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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

気合を入れて・第2話

かるた大会の副賞で教頭先生とゼル先生との力士姿と初っ切りを拝んだ私たち。土俵での攻防戦を楽しんだ後に待ち受けていたのは怒りに燃えたソルジャーでした。相撲に恨みがあるようです。エロドクターに貰った四十八手がどうこうと因縁をつけて来たんですけど、そもそも四十八手って何…? 相撲の決まり手じゃないなんて…。
「君たちが見ていた初っ切りだっけ? あれは反則技の応酬だってね? だったらノルディがくれた四十八手もマトモにやっても意味無いのかな? 反則でないと楽しめないとか?」
ソルジャーが詰め寄った相手は会長さん。四十八手といえば相撲の決まり手だとしか知らない私たちでは話にならないと思ったのでしょう。会長さんはウッと言葉に詰まって目を白黒とさせていましたが…。
「ブルー、ここじゃアレだから奥の部屋へ行こう。十八歳未満お断りの団体様がいるんだからね」
「それが何さ? とっくに十八歳になっているだろ、精神がついていかないだけで。…たまにはキワドイ話も聞かせた方がいいんじゃないかな、まりぃ先生とやらのイラストとレベルは大して変わらないんだし!」
言うなりソルジャーが宙に取り出したのは何かが描かれた極彩色の紙。テーブルの上に広げようとするのを会長さんが必死になって止めにかかります。
「それを出すのはダメだってば! いくらなんでも子供には刺激が強すぎる! ぶるぅだっているんだよ?」
「ぶるぅ? 小さすぎるから分かりゃしないさ、裸の絵だな、って思うだけだよ」
「「「………」」」
ソルジャーが握っている紙に描かれているものが何か、ほぼ想像がつきました。いわゆるエロいイラストでしょう。それがどう四十八手になるのかはイマイチ分かりませんけども…。顔を見合わせている私たちに気付いた会長さんが溜息をついて。
「…あーあ、この子たちにも分かったようだよ、君が持ち込んだのが何なのか。…とにかくそれは片付けたまえ。早い話が、四十八手が上手くいかなかったというわけだね?」
「上手くいかないなんてレベルじゃないよ! ハーレイったら、てんで使えなかった。「喜んで!」としか言えない状況だった時でさえダメだったから、姫初めの方がどうなったかは簡単に想像できるだろ?」
あ。「喜んで!」しか言えなかった時というのは去年の暮れのパーティーでのこと。教頭先生相手にそういう縛りの遊びをしていて、ソルジャーが勝手に時間延長をして…。そこへキャプテンが乱入してきて、「喜んで!」の縛りを引き継いだのです。ソルジャーは四十八手を試しまくると意気込んで帰っていきましたっけ…。
「とにかくハーレイはヘタレなんだ。あれもダメだし、これもダメ。いったいどれならいいと言うんだ、と四十八手が描かれた紙を突き付けたって脂汗を流して「すみません」としか言わないし!」
「それは「喜んで!」の時も同じだったのかい?」
会長さんが恐る恐る口を挟むと、ソルジャーは。
「あっちの方がまだマシだったね。「喜んで!」としか言えないだろう、一応努力はしたようだ。だけど姫初めは逃げ腰でさ…。絶対ハーレイだって楽しめる筈だと思ったんだけど? なんと言ってもノルディのオススメ」
「………。無理があったんじゃないのかな? 四十八手は男同士は想定してないと思うんだ」
ああ、なるほど。これで確信が持てました。ソルジャーがエロドクターから貰ったという紙にはエロチックな絵が描かれていたのに違いありません。四十八手と言うほどですから、恐らく四十八種類くらいの男女のヤツが。…ソルジャーはそれをキャプテンと一緒に再現しようとして失敗したと…。そりゃ怒るわ、と私たちは顔を見合わせたのですが。
「ノルディがそんなヘマをするとでも?」
フン、と鼻を鳴らしたソルジャーはさっきの紙をバッとテーブルに広げました。げげっ、これって男同士の絡み合い? ひいふうみい……確かに四十八組くらいあるような…?
「ブルー!!!」
会長さんが紙を引ったくり、荒っぽく畳んでソルジャーにグイと押しつけて。
「なんてことするのさ! 口で言えば済むことだろう!?」
「ぼくは怒っているんだよ。君たちだけが相撲の世界を楽しんだなんて許せないね。…お詫びに教えて欲しいんだけど、やっぱりこっちの四十八手も反則でないと楽しめないわけ?」
「…男同士は知らないけどさ…」
諦めたように頭を振った会長さんは。
「普通のヤツだと楽しめるよ? ぼくも試したことはあるしね。…ノルディがそれを渡したんなら、ノルディも経験済みだと思う。反則技が必要なことはない筈だ。ぼくが思うに、君のハーレイの努力が足りないだけじゃないかと」
「努力…?」
「そう、努力。それと根性ってところかな。四十八手はなかなかに大胆なヤツが多いからねえ、ヘタレだと実践するのは難しいかも…。褌を締め直してかかるくらいの覚悟が要るかと」
「フンドシ…?」
なんだい、それは? とソルジャーが首を傾げました。通じなかったみたいです。そっか、文化が違うんだっけ…。

会長さんが言いたかった言葉は緊褌一番。意味は「気を引き締め、充分な覚悟をもって事に当たること」だと国語の授業で習いましたが、ソルジャーの世界には褌自体が無いのかな? 四十八手の恨みも吹っ飛んだのか、キョトンとしているソルジャーに向かって会長さんが。
「ほら、ハーレイが泳ぐ時に締めている布があるだろう? あれが褌」
「えっと…。あまり見たことないけど、赤いアレかな? それを締めてると何か違ってくるのかい?」
「モノが布だけに、普通の下着とは違うらしいね。ギュッと締め直すと気合が入ると言われているよ。だから褌を締め直してかかるっていうのはさ…」
緊褌一番という言葉について説明されたソルジャーは「ふうん…」と納得したようで。
「君の言いたいことは分かった。つまりハーレイに足りないモノは褌なんだね?」
「「「は?」」」
なんでそういう流れになるのだ、と誰もが呆れ返りましたが、ソルジャーの方は大真面目でした。
「だって、気合が入るんだろう? だったら褌を締めてかかれば覚悟の方も決まるかと…。こっちの世界じゃそういう時に褌をするんじゃないのかい?」
「えーっと……」
視線を泳がせた会長さんの瞳がキース君の所でピタリと止まって。
「ああ、まあ……そういうこともあるかもね。…キース、伝宗伝戒道場には褌の人がいたんじゃないかい?」
へ? こないだの道場に褌の人が? お坊さんになるための道場なのに…? 何故、と訝しむ私たちを他所に、キース君は「いた」と頷きました。
「褌組はけっこういたな。まさしく緊褌一番ってヤツだ」
「「「???」」」
「それくらいの覚悟で道場に来たという自分に対する決意表明。普段の生活で使う下着じゃないだろう?」
「そういうこと」
会長さんがニッコリ笑って。
「お坊さんの正装は衣だからね、褌を愛用している年配の人も多いんだ。専用の通販カタログもあるよ」
はい、と会長さんが宙に取り出して見せたのは作務衣と足袋の通販カタログ。こんな通販があるんですか…? 仰天している私たちの前に会長さんは次々と…。
「お寺グッズの通販はとても充実してるんだ。これが仏具でこっちが法衣、それから袈裟。仏具だけでも凄い量だろ?」
ドカンと積み上げられた通販カタログは元老寺のアドス和尚の部屋から拝借したのだそうです。私たちは当初の目的も話題も忘れて通販カタログに興味津々。仏像から木魚、本堂の飾りに至るまで買えないものは無さそうで…。
「こっちに梵鐘のページもあるよ。やろうと思えば通販だけでお寺の全てを揃えるのも可能」
会長さんは得々として説明をしてくれました。お寺の本山が多いアルテメシアは仏具のお店も沢山あるので直接お店に行けますけれど、地方ではそうはいきません。蝋燭やお香を買うためだけに遠い街まで出掛けてゆくのも大変ですから通販が発達したのだそうで…。
「最近じゃネットで注文できるお店もあるのさ。お寺専用の会計ソフトとか、戒名の管理ソフトもあるし…。キースも確か使えるんだよね?」
「まあな。だが、俺の家では卒塔婆をプリンターで印刷するような真似はしないぞ。ちゃんと手書きだ」
手が足りない時はバイトを頼むし、とキース君。そっか、最近では卒塔婆の文字までプリンターですか…。会長さんが出してくれたカタログの中に専用プリンターが載っています。プリンターの下に専用レールみたいなのがあって、そこに卒塔婆を乗っけるみたい。ちょっとした卒塔婆印刷工場? 通販カタログ、面白過ぎ~! ソルジャーもあれこれとページをめくっていましたが…。

「あ、そうだ。お寺もいいけど、褌のカタログってどれだっけ?」
「これだよ。ほら、こんな感じで」
「「「!!!」」」
会長さんが広げた作務衣と足袋のカタログの末尾の方に存在していた褌のページ。筋肉がしっかりついたモデルさんが仁王立ちのポーズでデカデカと写り、『男は黙って越中ふんどし!』の謳い文句が入っていたり…。
「…ハーレイのヤツとは違うみたいだけど?」
「あれは六尺。こっちだね」
会長さんがパラパラとページを繰ってゆきます。なんとまあ、褌だけでも種類が沢山あるようで…。ソルジャーは「異文化はよく分からない」と混乱しつつも、褌が重要なアイテムだというのはしっかり把握したみたいです。えっ、どうしてそれが分かるのかって? だって…。
「お勧めはやっぱり六尺なのかい?」
越中じゃなくて、と言うソルジャーに会長さんが。
「ハーレイは六尺を愛用してるね。水泳にしか使わないっていうのもあるけど、やっぱり締めたって感じがするのは六尺じゃないかと思うんだ」
なんと言っても布一本、と会長さんに聞かされたソルジャーは…。
「じゃあ、これ。六尺ってヤツを買いたいんだけど、通販、お願い出来るかな? お金はもちろんぼくが出すから」
「どうする気なのさ?」
「ハーレイに締めさせて気合を入れて貰うんだ。届いたら連絡よろしく頼むよ、また取りに来る」
ひぃぃっ! またソルジャーが来るんですって? 通販じゃなくてデパートとかには無いのでしょうか? と、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がソルジャーのマントを引っ張って。
「これならデパートで売ってるよ? 言わないと出してもらえないけど…。一緒に行く?」
「えっ、買えるのかい?」
「うん! ぼく、ハーレイの紅白縞を買いに行くから知ってるんだよ」
エヘンと胸を張った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は次の瞬間、ソルジャーに拉致されてしまっていました。行き先は恐らくデパートです。褌を買えば四十八手とやらが上手くいくのかどうかはともかく、ソルジャーがお帰りになったというのは喜ぶべきことで…。
「えっと…。ぶるぅは大丈夫かなぁ?」
ジョミー君が首を捻っています。会長さんはクスクス笑いながら。
「ぶるぅなら心配無用だよ。楽しそうに下着売り場に向かっているさ。役に立てるのが嬉しいんだろうね」
会長さんが思念波で伝えてくれた映像の中では「そるじゃぁ・ぶるぅ」が踊るような足取りで跳ねていました。後ろに続くのはサイオンで服装を誤魔化しているソルジャーです。会長さんの私服っぽく見える姿ですけど、会長さんは特に気にしていない風で…。
「ぼくが褌を買ったところで誰にバレるってわけでもないし…。あれでブルーが満足するならいいんだよ。これで暫く静かになるさ」
あっちのハーレイのヘタレが褌を締めて直るといいね、と会長さん。そんな簡単なモノではないとは思いますけど、今日の所は逃げ切れたかな…?

デパートに行ったソルジャーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に案内されて六尺褌を買って帰ったそうです。色々な柄があったらしいのですが、ソルジャーのチョイスは生成りとのこと。締め方を描いた紙もつけて貰ってのお買い上げですから、当分はヘタレ直しに燃えている筈で…。そんな話が交わされてから数日経って始まったのは入試の準備期間でした。
「ごめんね、おやつ作れなくって…」
忙しくなるから、と謝る「そるじゃぁ・ぶるぅ」の前にはズラリ並んだ天然石のビーズ。このビーズに必勝パワーのこもった右手の赤い手形を押して、合格ストラップに仕上げるのです。私たちに手伝えることは何も無いので、いつもの手作りおやつの代わりに市販のケーキを頬張りながら見物するだけ。
「よいしょっと」
ペタン! と押された赤い手形はビーズに吸い込まれてすぐ見えなくなり、次のビーズにまたペタン! 会長さんはフィシスさんとリオさんを呼んで今年の戦略を練っています。『パンドラの箱』の名前で売り出すクーラーボックスを何個にするか、とか、ストラップの値段を値上げすべきか据え置くべきか…など。
「そろそろ値上げしてもいいんじゃないかと思うんだ。長いこと据え置きだったしねえ…。その間に世間じゃ風水グッズの値段がウナギ上りになってるし」
データを示す会長さんは珍しく仕事をしています。いつもだったら生徒会の仕事はフィシスさんとリオさんに丸投げなのに、入試の時だけはまるで別人。合格グッズの販売にも自ら出てゆきますし、よほどこの期間が好きなのでしょう。そして今年も私たちは…。
「ダメダメ、販売員には使えないよ」
手伝いを申し出たキース君は会長さんにアッサリ断られました。
「例年、フィシスとリオとぼくだけでやっているんだからね。…フィシスたちが来る前はどうだったかって? ぼくが一人で細々と…。その頃はパンドラの箱もストラップも扱っていなかったんだ」
売っていたのは試験問題の写しだけ、と微笑んでいる会長さん。
「ハーレイが手書きで作成していた時代もあった。もちろん部数が限られるから高価でねえ…。それでもちゃんと売れたって所が凄いだろう? え、ぼくが自分で写さないのかって? 嫌だよ、そんな面倒なこと」
手が疲れる、と大袈裟に肩を竦める会長さん。要するに教頭先生は遙か昔から試験問題を漏洩していたようです。対価は今も昔も変わらないそうで、つまりは例の耳掃除…? えっと、もうフィシスさんとリオさんは部屋にいませんから聞いてもいいかな…?
「耳掃除のことならフィシスは知ってるよ? もちろんリオも」
ハーレイがぼくに惚れているのはバレバレだから、と会長さんはウインクしました。
「二人とも現場は見たことないけど、交換条件がそれだというのは言ってある。ついでにぼくの娯楽だともね。嫌々やってるわけじゃないし」
「「「………」」」
あの耳掃除は会長さんの娯楽でしたか! 決して報われない教頭先生への年に一度のサービスデーだと思っていたのに…。頭を抱える私たちに、会長さんは。
「そんなの決まっているじゃないか。なんでハーレイにサービスしなくちゃいけないんだい? あの耳掃除で舞い上がっちゃうのが楽しいんだよ。来年こそは…、と決意を新たにするハーレイを見るのが面白くてねえ」
進展するわけないのにさ、と鼻で笑う会長さんはまさしく鬼。今年はいったい何を仕掛けるというのやら…。
「え? 今年は特に予定は無いよ? たまには普通に耳掃除だけって年にするのもいいだろう? 幸い、ブルーも出て来ないしさ」
そういえば去年も一昨年もソルジャーが教頭室について来たのです。一昨年は見学していただけでしたけど、去年は途中から乱入したので話がおかしな方向へ。試験問題のコピーは無事にゲット出来たのですが、バレンタインデーに向けての妙な約束を勝手に交わされてしまったという…。
「ブルーはあれからこっちに来ないし、多分、あっちのハーレイのヘタレ直しに夢中だと思う。鬼の居ぬ間になんとやら…ってね。このままブルーが出て来ないようにと祈ってて」
「「「はーい!」」」
祈って通じる相手ではないと分かってはいます。けれどやっぱり神頼み! 今年の試験問題ゲットにも私たちは付き合わされるのでしょうし、平和が一番いいんですから…。

シャングリラ学園の入試が迫ると先生方も超多忙。そんな中、先生方のお楽しみといえば賭博でした。試験問題が流出するか否かを賭けるというのがド顰蹙ですが、三百年以上も在籍している生徒会長やら、それを教える先生方がズラリと揃う学園ならではの行事かも?
「今年も懲りずにやってるよ。例によってハーレイは蚊帳の外だけど」
クスクスクス…と笑いを漏らす会長さん。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋でのんびり放課後を過ごしています。会長さんがゼル先生の引き出しから拝借したという賭けの表には先生方の予想と賭け金の額が書き込まれていて、どうやら今年はブラウ先生が大穴狙い…?
「毎年流出してるからねえ、しない方にこれだけの額を賭けるというのは大勝負だ。ブラウには悪いけど、今年も問題は流出させて貰おうかな」
賭けの表を瞬間移動でゼル先生の机に返した会長さんはゆっくりとソファから立ち上がりました。
「ハーレイの所に試験問題が揃ったようだよ。ブルーも来ないし、今日は絶好の試験問題入手日和! 君たちも見学しにおいで。…長年お供について来たんだ、君たちがいないと張り合いがない」
「張り合いって…。おい、俺たちは何なんだ?」
キース君の問いに、会長さんは。
「もちろんギャラリー。最近、ブルーのせいで色々と調子が狂いっぱなしだったしさ…。ギャラリーを連れてお出掛けするのは久しぶりかな? ぶるぅ、頼むよ」
「オッケー! シールドしとけばいいんだよね?」
パァァッと青い光が溢れて、私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のシールドの中。会長さんが大好きな『見えないギャラリー』というヤツです。ソルジャー抜きでのこういうパターンは本当に久しぶりでした。耳掃除の見学くらいだったら特に問題ありませんから、付き合う方も気楽なもの。会長さんの後ろに続いて教頭室へと行列して…。
「失礼します」
会長さんが教頭室の扉をノックし、スルリと滑り込みました。私たちも一緒ですけど、教頭先生は気付いていません。会長さんの顔を見るなり、嬉しそうな笑みを浮かべて…。
「来たのか。…お前一人だけか?」
「決まってるだろう? 試験問題のコピーを貰うには条件が…ね。あんな姿を他の連中には見られたくないさ」
「…去年はブルーが来ていたようだが?」
「今年はいないよ。ブルーはぼくも遠慮したいし。…そんなことより、ほら、早く」
でないとぼくの気が変わるよ、と仮眠室に続く扉を開ける会長さん。教頭先生はいそいそと仮眠室に入り、会長さんが大きなベッドの上に座って右手に竹の耳かきを…。それから後は毎年お馴染みの光景でした。会長さんの膝枕で耳掃除をして貰う教頭先生は幸せそうで、傍目にはとてもお似合いです。
『何処がお似合いなんだって?』
会長さんの思念にビクンと首を竦めたのは私だけではありませんでした。シールドの中でバツが悪そうな顔をしているのはサム君と「そるじゃぁ・ぶるぅ」を除いた全員。会長さんと公認カップルを名乗るサム君がお似合いだなんて思うわけがなく、小さな子供の「そるじゃぁ・ぶるぅ」もおんなじで…。なんだ、やっぱりお似合いなんじゃないですか!
『だ・か・ら! 似合ってるわけないだろう? ハーレイが一人でデレデレしてるだけだよ』
教頭先生には届かない思念を送って寄越す会長さん。耳掃除が終わると教頭先生は会長さんをギュッと抱き締め、温もりを暫く味わってから。
「…ありがとう、ブルー。これが契約だと分かってはいても…嬉しいものだな。いつかはお前に嫁に来て欲しいが、今も気持ちは変わらないのか?」
「生憎、そっちの趣味は無くてね。このサービスが精一杯さ」
「……そうか……」
残念だ、と身体を離した教頭先生は仮眠室を出て、教頭室の金庫の中から書類袋を取り出しました。
「今年の試験問題だ。好きなだけコピーするといい」
「ありがとう、ハーレイ。また来年もよろしく頼むよ、期待してるから。…これはサービス」
会長さんが伸び上がり、教頭先生の首に腕を絡めて頬に軽いキス。教頭先生はたちまち耳まで真っ赤になってしまい、会長さんが可笑しそうに。
「ふふ、耳かきの後には抱き締められても、キスの不意打ちには弱いんだ? 実はちょっぴり心配だったりしたんだけどねえ、赤いパンツだって言われたりしたらどうしようかと」
「………!!!」
今度こそ教頭先生は鼻血が出そうな顔でした。赤いパンツとは会長さんが闇鍋で八百長を頼んだ御礼にプレゼントした赤いトランクス。それは究極の勝負パンツで、会長さんを落とす自信がついたら履くヤツで…。
「やっぱりまだまだ履けないよね? 赤パンツなんて…って、………ハーレイ?」
教頭先生がカチャカチャとベルトを外しています。まさか、ズボンの下には赤パンツ? 覚悟の程を披露しようと脱ぎにかかっていたりして…?
「ちょ、ちょっと、ハーレイ…! もしかして赤いパンツを履いてきたとか…? ぼ、ぼくは試験問題を貰いに来ただけで……今日は全然心の準備が…!」
会長さんの悲鳴などお構いなしに教頭先生はジッパーを下げ、会長さんの絶叫が響き渡りました。
「だ、誰か…! ち、ち、痴漢が~っ!!」
もしかしてこれってヤバイんでしょうか? 会長さん、完全にパニクっちゃってる…?

恐慌状態に陥った会長さんは「逃げる」という選択肢が思い浮かばないようでした。ヘタレの筈の教頭先生が実力行使に及ぶだなんて私たちでもビックリですし、会長さんがパニックなのも無理ないですけど…。でも、さっきまで真っ赤になってた教頭先生がいきなりズボンを下ろすだなんて…って、あれ? 赤パンツじゃない…?
「…なんだ、話が違うじゃないか」
教頭室の空気が揺れて、紫のマントのソルジャーが姿を現しました。
「いつもどおりの紅白縞とは残念だね。こういう時には褌なんだと思ったけどな。…せっかく劇的に演出したのに、脱がせたら普通のトランクスかぁ…」
「「ブルー!?」」
教頭先生と会長さんの声が重なり、ソルジャーがクッと喉を鳴らして。
「ハーレイにズボンを脱ぐような度胸があるわけないだろ、ぼくがサイオンで操っただけさ。…というわけで、もう履いていいよ。ベルトもきちんと元通りにね」
アタフタとジッパーを上げ、ベルトを締める教頭先生。会長さんは試験問題が入った書類袋をしっかりと抱え直してソルジャーの方に向き直ると。
「急に出てきてどういうつもりさ!? 褌がいったいどうしたって?」
「君が教えてくれたんじゃないか。緊褌一番って言葉をね」
だから確かめに来てみたのだ、とソルジャーは悪びれもせずに言い放ちました。
「耳掃除をして貰う時のハーレイは一番度胸が据わっているみたいだし、やっぱり秘密は褌かなぁ…って。でも褌じゃなかったのか…。もしかして褌を締めたらもっとパワーが出たりするとか?」
あちゃ~…。ソルジャーはまだ褌にこだわってた上、実地調査に来ましたか! 会長さんの顔がサーッと青ざめ、ソルジャーの腕をグイと掴むと。
「ハーレイ、問題は貰っていくからね! 今の騒ぎは忘れておくのが身のためだよ!」
「なんだと? お、おい、ブルー?」
焦りまくっている教頭先生の声を無視して、会長さんは廊下に飛び出してゆきます。私たちも慌てて追いかけるしかありませんでした。教頭先生が赤パンツじゃなかったことはラッキーでしたが、褌のことを綺麗に忘れてくれるでしょうか? それよりもソルジャーが何しに来たのか、そっちの方が心配です~!



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