忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

暮れの風物詩  第3話

配られた謎のウサギのバッジ。会員制のパーティーという趣旨は分かりますけど、どうしてウサギの会なのでしょう? 仮装パーティー用の衣装に着替えた私たちは何度も顔を見合わせ、出てこない答えに首を捻って…諦めてリビングに向かいました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」に渡すプレゼントの包みをしっかりと持って。
「「かみお~ん♪」」
わわっ! リビングには既に「ぶるぅ」も到着していて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と二人並んでニコニコ顔です。しかも可愛いタキシード姿。これが二人の仮装でしょうか?
「わぁっ、みんなの服もかっこいいね!」
凄いや、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が歓声を上げ、隣で「ぶるぅ」が。
「ブルーの方が凄いもんね。それに、ぼく、こんなのも作ってもらっちゃったし!」
クルリと宙返りをした「ぶるぅ」の衣装がチビッ子忍者に早変わり。それを目にした「そるじゃぁ・ぶるぅ」もパッと着替えて忍者になってしまいました。二人は誕生日パーティー用の衣装と仮装用のと、二着作ってもらったようです。
「ふうん、忍者も似合ってるね」
ジョミー君が褒め、そのついでに。
「で、ウサギのバッジもくっつけてるの?」
「「うん!」」
ほらね、と二人が出して見せたのはバッジではなく首飾りでした。首飾りとはちょっと違うかな? 水色のリボンの先に私たちのより大きめのウサギのマークがついた勲章みたいなタイプです。今日のパーティーの主役ですから目立つのがいいってことなんでしょうか? と、リビングのドアが開いて…。
「こんにちは」
「着替え、済んだかい?」
入って来たのは会長さんとソルジャーでした。えっと…「こんにちは」な方がソルジャーですから、もしかして天使の仮装ですか? 足元まである白いローブに純白の翼と言いたい所ですけど、天使の翼は闇の色。なんだか天使じゃないような…?
「ああ、これ? 一応、魔天使のつもりなんだ。悪魔っぽくね」
ソルジャーは背中の大きな翼を指差しました。
「蝙蝠の翼じゃ美しくないし、黒いヤツにしてみたんだよ。どう? 似合ってる?」
コクコク頷く私たち。真っ白なローブはソルジャーにとても似合っています。黒い翼も悪戯好きのソルジャーらしくていいんじゃないかな? けれどソルジャーと並んだ会長さんは…。
「変かな、これ?」
羽織袴の会長さんが羽織の袖を引っ張りました。金糸が織り込まれた派手な羽織は何処から見ても悪趣味です。なんでこんなに妙な衣装を…?
「悪代官って言えばこれだろう? 悪役はやっぱり光ってないと」
「「「悪代官!?」」」
どうしてそんな選択を…と、私たちは口がポカンと開いたまま。会長さんはクスクスと笑い、ソルジャーと顔を見合わせて。
「ブルーが魔天使、ぼくが悪代官。でもって、ここにウサギのバッジが…」
「そうそう、ぼくもちゃんとつけてる」
悪代官な会長さんは羽織の紐に、魔天使なソルジャーはローブのベルトにウサギのバッジをつけていました。ウサギバッジが会員証なウサギの会って何なのでしょう?
「ふふ、ウサギの会が気になるんだ?」
会長さんが紐にくっつけたウサギのバッジを弄びながら。
「悪代官と悪魔が揃ってるんだよ? 悪の組織に決まってるだろう」
「「「えぇっ!?」」」
私たちはビックリ仰天でした。悪の組織に入った覚えは無いんですけど、いつの間に…? ウサギバッジは代紋ですか? そもそもパーティーするのに何故、悪の組織?
「盛り上げるための小道具だよ」
ソルジャーが片目を瞑ってみせました。
「会員制のパーティーとくれば秘密結社が似合わないかい? どうせなら悪の組織がいいなぁ…って。せっかくゲストも来るんだしさ」
「「「あ…」」」
綺麗サッパリ忘れてましたが、パーティーには教頭先生が来るのでした。教頭先生も悪の組織の一員でしょうか? 仮装用の衣装を注文しようと電話していたのは知っていますが…。
「もちろんハーレイもウサギだよ」
会長さんが微笑みました。
「じきに来るからちょっと待ってて。今、下の駐車場に車を入れてる」
教頭先生もウサギバッジをつけるようです。なんだか変な会ですけども、楽しかったらそれでいいかな?

パーティーの料理は今年も豪華なケータリングでした。ダイニングのテーブルに用意されてて、会場のリビングから自由に取りに行ける仕組みです。リビングに持ってきて食べるのも良し、ダイニングで大いに食べるのも良し。「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」のバースデーケーキはリビングで食べる予定ですが…。
「あ、ハーレイだ」
玄関のチャイムが鳴って会長さんがソファから立ち上がりました。
「ぼくが迎えに出てもいいけど、今日の主役の方がいいかな?」
「かみお~ん♪ 行ってくるね!」
タキシード姿に戻っていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」がウサギの勲章を揺らして走って行きます。「ぶるぅ」は忍者が気に入ったらしく、今もチビッ子忍者でした。やがてスーツをきっちり着込んだ教頭先生が案内されてきて…。
「お邪魔する。…ん? なんだ、今日のパーティーはどうなってるんだ!?」
驚いている教頭先生。仮装パーティーだと承知の上で衣装も注文した筈なのに…妙な所でもありましたか? 私たちの衣装代も教頭先生が支払うんだと聞いていますし、連絡ミスなど有り得ませんが…?
「言っただろ、仮装パーティーだって」
会長さんが進み出ました。
「ジョミーたちの衣装代も君が払うと言ったじゃないか、ぼくの衣装も含めて…ね」
「そ、それは…確かに払う約束をしたが、話が違う!」
「どう違うって?」
グイと詰め寄る会長さんに教頭先生は一歩後ずさり、視線が向けられた先にはソルジャー。
「た、確かウサギと…。今日のパーティーはウサギの会で、仮装のテーマはウサギなのだと聞いたのだが…。もしかして言いに来たのはブルーの方か? お前じゃなくて?」
「違うよ、ちゃんとぼくが行った。ぶるぅが一緒にいただろう? 君の家に一人で行っちゃいけないって厳しく言われているからねえ」
「だったら何故! ここにウサギは見当たらないぞ」
「ふぅん? どうやら君の目は節穴らしい」
羽織の紐につけたバッジを会長さんが示しました。
「ほら、ここにウサギがついている。ブルーはベルトにくっつけてるし、ぶるぅたちは首から提げてるし…。ジョミーたちもバッジをつけてるんだよ、ウサギの会の会員証の」
何処につけてるか教えてあげて、と言われてバッジを指差す私たち。教頭先生は真っ青になり、持っていた大きな鞄がドスンと床に落っこちます。
「そ……そのウサギバッジでウサギの会だと? お前、私を騙したのか?」
「ううん、全然。君が勝手に誤解しちゃって勝手に一人で盛り上がったんだろ、ウサギと聞いて…さ。まあ、そのように仕向けたことは認めるけどね。だから悪代官の仮装をしてるし、ブルーは悪魔な魔天使だ。ウサギの会は悪の組織になってるんだよ」
クスッと笑う会長さん。
「ハーレイの分のウサギバッジも用意したけど、どうやらバッジは要らないようだ。君は自前でウサギなんだろ?」
「…い、いや…」
うろたえている教頭先生の鞄を会長さんが拾い上げて。
「そうかな? ここにウサギが入っていると思うんだけど? 着替えておいでよ、あっちの部屋で」
「…ウサギバッジで十分だ!」
「仮装パーティーにスーツで出る気? 無粋な真似は困るんだ。ぶるぅのタキシードに文句があるなら着替えさせるよ、ね、ぶるぅ?」
「かみお~ん♪」
パッとチビッ子忍者に変身を遂げる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。衣装を二種類作ったのには深い理由があったようです。タキシードも仮装に違いないですが、忍者の方がそれっぽいですし…。教頭先生は言葉に詰まり、会長さんは綺麗な笑顔で。
「ぶるぅも忍者になったことだし、君も着替えてもらおうか。君をパーティーに招く権利はぼくが高値で競り落としたんだ。共同入札だったけれども、ジョミーたちの参加費用もぼくが払った。…落札された身で文句を言えると思うかい?」
「…うう…」
万事休す。オークションの件を持ち出されると教頭先生は逆らえません。会長さんから鞄を受け取り、指定されたゲストルームへと着替えのために出てゆきました。でも…。
「自前でウサギって?」
ジョミー君が疑問を口に乗せます。会長さんはソルジャーと視線を交わして頷き合うと、「見てのお楽しみ」と微笑むばかり。まさかウサギの着ぐるみとか? あの図体で着ぐるみなんて、可愛いくないと思うんですけど…。
「いいんだってば、ハーレイだから。どうせウサギの会には入れないしね」
悪代官な会長さんが魔天使と一緒に悪戯っぽい笑みを浮かべています。
「ウサギの会はハーレイを陥れるために結成された悪の組織だ。ハーレイはウサギに強い思い入れがあるものだから、まんまと罠にはまったわけ」
「「「罠…?」」」
「そう、罠。すぐに分かるよ、ハーレイがどう誤解して罠に落ちたか。…だけど少し時間がかかりそうだね。先にパーティーを始めちゃおうか、プレゼントを用意してくれたんだろう?」
ぶるぅたちがソワソワしているから、と会長さん。二人のチビッ子忍者はプレゼントの包みが気になって仕方ない様子です。教頭先生は放っておいて、まずはケーキの登場からかな?

リビングのテーブルに運び込まれた大きな二つのバースデーケーキ。たっぷりの生クリームとフルーツで飾られたケーキの上には『おめでとう、ぶるぅ』と書かれたホワイトチョコのプレートが乗っかっています。蝋燭は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のケーキに1本、「ぶるぅ」のケーキに…。
「ぶるぅは何本立てるつもりだ?」
キース君が呆れたように言い、ソルジャーが。
「さあね? 去年も一杯並べてただろう、歳は関係ないんだよ。とにかくパーッと派手なのが好きで…。ぼくの世界で祝った時にもこうだったから」
どうせならこれも、とソルジャーはスパーク花火まで立ててしまいました。そしてみんなで…。
「「「ハッピーバースデー、ぶるぅ!」」」
「「かみお~ん♪」」
蝋燭と花火で華やかに彩られたケーキにチビッ子忍者たちは御満悦。切り分けるのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」で、会長さんがお皿を配ってくれて、美味しいケーキを味わった後はプレゼントを渡す時間です。
「おめでとう、ぶるぅ。…ぶるぅにはもう渡しちゃったから」
会長さんが「ぶるぅ」にプレゼントしたのはアヒルちゃんの形のランチプレート。私たちがアヒルグッズのお店で見たのはプラスチック製のベビーグッズでしたが、これは陶器でしっかりしてます。それも道理で、会長さんとフィシスさんが贔屓のお店で作ってもらった特注品。
「サイオンでコーティングしてあるからね、割れにくいとは思うんだ。だけど大事に使ってほしいな」
「うん! ぶるぅとお揃いのお皿だね♪」
大喜びで受け取る「ぶるぅ」。ソルジャーからは今年もヘソクリ菓子の詰め合わせでした。去年と違うのは会長さんが用意したアヒルちゃん模様の箱に入っている所です。やっぱり「そるじゃぁ・ぶるぅ」も「ぶるぅ」もアヒルちゃんが大好きみたい。私たちもアヒルちゃんグッズをチョイスしといて良かったです。
「はい、これ。…ぼくたちから」
ジョミー君とサム君が渡したアヒルの形のボアスリッパは二人のチビッ子忍者に大ウケ。早速履いて走り回ったり、飛び跳ねたり。私たちはダイニングから好みの食べ物を取ってきて和やかに談笑していましたが…。
「静かに!」
会長さんが人差し指を唇に当てました。
「ドアに注目。…来るよ」
「何が?」
ジョミー君の問いにソルジャーが。
「やれやれ、忘れられてるよ…。来ると言ったらハーレイだろう」
「「「………」」」
完全に忘れ果てていた私たち。教頭先生が着替えに行ってからどのくらい時間が経ったんでしょう? 会長さんが壁の時計を眺めて…。
「着替えにかかった時間も含めて一時間弱か。往生際が悪いったら…」
「仕方ないだろう、それだけショックが大きいんだよ」
勝手に勘違いしたくせに…とソルジャーがクスクス笑っています。やがてリビングのドアがカチャリと開いて。
「「「!!!」」」
私たちは声も出ませんでした。恥ずかしそうに入って来たのは大きなウサギ。頭に白いフワフワの耳、首に蝶ネクタイ、そして真っ黒なレオタード。お尻には丸い尻尾が揺れて、足には大きなハイヒールを履いた…バニーちゃんではありませんか! 着ぐるみの方がマシだったような…。
「最高だね、ハーレイ。よく似合ってるよ」
会長さんがパチパチと拍手し、ソルジャーがニッコリ微笑んで。
「よくできました。先にパーティーを始めてたんだよ、君がなかなか来なかったから。で、ぶるぅたちへのプレゼントは?」
「そのぅ……。つまらないものなんだが…」
私たちの遠慮ない好奇の視線を浴びて教頭先生は真っ赤でしたが、それでも差し出す二つの包み。リボンがかかった包装紙のロゴは「そるじゃぁ・ぶるぅ」お気に入りの焼き菓子専門店のもの。
「「わーい!」」
ありがとう、と叫んだ二人のチビッ子忍者は教頭先生がバニーちゃんでも気にしていないようでした。けれど教頭先生自身はそういうわけにはいきません。
「……披露したぞ。もういいだろう?」
着替えてくる、と回れ右をする教頭先生を会長さんが呼び止めました。
「ちょっと待った! どうしてそんな衣装を選ぶ気になったのか聞きたいな。…君が自分で決めたんだろう、その衣装。着るのも躊躇するようなモノを、どういう理由で?」
「…それを私に言えというのか…?」
「もちろん」
会長さんは悠然と答え、ソファにゆったりと身体を預けて。
「聞き出すまでは容赦しないよ、言いたくなくても喋ってもらう。ぼくもブルーもサイオンの扱いに長けてるからね、自白させるのは簡単なんだ」
「………」
顔面蒼白の教頭先生。ウサギの会とか騙されたとか聞きましたけど、いったいどうしてバニーちゃんに…?

喋らなければ強制的に自白あるのみ、と脅迫された教頭先生は縮み上がってしまいました。一方、悪代官な仮装の会長さんは面白そうに赤い瞳を輝かせて。
「…ぼくがハーレイに伝えに行ったのはパーティーの日取りと目的、それに趣向だ。参加する面子も伝えたっけね。仮装パーティーでウサギの会だとも言ったけれども、何処をどうすればその衣装に?」
「…そ、それは……。ウサギと言えばウサギしか…。ウサギで統一するのかと思って…」
「ちゃんと統一してるじゃないか。ウサギバッジは共通だよ。ぶるぅたちは今日の主役ってことで勲章型にしてみたんだ。ほら、ウサギ」
羽織の紐にくっつけられたバッジを見せる会長さん。
「それとも何か? ウサギってバニーちゃんだと思い込んでた? それで自分もその格好に…?」
「………」
その沈黙は肯定でした。会長さんがプッと吹き出し、ソルジャーの肩をポンと叩いて。
「ブルー、君のアイデア、ナイスだったよ。こうも見事に引っ掛かられると笑うしかないよね、本当に」
「ハーレイは夢を持ってたからねえ、バニーちゃんに。…みんなの分の仮装費用を払うことに決めた理由もバニーちゃんが見たいからだろ? 冷静になって考えてみれば分かるだろうに…。バニーちゃんなら費用は殆どかからない、って」
間抜けだよね、と指を折って数えるソルジャー。
「ジョミーやキースは学園祭でやっていたからバニーちゃんの衣装を持っている。ぼくの分があるのも知ってる筈だよ、写真を持っているんだものね。こっちのぶるぅも学園祭でバニーちゃんの格好で踊っていたし、その勘定で行けば衣装が無いのは……ぼくのぶるぅと君だけ、かな?」
「そうなるね。まさか女子にはさせられないから、そっちは普通の仮装だとしても…女子のが二着とバニーちゃんのが二セットか。…そこまでちゃんと計算してた?」
ねえ、ハーレイ? と会長さんは妖しい笑みを浮かべています。
「ぼくはあの時、言ったんだ。仮装パーティーの費用が高くなりそうで困ってる…って。だいたいの数字も言った筈だよ、払えなければ仮装パーティーは見送りかな…ってね。そしたら君が資金提供を申し出た。バニーちゃんの衣装がバカ高いわけないのにさ」
「………。私の分を注文した時、妙に安いなとは思ったんだ」
教頭先生は縮こまりながら言い訳しました。
「…しかし私はキャプテンだし…。あの店は普通の店ではないし、割引制度でもあるのだろうと」
「それを言うならソルジャーなぼくは? この衣装もあそこで仕立てたんだけど?」
悪代官、とキンキラキンの着物を得意げに見せびらかしている会長さん。教頭先生はウサギ耳がシュンと垂れそうな顔で肩を落として。
「お前のことは忘れていた…。それにジョミーたちは仲間とはいえ、シャングリラ号とは関係ないし……正規の料金を支払うとばかり…」
「正規料金だよ、割引無しのね。ぼくの紹介だから値引きしますって言われたけども、必要ないって言っといた。凄い請求書が行っただろう? でも夢を買うにはまだ安すぎる」
なんと言ってもバニーちゃんだ、と会長さんは偉そうでした。
「ぼくがプレゼントしたブルーの写真じゃ飽き足らなくて、本物が見たくなっただなんて…。ウサギの会で仮装パーティーだと教えた時のあの顔が忘れられないよ。…浅ましいよね、教頭のくせに」
「……すまん……」
教頭先生が頭を下げるとウサギの耳がピョコンと揺れます。きっとお尻では尻尾が揺れているのでしょう。まるで似合わないバニーちゃんですが、私たちの凝った仮装なんかより余程パーティー向けでした。相応しいと言うのではなく、意外性という意味でです。
「…まあいいや。その格好が見たかったんだし」
会長さんが鼻で笑ってソルジャーの方を向きました。
「見事に罠に引っ掛かったよね、君の計算どおりにさ。…こんな時のセリフはアレかな、この格好の決めゼリフ! ブルー、そちも悪よのう」
「いえいえ、お代官様こそ…」
ソルジャーったら時代劇まで知ってましたか! 会長さんが悪代官の仮装を選んだ理由は悪の組織もさることながら、この台詞が言いたかったから…? あれ? じゃあ、ソルジャーは何故に魔天使? 悪代官ごっこをするなら悪の商人が定番では…? 首を傾げる私たちにソルジャーはパチンとウインクして。
「商人の格好は地味すぎるだろ? せっかくだから派手な仮装をしたかったんだ。ぼくは悪代官よりも魔天使が好みさ」
華やかだしね、と言うソルジャーに純白のローブと漆黒の翼はハマりすぎでした。白い翼なら少し違和感あったかもです。だってトラブルメーカーですもの…。悪代官と魔天使に陥れられた教頭先生、お気の毒としか言えませんよね。

「ハーレイ、こっちにもジュースを頼むよ」
「先生、ピザが食べたいでーす!」
バニーちゃんの仮装を選んでしまった教頭先生は便利に使われまくりです。会長さんとソルジャーが「バニーちゃんならホストらしく!」と命令したので私たちにも笑顔で応対。いつもは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が頑張ってくれるパーティーの裏方をせっせとこなし続けていました。
「だって、ぶるぅの誕生日だしね」
「仕切り直しではあるけどね」
無問題、と満足そうな悪代官と黒い翼の腹黒天使。忍者スタイルの「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」も御機嫌です。自分好みの仮装をしている私たちだって気分は最高!
「おっしゃ、今度は騎士とドラキュラいってみようぜ!」
ジョミー君と切り結んでいた海賊サム君の記念撮影が終わったらしく、今度はキース君がジョミー君と肩を組んでいます。マハラジャなシロエ君はオイルダラーなマツカ君と盛り上がってますし、スウェナちゃんと私はお姫様ドレスで大はしゃぎ。もちろん男の子たちやソルジャーと一緒に記念写真も撮りました。会長さんとも撮ったのですが、悪代官とドレスはイマイチ合わなかったのが残念です。
「かみお~ん♪ 忍法、分身の術~!」
「八人くらいは楽勝だよね!」
チビッ子忍者な「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」は忍術ごっこでした。サイオンを使えば簡単に分身できるらしくて、あっちにもこっちにもチビッ子忍者が…。そんな中でも教頭先生はバニーちゃん姿で大忙し。と、ソルジャーがカメラを手にして立ち上がりました。
「ハーレイ、君の写真も写してあげるよ。今日の記念に」
「い、いえ…。私は別に…」
「遠慮しなくてもいいってば。…って言うより、やっぱり致命的に似合わないよね、その格好」
残念だ、と深い溜息をつくソルジャー。
「似合いそうなら貰って帰ろうと思って企画したんだけどな…」
「「「は?」」」
なんですって? バニーちゃんが似合っていたら持ち帰る? いったい何処へ? 私たちの視線が集中するのをソルジャーはサラッと受け流して。
「前にノルディに作らせたヤツ、それなりに役に立ったんだけど……お遊びの域を出なくってさ。ほら、ぼくって尽くすタイプじゃないし、ホストは全然向いてないんだ。そのせいかなぁ、あの格好でハーレイにお酒とかを勧めてみても緊張するのかガチガチに硬くなっちゃって」
硬くなるのが別の場所なら歓迎だけど、と意味深なことを言うソルジャー。大人の時間に何か問題があるらしいのは分かりました。でも、そこでどうして教頭先生のバニーちゃん衣装…?
「逆ならいいかと思ったんだよ」
ソルジャーは悪びれもせずに言い放ちました。
「ぼくのハーレイもこっちのハーレイに負けず劣らずヘタレだし…。だから尽くされるより尽くしてる方がいいのかなぁ、って。それで実験してみたんだけど…」
ぼくの美意識が許さないや、と教頭先生バニーを見詰めるソルジャー。
「こんな格好で口説かれた日には百年の恋も醒めるってヤツ? どこから見たって変態だよねえ、まさかここまでとは思わなかった」
「「「………」」」
そんな理由で仮装パーティーとかウサギの会とか勝手に仕切っていたのかい! と心で突っ込む私たち。けれど会長さんも含めて口に出す人はいませんでした。なんといってもウサギの会は現在進行形で開催中。下手なことを言えば魔天使ソルジャーが何をしでかすか分かりませんし…。
「ねえ、ハーレイ。…記念撮影に応じてくれたら特別にウサギになってもいいよ、このぼくが」
「「「えぇっ!?」」」
魔天使なソルジャーの魔性の笑みに私たちは背筋が寒くなりました。ソルジャーがウサギになるって、もしかしなくてもバニーちゃん? あちらの世界に持って帰った衣装を取り寄せてきて教頭先生を誘惑するとか…? 恐る恐る教頭先生を見ると、鼻の下がしっかり伸び切っています。
「…鼻血が出そうな顔だよ、ハーレイ。その表情からして決まりだね」
「ちょ、ちょっと…。ブルー!」
慌てて止めに入った悪代官には目もくれないで、ソルジャーは教頭先生に微笑みかけると。
「それじゃ記念撮影を始めようか。普通の写真じゃつまらないから、ぶるぅの誕生日パーティーらしく宴会芸をやってもらうよ。…そこに座って」
「…こうですか?」
リビングの絨毯に腰を下ろした教頭先生にソルジャーが出した注文は…。
「足を広げてくれるかな? そうじゃなくって、もっとこう…。違う、違う、君はセンスが悪すぎるって! ぶるぅ、ハーレイに教えてあげて」
指名されたのは「ぶるぅ」でした。チビッ子忍者はコクリと頷き、教頭先生の所へ行くと…。
「えっとね、足はこう広げるの」
よいしょ、と教頭先生にポーズを取らせる小さな「ぶるぅ」。なんですか、このグラビアみたいな格好は? 会長さんの顔がサーッと青ざめ、教頭先生は一気に耳まで真っ赤になって…。
「ふふ、官能写真その一、ノルディ好みの決めポーズ…っと」
ソルジャーがカメラを構えてパシャッとフラッシュが光りました。
「次はその二にいってみようか、ブルーが君に渡した写真は全部で何枚あったっけ? 君が毎晩オカズにしているアレを忠実に再現出来たら御褒美にぼくがウサギになるよ。そしてあのポーズを取ってあげる…って、あれ?」
ドッターン! と教頭先生が仰向けに倒れ、意識は既にありませんでした。バニーちゃんの格好で鼻血を出して失神されても困るのですが…。お笑いにしか見えないのですが、どうしたら…?
「倒れちゃったか…。想像しただけで鼻血だなんて、ヘタレが酷過ぎて涙が出るよ。仕方ない、ホストは抜きで盛り上がろう。ウサギの会らしくバニーちゃんだ!」
三月ウサギ~! とソルジャーが叫び、会長さんが学園祭で身に着けていたタキシードにパッと着替えて、頭の上にはウサギ耳。
「ぶるぅ、忍法ウサギ変化!」
「かみお~ん♪」
その後の惨事はあまり語りたくありません。会長さんはソルジャーが取り寄せたバニーちゃんの衣装を着せられ、男の子たちの自慢の仮装もバニーちゃんに…。そして「ぶるぅ」は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のバニーちゃんの衣装で歌いながらステップを踏んでいました。チビッ子忍者な「そるじゃぁ・ぶるぅ」も楽しくステップ。
「かみほー♪でフレンチ・カンカン踊れるんだ…」
「よかったわよね、蚊帳の外で…」
頭を抱えるスゥエナちゃんと私。上機嫌で踊る「ぶるぅ」と指揮者気取りのソルジャーのサイオンに逆らうことが出来ずに、ズラリ並んで踊らされているバニーちゃんな会長さんたち。教頭先生が目覚めたならば正しく夢の光景ですけど、そうは問屋が卸しません。
「ブルー! なんだってぼくがこんな目に…!」
会長さんの絶叫がリビングに木霊し、仮装パーティーの宴会芸は『かみほー♪』に合わせたウサギのダンス。ウサギの会って…ウサギの会って、結局、ソルジャーの娯楽の会なんですか~? オークションで落札してきたホームパーティー、どうしてこうなっちゃったんでしょうね…?




PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]