シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
色々とお騒がせだった今年も本日で終わり。寒波の中で大晦日到来、恒例となった元老寺での除夜の鐘撞きの日がやって来ました。私たちは午後からキース君の家にお邪魔し、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」ともども庫裏のお座敷でのんびりと。しかし…。
「みんなはいいよね、思い切り暇でさ!」
失礼します、と入って来たジョミー君が開口一番、早速愚痴を。お茶菓子を届けに来たようですけど、顔いっぱいに「なんでぼくだけ」の文句がデカデカ。
「仕方ないだろう、ぼくの弟子だし…。それにサムは真面目にやっているしね」
見習いたまえ、とすげなく突っぱねる会長さん。ジョミー君とサム君は墨染の法衣でお手伝いをさせられているのです。
「アドス和尚の御好意でやらせて貰っているんだ、きちんとしないと叱られるよ?」
「もう叱られたし!」
「おやおや。何をやったんだい?」
「…蝋燭の扱いがなってないって…」
そんなの素人に出来るもんか、とジョミー君はブツブツと。
「そろそろ取り換える時間だから、って言われたんだよ! 短くなったのを消して新しいヤツと交換しろって…」
「それで?」
「古いのを消したらアドス和尚の雷が落ちた…」
え、なんで? 消せと言われて何故に雷? 正しい事をしたんじゃあ…。けれど会長さんは「ああ、なるほど…」と納得した様子。
「あれだろ、バースデーケーキの蝋燭の要領でフーッと消したね?」
「蝋燭ってそういうモンだと思うよ! まさか手で扇いで消すなんて!」
知るもんか、と喚くジョミー君。そっか、蝋燭を吹いて消したらダメなんだ? そんな話は初耳です。シロエ君たちも知らないようで。
「え、息で消すのはNGですか?」
「うん。神仏に関するものに息は厳禁。ニュースとかで見ないかな? マスクをしたり、紙を咥えて仏具なんかを扱ってるのを」
「「「あー…」」」
それは見覚えがありました。たかが蝋燭、されど蝋燭。御本尊様にお供えしてある以上は息はダメだというわけですか…。アドス和尚の雷が落ちるのももっともです。ジョミー君の仏弟子修行は今年の大晦日も大荒れかも?
そんなこんなで大晦日の午後はキース君たちもバタバタと。除夜の鐘撞きに来た人のお接待用のテントに椅子やストーブを運び込む係は出入りの業者さんですが、準備万端整っているかチェックをしたり、照明や看板を点検したり。一段落した夕食の時間はすっかりお疲れムードです。
「若くないねえ、しっかり食べておかないと」
これから先が本番だよ、と会長さんは年越し蕎麦をズルズルと。
「鐘撞きの後は修正会だしさ。文字通り休む暇も無い」
「そう言うあんたは元気そうだな、食っちゃ寝していたわけだからな」
よくも菓子まで運ばせやがって、とキース君が毒づきましたが、会長さんは知らん顔。
「アドス和尚の方針だろ? ぼくの役目は鐘撞きだけ! 緋色の衣で有難さアップ」
「く、くっそぉ…。見てろよ、俺もいずれは緋の衣を…」
「ダメダメ、年季が違うってね。ぼくの境地に達するためには三百年は必要かと」
君ではまだまだ迫力不足、と伝説の高僧、銀青様は右手をヒラヒラ。
「ブツブツ言ってる暇があったら食べたまえ。栄養をつけて、いざ年越し!」
「畜生め…。だが、蕎麦は確かに熱い内だ」
「かみお~ん♪ エビ天の衣も崩れちゃうよ?」
サクサクの間が美味しいんだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。お座敷には暫し年越し蕎麦をすする音が響き、それからスタミナを補給するべくカツ丼などをパクパクと。精進料理じゃないのかって? その辺は建前と本音です。精進料理を食べていたんじゃハードな年越しはとてもとても…。
「ふふ、元老寺が厳しくなくて良かったねえ?」
精進料理のお寺もあるよ、と会長さんが海老フライのお皿に手を伸ばしながら。
「璃慕恩院でも、そこは厳しい。普通のお寺だから出来る贅沢、有難く頂戴しないとね。まあ、一般家庭でも侘しい夕食ってケースもあるけど…。酒の肴がつくだけマシかな」
「「「は?」」」
「ハーレイの家だよ。おせちはたっぷり用意したものの、今夜は年越し蕎麦で晩酌みたいだ。毎年おせちが余るからねえ、メタボ防止に今夜は軽めに」
「…俺たちのために用意して下さっている分か…」
御馳走になった年は殆ど無いな、とキース君。教頭先生は会長さんの突然の年始の訪問に備えて毎年おせちをドカンと注文。なのにお目当ての年始客は無く、一人で食べるのが定番で。
「いいじゃないか、正月早々あれこれ食べられてさ。今年も妙な期待をこめて沢山注文しちゃったようだよ、豪華版をね」
馬鹿じゃなかろうか、と嘲っている会長さん。和洋中と揃ったおせちとやらは、今回も無駄になるのでしょう…。
除夜の鐘撞きに出掛けるまでは束の間の自由時間です。緋色の衣に着替えた会長さんと萌黄の衣のキース君、墨染の衣のサム君とジョミー君も「外は寒いし」と暖房の効いたお座敷でまったりと。とはいえ、間もなく出陣ですが…。そんな間も会長さんは教頭先生を覗き見中。
「晩酌は終わってバスタイムらしい。来年こそは姫はじめだとか言ってるよ」
「「「姫はじめ?」」」
「ごめん、君たちには通じなかったか。とにかくエッチな妄想さ」
そんな願望が叶うものか、と吐き捨てるような会長さん。
「除夜の鐘を撞いて祓うべきだね、あの手の煩悩! まったくもう…。あれ?」
「どうかしたか?」
そろそろ行くぞ、とキース君が声を掛けると。
「ちょっと待った! ハーレイの様子がおかしいんだよ」
こんな感じで、と思念波で伝えられた映像。お風呂から上がった教頭先生、洗面所の鏡の前で歯ブラシ片手に固まっています。バスローブではなく腰タオル一丁、何をなさっているんでしょう?
「「「???」」」
眉間の皺がググッと深くなってるような? それに前屈みで歯ブラシすらも動かさないで硬直中とはこれ如何に? ややあって「ううう…」と呻き声が。
「やっちゃったか…」
これは暫く立ち直れないね、と会長さん。
「ギックリ腰だよ、どうなるのかな? ふとしたはずみで出るとは聞くけど、お風呂上がりとは情けない。この体勢で立っているのも辛いだろうから、いずれは床にバッタリかと」
「おい、どうするんだ! ゼル先生とかに連絡を…」
このままじゃマズイぞ、とキース君が声を上げたのですけど。
「別にいいだろ、呼びたきゃ自分で呼べばいい。思念波という手もあるしね? ぼくたちはこれから忙しいんだ。ハーレイは放置でいいってば」
覗き見してなきゃ気付かないんだし、と会長さんは立ち上がりました。思念波で伝えられていた教頭先生の様子も分からなくなり、今は御無事を祈るしか…。
「さあ、行くよ。除夜の鐘撞きと修正会ってね」
ハーレイの煩悩も祓っておこう、と会長さんが袂から出した数珠をジャラッと。煩悩を祓う除夜の鐘撞き、病魔は祓えないのでしょうか? 教頭先生のギックリ腰を祓ってあげたら、喜ばれると思うんですけど…。
元老寺の除夜の鐘撞きは回数制限無しで午前一時まで。会長さんが最初と最後の鐘を担当します。大勢の檀家さんや一般の人がつめかけて来て、お接待のテントは大賑わい。晴れ渡った空からたまにチラホラと雪が舞う中、サム君とジョミー君も頑張りました。
「おぜんざいのお接待、如何ですかー?」
「お代わりもどうぞ!」
宿坊に勤める人たちに交じって声を張り上げ、おぜんざいのお椀を手渡したりも。無関係な私たちはテントに居座り、ストーブで温まりつつ高みの見物。除夜の鐘はもちろん撞きましたよ? 新しい年も平和になりますように、と心をこめて。やがて会長さんが最後の鐘をゴーン…と撞いて。
「皆さん、お疲れ様でした。いい年になるといいですな」
アドス和尚は満面の笑み。超絶美形の会長さんのお蔭で除夜の鐘は毎年満員御礼、続く修正会にも檀家さん以外の人が訪れる盛況ぶりです。さあ、この後は本堂へ。あらら、今年も椅子席は却下? 若人は黙って畳に正座でお勤めですか、そうですか…。
『先輩、ぼくたちいつになったら椅子席を貰えるんでしょう?』
シロエ君の思念の嘆き節。御本尊様の前では導師を勤める会長さんが読経しています。
『当分は無理じゃないですか? 七十歳を越えたら考慮されるかもしれません』
頑張りましょう、とマツカ君。でも、シロエ君とマツカ君はまだいいんです。柔道部でも正座はしますし、マツカ君はお茶やお花の心得もある正座の達人。問題はスウェナちゃんと私で、今年も足が痺れて痺れて…。
『なにさ、そのくらい我慢しなよ!』
ぼくなんか、と飛んで来たジョミー君の思念。なんだなんだ、と眺めてみれば五体投地の真っ最中。スクワットにも匹敵すると噂のハードな所作だけに不満な気分は分かりますけど、気を散らしてるとアドス和尚に叱られますよ? あーあ、やっぱり思い切りテンポがズレてるし…。
『ジョミー先輩、また雷が落ちそうですね』
『そうねえ、自業自得だけれど』
放っときましょ、とスウェナちゃん。案の定、修正会がつつがなく終了した後、ジョミー君はアドス和尚の直々の命令で御本尊様の前で罰礼百回。南無阿弥陀仏を唱えながらの五体投地を百回です。膝が笑うと評判の刑、ダメージはさぞかし大きいかと…。
ジョミー君の罰礼が済み、庫裏に引き揚げた私たちには慰労の宴会が待っていました。会長さんを除いたお坊さん組は明日の朝9時から檀家さんの初詣のお相手ですし、その前に初日の出も拝みますから徹夜騒ぎとはいきませんけど…。
「ふふふ、ジョミーは派手にやられたね」
膝はどうだい、と会長さんがからかい、ジョミー君がブツブツと。
「見りゃ分かるだろ! 体育座りもキツイんだよ!」
「親父はトコトンやるからなぁ…。ほれ、塗っとけ。修行道場では使えんがな」
シャバの強みだ、とキース君が筋肉痛の薬を手渡し、膝を捲り上げたジョミー君がせっせと塗り塗り。プーンと薬の匂いが漂ってきます。あれ? 筋肉痛で思い出しましたが、教頭先生、どうなったのかな?
「ああ、ハーレイ! …すっかりキッパリ忘れていたよ」
どうしただろう、と覗き見モードで瞳を凝らした会長さんが。
「………信じられない…。遭難中だ」
「「「遭難中?」」」
「そう、遭難。立ってる限界が来たらしくって、洗面所の床に転がってるよ。歯ブラシを持ったまま呻いているさ」
しかもタオルは落っこちたようだ、と会長さんの指がパチンと鳴って中継画面が現れました。大事な部分にモザイクつきの教頭先生が真っ裸で仰向けに倒れています。右手に歯ブラシ、眉間に皺。これはまさしく遭難中で。
「あれから何時間経ったっけ?」
会長さんが時計に目をやり、キース君が。
「軽く二時間以上だな。下手すれば三時間近いだろう。これは救助に出掛けた方が…」
「猥褻物を陳列中のハーレイをかい? ぼくは触りたくないんだけれど」
「しょっちゅう悪戯してるだろうが! こんな時くらい、お役に立て!」
正月早々見捨てるな、とキース君に怒鳴られた会長さんは渋々と。
「…仕方ないねえ、せっかく宴会してたのに…。明日の朝も早いというのに、救助活動か…」
せめて一蓮托生で、と言われた意味を把握する前にパァァッと迸る青いサイオン。もしかして私たち、道連れですか? 教頭先生を救助するべく、出動させられるんですか~?
暖かい照明に照らされた教頭先生の家の洗面所。その照明は歯ブラシしか持たない教頭先生を容赦なく照らし、股間にしっかりモザイクが。間抜けな姿を取り囲むように出現した私たちを把握するにはギックリ腰は酷な状態で。
「う、うう…。ブルー、なんでお前が?」
私服に着替えた会長さんに覗き込まれた教頭先生、腰の痛みで脂汗。
「他のみんなも来ているよ。ぶるぅもね」
「かみお~ん♪ ハーレイ、ベッドに運ぶ?」
「う、うむ…。私一人ではどうにもこうにも…」
動けんのだ、と呻く教頭先生に会長さんは呆れ顔で。
「ゼルを呼んだら良かったのに…。でなきゃヒルマンとか、色々いるだろ」
「そ、それが…。年越しで宴会中なのだ。飲酒運転は出来んと断られた。エラとブラウは旅行中だし、他の連中にはこんな姿は見せられん…」
「やれやれ…。医者ならプロがいるのにねえ? ノルディは飲んではいないようだよ」
「あ、あいつに借りが出来るのは…。ううっ、いたたた…」
助けてくれ、と泣きの涙の教頭先生の腰に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がヒョイとタオルを。
「えとえと…。なんでノルディはダメなの?」
「こ、腰は男の命でな…。ギックリ腰でこの有様だと知れたら最後、何を言われるか…」
「うーん…。君って、つくづく…」
馬鹿なんだねえ、と冷たく見下ろす会長さん。
「確かに、腰は男の命だけどさ。…肝心の時にギックリ腰になる心配は無いそうだよ? 使う筋肉が違うとかなんとか、そんな話を聞いたけど…。騎乗位で下からズンズンやっても平気らしいね、ぼくはギックリ腰になったことが無いから体験談ではないんだけどさ」
「き、騎乗位……」
ツツーッと教頭先生の鼻から溢れる鼻血。騎乗位って何か分かりませんけど、妄想が爆発したらしいです。会長さんは教頭先生を激しく罵り、柔道部三人組が大きな身体を抱え上げて二階の寝室へ。下着やパジャマも柔道部にお任せ、最後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が患部に大きな湿布を貼って。
「んーと…。貼り替えに来なきゃダメだよねえ…。ぼくでいい?」
「で、出来ればブルー……。いや、なんでもない!」
会長さんの氷点下の視線に震え上がった教頭先生は湿布の貼り替えを「そるじゃぁ・ぶるぅ」に、身の回りの世話は柔道部三人組に依頼しました。お正月で何かと忙しいだけに、お世話係の送迎だけは会長さんが瞬間移動でするようです。教頭先生、お大事に~。
ギックリ腰で寝込み正月になってしまった教頭先生。会長さんや私たちのために用意していた豪華おせちは、お世話係の「そるじゃぁ・ぶるぅ」と柔道部三人組が美味しく賞味。ある意味、無駄にはならなかったようで良かったです。会長さんも送迎ついでに失敬していたらしいですし…。
「いやはや、とんだお正月だったねえ…」
冬休みまで終わっちゃったよ、と放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で零す会長さん。今日は始業式、闇鍋大会も開催されました。出席が危ぶまれた教頭先生の復帰で闇鍋は大いに盛り上がり、会長さんも満足だった筈なのですけど。
「…闇鍋だけでは、こう、イマイチで…。何か無いかな、ギックリ腰のリベンジ」
「まだ寸劇もあるだろうが! かるた大会の!」
どうせ良からぬ計画が、とキース君が突っ込むと、会長さんは。
「アレはもう決まっているんだよ。それに日も無い。ハーレイが欠席しないだけでも御の字でさ」
もっと他に…、と考え込んでいる会長さん。
「ギックリ腰を逆手に取りたい。腰を強調する方向で」
「コルセットとか?」
腰痛の時に嵌めるよね、とジョミー君。お父さんが腰を傷めた時にゴルフコンペがあり、コルセットを二重に嵌めて出たのだそうです。うん、コルセットは使えるかも! 腰痛用のヤツじゃなくって、ウエストを強調するためにグイグイ締め付けるあのタイプ!
「コルセットねえ…。ハーレイの体型で効果あるかな、余ってる肉は無さそうだよ」
筋肉ビッチリ、と会長さんは想像している模様です。私たちも考えたものの、教頭先生のガッチリした腰にコルセットを嵌めても締め付ける余地は無さそうな…。くびれが出来たら笑えるんですけど、残念無念…。
「そうなんだよねえ、くびれが出来たら立派な笑いものになるんだけどな」
あの御面相でウエストほっそり、と視覚の暴力に夢を馳せている会長さんですが、出来ないものは仕方なく…。ウエストがくびれた教頭先生、見てみたいですけど夢は夢。
「あの体型が邪魔するんだよね、ウエストを強調したくても…。それに冬だし、くびれを作っても意味なさそうだ。服ですっかり隠れてしまうよ」
だけどくびれは捨て難い、と会長さんは未練たらたら。そりゃまあ、見たい気持ちは充分に理解の範疇内です。教頭先生にほっそりウエスト、似合わないことこの上なし…。
会長さんの頭に叩き込まれた教頭先生のウエストのくびれ。紅茶を飲んでもケーキを食べても、そこから離れられないようです。今日のおやつはナツメヤシと蜂蜜のシフォンケーキ。ナツメヤシのドライフルーツ入りで、ふわふわのシフォンケーキに濃厚な甘さがよく合っていたり。
「うーん、ハーレイのウエストかぁ…。コルセット以外で強調ねえ…」
何かある筈、とケーキを頬張った会長さんの手がピタリと止まって。
「そうか、ナツメヤシ!!」
「「「は?」」」
教頭先生のウエストとナツメヤシがどう重なると? ヤシの実ってくびれてましたっけ?
「違う、違う、ナツメヤシの産地だよ! あっちの方にはベリーダンスがあるじゃないか!」
「「「ベリーダンス?」」」
「あの踊りはウエストを激しくくねらせるしねえ、ハーレイにはまさにピッタリかと」
いいアイデアを思い付いた、と会長さんの瞳がキラキラ。でも、あのぅ…。ギックリ腰をやったような人にベリーダンスは無理なんじゃあ?
「ああ、その点は大丈夫! ベリーダンスは腰痛の予防にいいんだよ。フラダンスと同じで」
「そういえば…」
シロエ君が人差し指を顎に当てて。
「家の近くのフィットネスクラブにフラダンスの教室がありましたっけ。たまにチラシが入るんですけど、腰を鍛えて腰痛予防と書いてあったような気がします」
「それで正解。腰を振ってるように見えるから腰痛になりそうな感じだけどねえ、腰痛になるのは基本の動きを守らない人! 腰を動かさずにステップを踏むのが本来の形。腰回りの筋肉が鍛えられるって聞いてるよ」
それと同じでベリーダンスも、と会長さんはニヤニヤと。
「あれこそ腰を傷めそうな踊りに見えるよね? でも動かすのは太股とか腹筋とかなんだ。そういう筋肉を使っていると腰の筋肉もしっかりフォロー! ギックリ腰の予防に役立つ」
ハーレイに是非やって貰おう、と乗り気になった会長さんですが…。ベリーダンスって女性の踊りじゃないですか? そもそも衣装もそういうヤツで…。
「甘いね、男のベリーダンサーもけっこういるんだよ。ハーレムパンツって言うのかな? 女性と似たようなズボンを履いてさ、上は裸かベスト一丁!」
これがなかなか素晴らしくって、と会長さんが見せてくれた動画では男性が腰をくねらせて踊っていました。いかついオジサンから美少年まで、けっこうダンサーいるんですねえ…。
こうして教頭先生のウエスト強調は腰の筋肉の強化を兼ねたベリーダンスということに。ギックリ腰が完治しないと激しい運動は出来ませんから、かるた大会が済んだ数日後に会長さんが招待状を。曰く、「君の腰の運動に協力したい」。うん、間違ってはいないですねえ、その通りですし。
「さて、ハーレイはどう出るかな?」
楽しみだねえ、と会長さんは自宅のリビングでソファに座って足を組んでいます。
「ぼくの家に来て、と書いておいたし、そろそろ来ると思うんだけど…」
「いいねえ、ついに決心したんだって?」
「「「!!?」」」
あらぬ方から声が聞こえて優雅に翻る紫のマント。な、なんでソルジャーが来るんですか~!
「え、だって。ブルーがとうとう決意したんだ、お祝いを言わなきゃどうするのさ」
「「「お祝い?」」」
なんのこっちゃ、と顔を見合わせる私たち。教頭先生にベリーダンスの稽古をつけるって、お祝いするようなことなんでしょうか? ソルジャーは「分かってないねえ」と首を振って。
「ハーレイの腰の運動に協力したい、と招待状を送ってるんだよ? ベリーダンスはその前段階! まずはしっかり腰を鍛えて、それからブルーとお楽しみ…ってね」
大人の時間に腰の動きは大切だから、とパチンとウインクするソルジャー。
「ブルーは今まで何を言っても却下の一言で済ませて来たけど、とうとうハーレイとヤる気になってくれたんだ。ここは盛大にお祝いしないと…。まずは決心、おめでとう」
「なんでそういうことになるのさ!」
「あ、もしかして気が早すぎた? 無事に結ばれてからシャンパンとかの方が良かったかな、それともお赤飯がいい?」
「どっちも思い切りお断りだよ!!」
ぼくはそんなモノは求めていない、と会長さんは怒り心頭。
「どの辺から覗き見してたのか知らないけどね、招待状は釣りだから! ああ書いておけば君と同じような勘違いをしたハーレイが来るし、それを餌にしてベリーダンスを叩き込もうと思っただけだし!」
馬鹿を踊らせるには餌が要るのだ、とツンケンと言い放つ会長さん。そっか、教頭先生宛の招待状は深読み可能な文章でしたか…。教頭先生、派手に勘違いをしちゃったかも?
何故かソルジャーまで乱入してきた会長さんの家のリビング。間もなく玄関のチャイムが鳴って、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出迎えに。
「かみお~ん♪ ハーレイが来たよ!」
ピョンピョン跳ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」に続いて現れた教頭先生、心なしか頬を赤らめて。
「…すまん、遅れたか? そのぅ…。なんだ、色々と心の準備が…」
「そりゃ要るだろうね、ギックリ腰で大騒ぎだった後ではねえ…。それで自信はあるのかい?」
そこを確認しておきたい、と会長さんに訊かれた教頭先生は。
「う、うむ…。正直、あまり自信が無いのだが…。お前も協力してくれるそうだし、精一杯励む所存ではある」
「それは結構。君にマスターして欲しいのは腰遣いでさ」
「……こ、腰遣い……」
ウッと呻いて鼻を押さえる教頭先生。なるほど、ソルジャーが勘違いをしてだけあって腰の動きとやらは鼻血に直結するようです。会長さんはフフンと笑って。
「君はいわゆるド素人だけど、腰の遣い方は大切だ。なのに男の命と言える腰をさ、ギックリ腰で壊しているようではねえ…。真っ最中にギックリ腰になられてごらんよ、悲劇だよ? ならないと世間では言われてるけど、君の場合は腰遣いも知らない初心者だから!」
ぼくの立場はどうなるんだい、と突っ込まれた教頭先生はタジタジと。
「そ、それは大変かもしれないな…」
「大変なんてレベルじゃなくて! 天国から地獄へ真っ逆様だよ、中断した上に君の手当てと介護の日々! ブルーだったらどうするだろうね、ねえ、ブルー?」
いきなり話を振られたソルジャー、そこは流石の回転の速さ。
「えっ、ぼくかい? そりゃもう、介護はメディカル・ルームのスタッフに任せてトンズラだね。ついでにハーレイが完治した暁にはお詫びをこめてヌカロク超えをして貰おうかと…。もちろん特別休暇つき! キャプテン権限で最低一週間は欲しいね」
その間、基本はヌカロク超えでオプションも、と怪しげで意味が不明な単語をズラズラと羅列。つまり大人の時間の真っ最中にギックリ腰とは言語道断、罪を償うには身を持ってせよ、と強烈なジャブをかましたわけです。腰はそこまで大事なのか、と絶句する私たちを他所に、会長さんは。
「…ということでね、君には腰をしっかり鍛えて貰いたい。腰の遣い方もマスター出来るし、その道の達人になれるかも…。君もノルディを越えたいだろう?」
「もちろんだ!」
教頭先生は即答でした。テクニシャンとして名高いエロドクターことドクター・ノルディ。それを越えようとは、望みは高く果てしなく……ですね。
ベリーダンスが待つとも知らず、腰の運動と遣い方の勉強に来た教頭先生。鼻息も荒く闘志満々でいらっしゃいますが、会長さんから最初の指示が。
「それじゃ早速始めようか。まず、脱いで」
「…こ、此処でか? そ、そのぅ……」
人が大勢いるようなのだが、と教頭先生は私たちを見回してオロオロと。しかし会長さんは艶やかに微笑みながら。
「脱いでくれなきゃ始まらないし…ね。腰の動きが見えないだろう?」
「そ、それは分からないでもないのだが…。お前はそれで構わないのか?」
「構わないよ? むしろ歓迎」
「…そ、そうか…。ヘタレている場合ではなさそうだな…」
努力しよう、と教頭先生は脱ぎ始めました。まずは上着で、続いてシャツ。アンダーシャツも脱ぎ、ズボンのベルトを外した所で。
「…ブルー、お前は脱がないのか?」
「ぼくにも恥じらいってものがあってさ…。後で脱がせて」
「うっ…!」
教頭先生、鼻血、決壊。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が渡したティッシュを引っ掴むなり鼻に詰め込み、ズボンを脱いでステテコも脱ぎ捨て、残るは紅白縞だけとなりましたが。
「…御苦労様。紅白縞はちょっとアレかな、サイズ的に向いてなさそうだねえ…」
失礼、と会長さんが教頭先生の前に跪き、紅白縞のウエスト部分をクイと折り返し、更にクイクイ折り返して。
「…この辺までかな、これ以上折ると下の毛がはみ出しちゃうしね…」
「ブ、ブルー?」
何の真似だ、と耳まで真っ赤にして尋ねる教頭先生に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「はい、ハーレイ! これを履いてね、ベリーダンスのズボンなの!」
「……ベリーダンス……?」
なんだそれは、と顔色を変えた教頭先生ですが、会長さんはニッコリと。
「腰の運動って言っただろ? それから腰の遣い方! 腰痛予防に最適なんだよ、ベリーダンスというヤツはね。見事に踊れるようになったら君の腰にも自信がつくだろ」
腰を見せるのがポイントだからズボンは腰骨の高さにね、と紅白縞を折り返した理由を説明された教頭先生、返す言葉も無いようです。ハーレムパンツは黒ですけれど、腰の周りに動きに合わせて揺れる金色のフリンジがキラキラと。会長さんのセンス、天晴れとしか…。
この日から始まったベリーダンスのハードな練習。教頭先生は平日の夜も会長さんの家に呼び付けられて踊らされまくり、土日は朝からみっちりと。入試期間中も容赦はなくて、バレンタインデーもお構いなし。当然のように私たちも練習見学でお付き合いです。
「もっとしっかり! 本場のダンサーはもっと滑らかに激しく踊るし!」
「…が、頑張ってはいるのだが…」
なかなか身体がついていかない、と悲鳴を上げていた教頭先生の踊りも見られるレベルになってきました。いい感じに腰がくねっています。もう何枚目か分からないズボンについたフリンジが妖しく揺れて、ガタイの良さと顔のゴツささえ気にしなければ妖艶とも言える雰囲気で。
「凄いね、完成されてくるとさ」
見学中のソルジャーが溜息を洩らしました。
「あの腰遣いで攻め立てられたら最高かもねえ、ヌカロクなんて目じゃないかも…」
ウットリ見詰めているソルジャー。
「最初は笑って見ていたんだけど、これはなかなか侮れないよ。ねえ、ブルー?」
「そこの外野は黙っていたまえ!」
あくまでギックリ腰の予防なのだ、と会長さんは釘を刺しましたが。
「ううん、やっぱりもったいない! 役立てない手は無いってね」
ちょっと待ってて、と言うなり消えたソルジャーが戻った時には何故か隣にキャプテンが。
「すみません。突然お邪魔いたしまして…」
そこでキャプテンの言葉は途切れ、視線は教頭先生の踊りに釘付け。上半身裸で腰をくねらせ、腕もくねらせての激しいダンスにキャプテンの口は開いたまま。それをソルジャーが肘でグイグイつつきながら。
「ね、セクシーな踊りだろ? セックスアピールって感じでさ…。もう見てるだけでも堪らないんだ、あの腰遣いで貫かれたら感じるだろうとドキドキなんだよ」
ベッドに誘いたい気持ちで一杯、と教頭先生に見入るソルジャーにキャプテンは顔面蒼白で。
「ま、待って下さい! こ、こちらのハーレイはあなたを満足させるには…」
「うん、現時点では童貞だけど…。あれだけ腰が遣えるんなら、初めてでもけっこうイイ線いけるかも、って思わないかい?」
「それは私が困ります!」
「…だったら、アレ」
マスターしてよ、とソルジャーはキャプテンに囁きました。あの腰遣いをマスターしなけりゃ浮気するんですか、そう来ましたか…。
ギックリ腰の予防なベリーダンスは想定外の方向へと。くねりまくる腰に欲望を掻き立てられたソルジャー、その腰遣いを大人の時間に導入したくなったのです。笑いものだった教頭先生、今やキャプテンを指導する立場。
「いいですか。上のお腹を突き出しましてね、下のお腹を引っ込めるんです」
「…こ、こうですか?」
「そうです、そうです。次は逆にですね、下を突き出して上を引っ込め…。ええ、お上手です」
こればっかりはサイオンで技をコピーは出来ませんので、と教頭先生。
「それでは筋肉の動きがついていきません。柔軟性も必要ですから、日々の鍛錬が重要ですよ」
今日から一緒に頑張りましょう、と教頭先生は燃えていました。ギックリ腰の予防だとばかり思ってらっしゃるみたいです。えーっと、キャプテンはギックリ腰になりましたっけ?
「ううん、ぼくのハーレイはやってないねえ…」
腰に関しては自信アリで、とソルジャーは至極満足そうに。
「ヘタレな部分はあったけれどね、腰を壊したことは無かった。ベリーダンスで更に鍛えて、腰の遣い方もググンと上達! 何日ほどでモノになるかなぁ、毎日レベルアップかな?」
楽しみだねえ、とゴクリと生唾を飲み込んだソルジャー、大声で。
「ハーレイ、うんと頑張ってよ!? 腰は男の命だからね!」
それに応えてキャプテンが腰を振りながら。
「分かっております、強くなれそうな気がします! この動きなら奥の奥まで!」
「ありがとう、狙って突いてきて! 感じる所を思いっ切り!」
「もちろんです!!!」
任せて下さい、とキャプテンは腰をクイクイと。教頭先生の顔が真っ赤に染まり、会長さんの方を振り返って。
「ブルー、どうなっているのだ、これは? ギックリ腰の予防じゃなかったのか?」
「ん? 君の場合は予防だってば、それ以上の何を望むんだい? ああ、そういえば…」
腰の運動に協力すると言ったっけか、と会長さんの妖しい笑みが。
「ベリーダンスの腕も上がったし、どうやら弟子もついたようだし…。御褒美に一発、やってみるかい? ぼくで良ければ」
「…い、一発……?」
「そう、一発!」
初志貫徹で行ってみよう! と会長さんがセーターを脱ぎ捨て、シャツのボタンを外し始めて…。
「………。上達したのは腰遣いだけだったみたいだねえ…」
ヘタレの方は直らなかったか、と仰向けに倒れた教頭先生を見下ろしている会長さん。ハーレムパンツを履いた逞しい身体は会長さんのストリップの前にあえなく昏倒、鼻血ダラダラ。
「当然だろうが、どう考えても!」
あんた知っててやっただろう、とキース君が噛み付き、ソルジャーが。
「大事な師匠が倒れちゃったよ、ぼくのハーレイはどうなるわけ?」
困るんだけど、とソルジャーは心底、残念そう。会長さんがクイと顎をしゃくって。
「君が勝手にレッスンに連れて来たんだろう! これからは家庭教師にしたら?」
「「家庭教師?」」
ソルジャーとキャプテンの声がハモッて、会長さんはクスクスと。
「ぼくの家を貸す義理は無い。君の世界が暇な時にさ、連行してって教えを請えば?」
「それ、いいね! こっちのハーレイの興が乗ったら3Pだって夢じゃないかも!」
ぼくのベッドは広いんだから、とソルジャーの瞳が輝いています。えーっと、3Pって何ですか?
「えっ、3P? 三人で楽しむことなんだけど…。今日はハーレイが倒れちゃったし…」
明日からお願いしようかな、とソルジャーが口にし、キャプテンが。
「そうですねえ…。3Pはどうかと思うのですが、腰遣いはマスターしたいですね」
頑張ります、とグッと拳を握るキャプテン。ギックリ腰の予防のためのダンスは大人の時間にとても役立つようですが…。教頭先生、あちらの世界への出張レッスン、無事に終える事が出来るでしょうか? 3Pとやらも気になりますけど、会長さんが止めない以上は放置でいいかと思いますです~!
腰には筋トレ・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
男のベリーダンサーは実在しているんですよ、凄い美少年ダンサーもいます。
一見の価値がありますよ! …オジサンの方はイマイチですけど。
次回、2月は 「第3月曜」 2月16日の更新となります、よろしくです!
毎日更新の『シャングリラ学園生徒会室』では、作者の間抜けな日常を公開。
お気軽にお越し下さいです。ペットのウィリアム君もお待ちしてますv
実はウィリアム君、公式絵のキャプテン・ハーレイを使用…。
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、1月は駅伝中継の話で盛り上がっているようですが…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv