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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

試験と対策と  第2話

シャングリラ学園の入試会場で試験問題のコピーを販売するのが会長さんの年中行事。コピーは教頭先生から貰うのが常で、交換条件として耳掃除をしてあげることになっています。今年も耳掃除をしに出発しようとしていた所へ現れたのはソルジャーでした。
「ぼくが行ったっていいだろう? 試験問題を貰うだけだし」
会長さんの代わりに行くのだ、と言い張るソルジャーですが、そうは問屋が卸しません。
「ダメだってば! ハーレイは最初からぼくがお目当てなんだよ。身代わりなんかは即バレるし! 却下」
すげない会長さんの言葉に、ソルジャーは唇を尖らせました。
「そうなんだ? 効き目が切れる勝負パンツなんかを掴ませたくせに、謝罪も無ければ誠意も無いと?」
「なんで謝罪が必要なのさ! 君が勝手に勘違いして勝負パンツだと決めちゃったんだろ、ぶるぅの手形はあれで完璧だったんだ! 効果の持続を希望するなら紅白縞を脱がせないようにすればいい。それでオッケー」
どんな試験も最高点で合格だ、と会長さんは自信満々。ソルジャーはチッと舌打ちをして…。
「やっぱりそうか…。もしかしたらとは思ったんだけど、あんなのを履いたままのハーレイの相手はご免こうむる。紅白縞が気に入ってるのは君の世界のハーレイじゃないか! だから君の代わりに耳掃除をして、他にも色々サービスを…」
「却下!」
そう繰り返した会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」にシールドを張るように言って私たち七人グループを付き添いにすると教頭室へ。お得意の『見えないギャラリー』とはちょっと違ってボディーガードみたいなものです。文句を言い続けていたソルジャーもシールドに隠れてついて来ているのが気になりますが、追い払えないものは仕方なく…。
本館の奥の教頭室に着き、扉をノックする会長さん。
「…失礼します」
扉を開けると教頭先生が嬉しそうな顔で出迎えました。
「来たか。試験問題のコピーは揃えておいたぞ、ちゃんと金庫に入れてある」
「そうこなくっちゃ。…で、もちろんいつものサービスだよね?」
「あ、ああ…」
教頭先生は照れ隠しのように頭を掻くと、仮眠室に続く扉を開けて。
「よろしく頼む。…今日を楽しみにしていたからな、しばらく耳の掃除はしていないんだ」
「相変わらずだねえ…。耳掃除はマメにしといた方がいいんじゃないかと思うんだけど」
「そう言うな。年に一度のチャンスなんだぞ」
堂々とお前の膝枕だ、と教頭先生は鼻の下を伸ばしています。そして会長さんの肩を抱き寄せ、仮眠室へと入って行くのを私たちはコッソリ追い掛けました。もちろんソルジャーもコソコソと…。

「用意できたよ? いつでもどうぞ」
大きなベッドの上に座った会長さんが教頭先生に微笑みかけると、教頭先生は上着を脱いでネクタイを緩め、会長さんの膝枕でゴロンと転がって。
「落ち着くな…。年に一度だなどと言わずに、私の嫁になってくれれば…」
「君の辞書には懲りるって言葉が無いのかい? ゼルのバイクで結婚祈願の絵馬とかを回収させられただろう、あれが答えだって知ってるくせに」
「そう言われてもな…。諦め切れるものではない。お前一筋三百年だ」
気が変わるのを待っている、と続ける教頭先生を会長さんはサラッと無視して手際良く耳掃除を始めました。教頭先生はうっとりと目を閉じ、まずは左でお次が右耳。終わると会長さんは耳元に唇を寄せてフッと軽く息を吹きかけて…。
「はい、おしまい。約束通り試験問題を貰って行くよ」
「そう急ぐな。もう少しだけこうしていてくれ」
せめて5分、と未練がましい教頭先生。会長さんは腕時計でキッチリ時間を計ると「終了!」と告げて教頭先生の頭をどけようとしたのですが。
「…おい。本当にこれで終わりなのか?」
「決まってるだろ、試験問題のコピーを貰う代わりに耳掃除! そういう約束になっているんだと思ったけどな」
「…いや、しかし…。もっとこう、オプションとでも言うのだろうか、オマケの類は…?」
「なんでオマケを期待するのか理解に苦しむ所だけれど? お正月から派手に迷惑かけられたんだよ、こっちはね。ゼルのバイクは怖かったんだろ? もう一度あの目に遭いたいと?」
いつでもゼルを呼べるけれども、と会長さんは教頭先生を睨み付けます。
「すまん、願掛けは私も必死だったんだ。いつまで待ってもお前は嫁に来てくれないし、そこへあの本を見たものだから…。ゼルのバイクは勘弁してくれ。寿命が縮んだどころではない」
「やっぱりねえ…。なのにどうしてオプションなのさ。ぼくがサービスするとでも?」
「…して貰えると思ったんだが…。そのぅ……色々と、状況的に」
「えっ? 厚かましいにも程があるよ。バイクで市中引き回しの刑にしたっていうのに、状況的に何だって?」
理解不可能、と呆れた顔の会長さんに教頭先生は膝枕から起き上がって…。
「…去年はサービスしてくれただろう、チャイナドレスで」
「ああ、あれね。でもさ、あれは去年限定のスペシャル・コースで、今年は何も用意してない」
「嘘だろう? 確かに用意をしたと聞いたぞ、仮装パーティーの衣装を誂えた時に」
「はぁ?」
目を丸くする会長さん。仮装パーティーと言えば年末にやったヤツですけども、会長さんの仮装は悪代官。あんな格好で耳掃除をして欲しかったとは、教頭先生も酔狂としか…。会長さんもポカンとしています。
「…悪代官が好みだったんだ…。本当に趣味が悪いね、ハーレイ。まあ、それくらいなら聞いてあげないでもないけどさ」
青いサイオンがパァッと走って会長さんの制服がキンキラキンの悪代官に変わりました。
「着替えたよ? 悪代官なら帯回しとかがいいのかな? 帯はないからベルトでいいよね」
「ち、違う! それではなくてもっと別の…。他にもオーダーしていた筈だぞ、店長からちゃんと聞いたんだ!」
「店長から…? ああ、それじゃ天使の衣装の方か。ブルーの魔天使もぼくの注文ってことにしてたし」
ブルーの存在は明かせないから、と会長さん。
「あれなら確かに君の好みに合うかもね。それじゃ早速…」
着替えをしようとサイオンを立ち昇らせた会長さんですが、それを止めたのは教頭先生。
「違う! …いや、焦らされるのは構わないのだが……私が見たいのはそれではないと分かるだろう? 注文したのはお前なんだし」
「…分からないよ? 他にどんな衣装があるって言うのさ、注文したのは二つだけだし! だったらこれは要らないね」
元の制服に戻った会長さんに教頭先生は熱い視線を送って…。
「そう照れるな。私が衣装を誂えに行ったら、店長が「最近これが流行りですね」と言ったんだ。ノルディが大量に注文したようだが、それとは別にお前の注文も入った、とな」
「え…。もしかして、それって…」
会長さんが言葉に詰まり、シールドの中の私たちも息を飲みました。教頭先生が誂えた流行りの衣装で、エロドクターが大量に注文していて、会長さんからの注文もあった衣装と言えばアレだけです。絶句している会長さんを教頭先生が期待に満ちた目で眺めていますし、これは間違いなくアレしかなくて…。
「…ハーレイ…。念のために訊くけど、その衣装ってウサギかい? 仮装パーティーでハーレイが着てた?」
「もちろんそうだ」
即座に頷く教頭先生。
「お前がオーダーしたということは期待をしてもいいんだろう? 耳掃除の時に着てくれるのかと思っていたが、そうではなかったようだしな…。いつ披露してくれるんだ? 試験問題を渡せばいいのか?」
「…………」
思い切り誤解されてしまった会長さんは目を白黒とさせていました。バニーちゃんの衣装を注文したのは会長さんならぬソルジャーです。今年の試験問題ゲットは会長さんのバニーちゃんスタイルが必須とか? 会長さんは教頭先生の大暴走を恐れてましたが、こんな形で出て来ましたか~! これじゃ私たちには対処のしようがありません。…と、ソルジャーのシールドがフッと解かれて。
「お邪魔してるよ」
「!!?」
突然の闖入者に仰天している教頭先生にソルジャーはスタスタと歩み寄りました。
「話は全部聞かせて貰った。…あの衣装、ぼくが注文したんだよね」
ブルーのサイズで、とニッコリ微笑むソルジャーですけど、ここで着替えるつもりでしょうか? ソルジャーがバニーちゃんスタイルを披露してくれれば試験問題ゲットですか…?

相変わらずシールドの中の私たちを他所に、ソルジャーは教頭先生に軽く片目を瞑ってみせて。
「君が知らないのも無理ないさ。あの衣装はノルディがとても気に入っててねえ…。キースが着たのを見せてやったらハマッたらしい。それでジョミーやシロエたちにも無理やり着せてコンテストなんかをしちゃったわけ。その時にぼくも便乗させてもらって注文を…ね」
ブルーの名前で、とソルジャーは悪びれもせずに語っています。
「なかなかセクシーだから愛用させて貰ってるけど、ブルーは決して着たがらない。ぼくが強引に着せちゃった時はブチ切れてたねえ」
「……着せた……?」
ソルジャーの言葉を教頭先生は聞き逃しませんでした。呆然としていたくせに流石というか何と言うか…。ソルジャーはクッと喉を鳴らして。
「うん、着せた。こないだの仮装パーティーで君が失神しちゃった後でブルーたちにフレンチ・カンカンを踊らせたんだよ、あの格好で。…残念だったね、失神してて」
「………」
その時の教頭先生の残念そうな顔と言ったら! ソルジャーは更に続けました。
「君はブルーにあれを着せたくてたまらないんだろ? ぼくの写真もオカズにしてるし、ぼくで良ければ着替えてあげてもいいんだけどさ。…でもね、生憎とぼくは機嫌が悪いんだ。何もかも全部、紅白縞が悪いんだけど!」
「は?」
「紅白縞だよ、君の愛用の青月印! ぶるぅに手形を押してもらって勝負パンツにしたというのに、脱いだら効果が切れるだなんて…。なんでパンツまでヘタレなのさ!」
「…???」
話に全然ついていけない教頭先生。ソルジャーは立て板に水の勢いでまくし立て、夜の試験がどうのこうのと具体的な試験内容まで話し始めたからたまりません。私たちには意味が不明でしたが、教頭先生はウッと呻いて鼻にティッシュを詰めています。そんな教頭先生にソルジャーは…。
「そういうわけで、君にはサービスしたくないんだ。どちらかと言えば罪滅ぼしにサービスして欲しいくらいだよ。…あ、それもいいかな、ベッドもあるしさ。どう、ハーレイ? ぼくと一回やってみる?」
「ブルーっ!!!」
会長さんが怒鳴り、凄い勢いでソルジャーの腕を引っ張ると。
「そんなサービスはしなくていいっ! 試験問題のコピーを貰うには耳掃除だけと決まってるんだ! 変な前例を作られちゃったら困るだろう! 君はさっさと帰りたまえ!」
「…やれやれ、頭が固いんだから…。ハーレイ、君はいいのかい? 例の衣装を見られなくっても試験問題をブルーに渡すと?」
「……元々そういう約束ですから……」
教頭先生は鼻の付け根を摘んで止血しながら仮眠室を出、教頭室の金庫の奥から大きな封筒を取り出しました。
「今年の試験問題のコピーだ。…全科目分揃っている」
「ありがとう、ハーレイ。君が約束を守る男で良かったよ。分相応って言葉もあるしね、高望みはしない方がいい」
それが賢明、と会長さんは封筒を受け取り、試験問題を確認すると…。
「うん、完璧。来年もよろしくお願いするよ、生徒会の重要な資金源だ。それじゃブルーは連れて帰るから」
今日はこれまで、と立ち去ろうとした会長さんをソルジャーが後ろから引き止めて。
「ちょっと待った! 君のハーレイに少しくらいは希望をあげてもいいんじゃないかな」
「希望?」
「そう、希望。ぼくでも君でもどっちでもいいから例の格好をナマで見るのが夢なんだろう? どう、ハーレイ? ぼくの言うことは間違ってるかい?」
肯定する代わりに耳まで一気に真っ赤になった教頭先生。再び鼻血が噴き出したのか、慌ててティッシュを鷲掴んでいます。ソルジャーは教頭先生を赤い瞳で真っ直ぐ見詰めて。
「大当たりだったみたいだね。…君にチャンスをあげたくなるよ、モノにするかどうかは君次第だけど」
「…チャンス…ですか?」
「そのとおり。こんな方法はどうかな、ハーレイ…?」
ソルジャーの提案に教頭先生は一も二も無く頷きました。えっと…本当にいいんでしょうか、そんな条件を出しちゃって…? 口を挟もうとした会長さんはソルジャーに阻まれ、怪しげな案を飲む羽目に。試験問題は今年も入手できましたけど、会長さん、無事に済むのかな…。

「いったい何を考えてるのさ!」
会長さんの雷が落ちたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に戻った直後でした。試験問題のコピーをチェックし、リオさんにコピーさせる枚数などを封筒の表に書き込みながらも怒りは全く収まりません。
「バレンタインデーが何だって!? それとぼくとは全然関係ないだろう!」
「あると思うけど? 毎年派手にやってるじゃないか、この学校は。ぼくは去年からしか知らないけれど、バレンタインデーにチョコのやり取りをしない生徒は礼法室でお説教だって?」
そうだよね、と尋ねられた私たちは揃って頷きました。シャングリラ学園のバレンタインデーとホワイトデーはとにかく派手な行事です。バレンタインデー前には温室の噴水がチョコレートの滝になるくらいですし…。ソルジャーは我が意を得たりと得意そうに。
「だからさ、バレンタインデーを利用しない手は無いんだってば。去年の君はハーレイに自分をプレゼントしてたっけね? チョコレート・スパで」
「…そうだけど…? あの時も君が乱入してきて大変だった」
「細かいことは気にしない! それでさ、君はバレンタインデーってどういう日だと思ってる? チョコを貰う日? それとも贈る日?」
「貰う日に決まっているだろう!」
シャングリラ・ジゴロ・ブルーなんだし、とキッパリ言い切る会長さん。けれどソルジャーはクスッと笑って…。
「それは女の子限定だよね? ハーレイにはプレゼントする方だ。甘いものが苦手なハーレイ相手にチョコを贈って、嫌らがせをする日なんだろう?」
「……それは……そうだけど……」
「だからさ、そこが間違ってるって! ぼくの世界じゃバレンタインデーのチョコは貰うものだ。ぼくは甘いお菓子が大好物だし、もちろんチョコも例外じゃない。今年もこっちの世界で沢山買おうと思ってる。…それとは別にスペシャルなチョコをハーレイから貰うのが楽しみでさ…」
「「「え?」」」
これには私たち全員が驚きました。去年のバレンタインデーに現れたソルジャーは「身も心もハーレイのためのチョコになるのだ」とか言ってチョコレート・スパを受けていたような…? だったらソルジャーもチョコを贈る方で、貰う方ではないのでは…?
「ああ、チョコレート・スパのことかい? その辺は臨機応変に…。ぼくだってハーレイにチョコをプレゼントすることはあるからね。でもハーレイからチョコを貰うのは格別なんだ。なんと言っても手作りだから」
「「「えぇぇっ!?」」」
あのキャプテンが…手作りチョコ!? それもソルジャーにプレゼントするためにチョコを手作り…?
「そうなんだ。甘いものは天敵ってくらいに苦手なくせに頑張ってるんだよ、毎年ね。最初の頃はチョコの匂いが厨房に充満しただけで倒れてた。宇宙服を着てチャレンジしたりと苦節何年になるんだっけか…。未だに甘いものはダメなんだけど、腕前の方は上がったよ、うん」
なんとか食べられる物体になった、とソルジャーは面白そうに話していますが、これって惚気と言うのでしょうか? あちらのキャプテンがソルジャーのために決死の努力を惜しまないことは分かりました。けれどもそれと教頭先生とバレンタインデーがどう繋がると…?
「こっちのハーレイもバレンタインデーにはブルーのために尽くすべきだと言ってるんだよ。惚れてるんなら貰うだけではダメだってことを知らなくちゃ。…それでさっきの条件を出した」
「…バレンタインデーにぼくを喜ばせることが出来たらハーレイの夢を叶えるって…?」
地を這うような声で会長さんがソルジャーの言葉を引き継ぎました。
「なんだか都合良く勘違いされていそうな条件だけど、君が黙っていろって言うから…。あんな話を持ち掛けちゃって本気にされたらどうするのさ! ぼくにバニーの衣装を着ろと? でもってハーレイの相手をしろと!?」
「いいじゃないか、バレンタインデーの趣旨には沿ってるんだし…。贈るのはチョコと決まっているわけじゃない。他の品物もアリなんだからさ、今年のプレゼントはバニーちゃんスタイルの君ってことで」
「よくない! 言い出したのは君なんだから、君が着て見せればいいだろう!」
「…そうかもねえ…」
そっちの方がいいかもしれない、とソルジャーはニヤリと笑みを浮かべて。
「勝負パンツでヘタレたハーレイには愛想が尽きたし、バレンタインデーはこっちの世界で過ごそうかな? 毎年、特別休暇だからさ。…うん、マンネリなハーレイに付き合うよりかは、そっちの方が楽しめそうだ」
君のハーレイに期待している、と言ってソルジャーは姿を消しました。会長さんを喜ばせるなんてことが教頭先生に出来るんでしょうか? いやいや、ここは一発、手作りチョコで一本釣りとか…? それとも大人の時間な超絶技巧で…って、それって私たちには全く想像つきませんけど、教頭先生にも無理ですよねえ…。

引っ掻き回すだけ引っ掻き回してソルジャーが帰ってしまった後には試験問題のコピーが残されました。会長さんはリオさんを呼んでコピーを渡し、必要な枚数だけコピーを取って販売用に仕分けするよう指図しています。そしてリオさんが出て行った後で…。
「……やられた……」
ぐったりと脱力している会長さん。試験問題はゲットできましたけど……教頭先生の大暴走も無かったですけど、問題なのはこれから先。バレンタインデー当日に向けて教頭先生が暴走するのは目に見えています。会長さんを喜ばせることが出来れば、バニーちゃんな会長さんだかソルジャーだかをナマで見られると言うのですから。
「ブルーにあの格好をさせるにしたって、その前にハーレイが思い切りアタックしてくるのか…」
「…そういうことになるんだろうな…」
キース君が応じました。
「バレンタインデーという縛りがある以上、そうそう無茶はしないだろうが……プレゼント攻勢に出るのは間違いないぞ。どんなプレゼントなのかが問題なんだが」
「ブルーさえ絡んでいなかったなら、普通にチョコだと思うんだけど…。なにしろブルーが絡んでるから、チョコで済んだら御の字だよね」
ブルーは前科があり過ぎるから、と会長さんは深い溜息をつきました。
「出来ればチョコを希望だけれど、覚悟しといた方がいいかな。セクシー・ランジェリーとか、そういったヤツ」
「…そういえば教頭先生も前科持ちだな…」
その点では、とキース君が呻き、ジョミー君が。
「ぼくが騙されて着ちゃったヤツもあったよねえ…。マツカの山の別荘でさ」
「そうそう、なんかカードがついてて!」
思い出したぜ、と叫ぶサム君。
「青いスケスケの変なヤツだろ? これを着たあなたを見てみたいとかってカードに書いてあったんだ」
「…ハーレイの匂いがついてたカードだよね?」
覚えてるよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が銀色の頭を小さく傾げて。
「あんな洋服、ブルー、絶対着ないのに…。時々プレゼントしてくるんだよ、なんでかなあ?」
「…ぶるぅ、子供は知らなくってもいいんだよ」
会長さんがフウと吐息を吐き出して。
「ジョミーが着ちゃったベビードールかぁ…。そう言えばマツカにも貸し出したっけね、ハーレイが贈って寄越した真っ赤なヤツを。…そろそろトチ狂ってもおかしくないかな。年数的にはまだまだ安全圏なんだけど、ブルーがウロウロしているからねえ…。予定よりかなり早まったとしても仕方がない」
「あれって周期があったのか!?」
キース君の問いに「まあね」と頷く会長さん。
「発情期ってわけでもないだろうけど、だいたい五年から十年くらいの間隔かな。その時期を過ぎれば至って平穏、せいぜいプロポーズ止まりってところ。ぼくから何かを仕掛けない限り、ハーレイからは手出ししてこない。なんと言ってもヘタレだからさ」
「「「………」」」
教頭先生のヘタレっぷりは私たちもよく知る所です。たまに会長さんに仕掛けられても見事に玉砕、決して先へは進めません。私たちが初めてシャングリラ号に乗り込んだ時の青の間での騒ぎに去年の春の婚前旅行と、会長さんのからかいっぷりも半端ではないわけですが…。自分から仕掛けるのは大好きなくせに、仕掛けられるのは苦手だと…?
「決まってるじゃないか」
零れていたのは私の思考か、それとも他の誰かのものなのか。会長さんは忌々しげに紅茶のカップを指でカチンと弾きました。
「あの手のヤツは主導権を握っているから楽しいんだ。ブルーが出てくると主導権を奪われちゃうし、そうでなくてもハーレイから一方的に気持ちをぶつけられるのはストーカーじみてて嫌なんだってば。アルテメシア中に絵馬を奉納されちゃったのがいい例だ」
「じゃあ、ゼル先生に言いつけたらどう?」
ジョミー君の案に会長さんは即座に首を左右に振って。
「それはできない。…ゼルにはブルーの存在を明かしていないし、話がややこしくなるだけだ。ハーレイがチョコで済ませることを祈るよ、どうせ突っぱねるんだから。…後はブルーの欲求不満が解消してれば安心だけど、ぶるぅの手形を押せそうなもので使えるヤツってあったっけ…」
事の起こりはそれなんだから、と会長さんは悩んでいます。試験合格間違いなしのパワーを秘めた不思議な手形がソルジャーの『夜の試験』とやらに効いたら一番いいんですけど…。
「おい。ぶるぅは巻き込まないんじゃなかったのか?」
ドスの効いた声でキース君が言い、シロエ君が。
「そうですよ。そんなアイテムを開発したら、もうソルジャーが入り浸りですよ! そっちの方は放っておいて、バレンタインデー対策を頑張りましょう。こんなものでは嬉しくない、って却下しちゃえばいいわけですし!」
「だよな。…満足できる結果が出なけりゃ、例の衣装は要らないもんな」
俺のブルーに着させるもんか、とサム君が拳を握り締めています。教頭先生がバレンタインデーに何をやらかすにしても、会長さんが大満足なものでなければ努力は無意味になるのでした。それに万一、着なくてはならない事態に陥った時には、ソルジャーを煽って着せてしまえば会長さんは着なくて済むわけで…。
「そうだね…。ブルーに着せればいいんだよね。見た目はぼくと同じなんだし」
「言い出したのはソルジャーですよ? それで問題ありませんってば」
大丈夫です、とシロエ君が強い瞳で答えました。教頭先生がアタックしてきても全て却下という方向で私たちの意見は纏まり、それでダメなら後始末はソルジャーに丸投げするということになり…。バレンタインデーはこれで安心ですよね? その前に入試がありますけども、試験問題は今頃リオさんがコピー済み。今年も商売繁盛ですよ~!



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