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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

甘やかな季節・第3話

いきなりバレンタインデーへと話が飛んで、友チョコをやりたいと言い出したソルジャー。誰もがポカンとしている中でソルジャーだけが得々と…。
「こっちの世界じゃ女性から男性にチョコを渡すのは古いんだって? そりゃあ妙齢の女性ともなれば別だろうけど、若い子はそうじゃないっていう風潮だよね。流行りは友チョコ!」
これをやらずに何とする、とソルジャーはグッと拳を握りました。
「ぼくもハーレイも作ってくるから友チョコしようよ、みんなでさ。こっちのハーレイとかノルディも誘って」
「…ノルディだって?」
どうしてノルディが出て来るのさ、と会長さんが地を這うような声で尋ねれば、しれっとした顔でソルジャーが。
「情報源には敬意を払うべきだろう? どうしても嫌なら外してもいいけど、ノルディは大いに乗り気だったよ? 友チョコだったらブルーも交換してくれるかも、って期待してたね。ダメで元々、人数分のチョコは作りますよ…って」
「君はノルディに訊いたのかい? 友チョコについて?」
会長さんは顔を顰めましたが、ソルジャーの方は何処吹く風で。
「訊きに行ったのは友チョコじゃなくて、夫婦の正しいバレンタインデー! ハーレイと結婚しちゃったからねえ、バレンタインデーはどうなるのかと思ってさ…。ハーレイが命がけで作ってくれてたチョコもいいけど、結婚しててもチョコは要求出来るのかなぁ、って」
甘いチョコもハーレイが苦悶する顔も好きなんだ、とソルジャーは唇をペロリと舐めました。
「ハーレイのチョコレート作りは本当に命がけなんだよ。チョコの匂いを嗅いだだけでアウトだからさ、宇宙服のヘルメットを装備して作った年もある。…ゼルにしごかれてマシにはなっても苦手というのは変わらないから、顔を歪めてチョコの素材と戦ってるんだ」
「…要するにそのチョコを食べたいわけだね、君のハーレイの手作りとやらを」
会長さんが溜息をつけば、ソルジャーは大きく頷いて。
「もちろんさ。でもね、釣った魚に餌はやらないとも言うだろう? 今年もチョコを作って貰える保証は無い。頼めば嫌とは言わないだろうけど、それではねえ…。自発的に作ってくれるというのがいいんだ。だから夫婦でもチョコを贈るものだとか、そういう裏付けが欲しかった。ノルディが情報源なら確実だしね」
いろんな意味で、とニヤリと笑ってみせるソルジャー。
「ぼくと結婚しようとした男だけに、ハーレイは今も危機感を拭えない。おまけにぼくのこっちの世界でのスポンサーだし、どんなはずみで深い仲になるか分からないだろ? そのノルディから聞いたって言えばハーレイは絶対逆らえないさ。これが夫婦のバレンタインデーの形なんだ、って突き付ければね」
「それがどうしたら友チョコなわけ? 夫婦で友チョコは無いと思うけど」
突っ込みを入れる会長さんに、ソルジャーはパチンとウインクをして。
「其処がノルディの凄いとこかな? ぼくの望みを一通り聞いて、「それなら友チョコがお勧めですよ」と言ったんだ。夫婦のバレンタインデーっていうのは何処かに甘えが出て来るらしいね、既に釣り上げた相手だから。最大限の努力をしなくても許されるかな、と手抜きをしがち」
「…そういう傾向があるっていうのは確かに否定はしないけど…。君のハーレイなら大丈夫だろ?」
「ダメダメ、甘いものが苦手なんだよ? 今年は小さめのチョコにしようとか考えそうだ。ランクダウンが無かったとしても本気度が減っていそうでさ…。ぼくはハーレイの苦悶も好物」
愛とコレとは別物なんだ、と楽しげな顔で語るソルジャー。
「ぼくのために命を賭けてます、っていうハーレイの姿が大好きなんだよ。眉間に皺を深く刻んで苦悩するハーレイって惚れ直すよ? でもさ、結婚してからそういう顔も見られなくなってしまったし…。ぼくが戦いに出てった時には見られるけれども、ちょっと何かが違うんだよね…」
久しぶりに困らせてみたいんだ、とソルジャーは悪戯っぽい笑みを浮かべています。それがどう転べば友チョコになると…?

エロドクターがソルジャーに授けたバレンタインデーの秘策は友チョコ。私たちが知っている友チョコと言えば、女の子同士でバレンタインデーに手の込んだチョコやスウィーツを作って交換し合うイベントです。それをやらないか、と誘ってきたのがソルジャーですけど、動機がサッパリ分かりません。
「えーっと…」
滔々と語り続けているソルジャーに、会長さんが口を挟みました。
「君がハーレイの困った顔を見たいというのと、苦悶の結晶の手作りチョコが食べたいという話はよく分かったよ。…でもさ、どうして友チョコになるんだい? 君が強請れば済むことだろう?」
「本気度が減るって言ったじゃないか。其処を自然に補えるのがノルディのお勧めの友チョコなんだ。みんなで力作を交換しようってイベントだよ? 一人だけ手抜きは出来ないさ。おまけにノルディも参戦するとなったら必死だよねえ?」
半端なチョコでは済まされない、と聞かされて漸く見えてきたソルジャーの意図。要するに手作りチョコの競い合いです。キャプテンは懸命にチョコを作るでしょうし、チョコの数だって参加する人数分が必要不可欠。甘いものが苦手なキャプテンにとっては壮絶な戦いになりそうで…。
「それにさ、ハーレイのチョコが食べられるだけじゃなくって沢山のチョコが手に入るだろう? 友チョコなんだし、こっちのハーレイも呼ばなくちゃ。ぶるぅも参加してくれるよね? もちろんブルーも、そこの子たちも…さ」
「「「えぇっ!?」」」
私たちまでソルジャーと友チョコするんですか? この流れだとキャプテンも入っていそうです。あまつさえ教頭先生とかエロドクターとか、ロクな面子じゃないような…。けれどソルジャーは全く気にしていませんでした。
「いいだろ、友チョコ! ぼくも頑張って作るつもりだし、君たちも是非参加してよ。そうそう、交換会をする会場も要るよね。ノルディが家の広間を提供するって言っていたけど、それは却下かな?」
「却下!」
会長さんは即答でした。友チョコだけでも大概なのに、エロドクターの家で交換会なんて最悪です。その勢いで友チョコも断ってしまって下さい、会長さん~!
「なんでノルディの家になるのさ! そもそも友チョコもやるとは言っていないけど? 君とノルディと君のハーレイでやればいい。三人揃えば充分だろう」
「…だよな、俺は友チョコなんかをする気は無いぞ」
キース君も援護射撃に出たのですけど、ソルジャーは。
「冷たいねえ…。ぼくだって自分の世界で友チョコが出来れば、わざわざ頼みに来たりはしないさ。だけどハーレイと結婚したのは秘密なんだし、友チョコなんかが出来るとでも? …こっちの世界でしか集まらないんだ、人数がね。なのに三人で充分だなんて…。そうそう、こないだもミュウの救出作戦があって」
「…分かったよ、君が苦労をしてるってことは…」
仕方がない、と会長さんの口調に漂うものは諦めムード。
「友チョコの件は引き受けよう。ノルディの参加も承諾するしかないんだね?」
「話が早くて助かるよ。嬉しいな、みんなで友チョコを交換出来るんだね。ぼくも精一杯腕を揮わなくっちゃ。えっと、こっちのハーレイにはブルーが伝えてくれるのかな?」
「君が自分で伝えたまえ。今は暇にしているようだから」
呼び寄せる、とキラリと走った青いサイオン。あのぅ……まだ私たち、友チョコについて何も返事をしていないんですけど、参加メンバーに決定ですか? 確定なんですか、友チョコは…?

週末の午後を満喫していた教頭先生が召喚されたのは一瞬の後。いきなり会長さんの家のリビングに連れて来られて固まってしまっておられましたが、立ち直りの方も流石に早く。
「なんだ、どうした? このメンバーだとパーティーか?」
ビックリしたぞ、と苦笑している教頭先生に会長さんはソファを勧めて。
「パーティーしていたわけじゃないけど、昔話を色々と…ね。入試の前の君の耳掃除はいつからやってるサービスなのか、とか」
「………。バレているのか、その子たちにも? ブルーにバレたのは去年だったが」
教頭先生は耳の先まで真っ赤でした。そりゃそうでしょう、いつも私たちがシールドに入ってお供しているなんて知らないのですから。会長さんはクスクス可笑しそうに笑ってみせて。
「ブルーにバレたら後は筒抜けだと思うけど? だってブルーだよ、大人しく黙っているとでも?」
「…そ、そうか…。とっくにバレてしまっていたのか…」
意気消沈している教頭先生はお気の毒でしたが、バレているのは事実です。現場を毎年目撃してます、ということだけは隠しておくのが武士の情けというものでしょう。ソルジャーもそれは心得ているらしく、黙って濡れ衣を着ています。いえ、友チョコの実現に向けて余計なことは口にしないと解釈した方が正しいのかな?
「悪いね、ハーレイ。…ぼくは楽しいことが好きでさ」
ソルジャーが口を開きました。
「耳かきは衝撃的だっただけに、つい喋らずにはいられなくって…。でも、ありがとう。あれは大いに参考になった」
「は?」
怪訝そうな教頭先生に、ソルジャーは。
「あの耳かきだよ。君が気持ちよさそうにしていたからねえ、何か秘密があるのかと思ってノルディに相談してみたわけ。そしたら耳かきエステってヤツを教えてくれてさ、ぼくのハーレイが疲れてる日の定番なんだ。耳掃除の後にマッサージ! 上手く疲れが取れた時にはそのまま夫婦の時間ってね」
「………!」
ソルジャー夫妻の耳かきエステは教頭先生には刺激が強すぎたみたいです。会長さんが先日、あれこれ吹き込んでいなかったなら大丈夫だったかもしれませんけど…。
「ごめん、鼻血の危機だった? はい、どうぞ」
「す、すみません…」
教頭先生はソルジャーが渡したティッシュを鼻に詰め込み、鼻の付け根を二本の指で押さえています。ソルジャーは鼻血が落ち着くまで待ち、それから会長さんと頷き合って。
「君を呼んだのはブルーだけれど、用があったのはぼくなんだ。…バレンタインデーにぼくと友チョコしてくれないかな?」
「!!?」
ゲホッ、と咳き込む教頭先生。そりゃそうでしょう、友チョコという言葉が似合いそうもないのがソルジャーです。そうでなくても友チョコは女子のチョコレート交換会。教頭先生とは縁もゆかりも無さそうで…。
「と、友チョコ…ですか…?」
唖然として問い返す教頭先生ですが、ソルジャーはニッコリ微笑んで。
「うん、友チョコ。ぼくは結婚した身だからねえ、もうバレンタインデーは意味が無いんだ。だけどハーレイの手作りチョコはまた食べたいし、同じ食べるのなら本気のチョコ! みんなで交換し合うんだったら真面目に作ってくれそうだから、友チョコを企画したんだよ」
「そうでしたか…。では、そこの子たちも友チョコを? ブルーやぶるぅも?」
「もちろんさ。それにノルディが発案者として参加したいと名乗りを上げてる。チョコの交換会場に家を貸すとも言っていたけど、そっちはブルーに却下されちゃって…」
何処で交換すればいいんだろう、と首を傾げるソルジャーに教頭先生は。
「わ、私の家でもよろしければ…。ブルーの家の方が広いのですが、ノルディが来るとなりますと……私の家の方が都合がいいかと」
「本当かい? じゃあ、君の家で交換会ってことでいいかな、ブルーも、みんなも」
「「「………」」」
断ったらロクな展開にならないことを誰もが本能で悟っていました。バレンタインデーは友チョコで、教頭先生の家で交換会。これは決定事項です。ソルジャーは満足そうに満面の笑顔。
「それじゃ楽しく友チョコしようね。ぼくのハーレイにも伝えておくし、ノルディにもきちんと連絡しとくよ。ハーレイ、君も凄いのを作ってくれると嬉しいな」
ぼくのハーレイに負けてないヤツ、と極上の笑みを向けられた教頭先生は頬を染めて見惚れてしまっていたり…。ソルジャーは会長さんではないんですけど、同じ顔だけにそそられるのでしょう。会長さんはチッと舌打ちをして、教頭先生を瞬間移動で家へと強制送還。
「…話は済んだみたいだねえ? バレンタインデーは此処の全員揃って友チョコ、ハーレイの家で交換会。それでいいのかい?」
「うん! 今日は御馳走様、ノルディの家に寄って帰るよ。バレンタインデーはよろしくね」
友チョコだよ、と思い切り念押しをしてソルジャーは帰ってゆきました。もう逃げ道は無いようです。会長さんの昔話を聞きに来た筈なのに、何故か友チョコ。会長さんもジョミー君たちも脱力し切っていますけれども、これって夢ではないんですよね…?

友チョコ交換会が決まった週末が過ぎて登校すると、温室の周りが賑やかでした。チョコレートの噴水が中に出現したのです。待ってましたとばかりにバナナなどをコーティングする生徒が列をなし、学校を挙げてのお祭り騒ぎがいざ開幕! しかし…。
「おい、友チョコはどうするんだ?」
キース君が真顔で訊いてきたのは放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋。テーブルには焼き立てのマロンパイが盛られた大皿が置かれて食べ放題になっていますが、男の子たちはそれどころではないようで。
「ママに大笑いされちゃったよ。ジョミーにチョコなんて作れるわけがないじゃない、ってさ」
「ぼくもです。…機械弄りとお菓子作りは違うのよ、って」
ジョミー君とシロエ君がぼやけばサム君も。
「俺もだぜ。友チョコってだけで思い切り爆笑されちまった」
「そうなのか。何処も似たような反応なんだな」
俺も笑われてしまったんだ、と額を押さえるキース君。
「だが、おふくろが燃えちまって…。息子だから友チョコ作りは無理だと諦めていたらしい。そこへ話が降って湧いたんで、頑張って作ろうと言っている」
「いいじゃねえかよ、楽が出来てさ」
任せちまえよ、とサム君に肩を叩かれたキース君は項垂れて。
「…それが…。おふくろは俺を手伝うつもりなんだ。俺が失敗しそうになったら先輩として助力と助言」
「えっ、キースは自分で作るわけ?」
信じられない、とジョミー君が笑い出し、私たちもチョコと格闘するキース君を思い浮かべて爆笑していたのですけれど。
「君たち全員、間違ってるよ。みんなキースを見習うべきだね」
口を挟んだのは他ならぬ会長さんでした。
「友チョコは手作りすることに意味があるんだ。ブルーも作ると言ってただろう? 勿論ぼくも自分で作るし…。だから君たちも頑張りたまえ。お母さんに丸投げしたら確実にバレるよ、残留思念で」
「「「えー!!!」」」
たちまち始まるブーイングの嵐を会長さんはサラッと無視。
「いいかい、必ず手作りだからね。でも不味いチョコだと嬉しくないから、お母さんの手伝いは大歓迎! ラッピングはお母さん任せでもいいよ、その辺は好きにするといい」
「かみお~ん♪ 友チョコ、とっても楽しみ! どんなチョコレートが食べられるかな?」
ワクワクしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」とお通夜のような男子たち。マツカ君もお抱えシェフに頼む予定が狂ってしまってガックリです。男子もチョコを自作となると私も手抜きは出来ません。手作りチョコなんて初挑戦。まずは情報収集からかな…。

そして迎えたバレンタインデー。一口サイズの四角いチョコは我ながら満足の出来映えです。スウェナちゃんは円形のチョコにホワイトチョコで肉球を描いたのだそうで。
「あっ、いいなぁ…。それって可愛い」
「でしょ? 手間もそんなにかからないのよ」
スウェナちゃんのアイデアを絶賛していると、アルトちゃんとrちゃんが寄って来ました。
「なになに、今年は手作りチョコ?」
「会長さん用? それとも、ぶるぅ?」
「「えーっと…」」
まさか友チョコだなんて言えません。口ごもる私たちにアルトちゃんが。
「私、今年も会長さん命!」
「アルト~、それは私の台詞!」
rちゃんがアルトちゃんの頭を小突いて、二人はキャイキャイふざけ合いながら去ってゆきます。友チョコはバレずに済んだようで一安心…って、スウェナちゃん?
「…忘れてた…」
この世の終わりのような顔をしているスウェナちゃん。忘れたって、何を?
「教室で渡すチョコ、持ってきた?」
「や、やば…。どうしよう、私も用意してない…」
ズーン…と落ち込むスウェナちゃんと私。今日は朝のホームルームの前にチョコレートを渡す時間が設けられています。チョコの贈答をしなかった生徒は礼法室で説教の上、反省文を提出しないといけないのでした。ジョミー君たちはどうでしょう? 大慌てで尋ねに走って行くと…。
「え? ぼくたちは友チョコ保険に入ってるけど?」
ジョミー君が答える横でキース君が深く頷いています。
「友チョコ保険は基本だな。現にお前たちが忘れたとなると、今年は義理チョコが貰えないわけだし」
申し込んでおいて正解だった、とニヤリと笑うキース君。そこへ友チョコ保険係の男子が大きな箱を抱えて入って来ました。チョコを貰えそうにない男子のためにあるのが友チョコ保険。加入しておけばバレンタインデーに共同購入のチョコが届くのです。それが到着したわけで…。
「悪いな、これで俺たちは安全圏だ」
反省文を頑張れよ、と言われたスウェナちゃんと私が涙目になった所へ、教室の扉をカラリと開けて現れたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。トコトコと私たちの前まで来ると、ヒョイと包みを差し出して。
「はい、チョコレート! 買ったヤツだけど、使えるでしょ?」
会長さんのお使いで来たのだそうです。市販品でもチョコはチョコ。スウェナちゃんと私は「貰ったチョコをくれた本人に渡す」という外道な形でバレンタインデーをクリアしました。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に足を向けては寝られません。この恩返しは来年のバレンタインデーに必ず、必ず~!

肝心の本命チョコをド忘れしてまで作った友チョコ。放課後、私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋から瞬間移動で教頭先生の家へ。交換会場はリビングです。教頭先生も早めに仕事を切り上げて帰宅し、ケーキと飲み物を出してくれて。
「そうか、みゆとスウェナは反省文の危機だったのか」
教頭先生が可笑しそうに笑うと、会長さんが。
「友チョコを頑張った結果なんだし、笑わないであげて欲しいな。ぼくもぶるぅも友チョコを本命チョコだと思ってホワイトデーにお返しするつもり。…友チョコにはホワイトデーが無いからね」
「うむ。私もその分、精一杯の努力をしたぞ」
「それは楽しみ。…おっと、ブルーが来るみたいだよ」
会長さんの予言通りに空間が揺れ、ソルジャーがフワリと現れました。あれっ、キャプテンは? 一緒に来るんじゃなかったんですか?
「こんにちは。…ああ、ハーレイかい? 抜けられない会議があって遅刻なんだよ」
でもチョコの準備は完璧だから、と嬉しそうに微笑むソルジャー。大量のチョコを作る羽目になったキャプテンの苦労は並大抵ではなく、ソルジャーが見たかった苦悶が日夜繰り広げられていたそうで…。
「あれだけで友チョコの価値はあったね。チョコと戦った後、甘ったるい香りが抜けないハーレイと過ごした夜も素敵だったし、もう友チョコが癖になりそう。恩人のノルディを呼んでもいいかな?」
「…嫌だと言っても呼ぶくせに」
唇を尖らせた会長さんの言葉が終わらない内に、エロドクターが瞬間移動で登場です。
「これは皆さん、お揃いで…。おや、ハーレイが一人足りませんか?」
「ぼくのハーレイは遅れるんだ。先に交換会を始めちゃおうよ」
ソルジャーの音頭で全員がチョコを取り出しました。男の子たちも手作りチョコ。それぞれのお母さんが半分以上手伝ったとはいえ、箱を開けると可愛いチョコに綺麗なチョコに…。甘いものに目が無いソルジャーは大喜びです。
「やったね、美味しそうなチョコばっかりだ。ぶるぅに盗られないように用心しなくちゃ。…ぼくのはコレだよ。ぼくのハーレイの好みに合わせてビターなんだけど、そこは許して」
配られた箱の中身はシャングリラ学園の紋章の形のチョコでした。ソルジャー曰く、こだわったのは形の方。この型を作るのにサイオンまで使ったみたいです。ドクターが負けじと出してきたのはシャンパン風味のホワイトチョコ。普通はトリュフに仕上げる所をダイヤモンドの形にしたのが御自慢。
「なにしろブルーに贈れるのですし、ダイヤモンドにしてみたのですよ。いずれ本物のダイヤの指輪を贈りたいですねえ、勿論こちらのブルーにですが」
未婚のブルーは一人だけになってしまいましたし、と残念そうなエロドクター。
「ハーレイと結婚してしまわれたとは、なんとも惜しい話です。それでも遊びに来て頂けるのが嬉しいですがね」
「君の財布は魅力的だからね。友チョコのアイデアも最高だったし、これからもよろしく」
愛してるよ、とウインクしてみせたソルジャーは教頭先生に視線を向けて。
「君は何を用意したんだい? 無難なヤツかな?」
「い、いえ…。去年の二番煎じなのですが、それなりに努力したつもりです」
教頭先生はキッチンに引っ込み、沢山の箱を抱えて来ました。中身はなんとザッハトルテ。小さめとはいえ、人数分を作るには時間がかかったと思います。
「へえ…。これは凄いね、去年苦労していたケーキだろう? 生クリームを添えて食べるんだよね」
美味しそうだ、とソルジャーの瞳が輝いています。続いて会長さんが披露したのはチョコレートマカロンの上に円形の板チョコを貼り付けたもの。お次は「そるじゃぁ・ぶるぅ」で、小さなコーンに入ったソフトクリームそっくりのチョコの詰め合わせ。色も白にピンクにと本物そっくり。
「これで揃ったね、友チョコが。残るはハーレイの分だけか…」
ソルジャーが呟くと、会長さんが。
「そっちはどうでもいいんだろう? 大切なのは作る過程で」
「まあね。…だけど期待が高まるじゃないか、色々なチョコが並ぶとさ」
早く会議が終わらないかな、とソルジャーは伸びをしています。キャプテンが用意したチョコって、どんなのでしょうね?

それから待つこと三十分。ソルジャーがようやく呼び寄せたキャプテンは何も持ってはいませんでした。リビングに響き渡ったのはソルジャーの怒声。
「ぶるぅに食われた!? 全部?」
「は、はい…。会議から戻ったら空の箱の山が転がっていて…」
すみません、と大きな身体を縮こまらせて謝るキャプテン。目を離した隙に「ぶるぅ」が食べてしまったらしいのですけど、それじゃキャプテンからの友チョコは無し?
「困るんだよ、ハーレイ。お前も作って来るというのを前提にして二人分ずつ貰ってしまったぼくの立場はどうなるんだい?」
「お、お返しになればよろしいかと…」
「嫌だ! お前はチョコなんか食べやしないし、二人分食べるつもりだったのに…。お前に合わせたチョコも作ってあげたというのに、今更チョコが無いだなんて…。ん?」
あるじゃないか、と言うなりソルジャーは空中に箱を取り出しました。
「あっ、そ、それは…」
「お前の机の引き出しにあった。ぶるぅも気付かなかったようだね、これを配ればいいだろう。一人一粒になってしまうけど、無いよりはマシだ」
ぼくのチョコとセットで入れとこう、とソルジャーが配ってくれたのは何の変哲もないトリュフチョコ。これでキャプテンのチョコも揃ったのですが…。あれ? キャプテン、泣きそうな顔をしてますよ? ソルジャーもそれに気付いたらしく。
「どうしたんだい、あれを配ったらマズかった? まさかと思うけど媚薬入りとか?」
「「「えぇっ!?」」」
そんなチョコは遠慮したいです。けれどキャプテンは慌てて否定し、口の中で何やらモゴモゴと…。耳の先まで真っ赤ですから、やっぱりチョコに何か仕掛けが? と、ソルジャーが突然笑い出して。
「なんだ、そんなことか。まだ何粒か残ってるから充分じゃないか、すぐに帰って楽しみたい?」
「「「は?」」」
今度こそ意味が分かりません。ソルジャーはクッと喉を鳴らすと、キャプテンの腕に腕を絡めて。
「ぼくと食べるためのチョコを配られちゃったんだってさ。…ぼくに食べさせるためと言うべきか…。結婚して初めてのバレンタインデーだし、チョコを口移しで…と思ったらしい。友チョコなんか企画しなくても良かったみたいだ、ハーレイの案の方が遙かに甘い。だって口移しでチョコレートだよ?」
急いで帰って楽しまなくちゃ、とソルジャーは友チョコの山をかき集めています。
「ふふ、チョコを咥えるハーレイの顔が楽しみだよね。眉間に皺を寄せつつ愛情たっぷり! うん、今までに見たどんな顔よりも煽られそうだ。やっぱり友チョコよりも本命チョコ! それが最高!」
それでこそバレンタインデー、とソルジャーはキャプテンをグイと引き寄せ、濃厚なキスをしながら姿を消してしまいました。交換した友チョコも全部しっかりお持ち帰りで…。
『今日はありがとう。ハーレイの口移し用チョコ、君たちもしっかり味わってよね』
空間を越えて消える間際に残された思念に私たちは頭を抱えたのですが、めげない人が約二名。
「なるほど、口移し用ですか…。如何ですか、ブルー、これから私と」
エロドクターがソルジャーのチョコの箱を抱えて誘いにかかれば、横から教頭先生が。
「いや、その権利があるのは私だ! 同じハーレイだ!」
「出来るのですか、ヘタレのくせに? 多分鼻血だと思いますがねえ…」
言い争いを始めた二人を放って、会長さんと私たちは瞬間移動で逃亡しました。逃げられたことにも気付いていない二人の喧嘩は続いています。会長さんの家のリビングでチョコを食べつつ、高みの見物をするのもまた良きかな。まずはキャプテンの手作りチョコから食べるというのが礼儀ですかねえ?







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