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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

理由なき反抗  第3話

生活指導室から引き揚げてきた会長さんは上機嫌でした。貰って来たケーキの箱には「そるじゃぁ・ぶるぅ」お気に入りのチーズケーキが5個も入っています。会長さんが食べ残したのは1個でしたから、他の4個は先生方が後で食べるつもりで買ったものかも…。
「ほら、ぶるぅ。買ってあげるよって言ってたけれど、貰っちゃった。家に持って帰って食べよう」
「うん!…だけど5個って半端な数だね」
「そうだね。何か入れ物あったかな?…ケーキが1個入るサイズの」
会長さんが言うと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキッチンから紙箱を取って来ました。お菓子の残りとかをくれる時に使われる小さな箱です。会長さんはその中にケーキを1個入れて…。
「はい、サム。ここのチーズケーキは美味しいよ」
「えっ…。俺だけ?」
「うん。1個しか余らないから、サムにあげる。後はぼくとぶるぅで2個ずつ」
ね?と微笑む会長さん。サム君は真っ赤になりつつ嬉しそうです。
「みんな、今日は色々とありがとう。…明日の会議も来てくれるよね?」
当然のように言われて、頷くしかない私たち。嫌だと言っても連れて行かれるに決まってますし。
「ふふ、明日はハーレイも来るんだよ。面白くなりそうだと思わないかい?」
「…あんた、心が痛まないのか?教頭先生に濡れ衣を着せて」
キース君が溜息混じりに零した言葉に、会長さんは軽くウインクしました。
「ちゃんと未遂にしといたよ。…既遂じゃないからいいじゃないか」
「……強姦のな……」
強制猥褻の方がまだマシだ、とキース君は呻いています。えっと、えっと…それって違いがあるのかな?法律のことはサッパリです。私たちが怪訝そうにしていると会長さんがニヤリと笑って。
「要するに、目的がやることだったか、どうかってこと」
「「「えぇぇっ!?」」」
「ハーレイはあっちのブルーとそういうコトを楽しんだ記憶を持ってるんだし、罪状は正しく伝えないとね。…未遂にしてあげたんだから感謝して欲しいくらいだよ。本当は既遂なんだからさ。…記憶の中に限られるけど」
明日の会議が楽しみだ、と会長さんは大きく伸びをしました。
「うーん、肩が凝っちゃった。俯いてるのって疲れるよね。帰ったらのんびりお風呂に入って、ぶるぅにマッサージして貰わなきゃ。…それじゃ明日もよろしく頼むよ、長老会議は放課後だから。ぼくは特別休暇でお休み」
ばいばい、と手を振る会長さん。そういえば1ヵ月間の休暇ってことになりましたっけ、心の傷を癒すとかで。私たちは何度目か分からない溜息をついて影の生徒会室を出たのでした。

次の日の放課後。大学から駆け付けたキース君と柔道部を休んだマツカ君とシロエ君も揃って「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと、会長さんがソファに寝そべっていました。
「やあ。休暇って素敵だね。ついさっきまで家でゴロゴロしてたんだ。パジャマのままでご飯を食べて、昼寝して…なかなか有意義」
そう言う会長さんの隣で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ごめんね、ブルーがこんな調子だから…今日のおやつは凄い手抜きになっちゃった」
はい、と差し出されたのは揚げたてドーナツ。これで手抜きって…ビックリです。
「食べ終わったら出かけるよ。…ふふ、ハーレイが長老会議に呼び出しか…。柔道部の方にはなんて言い訳してあった?」
「休みますって言いに行ったら、先輩が教頭先生も会議があって休みなんだ、って言ってましたが」
マツカ君が答えると会長さんは満足そうに。
「なるほど。今日は会議で正解だよね。そして明日からは出張だ。…でも実態は自宅謹慎。バレたら恥ずかしいどころじゃないだろうねぇ。…バラさないけどさ、ぼくの名誉に関わるんだし。強姦未遂が強姦になりかねないのが噂ってヤツの怖いところ」
流石の会長さんも強姦されたと噂になるのは嫌みたい。そりゃあ…アルトちゃんやrちゃんの手前、そんな噂が流れたのでは不名誉なんてものじゃありません。シャングリラ・ジゴロ・ブルーもカタ無しです。
「それじゃ行こうか。ぶるぅ、シールドは任せたよ」
「うん!」
元気一杯の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。私たちは今日も見えないギャラリーでした。会長さんが向かった先は本館にある会議室。先生方が重要な会議に使う部屋の一つで防音なども完璧だとは聞いていますが、生徒には縁のない部屋です。会長さんがノックをして入り、私たちもコッソリ続いて…。
「時間どおりだね、ブルー」
ヒルマン先生が出迎え、他の長老方も会議用の机に座っています。けれど教頭先生の姿は見えません。
「ハーレイには遅めの時間を伝えておいた。議題も一切話してはいない。…ブルー、本当にいいのかね?ハーレイと顔を合わせても」
「うん。…ぼくの席は?」
「そっちに用意したのだが…我々と同じテーブルがいいならそうしよう」
先生方の机から少し離れた所に小さなテーブルと椅子が置かれていました。会長さんはそれを眺めて苦笑すると。
「…間に衝立があるならともかく、これじゃ悪目立ちしちゃうよね。…みんなと一緒のテーブルがいいな。ヒルマンとゼルの間がいい」
「それだとハーレイと正面から向き合う形になってしまうよ。エラかブラウの隣にしては…」
「いいんだ。…ハーレイの顔を見てみたい。今日の議題が何かを知っても、ぼくを真っすぐ見られるかどうか」
会長さんは椅子を引っ張ってきてヒルマン先生とゼル先生の間…テーブルの中央に陣取りました。やがてノックの音が聞こえて、入ってきたのは教頭先生。会長さんに気付いて一瞬息を飲みましたけど、すぐに落ち着いた渋い声で。
「…済まない、時計が遅れていたようだ。待たせただろうか?」
「いや。…時間ぴったりなんだよ、ハーレイ」
ヒルマン先生がテーブルを挟んだ向かいに一つだけ置かれた椅子を指さしました。
「いつもなら長老会議の議長は君なのだが…。今日の議長は私なんだ。君の席はそこになる」
明らかに下座と分かる席を示され、教頭先生は不審そうです。ヒルマン先生は更に重ねて。
「…実は今日のは秘密会議だ。ブラウ、施錠してくれるかね」
「あいよ」
扉に内側から鍵がかけられ、ヒルマン先生が威厳たっぷりに宣言しました。
「それでは、長老会議を始める。…今日の議題はハーレイの教師にあるまじき行為に対する処分だ」
「………!!?」
訳が分からない、という表情の教頭先生。しかしヒルマン先生は全く容赦しませんでした。
「…先日、急病とかで欠勤したろう。その時、見舞いに行ったブルーに酷いことをしたと聞かされた。ブルーは一人で悩んだ挙句に、中間試験で0点を取り、我々にSOSを送ったのだよ。…サインを受け取った以上、無視はできまい。ブルーはとても傷付いている。…この事実に間違いは無いかね、ハーレイ?」
教頭先生はウッと言葉に詰まりました。あの日、教頭先生の家で起こったドクター・ノルディまで絡んだ騒ぎ。酷いことをしたのは教頭先生ではなくて会長さんの方なのですが、それを説明しようとすれば別世界のソルジャーに貰った記憶や催淫剤を飲まされたことを話さなくてはなりません。教頭先生、絶体絶命…。

何も言えずに赤くなったり青くなったり、教頭先生は明らかにうろたえていました。これでは先生方の心証は悪くなる一方というものです。
「…なるほど、どうやら事実のようだ。間違いであって欲しいと願っていたが…。ブルーが可哀相だから詳しいことは聞かないでおこう。しかし処分は必要だ。…本来ならば懲戒免職にしなければならん。だが、キャプテンの君を失うわけにはいかないから、とブルーには納得してもらった」
「………!!」
教頭先生が会長さんを眺め、会長さんは弱々しい笑みを浮かべました。ヒルマン先生が溜息をついて。
「健気だよ、ブルーは。…担任を変更しようと提案しても、ソルジャーとキャプテンの絆は必要だから、と断ったんだ。それどころか…酷い目に遭わされたのに、まだ君のことを信じている。高熱で正気を失ったのが悪かっただけで、普段は優しい人間だ…とね」
「……わ、私が…熱にうかされて酷いことを…?」
強姦未遂犯にされたとは知らず、混乱している教頭先生。ブラウ先生が「見苦しいね」と吐き捨てます。
「欠勤した日にブルー相手に何かした覚えはあるんだろ?…あんたにとっては夢だったかもしれないけどね、ブルーにとっては現実なんだ。担任の教師に襲われるなんて最悪だよ」
「そのとおりじゃ。ブルーは生徒なんじゃぞ、ハーレイ!…自覚するまで謹慎じゃ!!」
ゼル先生の言葉に先生方が同意し、慌てふためく教頭先生に言い渡された長老会議の決定は…。
「ブルーに与えた休暇と同じだけの期間、自宅で謹慎していたまえ。1ヵ月だ。…異存は無いね」
「…………」
言い訳しても無駄だと悟った教頭先生が無言で頷いた時。
「待って!…1ヵ月って長すぎるよ」
声を上げたのは会長さんでした。
「…ハーレイの長期出張って、いつも2週間くらいじゃないか。…なのに1ヵ月も休ませちゃったら、心配する人がきっと出てくる。シャングリラに何かトラブルが起きたのか、って。シャングリラの乗組員との口裏合わせも難しくなるよ、そんなに長いと」
「……ですが、ソルジャー……」
「ブルーでいい」
ヒルマン先生の言葉を遮り、会長さんは続けました。
「みんなを不安がらせちゃいけない。…2週間が限度だと思う。今日が木曜日だから、明日からとして…キリのいい所で再来週の土日までかな。その代わり、ハーレイには毎日、謝罪に来てもらう。ぼくの家まで」
「おやめなさい、ブルー!家にだなんて危険すぎます」
エラ先生が叫びましたが…。
「家に入れるとは言ってないよ。門前払いってこともあるだろう?…もう一度ハーレイを信じたい。だから少しずつ慣れないとね。ぼくの休暇もハーレイの処分が解ける日まででいいから、その間に…ハーレイと普通に話を交わせるようにしたいんだ」
「…ブルー…」
感極まった様子のヒルマン先生。他の先生方も同じでした。
「よろしい。ならば2週間の自宅謹慎としよう。その間、毎日ブルーの家まで謝罪に行くこと。それでいいね?」
「……承知しました……」
教頭先生はガックリと肩を落として処分を受け入れ、そこから先は仕事の引き継ぎなどの話し合いだということで…無関係の会長さんは会議室から退室しました。もちろん私たちも一緒です。
「やったね、明日から2週間の休暇だよ。しかも毎日、ハーレイのお詫び行脚つき」
影の生徒会室に戻ってくるなり、会長さんは大はしゃぎ。お詫び行脚だなんて、またまた何かを企んでるような気がします。玄関前で土下座を1時間とか、その膝の上に重石を乗っけるとか…。
「さぁね?…謝罪はやっぱり態度で示して貰わないと。ヒルマンたちが信じた以上、濡れ衣どころか立派な罪だし」
0点を取った甲斐があった、と会長さんは満足そうです。明日から2週間と少しの間、何もなければいいんですけど…。

翌日から教頭先生は本当に自宅謹慎になってしまいました。表向きは長期出張。それを仕掛けた会長さんは休暇と言いつつ放課後はちゃんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋にいて。
「早速ハーレイが謝りに来たよ。あの後、こってり絞られたらしいね。ぼくを強姦しようとした、って。…なんとか誤解を解いてくれ、って必死で頼んでいたけどさ」
ティラミスをスプーンで掬う会長さんに罪の意識は無さそうでした。
「だからこう言ってやったんだ。誤解を解くにはサイオンで自分の意識を読んで貰うのが一番だろ、って。真相は全部ハーレイが記憶してるんだから」
「…そ、それってちょっとマズイんじゃない…?」
恐る恐る言うジョミー君。教頭先生の記憶の中には別世界のソルジャーが植え付けたヤツもあるんです。
「まずいだろうね。…あっちのブルーに貰った記憶も当然見せることになる。そうなったら強姦未遂どころかヤッちゃったんだと自白するのも同然だ。ハーレイったら泣きそうな顔をしていたよ。今日はそんな感じで1時間ほど玄関前で土下座させといた」
明日から重石を持たせようかな、と会長さんは楽しそう。
「石抱きをさせるつもりなのか!?」
キース君が叫びます。石抱きって拷問の一種だったような。
「そこまではやらないよ。算盤板は持っていないし、重石も無いから冗談だってば。土下座が限界」
ニッコリ笑った会長さんはその日から毎日、教頭先生に玄関前で土下座をさせ続けたのでした。そしてあと数日で処分が解けるという金曜日の放課後、私たちが「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に顔を揃えると…。
「みんな、日曜日は空いてるかな?…空いてたら家に遊びにおいで。ハーレイのお詫び行脚の集大成を見せてあげるよ」
赤い瞳がキラキラと悪戯っぽく輝いています。集大成って…もしかして重石と算盤板を揃えたとか?日曜日といえば謹慎処分の最終日。お詫び行脚の最後を飾る凄い土下座が待っているとか…?
「どんなのかは見てのお楽しみ。…来る?」
好奇心に駆られて頷いてしまった私たち。会長さんは「お昼前においで」と言いましたけど、本当に拷問タイムだったらどうしましょう。…まぁ、その時はその時ですが。

そして日曜日のお昼前。みんなで会長さんのマンションに出かけて玄関前のチャイムを押すと…。
「かみお~ん♪いらっしゃい、お昼ご飯が出来てるよ!」
案内されたダイニングには会長さんが座っていました。昼食はオムライスのように見えたのですが、中身はなんとナシゴレン。会長さんがリクエストしたみたいです。
「今日はリゾート気分なんだよね。リビングを見たらビックリするよ」
首を傾げる私たち。昼食が済んでリビングに行くと、綺麗な南国の花の鉢植えで一杯でした。天井まで届きそうな大きな木です。なんだかとってもいい香り…。
「ハーレイのお詫び行脚に2週間も付き合ったから、ストレスが溜まっちゃったんだ。だから全身エステを頼んだんだよ。…フィシスのお気に入りの店。普通は出張は無いんだけどね。せっかくだし雰囲気も大事かと思って」
「おい。全身エステってことは、もしかして…」
キース君の視線の先にあるのはエステ用らしきベッドと、その横の台に並んだ大小の瓶やクリーム類。会長さんはクスッと笑って。
「うん、下着だけ。…下着なしでもいいんだけどさ、女の子もいるし」
「そこへ教頭先生を呼び付ける気か!!」
「もちろん。…あ、もうすぐ約束の時間になるから、ちょっとお風呂に入ってくるね」
唖然とする私たちを残して、会長さんはバスルームに行ってしまいました。お詫び行脚の集大成は全身エステの見学っていうわけですか!教頭先生にとっては拷問でしょう。まだ石抱きの方がマシだったかも…。頭の中がグルグルしている私たちに向かって「そるじゃぁ・ぶるぅ」が無邪気な声で。
「あのね、お風呂もお花が一杯入ってるんだよ。いい匂いなんだ」
会長さんったらフラワーバスまで用意したみたい。
「…大丈夫かな、教頭先生…」
「鼻血は間違いないと思うぞ…」
どこまで悪戯好きなんだ、と嘆き合っていると会長さんがバスローブを着て戻って来ました。ゆったりとソファに座って「そるじゃぁ・ぶるぅ」が差し出すハーブティーを飲み終えた所でチャイムの音が。
「来た、来た。ぶるぅ、行っておいで」
「かみお~ん♪」
跳ねるように駆けて行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が連れて来たのは…。
「「「教頭先生!!?」」」
「…な、なんでお前たちまで…」
青ざめた顔の教頭先生がそこに立っていました。エステティックサロンの人はまだのようです。
「ボディーガード代わりだよ、ハーレイ。…ぶるぅだけかと思ってたんだ?おめでたいね」
クスッと笑った会長さんは廊下の方を指差して。
「文句を言わずに、まず着替え。ぶるぅが用意してくれてるよ」
「…分かった…」
項垂れて「そるじゃぁ・ぶるぅ」と一緒に出ていく教頭先生。まさか教頭先生も一緒に全身エステ!?…なんだか眩暈がするような…。と、カチャリとリビングの扉が開いて。
「「「!??」」」
戻ってきた教頭先生は半袖の白いブラウスと青地に白の花柄の長い巻きスカートを着けていました。南国の女性の民族衣装に似ていますけど、これはいったい…。
「ハーレイがエステティシャンなんだよ」
「「「えぇぇっ!?」」」
「ふふ、驚いた?…ゴツイもんねぇ、ハーレイは」
会長さんの唇に浮かぶ艶やかな笑み。
「…前にバレエを仕込んだのと同じ要領さ。フィシスのお気に入りのサロンは仲間がやっているからね。フィシスに頼んで情報を貰って、昨日それを丸ごとコピーした。だから腕前は保証付き。…ぼくが最初のお客だけれど、手抜きは無しでお願いするよ」
バスローブをスルリと肩から落とす会長さん。私たちはポカンと口を開けたまま、石像と化していたのでした。

それから後の会長さんは気持ちよさそうにベッドに寝そべり、教頭先生はローズとアーモンドのスクラブで懸命に全身をマッサージ。プロ根性というのでしょうか、心配していた鼻血は気配も無くて、顔も赤くはなりません。
『…見事だろ?情報をコピーする時、ついでに暗示をかけといたんだ』
会長さんの思念がフワリと流れてきました。マッサージされて夢心地なのが分かります。
『妙な気分になられちゃ台無しだからね。エステをしてる間は腕を揮うことしか考えられないプロ仕様』
終わってからは知らないけれど、と付け足す会長さん。スクラブの次はラベンダーとローズの念入りなアロマティックマッサージでした。スウェナちゃんが小さな声で。
「これって男性用のコースだと思う?」
「…エステのことは俺にも分からん」
女性用かもな、とキース君。元々がフィシスさんの行きつけのサロンの情報ですし、女性用かもしれません。
『…フィシスのお気に入りのコースだけれど、マッサージの基本は同じだよ。…でなきゃ男のぼくには効かないじゃないか』
ストレス解消に頼んだのに、と会長さん。でも本当に全身エステを受けたいほどのストレスだなんて思えませんし、教頭先生をオモチャにしたいだけなのでは…。その教頭先生は私たちの声や思念波にも全く気付かない様子で頑張っています。初めてだとは思えないマッサージの腕前は会長さんが眠ってしまったほどでした。
「ブルー、起きなさい。一度お風呂に入らないと」
仕上げにボディローションを塗るんだから、と揺り起こされた会長さんは再びフラワーバスへ。ゆったり寛いで戻ってくると、ラベンダーのボディローションを教頭先生が馴れた手つきで塗ってゆきます。うーん、どう見てもプロ中のプロ。…やがてエステの時間は終わって…。
「お疲れ様、ハーレイ。ふふ、身体中ツヤツヤだ」
ベッドから降りてバスローブを纏う会長さんの喉の奥がクッと鳴りました。教頭先生の顔がみるみる真っ赤になって、慌てて鼻を押さえます。それはプロ根性が消えた瞬間。会長さんがかけた暗示は本当にエステ限定で…。
「す、済まない、ブルー…。もうこれくらいで許してくれ…!」
「そうだね、明日から学校だし。…あっちのブルーの記憶もいいけど、ぼくをマッサージした記憶の方が…本物だから美味しいよね」
唇を舐める会長さんに教頭先生は土下座して。
「ブルー、私が悪かった!…あの記憶は消してもいいと言ってるだろう。いや、消してくれ!」
「…消さないよ。ノルディっていうオマケもついたし、大事に持っているといい。ああ、それから…。エステの腕は見事だよね。今度あっちの世界に行ってブルーにサービスしてあげたら?…エステをする間は鼻血も出ないし、きっと喜んでもらえるよ」
ソルジャーって苦労が多いからね、と会長さんは微笑みます。
「謹慎処分、懲りただろう?…ゼルたちは誤解してるし、先行き大変そうだけど…。たまにエステをしてくれるんなら、少しは口添えしてあげるよ」
「……考えておく……」
教頭先生はティッシュで鼻を押さえながら出てゆき、着替えが済むともう一度「すまん」と謝ってから帰りました。
お詫び行脚の集大成は流血で幕を閉じたのです。

「…いい気持ちだったよ、全身エステ。初めてだったけど悪くないね」
バスローブのままで寛ぐ会長さんの言葉に私たちは息を飲みました。全身エステは初めてですって?
「うん、初めて。…そもそもエステ自体が初体験」
「そ、それなのに教頭先生に……あんたを嫁に欲しがってる人にやらせたのか!?」
「そうだけど?」
引っくり返った声のキース君に、会長さんはしれっと答えました。
「ハーレイがブルーに貰った記憶、不愉快じゃないか。…だから再生しようとすると実体験が上回るようにしてやったのさ。ぼくの手触りは本物だよ?…これからは記憶を再生する度、もれなく鼻血が出るだろうね。ぼくの身体中、撫で回したし」
「…き、気持ち悪いとか思わないのか、あんたってヤツは!!」
「思わない」
なんと、キッパリ即答です。
「ハーレイの限界は知っているから平気だよ。これでヘタレ直しの修行は挫折。嫁に来いとは言えなくなるさ」
「…教頭先生、修行してたの?」
ジョミー君の問いに会長さんはクスッと小さく笑いました。
「うん。ブルーに貰った記憶を辿ってイメージ・トレーニングをしてたんだ。…自信をつけられたらマズイだろう?
危険は芽の内に刈り取らないとね」
またからかって遊ぶんだ、とニコニコしている会長さん。教頭先生の方は今頃、鼻血の海に沈んでいそうな気がします。お詫び行脚の末に仕込まれてしまったエステの技はなかなかだったようですし…会長さんに呼び付けられて酷使されたりしないでしょうか?…別世界のソルジャーのために出張エステをさせられるとか…。
「あんた、教頭先生で遊ぶためなら本当に手段を選ばないな」
キース君が呆れたように呟きます。別世界での修行に始まり、中間試験でオール0点。挙句の果てに全身エステをさせただなんて、長老の先生方が知ったら気絶しそうな悪戯三昧。先生方は教頭先生が会長さんを襲ったのだと信じてしまっているんですから。
「いいじゃないか。ハーレイはヘタレだからこそ面白いんだ。三百年間ヘタレてたんだし、直そうって方が間違いだよ。…ヒルマンたちもいつか真相に気付いたりしてね」
バレたってお説教が関の山だから大丈夫、と会長さんは涼しい顔です。陥れられて修行の道を転がり落ちた教頭先生、鼻血街道まっしぐらかも。明日から学校に復帰ですけど、教頭先生、どうか御無事で…。




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