シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
「ハーレイの写真、ちゃんとしたのが欲しいんだけどな…」
ブルーは勉強机の前に座って一枚のプリントを眺めていた。月に一回、学校から貰うお知らせを兼ねた学校便り。行事の写真なども載っているから、保存する価値は充分にあるのだけれど。この五月号だけはブルーにとっては特別だった。
貰ったその日がハーレイと出会った五月三日の月曜日。朝のホームルームで配られたそれを何も考えずに鞄に仕舞った。家に帰ってゆっくり読めばいいと思った。
ところがその後、古典の授業の新しい教師としてハーレイが現れ、ブルーは大量出血を起こす。聖痕現象と診断された、前の生での最期に負った傷と同じ場所からの大量出血。それと同時に前の生での記憶も戻って、ハーレイも前世の記憶を取り戻した。
慌ただしく日々が過ぎてゆく中で、忘れかけていた学校便り。ふと思い出して取り出してみて、其処にハーレイの写真を見付けた。転任教師の着任を知らせる小さな記事と小さな写真。
正面を向いたハーレイの写真はカラーではなくて、肌の色はもちろん、瞳の色さえ分からない。そうした記事に使う写真だから笑顔でもなく、スーツ姿で真面目な顔をしたハーレイ。
それでも一枚きりの大切な大切なハーレイの写真。学校便りの五月号はブルーの宝物になった。机の引き出しにきちんと入れて、こうして取り出してはハーレイを想う。
「…前のハーレイの写真も無いしね…」
十四歳になったばかりのブルーと違って、ハーレイはキャプテン・ハーレイだった頃とそっくり同じな姿だったから、前世の写真でもあれば良かった。
教科書に載っている写真は如何にもキャプテンといった風情で、ブルーが好きな表情ではない。ならば、とキャプテン・ハーレイの写真集を探しに出掛けたが、それは存在しなかった。仕方なく前世の自分の写真集を片っ端から調べたのに…。
(…どのハーレイにもソルジャー・ブルーがセットだなんて!)
ブルーが気に入った写真の中のキャプテン・ハーレイはソルジャー・ブルーと対だった。一目で恋人同士と分かる写真ではなかったけれども、ブルーには簡単に分かってしまう。
素敵な表情をしたキャプテン・ハーレイはソルジャー・ブルーのもので、小さな自分は手も足も出ない。見ているだけで腹立たしいから、写真集は一冊も買わずに帰った。
そんなわけで、ブルーが持っているハーレイの写真は学校便りの五月号だけ。歴史の教科書にもキャプテン・ハーレイは載っているけれど、それよりは断然、今のハーレイ。
(…学校便りでもいいんだけれど…)
無いよりは遙かにいいんだけれど、とブルーは深い溜息をつく。
同じ写真ならカラー写真のハーレイがいい。教師らしい顔のハーレイよりも普段の表情がずっといい。そういう写真が欲しかった。
「…失敗しちゃったんだよね…」
ハーレイと再会して直ぐに二人一緒に写せば良かった。再会記念の写真だったら二人で写すのが自然なのだし、両親もきっと快くカメラのシャッターを切ってくれただろう。
けれどもブルーは記念写真の撮影どころか、再会出来たハーレイに夢中で甘えっ放しで過ごしてしまって、気付けばとうに記念撮影に相応しい時期が過ぎ去っていた。
今となっては二人で写せる機会が無いし、かといってハーレイ単独の写真を撮らせて貰って机の上に飾っていたなら、それを見た両親に何事なのかと思われそうだ。学校便りのように引き出しに仕舞う手もあると言っても、写したのなら堂々と飾っておきたいし…。
(そうだ、ハーレイの誕生日!)
八月の二十八日で、まだ夏休みの真っ最中。両親にもちゃんと言ってあるから、夕食の席で皆でお祝いする予定。その時に記念撮影を…、と考えたけれど。
(…ひょっとして、パパとママも一緒に写っちゃう?)
誕生日祝いの席なのだから「みんな一緒に」と賑やかな写真になりそうだった。それはブルーが欲しい写真とは少し違うし、机の上に飾れはしても複雑な気分になるだろう。
(このまま、ずっとハーレイの写真は無しかも…)
いつかチャンスが巡って来るかもしれなかったが、それがいつだか分からない。
今のハーレイの写真が欲しいのに。自分が一緒に写っていたなら、もっといいのに…。
「…あいつの写真は無いからなあ…」
前のあいつなら、此処にあるのに。
ハーレイの書斎の机の引き出し。其処に一冊のソルジャー・ブルーの写真集。
真正面を向いたソルジャー・ブルーの一番有名な写真が表紙で、タイトルは『追憶』。
サイオンの青い尾を曳いてメギドへと飛ぶ前世のブルーの最後の飛翔で始まる最終章は、人類軍が撮影していた映像から起こした写真で埋められていた。爆発するメギドの閃光が最後の写真。
キャプテン・ハーレイだった頃には知りもしなかったブルーの最期。
小さなブルーが口にするまでは、キースに何発も撃たれたことさえ知らなかった。メギドを破壊しに飛んだブルーが何処を翔け、どんな光景の中で逝ったのかすらも。
ソルジャー・ブルーだったブルーの命が潰えるまでを記録した写真に、メギドの中へ入り込んだ後のブルーの姿は無いのだけれど。監視カメラごと失われたから無いのだけれども、最後に写ったメギドの爆発と共にブルーの身体はこの世から消えた。
その瞬間までブルーが生きていたのか、息絶えていたのか、それもハーレイには分からない。
分かることはただ、ブルーが独りきりで逝ってしまったこと。最期まで持っていたかったというハーレイの温もりを失くしてしまって、暗い宇宙でたった一人で、青い閃光に消えてしまった。
数々の写真が突き付けて来た事実があまりに悲しく、声を上げて泣いた。あの日の自分の記憶に囚われ、ブルーを失くしてしまったと泣いた。
それほどに辛い最終章を持った本だが、目に触れない場所に押し込めることはしたくなかった。前の生で守れなかった分を埋め合わせるかのように、こうして引き出しに仕舞ってある。
一日に一度は座る机と、其処で書く日記。引き出しを開けて日記を出せば、其処から『追憶』が姿を現す。ハーレイの日記を上掛けにして眠る写真集。それを開けば前の生でのブルーに会える。
「…前のあいつの写真だったら、此処に何枚もあるんだが…」
今のあいつの写真は一枚も無いな、と小さなブルーを思い浮かべた。
再会した時に記念に写すべきだった。しかし迂闊にもそれを忘れた。再会出来た喜びに酔って、甘えて来るブルーをただ抱き締めて。
小さなブルーの命の温もりを確かめ続けて、気付けば時が過ぎ去っていた。記念撮影をするのに相応しい時期を逃してしまった。もしも早くに気付いていたなら、二人一緒に写せたものを。
理由をつけてブルーの写真を撮るというのも考えたけれど、それではブルーが可哀相だ。きっとブルーもハーレイの写真を欲しがるだろうが、ブルーはそれを飾れない。一人暮らしの自分だけがブルーの写真を飾って、小さなブルーはハーレイの写真を隠し持つのが精一杯。
それでは本当に可哀相だし、堂々と飾れない写真を隠し持たせることはブルーの両親に対しても申し訳ない。いつかはブルーへの想いを打ち明けねば、と思ってはいるが、今は後ろめたいことをしたくはない。
(…学校のデータベースに写真はあるんだが…)
ブルーの在籍を示す証明写真。とはいえ、生徒の写真を引き出して持つのもどうかと思う。誰も気付きはしないのだろうが、教師としてすべきことではない。
けれど、ブルーの写真が欲しい。
十四歳の小さなブルーの写真が欲しい。出来ることなら、自分も一緒に写ったものが…。
お互い、知らずに同じ思いを抱き合って。
夏休みも今日で終わるという日に、ハーレイは普段通りにブルーの家へと向かった。二人一緒に過ごせる平日は八月三十一日で最後。次の機会は冬休みに入るまで訪れない。
ブルーが首を長くして待っているだろうと出掛けてゆけば、二階の部屋で迎えてくれたブルーは母の足音が階下に消えるなり、この世の終わりのような顔つきになった。
何ごとなのかと慌てたハーレイの耳に消え入りそうな声で届いた言葉は、マーマレード。
ハーレイの両親がブルーのためにと持たせてくれた、実家の庭で採れた夏ミカンの実で作られたマーマレードの大きな瓶。昨日、ブルーに渡してやった。
ハーレイがいずれブルーを伴侶に迎えるのだと話したからこそ、両親はマーマレードをブルーに贈ったのだけれど、その事実をブルーの両親には明かせない。だからブルーの母には日頃の礼だと言っておいたし、ブルーもそれは承知していた。
とはいえ、ブルーにしてみれば自分が貰った宝物にも等しいマーマレードだったのだろう。その大切なマーマレードを自分よりも先に両親が開けて食べ始めていたことがショックだったらしい。
ブルーの部屋から庭で一番大きな木の下の白いテーブルと椅子に移動してからも、悲しげな顔でマーマレードに関する悲劇を懸命に訴えるブルーが可愛らしくて、可笑しくて。
因縁のマーマレードが盛られたガラスの器に木漏れ日が降る中、焼き立てのスコーンをブルーと二人で食べながら話した。
ブルーのためのマーマレードなら、また実家から貰ってくるから、と。ハーレイの両親は小さなブルーがお気に入りだから、いくらでも分けてくれるだろう、と。
ブルーの機嫌がようやく直って、弾けるような笑顔になった頃。
「うん、いい笑顔になったな、お前。…それじゃ一枚、撮るとしようか」
「えっ?」
キョトンとするブルーに、ハーレイは片目をパチンと瞑ってみせた。
「記念写真さ、俺たちが初めての夏休みを一緒に過ごした記念だ。一枚も写真を撮ってないだろ、せっかく地球で再会したのに」
お母さんにシャッターをお願いしよう、と言ってから、とっておきの言葉を付け加える。
「俺の腕にしがみ付いて写してもいいぞ? ただし、恋人としてじゃないからな。あくまで憧れのハーレイ先生と、だ。そういう写真を撮った教え子なら大勢いるさ」
「ホント?」
「本当だ。柔道と水泳の教え子からすれば、俺はスポーツ選手並みの扱いになるらしい」
その感覚でなら腕にしがみ付くことを許可する、と聞かされたブルーの背中に翼があったなら、空に舞い上がっていたかもしれない。本当に飛んで行きそうなほどに、小さなブルーは狂喜した。
「ねえ、ハーレイ。しがみ付くのって、どっちの腕?」
「左腕だな。俺の利き手を封じてどうする、右腕は空けておいてくれ」
「分かった! ハーレイの左側に立てばいいんだね!」
持って来たカメラを取りに行こうと立ち上がったハーレイの腕に「ちょっと練習!」とブルーが飛び付いて来た。それを「こらっ!」と振り払ってハーレイは庭を横切り、玄関を入る。其処に居たブルーの母に声を掛けてから二階に上がり、置いてあった荷物の中からカメラを出して。
「すみません、お手数をお掛けしますが…」
シャッターをお願いします、と頼むとブルーの母は「ええ」と頷いて庭に出て来た。
日射しがまだまだ強い季節だから、撮るのなら木陰。白いテーブルと椅子のある木の下の日陰がちょうど良さそうで、ハーレイとブルーは其処に並んだ。
母がカメラ越しに光の加減などを確かめ、「その辺りかしら」とニッコリ微笑む。
「それじゃ、撮るわよ?」
「ママ、待って!」
ブルーがハーレイの左腕に両腕でギュッと抱き付き、「撮っていいよ」と笑顔で叫んだ。
憧れのスポーツ選手と記念写真を撮る少年のようなポーズで、身長の差もそれを思わせる。母は笑ってシャッターを切った。可愛い一人息子を撮る母の顔で、頼まれるままに何度も、何度も。
同じポーズで軽く十枚は撮っただろうか。ハーレイがカメラを受け取りに行って、ブルーの母も交えて三人でデータを調べて、いい写真だと確認した。
穏やかな笑顔で立つハーレイと、その左腕に抱き付いた明るい笑顔のブルー。
再会してから初めて二人で過ごした夏休みの記念にと撮った写真は、まさに最高傑作だった。
写真撮影を終えてブルーの部屋へ引き揚げ、昼食を食べて。ブルーの母が食後のお茶のセットを置いていった後で、ハーレイは再びカメラを出した。ブルーと二人で写した写真を詳細に調べて、「これにするか」と選んだ写真をその場で二枚、プリントしてテーブルの空いた所に並べる。
そして自分の荷物の中から二つの包みを取り出した。
「ほら、ブルー。好きな方を選べ。…まあ、どっちでも中身は同じなんだが」
四角くて平たい箱を包んだ包装紙とリボン。ブルーはそれに見覚えがあった。ハーレイの誕生日プレゼントに羽根ペンを買おうと出掛けて行った百貨店の包装紙とリボン。
羽根ペンはブルーの予算ではとても買えない値段で、それでも諦め切れなくて。悩んでいたのをハーレイに見抜かれ、ハーレイと二人で買うことになった。ブルーは予定していた金額を支払い、残りはハーレイが払った羽根ペン。
二人で選んだ白い羽根ペンをハーレイが買いに行き、誕生日に持って来て、ブルーがハーレイに羽根ペンの箱を手渡した。それが八月二十八日のこと。
ハーレイは羽根ペンを買うためにあの百貨店へ行ったわけだが、羽根ペンの箱を包んでいたのと同じ包装紙とリボンがかかった二つの箱は何なのだろう?
首を捻るブルーにハーレイが「いいから、一つ選んで開けろ」と箱を指差す。
「…うん」
手近な方の箱をブルーが選ぶと、もう一つをハーレイが手に取ったから。
(…開けていいんだよね?)
リボンをほどいて包装紙を剥がし、出て来た箱を開けてみた。
「あっ…!」
箱の中に、写真にぴったりのサイズのフォトフレーム。ハーレイの分は、と目をやれば同じ物が箱に収まっていた。飴色をした木製のフォトフレーム。如何にもハーレイが好みそうな、触れれば手に馴染む優しい素材。素朴だけれども温かみのある、木で作られたフォトフレーム。
「羽根ペンを買いに行った時にな、こいつも一緒に買って来たんだ」
ハーレイが自分の分のフォトフレームを示して言った。
「俺たちの写真ってヤツは無かったからな。…夏休みの記念に撮ろうと思った。そして二人で一枚ずつ持とうと思ったんだ」
同じデザインのフォトフレームに入れて、俺とお前とで一枚ずつ…な。
嫌だったか?
「…ううん」
問われたブルーは「ううん」と首を左右に振った。
「ハーレイの写真、持っていないし…。それにハーレイとお揃いの物って、シャングリラの写真集しか持っていないから…。お揃いの写真とフォトフレームなんて、ぼく、考えもしなかったよ」
とても嬉しい、とブルーが微笑むと、ハーレイは「そうか」と頷いて。
「…こいつは俺の我儘でもあるんだがな。お前の写真が欲しかったんだ。どうせだったら、お前と二人で写ったヤツが」
最高の写真が手に入った、と喜ぶハーレイにブルーは「ぼくも」と笑みを湛える。
「ぼくもこの写真が欲しかったよ。…ううん、ハーレイだけの写真でもいいから欲しかったんだ。それで前のハーレイの写真を探しに本屋さんまで行ったのに…。いいな、と思ったハーレイの写真には前のぼくが必ず一緒に居たから…」
腹が立ったから買わなかった、と白状した。ソルジャー・ブルーとセットのハーレイがどんなに素敵でも、其処に一緒に写っている前の自分が余計なのだ、と。
「でも、良かった…。この写真なら今のぼくだし、このハーレイはぼくのだよね」
「そりゃあ、俺はお前の恋人だしな? しかしだ、前の自分に腹が立つとは…。凄いな、お前」
ちょっとお前を見直したぞ、とハーレイが笑う。
小さな子供だとばかり思っていたのに、一人前に嫉妬もするのか、と。
「だがなあ、子供は子供だな? ソルジャー・ブルーもお前なんだぞ。そこで前世を懐かしまずに嫉妬して怒る所がなあ…。アレだ、鏡に映った自分に喧嘩を吹っかける子猫みたいだよな」
「子猫!?」
酷い、とブルーは唇を尖らせたけれど、その顔つきが子供だと更なる笑いを誘っただけだった。鏡の中の自分と喧嘩を始める銀色の毛皮の小さな子猫。一人前に毛を逆立てていても、鏡の相手は決して喧嘩を買ってくれない。傍目にはただ面白いだけで、写真を撮られるのが関の山だと。
「……子猫だなんて…」
膨れるブルーの頭をハーレイが「いいじゃないか」とポンポンと叩く。
「そういう所も俺は可愛いと思うがな? そして、此処に写ったお前も可愛い」
実にいい写真だ、とハーレイは庭で撮った写真を惚れぼれと眺め、一枚をブルーに手渡した。
「お前の分だ。フォトフレームが気に入ったんなら、入れてやってくれ」
「うん」
ブルーが木製のそれを裏返して写真を入れる間に、ハーレイも自分のフォトフレームを裏返し、もう一枚の写真をセットしてみて。
「よし、こうすると写真だけよりいい感じだな」
うん、とテーブルにフォトフレームを置いて眺めるハーレイ。ブルーも自分の分を隣に並べて、お揃いのフォトフレームに同じ写真が収まったものが二つ揃った。
背の高いハーレイと、その左腕にギュッと抱き付いた小さなブルーが写った写真。
「ねえ、ハーレイ。…こんな写真は今のぼくたちしか撮れないね。ぼくが小さいっていう意味じゃなくって、ぼくが大きくなってからでも」
「…そうだな、前の俺たちには無理だったな」
誰にも仲を明かせなかった秘密の恋人同士だったから。
けれど今度はいくらでも撮れる。今はまだ教師と生徒ということになっているから、記念写真も写しそびれたままで今日まで来てしまった二人だけれど。
憧れの先生と生徒で良ければ、これから先も何枚だって写せるだろう。
いつか結婚出来た時には、もっともっと沢山の写真を好きな時に写してゆけるだろう。
「ふふっ、フォトフレームまでお揃いだもんね」
貰っちゃった、と笑みを零すブルーにハーレイが「ああ」と頷き返して。
「お母さんにフォトフレームはどうしたんだ、と訊かれた時には記念に貰ったと言っておけ。俺がタダ飯を食わせて貰っている分、マーマレードくらいじゃ足りないからな。これはオマケだ」
「オマケなの?」
「そういうことにしておくだけだ。本音は俺からのプレゼントだがな、マーマレードがお前用だと言えないのと同じでコイツもマズイ」
まだ早過ぎる、とハーレイは困ったような笑顔になった。
「俺はお前と一緒に写った写真が欲しくて、フォトフレームも同じのにしたくてコソコソ計画していたわけだが、お前のお母さんたちには言えんだろうが。いいか、あくまでオマケだからな」
「うん、分かった。夏休みの記念写真とオマケなんだね」
「そういうことだ」
しかし本当はお揃いなんだぞ、と付け加えることをハーレイは忘れはしなかった。
「今日からは同じ写真とお揃いのフォトフレームを眺めて暮らすわけだな、お前も俺も」
「…うん。ありがとう、ハーレイ。…大事にするよ」
「そうしてくれると俺も嬉しい。そうだ、お前のマーマレードな。ちゃんとおふくろたちに言っておいてやるさ、お前が一番に食べ損なって悲しがってた、ってな」
そして貰って来てやるから、とブルーと「約束だぞ」と小指を絡める。
「俺の未来の結婚相手のお前用に山ほど貰って来てやるさ。だから惜しがらずにどんどん食べろ。でないと大きくなれないからな」
「うん。…うん、ハーレイ…」
大好きだよ、とブルーは小指を絡めたままで並んだ二つのフォトフレームをそっと見詰めた。
今日からはお揃いのフォトフレーム。
片方はハーレイの家に行ってしまうけれど、ブルーの部屋にも全く同じものがある。
フォトフレームの中の写真はこれから色々と変わっていくのか、またハーレイが理由を見付けてフォトフレームごと増やしてゆくのか。
幸せな写真が何枚も増えて、いつかフォトフレームは二人で一つしか要らなくなる。
一番最初のそういう写真は、きっと二人の結婚式。
二人で一つしか要らなくなったフォトフレームを家に飾って、ハーレイと二人で歩いてゆく。
前の生では叶わなかった幸せな未来へ、しっかりと手を繋ぎ、握り合って…。
二人の記念写真・了
※ブルーとハーレイの記念写真。前世では写すチャンスさえも無かったツーショットです。
今度は堂々と飾ってもかまわない世界。お揃いのフォトフレームに写真を入れて…。
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