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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

汚れなき悪戯・第2話

ソルジャーとキャプテンの大人の時間を覗き見した上、せっせと内容をメモした「ぶるぅ」。メモの存在がソルジャーにバレて、ソルジャーがそれを『キャプテン・ハーレイ房中日誌』なんていう立派な記録に仕立て上げて…。ソルジャーは記録を生かして大人の時間の脱マンネリを目指したらしいのですが、結果はなんとも悲惨な事に。
「ぶるぅだけ置き去りにされてもねえ…」
会長さんが額を押さえ、「ぶるぅ」はポロポロ涙を零しながら。
「帰れないよう…。あっちの世界に飛ぼうとしたけど、ブルーがシールドしちゃってる…。ひょっとして、このまま捨てられちゃうの? ブルー、迎えに来てくれないの? うわぁぁ~ん!」
おんおんと泣き出した「ぶるぅ」をキース君が慌てて引き寄せました。
「おい、落ち着け! あいつは捨てるとは言ってなかったし、預かってくれと頼まれただけで…」
「でもでも、いつまでって約束しなかったもん! 捨てる気で置いて行ったんだもん! うわ~ん!」
泣き声は止まらず、キース君は「そるじゃぁ・ぶるぅ」に視線を向けて。
「木の実のタルトはまだあるか? それとミルクだ、ホットで頼む!」
「オッケー!」
キッチンに走った「そるじゃぁ・ぶるぅ」がタルトの残り全部とホットミルクをテーブルに置き、キース君は「ぶるぅ」にミルクのカップを差し出すと。
「ほら、飲むんだ。お前の好きなお菓子もあるぞ」
「大食い禁止って言われたもん! 食べたらホントに捨てられちゃうもん!」
「俺が食ったと言っといてやる。だから食え! 食えば少しは気持ちが落ち着く」
「ホント? ホントにぼくが食べたんじゃないって言ってくれる?」
「ああ。男の約束だ」
キース君が言い切った途端に「ぶるぅ」はミルクのカップを掴んで一気にゴクリと飲み干してしまい、タルトの残りが乗っかったお皿を両手でエイッと傾けて……ペロリ! いつ見ても驚きの一口食いです。残りと言っても六人前は優にあったと思うのですが…。
「どうだ、落ち着いたか?」
キース君に髪をクシャリと撫でられ、「ぶるぅ」はコクンと頷きました。
「ちょっとお腹が落ち着いたみたい…。何処に食べたか、味がどうかも分かんないけど」
「まだ足りないというわけか…。ぶるぅ、悪いが何か作ってやってくれ。ボリュームがあって美味そうな匂いのするヤツを」
「うん! じゃあ、急いで焼きそば作ってくるね」
キッチンからソースの香ばしい匂いが漂い始め、「ぶるぅ」が喉を鳴らします。食いしん坊な「ぶるぅ」の胃袋は焼きそばの匂いに鷲掴みにされたようでした。もちろん頭の中身の方も。だって泣いてはいませんもの。大皿に盛られた焼きそばが出来上がってくると「ぶるぅ」は早速ガツガツと食べ、お代わりもどんどん平らげて…。
「ごちそうさまぁ~! 美味しかったぁ♪」
お腹いっぱい、と幸せそうにソファに転がり、クルンと身体を丸めた「ぶるぅ」はすぐに眠ってしまいました。キース君、凄い! 子供の扱いが上手だなんて今まで全く知りませんでしたよ~!
「ん? これでも坊主を目指してるんだぞ? 心のケアは大切なんだ。施設の慰問やボランティアにも行ってるしな。…こういう時には安心させてやるのが一番! 他のことは気持ちが落ち着いてから。ぶるぅにはまずは食い物だろう?」
それにしてもよく食ったな…、とキース君は苦笑しています。ソルジャーに叱られた時はキース君が食べたことにするそうですけど、木の実のタルトを六人前に焼きそば二十人前ですか…。キース君、大食い選手権にでも出場してみる?

「結局、ぶるぅを預かるわけ?」
ジョミー君がソファで眠りこけている「ぶるぅ」を見遣り、シロエ君が。
「この様子ではそうなるでしょうね…。今まではソルジャーとセットでしたし、たまに一人で来ることがあってもソルジャーのお使いとかでしたし。…シールドがどうのと言ってましたから、ソルジャー、完全にぶるぅを拒絶する気ですよ」
「夫婦仲が上手くいかないからって子供を放り出すのはよくあることだが…」
困ったな、というキース君の呟きに突っ込みを入れたのはサム君です。
「夫婦じゃねえだろ、あいつらって! そりゃあ、パパ・ママ戦争なんかもやってたけどさ」
「だが、似たようなものだろう? 子供を置き去りにするとは最低だな」
「でもさあ…」
ジョミー君が割って入りました。
「子供って言うけど、実の子供じゃないわけでしょ? ぶるぅの卵はプレゼントだったみたいだし」
「だから余計に始末が悪い。実の子供でも少しの間だけ預かってくれと施設に預けて、引き取らないケースも少なくないしな」
「「「………」」」
淡々と語るキース君。私たちの間に重たい空気が流れました。ソルジャーとキャプテンにとって「ぶるぅ」は養子みたいなものです。二人の間が上手くいっていれば可愛がっても貰えるでしょうが、不仲となると…。
「最悪、引き取りに来ない可能性もゼロじゃないかもね」
会長さんがフウと溜息をつきました。
「希望があるとしたら、此処が地球だということくらいかな? ブルーは地球に御執心だし、ぶるぅを預けっぱなしじゃ遊びに来るのは無理だしさ。…もっとも……ノルディがいるから金銭面では困らないのが問題かも」
「子供を放って遊び呆けるというわけか。絵に描いたような育児放棄だな」
見ていられん、とキース君が呻いています。けれどソルジャーならやりかねない、とも誰もが心で思っていました。エロドクターことドクター・ノルディは今やソルジャーのお財布代わり。ちょっと食事に付き合っただけで気前よくお小遣いを渡すらしくて、ソルジャーはそのお金でアヤシイ漢方薬を購入したりしているのです。えっと、なんだったかな……ヌカロクだっけ? そんな効果がある高価な漢方薬を教頭先生に買わせたソルジャーでしたが、その後なんにも言ってこないと安心していたら、実はドクターに貰ったお金でちゃんと買い足していたという…。
「ねえねえ、ぶるぅ、捨てられちゃうの?」
心配だよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が会長さんの袖を引っ張りますけど、解決策は無いようでした。会長さんがソルジャーに思念波を送ろうとしても弾き返されるらしいのです。
「…仕方ないか…。ブルーは一旦思い込んだら後に引かないタイプだし……それで何度も家出してるし、自分が家出をするくらいだから、ぶるぅを放り出すのも平気だろう。あっちのハーレイとの仲が円満解決するまで預かっておくしかないんだろうな」
でないと「ぶるぅ」が路頭に迷う、と会長さん。
「あっちのシャングリラに帰れないんだから、無理にあっちの世界へ帰ろうとしたらミュウを排除する育英都市に行くしかない。子供のぶるぅには危険すぎる。…いくらぶるぅがタイプ・ブルーでもね」
「そうだな。しかも三分間しか力を全開に出来ないときた」
あんたと俺たちで面倒みるか、とキース君が「ぶるぅ」の頭を撫でて。
「俺の家にも部屋は沢山余ってるんだが、こいつじゃなぁ…。親父もおふくろも、こっちの世界のぶるぅのことしか知らないわけだし、中身が全く別物となると誤魔化しても即、バレそうだ。…ブルー、住む場所はあんたが提供してくれ。昼間は俺たちもフォローするから」
この部屋に連れてくればいいだろう、というキース君の意見に私たちも賛成しました。大食漢の「ぶるぅ」は悪戯好きだとも聞いていますが、悪戯にかけてはソルジャーが突出しすぎているのか、「ぶるぅ」が何か悪戯をしたという記憶は私たちにはありません。うん、預かるくらいは大丈夫ですって!
「そうだね、君たちも協力してくれるなら……ぶるぅも可哀想な被害者なんだし、ぼくの家で預かることにしよう。ハーレイに押し付けるっていうのも考えないではなかったけどね」
子供好きだから、と会長さんはペロリと舌を出しています。教頭先生の夢は会長さんと結婚して「そるじゃぁ・ぶるぅ」を自分の子供にすることですから、「ぶるぅ」だって喜んで預かりそうでした。ただし会長さんの頼みなら……ですが。
「ハーレイに借りを作るのは不本意だから、ぼくが面倒を見るのが一番だよね。それじゃ早速明日から協力頼むよ、今日の所はもう連れて帰る」
ぶるぅも疲れているだろうし…、と会長さんが目覚めない「ぶるぅ」を抱き上げました。
「ぶるぅ、後片付けが済んだらすぐ帰って来て。ぼくはぶるぅを寝かせておくから」
「了解~! ぼくの土鍋を貸してあげてね、ゆっくり寝られると思うんだ♪」
ぼくはスペアの方でいいから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。寝床代わりの大きな土鍋を「そるじゃぁ・ぶるぅ」は幾つか持っているのでした。会長さんと「ぶるぅ」の姿が消え失せ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお皿を洗いにキッチンの方へと向かいます。私たちも「さよなら」と挨拶をして部屋を出ました。明日から大変なことにならなきゃいいのですけど、「ぶるぅ」の悪戯って一度も見たことないですし……悪戯しないよう言われてましたし、多分なんとかなりますよね?

翌日、私たちは授業が始まる前に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を覗きに行きました。いつもなら会長さんも「そるじゃぁ・ぶるぅ」もとっくに来ている時間ですけど、人の気配はありません。
「来てないよ?」
どうしたんだろう、とジョミー君。
「サム、今日は朝のお勤めに行く日だったのに断られたって言ってたよね。何かトラブル?」
「それはブルーが昨日電話をかけてきたんだ。ぶるぅを預かる間は朝のお勤めは中止する、って。あっちのブルーが、ぶるぅにお勤めを習うようにって言っただろう? だから試しに仕込んでみるって…。ん? ちょっと待てよ…。朝のお勤めをさせたんだったら、とっくに来ている筈だよな?」
あれは朝早くに始めるんだから、とサム君の顔が青ざめています。
「いつもは始発のバスで行くんだ。お勤めが済んだらブルーと一緒に朝飯を食って、のんびりしてから瞬間移動で一気に此処まで…。それから教室に行けば、みんなが登校してくる時間ってわけ。どうしたんだろう、ブルー? 遅すぎるぜ」
サム君は慌てて携帯を取り出し、会長さんに電話しようとしたのですけど。
『大丈夫。ぼくなら起きてる』
会長さんの思念が私たち全員に届きました。
『だけど、ぶるぅが全然起きないんだよ。あ、もちろんあっちのぶるぅのことだよ、ぼくのぶるぅは元気にしてるさ』
朝ご飯の用意もちゃんと出来てる、と会長さん。
『でもねえ…。ぶるぅがいくら揺すっても起きなくて。具合が悪いとかそんなんじゃなくて、もう少しとか、もうちょっととか、ちゃんと返事はするんだけども』
「「「………」」」
要は寝床から出てこないというだけのようです。心配しちゃって損したかも?
『お腹が空いたら起きるんじゃないかと思ってる。今からぶるぅがお好み焼きを焼くってさ。多分、匂いで起きるだろうから。…昨日のキースを見習ってみるよ』
焼きそば二十人前と同じ要領、と会長さんは食べ物で「ぶるぅ」を釣る気でした。
『目を覚ましたらお勤めをさせて、それから学校に連れて行く。君たちは授業に出てくれていいよ、ホントに困ったら呼ぶからさ』
じゃあね、と思念波がプツリと途切れて、私たちは教室に取って返すことに。
「寝起きが悪くなければいいわね」
スウェナちゃんが言い、マツカ君が。
「…その心配がありましたね…。無理に起こすと大暴れとかがありそうです。まあ、食べ物で釣るんだったら問題ないとは思いますけど…。でも、ぼくの別荘ではちゃんと早起きしてたのに」
「子供っていうのはそうしたもんだ」
キース君が軽く肩を竦めて。
「別荘には遊びに行ってたんだし、早起きすれば楽しいことが沢山待っているだろう? 朝飯も山ほど食えるしな。しかし今は遊びに来ているわけじゃない。素の状態が出てきているか、現状を把握した上で拗ねているかのどちらかだ」
「うわー…。それで寝床から出ないわけ?」
扱いにくそう、とジョミー君が天を仰ぎました。
「これから毎朝、食べ物で釣って起こさなくっちゃいけないんなら大変だよ。ブルー、放っといて学校に来ればいいのにさ。目が覚めたら追いかけてくるだろうし…」
「放置しといて何かあったらどうするんだ」
無責任なことを言うんじゃない、とキース君。
「少々ませた所はあるがな、あいつの中身は子供だぞ? こっちの世界にも詳しくはないし、目を離した隙に一人で外へ出掛けて迷子になるとか、保護されるとか…。そういう事態に陥ってみろ、あいつなら瞬間移動で消えるくらいのことはする」
「「「!!!」」」
それはマズイ、と私たちは硬直状態。見た目は「そるじゃぁ・ぶるぅ」と変わりませんから、サイオンを発動させても不思議パワーで片付けることは可能でしょうけど、目撃者があまりにも多かったりすれば会長さんの責任問題になりそうです。しかも「ぶるぅ」の存在は長老の先生方にも秘密になっているわけで…。
「な? ぶるぅが何かやらかした時は広範囲に被害が及ぶんだ。ブルーもそれが分かっているから慎重に行動してるんだろう。普段のあいつならとっくの昔に叩き起こして、無理やりお勤めに持ち込んでるさ」
「…だよねえ…」
「……そうですよね…」
無理ないかも、とジョミー君やシロエ君たちが頷いています。会長さんは初っ端から苦労する羽目に陥っているようでした。朝食で「ぶるぅ」が釣れたとしても、お勤めさせたり出来るんでしょうか? 私たちの頭の中には山のように積み上げられた空のお皿と満腹になって寝ている「ぶるぅ」が浮かんでいました。放課後にはそんな光景かもよ、と嘆き合いながら教室に向かい、予鈴が鳴って…。どうか何事も起こりませんように~!

授業と終礼が済んで「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に入る時、私たちはドキドキ状態。柔道部三人組も部活を休んでついて来ています。いつもの溜まり場は無事でしょうか?
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
「やあ。今朝はごめんね」
ソファに座っている会長さんと元気一杯の「そるじゃぁ・ぶるぅ」に出迎えられてホッと安心。あれ? 問題の「ぶるぅ」は何処…? もしかしてソルジャーがもう引き取りに来てくれたとか? キョロキョロと部屋中を見回す私たちに会長さんが。
「迎えが来たんだったら大歓迎だけど、あっちからは一切連絡無し! ぶるぅのことはもう諦めた」
「おい、あんたまで育児放棄か?」
置いてきたわけじゃないだろうな、と詰め寄るキース君に、会長さんは「まさか」と奥へ視線を向けて。
「作業部屋の方に籠っているよ。集中するのにいいんだってさ」
「「「は?」」」
「だから、集中。…狩りに夢中になっているんだ」
「「「狩り!?」」」
なんじゃそりゃ、と誰もがポカンと口を開けましたが、狩りの意味はすぐに分かりました。大人気のゲームソフトです。お勤めを教え込もうとした会長さんは早々に匙を投げたのだそうで、代わりにゲーム機とソフトを買って今に至っているというわけ。
「教育上はよろしくないとは思うんだけどね、お勤めも嫌なら料理を習う気にもなれない、やりたいことは特になし…だよ? よくよく聞いたら悪戯をしたいらしいんだ。遊べないなら悪戯したい、と言われてごらんよ。ゲームで大人しくしてくれるなら与えた方が…」
会長さんに連れられて売り場に出掛けた「ぶるぅ」が一番興味を示したソフトを買い与えてあるらしいです。そして「ぶるぅ」は見事にハマって頑張って狩りをしているのだとか。
「とりあえず、今日の所はあれでなんとかなるだろう。昼ご飯もあそこに立て籠ったままで食べていたしね。ただ、この先はどうなるか…。ぶるぅがゲームに飽きてしまう前に迎えが来るよう祈ってて」
「…来そうにないわけ?」
ジョミー君の問いに、会長さんは。
「現時点では絶望的だね。ぼくの力が届く範囲で調べてみたけど、夫婦円満には程遠そうだ。あっちのハーレイは普通のタイプ・グリーンだろう? こっちのハーレイも同じだけどさ、タイプ・グリーンじゃサイオンはとても弱いわけ。タイプ・ブルーがシールドを張って隠れた場合、自力じゃとても探し出せない」
「なんだと?」
聞き咎めたのはキース君です。
「あいつが天岩戸な状態なのか? キャプテンに見つからないよう隠れているとか?」
「違う、違う。ブルーは全然隠れていないよ、その反対。積極的にあっちのハーレイに接触しようとしてるんだけど、ハーレイの腰が引けている。ぶるぅの影に怯えてるんだ。…こっちの世界に追い払った、とブルーが言っても信じてないし!」
置き去りにされた「ぶるぅ」の映像をサイオンで中継されても、キャプテンは信じなかったみたいです。会長さんはハアと溜息を一つ吐き出して。
「ブルーの日頃の行いが悪すぎたからねえ…。ぶるぅを追い払ったと大嘘をついて、覗きを奨励していないという保証は何処にもないだろう? まあ、流石に日数が経てばあっちのハーレイも本当だったと気付くだろうけど。…なにしろ悪戯が起きないんだから」
「悪戯って…。ぶるぅはそんなに派手に悪戯するんですか?」
シロエ君が作業部屋の方を横目で窺いながら尋ね、会長さんが。
「ぼくも確かなことは知らないけれど、あっちのぶるぅの頭の中には食べ物のことと悪戯しか無い、とブルーから聞いたことがある。こっちの世界じゃ何もしないから嘘だと思いたかったんだけどね…。当の本人が悪戯したいと言ってるからにはそうなんだろう」
「「「………」」」
どんな悪戯が炸裂するのか、考えたくもありませんでした。なんと言ってもあのソルジャー……来れば必ずロクなことにならないソルジャーの世界の「ぶるぅ」です。どうあっても悪戯は封じ込めなければ、と私たちは視線を交わしました。置き去りにされてしまった「ぶるぅ」の不満が噴き出さないよう、御機嫌取りを頑張らないと…。

ゲームソフトを貰ったその日、「ぶるぅ」は私たちの前にも姿を見せずに作業部屋の奥でゲーム三昧。おやつも「そるじゃぁ・ぶるぅ」が運んでましたし、私たちは平和に過ごして下校しました。次の日の朝に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を覗くと、会長さんたちは来ておらず…。
「今日もぶるぅが寝坊かな?」
ジョミー君が言うと、シロエ君が。
「徹夜でゲームをやっていたかもしれませんよ? だったら今日も平和ですよね、寝てる間は悪戯も大食いもストップですし」
「それは言えるな」
爆睡してればいいんだが…、とキース君。このまま「ぶるぅ」がゲームと爆睡を繰り返してくれれば全てが丸く収まります。あのゲームはハマってる人が多いですから、きっと「ぶるぅ」も飽きないでしょう。ソルジャーが「ぶるぅ」を迎えに来たら、ゲーム機ごと引き渡してしまえばいいわけで…。
「キャプテンがゲーム機に感謝するかもね」
「いや、そこまではハマらんだろう。あっちに帰れば元通りだと俺は思うぞ」
ジョミー君とキース君の会話を聞きながら教室に行き、授業を受けて、放課後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ行くと、やはり「ぶるぅ」は作業部屋に籠ってゲームに夢中。そんな日が三日ほど続いた週末のこと。
「……駄目だ……」
会長さんがポツリと零しました。お菓子と飲み物を運んでくれる「そるじゃぁ・ぶるぅ」もなんだか元気が無さそうです。二人とも目の下にうっすらとクマがあるような…?
「…寝不足なんだよ、ぶるぅもぼくも」
作業部屋にチラリと視線をやって会長さんが深い溜息。ひょっとして「ぶるぅ」の徹夜ゲームに付き合わされたりしてますか? あのゲームは同好の士が集まって狩りをするのが流行りなんだと聞いてますけど…。
「そうじゃない。ぶるぅは一人でゲームをしてるし、そっちは全然問題ないんだ。ただ…」
「徹夜ゲームが問題になる住環境でもないだろう?」
キース君が問い返しました。
「あんたの家にはゲストルームが沢山あるし、ぶるぅが徹夜でゲームしていても他の部屋は影響ない筈だ」
「…他の部屋なら良かったんだけど…」
「「「えっ?」」」
思わず訊き返す私たちに、会長さんは困り果てた顔で。
「ぶるぅが寝てるのはぼくの部屋だよ。ぼくのぶるぅの土鍋の隣に土鍋を並べて寝てるんだ。ついでに夜中はゲームをしてない」
消灯時間は午前0時、と会長さんは言いました。
「子供の夜更かしは良くないからね。それにゲームをやり続けるのも問題アリだろ? だからきちんと電気を消して寝かすんだけど、その後が…」
「ぶるぅ、イビキが凄いんだよ。前はあんなじゃなかったのに…」
眠そうな顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「イビキだけじゃなくて歯軋りもするし、うるさくて…。あんまり寝た気がしないんだけど、ブルーはもっと大変みたい。そうだよね?」
「…トイレの度に起こされるんだ。一人じゃ怖くて行けないからって一緒について行かされてさ…。あれは絶対、わざとだね。ブルーのお供で泊まった時には一人で行っていたんだし」
ぼくに悪戯してるんだ、と断言している会長さん。
「トイレの中から何度も言ってくるんだよ。…ちゃんと居る? そこに居てる? ってね。ぶるぅはあんなに怖がりじゃない。そのくらいのことはぼくにも分かる。悪戯できない鬱憤が溜まって思い付いたのがトイレ・コールだ」
「「「………」」」
そんな悪戯があるのだろうか、と思いましたが、なんと言っても相手は「ぶるぅ」。頭の中身が食べ物のことと悪戯だけなら、トイレ・コールを考えついても特に不思議ではありません。連日連夜のトイレ・コールにイビキに歯軋り。そりゃあ寝不足にも陥るでしょう。
「トイレ・コールは悪戯だから別に心配していない。だけどイビキと歯軋りは気になる。…日を追って酷くなっているんだ。ストレスで起こすことがあるって言うから、専門家の意見を聞くべきかなぁ…って」
あまり気持ちは進まないけど、と会長さんは憂鬱そうです。専門家ってお医者さん? でも…私たちの仲間を診察できるお医者さんってドクター・ノルディの病院にしかいないのでは…?
「そのとおりさ。…そしてあっちの世界の事情を知っている医者でないと駄目だ。そうなると選択肢は一つしかない。今日にでも連れて行こうと思うんだけども…。予約を入れても構わないかな?」
「「「は?」」」
「予約だってば。ノルディの家の横に建ってる診療所! あそこは一般の人も受け入れてるから、仲間としての特殊な検査とかが必要な時は予約を入れなきゃいけないんだ。幸い、ぼくはそんな事態に陥ったことはないんだけれど……ぶるぅを連れて行くとなったら特殊事情になるだろう? 君たちも来てくれるよね?」
エロドクターの懐に飛び込むことになるんだからさ、と言う会長さんの頼みを断れる人はいませんでした。トイレ・コールはともかくイビキに歯軋り、「ぶるぅ」には専門家の診察が必要です。会長さんは早速エロドクターに電話をかけて…。
「一般の人の診療時間が終わった後で来て下さい、ってさ。夜の八時半。…今日は金曜だし、ぶるぅの診察に付き合ってくれた御礼に泊まって行って」
こうして急遽お泊まり会が決定しました。瞬間移動で家から荷物を運んで貰い、それを会長さんの家に送って準備万端オッケーです。ドクター・ノルディは「ぶるぅ」にどんな診断を下すのでしょうか? 会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の寝不足解消も大切ですけど、ホントは「ぶるぅ」に迎えが来るのが一番なんじゃあ…?



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