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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

栗の思い出

 ハーレイが訪ねて来てくれる週末。部屋の掃除を済ませて窓から見下ろしていたら、庭の生垣の向こうの通りを歩いて来るハーレイの姿が見えた。手を振ると大きく振り返してくれて。
(あれ?)
 なんだかとっても楽しそうな顔。それに小さな紙袋を一つ持っている。
(何の袋だろう?)
 見覚えのない紙袋。この辺りのお店の袋ではないし、それ以前に何の変哲もない白い紙袋。店のロゴさえ入っていないように見えるんだけど…。
(まさかね)
 きっと何処かに書いてあるんだ。でなければ同じ白い色で浮き出した文字が入っているとか。
 袋が気になって見ている間に、ママが門扉を開けに行って。ハーレイをぼくの部屋へと案内して来た。紙の袋をよく見たいけれど、ハーレイはいつもの椅子に座って、紙袋はその膝の上。
(…これじゃ全然、見えやしないよ…)
 向かい合わせで座ったぼくからはテーブルの陰になって全く見えない。だけどハーレイは普段と変わらず、穏やかな顔で座っているだけ。もちろん挨拶も、会話もちゃんとあるんだけれど。
 その内にママが紅茶とクッキーを運んで来てテーブルに置くと、「ごゆっくりどうぞ」と部屋を出て行った。
(えっ? …今日はクッキーだけなの?)
 午前中のお茶の時間は昼食に響かないよう、お菓子は控えめ。それでもケーキやパイがつくのが普通で、クッキーだけなんてことは無いんだけれど…。
 途惑っていたら、ハーレイがさっきの紙袋をテーブルの上に「ほら」と笑顔で置いた。
「今日はこいつがあるからな。クッキーだけにして貰ったのさ」
 お前、食べ過ぎると昼飯が入らなくなっちまうだろうが。
 そいつは非常に不本意な上に、健康的とも言えないからな。



 テーブルに置かれた紙袋。やっぱり店名は入っていないし、ただ白いだけの紙袋。中身が何だかまるで見当がつかないけれども、ハーレイはぼくの大好きな笑顔で。
「覚えてるか、ブルー? 中身はこいつだ」
 紙袋を開けて手を突っ込んだハーレイ。出て来た手の上にコロンと栗の実が一個。
「途中の公園で焼き栗を売っていたからな。懐かしくなって、つい、買っちまった」
「わあ…!」
 ハーレイが持って来てくれた小さなお土産。「まだ温かいぞ」と渡された栗は本当に温かくて、袋に入っていた時には分からなかった香ばしく焼けた匂いがする。
「遠慮しないでどんどん食え。焼き栗ってヤツは熱い間が美味いんだ」
「うん、知ってる!」
 ぼくは少し焼け焦げた皮に入れてある切れ目を広げて焼き栗を剥いた。渋皮も一緒に剥がれて、美味しそうに焼けた黄色い栗の実が中から出て来る。口に入れたらホクホクで甘い。
「美味しい!」
「そいつは良かった。俺たちの思い出の味だったしなあ、焼き栗は」
「思い出したよ、ハーレイが買って来てくれたのを見たら」
 もう一個、と袋に手を伸ばしたぼくに「そら」とハーレイが栗を渡してくれた。そのハーレイも栗の皮を剥いて頬張っている。
 懐かしい味のする焼き栗。前のぼくとハーレイとの思い出の味。



 秋になったらシャングリラでもよく食べていた栗。公園と居住区の庭とに栗の木があった。
 シャングリラでは食料は自給自足だったから、食べられる実を結ぶ果樹は大切。普通の木だって多かったけれど、果樹も農場以外の所に何本も植えて育てていた。
 みんなが喜ぶ実をつける木たち。収穫の季節は仕事じゃないのに手伝う者たちも大勢いた。栗もそうした果樹の中の一つ。
 でも、シャングリラで栗の木を植えるまでには紆余曲折があったんだ。
 栗の実は栄養価が高いというから、候補に挙がった果樹の中では有望株。それに植えてから実を結ぶ大きさになるまでの成長も早い。ぼくもハーレイも栗を推したのに…。
「花が臭いと聞いたんじゃが」
 もう髪の毛が薄くなっていたゼルが文句をつけてきた。ヒルマンに確認してみたら、本当に花の匂いが独特らしい。しかも相当に強い香りで、綺麗な花でもないという。
「観賞用の花とは言えませんな」
 それがヒルマンの見解だったし、見せられたデータの栗の花は確かに綺麗じゃなかった。動物の尻尾みたいなブラシ状の花で、色だって地味な白っぽい黄緑。
「だが、栗は実を食べるために植えるのであって、観賞する必要は無いと思うが」
 ハーレイが真っ当な意見を述べた。
「花の匂いで苦情が出るなら、空調のレベルを調節するべきだろう。充分に換気をしておけば解決出来る問題ではないか?」
「ふむ…。確かに花よりも実が大切だな」
 それで良かろう、とヒルマンが同意し、エラとブラウも賛成した。
 ところが、ゼルだけは納得しなかったんだ。



「あの栗のイガはどうするんじゃ!」
 トゲだらけで危険だという主張。
 熟すとイガごと落ちて来るから、公園や庭には向かないと言う。うっかり頭上に落ちてきたならトゲで怪我をするし、落ちているイガを踏んでも危険。
「大人はいいんじゃ、大人はまだいい。しかし子供たちには危険すぎるわい!」
 うっかり躓いてイガの上に転んでしまったらどうするのだ、と指摘されたら反論出来ない。その危険性が全く無いとは誰も言えないし、もしもそういう事故が起きたら…。
「それじゃさ、トゲが無ければいいのかい?」
 ブラウの素っ頓狂としか思えない発言。栗のイガといえばトゲだらけのもので、トゲが無い栗の木があるなど聞いたこともない。
「そんな栗なんて知らないわ。本当にあるの?」
 エラが尋ねたら、ブラウは「さてねえ…」と無責任極まる答えを返した。
「だけど無いとは言い切れないだろ? それを探すのも仕事の内だよ、頑張りな」
 指名されたのはヒルマンだった。既に教授と呼ばれていたヒルマンは博識な上に調べ物も得意。トゲの無い栗なんて無いであろう、という皆の予想をいい意味で見事に裏切ってくれた。
 トゲの無い栗は存在したんだ。
 とても珍しい栗だったけれど、突然変異か何かで生まれたトゲ無しの栗。イガを覆う筈のトゲがうんと短くて、坊主頭に刈り込まれたように見える栗。そのトゲだって痛くはない。
 それを植えよう、ということになった。
 もっとも、普通の栗じゃないから、アルテメシアに在った人類の農場や園芸店に苗は無くって。
 ぼくが情報を操作して苗を取り寄せさせておいて、こっそり失敬させて貰った。



 そうしてトゲの無い栗の木をシャングリラで植えた。公園と居住区の庭に何本も。
 花の匂いは独特で強かったけれど、特に苦情は出なかった。そういうものだと皆が納得していたのだろう。人工的な悪臭ではなくて、あくまで自然の産物だから。
 栗は三年ほどで実をつけ、木だってどんどん大きくなった。栗の実を沢山食べることが出来た。お菓子を作ったり、料理するのに使ったり。
 シャングリラで育った子供たちには、栗と言えばそれ。
 刈り込まれたようなイガをしたトゲ無しの栗。
(うん、本当に栗とも思えない栗だったよね)
 それでかまわないと考えていたら、童話を教えるのに苦労するのだと保育部のクルーが嘆くのを聞いた。ソルジャーだったぼくの主な仕事は、実は子供たちの遊び相手をすることだったから。
 童話には悪者を懲らしめるために栗が登場するものだってある。栗のイガの痛さが話の肝。
 だけど、シャングリラの栗のイガにはトゲが無い。どうして栗のイガにやられた悪者たちが降参するのか、子供たちには理解出来ない環境。
(資料だけでは分からないものね…)
 ミュウの未来を担う子供たち。いつかは人類と手を取り合って欲しい子供たち。
 子供たちの世界を狭めることは好ましくない。ただでもシャングリラの中だけでしか暮らせない子たちだからこそ、本当のことを教えてやりたい。
 たかが栗のイガのことであっても、小さな真実を積み重ねたい…。
(安全だけを追求してたら、何ひとつ出来なくなっちゃうんだよ)
 そう思ったから、「あれは本物の栗じゃないから」と、一本だけ普通の栗の木を植えた。
 公園はゼルに「危険じゃ」と却下されてしまったから、居住区の庭に。



 それなのに本物の栗の実がなったら、誰が一番最初に大喜びで拾いに行ったと思う?
 危険だと主張していたゼルだったんだ。すっかり禿げてしまったゼル。
 長老の服の靴でトゲだらけのイガをグイと踏んづけて、嬉々として栗の実を出していたんだ。
 朝一番の視察に出掛けて発見した時の、ぼくとハーレイの顔といったら…。
「ゼル、それは何だ」
 ハーレイが苦い顔をしてゼルの足元を指差したんだけれど。
「何って、栗にしか見えんじゃろうが」
「危険だと主張していた筈だが?」
「じゃから、わしが処理してやっておる!」
 よりにもよって危険物処理。
 どう見てもそうは見えない光景。
 楽しんでやっているとしか思えないのに、ゼルは危険だと言い張った。
 栗の実はとても危険なのだと、素人には任せられないのだと。
 ぼくもハーレイもポカンとしたまま、落っこちたイガをせっせと踏んでいるゼルを見ていた。
 危険な栗のイガに立ち向かってゆく勇者のゼルを。



 こうしてゼルは本物の栗の木の担当になった。
 本物の栗だけはヒルマンじゃなくて、ゼルが担当することになった。
 担当と言っても世話係とは違って、説明係。子供たちに栗とは何かを教える係。
 秋が来る度にゼルは子供たちの前で得意満面、靴で栗のイガをこじ開けて実を出すんだ。
「いいか、これはな。実はソルジャーにも出来んのじゃ」
 そう言いながら熟して落ちたイガをグイと踏んづける。
「あのハーレイでも、この本物の栗には触ることが出来ん」
 ハーレイは防御力に優れたタイプ・グリーンの筆頭なのに、ゼルは自分の方が上みたいに。
「栗のトゲは実に危険じゃからのう、熟練の者しか扱えんのじゃぞ」
 なんて名調子で解説しながら栗のイガを開けて、子供たちの尊敬を集めていたんだよ。



 ゼルのお株を取っちゃ悪いから、そういうことにしておいた。
 だけどやっぱり、なんだか悔しい。
 ソルジャーのぼくも悔しいけれども、防御力ではぼくに匹敵するハーレイだって少し悔しい。
 だからハーレイと夜にコッソリ出掛けて行って、栗のイガを一個ずつ失敬するんだ。
 明日になったらゼルが拾う筈の、熟した栗の実が入ったイガを一個ずつ。
 ぼくもハーレイも本当は上手にイガをこじ開けて中の栗の実を出せるんだけど…。
 子供たちにはゼルしか出来ないってことにしておく。
 ソルジャーとキャプテンにだって出来ないことが一つくらいあってもいいだろう。
 相手は人類軍じゃなくって栗の実なんだし、ちょっぴり間抜けで愉快だから。
 そうしてゼルが寝ている間に、庭の隅っこでイガを内緒でこじ開ける。
 ハーレイが一つ、ぼくも一つ。
 ゼルが得意げにやってるみたいに靴で踏んづけて、艶々とした栗の実を中から取り出す。開けたイガは放っておいてもバレない。ゼルが「教材じゃ」と空になったイガを庭に残しているから。
 ハーレイと二人で一個ずつ、コッソリ開けちゃった栗のイガの中身。
 手のひらの間に大事に包んで、青の間に持って帰ってナイフで切れ目を入れて。奥のキッチンで皮ごとこんがりと焼いて、熱々を剥いて二人で食べた。
 それがぼくとハーレイとの内緒の焼き栗。
 コッソリの味は格別だった。
 栗が実る度にハーレイと二人、夜中に焼き栗を楽しんでいた。
 地球の海に居るというトゲだらけのウニも、こんな風にして食べるんだろうか、って話なんかを交わしながら。



 そういえば…、とハーレイのお土産の焼き栗を剥きながら思い出した。
 あの頃に話題にしていたウニ。今は二人とも地球に居るから、ウニだってちゃんと海にいる。
「ハーレイ、栗で思い出したけど、今はウニだって手に入るよね?」
 口にしてみたら、ハーレイも覚えていたらしくて。
「ウニか…。あの頃はウニの話もしてたが、流石にウニはなあ…」
 ウニはおやつじゃないからな。
 そりゃあ、ウニ風味のスナック菓子もあったりするがだ、お前が言うのは本物のウニだろ?
 土産だと言ってウニの寿司を提げて来るのも変だしな?
「確かに変だね…」
 ハーレイが言う通り、ぼくへのお土産にウニのお寿司は変だと思う。
 お寿司はおやつに出来はしないし、それをやるなら昼御飯用にお寿司の折詰。だけどウニだけで埋まった折詰なんて食べ切る前に飽きてしまいそう。焼き栗なら飽きはしないけれども…。
(ウニのお寿司かあ…)
 好き嫌いだけは全く無い、ぼく。
 沢山食べることは苦手なんだけど、前の生で食べ物に不自由していたせいなのかどうか、何故か好き嫌いというものが無い。
 そんなぼくだから、もちろんウニも食べられる。お寿司は好きだし、ウニのお寿司も。
(…お寿司も美味しいし、お刺身もいいよね)
 他にもウニの食べ方は色々。でも…。
(殻ごとのウニは食べたことがないや)
 トゲトゲの殻が半分くっついたウニなら、パパとママに連れてって貰ったレストランで食べた。殻が器の代わりになってて、中身は焼きウニ。
 殻ごとと言えば殻ごとだけれど、自分で剥いたわけじゃない。
 栗のイガは自分で開けられたけれど、栗よりもトゲが凄いウニ。ちょっと開けられそうにない。
(ケガしそうだよ…)
 其処まで考えて、気が付いた。
 ハーレイは海が大好きだっけ。海にはウニが住んでいるよね?



「ねえ、ハーレイ。もしかして、ウニをあんな風にして食べたこと、ある?」
「あんな風?」
「栗みたいに自分でパカッと開けて!」
 開ける道具は靴じゃないかもしれないけれど、と訊いたら「あるぞ」と即答だった。
「海には沢山いるからな。潜って獲ったら食べ放題だ」
 ウニを開けるには足じゃなくって手を使うんだぞ。
 こう、左手にウニを持って、だ。
 もちろん左手をシールドするのを忘れちゃいかんぞ、凄いトゲだからな。
「それからウニの口の部分をナイフで開ける。あいつらにはちゃんと口があるんだ。口を開けたら其処からナイフを突っ込んで…。栗のイガみたいな要領で剥いてもいいし、切ってもいいな」
「ずるい…。ハーレイ、経験済みなんだ…」
 ぼくは本物のウニの殻を開けてみたことが一度も無いのに。
 シャングリラではハーレイと一緒に本物の栗のイガを開けていたのに、地球の海で獲れるウニは出遅れた。ハーレイだけが先に開けてて、ぼくは一度も開けたことが無い。
「ハーレイ、ずるいよ! 一人で先に開けてたなんて!」
「おいおい、お前、ずるいも何も…。俺の方が何歳年上だと思っているんだ、お前」
 それにだ、お前はウニなんか自分で開けられんだろう?
 さっき開け方を話した筈だぞ、不器用なお前が左手をシールド出来るのか?
 シールドしないでウニを掴んだら大惨事だ。分厚い手袋をはめるって方法もあるが…。
「うー…」
 悔しいけれども、ハーレイの方が二十年以上も先に生まれていたのは本当。ぼくと再会する前にやってたことまで文句をつける権利は無いし、第一、その頃のハーレイはぼくを知らない。前世の記憶を持ってはいない。
 それに今のぼくがウニを開けられそうにないことも事実。前のぼくなら簡単にシールドを張れたけれども、サイオンがとことん不器用なぼくは左手にシールドなんか無理。
 分厚い手袋をはめれば出来ると言われたところで、それじゃちょっぴり情けない。
 ゼルの「実はソルジャーにも出来んのじゃ」という台詞そのもの、恥ずかしすぎる…。



 今の世界では人間は一人残らずミュウ。
 シールドはごくごく普通の能力、大抵の人は出来て当然。前の生と同じタイプ・ブルーのぼくは最強のサイオン能力を持っている筈で、シールド出来ない方がおかしい。だけど出来ない。
 不器用すぎるぼくが分厚い手袋をはめてウニを開けていたら、タイプ・ブルーだとは誰も信じてくれないだろう。ウニを開ける所は見たいけれども、自分で開けるのは諦めた方が良さそうだ。
(ハーレイに開けて貰おうかな…)
 まだまだ当分、一緒に海には行けないんだけど、いつか行ったら。
 いつか二人で海に行ったら、ハーレイにウニを開けて貰って…。
(……海?)
 夏休みの間にハーレイは海に行っていた。柔道部の生徒を連れて、日帰りで海。ひょっとしたら海で食べたんだろうか?
 ぼくの憧れの殻つきのウニを、柔道部員たちと開けて食べたんだろうか…?
「ハーレイ、今年の夏も、もしかして食べた? 柔道部の子たちと一緒にウニ…」
「いや。ウニは開けるのに手間がかかるし、柔道部のヤツらに食わせておくにはサザエの壺焼きで充分ってな」
 ハーレイはパチンと片目を瞑ったけれども、ぼくの心はウニならぬサザエに捕まった。
「サザエの壺焼き!?」
「そうだが? その辺で獲って、蓋を開けてな。ちょっと醤油を垂らしてやって火で炙るんだ」
「…壺焼き……」
 柔道部員が羨ましい。
 ぼくは獲れたてのウニも食べたことがないのに、ハーレイと一緒にサザエの壺焼き。ハーレイが獲ったサザエの壺焼き…。



「…ぼく、壺焼きも食べてみたいよ…。ハーレイが獲ったサザエの壺焼き…」
 ウニも食べたい、と強請らずにはとてもいられない。
 前の生では二人一緒にコッソリと栗のイガを開けていたのに、今はハーレイがフライング。先に一人で地球の海のウニをこじ開けて食べていた上に、サザエの壺焼きを柔道部員に大盤振る舞い。ぼくに食べさせてくれたんだったら分かるけれども、柔道部員…。
 恋人のぼくを放って柔道部員に御馳走するなんて、あんまりすぎる。
 ウニだって一足お先にトゲトゲの殻を開けてしまって、美味しく食べていたなんて…。
 今のぼくにはウニの殻なんか開けられないって分かっているけど、フライングだなんて…。
(ずるいし、それにあんまりだってば!)
 ぼくの頬っぺたは、ちょっぴり膨れていたかもしれない。ハーレイが「分かった、分かった」と苦笑しながら、焼き栗の皮がついていないことを確認した右手でぼくの髪を撫でる。
「ウニにサザエだな、分かったから。お前がちゃんと大きくなったら、海に連れて行って食わせてやるから。…もちろん俺が獲って、食べ放題でな」
「約束だよ? 殻つきのウニと、サザエの壺焼き」
「アワビも一緒に食わせてやるさ。あれも焼いたら美味いんだぞ」
 な? とハーレイはぼくに微笑みかけてから。
「…まったく、とんだ藪蛇だったな。焼き栗の土産」
「そう? ぼくはとっても嬉しいけどね。シャングリラのことも思い出せたし」
 それに、いつかはハーレイと海。
 ぼくの背丈が大きくなったら、ハーレイと一緒に海へ行くんだ。
 殻つきのウニとサザエの壺焼きを食べさせて貰えるんだよ、ハーレイが獲った美味しいのを。
 前のぼくたちの焼き栗みたいにコッソリじゃなくて、天気のいい海辺で堂々と二人。
 何を食べてるかも、恋人同士なことも隠さなくて良くて、青く澄んだ地球の海辺で二人。
 前のぼくが焦がれた青い地球の海を二人で見ながら、地球の海の幸を沢山、沢山……。




         栗の思い出・了

※シャングリラで食べた栗の思い出。今度はウニも食べられるのです、ハーレイと二人で。
 そしてトゲの無い栗は実在してます、ちゃんと園芸品種です。シャングリラ御用達?
 ←拍手して下さる方は、こちらからv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv






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