シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
教頭先生人魚の特訓秘話は思わぬ方向へ転がりました。練習にはソルジャーが一枚噛んでいたばかりか、イルカショーを企画したのも会長さんとの共同作業だというのです。あまつさえ教頭先生と共に華麗な技を披露した「そるじゃぁ・ぶるぅ」はソルジャーの世界の「ぶるぅ」と一緒に人魚泳法で遊んでいたらしく…『ぶるぅズ』なんて可愛い名前がついていたではありませんか。
「「かみお~ん♪」」
銀色の人魚の尻尾をつけた『ぶるぅズ』の二人は御機嫌でした。私たちは会長さんのマンションから瞬間移動でフィットネスクラブのプールサイドに来ています。週末なのにプールは貸し切り。二人の人魚は会長さんとソルジャーの許可を貰うと高くジャンプして飛び込み用の深いプールにダイブしました。間もなくザバッと水飛沫が上がり、息の合った二人が宙に舞い…。
「うん、ぶるぅズは今日も絶好調だね」
ソルジャーがホイッスルを取り出して鋭く吹くと、二人は次から次へと技を繰り出し始めます。そうかと思えば会長さんがホイッスルを吹き、ソルジャーがプールの上に差し出した輪っかの中を二人がピョーンとくぐったり。
「なるほど…。確かにイルカショーのと同じだな」
キース君が感心したように呟き、会長さんとソルジャーは得意満面。二人の人魚は様々なメニューをこなしまくって散々遊んで、ニコニコ笑顔で上がって来ました。
「楽しかったぁ~!」
「ぶるぅズ、やっぱり最高だよね!」
尻尾でピョンピョン飛び跳ねながら二人の姿はロッカールームの方へと消えて…。
「しばらくは戻ってこないと思うよ。サウナがお気に入りだから」
練習の後のお楽しみ、とソルジャーが笑みを浮かべます。
「ぶるぅズもサウナが好きなんだけど、ハーレイの方も好きだったねえ…。人魚の尻尾から解放されて、ゆったりと過ごす癒しのひととき。心の中は御褒美のことで一杯になって」
特訓の御褒美だったソルジャーのキスはサウナでサッパリした後に一対一で貰っていたのだとか。会長さんと瓜二つのソルジャーだけに、教頭先生、少しはときめいていたようです。しかもソルジャーはキスとセットで「ショーが成功したら本物のブルーがキスするからね」と囁くことを忘れないのですから、キスはほんのり甘かった筈。
「だから飴だって言っていたのさ。…ハーレイの涙ぐましい努力に報いるためには飴が一番! たまに効きすぎて恥ずかしいことになっちゃったけどね」
クスクスクス…と笑うソルジャー。恥ずかしいことって何でしょう? 教頭先生は御褒美を励みに特訓していたと聞きましたけど、御褒美の飴が効き過ぎちゃったらどうして恥ずかしいことに…? 意味が分からず首を傾げる私たちに、ソルジャーはパチンとウインクしてみせて。
「…ぼくは水の中でも平気でいられるって言っただろう? ハーレイの特訓を手伝うためにプールに入る日も多かったんだ。ブルーみたいにプールの外から指導するより、中に入って手とり足とり…いや、足というより尻尾かな? とにかく直接出向いた方が分かり易いってこともあるから」
ソルジャーはプールの中から声や思念波で檄を飛ばしてコーチをやっていたのでした。しかもコーチというだけではなく…。
「ハーレイとサシで向き合ってると、悪戯心が起こるんだよね。真面目な顔を見ている内に、つい、からかってみたくなる。…それで特訓の終わり近くにハーレイの側を泳いでみてさ、こう、唇を近付けて…御褒美を目の前にちらつかせたり」
水中でキスの寸止め、とソルジャーは悪戯っぽい笑みを湛えて一呼吸おいて。
「どう恥ずかしくなるのか、って? ほら、ハーレイはブルーに日頃から夢を見ているからね、一気に妄想が爆発する時があるんだよ。…すると尻尾が外れなくなる」
「「「えっ?」」」
「専用下着かノーパンでないと装着不可な尻尾だろう? ぴったりフィットが売りなんだ。なのに着用しているハーレイの体積が増えてしまったらどうなると思う?」
えっと。体積が増えるって…ひょっとして…? 私たちが頬を赤らめるのと、会長さんがブチ切れたのとは同時でした。
「ブルー!!! 子供相手に何を言うのさ!」
「この程度の話は常識だよ。授業で教わる範囲なんだし、そう目くじらを立てなくっても…」
「授業と実地は違うんだってば!!」
余計なことを、と会長さんは眉を吊り上げましたが…。
「欲情されたくらいのことでガタガタ言ってちゃ悪戯できなくなっちゃうじゃないか。いつも色々やってるくせに」
ねえ? と同意を求めてくるソルジャー。会長さんがやらかしてきた悪戯の中にはアヤシイものも数知れず。教頭先生が鼻血を噴かされたのも一度や二度ではないわけで…。私たちの沈黙を肯定と取ったソルジャーは満足そうに微笑みました。
「ブルー、この子たちはちゃんと分かっているよ。…つまりね、人魚の尻尾はハーレイの体積が増えるとサイズがきつくなっちゃうのさ。するとファスナーが外れなくなって、欲情してるのが丸わかりってこと」
「「「………」」」
それはとっても恥ずかしそうです。教頭先生、何度その目に遭ったのでしょう? コーチ役のソルジャーが仕掛け人だけに、片手の指では足りないんでしょうね…。
ぶるぅズの二人がいつもの服に着替えて帰ってきてから、私たちは再び瞬間移動。会長さんのマンションに戻って夕食ですが、メインはマグロのガーリックステーキ。ニンニクと溶き卵の美味しいスープもありました。でも…このメインディッシュはどう見ても…。
「そう、人魚姫絵本の王子様さ」
マグロだしね、と会長さんが優雅にナイフで切り分けています。
「ハーレイ人魚の特訓秘話の打ち上げにもってこいだろう? ブルーがコーチをしていたことも話したんだし、みんな満足してくれたかな?」
「うーん…。一応はね」
やっぱりちょっと物足りない、とジョミー君が頬を膨らませました。
「教頭先生が特訓している所も一回くらいは見てみたかったよ。…水族館でやってたショーは誰でも見られたんだもの」
「馬鹿!」
横から飛んだのはキース君の声。
「ブルーの話をきちんと聞いていたのか、ジョミー? 特訓のコーチはブルーだけではなかったんだぞ!」
「そうだよ、ジョミー。ぼく一人で特訓していたんなら喜んで呼んであげたけど…」
余計な誰かが降って湧いたし…、と会長さんも残念そうです。教頭先生の人魚の尻尾を外れなくしてしまうようなソルジャーがウロウロしていたのでは危険極まりありません。他にも何か悪戯してたかもしれないですし…。
「してないよ? ぼくがしたのはキスだけだってば」
やりすぎるとブルーが怒るしね、とソルジャーが肩を竦めてみせました。
「特訓一回につき御褒美のキスを一回プレゼント。それと水族館でショーを終えた後に濃厚なキスを贈ったけれど…ブルーじゃないって分かってたくせにハーレイの尻尾は外れなくなった。…妄想が現実を凌駕したのさ」
人魚の尻尾が取れなくなった教頭先生、水族館の控え室でとっても苦労したのだそうです。ソルジャーが「尻尾を外すのを手伝ってあげる」と親切ぶってあれこれ触りまくったせいで、尻尾は余計にきつくなってしまい…。要するに苛めというヤツです。
「苛めてない! ハーレイが喜びそうな場所を軽くなぞってあげたんじゃないか。サービス精神と言ってほしいな」
「だけど半時間も外れなかったよね、あの尻尾。別にいいけどさ…。ぼくはその場にいたわけじゃないし、スケベ心をくすぐられた方が悪いわけだし」
ハーレイの自業自得、と会長さんも冷たい顔。人魚ショーの裏では私たちの知らない悲劇が色々と起こっていたのでした。それに比べてさっき見てきた『ぶるぅズ』の方は元気一杯、無邪気な笑顔。同じ人魚でも雲泥の差です。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」の技を褒め、照れる二人に質問三昧。
「サイオンを使わないとジャンプは無理?」
「輪くぐり、最初は難しかった?」
などなど、人魚泳法に関する話をしながら楽しく過ごしていたのですけど…。
「ぶるぅズばっかり人気なんだ?」
つまらないや、とソルジャーが一気飲みしたのはサングリア。フルーツがたっぷり漬かった飲み物で私たちの分はソーダとオレンジジュース入り、ソルジャーと会長さんのは赤ワインがメインになっています。ソルジャーは自分のグラスに更にラム酒を加えていたり…。お酒に強いソルジャーとはいえ、いい気分にはなっている様子。
「どうしてみんなぶるぅズなのさ! ハーレイだって見応えあったと思うんだけどな」
「…それはそうだが…」
ベクトルが、と生真面目に答えるキース君。
「教頭先生の方は何と言うか…。技は確かに見事なんだが、見ていて気の毒になってくるんだ。痛々しい感じがどうしても…。その点、ぶるぅズは子供だけあって微笑ましい。頑張ってるな、と素直に応援してやれる」
「……ふうん? 努力はハーレイの方が倍以上やっていたんだけどねえ…。外見で損をしているのかな? 正当な評価を得られないとは可哀想に。輪くぐりなんかをあの図体でマスターするのは大変だった」
打ち身に青アザ、とソルジャーは練習風景を回想しながら語りました。
「あんなに必死に頑張ったのに、ぶるぅズの方がウケがいいなんて皮肉だよね。もっとハーレイを褒めてあげてもいいのにさ」
「しかし…」
見た目の違いはどうしようもないだろう、とキース君が返し、私たちも頷きます。可愛さでいけば断然『ぶるぅズ』。いくら教頭先生の技術が凄くったって容姿はカバーできません。もう一度見るなら『ぶるぅズ』がいい、と全員一致で断言した直後。
「……そうなんだ……」
ソルジャーの声が地を這うような響きになって、そこで一杯、サングリア。景気づけの如く二杯、三杯と飲み干してから打って変って明るい笑顔で…。
「だよね、やっぱりぶるぅズだよね! 可愛くて無邪気で、ぶるぅズ、最高! で、ぶるぅズがいるんだからさ、ここで一発ハーレイズ! ハーレイズも見たいと思わないかい?」
「「「ハーレイズ!?」」」
「うん、ぜひプロデュースしてみたい。どう思う、ブルー?」
ハーレイズだよ、と会長さんに話を振るソルジャー。…ハーレイズって……ぶるぅズがいるからハーレイズって…? どう考えても複数形の響きです。教頭先生は一人だけしかいないんですけど、ハーレイズっていうのは何なんですか~!
サングリアのグラス片手に会長さんに迫るソルジャーはすっかりその気になっていました。頭の中には既にビジョンがあるみたいです。
「やってみようよ、ハーレイズ! 特訓すればきっと出来るさ」
「…ブルー…。念のために確認したいんだけど、ハーレイズって……ぶるぅズのノリでハーレイズかい? もしかしなくてもハーレイが二人…?」
会長さんの声が震えています。ソルジャーは大きく頷き、グラスを高く差し上げて。
「そうに決まっているじゃないか。ぶるぅが二人でぶるぅズだよ? ハーレイズはもちろんハーレイが二人! 君のハーレイとぼくのハーレイがタッグを組めば素敵なショーになりそうだ。…さあ、ハーレイズの栄えある前途に乾杯しよう!」
げげっ。ハーレイズってそういう意味でしたか! 私たちはピキンと固まってしまい、会長さんはオロオロと…。
「ちょ、ちょっと…! ブルー、そんなとんでもないことを勝手に決めちゃ…。ぶるぅ、お冷やを持ってきてあげて。飲み過ぎちゃったらしいから」
「酔ってない! ぼくがこの程度で酔うわけないだろ? 至って正気で思考も冷静、むしろ冴えてる方だと思うな。我ながらいい思い付きだよ、ハーレイズ。ぶるぅズなんかに負けやしないさ、ダイナミックな技が光るし」
なんと言っても体格差がね、とソルジャーはにこやかに笑っています。酔っ払いの戯言なのか、本気でやらせるつもりなのか…。ソルジャーの心は読めません。会長さんも同じらしくて「そるじゃぁ・ぶるぅ」に冷たい水を持ってこさせてみたのですけど。
「要らないってば、そんなもの。それよりもハーレイズの企画を練らなくちゃ! 人魚の尻尾は注文してからどのくらいで出来てくるんだい?」
ソルジャーは聞く耳を持っていませんでした。ハーレイが二人でハーレイズなんて言い出したからには、ソルジャーの世界に住む教頭先生のそっくりさんを引っ張ってくる気なのでしょう。私たちが普段キャプテンと呼んでいる人ですけれど、ソルジャーの恋人だったんじゃあ…? 自分の恋人にお世辞にもカッコイイとは言えない人魚の格好をさせようだなんて、ソルジャー、やっぱり酔ってるのでは…?
「……ブルー……」
会長さんが額を押さえて呻きました。
「君は少し頭を冷やした方がいい。自分でも何を喋っているのか全然分かってないだろう? とにかく今夜はゆっくり休んで、話の続きは明日の朝にでも…」
「失敬だね。これでもぼくはソルジャーだよ? 海賊たちと飲み比べをしても負けた覚えは一度もないんだ。ハーレイズのことなら責任を持って引き受けるさ。要はぼくのハーレイを連れてくればいいってことだろう?」
言うなり青いサイオンが迸りかけるのを会長さんがパシッと止めて。
「だからどうしてそうなるのさ! 君の世界のハーレイに人魚の尻尾をつけようだなんて無茶苦茶だよ。…ハーレイがあの格好をどれだけ情けなく思っていたかは君だってよく知ってるくせに!」
「……だからこそさ」
ソルジャーの赤い瞳が冷たい光を帯びています。唇の端には冷酷な笑み。
「Tバックを履くかノーパンか。それだけでもハーレイは大きなショックを受けるだろうね。その上、装着するのは人魚の尻尾だ。更にショーまでやるとなったら情けないなんてレベルじゃないし、今のハーレイにピッタリ似合いの話なんだよ、ハーレイズ。…ぼくを怒らせると高くつくって思い知らせてやらなくちゃ」
「「「え…?」」」
会長さんだけでなく私たちまでが『?』マークの塊です。ひょっとしてソルジャー、キャプテンと喧嘩の真っ最中とか?
「面と向かって喧嘩中ではないんだけれど…。ハーレイのヘタレっぷりにはつくづく愛想が尽きてきていて、この辺で喝を入れてやらなきゃ気が済まない。口で謝るのは何とでも言える。…ぼくを愛していると言うなら態度で示して貰いたいから」
愛の証にハーレイズ! とソルジャーは拳を握りました。…キャプテン、何かヘマをやらかしましたか? いつぞやのフェイクタトゥー絡みの一件みたいに致命的なミスを犯しましたか…?
「ああ…。タトゥーか、そういうこともあったね」
誰の思考が零れていたのか、ソルジャーはクスクス笑っています。以前、ソルジャーが背中にフェイクタトゥーを描いて貰って帰ったことがありました。描いたのは教頭先生でしたが、描かれた場所が問題で…。要するに大人の時間に役立てるために『感じる場所』とやらに描かせたのです。タトゥーを頼りに頑張ったらしいキャプテン、その絵が消えてしまった途端に肝心の箇所が分からなくなって詰られたという悲惨な事件。
「あの時もハーレイがこっちの世界に転がり込んで来たんだっけ。挙句に土下座で謝って…。どうやらハーレイは謝るためにやって来る傾向があるらしい。この世界との間の時空はぼくが繋いでいるんだけどね。…こういうのをお詫び行脚と言うのかな? 今回ぼくが怒っているのはタトゥーのせいじゃないんだけどさ」
「「「………」」」
タトゥーでなければ何なのだ、と訊けるツワモノはいませんでした。知りたいような、けれど知ってはいけないような…。会長さんも複雑な顔をしています。と、ソルジャーがニヤリと唇の端を吊り上げて。
「…ヒントも実は人魚なんだよ。もっとヒントを付け加えるなら棚の上かな」
「「「棚の上?」」」
見上げた先に置かれていたのは教頭先生人魚の像。他にも趣味のいい置物やフィシスさんの写真なんかが飾られていますが、今の話の流れから言ってヒントというのはあの像でしょう。鈍い金色を放つジルナイトの像がどうしたと…?
「もう忘れた? 物置にノルディ人形も突っ込んである筈だよね。…あの人魚像はブルーが作ったヤツだけれども、ノルディ人形はぼくが作った。そのついでに二つほど人形を作って、こっちの世界でお披露目もして見せたじゃないか」
「「「!!!」」」
全員の目が点になっていたと思います。ソルジャーが作ったジルナイト製の人形は全部で三つ。モデルになったのはドクター・ノルディとソルジャー自身、それにソルジャーの世界に住むキャプテン。あの時、ソルジャーがキャプテンの人形でアヤシイ悪戯をしてましたっけ。悪戯を仕掛けられてしまったキャプテン、青の間のバスルームに駆け込んで孤独に噴火がどうとかこうとか…。
「ふふ、全部思い出してくれたんだ? だったらぼくの人形の方がどうなったかも覚えてる? あっちの方はハーレイが…」
「ブルーっ!!!」
怒鳴り付けたのは会長さん。けれどソルジャーは怯みもせずに…。
「そう、ハーレイがぼくを感じさせるために使ってるのさ、只今絶賛修行中。だけど前にも言っただろう? ヘタレには荷が重すぎる、って。…あれからずいぶん日が経ったのに、ぼくは未だに満足できない。脱・マンネリには程遠いんだ」
フウと溜息を吐き出すソルジャー。
「ハーレイが潔くギブアップするならそれでもいい。…なのにヘタレなせいなんだろうね、謝るばかりで何かと言えば次こそは…だ。次の機会には必ずあなたを満足させてみせますから…って決まり文句は聞き飽きたよ。この辺で一度リセットしなきゃ」
「……聞きたくないけどリセットって何さ?」
会長さんの問いにソルジャーはフンと鼻を鳴らして。
「ハーレイのヘタレが直らないのは分かってる。だからヘタレはヘタレらしく! ヘタレっぷりを極めてくれれば愛も再び芽吹くってものさ。…仕切り直してヘタレな愛を示して貰う」
「……ヘタレな愛……」
なんじゃそりゃ、と考えたのは会長さんも私たちも同じでした。けれどソルジャーは自信満々、ヘタレな愛の仕切り直しに思いを馳せているようで…。
「こんな時こそ身体を張ってヘタレを愛に変えるんだ。ぼくが人魚になれと言ったら人魚になるのが究極の愛。人魚のショーを見たいと言ったら人魚ショー! ハーレイズとして華麗にデビューがハーレイからの謝罪と愛だと考えたって問題ないよね、ぼくとハーレイの仲だから」
是非やろう、とテーブルに身を乗り出すソルジャー。それを聞いていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」も瞳を輝かせて。
「かみお~ん♪ ハーレイも人魚になるの?」
「ぼくたち、もしかして先輩になるの? ぶるぅズの方が先なんだもんね!」
わーい! と歓声を上げて喜ぶ『ぶるぅズ』の二人。これはハーレイズ決定ですか? キャプテン、あちらの世界から引っ張り込まれて人魚泳法の特訓ですか…?
後輩が出来るかもしれないと聞いて『ぶるぅズ』の二人は大興奮。おまけにタイプ・グリーンな教頭先生の人魚ショーには「そるじゃぁ・ぶるぅ」のサイオンの補助が必須でした。タイプ・グリーンはシールド能力に優れてますけど、物の移動には向きません。自分の身体を空中高く舞い上がらせるサイオンは無いに等しいのです。それはソルジャーの世界のキャプテンにも言えることだったらしく…。
「じゃあ、ぼくがハーレイを助けてあげなきゃいけないんだね? だけどとっても面白そう!」
堂々とパパで遊べるよ、と「ぶるぅ」はキャプテンをパパ呼ばわり。
「普段は噛み付いただけで怒られちゃうけど、訓練だったら噛んでもいいかなぁ? 上手くできなきゃお仕置きするって動物のショーでよくあるんでしょ? お腹が空いても餌をあげずに訓練するのがコツだって…」
ライブラリでそんなデータを見たよ、と「ぶるぅ」は胸を張りました。
「今は餌をあげるかどうかで訓練するけど、ずっと昔は失敗したら鞭でぶったりしてたんだよね? 鞭の代わりに噛んじゃおうかな、ハーレイが失敗しちゃったら…」
「うん、いいね」
さも楽しそうに微笑むソルジャー。
「負うた子に教えられて浅瀬を渡る…って言うんだっけ? ぶるぅはハーレイの子供なんだし、遠慮なくビシビシしごくといいよ。こっちのぶるぅは噛み付いたりはしなかったけど」
視線を向けられた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「だって…」と少し困った顔。
「人に噛み付いたらいけないよ、ってブルーに教えられたもん! サムに殴られた時はビックリしちゃって噛んじゃったけど、ぶるぅみたいに噛むのが好きなわけじゃないんだもの。それに……ぼく、まだハーレイの子供じゃないしね。ブルーがハーレイと結婚したらハーレイがパパになるんだよ」
「…へえ?」
それはそれは…とソルジャーは好奇心に輝く瞳で「そるじゃぁ・ぶるぅ」を見詰めました。
「ブルーがハーレイと結婚ねえ…。そしたらパパができるんだ? もしかして…ぶるぅはパパが欲しいのかな?」
「…ううん、パパは欲しいけど要らないよ。ハーレイがパパになってくれたら嬉しいなぁ、って思っちゃうけど、そしたらブルーが困るしね…。ブルーはお嫁さんになりたくないから」
いつもいい子の「そるじゃぁ・ぶるぅ」は教頭先生が大好きです。シャングリラ号で鬼ごっこをして貰うんだ、と嬉しそうに言っていたのを覚えていますし、その後、本当に遊んで貰ったようですし…。教頭先生がパパになったらいいな、と夢見ているのは本当でしょう。なのに会長さんの気持ち優先で自分は我慢。
「なるほど…。将を射んと欲すればまず馬を射よ、というヤツか。…君のハーレイはぶるぅの心をガッチリ掴んでいるらしい。ぼくのハーレイとは大違いだね。あっちは噛まれてばっかりだから」
クスクスクス…とソルジャーは思い出し笑いをしています。
「さてと、そのハーレイを呼ぼうかな? 善は急げと言うからね。ハーレイズを結成するなら早ければ早いほどいいと思うし、人魚の尻尾も誂えないといけないし…。まずは呼び出して採寸かな? 尻尾の注文先はどこだい?」
うわぁぁぁ…。ソルジャー、本気ですよ! キャプテンをここへ引っ張ってきて無理やり採寸するつもりです。誰か止められる人はいないんでしょうか? 会長さんに言われたところで断念するわけないんですから「ぶるぅ」とか? あぁぁ、「ぶるぅ」もワクワクしてます。
「ねえねえ、早くハーレイ呼ぼうよ! 色々教えてあげるんだ。でもってガブッと噛み付いちゃおうっと♪」
「尻尾は噛んでも痛くないから、噛み付くんなら腕がいいかな?」
こうガブリと、と調子に乗って煽るソルジャー。会長さんはソルジャーの大暴走を止められそうもありません。このまま行けば数日の内に人魚の尻尾が注文されて、フィットネスクラブの飛び込み用プールでキャプテンと教頭先生が『ぶるぅズ』を追ってデビューです。誰が呼んだか『ハーレイズ』…って、呼んだのはソルジャーでしたっけ。誰か…誰か、ソルジャーを止めて~!