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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

馬になりたい

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv





学園祭も終わって秋が深まり、日暮れも早くなりました。放課後を「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で過ごして帰る頃には暗くなっている有様です。え、下校時刻にそんなに暗くはならないだろうって? 特別生は時間厳守じゃありませんから六時過ぎでも無問題。
「今日も日が暮れたみたいだねえ…」
会長さんが壁の時計を眺めつつ。
「こんなに秋が深くなるとさ、鍋パーティーなんかがいいと思わないかい?」
「えっ、鍋パーティー?」
ジョミー君が即座に反応しました。
「いいよね、ちゃんことか寄せ鍋とか! 今度の週末?」
「うん。鍋をやるなら夜がいいかな、みんなでウチに泊まりにおいでよ」
「「「行く!」」」
私たちは一斉に手を挙げ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ お鍋は夜でも朝から来てくれていいからね! お昼も作るし!」
「やったあ、土曜は鍋パーティーだね!」
お昼も楽しみ、とジョミー君。私たちもワクワクです。学園祭までは準備で校内が賑やかでしたし、収穫祭などのイベントなんかも。けれど学園祭が終わってしまえば行事は何もありません。中間試験の後は期末試験で、クリスマスは終業式が済んでから。
「ふふ、少しお祭り気分になった?」
会長さんの問いに誰もがコクコク。特別生の日々に不満は無いですし、放課後は素敵なティータイムつき。それでもやっぱり一連のお祭りが終わってしまうと心が寂しくなるもので…。
「じゃあ、決まり。今度の週末はウチに泊まって鍋パーティーだね」
盛大にやろう、と会長さんが親指を立て、大歓声の私たち。お昼御飯も期待出来そうです。どんなお鍋が食べられるのかなぁ、お昼もとっても豪勢かも?



待ちに待った土曜日はいい天気でした。会長さんのマンションの近くのバス停で待ち合わせをして、お泊まり用の荷物持参で訪ねてゆくと。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
どうぞ入って、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお出迎え。
「ブルーも待ってるし、すぐにお昼にするからね!」
それまで飲み物とお菓子で待ってて、と紅茶にコーヒー、柚子味のパウンドケーキなどが。食べ終わった頃合いでダイニングに呼ばれ、熱々のグラタンが焼き上がっています。サラダと栗のポタージュスープにキノコたっぷりのピラフなど。
「「「いっただっきまーす!」」」
グラタンはキノコとチキンが入ってスパイスとハーブがいい感じ。鍋パーティーもやっぱりキノコでしょうか?
「それはもちろん」
会長さんがスープを口に運びながら。
「キノコ鍋ってわけじゃないけど、季節の味覚は使わなきゃ! でもって今日は味噌仕立て! お酒が進む鍋がいいんだ」
「「「お酒?」」」
三百歳を軽く越えている会長さんは勿論お酒もいけるクチです。小さな子供の「そるじゃぁ・ぶるぅ」もチューハイなんかが大好きですけど、鍋パーティーでお酒って飲んでいたかなぁ?
「ああ、君たちは飲めないよね。キースが少し飲めるくらいか…。だから普段は飲まないんだけど、今夜のパーティーは特別だから」
「記念日か?」
キース君が尋ねましたが、会長さんは「ううん」と首を左右に。
「記念日とかでは全然ないけど、ちょっとゲストの関係で…ね」
「「「ゲスト?」」」
ゾゾゾゾゾ…と嫌な予感が背中を走り抜け、頭に浮かんだ会長さんのそっくりさん。それに加えて教頭先生のそっくりさんなキャプテンですね、またバカップルが来るわけですか…。
「あ、違う、違う! 今日のゲストはそっちじゃなくて」
あっちの二人は忙しいそうだ、と会長さん。
「特別休暇を取ってるらしいよ、鍋より二人の時間だってさ。一応、声はかけたんだけど」
でないと後が恐ろしいから、と言われなくても納得です。ソルジャーに内緒で鍋パーティーなんて、命知らずにも程がありますってば…。あれっ、それならゲストって……誰?



お酒が進む鍋パーティーに相応しいゲストとは誰を指すのか、首を傾げる私たち。ソルジャー夫妻が来ないんだったら該当する人が無さそうですが…。
「誰か忘れていないかい? バカップルを連想したなら、そのついででさ」
「「「…ついで?」」」
バカップルのついでとくれば、もしかして、もしかしなくても…。
「あんた、ぶるぅを呼んだのか!?」
キース君の叫びに誰からともなくギャッと悲鳴が。ソルジャー夫妻のおまけとくれば悪戯小僧で大食漢の「ぶるぅ」です。胃袋は底抜け、お酒も大好き。何もあんなのを呼ばなくっても…! それとも押し付けられたのでしょうか、特別休暇に邪魔だから、と?
「…なんでそっちの方に行くかな、ぶるぅだったら丁重にお断りさせて貰うよ」
鍋とお酒をデリバリーする羽目になろうとも、と会長さんはキッチリ否定。
「あんなのが来たらパーティー気分がブチ壊し! ブルーたちがいないと全く歯止めが利かないからねえ、食い散らかされて終わりってだけじゃなく、心身共にズタボロだってば」
おませな発言が炸裂しまくり、と指摘されればそのとおり。バカップルなソルジャー夫妻に育て上げられた「ぶるぅ」は大人の時間に興味津々、覗き見ばかりしています。特別休暇中に一人で来ちゃって酔っ払ったら口から何が飛び出すか…。
「ね、そういうのは御免だろう? 今日のゲストは人畜無害なチョイスなんだけど」
「「「へ?」」」
「そう、への字。思い切りヘタレなハーレイを呼んでみました…ってね」
「「「教頭先生!?」」」
なんでそういうことになるのだ、と私たちはビックリ仰天でしたが、会長さんはニコニコと。
「最近、とみに寂しいらしいんだよ。侘しい独身生活が…。秋は人肌恋しい季節で、日暮れも早くて家に帰れば真っ暗で…。こんな時に嫁がいてくれれば、と毎日溜息」
「で、嫁に行こうと決意したのか?」
止めないがな、とキース君が言えば、返った答えは。
「行くわけないだろ、そっちの趣味は無いんだから! だけど楽しく事情聴取をしたいんだ」
「「「事情聴取?」」」
「うん。たっぷり飲ませて、ぼくに対する本音をね…。そう簡単に酔わないことは分かってるから、お酒の方も特別製で」
「かみお~ん♪ ちゃんぽんブレンドなの!」
いろんなお酒を混ぜてみたよ、と自信たっぷりな「そるじゃぁ・ぶるぅ」。あれこれ飲むと酔いが回ると聞いていますが、ブレンドとしたとは凄すぎるかも…。



キノコたっぷりの昼食が済むと、リビングでまったりゲームやお喋り。鍋パーティーとゲストの話題は一切出て来ず、アップルチーズタルトや焼き立てクッキーを食べている間に日が暮れて…。
「さてと。ハーレイが下に着いたようだよ」
今日は車じゃないんだよね、と窓の下を見下ろす会長さん。横から覗くとマンションの入口に見慣れた大きな人影が。教頭先生、鍋パーティーはお酒つきだと招待されたため、路線バスでいらしたみたいです。間もなく玄関のチャイムが鳴って「そるじゃぁ・ぶるぅ」が駆けてゆき…。
「ハーレイが来たよ~!」
「すまん、遅れたか?」
バスが渋滞に引っ掛かって、と詫びながら教頭先生が入って来ました。
「紅葉シーズンなのを失念していた。日が暮れてからもライトアップで混むんだったな」
「週末だからねえ、仕方ないよ。マイカーだったら抜け道を走るって手もあるけれど」
でも飲酒運転はお勧めしない、と会長さんはニッコリと。
「今夜はゆっくりしていってよね。鍋もお酒もたっぷりあるんだ」
「ありがとう。何か手土産をと思ったんだが、手ぶらで来てくれと言われたし…」
「遠慮は無用さ、みんなで楽しく盛り上がれればいいんだよ」
早速鍋を始めよう、という声を合図にダイニングへと移動してゆけば大きなテーブルにコンロが据えられ、土鍋が既にセッティング済み。
「三、四人で一つの鍋ってトコかな、十人で三つの鍋だから。面子は特に固定しないし、ノリで自由に移動しながら好きに食べるのがルールなんだけど…」
固定したければ固定でもいい、と会長さんの視線が教頭先生の上に。
「ハーレイは大いに飲みたいだろうし、飲めない面子の鍋に行ったらイマイチだよね。どうかな、真ん中の鍋でぼくと飲む? ぶるぅも一緒に」
「…お前とか?」
頬を赤らめる教頭先生に、会長さんは「嫌だった?」と。
「嫌なら席は入れ替えってことで…」
「い、いや! いや、嫌ではなくて、そのぅ……なんだ……」
「ふふふ、嫌ではないってことだよね? それならぼくの向かいにどうぞ」
勧められた席に座った教頭先生は傍目にもドキドキときめきMAX。鍋パーティーに招かれただけでも嬉しいでしょうに、会長さんと同じ鍋です。ちゃんぽんブレンドで事情聴取が待っているなんて御存知無いですし、気分は極楽、天国ですよね!



味噌仕立ての鍋は予め煮込んであった様子で、どれもニンニクがたっぷりと。すりおろしではなく粒が丸ごと、柔らかく煮えたのを具材と一緒に掬って食べるという趣向。更に刻みニンニクを混ぜてレンジでチンした特製味噌を好みで添えるのが「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお勧めで。
「えとえと、お味噌は今日はちょっぴり甘めなの! お酒にとっても良く合うんだよ♪」
ハーレイがダメな甘さじゃないしね、と説明された教頭先生、キノコや肉や新鮮な魚介類がドカンと入った寄せ鍋の具を器に取って特製味噌をつけてみて…。
「なるほど、美味いな。酒が飲みたくなる味だ」
「でしょ? お酒も沢山飲んでってね!」
どうぞ、と大きめの徳利が。いわゆる熱燗を会長さんが教頭先生の盃になみなみと。
「はい、遠慮しないでグーッといってよ」
「すまんな、お前も一緒にやろう」
徳利を持とうとした教頭先生を会長さんは手で制して。
「あ、ぼくはワインでやりたいんだ。鍋には合わないって言われてるけど、長年生きてるとピッタリなワインも見付かるものでさ」
辛口の白がいいんだよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が運んで来たボトルからグラスにトクトク。
「君も一杯、試してみるかい? なかなかいけるよ」
「そうなのか。是非、御馳走になろう」
「ちゃんぽんだけどね、それも良きかな!」
ぶるぅ、グラスを! と会長さんが頼み、出ました、教頭先生の前にもワイングラス。
「まあ飲んでみてよ。ここの白がね、寄せ鍋にはもう最高で」
「…ふむ…。これは確かに絶品だな」
味噌仕立ての鍋に実によく合う、と教頭先生、大絶賛。
「しかし、この熱燗の方もなかなか…。大吟醸ではないようだが」
「あっ、分かる? ぼくとぶるぅの自慢のヤツでさ…。泡盛を銘水で割って充分に寝かせてから熱燗にすると、凄く美味しくなるんだよね。そのまんま熱燗にしたらアウトで」
「ほほう…。それは知らなかったな」
「ひと手間かけるのが美味しく飲むコツ! ワインの方もどんどんやってよ」
食べたら飲んで、飲んだら食べて…、と勧め上手な会長さんにまんまと乗せられ、教頭先生は熱燗ちゃんぽんブレンドとやらと白ワインとを交互にグイグイ。流石の酒豪も飲み続ける内にすっかり出来上がり、普段よりもずっと饒舌に。うーん、そろそろ事情聴取かな?



ワハハと笑っては盃を、グラスを傾ける教頭先生。お鍋の方は締めのラーメンが投入されて各自の丼にドッカンと。教頭先生が御機嫌でズルズルと啜り、スープもすっかり飲み干した頃合いを見計らったように会長さんが。
「…ハーレイ、今日は泊まってく? もう遅いしさ」
「かまわないのか?」
「部屋は余っているからね。それともアレかな、ぼくと一緒の部屋がいいとか?」
ぼくのベッドは大きいから、と妖艶な笑みを向けられた教頭先生は酔った勢いで首をコックリと。普段のヘタレは何処へやらです。
「なるほど、ぼくのベッドを希望、と。…それじゃ好みのシチュエーションは?」
「シチュエーション?」
「脱がしたいとか、脱いで欲しいとか、その辺だけど」
うわわわわ…。会長さんったら、大人の時間な質問をぶつけるつもりですよ! これじゃ「ぶるぅ」が押し掛けて来ておませ発言をかましているのと特に変わりはないような…。でもでも、相手は教頭先生。悲惨な事にはならない筈、と高をくくった私たちですが。
「………。強いて言うなら騎乗位だろうか」
「「「…キジョーイ?」」」
なんじゃそりゃ、と頭上に飛び交う『?』マーク。洗剤のジョイとは違うんですよね?
「騎乗位ねえ…。ぼくにそれをやれと?」
「やはり男のロマンだろう。…お前が自分で乱れてくれれば最高の気分だと思うわけだな」
さぞかし美しいだろう、と教頭先生はウットリと。
「…私の上で乱れまくるお前を見ていられれば天国だ。もうそれだけで私の方も」
「何発でもヤれる自信がある、と」
「もちろんだ!」
それこそ徹夜で抜かず六発エンドレス! と鼻息も荒く盃を空にし、ワインを喉に流し込み…。教頭先生、絶好調に熱く語っておられますけど、ヌカズロッパツって何のこと?
「…なんか通じてないみたいだよ、そこの子たちに」
ねえ、ハーレイ? と会長さんが茶々を入れても教頭先生は気になさらずに。
「いや、私はだな…。お前さえいればもう充分で…。どうだ、今から試してみないか?」
「オッケー、騎乗位で朝までなんだね」
まあ一杯、と会長さんが熱燗を注ぎ、教頭先生がクイッと一気に。どうなるのやら、とハラハラしている私たちを他所にワインと熱燗を飲み続けた果てに…。



「ふん、騎乗位が聞いて呆れる」
酔っ払いめ、と会長さんの冷たい瞳。教頭先生はダイニングの床に仰向けに転がり、グオーッとイビキをかいておられました。
「ぼくに何処まで求めているのか事情聴取をしてみたけれど…。酔っ払った末に出た本音ってヤツが騎乗位ねえ…。まず絶対に無理っぽいよね」
「おい、キジョーイとやらは何なんだ?」
分からんぞ、とキース君がすかさず突っ込み、私たちも「教えて下さい」とお願い目線。会長さんはフウと溜息をついて。
「君たちに通じる筈もないけど、漢字で書くと騎馬戦の騎と乗るとで騎乗。それと位さ。大人の時間の楽しみ方の一つってヤツだね、上級者向けの」
「「「………」」」
意味はサッパリ不明でしたが、上級者向けと言われたことで教頭先生には無理だと分かります。酔った勢いで口には出来ても、その実態は鼻血三昧のヘタレ人生なわけですから。
「…さて、この思い上がりも甚だしいバカをどうしてくれよう…。お望みの騎乗位とやらを実現するなら騎馬戦かなぁ?」
ぼくが乗れればいいんだし、と会長さんはワインを一口。ちゃんぽんブレンドもちゃんぽんも無しにワイン一筋、酔っ払ってはいない模様で。
「だけどハーレイはこのガタイだし、騎馬戦しようにも組める人がね…」
「そうだな、かなりキツイと思うぞ」
やってやれないことは無さそうだが、とキース君が応じれば、会長さんが。
「無理やり騎馬戦をやらかしたって、ハーレイとぼくとの二人きりにはならないし…。二人きりでぼくが乗っかるとなると、肩車しか無いんだろうか?」
「「「肩車?」」」
「騎乗位はねえ、ぼくがハーレイの上に乗っかる所に意味がある。肩車でも乗ってはいるしね」
ただし少々問題が…、と考え込んでいる会長さん。
「ハーレイの肩に乗っかるとなると、この首の後ろにハーレイの喜ぶ部分がグッと密着! それじゃハーレイが喜ぶだけだし、ぼくだって気分がよろしくない」
そこを何とか出来ないものか、とブツブツ呟く会長さんに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「んーと…。ハーレイがブルーのお馬さんになるの?」
「そんなトコかな、肩車だけど」
「お馬さんなら、鞍をつければいいんじゃないかと思うんだけど…」
お馬さんに乗るなら鞍が要るよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は無邪気な笑顔。教頭先生に鞍ですか? それも肩車に乗るために?



教頭先生の夢の騎乗位を別の形で実現したいらしい会長さん。何も分からない「そるじゃぁ・ぶるぅ」の鞍発言にピンと何かが閃いたようで。
「馬には鞍かぁ…。これは使える」
何処だったかな、と壁の方を眺めていたかと思うと「あった、あった」と包帯みたいなモノが宙にポンッ! と。なんですか、それは?
「これかい? ノルディの診療所から失敬してきたギプス用包帯」
変形自由で固くて丈夫、と会長さんはイビキをかいている教頭先生の上体を起こせと柔道部三人組に指示を出しました。
「そうそう、そんな感じで暫く起こしといてよ。型を取るから」
「「「型?」」」
「ギプスで鞍を作るわけ。本来は水に浸して使うんだけど、その辺はサイオンでどうとでも」
まずは首の後ろ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」と二人がかりで包帯を当てて型取りを始めた会長さん。ギプス用包帯は固まるまでに時間がかかるそうなのですが、そこもサイオンで省略可能で。
「首の方はこれでOK、と…。次は肩だね、でもって後で組み立てて…」
とにかく採寸、と教頭先生の首から両肩の型をギプス包帯で取った会長さん。お次は強力な接着剤の出番で、首の部分と肩の部分をくっつけて…。
「これでよし、と。鞍の基本の形は出来た。問題は座り心地の方だね」
「かみお~ん♪ クッションみたいにする? それとも革張り?」
どっちでも作っちゃうけれど、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はやる気満々。会長さんは再び床に転がされた教頭先生をゲシッと蹴飛ばし、「両方で」と「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「座り心地が大切だから、クッションで衝撃を緩和だね。でもって仕上げは革張りで!」
「分かった! ハーレイ専用の鞍なんだね♪」
ぼく、頑張る! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がギプス包帯で組み上げられた型を小さな両手で確かめています。教頭先生の身体に当たる側にも革を張るとか言ってますけど、一晩じゃ流石に無理でしょうねえ…。



ちゃんぽんブレンドと白ワインのちゃんぽんで泥酔なさった教頭先生は型取りされた後、柔道部三人組に担がれてゲストルームへと運ばれました。翌朝、私たちが朝食を食べ終える頃にようやく目覚めて謝りまくって帰られたものの、記憶は一切無かったようで。
「つくづくバカだね、本音を暴露したというのに」
まるで気付いてないのが笑える、と会長さんがケラケラと。
「これは絶対、鞍を作って乗らなくちゃ! まずは校内一周からだね、罰ゲームとでも説明しとけばゼルたちだって気にしないから」
「「「………」」」
シャングリラ学園で乗ろうと言うのか、と私たちは絶句。しかし会長さんは鞍さえあれば肩車でも平気らしくて、鞍が完成した月曜日の放課後。
「見てよ、ぶるぅの力作を! 立派な鞍だろ?」
これでハーレイの首にも肩にも触れずに乗れる、と見せられた鞍は茶色の革張り。
「肩車だからね、ハーレイの頭は持つしかないわけだけど…。これで早速校内一周、騎乗位の旅に出掛けてこよう」
行くよ、と促されてカボチャのムースケーキを喉に押し込み、みんな揃って教頭室へ。問題の鞍は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大切そうに頭の上に掲げています。本館にある教頭室に着くと、会長さんが重厚な扉をノックして。
「…失礼します」
「なんだ?」
書類をチェックしていた教頭先生が顔を上げ、先日の醜態を思い出したらしく。
「…ああ、そのぅ…。なんだ、この間はすまなかった」
「どういたしまして。お蔭で君の夢ってヤツがよく分かったから来てみたよ」
ニッコリ微笑む会長さんに、教頭先生は首を捻って。
「…夢?」
「そうだよ、君が心の底に熱く秘めている男のロマンというヤツさ。…騎乗位だってね?」
「…な、な、な……!」
何故それを、とアタフタしている教頭先生の机の上から書類がバサバサ床に雪崩を。会長さんは散らばった書類を拾い集めて「はい」と机に纏めて置くと。
「君が自分で叫んだんだよ、ぼくとやるなら騎乗位がいい、と。…それで考えたんだけど…」
今からどう? と妖艶な瞳を向けられた教頭先生の鼻から毎度お馴染みの鼻血がブワッ。…騎乗位とやらは鼻血多めで噴出するほどヤバイ代物みたいですねえ?



それから十五分ほどが経ち、教頭先生の鼻血が治まった頃。逞しい肩に特製の鞍を乗っけた会長さんが教頭先生の肩に跨り、右手に持った鞭をピシッ! と鳴らして。
「さあ、ハーレイ。お望みどおり乗ってあげたよ、校内一周!」
「…こ、この格好で行けと言うのか?」
「君が願った騎乗位だ。まさに本望だと思うんだけど」
歩け、歩け! と会長さんの鞭がピシピシと。仕方なく歩き出された教頭先生、本館を出るなりゼル先生とバッタリ遭遇。ゼル先生は肩車な会長さんと教頭先生をジロジロ見比べた挙句。
「ハーレイ、それは新手のセクハラかのう?」
「ち、違う! こ、これはブルーが…」
決して私が乗せたわけでは、と冷汗三斗な教頭先生の肩の上から会長さんが。
「ぼくもセクハラは御免だからねえ、鞍を作って乗ってるよ。…実はさ、こないだの週末、みんなでパーティーしていた時にハーレイが酷く酔っちゃって…。思い切り場が白けちゃったし、罰ゲームってことで馬にしたわけ」
「なるほどのう…。馬か、こやつが」
「そうなんだ。だからね、君からも罰を与えたかったら餌やりタイムを設けるけれど」
「「「餌やりタイム?」」」
ゼル先生と私たちの声が見事にハモりました。教頭先生も怪訝そうですが、会長さんは。
「ぶるぅ、ニンジン!」
「かみお~ん♪ お馬さんの好物だよね!」
ニンジンたっぷり、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が背負っていたリュックの中身は大量の生のニンジンでした。そういえばリュックを背負ってたっけ、と今頃気付きましたけど。
「ここから好きなのを一本出してよ。それをハーレイが食べるから!」
生のまんまでボリボリと、と聞いたゼル先生はニヤリと笑って特大の一本を選び出し。
「ほれ食え、ハーレイ! 生徒の前で酔っ払うなぞ言語道断、馬にされるのも当然じゃて」
「…う、うう…」
生のニンジン、しかも皮つき。教頭先生の額に脂汗が滲みましたがゼル先生は手を引っ込めず、会長さんは鞭でビシバシと。
「ほら、食べるんだよ、ハーレイ号! とても美味しいニンジンだからね」
マザー農場の採れたてニンジン! と促されまくった教頭先生、退路を断たれて生ニンジンをバリバリと。そこから先の校内一周騎乗位の旅、噂を聞き付けたブラウ先生やエラ先生にヒルマン先生までがニンジンを食べさせたいと何度も現れ、リュックはすっかり空っぽでしたよ…。



「ふふ、生野菜は身体にいいって本当なんだねえ?」
あれからハーレイは毎日快調! と放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で会長さんがクスクスと。
「植物繊維は便秘に効くって前から聞くけど、ドッサリ出ているみたいだし」
「出すぎだろうが!」
キース君が噛み付き、シロエ君も。
「どう考えても効きすぎです! あれは快調とは言いません!」
「ですよね、少しやつれてらっしゃいますよ」
マツカ君が頭を振るのも至極当然、生ニンジンを毎日リュック一杯食べさせられた教頭先生のお腹は連日下り気味。それでも会長さんに騎乗位をやめる気はさらさら無くて。
「さて、今日も楽しくお出掛けしようか。ハーレイ号が待っているからね」
「…それなんだけどさ」
もう一歩、踏み込んでみないかい? と背後から声が。
「「「!!?」」」
バッと振り返った先にフワリと紫のマントが翻り。
「こんにちは。なんか騎乗位の旅なんだってねえ?」
面白いじゃないか、と現れたソルジャーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が両手で持っていた特製の鞍を検分すると。
「この鞍はよく出来ているけど、乗ってる馬がイマイチかと…。騎乗位の達人のぼくからすれば中途半端もいいところだよ」
「退場!!」
すぐに出て行け、と会長さんが突き付けたレッドカードに怯みもせずにソルジャーは。
「誰も本気で騎乗位をやれとは言っていないさ、君にその手の趣味は無いしね。…だけど騎乗位を気取るんだったら裸馬! 鞍はともかく、服を着込んだ馬じゃ興ざめ!」
騎乗位はマッパの馬に跨ってなんぼなのだ、と自説を展開するソルジャー。なんのことだか分かりませんけど、服を着た馬……いえ、教頭先生に跨ったのでは気分が乗らないらしいです。
「せめてアレだね、褌一丁! それなら文句は無いだろう?」
「…褌かぁ…。確かに褌一丁で外を歩くには不向きな季節になっているけど…」
「褌だってば、裸馬でこそ騎乗位が本領を発揮するんだとぼくは思うな」
ついでにハーレイは今以上に晒し者度がアップ、と唆された会長さんが頷いたまでは良かったのですが…。



「なに、全力で走れだと?」
別に私は構わんが、と教頭先生。私たちに紛れ込んだソルジャーも込みで出掛けた教頭室で、会長さんは褌一丁での校内一周を命じた上で全力疾走のコマンドまでも。教頭先生は承諾したものの、いつもの鞍をまじまじ見詰めて。
「乗り手のお前は大丈夫なのか? 振り落とさないという自信が全く無いのだが…」
「ああ、そこは全く問題ないよ。暴れ馬は他の面子に試させる。キースたちが乗って大丈夫そうなら最後にぼくが……ね。逆に言うなら君の運かな、祭りの如く暴れまくって走りまくっても誰も落ちなきゃ騎乗位の栄誉」
ただし手加減したら騎乗位は終わり、と冷たい口調の会長さん。その一方ではキース君たちが真っ青な顔をしています。
「…お、俺たちに乗れと言うのか?」
「ぼくも乗るわけ? …走ってるヤツに?」
落馬するよ、と泣きの涙のジョミー君たち。なのに教頭先生は会長さんを最後に乗せる栄誉が欲しくて仮眠室に引っ込み、水泳用の赤褌だけをキリリと締めて戻って来て。
「誰が乗るのだ? 私とブルーの未来のためにもしっかり乗りこなして欲しいものだが…」
「「「…は、はいっ!」」」
落ちたら絶対に教頭先生に恨まれる、と怯える男子たちの思念がヒシヒシと。とはいえ、無事に乗りこなしても会長さんに恨まれそうで、どちらに転んでも針のむしろというヤツです。どうなるんだろう、とスウェナちゃんと私が顔を見合わせていると。
「かみお~ん♪ ぼく、乗りたい!」
乗ってもいいよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が元気に右手を上げました。お子様なだけに私たち以上に事情が掴めず、お祭りという景気のいい言葉に反応しちゃったみたいです。
「そうか、ぶるぅが私に乗るのか。…落っこちるなよ?」
ではニンジンは他の誰かに預けておけ、と教頭先生が床に屈んで「そるじゃぁ・ぶるぅ」を肩車。ニンジン入りのリュックはサム君が預かり、教頭先生が立ち上がって。
「では行くぞ。ぶるぅ、しっかり掴まったな?」
「うんっ! しゅっぱぁ~つ!」
ハーレイ号、発進! と可愛らしくも高らかな声が号令、褌一丁の教頭先生は肌寒いを通り越した晩秋の校内一周へと旅立たれました。パカラッ、パカラッと効果音を入れたくなるような激しい走りで疾走中。今日のお供は男子に任せてギブアップしないとやってけません~!



右に左にと身体を揺すって走りまくった裸馬こと褌一丁な教頭先生。今日もゼル先生たちからニンジンを貰っていたそうですけど、それ以外の時間は全力で校内を駆け抜けて…。
「どうだ、ブルー! やり遂げたぞ!」
ぶるぅは肩から落ちなかったぞ、と教頭室に戻った教頭先生は満面の笑み。
「私は手加減していない。そうだな、ぶるぅ?」
「楽しかったぁ~! ブルーも乗ったらいいと思うよ、すっごく速くて面白いから!」
歩いてるのとは違うと思う、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の瞳がキラキラ。体験してきた凄い走りを会長さんにも、と心の底から思い込んでいる瞳です。でも…。
「ぶ、ぶるぅ…。ぼくはそのう、お前ほど身体が軽くはないし…」
必死に逃げを打つ会長さんに、教頭先生が胸を張って。
「いや、お前が羽根のように軽いのは承知している。ぜひ乗ってくれ、せっかく祭りな気分なのだし…。そもそもお前を乗せるために馬になったのだしな」
肩車にももう慣れた、と自信溢れる教頭先生は褌一丁で校内を走らされて注目を浴びても晒し者というより祭りな気分が勝っているらしく。
「さあ、行こう! 最高の騎乗位を体験してくれ、今なら注目浴び放題だ!」
「そ、それはそうかもしれないけれど…」
ぼくの心は繊細で、と腰が引けている会長さん。まさか「そるじゃぁ・ぶるぅ」が乗るとも思わず、男子の誰かが乗せられて落馬と踏んでいたに違いありません。うかうかと乗る約束をしていたばかりにソルジャー言う所の裸馬に乗る羽目に陥りそうで…。
「乗らないのか、ブルー? いつもよりもスリルが増すと思うが…」
「そ、そういうのとは別の次元で嫌なんだってば!」
裸馬なんて、と会長さんが悲鳴を上げれば、ソルジャーがスイッと横から進み出て。
「どうやらブルーは乗る気を失くしたみたいだねえ? ぼくで良ければ喜んで乗せて貰うけど」
「…あなたがですか? まあ、それは…。誰も気付いていないようですが…」
ブルーそっくりのあなたが一緒に校内を走っていても、と教頭先生。校内一周暴走の旅にはソルジャーも同行したのです。会長さんも走ってましたし、瓜二つの人間がウロついていても誰にもバレていなかったことは事実。ということは…。
「ね、ぼくが乗ってもバレないってば! ブルーの代わりに是非乗りたいな」
スリル溢れる暴れ馬に、との申し出を教頭先生は快諾しました。そっくりさんとはいえ会長さんと見た目は同じです。騎乗位とやらに憧れる気持ち、ソルジャーにぶつけてみたいのでしょうね。



褌一丁の教頭先生は頑張りました。会長さんに乗っては貰えなくても、肩の上にはそっくりさん。もう夕方で冷え込む校内をくまなく駆け抜け、オマケ気分で校舎の階段も上り下り。付き添いで走った男子たちの方が息を切らす中、教頭室へと意気揚々と御帰還で…。
「如何でしたか、私の走りは?」
「良かったよ。ぼくのハーレイではちょっと無理かな、シャングリラの中で肩車なんて人目に立ち過ぎて無理だからねえ…」
楽しい経験をさせて貰った、と教頭先生の肩から滑り下りたソルジャーは会長さんの肩をポンと叩いて。
「最高だったよ、裸馬! やっぱり騎乗位はこうでないとね」
「シッ!」
余計なことを、と言わんばかりに会長さんが鋭く注意しましたが、時すでに遅し。教頭先生は聞こえた単語を復唱してみて。
「…裸馬……ですか?」
「そう! ぼくが提案したんだよ」
褌は最後の良心なんだ、とソルジャーが得意げな笑みを浮かべて。
「ブルーは君を晒し者にする方のチョイスで褌一丁と言ったけどねえ、騎乗位のエキスパートのぼくに言わせれば乗るなら馬は裸でなくっちゃ!」
「……はあ……」
教頭先生は腑に落ちない顔で、私たちもまたソルジャーの台詞は意味不明。エキスパートだと何故に裸馬、という問いが頭の中でグルングルンと回っています。
「分からないかな、君の憧れの騎乗位だよ? 肩車なんて遊びじゃなくって正真正銘、本番の方! ぼく……いや、君の夢ではブルーかな? 乗ってる方の気持ちにすればね、相手が服を着ていたんでは気分が出ないし、エロい気分にもなれないってば!」
すっぽんぽんの相手に跨るからこそ燃えるのだ、とソルジャーが言い放ち、教頭先生の鼻からツツーッと真っ赤な筋が。…えーっと、教頭先生には今の言い回しで通じたのかな?
「だからね、ハーレイ? 裸馬に乗る気分になれないブルーの代わりに、ぼくで良ければ乗ってあげるよ。ああ、勘違いしないでよ? 校内一周の旅じゃなくってホントの本番!」
遠慮しないで乗せてみて、とソルジャーは教頭先生の逞しい腕を掴みました。
「ぼくは鞍なんか使わなくっても裸馬には乗り慣れてるんだ、ホントの意味でね。…鞍なんか無しで乗せてみないかい? もちろんぼくも脱ぐからさ」
そっちの仮眠室で是非一発! と腕にしがみ付かれた教頭先生、ブワッと鼻血を噴きまして…。
「…ほ、本番……」
それはブルーと、と辛うじて言い終えるなりドオッと仰向けに倒れた身体。限界を突破したみたいですけど、裸馬とか本番って……なに?



「うーん…。やっぱり妄想の域を出ないか、こっちのハーレイ…」
今日はいけるかと思ったんだけど、と不満たらたらのソルジャーの頭を会長さんが拳でゴツン。
「なんだかんだで摘み食いする気で出て来ただろう!?」
「えっ? それはまあ…。そういう気持ちもゼロではないかな」
だけど最終目標は高く! とソルジャーは教頭室の天井に向かってブチ上げました。
「こっちのハーレイの夢は騎乗位、そこを叶えてあげないと! しかも最初から騎乗位だなんて素人さんには難しすぎるし、こう、色々と手順を踏んで! でもって見事に乗りこなすんだよ、君がこっちのハーレイを……ね」
「嫌だってば!」
肩車だけで充分なのだ、と会長さんは脹れっ面。
「そもそも本音が騎乗位だなんて、この秋限定かもしれないし! だから肩車でいいんだってば、それでもお釣りが来るレベル!」
「…この秋限定? 常に本気で騎乗位じゃなくて?」
その辺のランチやディナーのコースじゃあるまいし、と目を丸くするソルジャーですけど、会長さんはツンケンと。
「君はハーレイを分かっていないよ、妄想一筋で童貞一直線の寂しい独身男だよ? その時々の妄想加減で夢の本音はどうとでも変わる。たまたま今が騎乗位なだけ!」
「…そうなんだ…。それじゃ明日にはコロッと変わってシックスナインになったりも?」
「するだろうねえ、ハーレイだけに」
だから当分は乗馬とニンジンで苛めればいい、と会長さんは騎乗位とやらを継続する気らしいです。ソルジャーも呆れて物が言えないみたいですけど、騎乗位って実際、何なのでしょう? シックスナインとかヌカズロッパツとか、もう謎だらけ。大人の世界は分かりません~!




          馬になりたい・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生の夢は叶うどころか、別の方向へと向かってしまったみたいですねえ?
 肩車とはいえ、生徒会長に乗って貰って嬉しい気持ちはしたでしょうけど…。
 9月の更新は第3月曜だと今回から1ヶ月以上空いてしまいますから、月2更新。
 次回は 「第1月曜」 9月7日の更新となります、よろしくです~!

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 こちらでの場外編、8月はお盆の棚経ですけど、問題はそれに留まらないようで…。
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