シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
中間試験の全部の科目で0点を取った会長さん。先生方は何か事情があるのだろうと私たちを呼び出して探りを入れてきましたが…結果は思わぬ方向へ。宇宙クジラことシャングリラ号の長老と呼ばれる4人の先生方は、教頭先生が会長さんに良からぬ振舞いをしたのだろうと結論づけてしまったのでした。会長さんから事情を聴きたい、と仰る先生方の意向を受けて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ向かう途中でシロエ君が。
「あそこに教頭先生がいなかったっていうことは…先生方は教頭先生が怪しいと思っていたんでしょうか?」
「そうだろうな」
頷いたのはキース君です。
「ブルーの動向を訊かれた直後に、教頭先生との間に何か無かったかと訊かれただろう?…その質問を想定していたなら、教頭先生は外しておくしかない。本人の前で本当のことは言いにくいものだ」
「どうしよう。セクハラだって思い込んじゃったよ、先生たち」
ジョミー君が嘆きました。私たちは何も言ってないのに、そういう話になっちゃってます。教頭先生を会長さんの担任から外す案まで出ているのでした。
「それがあいつの狙いだろう。俺たちが呼び出されたのも計算の内って気がするぞ」
恐らく高みの見物中だ、とキース君が指差す先には生徒会室がありました。壁の向こうは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋です。そこには恐らく会長さんが…。
「かみお~ん♪いらっしゃい!」
壁を抜けると「そるじゃぁ・ぶるぅ」がエッグタルトを山盛りにして待っていました。
「先生たちに捕まっちゃったんだよね。ブルーのせいで」
「ぶるぅ、人聞きが悪いじゃないか」
ソファに会長さんが座っています。ティーセットを前にのんびり構えていますが、自分に呼び出しがかかったことを知っているのかいないのか…。
「次はぼくが呼ばれてるんだろ?おやつを食べてからでもいいよね。…気持ちの整理に時間がかかる、ってよくあることだし。ほら、エッグタルト、食べてごらんよ。ぶるぅの自信作、美味しいんだから」
こう言われては逆らえません。私たちがソファに座ると「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお皿と飲み物を配ってくれます。先生方には悪いですけど、会長さんが動かない以上、お茶にするしかないですよね。
「さてと…。どうしようかな、ハーレイのこと」
エッグタルトをフォークでつつく会長さんは見るからに楽しそうでした。
「ゼルが修学旅行の時の話を覚えていたのは最高だった。…今度はどんなのがいいと思う?」
「どんなのって…」
首を傾げる私たちに会長さんはニッコリ笑って。
「教頭室で抱き付かれたとか、無理やりキスをされたとか。…仮眠室に連れ込まれてベッドに押し倒された、っていうのもいいかもね」
「「「!!!」」」
セクハラの内容をでっち上げるつもりらしいです。やっぱり教頭先生を陥れるために無視しまくって、挙句の果てに0点で…教頭先生の古典だけ白紙?
「決まってるじゃないか。…ハーレイに直接仕返しするより、ヒルマンたちを巻き込んだ方が面白いんだ。職員会議で吊るし上げられるハーレイの姿はみんなにも中継してあげるから」
「………。あんた、良心ってヤツは無いのか?」
溜息混じりのキース君。まぁ、良心があったとしても悪戯を優先させそうですけど。
「ハーレイが懲戒免職になりそうだったら、ソルジャーとして撤回させるよ。それでいいだろ?」
それでいいだろ、って…そこまでは放置ということでしょうか。先生方の呼び出しよりもティータイムを優先させようという会長さんです。教頭先生に仕返しするのに先生方を巻き込むくらい、なんとも思っていないのかも…。
エッグタルトを食べている間、会長さんはロクでもない案ばかり練っていました。どれを使ったとしても教頭先生はセクハラ疑惑を免れません。本気でこれを先生方に…?
「みんな食べ終わったみたいだね。じゃあ、そろそろ行こうか」
「「「え?」」」
「生活指導室に行くんだよ。ヒルマンたちが待ってるんだろ?…君たちも一緒に来てくれないと」
ぼくはギャラリーが欲しいんだ、と会長さんは微笑みました。
「ハーレイにされたセクハラについて先生方に打ち明けようっていう重大極まりない場面だよ。大いに楽しんでくれたまえ。…ぶるぅ、シールドを」
「オッケー!!」
「思念波も通さないように頼むよ。ぼくとのコンタクトを除いて…ね。エラたちに絶対バレないように」
「任せといて!ぼくだってタイプ・ブルーだもん♪」
アッという間に私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のシールドの中に入っていました。会長さんの大好きな『見えないギャラリー』というわけです。先生方もこんなオマケがついて来るとは夢にも思っていないでしょう。会長さんは意気揚々と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋から出て…。
「この先は思い詰めた顔をした方がいいかな。なんといっても被害者なんだし」
生徒会室の壁の鏡を眺めて悲しげな表情を作り、私たちを引き連れて生活指導室へと向かいます。見るからに元気の無さそうな顔は、それは見事なものでした。
「…失礼します」
弱々しく生活指導室のドアをノックし、会長さんが中へ入ると先生方が一斉に息を飲みました。
「ブルー…!気分でも悪いのかね?」
「ううん、大丈夫。…みんな、長いこと待たせてごめん」
お茶をしていたなんて誰も思いもしないのでしょう。ヒルマン先生は会長さんを大急ぎで椅子に座らせて。
「顔色があまり良くないな。無理をしてはいけないよ。…ブラウ、飲み物を」
「あいよ。紅茶でいいかい?」
ブラウ先生が出してきた紅茶の缶は会長さんのお気に入りの銘柄でした。私たちには好みも聞かずに緑茶でしたが、今度はカップも高級そう。会長さんがソルジャーであると実感させられる厚遇ぶりです。おまけに美味しいと噂のお店の箱からチーズケーキまで出てきました。
「ぶるぅの腕には敵わないだろうが、ここのケーキは評判でね。話をしながら食べるといい。その方が気持ちが落ち着くだろう」
ヒルマン先生が勧めましたが、会長さんは俯いています。シールドの中で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が羨ましそうに。
「いいなぁ、ブルー。食べないんだったらくれればいいのに」
「馬鹿!一発でバレるだろうが、俺たちが隠れているってことが」
「あ、そうか。…残念…」
キース君に注意された「そるじゃぁ・ぶるぅ」は未練がましくチーズケーキを眺めています。そういえば食べ歩きで舌を鍛えてるんでしたっけ。欲しがるってことは美味しいケーキなんでしょう。会長さんのクスクス笑いと「今度買ってあげるよ」という思念が微かに響いてきました。でも、会長さんは俯いたまま。
「ブルー、黙っていたのでは何も伝わらないよ」
日常生活でサイオンは使っていないのだから、とヒルマン先生が促します。
「…中間試験でわざと0点を取っただろう。私たちの注意を引くためかね?」
コクリと頷く会長さん。先生方は目と目を交わして、ヒルマン先生が続けました。
「これは君の友人たちから聞いたのだが…ハーレイを無視しているそうじゃないか。中間試験の答案用紙もハーレイの古典だけが白紙だった。…ハーレイとの間に何があった?」
「……………」
「言いたくないのはよく分かる。エラも触れない方がいいのでは、と言っているから、無理に訊こうとは思わないがね」
「……ぼくが…迂闊だったんだ…」
会長さんは膝の上で両手を握ると、肩を小さく震わせて。
「……ハーレイの気持ちは知っていたのに、うっかり家に…行っちゃったから…」
「「「家に!?」」」
先生方の声が引っくり返って重なります。会長さんが選択したのはタチの悪い方のシナリオでした。
「…試験より少し前なんだけど、ハーレイが欠勤したって聞いて…。その前の日も早退してたし、ちょっと心配になったんだ。…ハーレイ、滅多に病気しないし…」
それは教頭先生が別世界へ修行に行った日のこと。先生方に何処まで話すつもりでしょうか?会長さんや教頭先生、「そるじゃぁ・ぶるぅ」にそっくりな人たちやシャングリラ号がある世界については、SD体制やミュウの迫害など不安な要素が多すぎるから伏せておきたいというのが会長さんの意向です。もしかして長老の先生方にはこれを機会に話すとか?
「そういや、そんな日があったっけね。鬼の霍乱」
ブラウ先生が言い、ゼル先生が。
「それで見舞いに行ったのか!…ハーレイの家には絶対一人で行っちゃならん、と前から言ってあったじゃろう!」
「…ちゃんと言いつけは守ったよ。ジョミーたちも、ぶるぅも一緒に行った」
だから安心してたんだ、と会長さんは赤い瞳を伏せました。
「……あんなに熱が高いだなんて思わなかった。…熱がある時って、おかしくなっちゃうものなんだね…」
「………まさか………」
引き攣った顔のエラ先生。
「ブルー、無理に話す必要はありません。傷付いてしまうのはあなたです」
「…平気だよ。……最後までされたわけじゃないから」
「「「!!!!!」」」」
飛び上がらんばかりに驚く先生方。シールドの中の私たちだってビックリです。あの言い方では、相当に危ない目に遭わされたとしか聞こえないではありませんか!
「…と……友達が助けてくれたのかね…?」
上ずった声のヒルマン先生に会長さんは首を振って。
「……みんな驚いてしまってて…誰も助けてくれなくて……。もしもハーレイが気を失ってくれなかったら…」
「危なかったっていうのかい!?」
ブラウ先生が拳を握り締めています。教頭先生が此処にいたら、殴り飛ばしそうな勢いでした。会長さんは答える代わりに深く俯き、その表情は見えません。
「…これは由々しきことじゃぞ、ヒルマン!!」
「そのようですな…」
先生方は顔色を失くし、セクハラどころではない騒ぎについて真剣に討議し始めました。クスクスクス、と会長さんの思念が伝わってきます。
『これでハーレイは強姦未遂ってことになるかな。本当かどうか確認しようにも、君たちは十八歳未満の子供だし…ハーレイが何をやったかまでは訊けないよねぇ』
それは確かにそうでした。私たちは目撃者ではありますけれど、先生方の立場からすれば…猥褻な行為の中身がどんなだったか、生徒に尋ねるなんて論外です。見ていただけでも心の傷になっているかもしれませんし。
「…ブルー。どうしてすぐに知らせにこなかったのかね。ハーレイに口止めされていたとか…?」
「………だって……家に行ったぼくが悪いんだし…」
自分を責めるような口調で言って会長さんは瞳に涙を浮かべました。
「…だから誰にも言わずにおこうと思ってた。…だけど…ぼくが何をされたか、ジョミーたちは見てたんだ。そう思うと自分が汚らわしい存在になったみたいで、いくら我慢しても耐えられなくて…とうとう…」
真珠のような涙が零れて膝を濡らします。エラ先生が慌ててハンカチを取り出し、会長さんにそっと渡して。
「…分かりました。分かりましたから、それ以上話すのはおやめなさい。…辛い思いをしたのですね」
会長さんは涙を拭おうともせず、声を殺して泣き始めました。青ざめた顔色といい、どう見ても強姦未遂の被害者です。先生方はもう疑いはしませんでした。
「ブルー、しばらく学校を休みなさい。ぶるぅと旅行にでも行ってくるといい。友達も一緒の方がいいなら、ジョミーたちにも特別休暇を出すことにしよう。今、大事なのは心と身体を休めることだよ。…その間にハーレイの処分を決定しておく」
ヒルマン先生がそう宣言し、他の先生方も賛同します。教頭先生を処分って…まさか懲戒免職とか!?
長老と呼ばれる先生方が会長さんに提案したのは1ヶ月間の休暇でした。元々授業になんか出てないんですし、休暇も何もないんじゃないかと思いますけど、不祥事が起こった事に対するけじめってヤツらしいです。
「…それでハーレイの処分だがね」
ようやく泣き止んだ会長さんを気遣いながらヒルマン先生が切り出しました。
「本来なら職員会議に諮らなければならないのだが、そうなれば他の先生方に事情を話す必要がある。それでもいいと言うのだったら、そうしよう。…それとも我々長老だけの会議で決定してしまう方がいいかね?長老会議で決められたことは絶対だ。職員会議など問題ではない」
「…ぼくは知られたくないけれど…。でも、処分って…」
「常識的には懲戒免職しかないだろう。しかしハーレイを失うわけにはいかんのだ」
眉間に皺を寄せて難しい顔をするヒルマン先生。
「我々を纏め上げ、引っ張っていけるだけの人物は他にはいない。ハーレイがシャングリラのキャプテンを務めているのもその力量があればこそ。…校長先生は政財界との交流や学園の経営にかけては天才的だが、ハーレイとは全くタイプが違う。ハーレイはシャングリラ学園にとって無くてはならない人物なのだよ。…分かるね?」
「……うん……」
「ハーレイがこの学園に居続けることは、君には耐え難いだろうとは思う。それでも居て貰わねばならんのだ。…ソルジャーの務めだと思って我慢してくれというのは酷だろうか?…酷いことを言っているとは分かっている。それを承知で頼みたい。…ハーレイが教頭を続けていくのを、どうか許してやってくれ」
このとおりだ、とヒルマン先生は机に両手をついて深々と頭を下げました。エラ先生やブラウ先生、ゼル先生も沈痛な面持ちで続きます。会長さんが「うん」と言うまで顔を上げるつもりはないのでしょう。
「……頼む、ブルー…。我々にはハーレイが必要なのだ…」
ヒルマン先生が苦渋に満ちた声でそう言ってから、どれくらいの時間が経ったのか。会長さんは深い溜息をつき、何度か口を開こうとしては躊躇った末に…。
「…分かってる…。そうだろうと思っていたから、何も言わずに黙ってた。…ぼくはソルジャーなんだし、みんなの為には我慢するしかないんだ…って…。ハーレイは…とても有能だから…」
「おお!…済まない、ブルー…。感謝する」
机に頭がつきそうなほど深くお辞儀をして、ヒルマン先生はお礼の言葉を何度も何度も繰り返しました。
「ありがとう。…これでハーレイを失わずに済む。その代わりに…と言ってはなんだが、他の方法で何らかの罰を与えよう。十分反省し、二度と過ちを起こさないようにね」
どんな処分をするかは会長さんのプライバシーを尊重して長老会議で内々に決定する、とヒルマン先生。
「自宅謹慎でどうだろうか?…対外的には長期出張だと誤魔化しておけるし、学園の関係者にもそれなりの言い訳を用意すれば納得する筈だ。謹慎期間は協議の上ということで…。どうだね、ブルー?」
「…家から一歩も出さないってこと?」
「流石にそれは無理だがね。世話係をつけるわけにもいくまい?日用品の買い出しなどは許すしかない。…自宅謹慎では生ぬるい、と思うようなら希望するものを言ってくれれば…。座禅などがある厳しいお寺に修行に出してもいいのだよ。根性を叩き直してくれそうだ」
会長さんは「ううん…」とか細く呟いて。
「…自宅謹慎でいいと思う…。ハーレイが反省してくれるなら」
「では、自宅謹慎ということにしよう。…ただ、ハーレイの弁明も一応は聞いておかないと…。だから処分はすぐには無理だ。明日の放課後、ハーレイを呼び出して長老会議を開催する。…それからになるが構わないね?」
「…その会議。…ぼくも出るっていうのはダメかな」
「「「!!?」」」
驚いた顔の先生方に、会長さんは揺れる瞳を向けました。
「…もしもハーレイが何もしてないって主張したなら、ぼくの立場は…。ジョミーたちを証人に呼ぶのは可哀相だし、代わりにぼくが座っていれば…ぼくの目の前なら、ハーレイも嘘はつけないかも…」
「なるほど」
ヒルマン先生が顎に手を当て、他の先生方と目を見交わして。
「…それがいいかもしれないな。ハーレイを見るのは辛いだろうが、衝立を置くという方法もあるし。…そして、その前に決めておかねばならないことが…」
「………?」
首を傾げる会長さんにヒルマン先生が重々しい口調で言いました。
「君の担任をどうするか、だよ。…今のままでは色々と問題があると思ってね…」
あちゃ~!長老の先生方は本気で会長さんの担任を替えるつもりです。私たちがいない間に議論を重ねていたのでしょう。ここまで話が進んでるなんて、会長さんったら、どうするんですか~!!
エラ先生が冷めてしまった紅茶を淹れ直し、暖かいカップを会長さんに勧めました。
「お飲みなさい、ブルー。…少し気持ちを落ち着けないと」
「……ありがとう……」
お礼だけ言って飲もうとはしない会長さんに、先生方は更に誤解を深めたようです。よほど傷付いてしまったのだと確信している表情でした。やがてヒルマン先生が代表で…。
「やはり担任について考えなければならないようだ。…これは重要な問題だよ」
「……担任って……。ぼくの担任は昔からずっと…」
「そう、この学園が出来た時からずっとハーレイが担任だった。…だが、このままでいいのかね?」
ヒルマン先生は咳払いをして続けました。
「この件についての協議にハーレイを交える必要はない。…君が来る前に話し合っていたのだが…。君とハーレイの間に何かあったというなら、担任を替えるべきだとブラウが主張したのだよ。…どうやら我々が思った以上に君は傷付いているようだ。…この際、ハーレイから距離を置くのもいいかもしれない。…最近はグレイブのクラスに出ているようだし、グレイブに担任をして貰うかね?」
場合によっては自分たち長老が引き受けてもいい、とヒルマン先生は付け加えました。
「…我々にも担任しているクラスはあるし、望むなら喜んで受け持つよ。ただし、その他の先生は無理だ。…グレイブなら名実を一致させたという理由で通るし、我々ならハーレイが多忙だからだということに出来る。だが、それ以外の先生となると、少々無理があるだろう?…皆、君の担任をするには力不足だ。なんといっても君は大切なソルジャーだからね」
「…分かってるよ…。誰でもいいってわけにはいかないものね…」
会長さんは瞳を伏せてじっと考えを巡らせています。
「…ブルー、返事は急がないよ。ハーレイの謹慎期間中にゆっくり考えておきたまえ」
今日はこれまでにしておこう、とヒルマン先生が言いましたが。
「…ううん…。担任はハーレイのままでいい。みんなもその方がいいだろう?」
「ブルー…?…いったい、何を…」
「……ぼくはソルジャーで、ハーレイはシャングリラのキャプテンだから」
無理に微笑んでみせる会長さんは、いつもよりずっと儚げでした。
「…ぼくがソルジャーを務めてゆくには、みんなの補佐が欠かせない。…ハーレイは纏め役だしね…。ぼくとの絆が切れてしまったら、いざという時に連携が上手くいかないかも…」
「………ソルジャー………」
息を飲み、居心地が悪そうな先生方。会長さんが指摘したことは恐らく事実なのでしょう。ソルジャーという呼称が出たのですから。
「…ぼくが我慢すれば済むんだろう?…ハーレイを懲戒免職には出来ないから我慢してくれ、って言ったよね。だったら担任の方も我慢させればいいじゃないか。…ソルジャーなんだから諦めろ、って」
「………ブルー……!」
エラ先生が悲痛な声を上げました。
「おやめなさい、ブルー!…私たちは何もそこまで…」
「そうじゃ、犠牲になれとは言わん!…我儘くらい言ってみんかい!」
ゼル先生も続きましたが、会長さんは静かに首を左右に振って。
「……いいんだ。何があったか知って貰えただけで十分だよ。…みんなの気持ちだけ受け取っておく。それにね……ハーレイはあの時、熱があったんだ。正気の時は優しいんだし…」
「甘いよ、ブルー!…あんただって男のくせに、男の怖さを知らないのかい?」
凄い剣幕で遮ったのはブラウ先生。握り締めた拳が震えています。
「あいつがあんたを大事にしてるのは知ってるけどね。…酔っ払うとよく言ってるんだよ、あんたを嫁に欲しいって。下心のあるヤツほど優しく振舞うってのは常識だろ!?」
「うむ。…愛は真心、恋は下心と言うからな」
ヒルマン先生が大きく頷き、「知っているかね?」と会長さんに尋ねました。
「言葉そのままの意味なのだが…愛と恋の漢字を頭の中に書いてごらん。…愛だと心という字が真中に入る。しかし恋だと心は下になるんだよ。…だから気をつけた方がいい。ソルジャーだから、と固く考えずに、もっと自分を大事にしたまえ」
「……ううん、本当にいいんだってば。…ぼくはハーレイが嫌いじゃないよ。…あんなことがあってショックだったから、無視しちゃったりしてたけど……懲戒免職とか担任を外すとか言われてみたら気が付いた。…ハーレイがいなくなるのは嫌なんだ。…でも…素直に認めるのは癪だったから…」
心配させてしまってごめん、と会長さんは謝りました。
「明日の会議、衝立なんか要らないよ。…ちゃんとハーレイの顔を見ながら出席する。もう大丈夫、平気だから」
そう言ったかと思うと冷めかかっていた紅茶を飲み干して。
「御馳走様。…チーズケーキ、持って帰っていいかな?ぶるぅが好きなケーキなんだ」
「え、ええ…。どうぞ」
エラ先生が箱に入れたケーキを受け取った会長さんはペコリとお辞儀して生活指導室を出てゆきます。私たちも慌てて続き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はシールドの中でニコニコ顔。えっと、とりあえず任務終了でしょうか。明日の長老会議とやらも多分ギャラリーするんですよね…?