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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

門出を祝って  第2話

会長さんの家でのお泊まり会。その実態は卒業式当日に校長先生の銅像を変身させるための下準備だと思ったのですが、話は意外な方向へ…。サイオンを持たない普通の人間な私たちのパパやママを仲間にするためのシャングリラ・プロジェクトなんていう凄い話が出てきたのです。
「シャングリラ・プロジェクト自体はかなり昔からあるんだよ」
会長さんが説明し始めました。
「ぼくたちの仲間が自然発生する率はとても少ない。今年特別に卒業する生徒がいないことでも分かるだろう? 君たちが入学してきた年が大当たりだっただけで、普段は数年に一人くらい…ってところかな。もちろんシャングリラ学園以外の所でサイオンに目覚める人もいるけど」
そういう場合は会長さんが見つけ出して本人とコンタクトを取るのだそうです。それでも人数はやはり少なく、年に数人なのだとか。
「だからね、行動しないで待っていたんじゃ仲間は増やせないんだよ。それでサイオンに目覚めた人の家族を加えていくことにした。もっとも仲間にしたい人が同意しないとダメなわけだし、百パーセントとはいかないんだけど。普通に生きたい人もいるしね」
「えっ、じゃあ……ぼくのパパたちは?」
心配そうなジョミー君。いくらシャングリラ・プロジェクトが存在しても、本人の同意がなければダメということになると私たちのパパやママがどんな選択をするかです。私のパパは? …それにママは?
「安心したまえ。君たちの御両親は全員賛成してくれた」
「「「えぇっ!?」」」
会長さんの即答に私たちは心底驚きました。シャングリラ・プロジェクト自体が初耳なのに、パパやママたちはいつの間に…? 会長さんは「嘘じゃないよ」とニッコリ微笑んで。
「君たちが特別生になって二年経とうとしてるんだ。それだけの期間があればサイオンに関する理解も深まる。あとはキースのサイオン・バーストがダメ押しだったね。…あんな力を秘めている君たちを一人ぼっちにしてしまうのは可哀想だということになった」
「「「………」」」
キース君がバーストした時、アドス和尚とイライザさんが意外に落ち着いていたのは既にサイオンに関する知識をある程度持っていたからなのだそうです。会長さんが意識の下に流し込む情報の他にも色々と…。
「なんだと!?」
信じられない、とキース君が叫びました。
「親父たちが定期的に食事会をやっているのは知ってたが……あれがシャングリラ・プロジェクトだと?」
「まあね。最初は君たちの卒業式で顔を揃えたのが切っ掛けでマツカのお父さんが始めた会だけどさ…。利用しない手はないだろう? 月に一度は集まるわけだし、ゲストって形でハーレイやゼルが出席してた」
「そういえば、そんな話も聞いてますけど…」
でもシャングリラ・プロジェクトなんて知りませんよ、とシロエ君。私だって食事の会に先生方がゲストで来ることもあるとは聞いてましたが、親睦会みたいなものだとばかり…。
「一応、口止めしていたからね。もしもプロジェクトに乗ってくれなければ……普通の人間でいたいって言われてしまえば君たちがガッカリするだろう? 結論が出揃うまでは秘密にしないと。そして全員、プロジェクトに同意してくれた。君たちが取り残される心配はないよ」
大丈夫、と会長さんは笑顔でした。
「今年は特別に卒業していく生徒もいないし、進路相談会をやってた時期にシャングリラ号が戻って来るから、お父さんたちに乗船してもらう。…聞いてないかい、三月にみんなで旅行に行く、って」
「温泉旅行じゃなかったの!?」
ジョミー君が声を上げました。
「キースのお父さんたちと三日間ほど出掛けてくるから、きちんと留守番するんだぞ…って」
「俺も言われた」
「うちも…」
パパとママが旅行に出るのは知ってましたが、行き先がシャングリラ号だったなんてビックリです。私たちだってシャングリラ号に乗り込む時には嘘の行き先を告げてましたけど、今度は私たちが嘘をつかれる番でしたか~!

「どおりで変だと思ったんだ…」
キース君が腕組みをして呟いています。
「いつもの会で温泉旅行に行ってくるから後を頼むと言われたんだが、お彼岸の準備で忙しい時期に留守なんだぜ? 元々、俺の家は寺だからな……いつ葬式があるかも知れんし、家族旅行なんて滅多にしたことがない。なのに気が合う面子とは言え、二泊三日とはいい身分だな…と」
面と向かっては言えなかったが、とキース君は首を竦めました。
「下手な事を言うと坊主頭にされそうだしな。留守番の間くらいはきちんと坊主をやっておけ、って」
「サイオニック・ドリームで誤魔化しとけばいいじゃない」
簡単でしょ、とジョミー君が混ぜっ返しましたが、キース君は真剣で…。
「坊主頭はなんとでもなる。問題はお彼岸の準備とかだ。親父とおふくろが他のお寺に応援を頼んでいるから俺は適当にしてればいいが、口答えしたら全部一人でやる羽目になる」
「「「………」」」
それは大変そうでした。キース君が一人で元老寺を任されることになったら、私たちまで駆り出されるかもしれません。抹香臭い生活はもう懲り懲りですし、逆らわなかったキース君に感謝するべきでしょうねえ…。会長さんがクスクスと笑い、「ぼくも手伝えないからね」なんて言ってます。
「お父さんたちがシャングリラ号に乗り込む時には、ぼくも乗船することになる。もちろんソルジャーとしての立場で。…ぶるぅも大事な用事があるし、君たちは留守番組ってことで」
「「「ぶるぅ?」」」
「そうだよ。ぶるぅがいなけりゃ、誰がお父さんたちにサイオンを持たせてあげられるのさ? 君たちの時と違って、お父さんたちはまだサイオンを持ってない。知識だけ先に教えてあるんだ」
ついでにサイオンが発現しても制限付き、と会長さんは続けました。
「普通の人間として暮らしてきた期間が長いからねえ…。いきなり思念波などを使おうとすると無理が出てくる。ゆっくりと徐々に時間をかけて、って所かな。君たちよりもずっとレベルは落ちてしまうよ、どうしても。…まずは歳を取るのが止まってくれれば十分だろう。そこは完璧にフォローするから」
「そっか、パパもママも、ずっと一緒にいられるんだね」
嬉しそうな声のジョミー君。私たちも口々に御礼の言葉を言う中、キース君が。
「親父とおふくろがいてくれるのは嬉しいんだが…。だったら俺が坊主になる必要は無いんじゃないのか? 親父がずっと健在だったら住職は親父で十分だろう」
「ああ、その話ね」
聞いてるよ、と会長さん。
「ぼくも会には何度か出たけど、アドス和尚が言ってたよ。キースには副住職になってもらって、貫禄がついてきたらイライザさんと悠々自適に旅行三昧も良さそうだ…って」
「なんだって!? 貫禄なんかがつくわけなかろう、外見は変わらないんだぞ!」
「じゃあ、ぼくは? ずっとこういう姿だけれど、これでも高僧なんだけど?」
「うっ……」
負けた、とキース君が呻いています。どう転んでも元老寺の住職への道は避けられそうにありませんでした。今年の暮れには住職になる資格を得るための璃慕恩院での道場入りも控えていますし、キース君が副住職に据えられる日も近いのでしょう。こうなった以上、アドス和尚と一緒に歳を取らない名僧を目指していくのが一番かも…?
「今度のプロジェクトで最大の収穫はマツカのお父さんなんだよね」
会長さんが真顔で告げました。
「なんと言っても大財閥の当主だからさ、ぜひとも仲間に加えたかった。世界中に広がる企業ネットワークは魅力だろう? そしたらマツカのお父さんが凄く乗り気で、マツカのためにも仲間になりたい…って。マツカに一人で背負わせるには責任が重たすぎるんだってさ」
「そうだったんですか…」
嬉しいです、とマツカ君の目尻に光るものが。大財閥の後継者としての教育は受けている筈ですけど、マツカ君は優しすぎるのです。冷徹な判断を下す立場は向かないかも……と私たちも心配していたのでした。キース君がブレーンに就いてはどうかと議論したこともありましたっけ。でも、マツカ君のお父さんも仲間になるなら、その必要はないわけで…。
「とにかく、今回のシャングリラ・プロジェクトは大成功だ。ぶるぅの手形は出発直前に空港で押して、それからシャングリラ号に乗り込んでもらうことになる」
君たちは適当に留守番してて、と会長さんが言い、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ぼく、頑張るね! いっぺんに押す人数の最高記録の更新なんだ♪」
「…大丈夫なの? そんなに沢山…」
スウェナちゃんの問いに「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自信たっぷり。
「平気だよ! だけど体力勝負になるから、前の晩はいっぱい御飯を食べなくちゃ。ブルーが御馳走してくれるんだよ」
何処へ行こうかなぁ? とグルメマップを持ち出してくる「そるじゃぁ・ぶるぅ」の姿に笑いが零れ、和やかな空気が戻ってきました。シャングリラ・プロジェクトとパパやママたちを説得してくれた会長さんたちに心から感謝、感謝です~!

お泊まり会を終え、家へ帰ってカレンダーを見ると三月の所に『みんなと旅行』の書き込みが。パパとママに尋ねてみると、やはり行き先は温泉ではなくシャングリラ号。学校へ行ってジョミー君たちに話すと、誰の家も同じだったようです。
「ブルーも人が悪いよなあ…」
全部内緒にしてただなんて、とサム君は少し悲しそう。会長さんと公認カップルを名乗ってるだけに、隠しごとをされていたのがショックなのかも…。けれど放課後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で出会った会長さんは涼しげな顔で答えました。
「サムだけ特別扱いってわけにはいかないよ。シャングリラ・プロジェクトは遊びじゃないし、特別扱いは別の機会でいいだろう? そうだ、次に朝のお勤めに来る時、ぼくの手料理を御馳走しようか」
「えっ、ホントに?」
「本気だよ。何がいいかな、考えておいて」
「うわぁ…俺って幸せ者~…」
サム君は相好を崩し、会長さんが提案するメニューに端から頷き倒しています。朝からそんなに食べられるのか、なんて訊くのは野暮ってモノでしょうねえ…。
瞬く間に日は過ぎ、期末試験が始まりました。これが済んだら特別生には登校義務はありません。1年A組の一番後ろに会長さんの机が増えて試験開始。誰もが喜ぶ「そるじゃぁ・ぶるぅ」の御利益パワーこと会長さんのサイオンのお蔭で1年A組は最後まで学年1位を貫けそうです。
「かみお~ん♪ 試験、お疲れ様!」
今日ので全部おしまいだね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が迎えてくれたのは五日目の試験終了後。クラスメイトは打ち上げに出掛け、私たちもこれから焼肉パーティー! スポンサーはもちろんいつものパターンで教頭先生なのですが…。
「三学期の打ち上げパーティーは、やっぱりハーレイが一緒でないとね」
そう言い出した会長さんに私たちは「またか…」と頭を抱えました。教頭先生が呼び出されるとロクな結果に終わらないことを私たちはとっくに学習済みです。今年は何をやらかすのやら…。
「酷いな、ぼくを悪人みたいに…。今回は普通に打ち上げだよ。シャングリラ・プロジェクトの話もあるし、オモチャになんか出来やしないさ。そうそう、ハーレイはキャプテンだから、君たちの御両親のことを頼んでおくといいかもね」
「それって何かに影響するの?」
ジョミー君の問いに、会長さんは。
「例えば、部屋割。基本的に部屋の構造は同じだけれど、公園が見える部屋とか見えない部屋とか色々あるし…。他には食堂のメニューかな? 特別メニューを組むんだったらハーレイに言っておかないと」
補給の都合があるからね、と会長さんは言いましたけど、部屋割だのメニューだのは「郷に入りては郷に従え」ですし、特別扱いは不要でしょう。でも、会長さんが教頭先生をオモチャにしないのはいいことです。打ち上げパーティーではシャングリラ・プロジェクトの話題をメインにするのがベストかな?
そういうわけで私たちは教頭室へ向かい、仕事を早めに終わらせていた教頭先生と一緒に思い出の焼肉屋へ向かいました。去年の打ち上げパーティーで教頭先生が会長さんとの野球拳に負け、散々な目に遭わされていたお店です。
「……この店か……」
入り口で渋い顔をする教頭先生に、会長さんが。
「平気だってば、誰も覚えていやしないよ。それに覚えていたとしたって、壁に張り付いていたお客としか…。ハーレイが裸エプロンで歩いてた姿、普通の人には見えないからさ」
「…それは……そうなのだが……」
「問題ないって! それとも今回もやりたいわけ? 裸エプロンとか野球拳とか」
「い、いや……遠慮しておく」
今日は普通に楽しみたい、と教頭先生はお店の扉をくぐりました。私たちは奥の個室に案内されて、まずはジュースで乾杯から。音頭はもちろん会長さんです。
「じゃあ、みんなの特別生二年目の終了を祝して、乾杯!」
「「「かんぱーい!!!」」」
成績とは無縁の特別生は試験結果も成績表も無関係。ですから新学期まで登校しなくてもいいんですけど、学校がある間はきっと登校してしまうでしょう。それでも一応終了ですし、特別生の二年目が終わったことに乾杯~!

太っ腹な教頭先生の奢りで高いお肉が次から次へと運ばれてきます。盛り上がってきた所で出てきた話題は、やはりシャングリラ・プロジェクトでした。会長さんが話を振って、教頭先生が私たちに…。
「よかったな、みんなの御両親が趣旨に賛同してくれて。これで心配なくなっただろう?」
「ええ、本当に感謝してます」
マツカ君が真っ先に口を開きました。
「いつかは父の跡を継ぐんだって分かっていても、不安でたまらなかったんです。それにサイオンまで持っていますし、特別な目で見られそうで…。でも、父が同じ仲間として頑張ってくれるそうですし、いつかは父の補佐をしたいと思っています」
「それは頼もしいな。これからも柔道で大いに鍛えて、強い心身を養うといいぞ」
「はい! よろしくお願い致します」
深々と頭を下げるマツカ君。これを切っ掛けに私たちはシャングリラ・プロジェクトについて口々に質問を始め、会長さんと教頭先生が様々なケースを教えてくれました。中でも一番驚いたのは…。
「えぇっ、まりぃ先生が!?」
素っ頓狂な叫びを上げたのはジョミー君。私たちもビックリ仰天でしたが、会長さんは可笑しそうに。
「ハーレイ、まりぃ先生は元々サイオンの因子があったし、プロジェクトとは別件だよ」
「…そ、そう言えばそうだったな…」
「それとも言いたくてたまらなかった? だって絶叫したのがアレだもんねえ?」
「う、うむ……」
なにやら赤くなっている教頭先生。いったい何があったのでしょう? まりぃ先生は最近サイオンに目覚めたらしくて、バレンタインデー前にイベント用のチョコレートを受け取りに戻って来たシャングリラ号に乗り込んだという話ですが…。
「ふふ、知りたい?」
会長さんの赤い瞳が悪戯っ子のように煌めいています。こういう時は知りたくなくても勝手に喋るのが会長さんで、案の定…。
「まりぃ先生のサイオンはね……思念波もイマイチ危ういレベル。だけど目覚めてしまったからには早めに対応しなくっちゃ。シャングリラ学園の教師でなければ一年くらいは放置しといてもいいんだけどさ」
サイオンを持つ特別生の多い学校だけに、ある日突然サイオンが活性化したらマズイのだ、と会長さん。私たちが普通の一年生だった間は会長さんがサイオンをコントロールしてくれていましたけれど、そのコントロールを解かれた時に押し寄せてきた雑多な『心の声』は今もハッキリ覚えています。あの時は気分が悪くなりましたっけ…。
「保健室の先生が気分が悪くなっていたんじゃ話にならない。とにかく現状を把握して貰って、コントロールとかは後でゆっくりと…ね。ちょうどシャングリラ号が戻る時期だったし、チョコレートを運ぶついでにちょっと」
チョコレートとはクルーの人たちのバレンタインデー用に特別に調達されるもの。地上勤務のクルーの人たちが注文に応じて買いに走って、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が瞬間移動で衛星軌道上のシャングリラ号まで届けてみたり、輸送用のシャトルで運んだり。まりぃ先生がシャングリラ号に行ったんですから、今年はシャトルだったのでしょう。
「…それでさ、シャングリラ号で宇宙に出ても、まりぃ先生は特にビックリしなかった。映画みたいだって大喜びではしゃいでたけど、ハーレイに連れられて青の間に来た時に叫んだんだ。あらまあ、あなたがソルジャーだったの! って」
そりゃまあ、普通は驚きますよね。会長さんがソルジャーだなんて、私たちだって俄かには信じられなかったんですから。…でも、これが教頭先生が赤くなるような叫び声だとは思えませんが…? ジョミー君たちも首を傾げています。会長さんはクスクスと笑い、教頭先生をチラリと眺めて。
「まりぃ先生はハーレイとぼくを何度も見てから絶叫したのさ、両手で頬を押さえてね。内容はこう。…どうしましょう、私、ソルジャーとキャプテンを冒涜しまくっていたんだわ!!!」
「「「………」」」
あちゃ~。冒涜の内容には嫌というほど心当たりがありました。まりぃ先生の趣味の妄想イラストです。ソルジャーとキャプテンで妄想しまくっていたなんて最悪ですよね、仲間としては。教頭先生が赤くなった理由はこれでしたか! …が、会長さんは更に続けて。
「まりぃ先生の凄い所はこの後だよ。ひとしきりパニクってたけど、立ち直るなりこう言った。私、これからも妄想しちゃっていいですか? ソルジャーとキャプテンですもの、もしかして実は深い仲でいらっしゃるとか、そういうこともありますわよねえ? 皆さんの手前、公にするのはまずいでしょうけど!」
教頭先生がグゥッと呻き、私たちは頭痛を覚えました。まりぃ先生、流石です。まだ思念波も満足に操れないレベルらしいですから、妄想を垂れ流すことはないでしょうけど……会長さんがソルジャーで教頭先生がキャプテンだと知っても妄想を止める気が全く無いとは天晴れとしか言えません。これからもきっと絶好調で突っ走りますよ…。

まりぃ先生がサイオンに目覚め、もうすぐ私たちのパパやママが「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手形で仲間に。サイオンを持つ人を増やそうと言うシャングリラ・プロジェクトが順調に進めば、いつかは会長さんのように何百年も歳を取らずに生きている人が殆どになるってことでしょうか? それってホントに理想郷…。私たちがそう話し合っていると、会長さんが。
「シャングリラ学園を創った時には、ぼくたちのための理想郷って意味だった。シャングリラ号が出来た頃でも同じかな。でも、ぼくは前から思っていたんだ。この世界そのものをシャングリラに…理想郷に出来たらいいな、って。だからシャングリラ・プロジェクトなのさ。学校の名前や船の名前とは関係なく…ね」
そうだったのか、と私たちは会長さんの話に聞き入りました。教頭先生も頷いています。
「ぼくの願いはこの地球に住む人全部を仲間にすること。…そして一歩ずつ着実に進んでいると信じてる。シロエが行きたかったネバーランドは基本的に子供の国だよね。でもシャングリラはそうじゃない。ネバーランドよりも素晴らしい世界になるさ」
「そうですよね…」
凄いです、とシロエ君が相槌を打った所で教頭先生が不思議そうに。
「…ネバーランド? そんなのに行きたかったのか?」
「あ! わわっ、今の、聞かなかったことにして下さいよ~!」
「ほほう…。そう言われると気になるな。ネバーランドが何故悪いのだ?」
子供らしくていいじゃないか、と教頭先生が突っ込んだからたまりません。シロエ君がネバーランドに行くための体力作りに柔道を始めたことが明るみに出るまでに時間はさほど必要無くて…。
「……だから嫌だったんですよ……」
一生ネタにされそうです、と膨れっ面のシロエ君。教頭先生は「そう言うな」とシロエ君の肩を叩いて。
「動機はどうあれ、お前の技は立派なものだ。機械工学の方も頑張っているのだろう? 文武両道はいいことだぞ。そう言えばキースもそうだったな」
「…俺の未来は決まってますから…。親父がサイオンを持つようになっても、俺は坊主にされるんですよ。…もういいです。仏弟子としてシャングリラへの道をサポートさせて頂きますよ」
キース君の愚痴にサム君が。
「それって西方極楽浄土って言わないか? 死んじまったら別の理想郷だぜ」
「…お前に言われると堪えるな…。順調に仏の道を歩みやがって!」
お前が坊主になってしまえ、と毎度のパターンで始まる口論。ある意味とても賑やかですし、打ち上げパーティーらしいのですが…。そんなドサクサに紛れて教頭先生が会長さんに水を向けました。
「ブルー、シャングリラもいいが、私にもこう……お裾分けはしてもらえるのか?」
「は?」
キョトンとしている会長さんに教頭先生はモジモジしながら。
「そのぅ……理想郷と言えば幸せに暮らせる場所だろう? 私も幸せが欲しいのだが…」
「パーティーに呼んであげたじゃないか。これ以上、何を要求するのさ?」
厚かましいよ、とけんもほろろな会長さん。けれど教頭先生は引き下がらずに…。
「ホワイトデーだ」
「「「えぇっ!?」」」
何を言い出すんですか、教頭先生!? バレンタインデーに会長さんに手編みのセーターをプレゼントしたのは知ってますけど、あんなのでお返しが貰えるとでも…?
「…なるほどねえ…」
会長さんは深い溜息をついて。
「あのセーターに見合うお返しが欲しいってわけだ。つまり心のこもったモノが…ね」
「いや、そこまでは言わないが…」
「言っているのと同じだよ。つまりホワイトデーに幸せになれるプレゼントを贈ってくれ、と言いたいんだろう? 分かったよ、今から考えておく」
「本当か?」
喜色満面の教頭先生。
「繰り上げホワイトデーにくれるんだな? 今年も卒業式の三日前だぞ」
「そうなんだ? 正式発表はまだだったよね。…聞いちゃったからには仕方がない。シャングリラに相応しいものをプレゼントできるよう努力するさ」
「すまんな…。その代わり、シャングリラ・プロジェクトの方は任せてくれ。物資の補給準備も順調だ。お前はいつものようにソルジャーとして青の間にいてくれるだけでいい」
「当然だろ? ぼくは船の航行には一切関係ないからね。今回は大事なお客様を大勢乗せて飛び立つんだから、念入りに用意してもらわないと」
ね? と言われて私たちは返事に困りましたが、パパやママがお世話になる船です。教頭先生ならぬキャプテンにはきちんとお願いしなくては…。
「教頭先生、親父とおふくろをどうかよろしくお願いします!」
キース君が個室の畳に正座して礼をし、私たちも慌てて続きました。教頭先生のお金で御馳走になっておいて『お願い』というのも変ですけども、シャングリラ号のキャプテンは教頭先生。パパやママが仲間になれるシャングリラ・プロジェクトと今日のお会計、くれぐれもよろしくお願いします~!



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