたい。…ああ、二人きりっていうのは周りが見えていないバカップルって意味でだけどさ」
どう? と訊かれた教頭先生は会長さんの方を窺うように見て、それからハアと溜息をついて。
「…分かりました、お受けしましょう。では、そちらのキャプテンとは事前に打ち合わせなどを…?」
「そうだね、もうすぐ今日の勤務が終わるから…。細かいことは君の家で相談しようかな? とりあえず先に帰っていてよ、気持ちの整理もしたいだろうし。…後でハーレイと二人でお邪魔するね」
それじゃ、とソルジャーは教頭先生を瞬間移動で送り返してしまいました。教頭先生、どうか御無事で…。

「…あーあ、一方的に決めちゃって…」
どうする気なのさ、と会長さんが嘆いています。
「ぼくが企画したのはサムとジョミーの慰安旅行で、君たちの婚前旅行じゃないんだよ? 目の毒としか言いようのないバカップルぶりを見せつけられる上に、それを撮影しろだって? 採点だけでも頭が痛くなりそうなのに…」
「いいじゃないか、それも娯楽の内だと思えば! ぼくのハーレイが何処まで頑張れるかを見物するのも楽しいよ、きっと。なにしろ見られていると意気消沈な男だからねえ…。バカップルになれるかどうかも怪しいしさ」
でも頑張ってもらうけど、とソルジャーはとても乗り気でした。
「シャングリラではどうしてもマンネリになりがちなんだよ。ノルディに貰った四十八手はハーレイの腰が引けてしまって全然ダメだし、制覇できるのはいつのことやら…。月に一度のヌカロクの日しかチャレンジしようとしないんだから!」
またヌカロクが出て来ましたけど、この言葉の意味は未だに把握できていません。分かっているのはソルジャーがキャプテンに高価な漢方薬を無理やり飲ませて大人の時間に持ち込む日だということだけ。ソルジャーはフンと鼻を鳴らすと…。
「四十八手の一覧表を貰ってから毎日のように頑張っていれば制覇できたと思うんだ。どれがベストなヤツかってトコまで分かってたかもしれないねえ…。なのにハーレイときたらヘタレだし! 褌を締めて頑張るようにって黒猫褌を締めさせたのに、それでもヘタレは直らないし!」
「「「………」」」
黒猫褌を使わせたのか、と私たちは目眩がしそうでした。緊褌一番という言葉にヘタレ直しの希望を見出したソルジャーがキャプテンに六尺褌を締めさせたのは周知の事実。その褌が緩んでしまうとかで「緩まない褌」を目指したソルジャーの目に留まったのが黒猫褌というヤツです。ぴったりフィットな褌にするべく、教頭先生をモデルに使って手作りで仕上げていましたが…。
「なんでハーレイは褌が緩まなくてもダメなのさ? 褌をギュッと締めていたならヘタレも直る筈だろう?」
ブツブツ文句を言うソルジャーに、会長さんが。
「褌にそんな特殊パワーは無いと思うよ? それにね……緩まないように出来た褌を締めていたって意味は無いさ。半端な締め方をしたら緩む褌をきちんと締めてこその緊褌一番!」
「…そうなんだ? せっかく何枚も手作りしたのに無駄だったのか…。基本は六尺褌なんだね?」
「多分。…一本の布だけでキリッと締めるヤツだから」
「だったら褌の締め方も君のハーレイにキッチリ仕込んで貰おうかな? そして褌の締め方も採点対象にして…、と…」
ええっ、そこまでやるんですか!? 褌なんて…キャプテンの下着姿をチェックしろだなんて、そんな無茶な! けれど会長さんは「いいかもね」と呟いています。
「君がどんな項目を作ってチェックさせる気かは知らないけれど、褌は採点してもいい。…ただし、下着じゃなくて水泳用っていうことで! こっちのハーレイは水泳の時だけ褌なんだし、水着としての褌なら…」
他の採点と写真や録画については協力できるかは確約できない、と会長さん。
「なにしろ十八歳未満お断りの団体様なんだ。ぶるぅは子供だから話にならないし、ぼくも全く乗り気じゃないし…。バカップル指導だけで満足しとけばいいと思うよ、ハーレイとよくよく相談したまえ」
特典が無くても頑張るだろう、と会長さんは太鼓判を押しました。
「なんと言っても夢にまで見た新婚旅行が目の前で繰り広げられるんだからね。どうやらワクワクしているようだ。…ぼくは大いに迷惑だけど」
また妄想が広がりそうで…、と会長さんが文句を言っていますが、ソルジャーは聞く耳を持っていませんでした。頭の中はキャプテンとの旅行で一杯に違いありません。
「ありがとう、旅行メンバーに加えてくれて。ぼくとハーレイの仲が上手くいくよう祈っていてよ。…じゃあ、こっちのハーレイの家で打ち合わせをしてから帰ろうかな」
またね、と軽く手を振ってソルジャーの姿が消え失せ、私たちはガックリ脱力しました。ジョミー君たちの慰安旅行は今やすっかりソルジャーのもの。慰安旅行がオシャカになったジョミー君たちも気の毒ですけど、付き合わされる私たちだって泣き出したいほど迷惑です~!

そして翌日。春休みの開始と共にジョミー君とサム君はお彼岸のお手伝いをするべく元老寺へ。会長さんも見に行くのかと思いましたが、シャングリラ号の出航前の準備が色々あるのだそうで、キース君に指導と監督を任せてそれっきり。慰安旅行の日程と行き先もシャングリラ号が戻って来てからの話です。
「で、本当に行くんですか?」
シロエ君がそう言ったのは元老寺方面へ行くバス停でのこと。マツカ君とスウェナちゃん、それに私の四人が時刻表を眺めていました。此処まで来たのに何を今更…。
「そりゃあ行くわよ、せっかくだもの! だって、あのジョミーがお坊さんよ?」
今度こそ本物のお坊さんになるんだものね、とスウェナちゃんが力説しています。特別生になる前はジャーナリスト志望だったスウェナちゃんの手には立派なカメラが。
「会長さんなら写真なんか撮らなくたってバッチリ見てると思うんだけど、やっぱり記録はしておかないと! ちゃんとキースの許可もあるのよ」
ほら、とスウェナちゃんがバッグから取り出したのは『関係者』と書かれた腕章でした。昨夜、会長さんの家から帰宅した後で取材を思い付き、キース君に相談をして、キース君から会長さんに話が行って……それから腕章が瞬間移動で届いたそうです。スウェナちゃんのジャーナリスト魂は今も消えてはいなかったようで…。
「会長さんがね、どうせ写真を撮るんだったらシャングリラ号の広報誌とかにも載せようかって言ってくれたの! 仲間内にだけ配る冊子で、マザー農場とかにも届くらしいわ。シャングリラ学園は一般の生徒が多いから置けないっていうのが残念だけど」
でも先生方の家には個別に配達されるのよね、とスウェナちゃんは燃えています。いい写真が撮れたら記事も書かせて貰えるのだとか。なんと言ってもキース君のお坊さんとしての本格的なデビューと、会長さんの直弟子二人の僧籍登録決定の姿を伝える写真。仲間たちのニュースが載る冊子には格好の話題というわけでした。
「頑張っていいのを撮らなくちゃ! …あ、バスが来たわ」
私たちは揃って路線バスに乗り込み、いざ元老寺へ! お彼岸とあって山門や本堂には紋が入った幕や五色の幕がかかっています。早速シャッターを切るスウェナちゃん。えっと、ジョミー君たちは本堂かな?
「卒塔婆の受付は向こうみたいですよ」
シロエ君が目ざとく見つけて、皆で入った建物の中には墨染めの法衣に輪袈裟をつけたサム君とジョミー君が座っていました。檀家さんから戒名を書いた紙と代金を受け取るのがジョミー君、それを奥の部屋へと運ぶのがサム君の役目らしいです。奥の部屋ではイライザさんやお手伝いの人がせっせと卒塔婆に文字を書いていて…。
「真面目にお坊さんをしてますね…」
意外でした、とマツカ君が呟く間もスウェナちゃんは写真を撮っています。ジョミー君たちの撮影が終わると今度は裏山の墓地まで行って墓回向をしているキース君を写し、忙しそうなアドス和尚を捕まえて少しだけ取材。お彼岸の最終日の法要の撮影許可も貰って、もちろん最終日には再び勢揃いして出掛けて行って…。

「ジョミー先輩もサム先輩も、今日付けで正式にお坊さんでしたよね?」
お線香とお香の煙がもうもうと立ちこめ、読経の声が響く元老寺の本堂でシロエ君が囁きました。アドス和尚とキース君の他にもお坊さんが何人もいます。サム君とジョミー君は末席にお経本を前にして正座しており、見た目はしっかりお坊さん。キース君が長髪ですから、ジョミー君たちに髪の毛があっても目立ちませんし…。
「ホントにお坊さんになっちゃうなんてね、あのジョミーが…」
未だに信じられないわ、と言いつつスウェナちゃんは熱心に撮影中。スウェナちゃんの腕の『関係者』の腕章とカメラのお蔭で、今日の私たちは椅子席でした。正座したのでは写真撮影しにくいからです。法要は半端なく長かったですし、腕章に感謝!
「あー…、やっと終わった、終わった」
法衣を脱いだジョミー君がサム君と連れ立って庫裏から出て来たのは日がとっぷりと暮れた頃。片付けなどを手伝っていたらそんな時間になったのだそうで…。私たちはイライザさんの好意で宿坊で待たせて貰っていました。
「お疲れ様です、ジョミー先輩、サム先輩!」
シロエ君が深々とお辞儀し、そこへキース君が法衣のままで現れて…。
「俺も疲れた。こいつらの指導は気が張ってな…。親父がもういいと言ってくれたし、時間があるなら飯でも食って帰らないか? ジョミーたちは寺の弁当にも飽きているだろう。出前なら取るぞ」
「ホント!?」
現金な声を上げたジョミー君は一気に元気が出たようです。私たちは庫裏のお座敷に入り、宅配ピザやスパゲッティなどを堪能しながら。
「ブルーは今頃、宇宙だよねえ?」
ジョミー君の言うとおり、シャングリラ号は既に出航していました。定位置である二十光年離れた辺りで戦闘訓練を実施中なのか、時間が時間だけに訓練は終わって慰労会なのか…。電話は繋がる筈ですけども、誰もかけようとはしませんでした。
「シャングリラ号が帰って来たら慰安旅行の筈だったのに…。何処で間違っちゃったんだろう?」
温泉はとっても楽しみだけど、とジョミー君がぼやいています。お彼岸のお手伝いを頑張ったのに、待っているのはソルジャーとキャプテンの婚前だか新婚旅行だか。でも…。
「いいじゃないか、温泉に行けるのは確かだしな」
風呂と飯だけは期待できそうだ、と言うキース君は前向きでした。
「ブルーお勧めの温泉だぜ? 飯は美味いに決まっているし、湯の質もいいに違いない。…余計なヤツらは見ないことだ。現にあいつが言っていたしな、バカップルは周囲を見てはいない、と。だったら俺たちも見ないまでさ」
採点係など知ったことか、と言われてみればその通りかも…。ソルジャーには義理も借りもありません。会長さんだって協力できるかは確約できないと告げてましたし、ここは一発、見ないふり! 温泉旅行を楽しむべし、と私たちの意見は一致しました。ちょっと変わった温泉というのは何処でしょう? 景色が綺麗な場所だといいな…。



PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]