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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

知りたい真実・第2話

ソルジャーと一緒に遊びに来た「ぶるぅ」にママはいません。卵を温めて孵化させるのは普通は親の役目でしょうが、「ぶるぅ」の場合はそれがソルジャーとキャプテンでした。ですから「ぶるぅ」は「ぼくにはパパが二人いるんだ!」が自慢の種。けれど本当はママがいるんじゃないか、と密かに思っているようです。
「だって…。ぼくだってママが欲しくなったりするんだもん。抱っこしてぎゅってしてもらったりとか…。ママって優しいものなんだよね? アタラクシアの街に行ったら優しそうなママが沢山いるよ」
アタラクシアというのはソルジャーの世界のシャングリラが潜む惑星にある街でした。惑星の名はアルテメシアで私たちが住む町の名前と同じです。惑星の方のアルテメシアは育英都市と呼ばれ、人工子宮で子供を作るSD体制下では、養父母として教育を受けたカップルが赤ちゃんを預かって一定の年齢になるまで育てる場所。
「優しそうなママ…か」
会長さんが「ぶるぅ」の言葉を受けて。
「そっちの世界のアルテメシアは子育て専門の星なんだろう? だったらママは優しいだろうし、そういう風に教育されているんだろうけど…。本物のママには色々あるよ」
「えっ?」
キョトンとしている「ぶるぅ」に向かって会長さんは続けました。
「ぼくたちの世界じゃ子供はママから生まれるわけで、それが本物のママってものさ。そして本物のママは特別な教育を受けてママになってるわけじゃない。だからいろんなタイプがあって、優しいだけとは限らないね」
「虐待なんていうのもあるしな…」
口を挟んだのはキース君です。
「ギャクタイ…? それって、なあに?」
キース君は首を傾げる「ぶるぅ」を見詰めて。
「悲しいことだが、この世界には母親になるための教育が無い。子供を生んだら誰でもママだ。…そして生まれてきた子供が好きになれない母親もいる。そういう母親が自分の子供に暴力をふるうのが虐待だな」
暴力の形は様々だが、とキース君は幾つか具体例を挙げ、「ぶるぅ」は「嘘…」と目を真ん丸くしています。
「それ、本当の話なの? ママが子供を殴ったりするの?」
「本当だ。最悪のケースだと子供が殺されてしまうこともある。…そうなる前に助け出して母親の代わりに育てる施設もあるんだぞ。俺の大学を経営している寺はそれに力を入れてるな」
学生ボランティアで手伝いに行ったことがある、とキース君は「ぶるぅ」に証言しました。
「だからブルーがさっき言ったように、ママは優しいとは限らないんだ。まあ、優しいママが基本だが」
「……そうなんだ……」
夢が壊れてしまったのでしょうか、「ぶるぅ」は俯いてじっとカップを見詰めています。可哀想なことをしたかな、と私たちはキース君の言葉に相槌を打っていたことを少し後悔したのですが。
「そっか…。ママは優しいだけじゃないんだ…」
いいこと聞いた、と「ぶるぅ」は顔を上げました。
「やっぱりぼくにもママがいるんだ! ハーレイがパパでブルーがママだよ!」
「「「はぁ!?」」」
どうしたらそんな結論になるのでしょうか? キース君と会長さんは一般論を話しただけだと思うのですけど…。ポカンとしている私たちを他所に「ぶるぅ」はソルジャーを指差して。
「ねえねえ、ブルーがママだよね? ハーレイは何処から見てもパパそのものだし、ママがいるとしたらブルーじゃないかと思ってたんだ。優しくないママもいるんだったらブルーがママでしょ、そうだよね?」
「「「………」」」
妙な話になってきた、と頭痛を覚えた私たちですが、ソルジャーは。
「…残念だけれど、それは違うね。何度も言っているだろう? ママがいるとしたらハーレイだよ、って。ママの形が色々あるならハーレイがママでも問題ないさ」
「やっぱりハーレイがぼくのママなの?」
「うん」
これは本当、と告げるソルジャーに会長さんが不快そうに。
「…嘘を教えるのは感心しないな。ママがいるんなら明らかに君だ」
逃げ口上は許さない、と会長さんは大真面目です。
「パパとママでは立ち位置が全く違うんだ。そしてブルーの立場はママさ。いいかい、ぶるぅ。難しいけどよく聞いて」
始まったのは保健体育の授業でした。子供が生まれるためにはパパとママがいないと駄目で、その過程を花に例えると…。これって「ぶるぅ」に分かるのかな? 「そるじゃぁ・ぶるぅ」は居眠りしかけていますけど…?

「とにかく、そういうわけだから…」
授業を終えた会長さんはソルジャーに視線を向けました。
「ブルーの立場はママに近いね。ただ、性別が男性だからママそのものではないけれど」
真剣に話を聞いていた「ぶるぅ」はコクリと大きく頷いて。
「うん、分かった。ブルーがぼくのママなんだね!」
わーい! と歓声を上げた「ぶるぅ」の頭をゴツンと叩いたのはソルジャーです。
「ママじゃないって何度言ったら分かるんだ! ママはハーレイ!!!」
「でも…。ブルーはママの役なんだもん…」
さっきしっかり教わったよ、と「ぶるぅ」は会長さんの授業を復唱しました。
「ハーレイの役はパパなんだから、ブルーがママになるわけでしょ? パパが二人だってブルーは言うけど、二人ともパパだとおかしいよ! ブルーがやってる大人の時間はパパとママでないと無理だもん」
パパ同士だと繋がらないよ、と「ぶるぅ」は思い切り爆弾発言。えっと、繋がるって……授業の中身や私たちの乏しい知識からしても、その表現が指し示すものは…。
「「「………」」」
私たちは耳まで真っ赤になってしまいました。けれどソルジャーは平然と。
「そうかな? パパ同士でも繋がってるよ、お前が気付いてないだけだ。ぼくとハーレイが入れ換わってることがあるだろう? 普段はぼくが下だけれども、ハーレイが下のこともある。…違うかい?」
え。なんの話ですか、下がどうこうって? 私たちは首を捻りましたが「ぶるぅ」はすぐに分かったらしく。
「ブルーが上の時だよね…。ハーレイが下になってるね」
「だろう? ぼくとハーレイが入れ換わってもOKなのが二人ともパパだという証拠さ。さっきのブルーの話を聞いたら、ぼくがママだと勘違いするのも無理はない。でもね…」
ママは下になるものなんだ、とソルジャーは真顔で指摘しました。
「ハーレイが下になっている時はハーレイがママというわけさ。二人ともママになれるんだから、お前のママはハーレイってことでいいだろう」
「そうなの? ちょっと残念…。ハーレイはママらしくないんだもん」
ゴツすぎるよう、と嘆きながらも「ぶるぅ」は納得したようです。でも…本当にそれで正解なんでしょうか? 上だの下だのと今一つよく分かりませんけど、何かが間違っているような…? そして案の定、会長さんが。
「改変しないでくれないかな? ぼくはきちんと講義したのに、間違った知識を教え込もうなんて最低だよ。どうしてもパパになりたいんなら、名実ともにそうすれば?」
冷たい口調で言い放たれて、ソルジャーは「うーん…」と腕組みしています。
「名実ともにパパというのは、ぼくにハーレイの立場に立てと? ハーレイを派手に押し倒せと?」
「やり方は好きにすればいいさ。押し倒そうが一服盛って意識が無いのを弄ぼうが、そんなのは知ったことじゃない。とにかく君のハーレイが受け身になればいいんだよ。ママと呼ぶのはそれからだ」
「「「………」」」
ようやく会長さんとソルジャーの会話が意味する所が分かってきました。まりぃ先生がいつも妄想している『受け』と『攻め』について論じているのです。ソルジャーは『受け』でキャプテンが『攻め』。それは周知の事実ですけど、「ぶるぅ」が頭を悩ませているパパママ論争に終止符を打ってキャプテンをママと定めたいなら、ソルジャーが『攻め』にならないと…。
「……困ったな……」
ソルジャーは心底困り果てた様子で自分の髪を引っ張りながら。
「ぼくがぶるぅのママというのは耐えられない。…あんなヘタレがパパと呼ばれて、ぼくがママ? 情けなくって涙が出るよ。ハーレイをママにしておきたいのに、君が余計なことを言うから、ぶるぅは疑り始めてる。ぼくをパパとして認めさせるにはハーレイとやらなきゃいけないわけか…」
「嫌ならやめておけばいい」
会長さんは涼しい顔です。
「どうしてもやれとは言っていないし? 君のぶるぅは渋々ながらも納得してるし、ゴリ押しするのは君の自由さ。ただし、ぼくたちは君をパパとは認めないけど」
きちんと正しい性教育、と会長さんは私たちを見渡しました。
「ね、君たちが万年十八歳未満お断りでも大体のことは分かるだろ? ブルーの立場はパパだと思う? それともママ? これだ、と思う方に手を挙げて。…はい、パパじゃないかと思う人は?」
手を挙げる人は誰もいません。
「じゃあ、ママだと思っている人は?」
私たちは横目でソルジャーを眺め、会長さんにジロリと睨まれて…。えーい、後は野となれ山となれです!

「ほらね、誰が考えてもママなんだよ」
勝ち誇っている会長さん。一方、ママだと決め付けられたソルジャーは…。
「そう来たか…。ぶるぅ、お前はどう思う? やっぱりぼくがママなのかい?」
「ママがいるならブルーがいいなぁ…。ハーレイはちょっと…」
イメージと全く違うんだもん、と「ぶるぅ」は何処までも正直でした。
「ママはエプロンが似合うものでしょ? それに服だって女の人の服だよね。…ハーレイ、船長服は似合ってるけど、女の人の制服は…」
おえっ、とソルジャーが呻きました。
「ぶるぅ、それは視覚の暴力だ。…エプロンだけで十分だろう」
「…でも…。シャングリラのみんなは制服だよ?」
ソルジャーと船長と長老以外は、と続ける「ぶるぅ」。私たちの脳裏にシャングリラ号のクルーの制服が浮かびました。もしかしてデザイン、おんなじですか?
「「…同じだよ」」
同時に答えるソルジャーと会長さん。うげえっ、と悶絶するのは今度は私たちでした。ぴったりフィットでミニスカートにタイツを履いたようなのが女性クルーの制服です。教頭先生そっくりのキャプテンがあの制服を着るかと思うと、もう、どうしたらいいのやら…。
「…だから形にはこだわらなくっていいんだってば!」
冷静に、とソルジャーが私たちの思考が暴走するのを遮りました。
「あの制服はぼくがママでも御免だよ。…ぶるぅ、イメージにばかり囚われていると本当のことが見えなくなる。どんなに似合わない姿形でもハーレイがママだ」
「じゃあ、ママだって証明してよ」
証拠を見せて、と「ぶるぅ」はソルジャーを真っ直ぐ見詰めて。
「こっちのブルーはブルーがママだって言ってるよ? 他のみんなもブルーがママだって答えたし…。ブルー、本当はママなんでしょ? 違うんだったらパパらしくしてよ」
ハーレイとやればいいんだよね、と「ぶるぅ」は先刻ソルジャーが言った言葉を蒸し返しました。
「ぼく、おとなしく見てるから! ハーレイが嫌がるんだったらシールド張って隠れてるから、えっと…なんだっけ? ハーレイを押し倒すんだっけ? いつもハーレイがやってることをブルーがすればいいんでしょ?」
本物のパパなら簡単だよね、と「ぶるぅ」はワクワクしている様子。卵の中にいた間に容赦なく『大人の時間』の胎教を受けてしまったおませな「ぶるぅ」は覗きに抵抗がありません。以前、教頭先生がヘタレ直しの修行をしたいと言い出した時は教頭先生と一緒にソルジャーとキャプテンのベッドインを覗き見していたそうですし…。
「……ぶるぅ……」
ソルジャーは頭を抱えてしまいました。好奇心旺盛なのが「ぶるぅ」です。しかも本当のママが誰なのか分かるときては、覗き見をしない筈もなく…。そしてソルジャーが普段通りに大人の時間を過ごしたとしたら、その場でママに決定するのは火を見るよりも明らかでした。
「…ママはハーレイにしておきたいのに、証拠を見せろと言われても…。やってしまったらハーレイは二度と立ち直れそうにないし、そうなるとぼくが欲求不満に…」
「へえ…」
会長さんが意地悪そうな笑みを浮かべて。
「じゃあ、やることは出来るんだ? あのハーレイを相手にねえ…」
驚いた、と大袈裟に肩を竦めてみせる会長さん。
「ぼくなら御免蒙るよ。ぼくは押し倒すのは慣れているけど、可愛くて柔らかい女性が専門。あんなゴツイのには全く食指が動かない。…無理して食べたら食中毒を起こしそうだ」
「その辺のところはぼくも同じさ。だけどママの座をハーレイに押し付けることが出来るんだったら、やってやれないことはない。…でもハーレイがどうなるか…」
ああ見えて結構繊細なんだ、とソルジャーは溜息をついています。
「胃薬を手放せないくらいの心配性でヘタレだからねえ…。それでもなんとか頑張ってるのが現状だ。ここでウッカリぼくにヤられたら、ぼく相手には勃たなくなるかも…」
直接的な表現でしたが、言いたいことは分かりました。そりゃそうでしょう、ソルジャー相手に『受け』をやらされたら、キャプテンは心に深手を負いそうです。心因性のEDなるものが存在するのは教頭先生が証明してましたから、キャプテンだってEDになる可能性が…。
「やっぱりダメ?」
出来ないんでしょ、と「ぶるぅ」が決めてかかります。
「ほらね、ブルーがママなんだよ! だからパパにはなれないんだよね」
「なれるって言っているだろう!」
「出来ないんならなれないよ。本物のパパなら出来るもん! ブルーが教えてくれたもん」
突っ込む方がパパで突っ込まれる方がママだもん、と子供ならではの無邪気さでもって言い切る「ぶるぅ」。
「ブルーが上になってる時でも、突っ込んでるのはハーレイだよね? それくらい、ちゃんと見てたら分かるもん!」
「「「………」」」
見てたのか、と私たちはテーブルにめり込みそうになりました。えっと…キャプテンが下でも突っ込まれているのがソルジャーってことは…。
「騎乗位ってヤツさ、まりぃ先生が描いてただろう」
サラッと告げる会長さん。ひいぃっ、やっぱりソレでしたか! まりぃ先生の妄想イラストでしか知らない世界ですけど、ソルジャー、また随分と積極的な…。そして「ぶるぅ」の方はと言えば、偉そうにエヘンと胸を張って。
「もう騙されたりしないもん! 証拠が無いならブルーがママで決まりだもんね。ありがとう、ブルー、教えてくれて」
会長さんにペコリと頭を下げた「ぶるぅ」は心底嬉しそうでした。ようやくママが誰だか分かったのですし、大喜びするのは当然でしょう。けれどソルジャーが「ぶるぅ」のママとは…。キャプテンよりかは似合ってますけど、本当にこれで良かったのかな…?

「ねえねえ、ママって呼んでもいい?」
ママだもんね、と「ぶるぅ」はソルジャーに纏わりついたり飛び跳ねたり。そんな「ぶるぅ」を「そるじゃぁ・ぶるぅ」が羨ましそうに眺めています。
「いいなぁ、ぶるぅはパパとママがいるんだ…。ぼくにはどっちもいないんだけどな」
「ぶるぅもママが欲しいのかい?」
会長さんが尋ねると「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「いなくてもいいけど、ハーレイがパパになってくれたらいいのになぁ、って思っちゃうよね。…だけどブルーが嫌がるし…」
「悪いけど、ハーレイと結婚するのは御免だから! ぶるぅのパパには良さそうだけど」
面倒見もいいし、子供の相手も上手だし…、と会長さん。教頭先生の夢は会長さんと結婚して「そるじゃぁ・ぶるぅ」を自分の子供にすることです。それに下心の有無はともかく「そるじゃぁ・ぶるぅ」を可愛がっているのも事実でした。シャングリラ号の公園で見かけたハードな鬼ごっこなんかが最たるもので…。
「……結婚ねえ……」
ソルジャーは遠い目をしていましたが、不意に何かが閃いたようで。
「そうだ! その手があったじゃないか。…ぶるぅ、証拠を見たいと言うなら見せてもいい」
ただし、と「ぶるぅ」の肩に手を置くソルジャー。
「ぼくがパパだとハッキリしたら、お前はパパを失うかもね」
「「「は?」」」
パパを失うってどういう意味? 二人いたパパが一人になるってことですか? 「ぶるぅ」も同じように考えたらしく、「かまわないよ」と答えたのですが。
「そうか…。かまわないならいいだろう。ついでに名前も変えて貰うが」
「「「名前?」」」
話が見えなくなってきました。「ぶるぅ」も首を傾げています。ソルジャーはクスッと笑って意地悪そうに。
「早い話が離婚の危機さ。ハーレイがぼくにヤられたショックで勃たなくなっても、ぼくが大人しく我慢していると思うかい? 役立たずのパートナーなんかはお断りだよ」
幸い相手に不自由はしない、とソルジャーは自信満々でした。
「こう見えてもぼくはモテるんだ。誘いをかけたら乗ってきそうな人は大勢いるから、さっさとそっちに乗り換える。ハーレイはお役御免で捨てられるんだよ、コブつきでね」
これがコブ、とソルジャーは「ぶるぅ」を指差して。
「こんな悪ガキがくっついてたんじゃ新しい相手も困るだろう? 離婚ついでにハーレイに押し付けてサッパリするのが一番さ。…ぶるぅ、ぼくが言ってる意味は分かるね?」
「えっ…。えっと……。えっと、もしかして、ぼくも捨てられちゃうの? ハーレイと一緒に?」
「そういうこと。ハーレイがママなんだから問題ないだろ、普通よりもずっと恵まれている」
お前はとても幸運だ、と続けるソルジャー。
「育英都市で養父母が離婚した時は、子供は新しい養父母の所に行くんだよ。もちろん記憶を処理されてね。…子供にはパパとママが揃っていないとダメだ、とSD体制では決められている。でもミュウはSD体制の規則に縛られないし、親が一人でも問題ないのさ。…お前も記憶を弄られずに済む」
良かったね、とソルジャーは「ぶるぅ」に笑い掛けました。
「月に一度くらいだったら青の間に来たって許してあげるよ、たまにはパパにも会いたいだろう? だけど普段はハーレイの部屋で暮らすんだ。ぼくとの縁が切れる以上は名前もきちんと変えないとね。…ハーレイの子供なんだし、それっぽく」
こんなのかな、とソルジャーが口にした名前は「きゃぷてん・はあれぃ」。だったらやっぱり「ぶるぅ」のママはソルジャーでは? だって「ぶるぅ」のフルネームは「そるじゃぁ・ぶるぅ」なのですし…。
「サンタクロースが勝手に決めてしまってたんだよ」
ざわめいている私たちにソルジャーがピシャリと告げました。
「そもそもぼく宛のプレゼントなんだし、その名前でも可笑しくないだろ? だけどハーレイが育てるんなら話は別だね。けじめはしっかりつけないと」
もちろん服も変えるのだ、とソルジャーは更に付け加えます。今の「ぶるぅ」は「そるじゃぁ・ぶるぅ」と同じでソルジャーの正装に似た服ですけど、それをキャプテンの船長服風に変えさせるとか…。
「これを機会にハッキリさせておかないとね。ぼくとハーレイがお前の親だとシャングリラ中が認めているのに、ハーレイときたら、ぼくとの仲すらバレていないと思ってる。…特別休暇を何度も一緒に取ってるんだし、馬鹿でも分かることなのにねえ?」
鈍いと言うにも程がある、とソルジャーは忌々しげに舌打ちをして。
「ハーレイがお前のママなんだというお披露目も兼ねて、お前の名前と服を変えよう。…それでもいいならパパの証拠を見せてもいいが」
「「「………」」」
えらいことになった、と私たちは声も出ませんでした。ソルジャーとキャプテンが離婚の危機で、「ぶるぅ」の名前と服装が変わる? ママの立ち位置から逃れるためならソルジャーはそこまでするんですか…?

難題を突き付けられた「ぶるぅ」は悩み始めました。ママが誰かは非常に気になるようなのですが、追及するとソルジャーがキレて離婚の危機。下手をすればパパが二人どころかママしかいない状態になり、そのママはゴツいキャプテンで…。
「……どうしよう……」
ブルーがママだと思うんだけど、と「ぶるぅ」は今にも泣きそうな顔。
「ねえ、ホントはブルーがママなんじゃないの? これってギャクタイって言うんじゃないの…?」
覚えたての言葉を使って「ぶるぅ」は泣き落としにかかりましたが。
「残念だけど、虐待するパパもいるんだよ。…そうだね、ブルー? それにキースも」
「確かにね…」
「ああ。父親が虐待しているケースも珍しくないな」
二人がかりで肯定されては「ぶるぅ」も反論できません。ソルジャーが自分がパパだと言い張る以上はキャプテンがママだと思っておくのが多分ベストなチョイスでしょう。けれど「ぶるぅ」は今一つ納得できないわけで…。
「……ブルーがパパだって証明されたら絶対に離婚?」
どうなるの、と「ぶるぅ」が縋るような瞳でソルジャーのマントを引っ張りました。
「ブルーがパパでも離婚しないなら、ハーレイがママでも我慢する…。やっぱりママは欲しいもん。ブルーがママだと嬉しいけれど、ブルー、ママにはならないんだよね?」
「もちろんだ。間違ってもママになる気はない。…だからママじゃないことを証明するのはかまわないさ。もっともそれを証明したら、もれなく離婚になると思うが」
「……そっか……」
やっぱり離婚しちゃうんだ、と「ぶるぅ」は俯いて深い溜息。もう諦めた方がいいだろう、と私たちは思ったのですが。
「ぶるぅ」
ソルジャーの唇に笑みが浮かんでいます。
「一つだけ道が無いこともない。ぼくがパパだと証明できて、ハーレイとも離婚せずに済む道」
「えっ、ホント?」
「本当だ。…要はハーレイに突っ込みさえすればいいんだろ?」
ひぃぃっ、なんて直接的な! 私たちは揃ってドン引きでしたが、ソルジャーは全く気にせずに。
「お前がそれでハーレイをママと認めるんならやってやる。…どうなんだ、ぶるぅ?」
「…んーと……。えっとね、ホントに離婚はしない? ぼくの名前も変えなくていい?」
「離婚しない以上、名前も服も変えなくていい。ハーレイがママに決まるだけだ」
「そっか! じゃあ、それでいい。…だけどホントにハーレイがママ?」
似合わないよう、と呻く「ぶるぅ」にソルジャーは。
「文句を言うなら離婚してもいいが?」
「うわーん、言わない! 言わないから離婚しないでよう!」
「ぼくだって離婚したくはないさ。…ハーレイがヘタレでも気に入ってるしね。だけど突っ込まれっぱなしじゃ、お前にママだと言われるし…。ここは一発、頑張るまでだ。ハーレイに突っ込めたらパパなんだな?」
身も蓋も無い表現を重ねた挙句にソルジャーはニヤリと笑いました。
「…こっちの世界にもハーレイはいる。見た目も名前もそっくりなんだし、あれもハーレイには違いない。…どうする、ぶるぅ? こっちのハーレイに突っ込めたなら認めるか?」
「………。そうだね、見た目はおんなじだね……」
離婚しないならそれでいいや、と「ぶるぅ」は大きく頷きましたが、私たちはそれを遠い世界の出来事のようにポカンと見ているだけでした。ソルジャーはなんて言いましたっけ? こっちの世界にもキャプテンがいて、そのキャプテンに突っ込めたならソルジャーが「ぶるぅ」のパパに決定で…。って、えぇぇっ!? それってもしかして教頭先生? ソルジャーが教頭先生に突っ込むだなんて、衝突って意味ではないですよねえ…?



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