シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
別世界のシャングリラ号へ『ヘタレ直し』の修行に行った教頭先生。その甲斐あって、会長さんに瓜二つのソルジャーと疲れるまで大人の運動をして、ソルジャーは「壊れちゃいそうだ」と言ったきりベッドから出てこなかったと「ぶるぅ」が証言していったとか。何かといえば鼻血ばかりの教頭先生のヘタレ根性が、そんなに急に直るでしょうか?事の真偽を確かめるべく、私たちは教頭先生の家に来ていました。
「ハーレイの寝室は二階の端で、防音になっているんだよ。ぼくたちの声は聞こえないから安心して」
会長さんは合鍵で玄関を開け、私たちを招き入れると先に立って歩き出します。
「寝室を防音にしてある理由が笑えるんだ。ぼくと結婚すると、もれなくぶるぅがついて来るだろ?…子供のぶるぅに遠慮しないで大人の時間を過ごせるように、って配慮なのさ。捕らぬ狸の皮算用にも程があるよね」
「ねぇ、ブルー」
馴れた様子で廊下を歩く「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言いました。
「大人の時間とか、大人の運動とかって…どんなもの?…ぶるぅは恋をしたらできるよ、って言ってたし…。ぼくと恋をしようねって誘ってくれたし、ちょっと楽しみ」
「「「えぇぇっ!?」」」
とんでもない台詞に思わず叫んだ私たち。会長さんが「シッ」と人差し指を唇に押し当てて。
「聞かれる心配は無いと言ったけど、一応、忍び込んでる身だよ。もっと静かにしてくれないと」
「で、でも…」
有り得ないことを聞いちゃったし、と言い訳をするジョミー君。私たちもコクリと頷きます。
「気にしなくてもいいってば。あっちのぶるぅにブルーが言ったらしいんだ。…恋をするまで大人の時間も大人の運動もお預けだ、ってね。ませた子だけど理解しているわけじゃない。でなきゃ、ぶるぅを誘わないよ」
「だろうな」
キース君が幼児体型の「そるじゃぁ・ぶるぅ」を見下ろしました。
「まぁ、微笑ましい恋ができるかもしれん。運動したけりゃ公園もあるし」
「そっか、夜だから大人の運動なんだ」
納得した様子で呟く「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「公園って、夜は大人が多いよね。ぼくもぶるぅと恋をしようっと!…夜に遊んでる子供って誰もいないし、滑り台もブランコも二人で好きなだけ使えそう。くたくたに疲れちゃうまで遊ぶんだ♪」
大人の運動を勘違いしたようですけれど、誰も訂正しませんでした。子供にはこれで十分です。問題は教頭先生の方。本当にソルジャーと大人の運動を…?家の中は妙に静かで、人の気配もありません。
「食事もしてないみたいだね」
会長さんが勝手に冷蔵庫を開け、中身をチェックしています。
「帰ったら食べるつもりで置いといたのかな?…ご飯にトンカツ、どっちも今日のじゃなさそうだ」
「どれ、どれ?」
横から覗き込んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」が器にかけられたラップを外して検分して。
「うん、今日のご飯じゃないと思うよ。トンカツも揚げてから丸一日は経ってそう」
「なるほど。食事に降りてくる気も起こらないほど疲れ果てたっていうわけか…。そういう時こそ栄養を補給しないとダメなのにさ。この様子だとシャワーも浴びずに寝てるんだろうな」
なんだか会いたくなくなってきた、と額を押さえる会長さん。
「シャワーを浴びて帰ってきてると思いたいよ。そのまま帰ってきてベッドに潜ってるんなら最悪」
「だが、確かめに行くんだろう?」
キース君が言い、サム君は…。
「帰ろうぜ、ブルー。会いたくないなら会わずに帰るのが一番いいって!」
今なら十分引き返せるし、と会長さんの腕を引っ張りましたけど。
「…ううん、やっぱり確かめなくちゃ。ここまで疲れたっていうなら、なおのこと知っておかないと。ブルーとの間に何があったか、知らないままではいられないよ。…今後の対策を立てるためにもね」
溜息をついて階段に向かう会長さんの後ろに続く私たち。いよいよ教頭先生と御対面ということになりそうです。
階段を上ると廊下があって、突き当りの扉が寝室でした。会長さんは扉をじっと見つめて…。
「帰るなりベッドに潜り込んだっていうのは間違いないな。あれじゃスーツが台無しだ。今も布団にくるまって寝てる。…それじゃ行くから、万一の時はフォローを頼むよ」
サイオンで部屋を探って覚悟を決めた会長さんが扉の前で深呼吸してドアノブに手をかけました。鍵はかかっていなかったらしく、扉が静かに開きます。…どう見ても一人用には見えない大きなベッドの布団が盛り上がっていて、床にはスーツにワイシャツ、ネクタイや靴下が脱ぎ散らかされたままではありませんか。雨戸が閉まって薄暗い部屋の壁には会長さんのウェディング・ドレス姿の大きな写真が。
「ハーレイ!!」
会長さんが声を張り上げ、電灯のスイッチを入れました。パッと明るくなった部屋のベッドの上でモゾモゾと動く物体が…。
「来てあげたのに起きないのかい!?…朝だよ、ハーレイ!!」
「…うう……」
布団の頭の方が持ち上がり、寝ぼけ眼の教頭先生の顔が覗きます。髪の毛は乱れて寝癖まで…。会長さんは慎重に距離を取りながらベッドに近づき、バッと布団を剥ぎ取りました。白のランニングシャツと紅白縞のトランクスしか身に着けていない教頭先生がクシャクシャになったシーツの上に転がっている光景ときたら、憐れなような、間抜けなような。
「目が覚めた?…昨夜はお楽しみだったみたいだね」
会長さんの冷たい声と視線を浴びた教頭先生はサーッと青ざめ、大きな身体を縮こまらせて。
「……ブルー…。な、…なんでお前が…」
「言っておくけど、ぼくだけじゃないし。一人で来るほど馬鹿じゃないよ」
私たちの姿に気付いた教頭先生は慌てましたが、着る物は全て床の上。威厳も何もあったものではありません。
「す、すまん…こんな格好で。ちょっと待ってくれ、何か着るから」
「取り繕っても無駄だと思うな。…ハーレイが朝帰りして欠勤したのはバレてるんだ。あっちのぶるぅから全部聞いたよ。だからみんなを連れてきた。ぼくはあっちのブルーとは違う。ハーレイの相手をする気はないからね」
「………!!!」
教頭先生の顔が真っ赤になって、鼻を押さえたかと思ったら…ツーッと垂れたのは鼻血でした。えっと。真っ赤になるのは照れたということで通りますけど、鼻血って…。ソルジャーが壊れちゃいそうなほどやらかしたくせに鼻血だなんて、よほど鼻の血管が脆いのかな?
「……ハーレイ……?」
怪訝そうな顔の会長さん。教頭先生の方は気の毒なほど縮み上がってベッドの上で固まっています。ティッシュを取ることもできないらしく、押さえ切れなかった鼻血が白いランニングシャツにポタリと垂れて…。次の瞬間、会長さんがプッと吹き出し、おかしそうに笑い出しました。
「…そうか、そういうことなのか…。鼻血に阻まれちゃったんだ」
クックッと肩を震わせて笑い続ける会長さんと、ますます縮こまる教頭先生。いったい鼻血が何をしたと…?
「失神しちゃったんだよ、鼻血のせいで。…ハーレイの心を読んでみるかい?」
首を横に振る私たち。何が起こったか気にならないといえば嘘になりますが、朝帰りした教頭先生の心の中身を見たいとまでは思いません。どんな体験談が詰まっているのか分からないのに、ウッカリ覗いて後悔するのは御免です。
「…うーん、せっかく笑えるのに…。でも賢明な判断だとも言えるかな。今のハーレイは全く遮蔽が出来てないから、下手に読んだら君たちには刺激が強すぎるかも。まだ十八歳未満だしね」
「「「えぇぇっ!?」」」
それじゃ、やっぱり教頭先生はソルジャーを相手に頑張りまくっていたのでしょうか。十八歳未満お断りな中身が心の中にあるのだったら、そういう意味になりますし…。愕然とする私たちに、会長さんは笑いを堪えながら。
「違う、違う。…鼻血と十八歳未満お断りとは無関係だよ。密接に関係してると言えないこともないけれど」
鼻血を垂らして硬直している教頭先生を他所に、昨夜の顛末が語られ始めました。
「覗き見していたハーレイとぶるぅが見咎められた、ってことは話したよね。その後、ブルーがハーレイを誘ったんだ。修行に来たなら自分の相手をするように…って。ハーレイはヘタレを捻じ伏せてベッドに上がり、ブルーにのしかかったまではいいんだけれど、そこが限界。…ブルーの胸元に鼻血が垂れて、それを見て失神しちゃったのさ」
なんと!鼻血に阻まれたというのはソレでしたか。じゃあ、十八歳未満お断りとは?
「ぼくも見た瞬間は焦ったよ。本当にブルーとやっちゃったのか、って驚いた。ブルーを抱いてる記憶があって、しかも半端じゃないんだから。…でも、よく見たら変なんだよね。ブルーの反応がおかしいんだ。初心者相手というより、なんていうのかな…。いつもの相手としてるって感じ」
「「「???」」」
「つまり、向こうのハーレイ視点の記憶なんだ。失神したハーレイに呆れたブルーが流し込んだ偽の記憶だと思う。いくらブルーでも事の最中に相手の心は読めないだろうし、終わった後で記憶を読んで、それをハーレイに寸分違わずコピーしたのさ」
ひえぇぇ!それじゃ教頭先生の頭の中には、向こうのキャプテンがソルジャーと過ごした大人の時間の記憶がバッチリ植えられてしまっていると…。
「そういうこと。とても見事に刷り込まれてるし、記憶をしっかり正視しないと…ハーレイにも自分の記憶と全く区別がつかないだろうね。…そうだろう、ハーレイ?」
いきなり話を振られた教頭先生は飛び上がらんばかりに仰天すると、必死になって首を左右に振りました。
「嘘つき!!…勘違いしてパニックになって、今日は欠勤したんだろ?あっちのブルーを抱いた直後じゃ、ぼくの顔をまともに見られないもんね。で、真相に気付いた後はベッドの中で偽の記憶にドップリ浸っていたくせに」
会長さんは眉を吊り上げ、床に置かれていたクッションを掴むと、教頭先生の顔にボスッと投げつけて。
「ぼくが入ってきた時だってウトウトと夢を見てたんだろう?…記憶の中のブルーと思う存分やりまくる夢。ぼくのあんな姿が理想かと思うと、気持ち悪いったらありゃしない。ハーレイの変態!むっつりスケベ!!」
「ち、違う…!誤解だ、ブルー!」
「言い訳したって無駄だよ、ハーレイ。その記憶、最高なんだろう?…他人のだって分かってたって、しっかり根付いているんだからさ。ブルーがどんな声を上げたか、どんな身体をしていたか…自分が体験してきたようにハッキリ覚えている筈だ。極上のお宝を分けて貰えて幸せだよね」
赤い瞳に射すくめられて教頭先生は真っ青です。そして教頭先生の記憶を読んでしまった会長さんは、この上もなく不機嫌でした。実際には鼻血に阻まれて未遂に終わった『ヘタレ直し』の修行ですけど、教頭先生の頭の中に自分そっくりのソルジャーが抱かれる記憶が入っているのが不快だというわけでしょう。
「…本当に誤解だって言うんだったら、記憶を消去したっていいよね?…ブルーが流し込んだヤツなら、ぼくに消せないわけがない。それとも大事に持っているかい?…ぼくには決してしてあげられないサービスなんだし、記念に残しておきたいのなら無理に消すとは言わないけどさ」
記憶を消去すると迫られた教頭先生の顔は引き攣り、残してもいいと言われた途端に安堵の息が漏れました。分かりやすいのも、ここまでいけば天晴れです。三百年間も会長さんに片想いして、結婚したくて家族用の家や大きなベッドまで用意している教頭先生。その会長さんそっくりのソルジャー相手に「壊れちゃいそうだ」と言わせるほどの大人の運動をする記憶なんて、まさにお宝そのものですよね。
「…記憶を手放す気は無いっていうんだ?…だったら無理に消そうとすると弊害が出てしまうかもね」
会長さんは額を押さえて、大きな溜息をつきました。
「ぼくそっくりの顔と身体であんなことを…。ブルーの趣味は知っていたけど、現実を突きつけられると参っちゃうな。しかもハーレイに記憶を植え付けるなんて、どこまで悪戯好きなんだか…」
自分のことは棚に上げてしまっているようです。そもそも、会長さんが妙な悪戯を仕掛けなかったら、こんな事態に陥ったりはしないんですけど…言うだけ無駄というものでしょう。私たちは顔を見合わせ、苦笑するしかありませんでした。
「…仕方ない、記憶を消すのは諦めよう。その代わり…」
会長さんはベッドの上で動けないままの教頭先生をビシッと鋭く指差して。
「代償を払ってもらうからね。そう、その身体で支払うんだ。…いくら他人の記憶といっても、ブルーを抱いてきたんだろう?ぼくとブルーはそっくり同じだ。…ぼくの身体を好きにしたなら、ぼくに逆のことをされても文句は言えない立場だよねぇ?」
げげっ。代償って…身体で払えって、どういう意味!?…まさか会長さん、教頭先生を相手に大人の運動をしようというんじゃないでしょうね…?
「まずは準備をしなくっちゃ。…着替えてくるから、ハーレイが逃げ出さないよう見張っていて」
寝室を出て行こうとする会長さんをキース君が呼び止めました。
「ここで着替えればいいだろうが!何を着ようというのか知らんが、サイオンで着替えるのは得意なくせに」
「それじゃインパクトに欠けるんだ。ハーレイ、ちょっとバスルームを借りるからね!」
うっ、と呻いた教頭先生をサラッと無視して廊下に消える会長さん。何故に着替えにバスルーム…?私たちが首を捻っていると、教頭先生がベッドの上で縮こまりながら。
「…そ、そのぅ…シャツとズボンを着たいんだが…」
それくらいなら構わないかな、と誰もがチラッと思うより早く。
『却下!』
響いた思念は会長さんのものでした。
『そのままベッドにいるんだ、ハーレイ。…服を拾ってもらうのもダメ。自慢のトランクスを披露するチャンスなんだし、みんなにじっくり見せてあげれば?』
「「「……!!!」」」
青月印の紅白縞のトランクス。教頭先生は真っ赤になってランニングシャツの裾を引っ張り、少しでも隠そうと頑張っています。けれど隠せるわけがないので、滑稽というかなんというか。…お気の毒ですし、ここは目を逸らすのが礼儀っていうものでしょう。でも誰一人そうしないのは見張りを頼まれたからではなくて、野次馬根性のなせる業かも。だって滅多に見られませんよ、教頭先生のこんな惨めな格好なんて!
「ブルー、遅いなぁ…」
サム君が扉の方を眺めました。確かに時間が掛かりすぎです。サイオンを使えば一瞬のところを手作業で着替えているにしたって、なんだかちょっと遅すぎるような…。と、口を開いたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「あのね、ブルーは準備中。何をしてるかは言っちゃダメって」
「「「準備中!?」」」
「うん。もうすぐ終わるし、それまで秘密」
バスルームで着替えで準備中。いったいどういう意味なんでしょう?やがて扉がガチャリと開いて…。
「お待たせ、ハーレイ。…どう?宝物の記憶を再現したよ」
現れた会長さんが着込んでいたのはバスローブでした。肌はほんのり上気していて、どう見てもお風呂上がりです。
「ふふ、一人暮らしのくせに無駄に広いよね、バスルーム。ゆったり入れていいけどさ。…でも、ぼくと一緒に入る日のために広いバスタブにしたんだっけ。一人で使って悪かったかな?」
悪いなんて思ってないくせに、と心で突っ込む私たち。しかし教頭先生ときたら、お風呂までこだわって選んだんですか!こんな会長さんを相手に、どこまで夢を見ていたんだか…。その会長さんからはフワリと良い香りが漂ってきます。教頭先生が薔薇の香りのソープセットを使ってたなんて、意外と言うか何と言うか…。
「ほら、この香り、覚えてない?…あっちのブルーと同じ香りのシャンプーとボディーソープを使ってきた。ハーレイのヤツはオジサンっぽくて好みじゃないし、香りの記憶って大事だし。これでブルーと見分けがつかなくなったと思うんだけど、感想は?」
薔薇の香りは教頭先生の愛用品ではなかったようです。ホッとしましたけど、ソルジャーと見分けがつかない格好って?…しかもお風呂上がりでバスローブ。とてつもなく嫌な予感がします。会長さんは私たちの間を横切り、大きなベッドに近づいていくと、教頭先生の前に寝転がりました。ビクッと身体を竦ませる教頭先生に瞳を向けて…。
「見られてると欲情する。それもお前に見られていると特別に」
「「「!!!」」」
とんでもない台詞に呆然とする私たち。会長さんはクスッと笑って起き上がり、教頭先生に身体を寄せて首に抱きつくと「きて」と耳元で囁きます。教頭先生の顔が赤く染まって、またまた鼻血が…。会長さんは赤い瞳をキラキラさせて更に身体を擦り寄せました。
「で?…これから先はどうするんだっけ、ねえ、ハーレイ?…失神できないように意識をブロックしたし、後はやるしかないわけだけど」
えっ?や、やるって…この状況でいったい何を?赤い瞳が悪戯っぽく輝いています。
「そう、失神はさせないよ。1回イクまでどうにもならない。ぼくの暗示は強力だから。…この続きは?」
「……うう……」
教頭先生も真っ赤でしたが、私たちも同じでした。い、イクまでって…教頭先生がってコトですよね?いえ、会長さんの方だったとしても、見てなきゃいけないわけですか?…そうなるまで…?
「イッてもらうのはハーレイさ。…宝物の記憶どおりに実行できれば問題ないけど、ほら、このとおり全身硬直中。でも脳内では順調に記憶を再現しているんだ。…見てごらん」
ピョンとベッドから飛び降りた会長さんが指さしたのは紅白縞のトランクス。うわぁ、とんでもないことに…って、スウェナちゃんも私もお嫁入り前の女の子なのに…!!
「あ、ごめん。…女の子が二人もいたんだっけ。これじゃイクまでってわけにはいかないね…。うっかりしてた」
素直に謝った会長さんはニコッと天使の笑みを浮かべて。
「ハーレイ、この子たちに免じて許してあげる。…これで解消する筈だ」
宙にフッと現れた小さな瓶が教頭先生の手に渡されました。
怪訝そうな顔で小瓶を見つめる教頭先生。会長さんに「1回イクまでどうにもならない」状況に追い込まれちゃったわけですが…それを解消するアイテムって?見覚えがあるような気もするんですけど…。
「一息に飲めばいいんだよ。こういう時の特効薬さ。…ああ、手が震えて上手く開かない?」
会長さんが横から手を伸ばして蓋を開けると、教頭先生は一気に中身を飲み干しました。文字通り流し込むような勢いです。切羽詰まっていたのがバレバレですよね…って、あれ?今の小瓶に入った綺麗な色の薬は…ソルジャーからのお土産のハート型の箱に入ってたヤツなんじゃあ!?
「…それじゃ退散させてもらうよ。ん?…もしかして治まらない…?」
息遣いが荒くなった教頭先生をまじまじと眺めた会長さんは。
「ごめん、薬を間違えちゃった。…どうしよう…。あ、そうだ、これ!これを塗ったらスッキリするから!…でも女の子も混じっているし、ぼくたちが帰った後で塗るといい。多めに塗った方が効くのが早いよ」
はい、と綺麗な色の薬を渡す会長さん。今度こそ全員が薬の正体を見抜きましたが、驚きの声を上げるより早く青い光が私たちを取り巻いて…。
「帰るよ、ぶるぅ。ぼくたちの家まで全員で飛ぶから手伝って」
フワッと身体が浮き上がってしまい、着地したのは会長さんの家のリビングでした。私たちのカバンが置かれています。会長さんはスタスタと部屋を出て行き、バスローブから私服に着替えて戻ってきました。
「今、ハーレイが薬を塗ったよ。気持ちよくなる魔法の薬」
クックッと笑う会長さんはサイオンで覗き見しているようです。
「あの薬、効果絶大なんだよね。…ブルーが寄越すだけのことはある。ぼくの暗示も解かなかったし、かなり苦しくなるだろうけど…こういう時ってお医者さんを呼べばいいのかな?」
「「「お医者さん!?」」」
「うん。身体のトラブルは専門の人に一任するのがベストだろう?」
言うなり会長さんは電話機に向かい、パパッと素早く操作して。
「ああ、ノルディ?…ぼくだ。ハーレイの具合が悪いらしい。すぐに往診して欲しいんだけど」
「「「!!!」」」
首尾よく往診を頼んだ会長さんが電話を切ります。ドクターは大急ぎで教頭先生の家に向かうそうですが、催淫剤をダブルで使った教頭先生を治す方法なんてあるんでしょうか…?
「さあね。ノルディは百戦錬磨だからさ、状況は把握できると思うよ。後は二人の問題かな。…ノルディがボランティア精神を発揮してくれれば、ハーレイの回復も早いんじゃないかと思うけど」
「お、おい…」
キース君が震える声で。
「教頭先生をエロドクターの餌食にする気じゃないだろうな?…代償は身体で支払えとか言ってたが…」
「ぼくが代償に希望したのは薬を2つ使うこと。…持て余した熱を自分で何とかするか、ノルディの世話になって解決するかはハーレイ次第。…これも1つの修行だよ。ぼくは結果を見届けるけど、君たちはもう帰りたまえ」
遅くなるしね、と帰宅を促す会長さん。でも、ここで言われるままに帰っちゃったら、教頭先生はとんでもない目に遭ってしまうような気がします。会長さんが本気で教頭先生をドクターの餌食にするかどうかは分かりませんが、限りなくヤバイのは確かなような。私たち、いったいどうすれば…?