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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

校外へ行こう  第3話

校外学習の日がやって来ました。当然のように現れた会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も1年A組のバスに乗り込み、去年と同じ水族館へ。法務基礎に出かけたキース君からは「半時間ほど遅れそうだ」とジョミー君にメールが届いています。お勤めの後、電車とタクシーを乗り継いで来るみたい。水族館に到着した後は自由行動ですが、会長さんが最初にやらかしたのは…。
「ぶるぅ、あれを出してくれるかな」
「オッケー!」
大きな保冷バッグから出てきたラッピングされた2つの小箱。両手に持って向かった先にはアルトちゃんとrちゃんが立っていました。
「やあ。今年も持って来たよ、ぶるぅのマカロン」
案内板を見ていた二人に、にこやかに声をかける会長さん。
「ぼくの初めてのプレゼントを覚えてる?…お守りは抜きで。そう、去年ここで渡したマカロンなんだ。せっかく同じ舞台なんだし、これを記念に渡したくって…」
はい、と小箱を渡されたアルトちゃんたちの頬が染まります。
「去年は箱を返してくれたよね。今年は記念に持っててほしいな。ハート形のガラスの容器に赤いマカロンを詰めたんだ。挟んであるのは薔薇のクリーム。ぼくの気持ちを赤い薔薇の花言葉に託した趣向」
アルトちゃんたちは耳まで赤くなりました。…赤い薔薇の花言葉ってなんでしたっけ?
「…真実の愛、熱烈な恋。死ぬほどあなたに恋い焦がれています、っていうのもあったっけ」
気障な言葉を口にしながら会長さんが戻ってきて。
「キースが来るまでゲートの辺りで待っていようか。ちょうど座れる所もあるしね」
ベンチに腰かける私たち。アルトちゃんたちはマカロンの箱を大事そうにバッグに入れてゲートをくぐって行きました。その間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がショータイムのチェックに出かけて行って…。
「ねえ、ブルー。イルカショー、午前中に2回あるみたい。イルカさんと握手してもいい?」
「かまわないよ。午後は特別プランで貸し切りになってしまうから」
会長さんがポケットマネーで申し込んだという特別プラン。そのプランでは「そるじゃぁ・ぶるぅ」がイルカと握手するのは無理なんでしょうか?
「どうだろうね。イルカショーなのは確かだけどさ」
詳しいことは内緒なんだ、と教えてくれない会長さん。それを聞き出そうとしている内に、タクシーが滑り込んで来ました。キース君の登場です。特別プランの中身は分からないまま、ゲートをくぐって水族館へ…。

一番最初に向かった所は思い出のスタジアムでした。イルカショーの開始時間が迫っていたので「そるじゃぁ・ぶるぅ」は先に走って行き、ステージの袖に並んでいます。お目当ての『イルカさんと握手』は子供オンリーで先着順と決まってますから。
「よっぽどイルカが好きなんだね」
ジョミー君が言うと、「どうでしょうか」とシロエ君。
「水泳大会ではサメと遊んでいたでしょう?一緒に泳げる相手だったらイルカでなくてもいいのかも…」
そういえばホオジロザメが学校のプールに放されたことがありましたっけ。あのサメは水族館から借りたものだと聞いています。この水族館だと思うんですけど、シャングリラ学園の卒業生がいたりするのかなぁ…。
「もちろん」
横で聞いていた会長さんが答えました。
「館長が卒業生なんだ。だから特別プランも普通より安くしてくれた」
うーん、特別プランが気になります。付き添いの先生の中に1年生の担任ではないブラウ先生の姿がありました。ブラウ先生はラウンジで会長さんと特別プランの話を交わして、校外学習について行きたくなったと言っていて…それを実行したわけで。いったい何が起こるんでしょう?
「秘密だってば。…あっ、ほらほら、ぶるぅがイルカと握手するよ」
プールから顔を出したイルカと子供たちが順番に握手してゆきますが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は握手した後、頭にキスまで貰いました。他の子供たちは羨ましそう。予定には無いキスみたいです。
「あいつ、イルカにウケがいいのか…」
「ウケというより、友達なのさ」
サム君の呟きに会長さんがニッコリ笑います。
「ぶるぅはイルカが大好きだから、友達になるのは簡単なんだ。特別プランなんかもあるし」
それ以上のことは話して貰えませんでした。イルカショーの後は水族館を見学して回り、2度目のイルカショーを見終わるとちょうどお昼の時間。スタジアムでお弁当を広げ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が保冷バッグに詰めてきたピクニックランチも御馳走になって、お腹いっぱい。幸せ気分で寛いでいると場内放送が入りました。
「御来場の皆様にお知らせいたします。まことに申し訳ございませんが、午後は貸し切りとなっております。準備のために会場を閉めさせて頂きますので…」
あらら。スタッフ以外は外へ出ないといけないようです。シャングリラ学園の貸し切りですし、居てもいいんだと思ったのに…。
「ダメダメ、会場の都合もあるんだから。文句を言わずにさっさと出なきゃ」
あっち、と出口を指差す会長さんは椅子に座ったままでした。
「ブルーは?」
サム君が尋ねると「ぼく?」と小首を傾げてみせて。
「ぼくが頼んだプランだよ。注文主がいなくてどうするのさ。ぶるぅも大事な出演者だから、もちろん残る。準備が整ったら水族館中にアナウンスするから、それまで好きに回っておいで」
「「「えぇっ!?」」」
そこへファイルを抱えたスタッフの人がやってくるのが見えました。
「ね、ぼくは打ち合わせをしなきゃいけないんだ。邪魔をしないでくれたまえ」
ヒラヒラと手を振る会長さん。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は別のスタッフに呼ばれてイルカプールの方へ走ってゆきます。私たちはスタジアムを追い出されてしまい、会長さんたちとも離れ離れになったのでした。

「ぶるぅのためのショーなのかな?」
大水槽を横切ってゆくジンベイザメを見ながらジョミー君が首を傾げます。スタジアムから一番近いここへ来たものの、アナウンスはまだ入りません。
「出演者だって言ってたものね」
スウェナちゃんの言葉にキース君が「分からんぞ」と腕組みをして。
「大事な出演者というのが引っかかる。イルカショーに出るんだろうが、ぶるぅを遊ばせてやるためだけに金を出すようなタマか、あいつが?…金に不自由はしてないくせに、試験の打ち上げパーティーの度に教頭先生のポケットマネーを当然のように毟ってやがる」
「なんだって?…ブルーを悪者みたいに言うなよ!」
「サム、ちゃんと現実を見ているか?あいつは…」
険悪な空気が流れかけた所へ「シャングリラ学園からお越しの皆様へお知らせします」とアナウンスの声が降って来ました。
「間もなく特別ショーが始まりますので、ドルフィンスタジアムにお越し下さい。…繰り返しお知らせを申し上げます…」
「「「!!!」」」
サム君とキース君の言い争いは水入りとなり、折れたのはキース君でした。
「悪かった。つい…。行こうか、ブルーの呼び出しだ」
「あ、ああ…。俺もカッとなっちゃって…」
「気にするなって。ほら、急がないと御機嫌を損ねてしまうぞ」
その言葉は私たち全員に当てはまります。ショーが始まった時にいなかったなら、どんな嫌味を言われるやら。
「ぼく、先に行って席を取っとくよ!」
ジョミー君が駆け出し、サム君たちが続きます。
「スウェナとみゆは後で来い!任せろ、一番前を取る!」
キース君が叫んでいってくれたおかげで、スウェナちゃんと私は走るのを免れました。アナウンスがまだ続いている中、スタジアムに向かう同級生たちが歩いています。案内板にはドルフィンスタジアムが午後に貸し切りになるとしか書かれていなかったので、自分たちの学校のためのショーというのは効果満点のサプライズみたい。
「特別ショーって何だろう?」
「さあ?…俺たちもステージに立てるとか、イルカに乗って泳げるとか…。それとも水泳部の奴らがイルカと一緒に男子シンクロ?」
こんな調子で盛り上がっている人が多数派ですが、中にはガッカリしている人も。
「うちの学校が貸し切るんだって分かっていたらイルカショーは見なかったわ」
「そうね、他のを見ればよかった」
それはそうかもしれません。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお付き合いで2回も見てますけれど、普通は1回で満足でしょう。けれども生徒は集まりつつあり、入口には行列が出来ていました。
「ねえ、おかしいと思わない?なかなか前に進まないわ」
「うーん、みんな入った所で止まっちゃってる?」
スタジアムの中から女の子たちの黄色い声が聞こえてきます。前座で何かやってるのかな?…そうこうする内に「立ち止まらないで!」とスタッフさんが整理に出てきて、流れ始めた列に続いて入って行った扉の向こうは…。
「「えぇっ!?」」
通路が白い花とリボンで飾り立てられ、プールの周囲も花が一杯。ステージの中央には十字架が置かれた祭壇なんかが設けられています。この光景はいったい何ごと!?
『「おーい、こっち、こっち!!」』
思念波と声で同時に呼ばれて、ジョミー君たちが最前列で手を振っているのに気付きました。私たちは階段になっている通路を下へと降り始めましたが、白いリボンに白い花、おまけに十字架のある祭壇とくれば…。
「みゆ。ここってドルフィン・ウェディングっていうのをやってなかった?」
「…うん。どんなのかは知らないけど…」
「もしかして、これ…」
「「結婚式!?」」
イルカショー付きの挙式プランがあるのは知っていました。会長さんが申し込んだ特別プランって、まさかのドルフィン・ウェディング?

ジョミー君たちが取っておいてくれた最前列。生徒は私たち7人だけで、他は先生方でした。失礼します、と前を通って行く間に声を掛けてきたのは保健室のまりぃ先生。
「ロマンチックよねぇ、ドルフィン・ウェディングなんて!去年のぶるぅちゃんも良かったけれど」
「…やっぱり結婚式なんですか!?」
「やだぁ、ショーだって放送してたじゃない。特別ショーよぉ、ねぇ、ゴマちゃん?」
「キュ~ッ、キュッキュッキュ~ッ!」
まりぃ先生はペットのゴマフアザラシをギュッと抱えて瞳をキラキラさせていました。先生方はショーの正体をあらかじめご存じだったようです。ブラウ先生が付き添いにエントリーなさったわけだ、と納得しながらスウェナちゃんと私はジョミー君とキース君の間の席に。私の隣がキース君です。
「あいつ、何を企んでやがるんだ?…あれっきり姿を見せていないし、ぶるぅもいない」
「キース君たちも見てないの?」
「ああ。開場してすぐに飛び込んだんだが、先生方しかいなかったんだ」
あいつというのは言うまでもなく会長さんです。こんな企画を立てたからには何もしない筈がありません。
「……ブルー、誰かと挙式する気じゃ……?」
恐る恐る言ったジョミー君。私たちはアッと息を飲み、同時に思い浮かべた人は…。
「「「フィシスさん!?」」」
フィシスさんは別の学年ですけど、会長さんだって1年生ではありません。キース君が遅れてやって来たように、フィシスさんも別のルートで水族館に来たのかも。会長さんはフィシスさんと結婚してはいませんけれど、とっくに深い仲なんです。ショーと称して挙式したって不思議じゃないし、そのカップルならブラウ先生も出席したいと思うでしょう。改めて先生方を見渡してみると、グレイブ先生も唇に笑みが。
「…フィシスさんと挙式で決まりかも…」
「そうですね…」
「ううっ…。ブルーが…ブルーが幸せになれるんだったら仕方ないよな…」
サム君が半べそになりかけた時、ステージにイルカショーのトレーナーさんが現れました。黒地に金のラインが入った普段のショーよりお洒落な衣装。ステージの袖には蝶ネクタイの司会の男性がマイクを持って立っています。
「大変お待たせいたしました。只今より特別ショーを開催させて頂きます。お気づきの方も多いでしょうが、このショーは当水族館の目玉のドルフィン・ウェディングを基に展開するものです。実際の挙式さながらのエンターテインメントを存分にお楽しみ下さいませ!」
は?…エンターテインメント?…何か間違ってる気もしますけど、お芝居っていう意味なのかな?
「まず、背景をご説明いたしましょう。本日、挙式するカップルにはドラマティックな運命の出会いがあったのでした…」
あああ、やっぱり会長さんとフィシスさん…!本当の馴れ初めをここで明かすとは思えませんし、適当にでっち上げるのでしょう。サム君は既に顔面蒼白、握り締めた拳が震えています。司会の人が咳払いをして。
「花嫁の父は甲斐性の無い人物でした。幼い娘を残して妻に逃げられ、日雇い仕事を転々としながら男手ひとつで頑張ったものの、借金は増える一方です」
え。フィシスさんのお父さんをそんなキャラにしちゃって大丈夫ですか…?
「どうにも首が回らなくなったある日、彼は賭博に誘われました。勝てば借金が返せるという甘い言葉に乗せられ、手を染めたのが運の尽き。…気付いた時には借金のカタに娘を売るしかありませんでした」
ものすごい語りにスタジアム中がざわついています。会長さんったら、いくらなんでもやりすぎでは…。
「そこへ、娘を嫁にくれるのだったら借金を全て肩代わりする、と名乗り出たのは大金持ちのヒヒ爺」
へっ!?…会長さんがヒヒ爺?…まぁ、三百歳を超えているのは本当ですし、自分をヒヒ爺に設定するんだったら、フィシスさんのお父さんを甲斐性無しに仕立てるくらいは可愛いものかもしれません。
「そんな爺に娘をやれるか、と嘆いてみても金は無し。父の苦境を知った娘は自分を欲しいと言った男と会ってみることにしたのです。ところが、なんという運命の悪戯でしょうか!…一目出会ったその日から恋の花咲く時もある。娘はたちまち恋の虜となり、今日の佳き日を迎えました」
おおぉっ、と広がるどよめきの声。今時これはないだろう、というベタベタっぷりがウケてるようです。
「泣くに泣けぬのは花嫁の父。借金のカタに手放す娘が、今は爺に首ったけ。爺憎しの涙こらえて娘に腕を貸し、入場せねばならないのですが…。まずは新郎の登場です!」
プールの中でイルカが一斉に高いジャンプを決めました。上がった飛沫が落ちてゆく中、ステージの中央に進み出たのは…。
「「「ゼル先生!!?」」」
白いタキシードで決めているのはD組担任のゼル先生。か、会長さんじゃないんですか!?
「続きましては、花嫁の登場でございます。皆様、盛大な拍手でお迎え下さい!!」
イルカのジャンプを合図に大きな拍手が起こります。ヒヒ爺役がゼル先生なら、花嫁の役はいったい誰が?それに花嫁の父親役は…?

「「「わははははは!!!」」」
ステージの端に現れた甲斐性無しの父と花嫁。父の姿を目にした途端、誰もが笑い出しました。黒いタキシードで憮然とした顔の父親役は教頭先生だったのです。そういえば付き添いの先生の中に教頭先生も混じっていましたっけ。腕を預ける花嫁の顔はベールに隠れて見えません。新郎が待つ方へと進む姿に「誰?」という声が飛び交います。けれど私たち7人は…。
「…あのドレス。もしかしなくてもアレだよね…」
ジョミー君の言葉を待つまでもなく、そのドレスには嫌というほど見覚えが。真珠の刺繍に細かいレース、長いトレーンの清楚で真っ白なウェディング・ドレスは去年の親睦ダンスパーティーでゲットして以来、会長さんのものなのです。背丈よりも長いベールと真珠のティアラの、あの花嫁はどう見ても…。
『…ブルーだな…』
キース君の思念に無言で頷く私たち。会長さんったら、よりにもよって教頭先生にエスコートさせてゼル先生と挙式しようって魂胆ですか!…教頭先生の落胆ぶりはお芝居ではなく本物なのです。ゼル先生がニコニコ顔で会長さんのエスコート権を奪った所で、司会の声が。
「さて本当の結婚式なら、花嫁の顔はまだまだご披露できないのですが、今日のはショーでございます。ここで花嫁をご紹介いたしましょう。…シャングリラ学園生徒会長、ブルーさんです!!」
「「「えぇぇっ!?」」」
どよめきの中で花嫁が自らベールを上げると、それは紛れもなく会長さんで。
「いやーん、似合いすぎーっっっ!!!」
女の子たちがキャアキャア騒ぎ、男の子たちは爆笑です。ベタベタ設定のお芝居だけに、花嫁役がミスキャストだと笑いは取れないものですが…『女装の花嫁』は見事にツボにはまったみたい。どこまでショーをやってくれるのか、みんなワクワクしています。ゼル先生と会長さんが祭壇へ向かう間は指笛を鳴らす人たちも…。司祭さんの前で交わされた誓いの言葉は、笑い声の渦に飲まれてロクに聞こえない有様でした。
「続いて指輪の交換です。シャングリラ学園のマスコット、そるじゃぁ・ぶるぅ君がお手伝いをしてくれます!」
「かみお~ん!」
プールの中からイルカと一緒に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び出しました。イルカに押し上げて貰ったのでしょう。クルクルと宙返りしてステージに降り立った姿はマント無し。白と銀に黒いアンダーの服は、挙式ステージでも浮いていません。両手にしっかり持っているのはリングを乗せたクッションでした。ゼル先生と会長さんは指輪を互いの薬指に嵌め、それに続くのは誓いのキス。二人の顔が近づいて…。
「「「いやーっ!!!」」」
女の子たちの悲鳴が上がりましたが、キスは寸止めに終わりました。ゼル先生と会長さんが笑顔で手を振り、司会の人が。
「それではイルカ君たちに祝福の歌を歌ってもらいましょう。歌の後はお馴染み、イルカショーです!」
ゼル先生が会長さんと腕を組んでプールの前に進むと、トレーナーさんの合図で浮かび上がったイルカが揃ってキューキュー声を上げます。歌い終わった所で「そるじゃぁ・ぶるぅ」がプールに飛び込んで…始まったのはショータイム。トレーナーさんの代わりに「そるじゃぁ・ぶるぅ」がイルカたちをリードし、一緒に泳いでいました。
「…イルカと仲良くなってる筈だぜ」
「良かったねえ、サム。フィシスさんとの式じゃなくって」
歓声の中でもジョミー君たちの会話がちゃんと聞こえるのはサイオンを持っているおかげでしょうか。キース君がクッと笑って。
「いいのか、サム?…ゼル先生との結婚式だぞ。ブルーは嫁に行ったようだが」
「ん~…。フィシスさんかも、って思った時は絶望したけど、ゼル先生なら構わないなぁ。お芝居なんだし」
ブルーが楽しんでいるならそれでいいんだ、とサム君は会長さんの花嫁姿をケータイで撮影しています。それに比べて教頭先生ときたら、まさに花嫁の父でした。ショーが終わって会長さんとゼル先生が意気揚々と引き揚げる後にトボトボと続く姿は、娘をまんまと奪い去られた甲斐性無しにしか見えません。大歓声に応えてイルカと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が再びジャンプし、特別ショーは賑やかに幕を閉じました。

それから集合時間までは自由行動。私たちはスタジアムの出口で会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」を待ったのですが…。
「ごめん、ごめん。遅くなっちゃった」
制服に着替えた会長さんが戻ってきたのは半時間以上経ってからでした。
「まりぃ先生が控え室に押しかけて来たんだよ。花嫁姿をスケッチさせてほしい、って」
ドレスは肩が凝るから疲れちゃった、と苦笑している会長さん。そういえばブーケはどうなったのかな?
「ああ、あれ?…押し花にしてもらうんだ。額に入れて飾っておくつもり」
「「「何処に!?」」」
「ぼくの家。今日の記念写真と並べておけば、嫌でもハーレイの目に入るだろう?…出張エステを頼む度にさ」
うふふ、と笑う会長さんの左手の薬指には銀色の指輪が光っていました。
「特別プランに出て欲しい、って頼みに行ったらハーレイは凄く喜んだんだ。父親役と新郎役でゼルと一緒だよ、って言ったのに…説明が足りなかったかな。着替えの時に初めて自分の役が何か気付いて、もう真っ青。おかげで迫真の演技になったし、ぼくは大いに満足だけど」
どう考えてもわざとだろう、と心で突っ込む私たち。教頭先生、今夜はショックで眠れないかも…。お芝居とはいえ、花嫁姿の会長さんを自分の腕から掻っ攫われてしまったのですから。それも同僚のゼル先生に。
「指輪は本物じゃないんだよね?」
ジョミー君が訊くと、会長さんは「うん」とニッコリ微笑んで。
「そこまで悪乗りはしてないさ。でも、日付とイニシャルは入ってるんだ」
「「「えぇぇっ!?」」」
「ふふ、君たちも騙された。…さっきハーレイも騙したんだよ。たかがオモチャの指輪だけれど、日付とイニシャル入りだと聞いたら当分再起不能かな。本当はただのお土産なのに」
会長さんが外して見せてくれた指輪の内側には水族館の名前が入っていました。教頭先生はそうとも知らず、マリッジリングもどきと思っているわけです。会長さんとゼル先生がそれを交換しちゃったなんて、かなり衝撃が大きいのでは…。
「まあ、エステに呼んだらバレるけどね。指輪は外さなくちゃいけないんだし、ちゃんと渡して見せてあげるよ。記念写真とブーケの額も、完成したら自慢しようっと」
早く出来上がってこないかな、と待ち遠しげな会長さん。特別プランはやはり教頭先生をからかうために…?
「ううん、一石二鳥ってヤツさ。ぶるぅをイルカと思う存分、遊ばせてやりたかったのは事実なんだ。それで色々調べていたら挙式プランが案外安くて…。だったらやるしかないじゃないか。ねぇ、ぶるぅ?」
「うん、いっぱい遊べて嬉しかったよ!練習するのに何度も来たし、イルカさんと仲良くなれちゃった。全部ブルーのおかげだね」
無邪気な笑顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。いつも会長さんのために頑張っている「そるじゃぁ・ぶるぅ」への御褒美だったら、特別プランも悪いものではありません。落ち込んでいるらしい教頭先生にはお気の毒ですが、ゼル先生と配役が逆ではプランは通らなかったでしょう。会長さんへの強姦未遂で自宅謹慎の前科があるのに、新郎役なんて無茶ですもの。
「もうすぐ集合時間だよ。バスに戻ろうか」
会長さんの声で私たちはゲートへと歩き始めました。今年の校外学習の華は去年より派手なイルカショー。教頭先生以外の誰もがショーを満喫した筈ですが、それをポケットマネーでやっちゃうなんて、会長さんって凄すぎるかも。ああ見えて実はソルジャーですし、教頭先生の月給よりもお小遣いが多いってことはありそうです。…教頭先生、会長さんにせっせと貢ぎ続けてますけど、報われる日が来るとは思えません。この際、ゼル先生と挙式しちゃった人のことなんか、スッパリ諦め……られないでしょうねぇ。振られ続けて三百余年、教頭先生の胃は大丈夫かな…?




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