シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
巷にクリスマスの飾りが溢れる季節がやって来ました。キース君にとってはクリスマスは修行を思い出させるものらしいですけど、私たちにはまるで関係ありません。今年も会長さんの家で賑やかにパーティーでしょうし、まだ一ヶ月あると言っても楽しみな日々。
「かみお~ん♪ 明日はみんなでお出掛けする?」
それとも遊びに来る? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。金曜日の放課後、いつもの溜まり場での質問です。会長さんの家でダラダラ週末もけっこう定番、それもいいなと思ったのですが。
「…なんか、サル顔なんだよねえ…」
「「「は?」」」
なんのこっちゃ、と視線がジョミー君に集中しました。サル顔って、誰が?
「あ、ごめん。昨日の夕刊の記事なんだけど…。植物園便り」
「「「植物園便り?」」」
動物園なら分かりますけど、植物園でサル顔というのは何でしょう。園長さんがサル顔だったとか、植物の紹介をしていた人とか…?
「ううん、サル顔の花だったんだよ」
「「「花!?」」」
何処の世界にそんな花が、と誰もが突っ込む中で、会長さんが「ああ…」と手を打って。
「あれかい、モンキー・オーキッドかい?」
「そう、それ! すっごいサル顔!」
もうサルにしか見えなくて、とジョミー君は興奮しています。なんでもオーキッドだけに蘭だそうですが、花のド真ん中にサルの顔の模様がついているとか。
「それがさ、サルをプリントしたみたいにそっくりなんだよ、そのままサルでさ!」
まさにサル顔、と語るジョミー君と一緒に、会長さんも。
「一時期、話題になってたからねえ…。サル顔すぎるとネットなんかで」
「おい、本当にサルなのか?」
モンキー・オーキッドと言うからにはサルなんだろうが、とキース君が訊くと。
「この上もなくサルだったねえ! ぼくも実物は見ていないけれど」
どの花もサルで、と会長さんが言い出し、ジョミー君も「そうらしいよ」と。
「植物園で咲き始めました、って書いてあってさ…。他にも色々なサルがいるからお楽しみに、っていう紹介でさ」
あのサルを是非見てみたい、という話ですけど。植物園に出掛けてサル顔の花を見物しようというわけですか…?
ジョミー君曰く、サル顔の花。会長さんが「論より証拠」と部屋に備え付けの端末で検索してくれたモンキー・オーキッドは本当にサル顔でした。蘭の花の真ん中にババーンとサルが。
「見に行くんなら、今はこれだけにしておくのがいいよ」
サルのバリエーションは本物で堪能するのがお勧め、と会長さん。
「ぼくも写真でしか知らないけどねえ、それは色々なサル顔があるから」
「…そうなのか?」
俺は初耳だが、とキース君が画面を覗き込んで。
「これだけでも充分にサルっぽいんだが、まだまだサルがいるというのか?」
「ハッキリ言うなら、序の口だね、これは。…ジョミーが見たのも、これだよね?」
「うん。もしかして、心を読み取ってた?」
「まあね。ズバリそのものを見せたかったら、情報はしっかり掴まないとね」
昨日の夕刊の写真はこれだ、と会長さんが言う通り、写真には植物園便りという記事がついていました。アルテメシアの植物園の。
「へええ…。今がモンキー・オーキッドの旬なのかよ」
こんなサルの、とサム君が記事を読み、「他にもサルがいるってか?」と怪訝そうに。
「花だろ、これ? 他の花でもサルなのかよ?」
「モンキー・オーキッドなら、もれなくサルだね。ぼくが保証する」
もう本当にサルすぎるから、と会長さん。
「誰が見たってサルなんだけどね、現地じゃサルではないんだなあ…。これが」
「「「へ?」」」
モンキー・オーキッドという名前どおりにサルじゃないんですか、この花は?
「ドラキュラらしいよ、品種名としては。…サルじゃなくって」
「「「ドラキュラ?」」」
それは吸血鬼ではないのだろうか、と思いましたが、会長さんは大真面目な顔で。
「ドラキュラはドラキュラでも、吸血コウモリ。聞いたことはあるだろ、吸血コウモリは」
「それはまあ…。知らなくもないが」
キース君が返すと、「そのドラキュラ」と会長さん。
「吸血コウモリの顔がついてるってことで、ドラキュラなんだよ」
「「「えーっと…」」」
サルだろう! と総員一致の反論が。されどドラキュラが本名らしいモンキー・オーキッド。これは本物、ちょっと見に行きたい気分ですよね!
というわけで、翌日の土曜日、私たちは植物園へとお出掛けすることになりました。雪が降りそうな寒さですけど、たまには冬の植物園。寒さ除けにも急げ、急げと温室目指してまっしぐらで。
「かみお~ん♪ 温室、あったかいね!」
ここだけ夏だね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。着込んで来たコートや上着はお役御免で、それでも暑い気がする温室。さて、モンキー・オーキッドは何処でしょう?
「蘭のコーナーは向こうらしいな」
キース君が案内板をチェックし、南国の植物が茂った中をゾロゾロと移動。週末なのに人は全くいません、そういえば入る時から誰もいなかったような…。
「植物園って冬は暇なのかしら?」
スウェナちゃんの疑問に、会長さんが「暇だろうね」と即答しました。
「寒風吹きすさぶ中、だだっ広い庭を見て回りたいような人は思い切り少数派だし…。温室の中は暖かいけど、バスや車で横づけってわけにもいかないからね」
最高に賑わうのは冬じゃなくって桜のシーズン、と会長さん。
「いろんな種類の桜が山ほど植えられているし、桜を見るにはいいらしいよ? 見るだけでもね」
「「「見るだけ?」」」
「桜のコーナーは春は飲食禁止なんだよ。お弁当とかは他所で食べて下さい、と」
「それじゃお花見になりませんよ?」
駄目じゃないですか、とシロエ君。
「やっぱりお弁当は桜を見ながら食べたいですし…。桜があっても、お弁当禁止じゃあ…」
「それなりに他の花もあるしね、桜は見るだけ、お弁当は他で! それでも賑わう!」
だけど冬場は閑古鳥、と会長さんはグルリと見回して。
「この温室には他に誰もいないし、外も写真の愛好家が何人かいる程度かなあ…」
「モンキー・オーキッドで宣伝してても来ないわけ?」
ぼくたちしか、とジョミー君が頭を振って、サム君が。
「普通こねえだろ、それだけ見るのに入園料を払って寒い中をよ」
「うーん…。あの記事に上手いこと乗せられたかなあ?」
「いいんじゃないかな、一見の価値はあると思うよ、モンキー・オーキッド」
この植物園は何種類も育てているからね、と会長さんが先に立って蘭のコーナーの方へと向かってゆきます。誰も来ていないとは拍子抜けですが、その分、ゆっくり堪能できそう。サル顔の花のバリエーションってどんなのでしょうね、花の色とかかな…?
それから数分後、私たちは温室の中でケタケタと笑いまくっていました。誰もいないのをいいことにしてゲラゲラ、ケラケラ、これが笑わずにいられようか、といった感じで。
「サ、サルだぜ、本気で! もうサルにしか見えねえって…!」
「これなんか歯をむき出してますよ、威嚇してるのか、笑ってるのか…」
「こっちもサルだよ、なんでこんなにサルだらけなんだろ…!」
見に来て良かった、とジョミー君もお腹を抱えて爆笑中。モンキー・オーキッドのコーナーはサル顔をした蘭がズラリ揃って、あっちもこっちもサルだらけで。
「ドラキュラじゃないわね、やっぱりサルよね?」
「どう見てもサルだな、俺にはサルにしか見えないからな」
だが学名は違うのか…、とキース君が「ドラキュラ属」と書かれた札に呆れ顔。
「…吸血コウモリはサルに似ているのか、そうなのか?」
「どっちかと言えば、ぼくはブタだと思うけどねえ…」
でなければネズミ、と会長さんが。
「誰がドラキュラと名付けたのかは知らないけれどさ、明らかにネーミングのミスだよ、これは」
「だよなあ、サルだもんなあ、これも、これもよ」
サルの顔がついているとしか見えねえしよ、とサム君が言う通り、どの蘭も見事なまでにサル。吸血コウモリだと言われてもサル、サル以外には見えませんってば…。
色も形も様々なモンキー・オーキッド。それと同じにサルの顔も色々、表情のバリエーションが豊かすぎるだけに笑うしかなく、散々笑って笑い転げて、植物園を後にして…。
「凄かったよねえ、モンキー・オーキッド」
あそこまでとは…、とジョミー君が改めて感動している会長さんの家のリビング。私たちは植物園の側のハヤシライスが有名だというお店で食事し、あまりに寒いので反則技の瞬間移動で会長さんの家まで帰って来ました。今は紅茶やコーヒー、ココアなんかで寛ぎ中で。
「あのサル顔は凄すぎたな…。どういう意図でサルなんだかな」
サルの顔にしておけば虫が来るわけでもなさそうだし…、とキース君。
「天敵を追い払うのにサルの顔なら話は分かるが、本物のサルに比べて小さすぎるし…」
「吸血コウモリの顔にしたって、小さすぎだね」
本当に何の意味があるのやら…、と会長さんも。
「揃いも揃ってサル顔なんだし、偶然にしては凄すぎるけど…。蘭の心は読めないからねえ、どうしてサルかは分からないよね」
まだ定説も無いようだ、という話。それじゃ、まさかの遊び心とか?
「遊び心か…。それだと人間に見て貰えることが大前提だし、ウケた所で種の繁栄に繋がるとは限らないからねえ…」
乱獲されて絶滅しそうだ、と会長さん。それは確かに言えてます。植物園で見て貰える間はマシでしょうけど、大流行したらエライことですし…。
「何を思ってやっているのか謎ですね、モンキー・オーキッド…」
ぼくたちは楽しませて貰いましたが、とシロエ君が言った所へ。
「こんにちはーっ!」
「「「!!?」」」
フワリと翻った紫のマント、ソルジャーが姿を現しました。
「遊びに来たよ、今日はなんだか珍しい所へ行っていたねえ!」
「植物園かい? たまにはそういう場所もいいだろ、勉強になるし」
会長さんがそう答えると。
「…勉強だって? 笑いに行った、の間違いだろう?」
サル顔の花で、とソルジャーはしっかり把握していて。
「ぼくも覗き見していたけどさ…。此処へ来る前に瞬間移動で実物も見に行って来たんだけどさ」
あれは凄すぎ、とソルジャーもまたモンキー・オーキッドで笑いまくって来たようです。あれだけサル顔の花が揃えば、そりゃ、見るだけで笑えますしね…。
モンキー・オーキッドを堪能して来たらしいソルジャーは、やはりサル顔が気になる様子で。
「進化の必然ってヤツだろうけど、なんでサル顔?」
「それが分かったら、ぼくは論文を発表してるよ!」
万人が納得するような理由を見付けられたら最強だから、と会長さん。
「銀青として坊主の世界では名が売れてるけど、学者の世界じゃ無名だからねえ…。そっち方面で売り出せるんなら、論文くらいは書いてみせるよ!」
「…つまり、現時点ではサル顔の理由は謎なんだ?」
「これだ、っていう説は出てないねえ…。少なくとも、ぼくが知ってる限りでは」
「ふうん…。だったら、遊び心もいいかもねえ…」
あのサル顔は使えそうだ、と妙な発言。ソルジャー、サル顔が好みでしたか?
「ううん、そういうわけじゃなくって…。サルでなくてもいいんだよね、と思ってさ」
「「「はあ?」」」
モンキー・オーキッドはサル顔だからこそウケたんだろうと思います。会長さんが一時期話題を呼んだと言ってましたし、私たちだって大いに笑ったわけですし…。サル顔じゃないモンキー・オーキッドなんかに、なんの価値があると?
「価値観は人それぞれだからね!」
この顔が好きな人もいる、とソルジャーは自分の顔を指差して。
「サルの顔の代わりに、ぼくの顔! そういう蘭も素敵だろうと思わないかい?」
「「「へ…?」」」
なんですか、そのヘンテコな花は? ソルジャーの顔の蘭ですって?
「そう! 名付けてブルー・オーキッド…じゃ駄目かな、ただの青い蘭だし…。でも、ぼくの顔がついているならブルー・オーキッドで決まりだよねえ?」
そういう花も良さそうだけど、と言われましても。
「…品種改良する気かい?」
君のシャングリラで、と会長さん。
「モンキー・オーキッドを持って帰って、君の顔になるよう細工をすると?」
「まさか。そこまでの手間はかけられないよ。…それに簡単には出来そうもないし」
品種改良となったら何年かかるか…、という指摘。
「ぼくの世界の技術がいくら進んでいたって、今日作って明日とはいかないんだよ」
「そうだろうねえ…」
相手は植物なんだから、と会長さんも頷きましたが、それじゃソルジャーの顔の蘭は夢物語?
モンキー・オーキッドならぬ、ソルジャーの顔をしたブルー・オーキッド。品種改良が無理なんだったら、ただの話の種だろうと思った私たちですけれど。
「作れないことはないんだよ。ぼくの顔のブルー・オーキッドをね」
「…どうやって?」
会長さんが訊くと、ソルジャーは。
「ごく単純な仕組みだけど? サイオンを使えば一発じゃないか、サイオニック・ドリーム!」
「「「ええっ!?」」」
あのサル顔をソルジャーの顔と取り替えるんですか、サイオニック・ドリームで?
「そう。…でもねえ、サルの顔がベースというのは嬉しくないしね…」
もっと綺麗な蘭にしたい、とソルジャーならではの我儘が。
「上手く嵌め込めれば何でもいいしね、胡蝶蘭でもカトレアでも!」
美しい花でキメたいのだ、とソルジャーは膝を乗り出しました。
「ぼくは是非とも作ってみたいし、一鉢、プレゼントしてくれないかな?」
「自分で買えばいいだろう!」
お小遣いに不自由はしていないくせに、と会長さんの切り返し。
「ノルディにたっぷり貰ってるんだろ、ランチやディナーに付き合っては!」
「それはそうだけど…。ブルー・オーキッドは使えるよ?」
こっちのハーレイだってウットリするに決まっているし、と笑顔のソルジャー。
「ぼくがブルー・オーキッドを見事に完成させたら、こっちのハーレイにもプレゼントで!」
「迷惑だから!」
そんなプレゼントでハーレイを喜ばせるつもりはない、と会長さんはけんもほろろに。
「ぼくの写真をコッソリ集めているってだけでも腹が立つのに、ぼくの顔つきの花なんて! いくらモデルが君の顔でも、見た目は全く同じなんだし!」
お断りだ、とはね付けた会長さんですが。
「そうなんだ…? それじゃ、君には別の蘭をプレゼントしようかなあ…」
「…ぼくに?」
「そうだよ、最高の蘭を作って君に! 名付けてハーレイ・オーキッド!」
全部の顔がハーレイなのだ、とソルジャーが胸を張り、私たちは頭を抱えました。サル顔の花なら楽しめますけど、教頭先生の顔なんて…。しかも表情がバリエーション豊かにあったりしたら、頭痛の種にしかなりませんってば…!
ソルジャーの顔なブルー・オーキッドどころか、教頭先生の顔なハーレイ・オーキッド。そんな凄まじい蘭は御免蒙る、と会長さんも考えたようで。
「わ、分かったってば、それを作られるくらいだったらブルー・オーキッドでいいってば!」
「じゃあ、お小遣い」
花屋へ蘭を買いに行くから、とソルジャーが右手を出しました。
「蘭は高いと聞いているしね、財布ごとくれると嬉しいんだけど…」
「それは断る! とりあえずこれだけ、これで買えるだけの蘭にしておいて!」
これだけあったら充分だろう、と会長さんはお札を数えて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に持って来させた別の財布に突っ込むと。
「はい、どうぞ。胡蝶蘭だろうが、カトレアだろうが、好きに買って来れば?」
「ありがとう! それじゃ早速、行ってくるね!」
蘭が充実している花屋は何処だろう、とソルジャーは会長さんの家に置いてある私服に着替えてウキウキと。「そるじゃぁ・ぶるぅ」にお勧めの花屋さんを幾つか挙げて貰って、瞬間移動でパッと姿がかき消えて…。
「…行っちまったぜ?」
なんか蘭を買いに…、とサム君が窓の外を指差し、シロエ君が。
「ブルー・オーキッドとやらを作るんですよね?」
「らしいな、あいつの顔がズラリと並んだ蘭をな…」
どういう蘭になるというんだ、とキース君がフウと溜息を。
「モンキー・オーキッドからどうしてこうなる、俺たちは平和に植物園を楽しんだのに…」
「それを言うなら、ぼくもだよ! こんな方向に行っちゃうだなんて思わないから!」
分かっていたなら見に行こうとは言わなかった、とジョミー君も。
「おまけにブルー・オーキッド作りを断った時はハーレイ・オーキッドだなんて言われても…」
「考えようによっては、そっちの方がモンキー・オーキッドに近そうだけどね」
ぼくの顔よりはサルっぽい、と会長さん。
「だけど、ハーレイの顔がくっついてる蘭が部屋にあったら悪夢だし…」
「教頭先生の方がそれっぽい顔には違いねえけどな…」
歯をむき出した顔だって、なんとなく想像つくもんなあ…、とサム君がモンキー・オーキッドと重ねているようですけど、ハーレイ・オーキッドは見たくありません。ソルジャーの顔なブルー・オーキッドだけで充分、表情も一つで充分です~!
蘭を買おうと瞬間移動で出掛けて行ったソルジャーは、半時間ほど経った頃に戻って来ました。それは見事な白い胡蝶蘭の鉢を抱えて、御機嫌で。
「どうかな、これ? お店の人のお勧めのヤツで!」
おつりはこれだけ、と会長さんに返された財布、中身は殆ど消えたようです。
「…思い切り奮発したみたいだねえ?」
「それはもう! ぼくのハーレイにプレゼントするんだし、ケチケチ言ってはいられないよ!」
これだけの数のぼくの顔がついた立派なブルー・オーキッド、とソルジャーは胡蝶蘭の鉢を床にドンと置き、暫し眺めて。
「…全部が同じ顔の花より、バラエティー豊かな方がいいよね?」
「好きにすれば?」
サイオニック・ドリームを使うのは君だ、と会長さんが言い終わらない内に、胡蝶蘭の鉢を青いサイオンがフワッと包んで、スウッと消えて。
「どうかな、ブルー・オーキッド! こんな感じで!」
作ってみたよ、という声で覗き込んでみた胡蝶蘭の花。白い花弁はそのままですけど…。
「「「うーん…」」」
ブルーだらけだ、と声を上げたのは誰だったのか。胡蝶蘭の花のド真ん中の辺り、モンキー・オーキッドで言えばサルの顔がついていた辺りにソルジャーの顔が。何処から見たってソルジャーか、会長さんにしか見えない顔がくっついています。
「素敵だろう? 笑顔のぼくもいれば、真面目なぼくもね!」
憂い顔から色っぽいのまで揃えてみましたー! というソルジャーの言葉通りに、バラエティー豊かな表情の数々。まさにモンキー・オーキッドならぬブルー・オーキッド、よくも作ったと感心するしかないわけで。
「さてと、ぼくのハーレイにプレゼントするには、検疫が必須なんだけど…」
そんなことに時間をかけている間に花が駄目になる、とソルジャーは鉢を丸ごとシールドしちゃったみたいです。
「これでよし、っと…。花には触れるけど、ウイルスとかは通さない!」
ぼくのシールドは完璧だから、と言いつつソルジャーの衣装に着替えて、鉢を抱えて。
「今日はハーレイにこれをプレゼント! 喜んで貰えたら、こっちのハーレイの分も作るよ!」
いいアイデアをありがとう! と消えてしまいました、おやつも食べずに。モンキー・オーキッドに想を得たブルー・オーキッドとやらを披露しようと急いで帰ったみたいです。今日はキャプテン、暇なんですかね、いつもは土日も仕事なんだと聞きますけどね…?
ソルジャーがいそいそと帰って行った後、私たちの方はポカンとするしかなくて。
「ブルー・オーキッドねえ…」
あんなのが果たしてウケるんだろうか、と会長さんが悩んでいます。
「ただの花だし、ブルーの顔がついているってだけで…。モンキー・オーキッドの方が自然の産物なだけに、遥かに凄いと思うけどねえ?」
「俺も同意だが、あいつらの感性は謎だからな…」
案外、あれで大感激かもしれん、とキース君。
「花かと思えば実はあいつの顔が幾つもついているんだ、喜ばれないとは言い切れないな」
「キャプテン、ソルジャーにベタ惚れだしね…」
あんな蘭でもいいのかも、とジョミー君も。
「普通の胡蝶蘭よりもずっといいとか、素晴らしいとか言い出しそうだよ」
「教頭先生でも言いそうだよな、それ」
ブルーの顔がついていればよ、とサム君が頭を振りながら。
「あれがウケたら作りに来やがるんだろ、教頭先生用のヤツをよ」
「そうらしいねえ…」
困ったことに、と会長さんも頭痛がするらしく。
「ウケないことを祈るのみだよ、ブルー・オーキッドは一鉢あれば充分なんだよ、この世界にね」
「会長、細かいことですが…。この世界にはもうありませんよ、ブルー・オーキッド」
持って帰ってしまいましたよ、とシロエ君からの突っ込みが。
「この世界に一鉢と言うんだったら、こっち用に作って貰わないといけないわけですけれど」
「そんな言霊、要らないから!」
お断りだから、と叫んだ会長さん。
「ブルー・オーキッドはさっきの一鉢、それで充分! これでバッチリ!」
増えられてたまるか、と数珠を取り出し、ジャラッと繰って音を鳴らして、それから何やら意味不明な呪文を朗々と。えーっと、今のは…?
「前言撤回の呪文と言うか、お経を間違えた時に使うと言うか…。今の言葉は間違いでしたと、すみませんでしたと罪業消滅の大金剛輪陀羅尼ってヤツで」
「…おい、それで言霊もいけるのか?」
消えてくれるか、とキース君が尋ね、会長さんは「さあ…?」と首を傾げて。
「やらないよりかはマシなんだよ、うん。効いてくれれば御の字じゃないか」
是非効いてくれ、と数珠をジャラジャラ。呪文が効いたらいいんですけどね…?
そして翌日。相変わらずの寒さでお出掛けしたくはない空模様だけに、私たちは会長さんの家に押し掛け、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ってくれた蒸しサバランの柚子風味に舌鼓を打っていました。柚子が美味しい季節だよね、と。そこへ…。
「こんにちはーっ!」
ぼくにもサバラン! と降ってわいたソルジャー、空いていたソファにストンと座ると。
「ぶるぅ、温かいココアもお願い! ホイップクリームたっぷりで!」
「オッケー! ちょっと待っててねーっ!」
サッとキッチンに走った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が注文の品を揃えて、ソルジャーは満足そうにサバランを頬張りながら。
「昨日のブルー・オーキッドだけどね…。ぼくのハーレイに凄く喜ばれてしまってね!」
「「「あー…」」」
忘れていた、と誰もが溜息、本当に綺麗に忘れていました。会長さんの呪文が効いたか、はたまた忘れたい気持ちが働いたのかは謎ですけれど。
「なんだい、そのつまらない反応は! あの花の素晴らしさが分かってる?」
ぼくのハーレイは本当に大感激だったのに、と唇を尖らせているソルジャー。
「どの花にもあなたがいるのですね、って端から眺めて、もうウットリと…。見惚れた後には夫婦の時間で、「こういう顔のあなたも欲しかったですね」って!」
「「「はあ?」」」
「分からないかな、真っ最中の顔! もう最高に色っぽいらしくて!」
そういう顔の花もあったら良かったのに、というのがキャプテンの意見だったみたいです。まさかソルジャー、そのリクエストに応えたとか…?
「ピンポーン! それを言われて作らなかったら嘘だろう?」
ちゃんと立派に作って来た、とソルジャーは威張り返りました。
「ぼくのハーレイがグッとくるらしい表情、それをハーレイの記憶から再現、最高に色っぽい花が咲きまくりのブルー・オーキッドが誕生ってね!」
こんな感じで! と胡蝶蘭の鉢がパッと出現、ソルジャーは「是非、見てくれ」と。
「昨日のとは一味違うんだよ! うんと色っぽく変身したから!」
「ぼくは見たいと思わないから!」
「ぼくたちも遠慮しておきます!」
会長さんとシロエ君が同時に声を上げたんですけど、ソルジャーは鉢を引っ込めません。やっぱり見るしかないんですかね、グレードアップしたブルー・オーキッド…。
さあ見ろ、すぐ見ろと迫るソルジャー、断り切れない私たち。仕方なく眺めたブルー・オーキッドの花は昨日とはまるで違っていました。お色気全開、そんな表情のソルジャーの顔があれこれ揃って咲き誇っている状態で…。
「…なんとも酷いのを作ったねえ、君は…?」
昨日のヤツの方が素敵だったのに、と会長さんが文句を言うと、ソルジャーは指をチッチッと左右に振って。
「分かってないねえ、この素晴らしさが! ハーレイの心を掴むにはコレ!」
お蔭で朝から素敵に一発! と満足そうな顔。
「いつもだったら、朝から一発はとてもハードル高いんだよ! ハーレイときたら、ブリッジに行かなきゃ駄目だと言うから、まず無理なんだけど、これを見せたらもうムラムラと…!」
これだけの数の色気たっぷりの顔を見てしまったら我慢も何も…、とニコニコニッコリ。
「本物のぼくでコレを見ようと、一気にベッドに押し倒されてね、それは激しく…!」
「もういいから!」
その先のことは言わなくていいから、と柳眉を吊り上げる会長さん。
「コレの素晴らしさは理解したから、サッサと持って帰りたまえ!」
「言われなくても直ぐに戻すよ、大事なブルー・オーキッドだからね!」
ぼくの青の間に飾っておかなきゃ、と胡蝶蘭の鉢は消えましたけれど。
「…素晴らしさを分かってくれたんだったら、こっちのハーレイにも贈らなくちゃね!」
あれと同じのを作ってあげよう、とソルジャーからの申し出が。
「ぼくのハーレイにウケた時には、こっちのハーレイの分も作ると言ったしね!」
「作って貰わなくてもいいから!」
「そう言わずにさ! ブルー・オーキッドの良さは分かってくれたんだろう?」
「こっちのハーレイにはモンキー・オーキッドで沢山なんだよ!」
サル顔の花をプレゼントくらいで丁度いいのだ、と会長さんは必死の逃げを。
「どうせ値打ちが分からないんだし、ハーレイにはサルで充分だってば!」
「ダメダメ、せっかくブルー・オーキッドが出来たんだから!」
モンキー・オーキッドなんてとんでもない、とソルジャーの方も譲りません。
「君そっくりのぼくの顔だよ、そういう顔でお色気たっぷり、ブルー・オーキッド! それをプレゼントしなくっちゃ!」
それでこそ二人の絆も深まると言ってますけど、会長さんと教頭先生に絆なんかはありません。あったとしたってオモチャにするとか、そういう絆ですってば…。
会長さんとソルジャーはブルー・オーキッドを巡って押し問答。サル顔の花がとんだ方向へ行ってしまった、と私たちは溜息をつくしかなくて。
「…元ネタはサルだったんだがなあ…」
昨日は植物園で笑っていたのに、何をどう間違えたらこうなるんだ、とキース君がぼやいて、ジョミー君も。
「ブルー・オーキッドにしたってそうだよ、最初は色々な表情ってだけで…」
単なるモンキー・オーキッドのブルーバージョンだった、とブツブツと。
「そりゃさあ…。歯をむき出してる顔とかは混ざってなかったけどさあ…」
「そういう顔だとお笑いにしかなりませんしね…」
シロエ君が大きな溜息を。
「教頭先生に贈るにしたって、お笑い系の顔ならまだマシだって気もしますけどね」
「それはブルーが却下するんじゃないですか?」
きっとプライドが許しませんよ、とマツカ君。
「元ネタがモンキー・オーキッドにしたって、自分の顔で笑いを取りたいタイプではないと思うんですけど…」
「確かにな。身体を張った悪戯をしやがることはあっても、笑いを取ったというのはな…」
俺の記憶にも全く無い、とキース君が頷き、スウェナちゃんも。
「無いわね、売りは超絶美形だものね」
「お笑い系で作ってくれ、って頼んだらいけそうな気はするけどよ…」
ブルーのプライドが粉々だよな、と嘆くサム君。
「でもよ、このままだと、作らねえってわけにはいきそうにねえし…」
「お笑い系で纏めて貰え、と助言してみるか?」
駄目元だしな、とキース君が「おい」とソルジャーと会長さんの間に割って入りました。
「なんだい、今は忙しいんだけど!」
「そうだよ、ぼくはブルーを追い返すのに忙しくって!」
ブルー・オーキッドなんかを作らせるわけには…、と会長さんがキッと睨んでいますが。
「それなんだがな…。お笑い系で纏めて貰ったらどうだ?」
「「お笑い系?」」
見事にハモッた、会長さんとソルジャーの声。キース君は「ああ」と答えると。
「お色気路線が嫌だと言うなら、モンキー・オーキッドと同じでお笑い系だ」
そういう顔で纏めて貰えば問題無い、と言ってますけど、会長さんが賛成しますかねえ…?
「…ちょっと訊くけど、お笑い系というのは、ぼくの顔で…?」
このぼくの、と会長さんが自分の顔を指差し、ソルジャーも。
「ぼくの顔で笑いを取れと? そういう意味でお笑い系だと言ったのかい?」
「その通りだが…。具体例は直ぐには思い付かんが、モンキー・オーキッドで言えば歯をむき出していたサルがあったし、あんな具合でどうだろうかと」
「「あれだって!?」」
あのサルの顔か、とまたもハモッた会長さんの声とソルジャーの声。
「なんだって、ぼくがそういう顔をハーレイに披露しなくちゃいけないのさ!」
「ぼくの方もそうだよ、ぼくは歯をむき出してサルみたいに笑いはしないから!」
有り得ない表情のオンパレードは作りたくない、とソルジャーが喚き、会長さんも文句たらたら。
「いいかい、ぼくは超絶美形が売りなんだよ? お笑い路線じゃないんだよ!」
「…そうか…。なら、仕方ないな。普通に作って貰うしかないな、ブルー・オーキッド」
俺はきちんと意見を述べたが却下なんだな、とキース君がクルリと背を向けて。
「…邪魔をした。後は存分に喧嘩してくれ、歯でも牙でもむき出してな」
「当然だよ! この迷惑なブルーを叩き出すためなら牙だってむくよ!」
でも歯を向き出したお笑い顔をハーレイにサービスするのは嫌だ、と怒鳴った会長さんですが。
「…ん? 牙をむくのと、歯をむき出すのと…」
似たようなものか、と独り言が。
「笑いを取るんだと思っているから間違えるわけで、牙をむくなら…」
「「「牙?」」」
牙がどうかしたか、と私たちもソルジャーも首を捻ったわけですけれど。
「そうだ、牙だよ! そうでなくても、あれはドラキュラ!」
「「「は?」」」
「元ネタのモンキー・オーキッド! ドラキュラ属だと言った筈だよ、吸血コウモリ!」
あの顔はサルじゃなかったんだっけ、と会長さんは天啓を受けたらしくて。
「ブルー・オーキッドだと思い込んでるからヤバイわけだよ、正統派のドラキュラ属だったら!」
「…どうなるんだい?」
君の考えが謎なんだけど、とソルジャーが訊くと。
「そのまんまだよ! ブルー・オーキッドを作ると言うなら、是非、ドラキュラで!」
元ネタに忠実にやってくれ、と拳を握った会長さん。元ネタとくればモンキー・オーキッドになるわけですけど、それだとサル顔でお笑いですよ…?
ブルー・オーキッドを作るのであれば元ネタ通りに、と会長さん。元ネタは昨日、植物園で笑いまくったサル顔の団体、お笑い系は嫌だと言っていたくせにどうなったのかと思ったら。
「ドラキュラだしねえ? 吸血コウモリもドラキュラも血を吸うわけでね、牙を使って」
そこを忠実に再現するのだ、と会長さんはニンマリと。
「お色気たっぷりなブルー・オーキッド、大いに結構! ハーレイは絶対、触ろうとする!」
「…そりゃそうだろうね、ぼくのハーレイも触ってみていたしね?」
そしてムラムラと来て本物のぼくを押し倒した、というソルジャーの証言。
「触りたくなることは間違いないよ。こっちのハーレイもハーレイだしね!」
「その先なんだよ、元ネタを使ってくれというのは! 触ったら、こう、牙でガブリと!」
「「「え?」」」
ガブリなのか、と驚きましたが、会長さんは「ドラキュラだよ?」と。
「ハーレイの指に噛み付いて血を吸うわけだよ、ぼくが作って欲しいブルー・オーキッドは!」
「…そ、それは…。サイオニック・ドリームでそれをやれと?」
ソルジャーの声が震えて、会長さんが。
「出来ないことはないだろう? ぼくよりも凄いと日頃から自慢しているわけだし!」
「そうだけど…。血を吸う花なんて、まるっきりのホラー…」
「ホラー路線の何が悪いと? …どうせだったら、もっとホラーな路線もいいねえ…」
血を吸いまくったらブルー・オーキッドがぼくに化けると思い込ませるとか、とニヤニヤと。
「もちろん、ホントに血を吸うわけじゃないけどさ…。ただの夢だけどさ」
「ふうん…? それで最終的には鉢ごと君に化けるように調整しておけと?」
そういうサイオニック・ドリームを仕掛けるのか、とソルジャーも興味を引かれたようで。
「君だと思ってガバッと押し倒したら、鉢がガシャンで正気に返るというオチかい?」
「それもいいけど、この際、ホラーでスプラッタとか」
「「「スプラッタ?」」」
「最後は食われてしまうオチだよ、もっと血を吸わせようと頑張っている内に!」
突然ガブリと指先を噛み砕かれてしまうのだ、と会長さん。噛み砕くって…教頭先生の指先をブルー・オーキッドが?
「そう! 慌てて指を引っこ抜こうにも、もう抜けなくて!」
「いいねえ、そのままハーレイをバリバリ食べてしまうというホラー仕立ても…!」
胡蝶蘭の花にくっついた顔がハーレイを食べるからホラーでスプラッタか、とソルジャーも乗り気になってしまって、会長さんはやる気満々で…。
ブルー・オーキッドの二鉢目は昼食を挟んで作り上げられ、ソルジャーと会長さんが瞬間移動で教頭先生の家へお届けに。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に中継して貰って見ていましたが、教頭先生は大感激で。
「なるほど、サイオニック・ドリームの花なのですね。そしてドラキュラなのですか…」
「うん。君の血をたっぷり吸わせてやったら、いずれはブルーに化けるかも…」
なにしろブルー・オーキッドだから、とソルジャーが得々と説明を。
「サイオニック・ドリームのブルーだからねえ、どう扱うのも君の自由だよ」
「らしいよ、君の妄想の全てをぶつけてくれても、ちゃんと応える仕様だってさ」
この素晴らしいブルー・オーキッドで楽しんでくれ、と会長さんとソルジャーが二人掛かりで背中を押しまくり、瞬間移動で帰って来て。
「さて、ハーレイはどうするかな?」
「ぼくの読みでは、もう早速に血を吸わせると思うけどねえ…?」
思い込みの激しさはピカイチだから、と会長さん。中継画面の向こうでは教頭先生が白い胡蝶蘭の花をしみじみと眺め…。
「ふうむ…。実に色っぽいブルーだな…。これが血を吸う、と」
どんな感じだ、とチョンと指先で触れた途端に、ガブリとやられたらしいです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が中継画面にサイオニック・ドリームを付け加えてくれ、教頭先生が見ているビジュアルが登場、白い花がやがてほんのりピンク色に。
「ほほう…。血を吸えば花の色が変わるのか。ならば、全部の色が変われば、花がブルーに化ける仕組みかもしれないな…」
是非とも血を吸って貰わねば、と教頭先生は次から次へと花にくっついた顔を指先でチョンと。そうして触ってゆく内に…。
「うわあっ!?」
教頭先生の悲鳴に重なった鈍い音。指先が砕けたみたいです。血も飛び散って、教頭先生は慌てて指を引っ込めようとなさいましたが…。
「ぬ、抜けない!? や、やめてくれ、ブルー!!」
私が誰だか分からないのか、と響く絶叫、ゴリゴリと嫌な音を立てて教頭先生は既に手首まで食われつつあって。
「「「うわー…」」」
思わず目を逸らしたくなる悲惨な光景、教頭先生もサイオニック・ドリームであることを忘れているようです。バリバリ、ボリボリ、骨が砕けて肉が啜られて…。
「…はい、一巻の終わりってね」
ぼくに綺麗に食べられました! と会長さんが高らかに宣言、スプラッタなホラーの時間は終了。食べられた筈の教頭先生が床に倒れていて、ブルー・オーキッドの鉢がその脇に。
「…君もやるねえ、ぼくもここまでのサイオニック・ドリームは久しぶりだよ」
人類軍を相手にホラーな攻撃をお見舞いしたってここまでのは滅多に…、と言うソルジャー。
「でもまあ、君に食べられたんだし、ハーレイも多分、本望だろうね」
「どうなんだろう? 懲りずに触るかな、ブルー・オーキッド」
「血を吸われている間は、極楽気分になる仕様だしね」
気分は天国、と微笑むソルジャーも抜け目なく仕掛けをしていたらしいです。そうなってくると、教頭先生、天国目当てに…。
「…また血を吸わせて遊ぶんでしょうか?」
「でもって、やり過ぎて食われるオチだぜ、バリバリと…」
それでもきっと懲りねえんだよ、とサム君が唸って、私たちもそうだと思いました。モンキー・オーキッドから生まれたブルー・オーキッド、ホラーな鉢と、ソルジャーの世界の美味しい鉢と。二通りのが出来ちゃいましたが、どっちがいいかと言われたら…。
「…美味しい鉢の方だよねえ?」
「教頭先生はそれの存在を御存知ないがな…」
ホラーな鉢でも美味しいだろう、とキース君。またバリバリと食われちゃっても、懲りずに触っていそうです。下手なホラー映画よりもスプラッタな中継、また見る機会が来そうな感じ。ブルー・オーキッドの花が枯れるまで、きっとホラーでスプラッタですね…?
顔を持った蘭・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーがサイオニック・ドリームで作った、ブルーの顔をしている蘭。それも二種類。
教頭先生用はホラーですけど、癖になるかも。なお、モデルの蘭は実在してます、本当です。
次回は 「第3月曜」 6月21日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、5月といえばGW。シャングリラ号で楽しく過ごした結果は…。
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