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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

笑って許して  第2話

教頭先生のお詫び行脚に付き合う形で校内をくまなく巡った私たち。数学同好会の部屋ではアルトちゃんとrちゃんが船長服の教頭先生と記念撮影をして大感激でしたが、実のところは教頭先生、身に着けていたのは靴下と靴だけ。幸いバレませんでしたけど、私たちも教頭先生自身もハラハラドキドキしっ放しで…。
「お疲れ様、ハーレイ」
会長さんが微笑んだのは教頭室に戻ってから。
「もういいよ、ぶるぅ。疲れただろう?」
「平気、平気! 楽しかったぁ♪」
ピョンと飛び降りた「そるじゃぁ・ぶるぅ」人魚はパッと普段の服に変身を遂げ、教頭先生の方はといえば…。
「「「………」」」
私たちは視線を逸らしました。会長さんのサイオニック・ドリームが解けて教頭先生は真っ裸です。辛うじてモザイクがかかってるものの、この格好を何度見せられたたことか。アルトちゃんたちとの記念撮影の最中だって私たちの目に映る姿はこうでした。これってやっぱりわざとですか?
「はい、裸の王様タイムはこれでおしまい。ハーレイ、君の服を返すよ」
バサッと教頭先生の前に降って来たのはスーツにシャツにそれからネクタイ、とどめにいつもの紅白縞。
「君の誠意はよく分かったし、セクハラの件は忘れよう。ぼくたちが出て行ってからゆっくり着替えてくれたまえ」
じゃあね、と手を振った会長さんは私たちを引き連れて教頭室を後にしました。う~ん、とんでもない体験をしちゃったかな? 「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に戻った途端、私たちはドッと疲れ果てて…。
「肝試し、そんなに怖かったかい?」
会長さんの問いに答える気力もありません。教頭先生のお供をしている間、ストリーキングだと見破る人が出るんじゃないかと心配しすぎて疲労困憊。
「いいじゃないか、涼しい思いができたんだからさ。ハーレイも十分懲りただろうし、これでセクハラの心配はない。アルトさんたちの望みも叶えてあげられて良かったよ」
船長服の記念写真、と会長さんは満足顔。本来はシャングリラ号のクルーの交流会にでも参加しないと船長服は見られないらしいのですが、サイオニック・ドリームなら簡単です。アルトちゃんたちは裸の王様状態とも知らず、本物の船長服だと信じて大喜びではしゃいでいました。
「数学同好会の部屋だったから船長服を出せたんだ。あそこなら全員特別生だし、船長服も知っている。ちょっとくらいサービスしてもいいよね」
「…俺たちには見えていなかったけどな…」
溜息をつくキース君。私たちの目に映る教頭先生はモザイクつきの裸でしたし、アルトちゃんたちが撮った写真を確認するまで怖くて怖くて…。もう肝試しは懲り懲りですよ~!
「ふふ、ハーレイもそう思っているさ。だけど人魚はウケがいいねえ。ぶるぅ人魚が大人気とは思わなかった」
またいつか披露しようかな、とニコニコ顔の会長さん。その時は教頭先生のストリーキングは抜きでお願いしたいです。でないと寿命が縮みまくって尽きちゃいますよ~!

お詫び行脚の翌日の朝、校内は教頭先生と「そるじゃぁ・ぶるぅ」人魚の噂でもちきりでした。見損ねた生徒は悔しがったり嘆いたり。それから更に数日が経って、1年A組の教室の一番後ろに机が増えて…。
「おはよう。今日はお知らせがあるようだから」
「かみお~ん♪ 健康診断やるんだって!」
会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の登場です。クラスメイトがワッと取り巻き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」人魚をもう一度見たいと騒いでいると。
「諸君、おはよう。…おはようと言っているのが聞こえんのか!?」
バンッ! と出席簿で教卓を叩くグレイブ先生。教室は水を打ったように静まり返り、健康診断の実施が告げられました。恒例の水泳大会に備えて明日行われるらしいです。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はお知らせの紙を貰うと帰ってしまい、次に会ったのは放課後でした。
「やあ。授業は退屈だったかい?」
会長さんが寛いでいるのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋のソファ。
「明日の健康診断だけど、まりぃ先生が張り切ってるよ。…男子は覚悟しておきたまえ」
「「「えっ?」」」
「まあセクハラの危機ってとこかな。ぶるぅはセクハラ大好きだよね?」
「うんっ! 明日も楽しみにしてるんだ♪」
気持ちいいもん、と答える「そるじゃぁ・ぶるぅ」はまりぃ先生とのお風呂タイムをセクハラなのだと信じています。もしかして明日は男子全員にお風呂タイムが? いくらなんでも犯罪なのでは…? ジョミー君たちも真っ青ですが、会長さんはクッと笑って。
「違うよ、お風呂は流石にやらない。詳しくは明日のお楽しみさ」
それ以上のことは話して貰えず、健康診断当日になって…1年A組はトップバッター。もちろん男子が女子より先です。例によって会長さんは後回しにされ、水色の検査服で居残ってますが…。
「…なんだったんだ、まりぃ先生…」
「絶好調ってことじゃないかな?」
戻って来た男子は頬が赤かったり、妙にソワソワしていたり。ジョミー君たちも例外ではなく、これは相当なセクハラが…? しかし。
「公認なのよ、って言われたんだよ」
ジョミー君が頬を膨らませる横でサム君が。
「先生方は御承知だから報告したって無駄なのよ~、とか言っていたよな」
げげっ。学校公認のセクハラなんてアリですか? キース君にシロエ君、マツカ君もゲンナリしていますけど、セクハラの中身は口にしません。きっと言いたくないのでしょう。男子が終わると女子の番なのでスウェナちゃんと私は「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れて保健室へと…。もちろんその後はお決まりのコース。
「ぶるぅちゃん、今日もぷにぷにねえ~♪」
可愛いわぁ、とバスローブを纏ったまりぃ先生が特別室のバスルームから出て来ます。真っ裸の「そるじゃぁ・ぶるぅ」をバスタオルで拭くまりぃ先生にスウェナちゃんが。
「…あのぅ……質問があるんですけど…」
「あら、なあに?」
艶やかな笑みを浮かべるまりぃ先生。
「…えっと…。男子が変な話をしてたんです。先生方に報告しても無駄なことって何なんですか?」
ひぃぃっ、スウェナちゃんったらクソ度胸かも…。まりぃ先生はニッコリ笑って。
「そうねえ、仔猫ちゃんには関係ないって言っとこうかしら? 女の子には意味ないの。そんなことより生徒会長を呼んできてちょうだい、あの子は私が診なくっちゃね」
お仕事、お仕事…と白衣に着替えるまりぃ先生には取り付く島もありませんでした。お風呂で御機嫌になった「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自分のお部屋に帰ってしまい、会長さんも保健室に出掛けて行ってそれっきり…かと思ったのですけど、終礼の時に戻ってきて。
「グレイブ先生、お話があります」
会長さんが手を挙げました。
「何かね? 用件は短く簡潔に」
眼鏡を押し上げるグレイブ先生に、会長さんは真面目な顔で。
「来週の水泳大会ですが、ぼくは女子の部でお願いします」
「「「えぇぇっ!?」」」
教室は蜂の巣をつついたような大騒ぎ。会長さんが女子の部って…正気ですか? 去年、グレイブ先生に女子として登録されてしまって、酷く嫌がっていたような…。スクール水着をあんなに嫌っていたというのに、どうして女子に? グレイブ先生も唖然としていましたが、すぐに立ち直って皆を鎮めて。
「諸君、静粛に! …ブルー、本気で言っているのかね? 女子での登録は実績があるが、ぶるぅは男子に回すのかね? それに水着は学校指定の女子用になるぞ?」
「ぶるぅは男子で登録します。それからぼくの水着ですけど、特例で学校指定の男子用です」
これが許可証、と会長さんは教卓に書類を提出しました。グレイブ先生はそれを確かめ、低く唸って。
「なるほど、確かに特例とあるな。…分かった、女子で届けを出そう。まったくもって気紛れな…」
ブツブツ呟くグレイブ先生に会長さんが。
「細かいことを気にしているとハゲちゃうよ? 最近、生え際ヤバイんじゃないの?」
「頭髪管理は完璧だ! 1ミリも後退してはおらんし、させる気もない!」
「あ、そう? それじゃ登録よろしくね」
いつものタメ口に戻った会長さんはサッサと逃亡。水泳大会は来週ですけど、なんだか波風立ちそうな予感…。

終礼が済んで「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くなり、私たちは会長さんに詰め寄りました。女子の部で参加希望だなんて、どう考えても裏があります。しかも水着の特例許可まで申請済みとは…。
「なんで女子かと言われても…。フィシスの占いで今年は女子で参加すべし、と出たんだよ」
「「「は?」」」
「フィシスの占いは外れない。だけどスクール水着は嫌だし、ゼルの所に相談に行った」
「何故ゼル先生が出てくるんだ? あんたの担任じゃないだろうが」
キース君の疑問に会長さんは。
「その担任が危険だからこそゼルなんだよ。ぼくが女子用の水着を着てたら誰が一番喜ぶと思う? 去年、女子で登録されちゃった時、ハーレイは凄く期待していた。ぼくの水着姿を見られる…とね」
「「「………」」」
私たちの脳裏に蘇る会長さんのスクール水着。水泳大会では出番が無かったですが、後日、教頭先生の前で着用して見せ、からかっていたのを覚えています。そこへソルジャーが乱入してきて騒ぎになったり、ソルジャーがスクール水着の魅力に目覚めてドクター・ノルディに自分用のを買わせてみたり、と色々と…。
「ほらね、言葉も出ないだろう? だからこそゼルに言ったんだ。女子で出たいけど水着姿に期待している馬鹿がいるから特例の許可を出してくれって。二つ返事でOKだったよ、ハーレイ以外の長老全員の署名入りでね。…ついでにこないだのお詫び行脚は面白かった、と褒めてもらった」
「バレてたんですか!?」
ひっくり返った声はシロエ君。私たちも顔面蒼白でした。教頭先生が真っ裸で歩き回っていたのが先生方にバレていたなら大惨事です。教頭先生、減俸くらいにはなったかも…。
「裸のことならバレていないよ。ぶるぅを首からぶら下げてたのがウケたらしいね。見た目に間抜けで楽しかったということらしい」
あらら。長老の先生方には全く遭遇しませんでしたが、何処からか御覧になってたようです。サイオンの扱いに長けた先生方にも真っ裸だとバレないなんて、会長さんのサイオニック・ドリームは流石でした。その会長さんがフィシスさんの占いを信じて女子の部で参加しようだなんて、今年の水泳大会ってヤツは女子の方が難易度高いのでしょううか? 会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は毎年助っ人に来るのですから。
「…うーん…。どうだろう? フィシスはぼくが女子に向いてると言っただけだし…」
「………本当か?」
キース君が疑いの目を向けました。
「本当に占いで決めたのか? 去年は占いなんかしてないだろうが、女子の部にされて焦ってたしな。占いをして貰っていたなら受難は覚悟していた筈だ」
「…去年のアレで学習したのさ。大切な行事に臨む前にはフィシスの占い! ぼくの女神は優秀だから」
「「「………」」」
フィシスさんの占いがよく当たるとは聞いています。ひょっとして会長さん、あれ以来、占いに頼っているとか? でもソルジャーにいつも振り回されてますし、占いもアテにならないんじゃあ…?
「フィシスを疑っているだろう? ぼくは大事なことしか占ってもらわない主義なんだ。人生、刺激が必要だしね。先のことが全て読めていたんじゃ面白くもなんともないじゃないか」
そう言われると反論不可能。ソルジャーの出現は会長さんにとってはスリルに満ちたお楽しみになっているのかもしれません。その会長さんは教頭先生を除いた長老の先生方の署名入りの許可証を見せびらかして得意顔でした。
「今年もぼくは女子の部だけど、水着はバッチリ男子用! ぶるぅと一緒に1年A組を学園一位にしてみせるさ。ね、ぶるぅ?」
「うん! ぼく、頑張る! 今年も学園一位を取ろうね♪」
水泳、水泳…と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び跳ねています。学園一位は取れそうですけど、会長さんが何故に女子の部? シャングリラ学園の水泳大会はいつも何かとお騒がせなだけに、とんでもない種目が出てこないことを祈った方がいいのでしょうねえ…。

水泳大会の日までスウェナちゃんと私は気が気ではありませんでした。去年はプールの使用禁止の張り紙が掲示板に出され、プールが凍結してましたっけ。そんな前例を知っているだけに毎日きちんと掲示板をチェックし、水泳部にいるクラスメイトたちに異常は無いかと確認し…。けれど何事も起こらないまま、大会当日。
「おはよう。今日は君たちのお仲間だからね」
会長さんが朝早くから1年A組の女子全員に甘い言葉をかけていました。シャングリラ・ジゴロ・ブルーならではの気配りでもってアルトちゃんとrちゃんにはプレゼントなんかも贈っています。水泳大会参加記念に、なんて言ってますけど、寮の方にはフィシスさんの名前で水着を贈ってあるらしく…。
「フィットネスクラブで泳いでた、って話をしたら羨ましがられちゃってさ。そのうちに連れて行こうと思って」
あぁぁ。教頭先生人魚の特訓をしていたフィットネスクラブ、今でもVIP会員でしたか…。ソルジャーだけに一度登録すると会費無料で永久会員らしいです。会長さんの机の上には「そるじゃぁ・ぶるぅ」が腰掛けていて、こちらも女子に大人気。やがてグレイブ先生が現れ、体育館に移動して…。
「今年は何もないといいわね…」
更衣室でスウェナちゃんが言いました。
「会長さんが女子でしょう? 私、ホントに心配で…」
「うーん、どうだろ? ひょっとしたら男子の部が凄くハードとか」
去年みたいに、と答えたのですが。
「それなら最初から会長さんは女子の部よ。虚弱体質だから参加は不可って言われた結果が去年の女子の部」
「あ、そうか…。でも、それだったら女子の部がハードってこともないよね。会長さんが参加できる程度の中身でないと」
「言われてみればそうだけど…」
やっぱり心配、とスウェナちゃん。私も湧き上がる不安を隠せないまま水着に着替えて廊下に出ると、会長さんが待っていました。今年は男子用の水着ですからサリーなどで隠す必要もなく、会長さんの水着姿を初めて目にする女子がキャアキャア騒いでいます。会長さんは苦笑しながら…。
「君たちの気持ちは分かるけれども、今日は一応女子なんだ。おとなしくしててくれないと、特例が認められなくなってしまうかも…。このぼくに恥をかかせたい?」
この一言は効果てきめんでした。会長さんに女子用スクール水着を着せたいなどと考える女子は誰もいません。黄色い悲鳴はパタリと止んで、私たちはプールに向かいました。今年はこの先にいったい何が…?
「あれ…?」
緊張しきって入っていった扉の向こうはごくごく普通のいつものプール。シャングリラ学園自慢の屋内プールが静かに水を湛えています。プールサイドにはクラスごとに所定の位置が示されていて、1年A組の場所には男の子たちが座っていました。ジョミー君たちや「そるじゃぁ・ぶるぅ」も揃っています。
「…えっと…」
スウェナちゃんがジョミー君に。
「今年は普通のプールなの? どう見ても普段のプールよね?」
「そうみたい。でもさ、普通のプールだからって安心してたらマズイと思う」
一昨年はサメが出たんだよ、というジョミー君の言葉に私たちは青ざめました。言われてみれば一昨年はサメがプールに放されたのです。去年の凍結プールのインパクトが強くて忘れてましたが、サメと一緒に泳ぐ羽目になった男子は忘れていませんでしたか…。そこへ。
「シャングリラ学園の諸君、これより恒例の水泳大会を開催する」
渋い声は教頭先生でした。水着ではなくジャージ姿でマイクを握り、他の先生方は水着にジャージと様々です。
「我が学園の水泳大会は学年1位を決定した上で学園1位の座を争うが、今年はチャンスは一度しかない。タイムが全てだ。各学年で1位を取ったクラスが出したタイムを比較した上で学園一位を決定する!」
「「「ええぇっ!?」」」
あちこちで上がるブーイングの声。シャングリラ学園の水泳大会はどちらかと言えばお遊びの会。寒中水泳だったりサメがいたりと変な要素は入ってきますが、タイムを競うなんてシビアな話は出てきたことがないのです。そりゃあ……昔はそういう時代もあったかもですけど、私たちが入学してからは一度も無し。私たちは今年で学園生活三年目ですし、つまり最高学年の3年生でもタイムを競った過去はないわけで…。
「静かに! これは今年の方針だ。競技の説明などはブラウ先生から聞くように」
ここでマイクがブラウ先生に渡されました。ブラウ先生はまだ不満そうな全校生徒にウインクと投げキッスをたっぷり振りまいてから。
「よーし、いい子だ、静かになったね。それじゃ説明を始めるよ? 競技はまずは女子からだ。今年は特例で男子が一人女子の部にいるけど、広い心で認めてやりな。…今年は女子も男子もリレー形式、ズルは一切ダメだからね」
なんと! どおりでタイムを競うわけです、リレー形式ときましたか! またしても上がるブーイング。けれどブラウ先生はサラッと無視して続けました。
「競技は1年の女子から始める。おっと、その前に特別選手を紹介しよう。各クラスに1名、外部から選手を投入する。この選手を抜かしてリレーをしても無効になるから気をつけるんだね」
「「「???」」」
特別選手って何でしょう? 特別生とは違いますよね? その選手抜きでのリレーは不可って、いったいどういう形式ですか…?

ブラウ先生の紹介から暫く後。全校生徒はプールを前に呆然と口を開けていました。水を切って進む背びれや背中。スイスイと自由自在に泳ぎ回っている黒い影…。それはイルカというヤツでした。一昨年のサメと同様、水族館から借りてきたのだそうです。
「いいかい、1クラスにつきイルカ1頭だ」
ブラウ先生の声が響きます。
「リレーは1人ずつプールを一往復して繋いでもらう。邪魔だろうけどバトンを持って泳ぐんだよ? バトンは必ず手渡しすること。投げた場合は失格になる。そして特別選手のイルカを何処かで必ず一往復させてバトンを繋ぐ!」
「「「えぇっ!?」」」
「えっ、じゃない! イルカだけでは心許ないし、付き添いを一人認めよう。ただしイルカがコースアウトしたらやり直し。イルカを誘導、もしくは手や足で軌道修正するのはOKだけど、掴まって泳いだり押したりするのは反則だからね。分かったらさっさと位置につく!」
各クラスにイルカを割り当てるから、とブラウ先生は涼しい顔です。プールサイドではシド先生がホイッスルを吹いてイルカを集め、何やら指示を出していますが…こんなリレーってアリですか? イルカを選手にするなんて…。
「…大丈夫。落ち着いて、ぼくがなんとかするから」
会長さんがスッと進み出てきて私たちに笑顔を向けました。
「ぼくは女子だって言っただろう? イルカの付き添いで泳ぐ係はぼくがやる。君たちは自分のベストを尽くして泳ぎたまえ。…ぼくは何人目に泳げばいい? 平気だよ、ぼくはぶるぅの御利益パワーを貰えるからね。…ね、ぶるぅ?」
「かみお~ん♪ ブルー、頑張ってね!」
おおっ、と湧き返る1年A組。女子も男子も大喜びです。会長さん自身のサイオンは全く知られてませんが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議パワーは周知の事実。これなら勝てる、と私たちは普段の水泳のタイムを元に順番を決め、スタート地点に並びました。先頭の子に手渡されたのは黄色のバトン。クラスごとに色が違うのです。
「A組のイルカはこれでいいかな?」
一番早く整列したし、とシド先生が連れてきてくれたイルカの背中に黄色のマークがつけられます。
「このイルカは多分一番速いよ、泳ぐのがね。その分、扱いも難しいけど…スタートの合図はバトンを咥えさせるだけでいい。後は頑張ってコースを一往復させてくればいいんだ」
往復させたらバトンの端をこう叩く、と説明してくれるシド先生。その合図でイルカがバトンを口から離すのだそうで、それを次の人が拾って泳ぐのです。他のクラスも次々と位置につき、イルカが割り当てられました。シド先生の合図で競技スタート! イルカはスタート地点の真下で大人しくして…って、あれ? いない?
「…早速逃げたか…」
クスッと笑う会長さん。私たちのクラスのイルカは遙か彼方を泳いでいます。他のイルカもプールの中で気の向くままに縦横無尽、好きに遊んでいるのでした。選手の泳ぎに支障は出てないようですけども、これじゃイルカとリレーどころじゃありません。会長さんは黄色いマークをつけたイルカを目で追って…。
「仕方ない、あれがこっちに戻って来たらぼくが飛び込んでキープする。その時にバトンを持っていた人はイルカに渡してくれたまえ。そこで一往復、ぼくとイルカで繋ぐから。…ぼくが自分の分を連続して泳ぐかどうかは体力次第って所かな」
疲れてた時は一度上がって一休み、と会長さんが言ってから間もなくイルカがスーッと近づいてきました。会長さんはすかさず飛び込み、イルカの鼻先に手を当てて…。スウェナちゃんと私の目にはサイオン・シールドが見えましたけど、他の生徒には見えていません。ジョミー君たちは分かったらしくて手を振って応援しています。コースを往復して戻ってきた子が差し出したバトンをイルカが咥えて…。
「「「頑張ってー!!!」」」
クラスメイトの応援の中、会長さんはイルカと一緒に泳ぎ出します。サイオン・シールドに囲まれる形になったイルカは会長さんの速度に合わせるようにゆっくりと泳ぎ、コースを外れることもなく…アッという間に一往復。
「ごめん、疲れちゃった。ちょっと交替」
次の人、と会長さんに言われてスタンバイしていた子が飛び込んでいき、スウェナちゃんも私も泳いで、会長さんはアンカーでした。イルカと泳いだ時より速いんじゃないかと思うようなスピードで往復してきて…。
「1位! 1年A組!!!」
ブラウ先生が宣言した時、他のクラスはイルカと格闘中でした。どう頑張ってもイルカがコースを外れてしまい、相性の良さそうな泳者を見つけるために悪戦苦闘しているのです。それどころか割り当てられたイルカがコースに入ってくれないクラスも…。
「そるじゃぁ・ぶるぅって凄いのねえ…」
御利益バッチリ、とクラスメイトが褒め称える中、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は満面の笑顔。けれど…。
『頑張ったのはブルーだよ? イルカさんをサイオン・シールドで包んじゃうなんて、ブルー、やっぱり凄いよね♪』
ニコニコしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」の自慢の種は会長さん。クラスメイトには内緒になっている会長さんのサイオンの扱いの上手さを思念波に乗せて伝えてきます。
『ふふ、これでも一応ソルジャーだしね? ぶるぅも男子で頑張るんだよ』
『うんっ!』
交わされている二人の思念。女子の部がイルカ・リレーだったら男子は何をするのでしょう? 今度こそサメが出なければいいが、とジョミー君たちは不安そう。いいえ、サメならまだマシですけど、リレー可能とは思えないような生き物が出たらどうすれば…? 女子の部はまだ混乱が続いています。男子の部、ホントに「そるじゃぁ・ぶるぅ」で大丈夫なの~?




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