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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

秘密基地日記

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






青葉が眩しい五月の初旬。ゴールデンウィークの一部をシャングリラ号で過ごした私たちも今日から再び授業でした。とはいえ、そこは出席義務の無い特別生。授業の中身もすっかり頭に入っていますし、登校してくる真の目的は放課後にあり、というわけで。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日はアーモンドとオレンジのケーキだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお出迎え。しっとりと焼き上げられたケーキはアーモンドの粉に細かく刻んだオレンジピールを加えたもの。食べるとオレンジの香りがふんわりと…。やがて部活を終えた柔道部三人組が加わり、今日は焼きそば。
「うーん、やっぱり此処が最高ってことなのかな?」
焼きそばを頬張りながらのジョミー君の言葉に、何を今更、とキース君が。
「お前は教室の方がいいのか? もれなくグレイブ先生つきの1年A組のあの教室が?」
「そうじゃなくって…。んーと……此処って、ぶるぅの部屋だけどさぁ、ぼくたちの部屋でいいのかなぁ、って…」
ずーっと独占してるよね、と言われてみればその通り。サイオンを持った後輩は何人かいるのに、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に入り浸っているわけではありません。私たちだけが入学した年から延々と溜まり場にしているのです。
「君たちの部屋でいいだろう?」
ぼくが許しているんだからさ、と会長さん。
「学園祭だって、この部屋を公開するのに君たちに協力して貰ってる。ぶるぅのお部屋って呼ばれてるけど、君たちの部屋でもいいと思うよ」
「そっか…。だったら、此処って秘密基地?」
「「「は?」」」
斜め上な単語に首を捻れば、ジョミー君は。
「秘密基地だよ、小学生の頃に作らなかった? コッソリ集まってゲームをしたりさ」
「ああ、アレか…。親父にバレてエライ目に遭ったな」
やっぱり墓地はマズかったか、と返すキース君に、ゲッとのけぞる私たち。秘密基地の話はよくありましたが、墓地というのは強烈です。字面はなんだか似ていますけど…。



「ぼ、墓地って…。キースの家のヤツだよね?」
裏山のだよね、とジョミー君が確認すると、キース君は「当然だろう」と頷いて。
「秘密基地を作るのにいい場所は無いか、と持ち掛けられてな。あまり人が近付かない所が最高なんだと言われてみろ。王道は山とか林だな。その点では墓地も負けてはいない」
「「「あー…」」」
そりゃそうでしょう、墓地はお参りの人しか来ません。ついでに山や林と違って散歩の人も来ませんし…。それでも墓地に秘密基地とは天晴れな、と思っていたら。
「その辺が子供の強さだな。俺にお念仏を唱えさせてだ、これで幽霊は大丈夫だから基地にしよう、と。でもって一番端の墓石と隣の木とをロープで結んで、それを基礎にして小屋をだな…。植木屋の息子がブルーシートを持ってきたから、そいつを使った。床はもちろん段ボールだ」
水が入らないように廃材で床を底上げして…、と語るキース君たちが作った秘密基地は立派なもの。雨風がしのげて快適な居場所になる筈でしたが。
「出来上がって中でスナック菓子を食って…。また明日、と別れたんだが、次の日の朝に親父に叩き起こされた。そのまま墓地に引きずって行かれて、これはお前が作ったのか、と」
もうその後が大変で…、と遠い目になるキース君。秘密基地は朝一番に墓地の清掃を請け負う業者さんに発見されてアドス和尚に即、通報。ついでに前の日、大勢の子供が墓地に向かうのを宿坊の人が見ていたらしく。
「墓地にみっともない物を作るな、と怒鳴られた上に、墓石を使ったのが最悪で…。持ち主さんにお詫びをしろ、と檀家さんの家まで行かされたんだ。檀家さんは笑って許してくれたが、親父が「もっと叱ってやって下さい」と俺の頭を拳でガツンと」
あれは本当に痛かった、とキース君は頭を擦っています。秘密基地は業者さんに撤去されてしまい、二代目の基地は植木屋さんの植木畑の中に作って、やはり見付かって速攻、撤去で。
「植木畑の方も派手に叱られたぞ。邪魔な枝を勝手に鋸で切ってたからな」
「「「………」」」
その植木って売り物だったんじゃあ、と頭を抱える私たち。キース君の秘密基地ライフは実に激しいものでした。迷惑や実害を及ぼしながらの基地建設って、子供ならではの超絶体験?



なかなかの悪童だったらしい小学生時代のキース君。秘密基地がどうのと言い出したジョミー君は公園の一角を占拠していただけで壊してはおらず、サム君やシロエ君も同様です。マツカ君は秘密基地自体に縁が無かったそうでして…。
「ぼくは友達が無かったですから…。みんな色々やってたんですね、楽しそうです」
「俺は親父に叱られたんだが?」
「それでも懲りずに植木畑でやったんでしょう? 友達がいなくちゃ出来ませんよね」
羨ましいです、とマツカ君。
「今はこの部屋がぼくたちの秘密基地ってことなんでしょうか、みんなで集まっているわけですし」
「うーん…。どうだろう?」
作ったわけではないからね、と会長さんが答えました。
「他の生徒は入ってこないし、先生だって入れない。そういう意味では究極の秘密基地だと言えるんだけど、キースの凄すぎる体験談を聞いてしまった後ではねえ…。自分たちの手で作ってなんぼ、という気がしないでもないんだけれど」
「おい、こんな部屋を作れるのか?」
どう考えても無理だろう、とキース君が冷静な突っ込みを。
「サイオンを使って隠してあるのはまだ分かるんだが、構造自体が謎だしな…。素人に作れるレベルじゃないぞ。それに二つも作ってどうする」
「まあね。ぶるぅの部屋は間に合ってるよね…。でもさ、秘密基地っていいと思わないかい、君は欲しいんじゃないかと思うな。…アドス和尚の目が届かない場所」
「は?」
「いつもブツブツ言ってるじゃないか、朝から晩まで修行の日々だ、って」
大変だよねえ、と会長さんに同情されたキース君は。



「………。副住職になっちまった以上、仕方ないとは思うんだがな…。不意打ちで部屋をガラリと開けるのは、正直、勘弁してほしい。あれは本気で心臓に悪い」
それに立ち聞き、と溜息をつくキース君。
「俺に一人でお勤めをさせる時があってな…。それならそれで親父は庫裏で寝てりゃいいのに、阿弥陀様の後ろの部屋でコッソリ立ち聞きしてやがるんだ。そして後から俺の読経に文句をつける」
まだ学校の方が気が休まる、とキース君が零せば、会長さんは「うん、うん」と。
「だからね、そんな日々を送るしかない君のためにも秘密基地! しかもある意味、堂々と!」
「「「???」」」
いきなり何を、と私たちは首を傾げましたが。
「作っちゃうんだよ、キースのための秘密基地をさ。ついでに、ぶるぅの部屋の別荘バージョン」
「「「別荘バージョン?」」」
「うん。基本的にはキースの基地で、ぼくたちは其処にお邪魔するわけ。基地の建設を請け負うんだから、そのくらいの役得はあってもいいよね?」
「な、なんの話だ?」
サッパリ話が見えないんだが、と目を白黒とさせるキース君に、会長さんはニッコリと。
「君の秘密基地を建ててあげようって言ってるんだよ。季節もいいし、お盆までは元老寺に来る人も少ないし…。宿坊の駐車場の横に確か空き地があったよね? あそこがいいと思うんだけど」
「ちょっと待て! 何処から見てもバレバレじゃないか!」
「堂々と建ってりゃ近付きにくいと思わないかい? 周りに砂利を敷いておけばさ、アドス和尚が来ても足音ですぐに分かるしね」
ここは一発、作ってみよう! と会長さんは大乗り気でした。えーっと、キース君のための秘密基地兼「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋の別荘バージョンって、ブルーシートと段ボールで…?



元老寺の土地に秘密基地を作ろうと言う会長さん。普段はキース君が一人で使って、私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋の別荘としてお邪魔するのだそうですが…。
「おい、あそこでブルーシートはマズイぞ」
工事現場じゃあるまいし、とキース君が止めにかかると、会長さんが。
「誰がブルーシートで作ると言った? それじゃ快適と言えないし! 建てるのは組み立て式のログハウスなんかがいいんじゃないかな、広さの方も必要だから」
全員が入った時に備えて八畳は欲しい、と会長さんは数えています。
「一人半畳として計算するとね、君たちとぼくとぶるぅで九人だから六畳あればいいんだけれど…。ゆとりを持って使うんだったら八畳から! 理想は十畳って所かな」
「そんなデカイのを作る気か?」
「もちろんさ。この部屋はもっと広いんだよ? 別荘バージョンとはいえ、ゆったりしたい」
アドス和尚に相談しないと、と立ち上がりかける会長さんに、キース君が慌てた口調で。
「ま、待て! ログハウスの費用はどうするつもりだ、親父が資金を出すわけがないぞ」
「ああ、その点なら大丈夫! ちゃんと費用のアテはあるから」
ぼくにぞっこんの阿呆が一人、と人差し指を立てる会長さん。
「ハーレイに頼めばいいんだよ。未来の嫁が秘密基地を建設したいと言っているんだ、出さないようじゃ男じゃないさ。…結婚した後でもプライバシーは重要だからね、その時に備えて予行演習と言えばOK!」
「「「………」」」
鬼だ、と思ったのは私だけではないでしょう。ともあれ、費用の面はそれで解決みたいです。そうなると次は建設現場で。
「早速、元老寺に行かなくっちゃね。秘密基地云々っていうのは黙っておいて、アドス和尚を説得しないと」
「…内緒にするわけ?」
なんでまた、とジョミー君が訊くと、会長さんは。
「秘密基地です、とバラしたら意味が無いだろう? 堂々と建てても秘密は秘密さ」
「そっか、キースの基地なんだっけ…。でもって、ぼくたちの秘密基地だね」
面白いことになってきた、とジョミー君はワクワクしています。私たちだってドキドキワクワク。会長さんはアドス和尚をどうやって説得する気でしょうか?
「ふふ、そこは銀青にお任せってね。…それじゃ行こうか、もう夕方だし瞬間移動で元老寺まで」
持ち物を忘れないように、と注意された私たちは鞄をしっかりと。お皿やカップは「そるじゃぁ・ぶるぅ」がパパッと洗ってお片付けして準備完了。
「行くよ、ぶるぅ!」
「かみお~ん♪」
パァッと迸る青いサイオン。身体がフワリと浮き上がったかと思うと、もう目の前が元老寺でした。正確に言うと山門も通り抜けて庫裏のすぐ脇。夕方の境内は閑散としており、私たちの出現に腰を抜かすような人も無く…。
「さてと。…アドス和尚は気前よく御馳走してくれるかな?」
この時間だと晩御飯が出るのがお約束だよね、と庫裏の玄関のチャイムをピンポーン♪ と鳴らす会長さん。秘密基地の交渉だけじゃなくって晩御飯まで食べるつもりで押し掛けましたか、そうですか…。



奥の方からパタパタと軽い足音が聞こえ、玄関を開けてイライザさんが。
「ぎ、銀青様…? お電話を頂ければお迎えに上がりましたのに…!」
「こんなに大勢、タクシーに乗れると思うかい? 今日はアドス和尚に話があってさ」
「今はお勤めをしておりますの。お入りになって下さいな。皆さんも、どうぞお座敷へ」
案内された先は立派なお座敷。会長さんが上座に座り、キース君は思い切り末席です。お茶とお茶菓子が出てきましたけど、ワイワイ騒ぐわけにはゆかず…。その内にドスドスと足音が。
「銀青様、大変お待たせしまして申し訳ございません」
廊下に平伏しているアドス和尚に、会長さんはにこやかに。
「ううん、お勤め最優先っていうのは常識だしね。こちらこそ、夕食前にお邪魔しちゃってごめん」
「こ、これは……気が付きませんで失礼を……。おい、イライザ!」
皆さんにお寿司をお取りしろ、とアドス和尚。特上握りとは豪勢な…。会長さんのお供だからこそで、私たちは心で万歳です。お寿司が届くまでの間に会長さんはアドス和尚と世間話や璃慕恩院の話なんかをのんびりと。…えーっと、秘密基地のお話は?
『まだまだ。本題はお寿司を食べながら…だよ』
私たちだけに聞こえる思念波が届き、やがて豪華なお寿司の出前が。アドス和尚は御機嫌で…。
「皆さん、遠慮なくお召し上がりを。日頃、せがれがお世話になっておりますからな」
「ありがとう。で、キースの話なんだけど…」
会長さんが大トロに舌鼓を打ちながら口にした言葉に、アドス和尚が眉を顰めて。
「…せがれが何かしでかしましたか?」
「そうじゃなくって、ぼくから提案。…キースは副住職をやっているけど、学校生活が基本だよね? 檀家さんと触れ合う時間は少ない」
「はあ…。そこはまあ、学生ですからな」
檀家さんも承知して下さっています、とアドス和尚。けれど会長さんはチッチッと指を左右に振って。
「これからのお寺は若い人にも門戸を開くべきなんだよ。お年寄りしか寄らないお寺は古くなりがち! フラッと立ち寄って話が出来たら理想的だと思わないかい?」
「ウチは宿坊もやっておりますから、お若い方が旅の拠点に使われることもありますが…」
「それじゃイマイチ! 気軽に覗けるスポットでないと」
宿坊はお寺の付属物だから敷居が高め、と会長さん。
「もっとこう、敷居の低いヤツを…ね。お茶でも飲みながら話が出来て、美味しいお菓子もあるとなったら最高なんだよ。そのための拠点を作るのはどう? 責任者はキースで」
「せ、せがれにそんな大任を…?」
「大任じゃないよ、若い檀家さんの話相手をするだけだから! もちろんお年寄りでもいい。そういう場所を作るんだったら、ぼくも覗いてみてもいいしね」
場合によっては法話もしよう、と提案されたアドス和尚は「うーむ…」と考え込んでいます。
「せがれが其処に詰めるのですな? わしの目が行き届かない場所となったら、こう、色々と…」
「お父さんとしては心配になるかもしれないねえ…。じゃあさ、本格的に運用する前にお試し期間! とりあえず、ぼくたちだけが立ち寄るってことで、キースの生活がどう変わるかをチェックしてみれば? 問題無ければ檀家さんにも開放したらいいんだよ」
「おお、なるほど…。それは名案かもしれませんなあ」
ひとつチャレンジさせてみますか、とアドス和尚がGOサイン。会長さんはサクサクと場所や建物の案を話して、建設費用は一切不要と太鼓判を。銀青様のポケットマネーだと勘違いしたアドス和尚は「有難いことです」と合掌しています。全額負担の教頭先生、どんな散財になるのやら…。



こうしてトントン拍子に話は纏まり、会長さんが教頭先生から費用を毟って、組み立て式のログハウス風な秘密基地の建設が始まりました。業者さんに建てて貰ったのでは秘密基地とは言えません。やはり自分たちで作ってこそで。
「かみお~ん♪ みんな、お疲れ様ぁ~!」
お弁当だよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が瞬間移動でボリュームたっぷりの焼肉弁当のお届けに。炭火焼肉を一面に載せた下には千切りのキャベツ、御飯にもタレがしっかりと。男の子たちのお弁当は大きく、見ているだけのスウェナちゃんと私の分は小さめです。
「えとえと…。今日は窓も入るの?」
だいぶ家らしくなったよね、とログハウスを見上げる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。私たちは「秘密基地を作るので休みます」というブッ飛んだ欠席届を学校に出して、毎日、元老寺に通っていました。え、その欠席届ですか? グレイブ先生は「ほどほどにな」と笑っただけでしたよ~!
「グレイブ先生、こんなのとは思っていないよねえ?」
ジョミー君が壁をコンコン叩けば、サム君が。
「穴でも掘ってると思ってんじゃねえか? その辺の土手に」
「その可能性は高そうですね」
少なくとも家とは思っていないでしょう、とシロエ君。
「おまけにコレって総檜でしょう? 基本のログハウスの値段は調べましたけど、あれより相当、高いんじゃあ…」
「御想像にお任せするよ。ハーレイは喜んで払ってくれたけれどね」
クスクスクス…と会長さんが漏らす笑いからして、とんでもない費用がかかっていそうです。整地は会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がサイオンでやって、組み立ての方も大きな部材はサイオンで。男の子たちは力仕事で出来る部分を頑張って作り、残るは屋根の仕上げと窓と、それに床張り。
「屋根と窓は今日中に仕上げて、床張りが明日って所かな」
それが済んだら電気の配線とかをしなくっちゃ、と会長さん。配線はシロエ君が担当することになっていますし、明後日には秘密基地が完成しそうです。お弁当を食べ終えた私たちは中に入って、仮の床の上を歩きながら天井や壁を眺めてみて。
「凄い秘密基地が出来そうだよね」
でもってキースの隠れ家だよね、とジョミー君が親指を立てれば、キース君が。
「どうだかな…。ブルーが巧い話をやったお蔭で家は出来そうだが、親父のチェックが何処まで入るか…。まあ、檀家さんの立ち寄り処になったとしても、親父と違ってノックくらいはするだろう」
のんびり息抜きが出来る所になるといいな、とキース君は大きく伸びを。
「とりあえず残りを仕上げるか。床が出来たらド真ん中で大の字に寝転がって上を見るんだ」
俺の城だ、とキース君が言った時です。
「…床下収納も希望なんだけど」
「「「は?」」」
なんだソレは、と振り返った先にフワリと翻る紫のマント。もしかしなくても出ましたか? ソルジャーとかいう人が出たようですけど、床下収納って何なんですか~!



「床板をパコンと上に上げてさ、そこから出るのがいいのかなぁ…って」
だから床下収納なのだ、とソルジャーは呆気に取られる私たちを他所にいけしゃあしゃあと。男の子たちが頑張って建てたログハウスの仮設の床を悠然と歩き回っています。
「これって秘密基地なんだろう? それっぽくお邪魔するにはドアを開けるよりも床からかな、と思うんだよね。もちろん青の間直結で!」
「ちょ、ちょっと…」
これはキースの家なんだけど、と会長さんが遮りましたが、ソルジャーが聞くわけがなく。
「総檜っていうのが素敵なんだよ、ホントに香りがいいからねえ…。こないだハーレイと泊まった旅館を思い出すなぁ、部屋付きの露天風呂が総檜のヤツでさ、もう最高で」
「その先、禁止!」
何も喋るな、という会長さんの警告は右から左に抜けたようです。
「いい香りのお風呂でヤるのもいいけど、移り香を纏ってヤるのもいいよ? ハーレイの身体から檜の匂いがするんだよねえ、逞しさがググンと増した気がして…。もちろん硬さも檜並み! ついでに総檜の家と同じで長持ちってね」
「「「……???」」」
檜は丈夫で硬いと聞きます。総檜の家は長持ちするとも聞いていますし、だからこその総檜ログハウスですが……キャプテンと檜の共通点って何でしょう? 硬さに長持ちって筋肉とか? それとも持久力なんでしょうか、全然話が見えませんけど…。
「あ、分からなかった? それならそれで別にいいんだ、ぼくが欲しいのは秘密基地だし」
「「「えぇっ!?」」」
「ノルディの別荘を借りたりするけど、こっちに拠点が無いんだよね。ちょうどいいから混ぜて貰おうかと…。ベッドとかは持参するからさ」
それとも布団を買おうかな、とソルジャーは床を見渡して。
「キースはベッドを置かないようだし、置くにしたってシングルだろうし…。ぼくとハーレイには狭すぎてダメだ。地球に拠点が出来るからには、やっぱり二人で思う存分!」
床下から来てヤリまくるのだ、とソルジャーは熱弁を奮っています。なんとなく分かってきたような…。つまりソルジャーは此処を使って大人の時間をやらかしたいと…。
「なんでそういうことになるのさ!」
そんな目的で建てたのではない、と会長さんが怒鳴り付けても、ソルジャーは我関せずと床のチェック中。
「この辺がいいかな、床下収納! ぼくとハーレイの身体さえ通れば、ベッドや布団は後からどうとでも…。ぶるぅ、そこのメジャーを取ってくれる?」
「かみお~ん♪ どうするの?」
はい、と素直な「そるじゃぁ・ぶるぅ」が渡したメジャーは工事現場用の金属製。ソルジャーはそれをシャッと伸ばして床に当てると、お次は墨を御所望で。
「サイズは書いといたから、此処に床下収納をよろしく。パカッと上に開きさえすれば収納部分は別に大きくなくてもいいからね。ぼくの世界の青の間直結、空いてる時間にお邪魔するよ」
ハーレイと二人でベッドか布団を持って来て、とニッコリ笑ってソルジャーは姿を消しました。よりにもよって床下収納、ソルジャーの世界の青の間直結。…私たちの秘密基地作りはとんでもないことになりそうです。どうしたらいいんですか、会長さん…?



降って湧いた災難ならぬ、空間を越えて出たソルジャー。言いたいことだけ喋って消えたソルジャーが残していった床に四角く引かれた線。
「…おい、作らないとどうなるんだ?」
此処に床下収納とやらを、とキース君が指差せば、ジョミー君が。
「勝手に作るんじゃないのかなぁ? 器用なのかどうか知らないけどさ」
「…多分、不器用だと思いますけど…。でもサイオンを使えますしね」
どうなるやら、とシロエ君が天井を仰ぎ、スウェナちゃんが。
「キャプテンの趣味は木彫りじゃなかった? 日曜大工も出来るかも…」
「「「………」」」
二人がかりで攻めて来られたら、床下収納は意地でも取り付けられそうです。それくらいなら潔く…とも思いましたが、床下収納を作ってしまえばソルジャーの世界の青の間直結になるわけで。
「それって床下収納って呼べるわけ?」
何も収納出来ないよね、とジョミー君。確かに物を入れておいたらソルジャーとキャプテンに踏み潰されるか、壊されるか。いっそニンニクを詰めておけば、という恐ろしい意見も出ましたけれど、ソルジャーを撃退どころか「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋の方にニンニクの雨が降りそうで…。
「…諦めて設置するしかないか…」
俺の城になる筈だったのに、とキース君がガックリ項垂れています。そっちの方も問題ですけど、より問題なのがソルジャーの拠点。乗っ取られたが最後、此処をベースに私たちの周りをウロウロしては爆弾発言をかましまくって、更には今まで以上に積極的に大人の時間をやらかそうとして…。
「…床下収納が出来てしまったら、おしまいかもね…」
でも作らないわけにもいかない、と会長さんが嘆く横から「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「えとえと…。秘密基地、ブルーに取られちゃったの?」
「ん? 取られてないけど、もう取られたのと同じだねえ、っていう話だよ」
困ったことになっちゃった、とぼやく会長さんにも名案は浮かばないようです。このまま組み立て作業を続けて総檜造りのソルジャーの拠点を建てるしかないのか、と誰もが脱力気味ですが…。
「かみお~ん♪ 同じだったらあげちゃったら?」
「「「えっ?」」」
「ブルー、お家が欲しいんでしょ? 秘密基地ならぼくの部屋があるし、これはブルーにプレゼントすれば?」
それなら誰も困らないでしょ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ顔。そりゃあ……乗っ取られるのなら譲った方がマシかもですけど、建っている場所が問題です。元老寺の駐車場の脇にソルジャーの拠点が出来上がった日には、キース君のお城どころか頭痛の種になりそうで…。
「あっ、そうか!」
その手があった、と会長さんがポンと両手を打ちました。
「この際、キースの秘密基地って案を捨ててしまえばいいんだよ。これは単なるログハウス! 出来上がったらブルーに譲って、知らん顔をすればそれでオッケー!」
えっ、でも…。この家、此処に建ってるんですよ? 忘れてませんか、会長さん? それともキース君がソルジャーに押し掛けられて困っていても、知らぬ存ぜぬで逃げる気ですか…?



ログハウスの屋根と窓とはその日に仕上がり、翌日は朝からせっせと床張り。ソルジャーが注文していった床下収納の部分がキッチリ切り抜かれ、収納庫も取り付けられました。キャプテンの身体が通るサイズを指示されただけに、広さは充分。
「これだけあったらイモやタマネギも置き放題なのにな…」
残念だ、と見下ろしているキース君。お城が出来たと思った途端に奪われたのでは残念だろう、と思いますけど、何故にタマネギ?
「…俺の家ではカレーは滅多に出ないんだ、と言わなかったか?」
「あー、そういえば聞いたかも!」
なんでだっけ、と尋ねたジョミー君にキース君は心底、呆れた顔で。
「お前も坊主の端くれだろうが…。いいか、通夜や葬式にカレーの匂いをさせて行くのはNGだ。息の匂いは歯磨きすれば何とかなるがな、身体ごとカレーの匂いはマズイ。風呂に入ればいいだろう、と俺は思うが、親父はうるさい。葬式も通夜も有り得ない、という時しかカレーは出ない」
翌々日が友引の時で平日限定、とキース君はフウと深い溜息。
「…この家が出来たら、レトルトカレーを好きなだけ食おうと思っていたんだ。いずれ檀家さんをお迎えするならキッチンも要るし、そうなってきたら自作もいいな、と…。イモとタマネギはカレーに欠かせん」
それにニンジン、と未練たらたらのキース君が収納庫を閉め、私たちは出来上がった家をグルリと見回しました。ソルジャーに譲ると決まった以上、電気配線もシロエ君が急いで工事し、後は引き渡しを待つだけで…。
「こんにちは」
パカッと閉めたばかりの床下収納庫が開き、中から「よいしょ」とソルジャーが。出たかと思えば床に屈み込み、床下収納に手を突っ込んで…。
「こんにちは。お邪魔いたします」
こんな所から失礼します、とキャプテンがソルジャーに助けられながら這い出して来ました。最初から二人で現れるとは、乗っ取る気持ち満々です。譲ると決めていて良かったかも…。
「ね、ハーレイ? 檜の香りがいいだろう?」
「本当ですね。…しかし、ブルー…。此処は皆さんの秘密基地なのでは…」
「いいんだってば、空いてる時には使わせてくれって頼んだし! それでさ、お前はベッドがいい? それとも布団を買いに行く?」
「…そうですねえ……。せっかくの総檜ですし、床に布団も試したいですね」
私たちを放置で盛り上がり始めるバカップル。会長さんがゴホンと咳払いをして。
「お取り込み中にアレなんだけどさ…。この家、君たちに譲るから!」
「いいのかい?」
ソルジャーの顔が輝きましたが、会長さんはフンと鼻を鳴らすと。
「その代わり、持って帰ること! これはキースの家の敷地に建ってるわけだし、このままじゃ譲るわけにはいかない。君のシャングリラの中に置くも良し、ノルディに頼んで土地を買うも良し」
「…持ち帰りって……。出来るわけ?」
とっても魅力的だけど、と瞳を煌めかせているソルジャー。会長さんはログハウスの構造を淡々と説明し、置き場所さえあれば持って帰っていいと告げ…。



総檜な家が欲しかったソルジャーは、地球に拠点を持つことよりも檜の香りを優先させたみたいです。ジョミー君たちが頑張って建てたログハウスはソルジャーの世界に送られてしまい、バカップルなソルジャー夫妻も御礼だけ言って帰ってしまって。
「…結局、更地しか残らなかったね…」
ぼくたちの秘密基地、とジョミー君が呟き、キース君が。
「じきに夏草が生えるだろうな。…つわものどもが夢の跡とは、このことだろうさ」
ただ春の夜の夢の如し、と時代が異なる名文句を並べつつ、キース君は夢と消えたログハウスの跡地を見詰めています。さようなら、私たちの秘密基地。さようなら、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋の別荘バージョン…。
「…その秘密基地の話だけどね…」
堂々と作ろうとしたのが失敗だった、と会長さんが小声でコソコソと。
「カレー作りは無理だろうけど、アドス和尚から逃亡可能で、秘密基地っぽい隠れ家だったら出来るかも…」
「なんだと?」
そんなものを何処に作るんだ、と問い返したキース君に、会長さんは。
「ほら、裏山に椎の大木があるだろう? あれの上にさ」
「ツリーハウスか…。しかし、それこそ親父にバレたら…」
「バレやしないよ、きちんとシールドしとけばね。最初の間はぼくとぶるぅでシールドしてさ、君が慣れてくれば自力でやるとか」
ゲストの力を借りるのもいいね、と視線を向けられた私たち。なんと、今度はツリーハウスですか! 木の上の家って憧れます。そんな素敵な秘密基地なら、苦手なサイオンも修行しますとも!
「じゃあ、決まり! ログハウスが消えた件をアドス和尚に言い訳しなくちゃいけないし…。話すついでに適当に暗示をかけとくよ。椎の木に近付かないように」
「よろしく頼む。…ログハウスは何と言い訳するんだ?」
「ん? 庫裏が古くなって困っているお寺にお譲りした、と言えば終わりさ」
それが一番、と会長さんは胸を張りました。
「君だって知っているだろう? 本堂を修理するのに檀家さんから寄付を募るのは当たり前! だけど庫裏の修理をしますから、と集めに回るのは大変だ。檀家さんの数が少ないお寺だと、雨漏りがしても本堂優先、庫裏は後回しで大変だよね」
「なるほどな…。そういう寺なら渡りに船というヤツか」
たかが十畳のログハウスでも、とキース君は納得しています。お寺の世界は厳しいのだな、と私たちは思い知らされ、その言い訳を聞かされたアドス和尚は合掌して。
「そういう理由でございましたか…。せがれごときに一戸建てなぞ、ログハウスでも分不相応かと密かに思っておりました。他のお寺さんのお役に立つなら、その方が良いかと存じます。…キース、分不相応などと言われんように、これからも修行に励むのじゃぞ」
「は、はいっ!」
深々と頭を下げて、アドス和尚の座るお座敷から回れ右したキース君でしたが。



「…この木の上に作るんだな?」
どんなサイズになるだろう、と椎の巨木を振り仰いでいるキース君。私たちは元老寺の庫裡を後にし、裏山に登って来たのです。遠くからも見える椎の木は太くて立派で、小屋くらい軽く支えられる強度を備えているそうで。
「幹もしっかり詰まっているから、かなりな重さでも大丈夫だよ」
その辺はちゃんと確認した、と会長さんが幹を叩いています。サイオンで透視した結果、隙間は全く無いらしく…。
「かみお~ん♪ おっきいのがいいね、みんなで入れる秘密基地!」
登る時には瞬間移動だよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。梯子を置くのもいいかもです。梯子ごとサイオンでシールドしておけばアドス和尚にも気付かれませんし…。
「とにかく寸法を測ってみよう。それからみんなで設計だね」
家の大きさも形とかも、と会長さんが言い、歓声を上げる私たち。ログハウスをソルジャーに取られた時はショックでしたけど、ツリーハウスが出来るんだったら断然、そっちが良さそうです。今度は学校に「ツリーハウスを作りに行くので休みます」と欠席届を出さなくちゃ!
「…いいねえ、檜の香りってヤツもいいけど、木の上なら森林浴の気分なのかな?」
「「「!!?」」」
「今度はツリーハウスを作るんだって?」
床下収納をよろしくね、と現れたソルジャーは檜の香りを纏っていました。まさか、あのログハウスでキャプテンと…? 目が点になった私たちの姿に、ソルジャーはクンと自分の手袋の香りを嗅いでみて。
「あ、バレちゃった? 急いで出てきたものだから…。せっかく貰ったログハウスだしね、まずは布団も無しで床でヤろうかってハーレイと…」
「退場!!!」
さっさと帰れ、と会長さんが怒鳴り付け、ソルジャーが。
「待ってよ、その前にツリーハウス! そっちの方がドキドキしそうだし、木の上でヤるってロマンチックな感じだし…。ぼくのハーレイにも言っておくから、床下収納!」
「却下!!!」
二度と来るな、と怒り心頭の会長さんと、食い下がっているソルジャーと。ツリーハウスは諦めた方がいいのでしょうか? コッソリ作っても床下収納をしっかり作られ、ソルジャー夫妻が登場しそうな気がします。秘密基地のことは夢のまた夢、線香の煙と共にハイさようなら……。




      秘密基地日記・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 今月はアニテラでのソルジャー・ブルーの祥月命日、7月28日が巡って来ます。
 ハレブル転生ネタを始めましたし、追悼も何もあったものではないのですが…。
 節目ということで、7月は 「第1&第3月曜」 の月2更新にさせて頂きます。
 次回は 「第3月曜」 7月21日の更新となります、よろしくお願いいたします。

 7月28日には 『ハレブル別館』 に転生ネタを1話、UPする予定でございます。
 「ここのブルーは青い地球に生まれ変わったんだよね」と思って頂ければ幸いです。
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 こちらでの場外編、7月はお中元の季節。とんでもないお中元が来そうな予感?
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