忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

目覚まし時計

「んー…」
 ブルーの意識を揺さぶる目覚ましの音。学校のある日は必ず目覚ましをセットしていたが、今は休日も目覚ましをかけることが多い。休日は大好きなハーレイが訪ねて来る日。寝過ごして掃除をし損なったら大変だから、きちんと早起きしなければ。
「うー…」
 ハーレイの夢を見ていたというのに、心地よい眠りを破られた。無粋な目覚ましに手を伸ばし、アラームを止めようとしたのだけれど。上手く止められず、仕方なく時計を引っ掴んだ。憎らしいアラームをエイッと止めて、アナログの文字盤を睨み付ける。
(…もうちょっとでキスが出来たのに…!)
 青の間でハーレイと甘い時間を過ごす夢。抱き締められてキスを交わして…、という直前で夢は砕け散り、キスさえ許してくれないハーレイが居る現実の世界へと戻ってしまった。
(目覚ましなんか大嫌いだよ!)
 もう何度目になるのだろうか。いい所で邪魔をしてくれる時計。いつも、いつも、いつも…!
 こんな時計、と叩きのめしたい気分で睨むブルーだったが。
「あ…!」
 そういえば、この意のままにならない目覚まし時計。アラームの音を何種類かのメロディに変更出来る仕様の時計で、それだけではなく音声データが入れられる仕掛け。
 買って貰った時、父に「お前は大丈夫だとは思うが、目覚ましの音で起きてこない日が続いたら音を替えるからな」と脅されたものだ。「フライパンを叩く音が鳴るようにしてやるぞ」と。
 フライパンを叩く音はともかく、音声データ。一度も入れていないけれども…。
(ハーレイの声で起きてみたいよ)
 いいな、とブルーは考えた。アラームの代わりにハーレイの声。大好きでたまらないハーレイの声で起こされるのなら、素敵な夢を破られたって腹が立ったりしないだろう。
(朝ですよ、とか…。起きて下さい、とか…)
 前の生で何度もハーレイに優しく揺り起こされた。そうっと肩を揺さぶられながら、温かな声が降って来た。録音された声でもいいから、ああいう声に起こされたなら…。
(…幸せだよね?)
 うっとりと夢の世界に足を突っ込んでいると、部屋の扉が叩かれた。
「ブルー!? 起きて来ないと遅刻するわよ!」
 朝御飯はとっくに出来ているのよ、と母が呼ぶ声。いけない、今日は学校だった!



 大慌てでベッドを飛び出し、顔を洗って着替えを済ませて。朝食を食べて、背が高くなるように祈りをこめてミルクも飲んだ。いつものバスにも遅れずに乗り、学校へ。
 慌ただしかった朝だったけれど、三時間目の古典の授業でハーレイの声をたっぷり聞けて、姿も存分に堪能出来た。大満足な学校の日。
(これでハーレイが家に来てくれたら最高だけど…)
 平日でも仕事が早く終わるとハーレイが訪ねて来てくれる。そういう日には両親も一緒に夕食を食べて、ブルーの部屋で少し話も出来る。
(今日はどうかな?)
 宿題と予習をする間にも窓から下を何度も見下ろし、見慣れた車が来ないかと待った。前の生のハーレイのマントと同じ色の車。それが来たなら素敵な時間の始まりなのだが…。
(うーん…。この時間だともう、無理っぽいよね…)
 待っている間に、すっかり夕暮れ。時計の針もハーレイが来そうな時間を過ぎている。
(ちょっと残念…)
 無情な時間を示す時計を見ていて思い出した。朝、バタバタと部屋から駆け出した理由。
(そうだ、目覚まし時計のデータ!)
 どうやって入れるのだっただろうか。説明書なんて失くしてしまって、とっくに無い。それでも見れば分かるであろう、と目覚まし時計を手に取った。
(…えーっと…。多分、この辺がマイク…)
 機械には疎くて弱いのだけれど、素晴らしい使い方を見付けたからには方法を理解しなくては。あれか、これかと弄っている内に目的のボタンらしきものに辿り着いた。
(これかな?)
 カチリと押し込めば、微かな作動音。試しに「朝ですよ」とハーレイの声を真似てみる。前世で幾度も聞いていた声。優しく起こしてくれた声。
(…どうだろう?)
 慣れない手つきで更に操作し、アラームを一分後にセットしてみたら。
「朝ですよ」
(やった…!)
 ハーレイの声とは似ても似つかない自分の声。けれど夢のアラームへの記念すべき偉大な一歩を刻んだことには間違いない。次にハーレイが訪ねて来たなら、この手順。大好きなハーレイの声で目を覚ますために、あの穏やかな声を吹き込んで貰わなければ。



 ハーレイが家に来てくれた時は、とにかく目覚ましに音声データ。忘れないように心にメモして待つこと二日、土曜日の朝にハーレイが門扉の脇のチャイムを鳴らした。朝と言っても早過ぎない時間。ブルーの家の朝食が済んで、母が後片付けを終える頃合い。
「ブルー、おはよう」
 母の案内で二階に上がって来たハーレイを、ブルーは大喜びで部屋に迎え入れた。首を長くして待ったハーレイの来訪。母がお茶とお菓子をテーブルに置いて去ってゆくなり、嬉々として頼む。
「ねえ、ハーレイ。音声、入れてよ」
「音声?」
「この時計、アラームの音を替えられるんだよ。ハーレイの声で起きたいな、って思うんだけど」
 目覚まし時計を持って来てテーブルに置くと、ハーレイは「ふむ…」と腕組みをした。
「なるほどな。「起床!」でいいのか?」
「えーっ!? そんなんじゃなくて…」
「じゃあ、どんなのだ」
「…朝ですよ、とか…。起きて下さい、だとか…。前みたいなヤツ」
 前とはソルジャー・ブルーだった頃。しかしハーレイは快諾するどころか「はあ?」と呆れ顔になってしまって。
「前ならともかく、なんで今のお前に向かって敬語で起こさにゃならんのだ」
 子供相手には「起床」で充分、というのがハーレイの言い分。
「実際にお前を起こすにしたって、起床と叫ぶか、布団を引っぺがすくらいのことだな」
「そうなるわけ?」
「当たり前だろうが、優しく揺り起こす義務などは無い。言っておくがな、俺は教師なんだぞ」
 生徒を相手に指示を飛ばす立場にいる自分だから、ブルー相手でも容赦はしない。そう言われて悔しくなってきたから、ブルーは負けずに言い返す。
「だったら、恋人の立場で入れてよ! 前のとおりじゃなくていいから!」
 「起きろ」でもいいし、「朝だぞ」でもいい。優しく恋人を起こして欲しい。
 強請るブルーに、ハーレイが「お前なあ…」と小さな溜息をついた。
「起床と叫ぶ声ならともかく、恋人に言うような声って、お前…。お母さんに聞かれたらどうするつもりだ、俺たちの仲を勘ぐられるかもしれないぞ?」
「…そっか……」
 それは考えていなかった。確かに父や母が聞いたら変だと思われてしまうかもしれない。
 でも…。



 諦め切れないハーレイの声で喋る目覚まし。「起床!」と叫ぶ教師ではなく、恋人の声で優しく起こしてくれる目覚まし。
 暫し考えた末に、名案がポンと頭に浮かんだ。
「だったら、夜中に鳴らすから! そしてアラームと切り替えるんだよ、朝用のを」
 この方法なら大丈夫。ハーレイの声に起こして貰って、翌朝に備えて目覚ましをセット。
 素晴らしいアイデアだという気がしたのに、ハーレイは「駄目だな」と即座に却下してくれた。
「夜中に起きるなど論外だ。睡眠不足になってしまうぞ、子供はしっかり寝ないとな」
「…ダメなの?」
 ハーレイの声で起きてみたいのに。揺さぶる腕はついていなくても、あの声だけで嬉しいのに。何かいい方法は無いのだろうか、と更に考えを巡らせてみて。
「それじゃ、いい夢が見られそうな声を吹き込んでよ。ゆっくり眠れとか、おやすみだとか」
 そういう声なら夢は途切れはしないだろう。朝までぐっすり眠れる上に、きっとハーレイが出る夢もつく。それがいいな、と思ったけれども…。
「お前、目覚ましは何に使うか知ってるか? そんなのでどうやって起きる気だ」
 馬鹿か、と遠慮のない言葉を浴びせられた。ハーレイの鳶色の瞳が笑っている。
「…うー…。起きる気はあるけど…。あるんだけれど…!」
 けれどハーレイの意見は正しい。いい夢を見られる音声が流れる目覚ましでは目を覚ませない。起きるためには相応しい音やメッセージが欠かせないわけで…。
「ねえ、ハーレイ。二段構えの目覚ましっていうのは無いのかな…」
「ん? 最初の音で起きなかったら次の音、ってタイプのヤツか? あるにはあるが…」
 ハーレイはブルーの目覚まし時計を手に取り、あちこち触って調べてみて。
「この時計にはそういう機能は無いようだな。もう一つあったら出来るだろうが」
「もう一つ?」
「時計を二つセットするのさ、先に鳴る分と二度目の分だな」
「ぼく、買う!」
 二つ目の目覚まし時計を買うよ、とブルーは張り切って宣言した。でなければ二段構えになった目覚まし時計。一つ目の時計はハーレイの声で囁いてくれて、二つ目の時計のアラームで起きる。いい夢が見られるハーレイの声を眠っている間に聞くための仕掛け。
 これで完璧、と得意満面のブルーだったが、ハーレイはクッと喉を鳴らした。
「おいおい、お母さんに何と言い訳するんだ? 目覚ましが二つに増えた理由を」



 十四歳の小さなブルーは寝起きがいい。体調が悪い時を除けば、目覚ましの音で起きないことは皆無と言っても良いほどだったし、目覚まし時計は一つで足りる。
 自分のベッドで眠るようになり、自分で起きろと言われた時に父が買ってくれた目覚まし時計。それを今日まで使って来ていて、増やさねばならない理由など無い。もしも二つ目の時計を買って来たなら、母は不思議に思いそうだけれど。
「部屋の掃除はぼくだから!」
 掃除をするのは自分なのだし、気付かれることはないだろう。
 そう思ったのに、ハーレイは「さてな?」と揶揄うような視線を向けて来る。
「お母さんは絶対に部屋に来ないのか?」
「来ないよ!」
 ブルーは自信を持って答えた。この部屋はブルーの小さなお城。幼かった頃はともかくとして、今は自分で掃除をするから完全に独立した空間。母は掃除しに入って来ないし、学校へ行っている間にコッソリ覗きに来たりもしない。小さなブルーは優等生で、隠し事などしないのだから。
「ほほう…。そのお母さんなら、さっきお茶を持って部屋に来ていたようだが?」
「…そ、それは…」
 否定出来ないその事実。ハーレイが畳み掛けて来る。
「ついでに、お前が寝込んでいる時。お母さんが世話をしに出入りするんじゃなかったか?」
「……そうだけど……」
 さっき「絶対」と言い切った手前、ブルーはどんどん俯くしかない。ブルーのお城は実際の所は出入り自由で、母ばかりか父も入って来る。体調を崩して寝込んだ時には両親が交代で様子を見に来てくれるし、食事の世話もしてくれる。
 ベッドの脇に椅子を持って来て心配そうに座る両親。そんな二人が増えた目覚ましに気付かないとは思えない。気付けば当然、何故増えたのかと訊かれてしまう。
(…ハーレイの声を入れて貰ったなんて言えないよ…)
 それも起きるための音声ではなく、安眠用。両親が知ったら不審がられる。どうしてハーレイの声で眠りたいのか、理由をきっと追及される。
(……恋人だなんて、絶対、言えない……)
 言ってしまったら、知られたら、終わり。ハーレイと部屋で二人きりの時間は二度と過ごせず、下手をすれば自由に会えなくなる。会えたとしても監視付き。父か母かの目が光っていて、会話の中身も全て聞かれてしまうだろう。
(…それは困るよ…)
 目覚まし時計を二つ持つのは無理だった。大好きなハーレイの声で眠りたかったのに…。



 どうやら夢は叶いそうにない、ハーレイの声を眠りの中で耳にすること。
 叶わないなら、せめて本来の目覚まし時計の使い方。ハーレイの声で目覚めてみたい。父や母が聞いても安全なもので、なおかつ幸せな朝を迎えられるようなメッセージ。
「ハーレイ、目覚ましなら入れてくれるんだよね?」
「恋人用でなくていいならな」
 恋人用のはお断りだぞ、とハーレイが怖い顔をする。
「さっきも説明したと思うが、お前のお父さんとお母さんに聞かれたら大変だからな」
「…分かってる…。でも、目覚まし用って、「起床」だけなの? ホントにそれだけ?」
 もう少し何か欲しかった。「朝ですよ」ほどでなくても、「朝だぞ」でいい。恋人らしい甘さは無くていいから、穏やかに起こしてくれればいい。しかしハーレイが返した言葉は。
「起床と言ったら、それだけだが。…グラウンド五周とか、つけてやろうか?」
 俺の学生時代の基本だ、とハーレイは右手の親指を立てた。
「柔道にしても水泳にしても、よく合宿があったしな? そういう時には朝は「起床!」だ。凄い大声で叩き起こされて、着替えたら直ぐに走るんだぞ。懐かしの朝というヤツだ」
 それで良ければ入れてやる。どうだ?
 寄越せ、と時計に褐色の手が伸ばされたけれど、ブルーは「やだ」と背後に隠した。
「じゃあ、目覚ましには使わないから、何か甘い台詞。コッソリ聞くんだ」
 アラーム代わりに使わなければ、両親は決して気付かない。ハーレイの声が聞きたくなった時、目覚まし時計に録音されたメッセージを聞く。そうしておこう、と譲歩したのに。
「まだ言ってるのか。起床以外は絶対に入れん」
 入れてやらん、とハーレイの態度は冷たかった。こうなったら梃子でも動かないのがハーレイであって、キャプテンだった頃からそうだ。
(…ケチなんだから…!)
 両親にバレそうな使い方はブルーだって怖いからしたくない。だからハーレイの声を目覚ましに入れて一人で聞くだけ、ささやかな秘密の宝物。ハーレイの声で囁く時計。
(…ハーレイが吹き込んでくれないんだったら、録音してやる!)
 この部屋で何度となく恋人同士の会話をして来た。キスは駄目だと叱られるけれど、ハーレイの甘い言葉だけなら何度も聞いた。
(俺のブルーとか、俺の小さなブルーとか…)
 そんな言葉を拾えればいい。最初に押すのはこのボタン。それでマイクのスイッチが入る。
 ブルーは背後に隠した目覚まし時計を手探りでコソコソ操作した。ハーレイは気付いていないと思う。言いたいことだけ言ってくれた後は、のんびり紅茶を飲んでいるのだし…。



「ねえ、ハーレイ?」
 此処からは恋人同士の時間。
 甘える口調で呼び掛けながら、マイクのスイッチをオンにした。さあ、ハーレイはどんな言葉を自分に向けてくれるだろう?
 ドキドキと跳ねる心臓は期待に高鳴り、耳もウサギならピンと立たんばかり。補聴器の要らないブルーの耳に、スウッとハーレイが息を吸い込む音が聞こえて。
「起床ーっ! グラウンド、駆け足、五周!」
「ええっ!?」
 あまりのことに、ブルーはマイクをオフにするのを忘れた。「ええっ!?」と叫んだ自分の声も録音されたに違いない。慌てふためいてスイッチを切り、目覚まし時計を机に乗せる。
「…なんでバレたの?」
「バレないとでも思っていたのか、子供のくせに」
 ハーレイの大きな手が目覚ましを掴み、無情な音声が再生された。「起床!」とブルーの悲鳴のセットもの。ガックリと項垂れるブルーの姿に、ハーレイが「やれやれ」と頬を緩める。
「何をしようと考えてるのか、すっかり顔に出ていたぞ。…そういう間抜けな所もアレだが、もうちょっと器用に出来んのか。手でコソコソとやってりゃ分かる」
 サイオンはどうした、と言われたけれども、今のブルーはサイオンを上手く操れない。マイクのスイッチを入れるどころか、自分の背後がどうなっているかも分からない。それでは時計を弄れはしないし、だからこそ手を使い、見抜かれたわけで…。
「……ぼくが不器用なの、知ってるくせに……」
 恨みがましく呟いてみたら、ハーレイは「まあな」と笑みを浮かべた。
「その不器用さも俺は意外に好きなんだがな? 前のお前みたいにならなくていいさ、不器用だと安心してられる。…一人でメギドへ飛んで行ったり出来ないからな」
「……もうやらないよ」
 約束するよ、とブルーはハーレイの鳶色の瞳を見詰めた。
「ハーレイを置いて行ったりしないよ、それは本当。…それは約束するけれど……」
 こっそり録音はしたかった。大好きでたまらないハーレイの声。
 バレてしまって台無しになった分の代わりに、今度はもっと上手に録りたい。
 どんな言葉でもかまわないから、優しくて幸せになれる声…。



「…そうか、俺を置いては行かないんだな」
 いいことだ、とハーレイが満足そうに微笑む。
「前の俺を置いて一人で逝っちまった分はキッチリ反省してるってわけだ」
「…うん。ハーレイのことは大好きだから、もうやらない」
「よし。なら、御褒美をやらんとな。目覚ましを貸せ、一つ入れておいてやる」
「ホント!?」
 ブルーは顔を輝かせた。御褒美に入れて貰える声なら、きっと素敵なメッセージだろう。
 聞くだけで心が温かくなるような、ハーレイからの御褒美の言葉。甘くて優しい幸せな言葉。
「どんなの? 何を入れてくれるの?」
「慌てるな。思い切り元気になれるヤツだぞ、これで爽やかに目を覚ましてくれ」
「え?」
 待って、と言う前にハーレイの手がマイクをオンにした。肺いっぱいに空気を吸い込んで…。
「起床ーーーっ!!!」
 ビリビリと窓のガラスが震えそうな声。
 カチンとボタンを押し込んでマイクをオフにし、「どうだ?」と得意げに笑うハーレイ。
 泣きそうな顔で「酷いよ!」と抗議するのが精一杯だった小さなブルー。ハーレイは「子供にはこれが一番なのさ」と取り合ってくれず、暫く後にお茶のおかわりを持って来た母の言葉が更なる一撃をブルーに与えた。
「あらっ、目覚まし…。ハーレイ先生のさっきの声って、それだったのね?」
 明日から元気に起きられそうね、と母がブルーの肩に手を置く。
「ハーレイ先生に起こして貰えば身体も丈夫になるわよ、きっと」
「私もそういう気がしましてね…。全力で叫ばせて頂きました」
 グラウンド五周も付けましょうか、と母と笑い合っているハーレイ。母は「入れて貰えば?」とグラウンド五周なる台詞の追加を推す有様だし、目覚まし時計は悲惨なことになりそうだった。
(…なんでこういうことになるわけ?)
 ハーレイの甘い声で目覚めたいと思っただけなのに。
 優しく起こして欲しかったのに、これではまるで運動部員。
(…朝ですよ、とか…。起きて下さいとか、そういう台詞が欲しかったのに…!)
 脹れっ面をしようにも、目の前に母。ハーレイを睨むことすら出来ないブルーは気付かない。
 恋人の甘い言葉で目を覚ますには、今の自分は幼すぎるということに。
 いつか本物のハーレイの声に起こして貰える時が来るまで、気付きそうもない小さなブルー。
 そんなブルーが「起床!」の声を目覚ましに使って起きる日もまた、来そうになかった…。




           目覚まし時計・了

※ハーレイの声で優しく起こされたいブルーですけど…。そう簡単にはいかないようです。
 入れて貰った「起床ーっ!」の音声、使う日なんか来るんでしょうか…?
 ←拍手して下さる方は、こちらからv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv





PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]