忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

知りたい真実・第3話

ソルジャーがキャプテンと押し付け合っている「ぶるぅ」のママの座。不毛なパパ・ママ戦争ですけど、いきなり火の粉が降って来ました。ソルジャーがパパの座を獲得するべく「ぶるぅ」に向かって提案したのは、キャプテンと過ごす大人の時間に『攻め』の立場になることで…。
「よし。それじゃこっちの世界のハーレイに突っ込むことにするから」
それなら離婚しなくて済む、とソルジャーは軽くウインクして。
「ぼくのハーレイが傷つかなければ全然問題ないわけだしね。お前もその方が安心だろう?」
「うん! ママが決まるのは嬉しいけれど、ママしかいなくなるのは嫌だよ。名前も服も変えたくないし…」
こっちの世界のハーレイ相手でかまわないや、と頷く「ぶるぅ」。…ちょ、ちょっと待って! 勝手に話を進めてますけど、教頭先生はどうなっちゃうの? 私たちは硬直していましたが、やっとのことで我に返ったらしい会長さんが。
「ストップ! それはないだろ、論点が完全にズレてるじゃないか」
「どこが?」
ソルジャーは怪訝そうな顔をしています。
「ズレていないよ、君だってさっき言ったじゃないか。パパになりたいなら名実ともにそうしろって」
「君の世界のハーレイ相手にパパになれって言ったんだよ! なんでこっちのハーレイに…」
「離婚になると困るからさ」
決まってるだろ、とソルジャーは「ぶるぅ」に視線を向けて。
「ぶるぅは離婚されるのは嫌みたいだし、ぼくだって嫌だ。ハーレイはパートナーとしては最高なんだよ、色々と難点は多いけれども」
「最高なのは君が受け身の時だろう! 違うんだったら君のハーレイで試せばいいんだ、それが出来ないなら君がぶるぅのママだってば!」
「…どっちがママかで揉めた挙句に離婚というのは悲しいじゃないか」
ねえ? と私たちを見回すソルジャー。
「ぶるぅは小さな子供なんだ。まだまだ親が恋しい年だよ。そんな子供がいるというのに、つまならいことで離婚するのは可哀想だろ?」
「…まあな…」
キース君がうっかり応じてしまい、ソルジャーは我が意を得たりとばかりに…。
「ほらね、だから離婚は回避しなくちゃ! だけどぶるぅはママが欲しいし、ぼくはママにはなりたくないし…。こうなると方法は一つしかない。こっちの世界のハーレイ相手にパパだと証明するしかないのさ」
「わーい!」
躍り上がったのは「ぶるぅ」でした。
「ぼくのママが決まるんだぁ! ホントはブルーがママだった方が嬉しいけれど、どっちがママかハッキリするならハーレイがママでもかまわないや!」
ママが出来るの嬉しいもん、と「ぶるぅ」はピョンピョン跳ねています。イメージに合わないママであっても、パパが二人よりいいのかな? ママは欲しかったみたいですし…。って、いけない、流されてしまう所でしたよ! キャプテンをママの座に据えるためには、まずは教頭先生を…。
「却下!!!」
会長さんが叫びました。
「なんでハーレイを巻き込むのさ! ぶるぅのパパとママを決めるんだろ? 君たちの間の問題じゃないか!」
「だから離婚の危機なんだって何度言ったら分かるんだい?」
肩を竦めてみせるソルジャー。
「ぼくがハーレイをヤってしまったら離婚の危機だと言ってるんだよ。だけどこっちのハーレイだったらヤっちゃっても何も問題ないよね。…それとも君が困るとか?」
「えっ…」
返答に窮する会長さんにソルジャーは。
「困るわけないと思うけどな。君にとっても渡りに船だろ? ぼくにヤられたら君のハーレイも目が覚めるかもしれないよ。結婚したいと言わなくなるかも」
いいことだよね、とソルジャーは笑みを浮かべています。
「君にハーレイと結婚する気は無いし、応えようとも思っていない。だったらこの際、スッキリさせればいいじゃないか。…それとも熱く想われてるのが快感なのかな? だとすると君も本当はハーレイのことが…」
「違う!」
「それなら放っておけばいい。ハーレイが君から離れていったら万々歳だろ」
これで決まり、と片目を瞑ってみせるソルジャー。
「君はハーレイから逃れられるし、ぼくはパパの座が手に入る。さてと…。決行するのはいつがいいかな、今すぐっていうのはマズイよね? 試験中はハーレイも忙しそうだし、期末試験が終わってからか…。そうだ、いつも最終日は打ち上げパーティーをしてるんだっけ、君のハーレイにお金を出させて」
「…そうだけど…?」
「それじゃ、その日にしておこう。ぼくとぶるぅも打ち上げパーティーに混ぜてもらって、その後で…。パーティー会場は君に任せる。…ぶるぅ、楽しみにしておいで。もうすぐママが決まるから」
じゃあね、と言うなりソルジャーは「ぶるぅ」と一緒に姿を消してしまいました。えっと……帰っちゃったんですか? 私たち、これからどうすれば…?

「……大変なことになっちゃった……」
会長さんが呟いたのは、かなり時間が経ってから。あまりのことに思考が停止していたようです。
「あれってブルーは本気だよね? 冗談だったと思うかい?」
「…残念ながら本気だろうな」
思いっきり、とキース君。
「ぶるぅの親の座で争っていたとは知らなかったが、あいつがママ役に甘んじるとは思えない。そのママの座から逃げるためなら無茶なことでもやらかすだろうさ」
「それで教頭先生なわけ?」
ジョミー君がフウと溜息をついて。
「確かにキャプテンそっくりだけど、どうなるんだろ? …それに打ち上げパーティーは?」
「…お前…」
キース君が呆れ果てた顔で。
「この状況で打ち上げパーティーの心配か? 今はそれどころじゃないだろうが!」
「だって…」
仕方ないじゃん、とジョミー君は唇を尖らせました。
「ぼくたちに何が出来るのさ? ソルジャーの世界に殴り込みなんか出来やしないし、思念波だって届かないし…。それにソルジャーが教頭先生に何かする時は蚊帳の外だよ、ぼくたち全員。…だって力で勝てると思う?」
シールドの中に閉じ込められるのが関の山、とジョミー君は諦観しています。それは確かに当たっていました。ソルジャーと同じタイプ・ブルーの会長さんでも経験値の差で敵いませんし、ソルジャーがこうと決めたからには覆すことなんて出来っこなくて…。
「「「………」」」
沈黙が部屋と私たちを覆い、誰もがどんより暗い顔。期末試験中は安全ですけど、最終日にはソルジャーが再びやって来ます。でもって打ち上げパーティーに同席した上、その後、教頭先生を…。
「…どうしよう…。ハーレイに相談した方がいいのかな?」
会長さんが途方に暮れた様子で言うとキース君が。
「なんて言う気だ? 逃げて下さいって言った所で多分無駄だぞ、逃げ切れるような相手じゃない。ドアもシールドも通用しないし…」
「そうだよね…。ハーレイを一人にしたら確実にブルーにやられちゃうよね…」
考え込んでいる会長さん。教頭先生がどうなってしまうのか、私たちには読めませんでした。もしもソルジャーにヤられてしまったら、教頭先生の会長さんに対する想いは消えるのでしょうか? それはそれで平和なようにも思えますけど、会長さんの大事なオモチャがなくなりそうな気もします。
「…ハーレイがブルーにヤられちゃったら、どうなると思う? ぼくを怖がって近付かないとか?」
会長さんの問いに私たちは困惑しました。大人の心理はよく分かりません。ただ、あちらの世界のキャプテンの場合、ソルジャーにヤられちゃったら離婚の危機だと言ってましたし、やっぱり教頭先生も…?
「うーん、ED再発は有り得るかもね」
私たちの心を読み取ったらしい会長さんが首を捻って。
「そうなるとハーレイは身を引きそうだし、ぼくはオモチャに逃げられてしまう。治療しようにも原因がアレじゃ大変そうだ。自信回復して貰うにはそれなりの手段が必要だから…。まあ、サイオニック・ドリームでいいんだけどね」
「…ブルー、それっって…」
サム君が震える声で尋ねました。
「サイオニック・ドリームって……まさか……」
「そのまさかだよ。自信回復にはぼくを食べさせるしかないだろう?」
「「「!!!」」」
パニックに陥った私たちに、会長さんは。
「ただ、問題はハーレイのヘタレ加減にあるんだよね。サイオニック・ドリームで食べさせるのはブルーで十分なんだけれども、ハーレイは究極のヘタレだからさ…。夢の中でも完食できない可能性大。それじゃ自信回復には繋がらないし、無論EDも治らない。…つまりハーレイがヤられちゃったら、ぼくのオモチャがなくなるわけだ」
困るよね、と会長さんは腕組みをして。
「不本意だけど、ハーレイを守り抜くしかないか…。打ち上げパーティーまでに何か方法を考えなくちゃ。もっとも相手はあのブルーだから、勝てなかった時には諦めるしかないんだけどね」
「ぶるぅを丸めこむのはどうだ?」
キース君が口を開きました。
「証明しなくていいんだったら教頭先生は関係ないぞ? あいつのママはキャプテンってことで納得させれば済む問題だ。食べ物でなんとかならないのか?」
「…それは話がループするだけだよ」
会長さんが顔を顰めて。
「こうなった原因を忘れたのかい? 君たちのママの料理談義が発端なんだよ。いくらぶるぅが食いしん坊でも食べ物はタブー」
「「「………」」」
そうだった、と天井を仰ぐ私たち。この問題はそう簡単には解決しそうにありません。万年十八歳未満お断りの頭で出せる知恵など知れていますし、会長さんに任せておくしかないのかな…?

翌日からソルジャーの名前は禁句になってしまいました。その日の分の試験が終わると「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に集まって昼食に雑談、ティータイム。試験期間中の長い放課後が過ぎてゆく中、誰も話題を蒸し返せないまま、とうとう打ち上げパーティーの日が…。
「例の話、どうなっているんでしょうね?」
シロエ君が声を潜めたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ向かう途中の中庭。カッと照りつける夏の日差しに重い話題は似合いません。本当だったらこれから楽しく打ち上げパーティーだったのに…。
「ブルーが何か策を講じたと思いたいぜ」
そう祈る、とキース君。
「ダメだった時は覚悟するしかないだろうな。…間違えるなよ、一番の被害者は俺たちじゃない。教頭先生はあの場にはいらっしゃらなかったし、今だって何もご存じない筈だ」
『そうでもないよ?』
飛び込んで来た思念は会長さんのものでした。
『ハーレイにも話はつけてあるんだ。外は暑いし、早くおいでよ』
ぶるぅの部屋に、と続く思念波に私たちは顔を見合わせ、足を速めて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へと…。会長さんは解決策を考えついてくれたのでしょうか? 教頭先生に話をつけたと言っていたからにはそうですよね?
「やあ。…いつも来るのが遅いよねえ」
会長さんがソファに腰掛けて冷たいジュースを飲んでいます。
「ぼくは終礼には出てないけれど、試験は一緒に受けてたんだよ? 君たちがなかなか来てくれないと退屈になってしまうじゃないか」
「…仕方ないだろう、ここでは話せないこともあるんだ」
言い返したキース君に会長さんはニヤリと笑って。
「今日の打ち上げパーティーのこととか? …ふふ、会場はもう決まってるんだ。ブルーが押し掛けてきても平気な所で、少々騒いでも問題ない場所! それじゃ行こうか」
またか、と私たちは遠い目になりました。定期試験の打ち上げパーティーは教頭先生がスポンサーです。出掛ける前には教頭室へ行って熨斗袋に入ったお金を貰ってくるのが恒例で…って、あれ? 会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の身体から青いサイオンが…?
「飛ぶよ、ぶるぅ!」
「かみお~ん♪」
パァァッと青い光が溢れてフワリと身体が宙に浮き…。ストンと降り立った先は教頭室ではありませんでした。見慣れた庭と二階建ての家。これってもしかしなくても…。キョロキョロしている間に会長さんがポケットから取り出した鍵で玄関の扉を開け放って。
「入りたまえ。打ち上げパーティーの会場はここだ」
「「「えぇっ!?」」」
「ハーレイを一人にしないためには最高の場所だと思わないかい?」
そこは教頭先生の家。よりにもよってソルジャーに狙われている教頭先生の家へ押し掛けるとはビックリです。しかも鍵を開けていたってことは教頭先生、お留守ですよね…?
「ハーレイはまだ学校だよ。でも打ち上げパーティーの開始時間は教えてあるから、それまでにはちゃんと帰ってくる。ブルーの方もそれに合わせて来るんじゃないかと思うけどな」
ぶるぅもね、と付け足す会長さん。教頭先生、会長さんからどんな話を聞いたんでしょう? 騙されてらっしゃらなければいいが、と祈るような気持ちで私たちは中に入りました。お留守ですけど、お邪魔しまぁ~す!

勝手に上がり込んだ私たちはリビングを占拠しクーラーを入れて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飲み物を用意してくれて…。その内にチャイムが鳴り、ケータリングのパーティー料理の到着です。夏野菜のジュレや色とりどりのテリーヌ、中華チマキにサイコロステーキ、何種類ものカレーなんかも。
「ぶるぅが選んだメニューなんだよ」
美味しそうだろ、と会長さん。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手際よく料理を並べ終わるのを見計らったようにリビングの空気がユラリと揺れて…。
「こんにちは」
「かみお~ん♪」
現れたのはソルジャーと「ぶるぅ」。食い意地の張った「ぶるぅ」がテーブルに突進しようとするのをソルジャーが首根っこを掴んで引き戻すと。
「こら! お前のママが決まる日くらいは行儀よくしないと放り出す! 放り出されたら覗き見するのも不可能になるが?」
「うわぁ~ん、ごめんなさーい! お行儀よくするから放り出さないで!」
「分かればいい。…こっちのハーレイが帰ってきたら挨拶するのも忘れないように」
「はーい!」
ソルジャーと「ぶるぅ」のやり取りに私たちは頭を抱えました。やはりソルジャーは教頭先生を食べる気なのです。そして「ぶるぅ」は決定的瞬間を見届けるために来たわけで…。教頭先生は事情をご存じの上で会場を提供して下さったのでしょうか?
『まさか』
思念の主は会長さん。けれど…。
「いけない、ブルーには思念波なんかは筒抜けだっけ」
内緒話は無理だった、と苦笑いする会長さん。
「どうせブルーは覗き見してたと思うんだけどね…。ハーレイには打ち上げパーティーの会場に家を貸してくれとだけ言ったんだ。ブルーとぶるぅが来たがってるから下手な店では寛げない、とね」
「…あんたの家でやればいいとは言われなかったか?」
キース君の冷静な突っ込みに会長さんは。
「言われなかったよ? 賑やかなのは好きらしい。それにさ、ぼくを自分の家に招待できるチャンスじゃないか。嫌なんて言うわけがない。…自分で播いた種なんだから、しっかり刈り取って貰わないとね」
「ふふ、君も話が分かるじゃないか」
そう言ったのはソルジャーでした。
「ぼくまで引っ張り込んだからには何が起こっても自己責任って言いたいんだろう? だけど君のハーレイにとっても悪い話じゃないと思うよ。…ぼくと楽しくやれるんだから」
「「「………」」」
ぼくに楽しくやられる、の間違いだろう、とソルジャーを睨み付けた所でガレージの方で車の音が。教頭先生が帰ってきたようです。早速迎えに飛び出して行く「そるじゃぁ・ぶるぅ」。お留守の間に家を占領され、あまつさえソルジャーに食べられる予定になっているとは、教頭先生、お気の毒としか…。

スーツの上着を脱いでネクタイを外した教頭先生を囲んでパーティーは大いに盛り上がりました。最初はジュースだけでしたけども、教頭先生が秘蔵のお酒を持ち出してきて会長さんに勧め、それをソルジャーが横から掠めて…。いいんでしょうか、お酒まで飲んでしまっても? ソルジャーの思う壺なのでは…?
『甘いね』
こっちのハーレイはザルだから、とソルジャーの思念が届きます。
『そんな相手に秘密兵器! 効果はとっくに実証済みさ』
「「「え?」」」
思わず声に出した私たちの前でソルジャーが小さな瓶を宙に取り出しました。中には赤い液体が入っています。
「どうかな、ハーレイ? ぼくの世界のカクテルだけど、君はカクテルは飲まないクチ?」
「あなたの世界のカクテルですか? それは珍しいものですね」
頂きます、と教頭先生が差し出したグラスにソルジャーが瓶の中身を注ぎ、教頭先生が一気に飲んで。
「…御馳走様でした。甘かったですが、なかなかに…」
「美味しいだろ?」
ニッコリと綺麗に笑うソルジャー。
「しかも美味しいだけじゃないんだ。即効性でね、すぐに効果が表れるのさ。…どう? 欲しくないかい、このぼくが?」
「…………」
教頭先生の息が荒くなってきていました。ひょっとしてあれは…あの液体は…前にソルジャーが会長さんに差し入れていた催淫剤? 教頭先生がヘタレ直しの修行に行った直後に「ぶるぅ」が届けに来たハート形の箱に詰められたヤツ。会長さんが教頭先生に飲ませてしまって大惨事になった強力な…。
『そう、それ。ぼくのハーレイには効かないけれど、こっちのハーレイにはよく効くんだよね』
ソルジャーは教頭先生の首に腕を絡ませ、耳元に囁きかけました。
「ぼくとベッドに行こうよ、ハーレイ。大丈夫、優しくしてあげるからさ。…ぶるぅ、ぼくがパパだって証拠を見においで」
「うん!」
フッと三人の姿が消え失せ、顔色を失くす私たち。
「まずい、俺たちも行くぞ!」
キース君が二階の寝室に向かって走り出そうとした時です。何の前触れもなく空間が歪み、ドサリと何か重たいものが…。
「「「キャプテン!?」」」
そこには船長服に補聴器をつけたキャプテンの姿がありました。床に腰を打ちつけたようですけども、低く呻きながら起き上がって…。
「ここは? …ブルーはどちらに?」
私たちは揃って二階を指差し、キース君が「こっちです!」と案内しようとしたのですが。
「ちょっと待って。そのままじゃ駄目だ」
会長さんがキャプテンを引き止め、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキャプテンの袖を引っ張って。
「えっと、あのぅ…。ごめんね、ぶるぅみたいに上手に運んであげられなくって」
初めてだから、と謝る「そるじゃぁ・ぶるぅ」。キャプテンをこちらの世界へ呼び寄せたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」だったみたいです。すると最初から会長さんは全て計算済みで…? 会長さんは私たちに「うん」と頷き、先に行くよう促しました。
「事情を説明したらすぐに行くから! まだ大丈夫だと思うけど!」
「任せとけ!」
いざとなったら投げ飛ばす、と駆け出したキース君に私たちも続きました。あちらのキャプテンが来てくれた以上、教頭先生は助かりますよね? 催淫剤を飲まされてたって、EDの危機にはなりませんよね…?

「失礼します!」
バァン! と扉を開け放ったキース君に向けられたのはソルジャーの赤い瞳でした。
「…無粋だねえ…。これからゆっくり楽しみたいのに、もう割り込んで来たのかい? ぶるぅ、その連中を食い止めて」
「かみお~ん♪」
途端に私たちの足は寝室の床に吸いつき、そこから一歩も動けません。ソルジャーは教頭先生を横たわらせたベッドに乗り上げ、「ぶるぅ」が期待に瞳を輝かせています。
「…もっと力を抜いて、ハーレイ。慣らさないと君が辛いだけだよ」
「で、ですが…」
「気に入らない? そうだろうねえ、君には不本意な形だろうし? …だけど薬の効果を抜くにはイくのが一番! 優しくするから大人しくしてて」
ソルジャーは本気で教頭先生を食べる気でした。十八歳未満お断り、とばかりに私たちの視界にモザイクをかけているのがその証拠。教頭先生は薬のせいで力が入らず、どうにもならない様子です。会長さんは何をしてるのでしょう? このままでは教頭先生は…。
「駄目だ、優しくしてられないな。余計なお客が来たようだ。…ごめん、ハーレイ」
「「「!!!」」」
時間が無い、と言ったソルジャーが教頭先生の足を大きく開かせ、身体を進めようとした時のこと。
「お待ち下さい!!」
転げ込んで来た人影がガバッとその場に土下座して…。
「ソルジャー、申し訳ございませんでした! どうか…、どうかお静まりを…」
「…お前までぼくの邪魔をするのか?」
振り返ったソルジャーがその場に凍り付きました。そこへ会長さんがスッと近付き、教頭先生の腕に何かを注射して…。
「ハーレイ、中和剤を打ったから。…ある所にはあるものだねえ。あっちじゃセットで売ってるそうだよ」
すぐに効くから、と会長さんは教頭先生の乱れた服を整えて…。
「ブルー、いつまでそうしているんだい? 君の面倒までは見てあげないよ、それとも君のハーレイに頼むのかな?」
土下座しているキャプテンを会長さんが見下ろしています。ソルジャーはぎこちない手つきで服を直すと、引き攣った声で。
「…ハーレイ…。そ、その格好は何の真似だ…?」
「ぶるぅのママです!」
そう言い切ったキャプテンの大きな身体を包んでいるのはシャングリラ号の女性クルーの制服でした。視覚の暴力としか言えない姿に「ぶるぅ」も固まってしまっています。
「ぶるぅ、私がお前のママだ。…お前がママを捜しているのは知っていたのに、隠そうとしてすまなかった。これで分かってくれただろうか?」
「えっと…。じゃあ、ブルーがパパで合ってるの?」
「そうだ。お前のパパはブルーで、私がママだ。この格好は皆に見せられないから、ずっと黙っていたのだが…」
おいで、と呼ばれた「ぶるぅ」は「ママ!」と叫んで勢いよくキャプテンに飛び付きました。
「わーい、ママだぁ、本物のママだぁ! 抱っこして、ハーレイ、ぎゅってして~!」
大喜びの「ぶるぅ」はキャプテンのゴツさも、女性クルーの服の似合わなさもどうでもよくなったようでした。そんなにママが欲しかったのか、と微笑ましく見守る私たち。教頭先生も会長さんから今までの経緯を聞かされ、催淫剤の効果が切れたこともあって「良かったな、ぶるぅ」と穏やかな笑みを浮かべています。ついに決まった「ぶるぅ」のママ。…キャプテンの女性クルー姿は御愛嬌ってことでいいですよね?

「本当にお前がぶるぅのママでいいんだな?」
言い訳は二度と通らないが、と勝ち誇った顔でキャプテンを見詰めるソルジャー。
「その服、こっちの世界のぶるぅが頑張って作ったようだけど…。なかなか上手に出来てるじゃないか。そんな姿を見せられちゃったら誰でもママだと納得するよね。さてと、ぶるぅのママも目出度く決まったんだし、せっかくだからママらしくしてもらおうか」
「…は…?」
怪訝そうなキャプテンにソルジャーは悪戯っぽい瞳を向けると。
「お前がぶるぅのママなんだろう? パパだと証明していた途中で止められちゃったから不完全燃焼なんだよ、今のぼくはね。…ママを相手に続きをしないと収まりそうもないんだけども」
早く帰ってベッドに行こう、とソルジャーの身体から青いサイオンが立ち昇ったかと思うと、ソルジャーもキャプテンも「ぶるぅ」の姿も消えていました。…ひょっとしてソルジャー、本気でキャプテンをママ役に…?
「…脅しただけだと思うけど?」
そうに決まってる、と会長さんが伸びをしています。
「あっちのハーレイを相手に出来るんだったら最初から騒ぎにならないよ。…ハーレイ、とんだ災難だったね。今日の記憶は消したいかい?」
「…いや…。薬のせいかハッキリしないし、消したいとまでは思わんな」
「それはなにより。だったらパーティーの続きをしようか、ピザとパスタの出前でも取って」
会長さんの案に私たちは大歓声。お料理はまだ残ってますけど、仕切り直しといきたいです。試験は無事に終わりましたし、「ぶるぅ」のママもやっと決まったわけですし…。
「ああ、それだけどね」
リビングに戻った会長さんが出前の注文を取り纏めながら溜息をついて。
「ぶるぅのママはあれで決定じゃないと思うよ、今日の所はああいう形に落ち着いたけど」
「「「は?」」」
「だからさ、ぶるぅのママは確定してはいないんだ。元々いないと言ってもいい。今回の騒ぎの間にできる範囲で調べてみたけど、これという決め手が無いんだよ。…ぶるぅはこの先も悩むと思うし、ママの座の押し付け合いだって続くと思う。…つくづく不毛な争いだよね」
ブルーがママでいいじゃないか、と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に出前の電話をかけさせながら。
「自分の立場を認めた方がブルーのためだと思わないかい? そうすれば全て上手くいく。あっちのハーレイがヘタレだろうが、ブルーの押しが強くなければ全然問題ないんだよ。…まずはママの立場を認めることから! 素直になったら万事解決!」
夫婦円満の秘訣だよね、と会長さん。あのソルジャーがママの立場を認めるとはとても思えませんが…。だからこその騒ぎだったと思うんですけど、その辺のことはどうすれば…?
「分かるわけないだろ、そんなこと」
そもそもぼくとは立場が違う、と会長さんは教頭先生を指差して。
「こんなのを相手にヤろうとする趣味はぼくには無いし! プロポーズだって断ってるし、ブルーの気持ちは分からないよ。ぶるぅだって同じさ、パパもママも欲しがったことは一度も無いしね。ね、ぶるぅ?」
「えっと…。いないから欲しいと思わないけど、ハーレイがパパになってくれたら嬉しいよ?」
「……ぶるぅ……」
ズーンと落ち込む会長さんを見て教頭先生が笑っています。酷い目に遭わされかけた教頭先生、いつか会長さんと結婚出来たりするのでしょうか? それよりも先に「ぶるぅ」のママが決まるかな? どちらもとても難しそうだ、と私たちは溜息をつきました。難しくっても構いませんから、二度と周りを巻き込まないで下さいです~!



PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]