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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

逃げたい年頃  第3話

ソルジャーが教頭先生を巻き込んで瞬間移動した後、誰もが呆然としていました。一番最初に我に返ったのは会長さんで、サイオンで二人の行方を追おうとしたようですが無理だったらしく…。
「ぶるぅ。…ブルーの行先、分かるかい?」
訊かれた「ぶるぅ」は少し考え、瞳をクルクル動かして。
「んーとね、分かったんだけど…。ブルーがタダで教えちゃいけないよ、って」
「えっ?」
「ハゲの危険に晒されたんだし、とびっきりのハゲ頭を見せて貰いなさい、って言ってるんだ。…で、ハゲ頭って見せてくれるの?」
意味不明なことを口にしながら「ぶるぅ」は会長さんを見上げています。
「ハゲ頭って…何のことだい? それを見せればブルーの居場所が?」
「うん、見せてくれたら教えてあげる。…あのね、ハゲ頭っていうのはね…。ブルーが前に一人で遊びに来た時、見せて貰ったヤツなんだけど。ぼくはブルーの記憶を見ただけだから、本物を見てみたいなあ…」
そう言った「ぶるぅ」の視線がキース君に向けられました。続いて視線はジョミー君に。
「えっとね、キースとジョミーがハゲてたよ。ゼルの頭みたいにツルッツルに!」
「「「!!!」」」
キース君とジョミー君は反射的に頭を押さえ、私たちは仰天しました。ソルジャーは二人の坊主頭がよほど面白かったのでしょう。わざわざ「ぶるぅ」に記憶を見せて、おまけに今度は自分たちの居場所を知りたかったら実物を「ぶるぅ」に見せるようにと言うんですから。条件を聞いた会長さんは迷うことなく頷きます。
「分かった。…キース、ジョミー、悪いけどやらせて貰うからね」
「「ちょ、ちょっと…」」
待った、と二人が叫ぶよりも早く青いサイオンが走りました。二人は見事な坊主頭にされてしまって「ぶるぅ」がケタケタ笑い出します。それは楽しそうにお腹を抱えて大笑いで…。
「わーい、わーい、光ってる!」
ハゲ頭だぁ、と大喜びの「ぶるぅ」でしたが、いつまで経っても笑いは全く収まりません。これではソルジャーの院場所を聞き出せないと見切ったキース君が銀色の頭をゴツンと一発。
「おい! いい加減にしないと本気で殴るぞ。俺の坊主頭を拝んだからには、ブルーの行先を喋ってもらおう」
「いたたた…。ハゲが殴った! ハゲが殴ったぁ~!」
大袈裟に騒ぐ「ぶるぅ」に『ハゲ』という単語を連発されて、キース君とジョミー君は床にめり込んでいます。もちろん坊主頭ですけど、流石に会長さんもこのままではマズイと思ったらしく。
「ぶるぅ、そろそろ終わりにしよう。…ブルーの居場所を教えてくれるね?」
二人の頭に髪の毛が戻り、「ぶるぅ」は口を尖らせました。
「…もうおしまい? つまんないの…。もっと見ていたかったのに」
「悪いけど、ぼくも急ぐんだ。早くブルーを捕まえないと、とんでもないことになりそうで…。ブルーは何処に行ったんだい?」
「ノルディの家だよ」
次の瞬間、会長さんの姿は消えていました。残されたのは「ぶるぅ」と私たち。ソルジャーったら、教頭先生を道連れにしてエロドクターの家に乗り込んじゃっていたんですか~!

「…エロドクターの家だって…?」
なんてこった、とキース君が額を押さえます。今頃はきっと会長さんが大騒ぎしているのでしょうが…。
「大騒ぎじゃなくて家探ししてるよ?」
そう言ったのは「ぶるぅ」でした。
「ブルーがシールドしてるんだもん、追っかけたって無駄なんだよね。廊下をバタバタ走ってるけど、何処に行けばいいのか分からないみたい」
一階じゃなくて二階なのに、と「ぶるぅ」はおかしそうに笑っています。
「お前、今の状況が見えるのか?」
キース君の問いに頷く「ぶるぅ」。
「見えてるよ? ブルーも教頭先生も見えているけど、みんなにも見せちゃおうかな、どうしようかな…」
「い、いや、それは…」
遠慮しておく、とキース君が言うのと「ぶるぅ」の言葉は同時でした。
「ブルーに聞いたら、いいってさ。じゃあ、みんなにも見せてあげるね」
「「「!!!」」」
リビングの空間がグニャリと歪んでスクリーンのように変化しました。映し出されたのは部屋数の多い豪邸の中を必死に走る会長さん。扉を開けては中に飛び込み、文字通り家探しの真っ最中です。
「でね、こっちがブルーと教頭先生」
スクリーンが分割されて二人の姿を映し出します。教頭先生はソルジャーに腕を掴まれ、もう片方の手で口をしっかり塞がれていました。真っ暗な部屋にいるようですが、これはいったい…?
「ノルディのお部屋のお隣だって。間のドアを開けたら行けるらしいよ。ブルー…えっと、こっちのブルーの登場待ちだって言っていたから、そろそろかなぁ?」
会長さんが階段を駆け上がってゆくのが見えました。ソルジャーのシールドが無くなったのか、迷うことなく部屋の一つを目指しています。バタン! と扉を開けて会長さんが飛び込んだ先は…。
「…これはこれは。珍しいお客様ですね」
パジャマの上にガウンを羽織ったエロドクターがソファにゆったり座っていました。ブランデーのグラスを手にしています。テーブルには如何にも高級そうなボトルが。
「ブルーは何処だ!?」
「は? 息を切らしておいでになったかと思えば妙なことを…。ブルーといえばあなたでしょうが」
「そうじゃなくって! ブルーがやって来ただろう? ぼくそっくりのブルーが此処へ…」
「知りませんねえ」
今夜は私一人ですよ、とドクターはグラスを置いて立ち上がって。
「せっかくお越し下さったのです。如何ですか、私と一晩ベッドでゆっくり…」
会長さんとエロドクターの間は殆ど離れていませんでした。勢いに任せて飛び込んだせいで距離を取るのを忘れたようです。ドクターの手が会長さんの顎を捉えた所へ…。
「そこまで!!」
隣の部屋とを繋ぐ扉がバン! と開いてソルジャーが姿を現しました。教頭先生の腕を掴んで引っ張りながら。
「今日のブルーはギャラリーなんだ。ギャラリーに手出ししないで欲しいな。…君の相手はぼくがする」
「…あなたが? 物騒な気がするのですが…」
「ハゲのリスクなら同じだろう?」
ソルジャーはニヤリと笑ってテーブルに近付き、グラスのブランデーを飲み干して。
「うん、いいものを飲んでるね。そうそう、ハゲの続きだけれど。…トンズランスに感染している恐れがあるのはブルーも同じで、ブルーの方がリスクが高い。ぼくを巻き込んだのはブルーなんだし、物騒なのはどっちも同じさ。それとも、ぼくの世界に来て食べられかけたことを言っている? ぼくが相手じゃ不満なのかな?」
「いえ…。ただ、ハーレイをお連れなだけに、あなたの真意を測りかねます」
「ああ、ハーレイが気になるのか。安心したまえ、それも一種のギャラリーだ」
固まっている教頭先生の横に戻って、ソルジャーはクスッと笑いました。
「ハーレイはね…。ぼくの休暇を台無しにしてしまったのさ。だから腹立ち紛れに連れて来た。多くを期待してはいないよ、ギャラリー以上のことは何も…ね」
「…休暇…ですか?」
「そう、休暇」
ソルジャーは久しぶりの休暇が吹っ飛んだ経緯と休暇の目的をエロドクターに話し出します。その間に会長さんはソルジャーを肘でつついて「帰ろう」と促したのですが…。
「嫌だね」
ピシャリと撥ねつけ、ソルジャーはエロドクターに絡み付くような視線を向けました。
「そういうわけで、ぼくは退屈してるんだ。…楽しませて欲しいんだけど、ドクター・ノルディ」
「…喜んでお相手させて頂きましょう。あなたがトンズランスに感染するほど濃厚な接触をする機会を得ながら、何もしないで失神したようなヘタレとは違いますからね。…ハーレイと接触していたくせに、ぶるぅのせいだと嘘をつくとはいけない方だ」
「無駄な波風は立てない主義でね」
クスクスと笑うソルジャーの腕がエロドクターの首に回され、エロドクターの喉が鳴ります。会長さんはサイオンで金縛りにでもされてしまったのか、真っ青な顔で立ち尽くしているだけでした。もちろん教頭先生も…。

極上の獲物が飛び込んで来たのでエロドクターは上機嫌。ソルジャーを大きなベッドに誘い、ソルジャーも自分からベッドに上がって。
「…前に撮影で使ったけれど、こんな日が来るとは思わなかったな」
「ええ、スクール水着の時以来です。今日は…それはブルーの服ですか? ならば大事に扱わないと」
破ったりしたら怒られそうです、と会長さんに視線を向けるドクター。
「だろうね。…破いたりするのが好みなのかい?」
「時と場合によりますね。どんな扱いをされるのが好きな相手か、それを探るのも楽しいものです。あなたはヌカロクがお気に召されたようですが…回数が多ければいいというものではありませんよ」
エロドクターはいやらしい手つきでソルジャーの服を脱がせてゆきます。肌に口付けたり指を這わせたりしている内に、上半身はシャツが辛うじて引っかかっているといった状況に…。それを床に落とそうとドクターが手を動かした時、ソルジャーが教頭先生に呼びかけました。
「…ハーレイ…。こっちへ」
「……!!」
金縛りが解けたらしい教頭先生の顔が引き攣り、首を左右に振りましたが。
「いいから、ここへ。…ベッドに座って見ていたまえ」
ベッドの端を示すソルジャーに、エロドクターがニヤリと笑って。
「なるほど、あなたの恋人そっくりのハーレイに一部始終を見られている…というのは良い趣向かもしれませんね。そして私はブルーの非難の視線を浴びる…、と。ああ、ハーレイなぞは私はどうでもいいのですよ。いようがいまいが気になりません」
さあどうぞ、と教頭先生を招くエロドクター。教頭先生は逃げ切れないと悟ったらしく、諦めてベッドに腰掛けました。それを確認したソルジャーは…。
「じゃあ、遠慮なく楽しもうか。トンズランスをうつしちゃうかもしれないけれど」
「あなたに感染させられるのなら本望ですよ。ハゲたとしても勲章だと思っておきますとも」
「…その前に治療する気のくせに」
「本当に口の減らない方だ。…ブルーのように怯えて逃げ回るのも楽しいですが、あなたも実に魅力的です」
その口を塞いで差し上げますよ、とエロドクターは濃厚なキスを始めます。ど、どうなってしまうんでしょうか、この人たちは~!? おまけに中継をやっているのは小さな子供の「ぶるぅ」です。許可を出したのはソルジャーですけど、見続けていていいものかどうか…。
「大丈夫だよ。もう終わりだってブルーが言ってる」
小さな指がスクリーンの向こうを指差した途端、ドクターがガバッと跳ね起きました。
「な、何ですか、この味は…!?」
ゲホゲホと咳き込むドクターを見上げ、ソルジャーは甘く掠れた声で。
「…ぼくの話を聞いただろう? 休暇に期待していた、と。休暇で使おうと思った薬さ。ぼくのハーレイはそれでヌカロクを達成したんだ。君はどこまでいけるだろうね…? 残念ながら付き合うつもりはないけれど」
身体を起こしたソルジャーはベッドから降り、手早く服を着始めます。エロドクターの咳が止まった時には、服をすっかり身に着けていて…。
「君の相手にはハーレイがいいと思うんだ。ねえ、ハーレイ? ぼくがブルーにあげた薬で君が興奮していた時に、ノルディが治療してくれたんだろ? 今回は君が治療をするといい」
簡単だよ、とソルジャーは教頭先生をドクターの方に押しやりました。ベッドの端に腰掛けていた教頭先生はバランスを崩し、ドクターの上に倒れかかります。
「「―――!!!」」
二人が声にならない悲鳴を上げると、ソルジャーはベッドからスッと遠ざかって。
「ここから先は二人で解決してくれる? あ、ハーレイにもエネルギーを補給しないとダメかもね」
ブランデーのボトルを手に取り、宙に琥珀色の水玉を浮かべたソルジャーの唇に微笑みが乗り、水玉がフッと消え失せると…。
「ブルー!?」
教頭先生が情けない声を上げ、目を白黒とさせました。エネルギー補給ってもしかして…。
「ふふ、ヌカロクになれる薬とブランデーとのコラボレーション。それで朝まで頑張るといい。…ぼくの休暇を潰した罰は存分に受けて貰わなくっちゃ。ノルディと朝まで絡むのも良し、逃げてトイレに籠もるも良し。そうそう、ノルディ…ぼくを恨むのは無しだからね。ちゃんとサービスしてあげただろう?」
検査結果は改めて聞きに来させて貰うよ、とニッコリ笑うとソルジャーは会長さんの手を取りました。
「帰ろうか、ブルー。…後は二人の問題だしね」
「…でも…」
「君が二人の相手をするなら止めないよ? でも、そんなこと出来ないだろう? …さあ」
サイオンの青い光が二人を包み、スクリーン一杯に広がったかと思ったら。
「ただいま」
ソルジャーと会長さんがリビングの真ん中に現れて…「ぶるぅ」の中継はプツリと終わってしまったのでした。

それからドクターと教頭先生がどうなったのかは分かりません。ソルジャーは笑い転げ、会長さんも必死に笑いを堪えてますから…何も起こってはいないのでしょうが。
「ああ、せいせいした。貴重な薬を二回分も使っちゃったけど…いいよね、また買って貰えばいいんだからさ」
ソルジャーが大きく伸びをし、口直しだとブランデーを飲んでいます。エロドクターの部屋からボトルごと失敬した品でした。私たちが非難の目を向けると、ソルジャーは「かまわないんだ」と微笑んで。
「ノルディは最初、ぼくを酔い潰すつもりだったんだよ。そしたら色々楽しめそうだと考えたらしい。…ハーレイが見ている前で楽しもうってことになったら見事に忘れてしまったけどね。だからブランデーは貰っちゃっても問題ないって。…ぼくに飲ませる気だったんだし」
口を消毒しておかないと、などと勝手な理屈をつけてソルジャーは何度もグラスを傾け、ボトルは空になりました。それでも全く酔った気配はありません。かなりお酒に強いのでしょう。
「…ねえ、アルコールを飲みまくってもトンズランスは消せないのかな?」
ソルジャーの問いに、会長さんが。
「無理だろうね。感染したら飲み薬。…治療法はそれしかないよ」
「やっぱりダメか…。感染してないことを祈ろう。シャングリラ中を消毒なんて、いったい何を言われるか…」
「…ハーレイだけだろ、危険なのは?」
「それがそうでもないんだよ」
深い溜息をつくソルジャーに、私たちは首を傾げました。接触感染する菌ですし、危ないのはキャプテンだけなのでは…。
「抜け毛とかの中で半年間も生存できる菌だろう? 感染を予防するには道場や部屋を清潔に…って。ぼくは片付けが苦手でね。ついでに掃除も大の苦手。…いつもハーレイが文句を言いつつ掃除している」
「掃除するのもハーレイだったら、他には広がらないだろう?」
「…ぼくの相棒が問題なんだ。こっちの世界にはいないらしいけど、ナキネズミ」
「「「ナキネズミ?」」」
声を上げた私たちに、ソルジャーがとても可愛い動物の姿を思念で素早く送ってくれます。大きな耳にフサフサの尻尾、ネズミというよりリスみたい…。サイズはもっと大きいですけど。ソルジャーは「可愛いだろう?」と自慢して。
「ナキネズミにはサイオンがあって、思念で会話が出来るんだよ。ぼくの相棒は頭のいい子で、厨房で新作のお菓子なんかを作っていると上手に盗んできてくれる。おかげで試作品を真っ先に味見できるってわけ。…ただ、ぼくのベッドに潜り込んだり肩に乗るのが大好きだから…」
「トンズランスの運び手になる危険性が大ってことか…」
「うん。帽子やシャツの貸し借りとかでもうつるんだろう? フカフカの毛皮なんかは非常にマズイと思わないかい? ナキネズミは人懐っこくてシャングリラでは人気があるんだよね。肩に乗っけたり、頬ずりしたり」
それは確かに危険そうだ、と私たちはソルジャーに同情しました。もしもソルジャーがトンズランスに感染してたら、シャングリラ中が感染の危機。休暇が吹っ飛んだのも気の毒ですが、シャングリラに菌をばら撒いたかもしれないというのはソルジャーの立場を思えば最悪です。休暇の件だけでも教頭先生に当たり散らしていたんですから、感染となれば何をやらかすか…。その晩、私たちが凄い悪夢にうなされたのは至極当然と言えるでしょう。

次の日、私たちが目を覚ましたのは日が高くなってからでした。ブランチを食べに集まったダイニングでの最初の話題は、教頭先生とエロドクターはどうなったのかということで…。
「ハーレイなら、朝早くにノルディに叩き出されたみたいだよ」
会長さんがオムレツを頬張りながら言い、ソルジャーが。
「財布を持っていなかったから、腹ぺこで家まで歩いたらしい。今はベッドで爆睡中だ。ノルディの方も爆睡してる。二人とも目の下にクッキリとクマが…。ベッドで仲良くすればいいのに、しなかったんだから無理もないけど」
バカだよね、とソルジャーは笑っています。
「あの手の薬は相手がいないと自分がツライだけなんだ。不毛な作業を延々と繰り返すことになるんだし」
「「「………」」」
不毛な作業という言葉の意味は私たちでも分かりました。教頭先生とエロドクターは、ソルジャーに飲まされた薬の効果が切れるまで努力したというわけでしょう。目の下にクマが出来るほどに。…それから私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ってくれるお菓子などを味わいながら夕方を待ち、瞬間移動でエロドクターの診療所に出かけたのでした。
「こんばんは」
紫のマントを着けて正装したソルジャーに声をかけられ、ドクターはニヤリと笑みを浮かべて。
「ほほぅ…。今日はソルジャーとしておいでになりましたか。昨夜はどうも」
「ふふ、ハーレイと楽しめたかい?」
「それはもう。ハーレイはトイレに押し込めましたし、私はベッドで夜が明けるまで…。とにかくハードな夜でしたよ。…次はぜひ、あなたと二人で飲みたいものです」
ブランデーではなく薬の方を、と言うドクターは全然懲りていませんでした。それでもソルジャーが正装している意味はきちんと理解しているらしく、すぐにカルテを取りに行きます。ソルジャーがトンズランスの保菌者かどうかは、ソルジャーの世界のシャングリラに直接影響するのですから。…ドクターはナキネズミの件は知りませんから、キャプテン限定ですけれど。
「お待たせしました」
戻ってきたドクターは人数分のカルテをめくり、「うーむ」と一言呟いて…。
「培養検査の結果を見ましたところ、残念ながら…」
「「「残念ながら?」」」
会長さんとソルジャー、それに柔道部三人組の声が重なりました。同じ検査を受けているのに「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」はキョトンとした顔。やっぱり子供は子供です。トンズランスがどんなモノかもイマイチ分かっていないのかも…。ドクターはコホンと咳払いをして。
「残念ながら、どなたからも菌は検出されませんでした。…病院の方で検査を受けた柔道部員も全員シロです。腹が立つことにハーレイも、ですね。私まで巻き込んだくせにシロだったとは残念な…」
ハーレイなんかはいっそ禿げればいいものを、と毒づきながらもドクターはソルジャーの手を取り、「良かったですね」と恭しく口付けを贈りました。
「あなたが感染していたら…というのが実は一番心配でしたよ。ぶるぅもです。あなたの世界に迷惑をお掛けしたのでは申し訳ない。ハーレイには柔道部員の指導を徹底させましょう。練習後のシャワーの励行と道場の掃除、柔道着の洗濯に抗真菌剤含有シャンプー使用の勧め。感染を未然に防ぎませんと」
珍しくお医者さんらしい事を口にし、ドクターはソルジャーに微笑みかけて。
「さあ、お帰りになるのでしょう? 休暇は明日の朝まででしたね」
「…うん。今から帰れば使えるかなぁ、あの薬」
「ええ、間に合うと思いますよ。私とハーレイの経験からして、明日の朝までには効き目が切れます」
「分かった。無理にでも飲んで貰うよ」
ハーレイは飲みたがらないから困るんだよね、と苦笑しながらソルジャーは「ぶるぅ」に視線を移しました。
「帰ろうか、ぶるぅ。でも、今夜はお前は土鍋だよ」
「分かってる! 休暇中は大人の時間だものね。ちゃんと一人で土鍋で寝るよ」
蓋も閉めるし、と元気よく言う「ぶるぅ」とソルジャーが青い光に包まれます。また来るね、とクスクス笑いを残してソルジャーは帰って行きました。私たちも会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に連れられ、会長さんのマンションへ。昨夜がとんでもない夜だったので、今夜は仕切り直しのお泊まりなんです。

夕食はシーフードたっぷりのパエリア。早速お皿に取り分けながら、キース君は嬉しそうでした。
「感染してなくて助かったぜ。感染したなんて親父に知れたら、即、丸刈りにされるからな。禿げる前に剃れ、とか何とか言って」
「そうだろうね」
会長さんが応じます。
「とりあえず検査結果は学校経由で家に伝えて貰えるし…。ひと安心って所かな?」
「ああ。後は感染者が出てこないよう、エロドクターが言ってた予防策さえ徹底すれば…。教頭先生がきちんと指導して下さるだろう」
「ええ。ドクターに叩き出されたらしいですけど、それとこれとは別ですもんね」
シロエ君が言い、マツカ君が。
「先生は私情をはさむような方ではないですよ。ぼくは尊敬してるんです」
「尊敬ねえ…」
ヘタレにしか思えないんだけれど、と会長さん。
「でもさ、ノルディが言わなかったっけ? 予防のために抗真菌剤含有シャンプー使用がどうとか、って。キース、そんなシャンプーを使っていたらお父さんに感染を疑われるよ?」
「予防用だと言えば終わりさ。それに親父がガタガタ言っても、おふくろは俺に甘いからな。感染してないことが分かればいいんだ」
「残念。君が坊主頭になったら、ジョミーの心のハードルだってグッと下がると思ったのに。坊主頭に見せかけるように訓練するより、剃るのが楽に決まってるから」
会長さんの言葉にジョミー君の顔が青ざめて…。
「やだよ、丸坊主にするなんて! ぶるぅだって…ソルジャーの世界のぶるぅだって見たがった坊主頭だよ? しかも見せたら散々笑って、ハゲだハゲだって叫ぶしさ! 百害あって一利なしって坊主頭のことじゃないか!」
「…そうだった。あいつにハゲだと言われたんだった…」
ズーンと落ち込むキース君。ソルジャーが引き起こした騒動のせいで誰もが忘れていましたけれど、教頭先生を拉致して消えたソルジャーの行方はジョミー君とキース君の尊い犠牲のお蔭で明らかになったんでしたっけ。今から思えば、それもソルジャーの鬱憤晴らしの一つだったかもしれません。
「大丈夫ですよ、キース先輩! 坊主頭とハゲは別モノですって!」
ハゲは毛根が無いですし、と力説するのはシロエ君。
「先輩たちの訓練の時は剃り跡がちゃんと見えてます! ジョミー先輩は金髪だから分かりませんけど、キース先輩は青々としていますから!」
「…それって、ぼくだとハゲに見えるって意味…?」
「えっ…。いえ、決してそういうわけじゃ…」
「ほら、やっぱりハゲに見えるんだ! ぼくは絶対剃らないからね! お坊さんはキースがいれば十分じゃないか、ブルーの欲張り!!」
大騒ぎするジョミー君を落ち着かせるのは大変でした。訓練なんか二度と御免だ、と喚き立てるのを黙らせたのは会長さんの一言です。
「…訓練が嫌なら一足飛びに実戦だね」
「じっせん…?」
「そう、実戦。君は訓練は嫌だと言う。ならば戦場に飛び出したまえ。今の君には偽りの坊主頭は無理だし、実戦イコール丸刈りだ。ぼくが綺麗に剃ってあげよう」
「…………」
一瞬の間があり、ジョミー君はガバッとその場に土下座しました。
「ごめんなさい! ぼく、訓練を頑張ります! …だから…だから、丸刈りは許して下さい!」
「…分かればいいんだ。君もキースも修行が足りない。もっと心を強く鍛えて、坊主頭を受け入れられる器になって欲しいものだね。いっそキースがトンズランスに感染してれば良かったものを…」
坊主頭は楽なんだよ、と未経験のくせに得々と話す会長さん。こんな高僧に見込まれてしまったキース君たち、剃髪しないで逃げ切ることが出来るのでしょうか? トンズランスなんていうハゲを呼ぶ水虫が出てきただけに、いつか髪の毛がトンズラしちゃう…って恐ろしいオチは無いですよね…?




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