シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
別世界のシャングリラに住むソルジャーから凄いお土産を貰ってしまった教頭先生。会長さんそっくりのソルジャーと大人の時間を楽しむという夢のような想い出らしいのですが、実際のところは向こうのキャプテンが体験した記憶をソルジャーにコピーされたもの。本物の教頭先生はソルジャーの艶姿に鼻血を出して失神してしまい、何も覚えていないんです。その『お土産』を後生大事に抱えようとした代償は…。
「ノルディが車に飛び乗ったよ。大急ぎで行くって言っていたから、猛スピードで走るだろうね。信号に引っかからずに走り抜けられたら、5分ちょっとで着くんじゃないかな」
窓の外を見下ろす会長さんに陥れられた教頭先生。煽り立てられた挙句、熱を冷ます為の薬だと見事に騙され、ソルジャーが「ぶるぅ」に持たせた催淫剤セットの中の2つの薬を自分に使ってしまったんです。飲むタイプが1つと塗るのが1つ。おまけに「1回イクまでどうにもならない」暗示までかけられているわけで…。
「ふふ、ハーレイは重症だ。ベッドの上で悶々として転がってるけど、ぼくの暗示は強力だから、そう簡単にはイけないんだよね。ノルディが着く方が絶対に早い」
「あんた、本気でエロドクターに…」
キース君の顔が青ざめ、会長さんはニヤリと笑って。
「診察させるつもりだけれど?…どんな診断をするかはノルディに任すよ。励ましてから立ち去るも良し、大物にチャレンジしてみるも良し」
お、大物にチャレンジって…!さっきのボランティア精神発言といい、本当に教頭先生をエロドクターの餌食にしようというのでしょうか。いくらなんでも可哀相です。そりゃあ…ソルジャーとの記憶を手放さなかった教頭先生も悪いんですけど…。
「ふぅん、可哀相だと思ってるんだ?自業自得とは思わないわけ?…それにハーレイがぼくにしたいと思ってることを自分で体験してしまったら、ぼくと結婚したいだなんて言わなくなるかもしれないし…。一度ひどい目に遭えばいいのさ」
「…もしかして…俺も…?」
消え入りそうな声でそう言ったのはサム君でした。
「俺、ブルーのことが好きだけど…ブルーは女の子の方が好きだし、俺もブルーには迷惑なのかな…。教頭先生みたいになりたくなければ忘れろっていう警告なわけ…?」
「サム…。違うよ、サムはハーレイとは違うから。全然押し付けがましくないし、思い込みだって激しくないし…サムには何もしないってば」
大真面目に答える会長さんにサム君は…。
「あのさ…。ブルー、怒るかもしれないけど…。俺、教頭先生を助けてあげたいんだ。ブルーが好きだっていうのは俺と同じだし、三百年もブルーのことを大事にしてきた人なんだろう?…エロドクターからブルーを守ろうと頑張ったのも知ってるし…。だから…」
「恋敵を助けたいって言うのかい?…サムって優しすぎるよね…。そんな所が好きなんだけど」
会長さんは溜息をつき、教頭先生の家の方角を眺めながら。
「あーあ、予定が狂っちゃったな。…誰も帰ってくれないし…サムにはお願いされちゃうし。…仕方ない、みんなで行くしかないか」
「「「は?」」」
みんなで行くって、もしかして…?
「ハーレイの家に決まってるだろ。その代わり、何を見ても文句は言わせないからね。とりあえず最初はギャラリーなんだ。十八歳未満の団体だからモザイクはかけてあげるけど」
「「「モザイク!?」」」
「そう、モザイク。…色々と目の毒だと思うよ、君たちみたいな子供には。ぶるぅ、みんなで飛ぶから手伝って。それと着いたらシールドだ」
「オッケー♪」
「ちょ、ちょっと…」
ちょっと待って、と言い終わる前に青い光が私たちを包み込みました。ギャラリーにモザイクって、いったいどうなっちゃうんですか~!!
瞬間移動させられた先は教頭先生の寝室でした。私たちは会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も含めて全員シールドの中。会長さんが大好きな『見えないギャラリー』というわけですが、外の音声は聞こえます。さっきよりも更に荒くなっている教頭先生の息遣いがハァハァと…。
「一応努力はしてるようだね。…無駄じゃないかと思うけどさ」
会長さんの言葉に釣られてウッカリ見ちゃったベッドの上には、ランニングシャツと紅白縞のトランクスしか身に着けていない教頭先生の姿がありました。えっと、えっと…せわしなく動く両手の先をぼかしているのがモザイクってヤツ!?うわ~ん、とんでもない所に来ちゃいましたよ!スウェナちゃんと私は耳まで真っ赤。ジョミー君たちは硬直です。
「…だから帰れって言ったのに。見たくないなら目を瞑って耳も押えていたまえ」
そ、そんなことを言われても…怖いもの見たさと言うのでしょうか、それとも多感なお年頃なのがマズイのでしょうか。私たちはベッドから目を逸らしただけで、誰も目を瞑りはしませんでした。
「やれやれ、好奇心に満ちた子供は恐ろしいね。…ハーレイったら必死になっているけども…あの程度ではどうにもならない。記憶の中のブルーを思い浮かべて頑張るだけでは無理なんだ。ぼくの暗示は甘くはないよ。ブルーを抱いた記憶の持ち主に相応しい刺激が得られない限り、イけないようにしてあるし」
「なんだと?」
反応したのはキース君。この状況でも頭は冴えているようです。会長さんはクスッと笑って。
「よく考えてみてごらん。ブルーを恋人にしてるハーレイがヘタレていると思うかい?…数えきれないほどブルーを抱いている筈だ。まりぃ先生のイラストを眺めて盛り上がってるハーレイなんかとは違うのさ。ハーレイが満足できる程度の刺激でイッちゃうようでは、ブルーの相手は務まらないよ」
ハーレイにはブルー相手に頑張れるだけの根性を見せて貰わないと、と会長さんは言い放ちました。
「記憶の中のハーレイが耐え抜いたのと同じだけの快感をやり過ごすまでイけないように暗示をかけた。記憶の代償を身体で支払えっていうのは、そういう意味。…元々、あっちのハーレイと入れ替わってブルーを抱いてみたいと高望みしてたことだしね。さて、どのくらい時間がかかることやら…。イク前にノルディが来るんじゃないかな」
「ヤバイじゃねえか!」
サム君が叫びましたが、会長さんは雨戸の方を見ています。
「来た、来た。急いでるのは分かるけれども、住宅街は徐行すべきだよねぇ。緊急車両じゃないんだからさ。…おっと、門扉の鍵が閉まってたっけ。うん、これでいい」
どうやらサイオンを使って開けたようです。玄関は合鍵で開けてそのままですし、ドクターは到着したらすぐに入れるというわけで…。教頭先生はそんなこととは夢にも知らず、まして私たちがいるとも気付かず、荒い息遣いだけが響いています。防音になっているので外の音声は聞こえませんが、ドクターはもう、すぐそこに?
「車を止めて降りたとこ」
会長さんが答えた直後にチャイムの音が鳴りました。
「「「!!!」」」
教頭先生もビクッとしましたが、咄嗟に反応できないようです。チャイムは何回か鳴って終わりでした。ドクターは答えを待たずに突入することにしたのでしょう。ところが教頭先生はホッとした顔でさっきの続きを始めているではありませんか!
「ハーレイったら、訪問販売か宗教の勧誘だとでも思ったようだね。…ふふ、ノルディはもう階段の下まで来てるんだけど」
楽しそうな会長さんが言い終えるのと、寝室の扉がバン!と開いたのは同時でした。
「失礼します!!」
駆け込んできたドクターの腕から往診用の鞄がドサリと床に。
「…きゅ、…急患だと…聞いたのですが…」
呆れ果てた、という表情でドクターはベッドの上の教頭先生を眺めました。
「…お取り込み中でございましたか。やれやれ、悪戯電話に引っかかってしまったようです」
「い…たず…ら…電…話…?」
ハァハァと息をしながら途切れ途切れに尋ねる教頭先生。予期せぬ訪問者に身体はカチンコチンに固まっています。
「ええ、悪戯電話というヤツですよ。あなたの具合が悪いから往診してくれ、とブルーから電話があったのですが…サイオンで覗き見をしていたのでしょうね」
「…ブルー…が…?」
「そうです。あなたの大事なブルーからでした。…頼まれた以上、やはり診察しませんと」
ドクターは落とした鞄を拾い上げると、ベッドのそばに近付きました。
「まず問診をしましょうか。…この症状はいつからです?」
どう見ても病人ではない教頭先生を前に、ドクターは大真面目な顔で『お医者さんごっこ』をする気のようです。本物のお医者さんですから『ごっこ』というのは変ですけども、そも、病気ではないわけですし…『ごっこ』と呼ぶのが相応しいような。教頭先生は紅白縞のトランクスをゴソゴソ履き直し、掛け布団を首まで引っ張り上げました。私たちの視界からボケた部分が消え失せます。
「…布団を被られては困りますね。診察の時には剥がしますよ」
ドクターは教頭先生の顔を覗き込み、もう一度ゆっくり尋ねました。
「チャイムを無視なさるほど忙しかったようですが…いつからそんな状態ですか?…ブルーに覗きの趣味があるとは思えませんし、彼が関係しているのでは?」
「…い、いや…」
「ほほう。…無理強いをして逃げられたとか、それとも悪戯で誘惑されたか…。私の推理では後者です。艶姿をご覧になったのではないでしょうね?そんな良い光景を独り占めなさってはいけませんよ」
「…!!!」
ある意味、図星を突いた言葉に唾を飲み込む教頭先生。ソルジャーとの記憶が鮮明に蘇ったに違いありません。その一瞬をドクターは見逃しはしませんでした。
「当たりでしたか。…では、せっかくですから熱を測るついでに拝見させて頂きましょう」
スッと右手を教頭先生の額に置いて目を閉じるドクター。教頭先生の心を読む気なのでしょうが、そんなことをしたらあの記憶が…!
「………何故です………」
地を這うような低い声を絞り出し、ドクターはワナワナと震え出しました。
「…何故、あのブルーがあなたなんかと!!」
あらら。ソルジャーの存在を知らないドクターは、教頭先生が会長さんを抱いたと勘違いしてしまったようです。教頭先生は大慌て。
「ち、違う…!そ、それは…その記憶は…」
「…なんですって?…ブルーではない?」
詳しく聞かせて貰いましょうか、と凄んだドクターは次の瞬間、おかしそうに笑い出しました。
「ははは、サイオンとは便利なものですね。一部始終が分かりましたよ。…あなたの記憶に怒ったブルーが腹いせに私に電話をしてきたというわけですか。なるほど、なるほど」
使ったのはこの薬ですか、とドクターが手に取る前に飲み薬と塗り薬の小瓶がフッと消え失せます。それは会長さんの手の中にあり、そこから更に宙へと消えて…。
「ノルディには渡せないからね。分析して同じものを作ろうとするに決まってる。処分するのが一番なのさ」
そしてドクターの方も小瓶が消えた辺りを見つめて不敵な笑みを浮かべました。
「証拠隠滅ときましたか。…この絶妙なタイミング。今もブルーは何処かで観察しているようですね。これは私も頑張りませんと…。そうでしょう、ハーレイ?」
「…な、何を…」
「決まっているではありませんか。ブルーは私に治療を頼んできたのです。…務めを果たすまでですよ」
ドクターは掛け布団をバッと剥ぎ取り、下着姿の教頭先生を絡み付くような視線で眺めて。
「…私の好みからは外れていますが、守備範囲は広い方でしてね。体格差で尻ごみしていたのでは、経験値なぞ上がりません。…大丈夫、気を楽にしておいでなさい」
「…ちょ、ちょっと待て、ノルディ…!」
「この場合、治療が最優先です。あなたにも御協力いただかないと」
言うなりドクターは教頭先生の首に顔を埋めました。
「…うっ……ノ…ルディ…」
呻くように上がった声にドクターは指を滑らせながら。
「ああ、申し訳ありませんが…唇へのキスは無しにします。噛み付かれたら大変ですしね」
その分は他で楽しませて差し上げますから、と首筋に舌を這わせてゆくドクター。ものすごく危ない状況ですが、会長さんが動く気配はありません。教頭先生も薬が効いているせいなのか、払いのけることができないようでした。
「おい、このままだとマジでヤバイぞ」
キース君が焦り、サム君が会長さんの腕を引っ張って。
「ブルー、まずいよ。教頭先生、動けないんじゃ…」
「いいんだってば。…ここへ来る前に約束しただろ、何を見ても文句は言わない…って」
悠然と見ている会長さん。1回イクまでどうにもならない、という暗示を解く気も無さそうですし、助ける気なんて皆無なのかも…。
「…如何ですか、ブルーを抱くより前に御自分が抱かれる羽目になった御気分は?」
ドクターは教頭先生のランニングシャツを捲り上げて胸を指と舌で弄っているようでした。私たちにはボケていて見えませんけど、教頭先生が途切れ途切れに漏らす声の感じからして、かなりな腕の持ち主かと。…っていうか、教頭先生、あんな色っぽい声が出せたんですねぇ…。ちょっとビックリ。
「楽しいだろう?…ノルディが頑張ってくれてるんだし、しっかり見物しとかないとね。あ、君たちはモザイクつきだし、そうハッキリとは見えないか…」
クスクスと笑う会長さんは無修正で見ているようです。三百年以上も生きてるんですし、シャングリラ・ジゴロ・ブルーでフィシスさんとも深い関係がある人ですし、別に問題ないんですけど…悪趣味というか何と言うか。そしてドクターは興が乗ってきたらしく、とんでもないことを言い出しました。
「せっかくですから、あなたが貰ったという記憶の中の動きを全て再現してみましょうか?…ええ、勿論あなたがブルーの役で、私があなたを演じるのですよ」
ひえぇぇ!私たちは青ざめましたが、教頭先生は既に翻弄されまくっていて抗議の声も出せません。会長さんは「いい趣向だ」と頷いています。も、もう、ついていけないかも~!ドクターの手が紅白縞のトランクスにかかったのを見たらクラッと眩暈が…。
「…4人脱落」
頭を抱えて座り込むのと、会長さんの声が重なりました。他にも3人脱落したみたい。エロドクターの卑猥な台詞と教頭先生の喘ぎ声が折り重なる中、脱落者はいつの間にか7人全員に…。もはや見ているのは会長さんと、子供で意味が分かっていない「そるじゃぁ・ぶるぅ」だけでした。サム君が掠れた声で会長さんを呼びながら。
「…助けてやれよ、ブルー!…このままじゃ…このままじゃ、教頭先生が…」
「もうちょっと。…もうちょっとで面白いことになるんだからさ」
笑いを含んだ会長さんの声に重なってゆく教頭先生の激しく荒い息遣いと艶っぽい声。もうちょっとだなんて言われても…早く助けないとマズイのでは…。
「見てもいないくせに文句を言わない!ギャラリーの役に立っていないんだし、そこで大人しくしていたまえ。本当にもうちょっとなんだ。ねぇ、ぶるぅ?」
「んと…んと…。何が?」
「ごめん、聞いたぼくが馬鹿だった」
「それ、ぼく、ちょっと傷ついちゃう。…だけど、ハーレイ、獣みたいな声だよね」
獣ですって!絶妙な表現に会長さんが吹き出したのと、教頭先生の一際熱い叫びは同時でした。も、もしかして…イッちゃいましたか…?…エロドクターの声がねちっこく聞こえてきます。
「…いい顔を見せて頂きましたよ。ブルー役、よくお似合いで…。ふふ、お楽しみはこれからです」
ハァハァという呼吸は教頭先生なのか、ドクターなのか。もうヤバイなんてものではなくて、面白いなんてものでもなくて…。会長さんったら、何をどうするつもりなんですか~!と、私たちがシールドの中で絶叫した時。
「どりゃぁあああ!!!」
野太い声が部屋に響いて、重たいものが床にドスンと落ちました。こ、この気合と震動は…。
「…っっつぅ…」
痛そうな呻きはドクターのもので、思わず顔を上げる私たち。床の上にドクターが仰向けに倒れ、それを教頭先生が肩で息をしながら仁王立ちになって見下ろしています。ランニングシャツしか着てませんから、ちょっとモザイクかかってますけど。
「…いたたた……。よくも素人相手に…」
「それは私の台詞だ、ノルディ」
教頭先生は紅白縞のトランクスを拾い上げ、よいしょ、と履いて。
「私がイッたら治療は終わりの筈だろう。…ブルーが何と言ったか知らんが、これ以上は遠慮してもらう」
まだハァハァと息が乱れているのに、これだけの言葉を一気に喋れる教頭先生。鍛え方が半端じゃないのでしょう。ドクターは腰を擦りながら身体を起こし、天然パーマの頭を振って立ち上がると。
「…言われなくても退散しますよ。今のですっかり気がそがれました。この埋め合わせはいずれブルーに…。いえ、ブルーよりも…」
顎に手を当ててドクターはニヤリと笑いました。
「あなたの記憶で見せて頂いたブルーの方に一度手合わせ願いたいものです。…ああ、だからといってブルーを諦めたわけではないですよ?あちらのブルーも素敵でしょうが、嫌がるブルーを手なずけるのが私の積年の夢ですからね。今度もう一人のブルーにお会いになったら、宜しくお伝え頂きたい。もしも紹介して頂けたら、今日の治療費と打ち身の慰謝料は倍にしてお返し致しましょう」
合計でこれだけになります、とボッタクリな金額を告げるドクターに教頭先生は苦い顔をして財布を取り出し、代金を渡すと声をひそめて。
「払った以上、守秘義務はキッチリ守ってもらうぞ。…喋りまくられたのではたまらん」
「頼まれなくても言いませんよ。…私の趣味が疑われますし」
二人の間でバチバチと火花が飛び散り、しばらく睨み合いが続きましたが…。
「…では、くれぐれもお大事に」
「うむ。…気をつけて帰ってくれ」
流石は大人同士です。さっきまでのことは無かったようにお医者さんと患者の関係に戻り、ドクターは帰ってゆきました。えっと、これで円満解決かな…?
「お見事、ハーレイ。…あの態勢でよく投げ飛ばせたね」
パチパチパチと拍手が響き、会長さんが一人でシールドの外へ。ベッドに腰を下ろそうとしていた教頭先生は、突然現れた会長さんの姿に口をパクパクさせています。
「…み…見ていたのか…!まさか最初から…全部…?」
「うん、全部。…ノルディに電話をした後、すぐに来たんだ。本当に危なくなったら助けるつもりだったけど…ハーレイなら自分で撃退するかな、とも思ってた。予想以上に立ち直りが早くて驚いたよ」
「…そうなのか…」
ホッとしたような表情が教頭先生の顔に浮かびました。
「お前に見られていたというのは恥ずかしいんだが、ノルディを叩き出せてよかった。…あんな状態の時にお前が来たら、ノルディは矛先を変えるからな。正直、あの状況ではお前を守れる自信が無い」
「まったく、どこまでお人好しなんだか…。ノルディを呼び出したのは、ぼくなんだよ?」
「…それでも、だ。お前が危ない目に遭うよりはずっといい」
教頭先生は穏やかに微笑み、落ちていたズボンを履いてワイシャツも身に着けてゆきます。これが大人の余裕でしょうか?…会長さんは唇を尖らせ、不満そう。
「ちぇっ、なんだかつまらないな。…あの記憶を消去したくなるほど困らせようと思ったのに」
「確かに大いに困りはしたが…。いい勉強になったと思う。ノルディが配役を決めたお蔭で、よく分かった。私だけが気持ちよくなったのではダメなのだな。…お前を十分満足させられないといけないらしい」
「えっ…」
会長さんの目が点になり、それはシールドの中の私たちも同様で。そんな会長さんに気付かず、教頭先生はにこやかに笑って続けました。
「今回はお前が意識をブロックしていたせいで長いこと耐える羽目になったが、それだけの時間を耐え抜かないと本番では役に立たないようだ。…お前が嫁に来てくれないのも無理はない。夫婦生活に不安があったか…」
「ち、違うってば!ぼくにはそんな趣味は無いんだから!!」
「…私だってノルディにやられるまでは、やることばかり考えていたが…やられてみたら最悪というわけでもなかったぞ。気持ち良かった部分もある。…ブルー、お前も食わず嫌いは良くないな。私が修行を積んで自信をつけたら、思い切って嫁に来ないか?」
なんと!教頭先生はエロドクターに嬲られた末に開眼してしまったようでした。今まで以上に会長さんへの想いが募りそうです。会長さんは顔を引き攣らせ、床のクッションを拾い上げて。
「ハーレイの変態!!」
ボスッ、と顔を目がけて投げると、ポカンとしていた私たちまで一気に青いサイオンで包み込むなり瞬間移動。感情が昂ぶっていると「そるじゃぁ・ぶるぅ」の補助が無くても全員を連れて飛べるんですねぇ…。
「なんで裏目に出ちゃうのさ!…ハーレイったら、やる気満々じゃないか!!」
元のリビングに戻った会長さんは眉を吊り上げて叫びました。そこへすかさずキース君が。
「…何もかも、全部あんたが仕掛けたんだろうが。ヘタレ直しも、今度のことも」
「そりゃそうだけど、ノルディのヤツにオモチャにされたらショックを受けると思ったのに!…プライドが傷付いた所で釘を刺すつもりだったんだ。ハーレイがぼくに望んでるのはそれとおんなじ事なんだよ、って!!」
「なるほど。…致命的な読み違えをしてしまったわけだな。教頭先生は燃えているぞ。…どうやって修行をするつもりかは知らないが」
キース君の容赦ない言葉に会長さんはソファに突っ伏し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が無邪気な声で。
「ねぇねぇ、遅くなったし、みんな晩御飯を食べて帰るよね?急いで用意するから待ってて。…それとね、教頭先生の修行、ぶるぅに頼めば出来ると思うな。ねぇ、ブルー。ヘタレ直し、また頼んでおく?」
「……ぶるぅ、ヘタレ直しも修行の話も綺麗サッパリ忘れるんだ。もう二度と頼まなくていい」
ソファに沈んだままの会長さんに「は~い♪」と元気よく返事を返して「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキッチンに駆けてゆきました。会長さんの悪戯も今回ばかりは最悪な結果になったようです。エロドクターに食べられかけて持久力の必要性を悟った教頭先生。ヘタレ直しの修行と併せて、頑張りまくるに決まっています。
「ヤバイよね」
「うん、ヤバい」
私たちは顔を見合わせ、窓の外に光る一番星に心の中でお祈りしました。
『教頭先生のヘタレが永遠に直らないよう、お願いします』
お星様に私たちの心の声が届くでしょうか?…もしかしたら教頭先生が同じお星様に願掛けをしていたりして…。教頭先生、三百年越しの想いを遂げるべく、只今、絶賛修行中。ソルジャーとの記憶を大事に抱えて、目指すは会長さんとの甘い新婚生活です。会長さんもこれに懲りたら、少しは悪戯しなくなるかな…?