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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

癒しのお誂え  第3話

教頭先生の家に届いてしまった抱き枕。サイオンで遠くを見ることが出来ない私たちにはサッパリ様子が分かりませんが、教頭先生は荷物を受け取ったみたいです。憮然としている会長さんを横目で見ながらソルジャーが「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭にポンと手を置いて。
「みんなに中継してあげてくれるかな? ハーレイが何をしてるか見物しなくちゃ」
「オッケー! えっとね、あの壁を見てて」
小さな手がリビングの一角を示すと、浮かび上がった中継画面。教頭先生が家の玄関を入った所で大きな包みを抱えていました。
「…ブルーから荷物か…。何も話は聞いていないが…」
差出人の名前を確認している教頭先生。送り状を読んでいた視線がピタリと止まって…。
「抱き枕だと!?」
信じられん、と包みと送り状の品物の名前を交互に眺めまくった教頭先生は独自の結論に至ったらしく、包みを運んだ先は寝室ならぬリビングでした。
「これはブルーの悪戯だな。…私がブルーの写真を使った抱き枕を作りたがったのはバレている。期待させておいてガックリさせる魂胆だろう。あいつのことだ、何処かで見ているに違いないが…」
その手に乗るか、と教頭先生はコーヒーを淹れにキッチンへ。お気に入りの豆を挽き、サーバーを温め、のんびり手順を楽しんでいます。香り高い一杯が出来上がるとカップを持ってリビングに戻り、ソファに立てかけてあった抱き枕の包みと向かい合う形で腰掛けて。
「ふむ…。どうしたものかな、この枕を? 男性向けの絵柄の枕を寄越したに決まっているが、コーヒーで心も落ち着いたことだし、残念だが私は驚かん」
あらら。教頭先生、中身を誤解しているようです。ソルジャーも想定外だったらしく、その顔は実に不満そう。
「なんで好意を疑うのさ! 本物のブルーの写真の抱き枕なのに…。ねえ、ぶるぅだってそう思うだろ?」
「いつもの御礼に作ったのにね…。ハーレイ、ブルーが大好きだから」
素直で無邪気な「そるじゃぁ・ぶるぅ」は抱き枕が日頃の御礼に作られた品だとソルジャーに騙されたままでした。教頭先生の会長さんに対する熱い想いも全く理解していないので、抱き枕イコール会長さんのぬいぐるみという感覚です。まあ、私たちだってつい先日まで同じような勘違いをしてましたから…笑える立場ではないのですけど。教頭先生はコーヒーを飲み干し、やおら包みに近付くと…。
「さてと、中身を見てみるか。…この大きさは特注品だな。私の体格に合わせてきたのか? 使い心地だけは良さそうだ。怪しいカバーは捨ててしまって新しいのを作ればいいし」
ベリベリと包装紙を剥がし始める教頭先生にソルジャーは唇を尖らせています。
「新しいカバーを作るだって!? 自分じゃ注文できそうにないから代わりに作ってあげたのに…。なんだ、ヘタレじゃないじゃないか」
つまらない、とソルジャーが零すと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「…ん~と…。カバーってハーレイの手作りカバーのことだと思うよ、トランクスのカバー」
え。トランクスのカバーって…何? 私たちの視線が「そるじゃぁ・ぶるぅ」に集まりました。もしかしなくてもトランクスってアレですか? 青月印の紅白縞…?
「うん。ハーレイはね、ブルーがプレゼントしたトランクスの使い古しを抱き枕のカバーにリフォームしてる…って前に説明しなかったっけ? 忘れちゃった…?」
「「「………」」」
記憶を遡ってみる私たち。そういえば初めてトランクスのお届け物に付き合わされた1年生の夏休み明けにそんな話を聞いた気がします。それっきり二度と思い出しもせず、実物を目にしたこともないので綺麗に忘れていましたが…。
「…トランクスで抱き枕…? それはなんとも悪趣味だねえ…」
自分が履いてたヤツだろう、とソルジャーが顔を顰めます。けれど「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキョトンとして。
「だってブルーがあげたヤツだよ? 大事に使うって素敵なことだと思うけど…」
「そうかなあ? まあ、ブルーがくれたって所がハーレイにはポイント高いんだろうね。でも今日のプレゼントはもっと凄いし、もうトランクスのカバーは要らなくなるよ」
念願のブルーの抱き枕、と中継画面に見入るソルジャー。教頭先生は外側の茶色い包装紙と保護用のシートを丁寧に剥がし、お店のロゴ入りのグリーンの紙に貼られた熨斗紙を眺めました。
「御礼、ときたか…。いったい何の御礼やら。…男性向けは要らんのだがな」
よいしょ、と紙を解きにかかった教頭先生はピキンと固まり、たちまち顔が真っ赤になって…。
「…こ、これは…まさか…」
ブルー? と微かに動いた唇の形。包装紙の下から覗いていたのは会長さんの顔写真でした。

それから後の教頭先生は笑えるほどのドキドキっぷりで、壊れ物を扱うように包装紙をそーっと剥がしていって…。途中でウッと短く呻くと鼻にティッシュを詰め込みました。
「いかん、いかん。…うっかり汚しては大変だからな。どんなつもりでくれたにしても、この写真はブルーに間違いない。…もう一人の方より初々しいし…」
私たちはソルジャーの方を見、ソルジャーはフンと鼻を鳴らして。
「失礼なヤツ! ぼくの何処がスレてるって? 恥じらいが無いなんてことはないよね、そうだろう?」
「「「………」」」
同意を求められても私たちの気持ちは真逆。ソルジャーにはいつもとんでもない目に遭わされてますし、初々しさに欠けているのは事実でしょう。会長さんは不機嫌そうにしていましたが、教頭先生は包みを剥がし終わって感無量でした。
「………ブルー………」
ギュウッと抱き締め、頬ずりをして、その質感を堪能して…。
「ああ、まるでブルーがこの腕の中にいるようだ…。もう悪戯でもかまわんな。これを抱いて寝ている間に坊主頭にされるとしても、今夜はこれでいい夢を…」
教頭先生は抱き枕を大切そうに抱えて階段を上がり、寝室のベッドに置きました。会長さんの身長を再現しただけあって枕はかなり大きめですけど、教頭先生のベッドも立派ですから決して狭くはなりません。なんといっても会長さんとの新婚生活を夢見て購入されたベッドです。抱き枕にそっと布団を被せた教頭先生は足取りも軽く廊下の方へ…。
「もういいよ、ぶるぅ。お疲れ様」
ソルジャーの声で中継画面がフッと消え失せ、私たちはリビングで茫然自失。念願の抱き枕を手に入れた教頭先生、どんな夜を過ごすつもりでしょう? そして抱き枕のモデルにされた会長さんは…?
「どうだい、ハーレイの喜ぶ顔を見た感想は? 本当に君が好きなんだねえ…」
あてられちゃうよ、とソルジャーがクスクス笑っています。
「あの枕を抱いて寝られるんなら坊主頭にされても構わないそうだ。だからといってさせないけどね、このぼくが」
ソルジャーは会長さんの右手を掴み、動きを封じてみせました。
「ぼくは君のハーレイに同情したからあの抱き枕を注文した。君の名前で発注したけど、君が文句を言わないように資金もちゃんと用立ててきたし」
ほらね、とソルジャーが宙に取り出したのは紙封筒。中身のお札を何度か数えて会長さんに手渡します。会長さんは反射的に受け取ってからハッと息を飲んで。
「ちょっと待った! このお金っていったい何処から…? まさか…」
「ノルディがぼくにくれたんだよ」
「「「!!!」」」
しれっと言ってのけたソルジャーに私たちは仰け反りましたが、当のソルジャーは涼しい顔で。
「あ、抱き枕のことは言ってないから。…こっちの世界で遊びたいけどお金がなくて、とお願いしただけ。何をするのかなんて無粋なことは訊かれなかったよ、遊び慣れてるせいなのかな? 機会があれば食事でも…と言って気前よくくれた」
だからランチに付き合ったよ、とソルジャーはニッコリ笑っています。会長さんは呆れながらもお金を数えて封筒に戻し、奥に片付けに行きました。抱き枕の代金を支払う羽目に陥るよりは、エロドクターのお金といえども有難く貰うということでしょう。それから私たちはおやつを食べて、夕食は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が腕をふるった伊勢海老のポワレに骨付き仔羊のオーブン焼きに…。
「やっぱり地球の食材はいいね」
美味しいよ、とご機嫌で食事を終えたソルジャーの前にはデザートのティラミスのお代わりが。
「みんなも栄養つけた方がいいよ、今夜も覗き見しなくっちゃね。ほら、ハーレイと抱き枕の…さ」
きっと楽しい夜になるから、と教頭先生の家の方角を眺めるソルジャー。えっと…また覗き見をするんですか? 教頭先生と会長さんの写真がついた抱き枕の夜を観察しようと言うんですか…?

お泊まり会の夜は更けて…リビングで寛いでいるとソルジャーが「始まるよ」と囁きました。合図された「そるじゃぁ・ぶるぅ」が壁に映し出したのは教頭先生の家の寝室。お風呂上りらしき教頭先生がパジャマ姿でベッドに近付き、抱き枕に被せてあった布団を剥いで…。
「…ブルー…」
会長さんの写真が見える程度に照明を落とした部屋のベッドの上で、教頭先生は抱き枕を強く抱き締めます。誘うような表情の会長さんの姿に口付け、のしかかって足を絡ませて…。
「ふふ。ちゃんと発情できるじゃないか」
役立たずってわけでもないね、と笑みを浮かべているソルジャー。会長さんはパジャマの上から浴衣を着込んでガードを固めているんですけど、ソルジャーの方はパジャマだけ。それも抱き枕の写真に使ったのと同じミントグリーンのシルクだったり…。気持ち悪くはないんでしょうか?
「まさか。だってハーレイだよ、ぼくのハーレイと寸分違わない身体じゃないか。気持ち悪いなんて思いやしないし、それどころか…熱くなってきたかな」
ゾクゾクする、と言うソルジャーの頬には赤みがさしています。その姿が青い光を放って…。
「「「!!!」」」
抱き枕から会長さんの写真が抜け出し、しなやかな腕を教頭先生の逞しい背中に巻き付けました。
「…ねえ、ハーレイ…」
甘やかな声が教頭先生を呼び、私たちは中継画面の前で硬直状態。ソルジャーの姿は見当たりません。ということは、抱き枕の中から抜け出したのはソルジャーその人。ベッドの下に落ちた抱き枕に写真は印刷されていますし、サイオニック・ドリームだったのでしょう。教頭先生も仰天したらしく、暫し固まっていましたが…。
「……ブルー……?」
恐る恐る問いかけた教頭先生に会長さんのふりをしたソルジャーはコクリと頷いてみせて。
「うん。そう、ぼくだよ、ハーレイ…」
「ブルー…!」
ソルジャーの演技が上手かったのか、薄暗かったせいなのか。教頭先生は写真どおりのパジャマを身に着けたソルジャーをギュッと両腕で抱くと…。
「どうしてお前が…? あんなに嫌がっていた筈のお前が…」
「分からない? 恩返しだよ、いつもお世話になっているから」
「恩返し…?」
何かが変だ、と感じたらしい教頭先生。プレゼントの抱き枕に御礼の熨斗はかかっていても、流石に話が旨すぎます。教頭先生はソルジャーからパッと離れて、髪の毛に手を…。
「…ハーレイ? どうかした…?」
潤んだ瞳のソルジャーに、教頭先生はベッドの上で後ずさりながら。
「い、いや…。お、お前らしくないな、と思って…」
「そうだろうね」
キラリとソルジャーの瞳が輝き、身体を起こすと教頭先生に抱き付いたからたまりません。教頭先生はソルジャーに強く引っ張られてベッドに沈み、ソルジャーはその下敷きに…。
「ブルー! や、やめてくれ、私は坊主頭は…!」
「坊主頭って…まだブルーだと思ってる? 確かにぼくもブルーだけれど、坊主の資格は持ってないから君の頭は剃れないよ」
人違いさ、とソルジャーは教頭先生をしっかり捕まえたままで。
「こんなミスは初めてだよね。…抱き枕でよほど余裕を失くした? あの写真は君のブルーに間違いないし、ぼくが着ているパジャマは写真と同じ。欲情してたら目も曇るかな?」
「な、何故…。何故あなたが…」
「何故来たのかって?」
ソルジャーは慌てふためく教頭先生の首に腕を回して…。
「だから恩返しに来たんだってば。…薬を買ってくれただろう? スッポンが入った高い薬を。あれね、とっても役立ってるんだ。それでお礼にお手伝いをしようと思って…。筆おろしの」
筆おろし? それって何のことでしょう? 私たちは顔を見合わせ、互いに首を捻りました。会長さんの苦い顔つきからしてロクでもない意味の言葉かな? 教頭先生も耳まで真っ赤になってますけど、私たちには分かりません。ソルジャーは更に言葉を続けて。
「…ぼくの身体で筆おろし。恩返しにいいと思わない? 童貞のままじゃブルーは落とせやしないよ、シャングリラ・ジゴロ・ブルーだからね。筆おろしが済んだらぼくを相手に場数を踏んでいけばいい。ノルディみたいなテクニシャンになればブルーも落ちるさ」
キスひとつでね、と熱い吐息を漏らすソルジャー。
「おいでよ、ハーレイ。ブルーだって下手くそな君より上手な方が喜ぶと思う。だから…」
来て、とソルジャーは教頭先生の耳に唇を寄せましたが…。
「…………」
教頭先生はソルジャーの腕を掴んで解き、身体を離して自分のパジャマを整えています。
「なんで? ぼくは君が童貞なのが気の毒だからブルーの代わりに…」
「…あなたのハーレイはどうなります?」
「いいんだってば、あんなヘタレは!」
放っといても問題ないし、とソルジャーが言い募っても教頭先生は応じません。ベッドから降り、抱き枕をそっと抱えると…。
「私にはこれで十分です。ブルーを想っているだけで幸せですから」
「それもぼくがプレゼントしたんだけれど? スクール水着の写真よりもずっと素敵だろう?」
「…そうなのですか? ならば尚更、お礼なんかは頂けません。この抱き枕があれば独り寝くらい…」
ブルーと一緒に寝られますしね、と抱き枕に頬ずりをする教頭先生。会長さんが「おえっ」と呻き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がニコニコ顔で。
「よかったね、ブルー! ハーレイ、とっても喜んでるよ。ブルーの大きなぬいぐるみ♪」
「……聞きたくない……」
頭痛がする、と会長さんは頭を抱えています。ソルジャーは教頭先生のベッドの上で膨れっ面。本当に大人の時間を繰り広げる気だったのかどうかは分かりませんが、教頭先生が退けてくれたお蔭でまずはめでたし、めでたし…でしょうか?

「…ところで、ブルー」
抱き枕を寝室の椅子に立てかけた教頭先生はソルジャーの方に向き直りました。
「この枕はあなたからのプレゼントだと伺いましたが、ブルーの…こちらの世界のブルーの名前を騙ったのですか? ここに印刷されているブルーの写真はどうやって…?」
「ブルーからのプレゼントを装うことは騙ったことになる…のかな? 欲しかったんだろう、抱き枕。ブルーには色々と言ってやったんだ。君の一生のお願いくらい、聞いてあげても良かったのに…って。写真はそれの副産物さ」
「…あれをご存じだったのですか…」
恥ずかしそうに視線を落とす教頭先生。ソルジャーはクックッと笑い、「見ていたからね」と軽くウインク。
「福引大会の景品が抱き枕だなんて素敵じゃないか。それも抱き枕はブルー本人。君の他にも希望者が大勢いたようだけど、ブルーの狙いは悪戯で……君を坊主頭にすると脅してみたかっただけ。君そっくりの恋人を持つ身としては悲しくなるよ。しかも君が童貞だなんて聞いてしまうと…」
「…その話は何処で…?」
「えっと…」
ソルジャーは少し考え、それから瞳を私たちの方へと向けて。
「ぶるぅ、みんなをハーレイの家へ!」
「かみお~ん♪」
げげっ。ソルジャーと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の青いサイオンがシンクロしたかと思うと、私たちは教頭先生の寝室にドサリと放り出されていました。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も一緒です。仰天している教頭先生にソルジャーが鮮やかに微笑んで…。
「この子たちから聞いたんだ。いや、読み取った…と言うべきかな? それを肯定したのはブルー」
「…………」
教頭先生は言葉を失い、私たちは申し訳ない気持ちで一杯でした。童貞なのは秘密だったに決まっています。それがとっくにバレていたとは情けないでは済まないでしょうし…。一方、会長さんはパジャマの上から着込んだ浴衣の襟元を掻き合わせ、警戒心を隠していません。ソルジャーは会長さんの肩をポンと叩くと…。
「怖がらなくても平気だってば。ハーレイに君を襲うほどの度胸はないよ、抱き枕の相手が精一杯さ。…なんといっても童貞だもんね。ぼくがせっかく来てあげたのに童貞を捨てる勇気もないし。…そうだろ、ハーレイ?」
「………」
「あ、ブルー相手なら話は別かな? でもさ、経験値ゼロじゃいくら一生のお願いでもねえ…。男同士は難しいんだ。ブルーが痛い目に遭わされるのは、ぼくとしても…ちょっと困る」
けっこうブルーを気に入ってるし、とソルジャーは会長さんの頬にそっと触れて。
「ブルーには幸せになって欲しいんだ。君が相手ならなおのこと…ね。だから気が変わったらいつでも言って。君の練習に付き合うよ」
そして何処からか取り出したものは…。
「「「あっ!!!」」」
私たちの声が重なりました。ソルジャーの手のひらに載っていたのは赤い錦のお守り袋。そのお守りには嫌というほど見覚えが…。凝視している私たちの姿にソルジャーはクスッと小さく笑って。
「やっぱり気付いたみたいだね。…ハーレイ、これを知ってるかい?」
「い、いえ…。なんですか、それは?」
ありゃ。教頭先生、知らないんですか? あのお守りは会長さんがポケットに入れて持ち歩いているシャングリラ・ジゴロ・ブルーの必須アイテムだと思うのですが…。会長さんがフウと溜息をつきました。
「知るわけないだろ、ハーレイが。…だって童貞なんだから」
「……ブルー……」
そう何回も言わないでくれ、と嘆く教頭先生の手にソルジャーがお守りを押し付けて。
「そんな君のためのお役立ちグッズさ、このお守りは。…本物は君のブルーが女の子を口説くのに使ってるヤツで、中にぶるぅの手形を押した紙が入っているんだそうだ。そのお守りを窓に吊るすとブルーが忍んでいく仕掛け」
「な…なんですって!?」
「おっと、ブルーにお説教するなら、またの機会にお願いするよ。で、こっちのヤツはぼくがぶるぅに袋だけ分けて貰ったお守りなんだ。形さえあればぼくには十分。…君が練習したくなったら窓に吊るしてみるといい。ぼくが相手をしに来るからさ」
はい、と渡されたお守り袋が教頭先生の手で揺れていました。会長さんは真っ青になり、私たちも血の気が引いて行くのが分かります。…こんなアイテムを出されちゃったら、教頭先生、いつかフラッと吊るすのでは…。抱き枕だけで十分だなんて言ってはいても、心が迷ってしまうのでは…?
「…このお守りで……あなたが……?」
「うん。ぼくのハーレイも大好きだけど、君の相手を優先するよ。ぼくたちは最近マンネリ気味だし、童貞の君を仕込むというのも面白そうだ。それを聞いたらぼくのハーレイも焦って励んでくれるだろうしね」
脱・マンネリ! と拳をグッと握るソルジャー。教頭先生はお守り袋をじっと見つめていましたが…。
「お返しします」
「…え?」
「お返しします、と言ったんです。気遣って下さるのは嬉しいですが、やはり私はブルーを愛していますので…。ブルーが望んでいるならともかく、そうでないのに練習するなど…。ましてブルーそっくりのあなたに相手をお願いするなど、ブルーへの想いを裏切るようで…」
出来ません、と頭を垂れる教頭先生。
「ですからこれはお返しします。…私には必要ありません。どうぞ燃やしてしまって下さい、タイプ・ブルーのサイオンで」
「…いいのかい? 二度目は無いかもしれないよ」
「本当に必要ありませんから」
「…じゃあ…仕方ないね」
ポウッと青い焔が上がってお守りは消えてしまいました。ソルジャーの手には灰も残らず、赤い瞳が教頭先生をじっと見据えて…。
「君にはぼくは要らないらしい。せいぜいブルーと仲良くしたまえ、まずは抱き枕で練習からだね。いいかい、自分だけが気持ち良くなっていたんじゃダメなんだ。ブルーに喜んで貰えなかったら嫌われちゃうから頑張って」
じゃあね、と別れの言葉を短く告げてソルジャーの青いサイオンが迸ります。そこに「そるじゃぁ・ぶるぅ」のサイオンが重なり、私たちは再び空間を越えて会長さんの家に戻ったのでした。

やがてリビングで始まったのは懺悔大会。教頭先生が童貞なことを知っている、とバレてしまったのをどうするべきか…。柔道部三人組にとっては特に深刻な問題です。
「…困った…」
呟いたのはキース君。
「教頭先生が何であろうが、尊敬する気持ちは変わらない。そもそも前から知っていたしな…。しかし俺たちが知っていると先生にバレてしまったのでは…師弟関係にヒビが入りそうで…」
「そうですよね…。知ってて馬鹿にしてたのか、って思われるかもしれません」
大変ですよ、とシロエ君が言い、マツカ君も暗い顔。そもそも余計な知識を仕入れた上に後生大事に持っていたのが悪いんです。会長さんに記憶を消してもらっていたなら、こんなことにはならなかったのに…。私たちの懺悔と反省を聞いていたソルジャーが「消せば?」と口を挟みました。
「都合の悪い記憶だったら消してしまえばいいんだよ。…だけど消すのは君たちのじゃない。ハーレイの方さ。…ほら、エロドクターの人形の記憶をブルーが消していただろう? あの時みたいに消しちゃえばいい。君たちに童貞だって知られたことをね」
簡単さ、と微笑むソルジャー。けれど会長さんは今夜は動く気分になれないと言い、記憶の操作は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が代理で出かけて行きました。何も知らない子供ですけど、おつかい気分でトコトコと…。
「かみお~ん♪ ちゃんと消したよ、ハーレイの記憶! でも、ドーテーって何のこと? ハーレイ、とっても気にしてたけど」
「小さな子供は知らなくってもいいんだよ」
大人の話、とソルジャーが小さな銀色の頭を撫でてやりながら。
「ところでハーレイはどうしてた? ちゃんとぬいぐるみを持っていたかい?」
「うん! 大事に抱っこして寝ていたよ。あのままじゃ涎で汚れちゃいそうだし、サイオンでコーティングしてあげちゃった」
「「「コーティング?」」」
なんじゃそりゃ、と首を傾げる私たちの横で会長さんがソファにめり込んで呻いています。
「ぶるぅ…。アフターケアまでしなくっても…」
「ううん、ダメだよ、出来ることはきちんとしなくっちゃ! ハーレイ、ブルーが好きなんだから……なのに結婚してあげないんだから、ぬいぐるみは丈夫な方がいいでしょ?」
力説している「そるじゃぁ・ぶるぅ」。コーティングというのはサイオンで表面を覆って傷や汚れがつかないようにガッチリ保護する技術だそうです。会長さんの写真がプリントされた抱き枕は耐久性が飛躍的に増してしまったわけで…。
「ぶるぅ、いいことをしてあげたね。これでハーレイも頑張れる」
脱・童貞は目の前だ、とソルジャーがエールを送っているのも知らずに教頭先生は夢の中。そういえば夢なのに一線を越えられなかった事件なんかもありましたっけ。あれは1年生の秋のこと。収穫祭前の薪拾いで会長さんがベニテングダケを集めて作った幻覚剤。思い通りの夢が見られるというそれを教頭先生に一服盛って…。
「ふうん…。夢でも鼻血で沈没するのか」
ヘタレMAX、とソルジャーがケラケラ笑っています。
「確かに抱き枕だけで十分かもね、君のハーレイ。ぬいぐるみを抱いて寝ているだけで昇天しそうな夢を見てるし…。あ、昇天した」
「「「………」」」
ソルジャーは教頭先生の夢を探っていたようです。夢の中で会長さんを抱き締めていた教頭先生、そのままウットリ寝てしまったとか…。会長さんの膝枕で。
「あの調子じゃこれは使えそうもないね」
そう言ったソルジャーの手に現れたのはジルナイトで出来たソルジャー人形。
「やっぱり扱えるのはぼくのハーレイだけってことか…。君のハーレイを仕込む計画は断られたし、脱・マンネリはこの人形で努力させよう。…ブリッジのハーレイに人形を使って悪戯するのも楽しいけどね」
やっちゃったんだ、と武勇伝を語るソルジャー。
「ハーレイったら落ち着いて歩いてたつもりだろうけど、右手と右足が一緒に出てたよ。で、ブリッジを出るなりトイレにダッシュ」
思い出し笑いをするソルジャーはまたも人形遊び中。キャプテンが気の毒になってきました。この罪作りな人形よりは抱き枕の方がまだマシです。教頭先生が何をやっても会長さんの身は絶対安全。コーティングまでされちゃいましたし、大事に使えば一生モノかも? 教頭先生、童貞の件は喋りませんから、抱き枕だけで満足していて下さいね~!

 

 

 

 

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