シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
ぼくが寝込んでしまった時には、よくハーレイがスープを作りに来てくれる。凝ったスープとかいうんじゃなくって、ハーレイ曰く「野菜スープのシャングリラ風」。
前のぼくが好きだった野菜のスープ。ソルジャー・ブルーだったぼくが体調を崩して食欲が全く無くなった時にも、このスープだけは喉を通った。
初めてハーレイが作ってくれたのが、シャングリラ中で物資が不足していた時代だったから。
細かく刻んだ野菜を基本の調味料でコトコト煮込んだだけの、素朴なスープが精一杯。だけど、食べさせてくれるハーレイの優しさと心遣いとがとても嬉しくて、何よりも素敵な御馳走だった。どんなに弱ってしまった時でも、このスープだけは「欲しい」と思った。
ぼくの身体が、舌が覚えてしまったんだろう。
調理方法に工夫を凝らせるようになっても、昔のままの素朴な味わいが好み。ミネストローネ風とか、色々とハーレイが試してみたけど、それはそれで美味しかったのに最初の味が一番好み。
そういうわけで、前のぼくのためにハーレイが作る野菜スープは最後まで基本の調味料だけ。
今のぼくに作ってくれるスープも、全く同じ。ぼくのママは今でこそ慣れて何も言わないけど、最初の頃はハーレイに味付けなんかをあれこれアドバイスしたがったみたい。
野菜スープのシャングリラ風。
この間、ぼくが休んだ時にもハーレイが作りに来てくれた。ぼくの部屋まで持って来てくれて、ベッドに座って食べたんだけれど。その時にふと気が付いたんだ。
何故だか、前より凄く美味しい。
レシピは変わっていない筈なのに、凄く美味しいと舌が、身体が、心が弾んだ。
そういえば、前に食べた時にも「とても美味しい」と思った気がする。ぼくにとっては懐かしい味で、心に染み込むスープだったから、そういうものだと深く考えてはいなかったけれど…。
(…野菜と塩くらいしか入ってない筈だよ?)
隠し味に砂糖を少し入れると聞いた程度で、本当に基本の調味料だけ。煮込んだ野菜ならではの優しい味わいもあるだろうけど、それより他には何も無いスープ。
ママが作ってくれるポタージュスープやコンソメスープに敵うわけがないのに、どうして「凄く美味しい」と思うんだろう?
ひょっとしてハーレイ、レシピを変えた?
ぼくに内緒で、今の地球風の味にこっそりアレンジしちゃったとか…?
(…それはそれで別にいいんだけれど…)
今の今まで全く知らずに飲んでたわけだし、それで納得していたんだから、かまわないけれど。ぼくのために作りに来てくれるんだし、文句なんかは言わないけれど…。
ちょっぴり寂しいような気もした。
前のハーレイが、ぼくのためにしか作らなかったという野菜のスープ。ぼくのためだけの特別なスープ。その味がいつの間にか変わっていたなら、少し寂しい。
(…今のぼく専用の別のスープになっちゃった?)
前のぼく用とは違った味付けのスペシャルなスープも悪くはないけど、前のぼくのためのスープだって特別な味なんだ。前の生からのハーレイとの絆をそのまま受け継いだスープだから。
(…ハーレイと恋人同士になるよりも前から作ってくれてたスープだものね…)
まだハーレイが「優しくて頼りになる親友」で、恋人とは思っていなかった頃。心の底では既に恋をしていたんだろうけど、それとは気付いていなかった頃。
そんな頃から素朴な野菜スープは在った。ぼくとハーレイとの恋の始まりも、初めてのキスも、あのコトコトと煮込まれたスープは憶えているのに違いないんだ。
そういうスープの味が変わったなら、なんだか寂しい。ぼく専用でも、やっぱり寂しい。
(…ホントの所はどうなんだろう?)
ハーレイはレシピを変えてしまったのか、それともぼくの勘違いなのか。
(作ってる所を見られれば解決するんだけどね…)
前のぼくなら、スープを作っているハーレイが見えた。青の間のベッドに横たわったままでも、サイオンを使って見ることが出来た。
青の間の奥にあった小さなキッチン。其処で褐色の手が何種類もの野菜を器用に細かく刻んで、鍋でコトコト煮込んでいた。塩を入れて味を見て、それから多分、砂糖を少し。
(前のぼくは何度も見ていたのに…)
サイオンに関しては不器用すぎる、今のぼく。
近い所ならなんとかなっても、一階にあるキッチンなんて頑張ったって何も見えやしない…。
覗き見することは不可能なのだ、と分かっているから。
レシピを変えたか訊くのもいいけど、どうせなら強請ってみようと思った。遙かに遠い記憶しか無い、スープを作っているハーレイの姿。それを目の前で見たいと思った。
そうすればレシピが変わったのかどうか一目で分かるし、料理をするハーレイも見られるし…。一石二鳥の素敵なアイデア。これは頼んでみないといけない。
早速、週末に来てくれたハーレイとぼくの部屋で向かい合いながら切り出した。
「ねえ、ハーレイ。この間、作ってくれた野菜のスープだけれど…」
「シャングリラ風か? どうした、この前のは不味かったか?」
「ううん、そうじゃなくて…」
美味しかったよ、と御礼を言ってから「お願い」とペコリと頭を下げた。
「ハーレイ、一度作る所をぼくに見せてよ。あれを作っている所」
「スープをか?」
ハーレイはポカンと口を開けた。
「おいおい、お前のお母さんに何て説明すればいいんだ。キッチンを借りて、お前の前でスープを作るって…。そいつは調理実習か?」
俺は古典の教師なんだが。
古典の授業に調理実習は含まれていないと思うんだが…。
昔の行事に関連している菓子なんかを持ち込むことはあるがだ、俺が作って出すわけじゃない。
なんだってスープを作って見せねばならないのだ、とハーレイに呆れられてしまった。
一石二鳥になる筈だった、ぼくのアイデアは微塵に砕けた。
だけど料理をするハーレイの姿を見てみたかったし、諦めずに果敢に挑戦してみた。
「じゃあ、お菓子とか…。古典の授業で出て来るようなお菓子なら、いい?」
「柏餅だの粽だのか?」
「うん、そういうのでかまわないよ」
柏餅と粽。ぼくとハーレイが再会した二日後、五月五日の古典の授業で出されたお菓子。ぼくは聖痕現象とかいう前の生での最期に撃たれた傷痕からの大量出血のせいで学校を休んでいたから、食べ損ねてしまって悔しかったお菓子。
ハーレイの居る教室で食べられる筈だった柏餅と粽。
それがいいや、と喜んだのに。
「お菓子だったら、お母さんに習えばいいだろう。柏餅も粽も季節外れだが、なんとかなるさ」
「ぼくはハーレイが作る所を見たいんだよ!」
ハーレイは自分の家で料理をしている。一度だけ遊びに出掛けた時には、お昼御飯にシチューを御馳走してくれた。メギドの夢を見たぼくが眠ったままハーレイの家まで瞬間移動をしてしまった時は、朝御飯にオムレツを作ってくれた。
それから、ぼくが財布を忘れて登校した日に食べさせて貰った豪華弁当。ハーレイのこだわりの煮物や焼き物、炊き込み御飯まで詰まっていた。
料理が得意な今のハーレイ。
前のハーレイも料理は得意だったけれど、キャプテンになってからは野菜スープを作る程度で、アルタミラからの脱出直後にやっていたような食料の在庫を睨みながらの料理はしなかった。
あの時代のハーレイの料理は実に見事で、同じジャガイモでも茹でたり揚げたり、手を加えては皆を飽きさせないようにしていたものだ。その気配りも後にキャプテンに選ばれた理由の一つ。
今のハーレイは楽しんで料理をしているのだから、前よりも遙かに腕が上がっているだろう。
野菜スープのシャングリラ風のレシピを変えたかどうかはともかく、ハーレイの料理を見たいと思う。作る料理は何でもいいから、キッチンに立っている姿。
「お願い、ハーレイ。…一度でいいから見てみたいんだよ、ハーレイが料理している所…」
一度だけでいいよ、と頼んだのに。ハーレイの返事は素っ気なかった。
「前のお前にも見せていないと思うんだが? 俺がキャプテンになるより前はともかく」
「えっ?」
ハーレイがキャプテンになる前は確かに見ていた。限られた食材で様々な料理を作り出してゆくハーレイを手伝って、ジャガイモの皮を剥いたこともあった。涙をこらえてタマネギも刻んだ。
それはぼくがハーレイと一緒に厨房に立っていた時代。茹でたりする隣に居た時代。
でも、キャプテンになって調理担当から外れた後にも野菜スープを作ってくれたし、いつだってそれを眺めていた。野菜を細かく刻んでゆくのも、コトコト煮込んでいる所も。
「ハーレイ、ぼくはちゃんと見てたよ? 野菜スープを作ってる所」
「…そいつはお前が勝手に見ていただけだろう?」
お前、キッチンには居なかったぞ。
ベッドで寝込んでいたんじゃないのか、だからこその野菜スープだろうが。
「そうだっけ?」
そんな筈ないよ、とハーレイの思い違いを正そうと口を開きかけて思い出した。
ぼくはハーレイの隣で見ていたわけじゃない。サイオンでキッチンを眺めていただけで、ぼくの身体はベッドの上。ハーレイは青の間のキッチンで一人でスープを作っていたっけ…。
「…そうだったみたい…。ぼく、サイオンで見ていただけなんだ…」
「ほら見ろ、俺は嘘なんか言わん」
俺が料理をしている所を見たいのなら、だ。
四の五の言わずにサイオンを磨け。
そうすれば俺が野菜スープを作りに来た時、いくらでも覗き放題だろうが。
「そうなるわけ? ハーレイ、見せてくれないの?」
「俺は古典の教師であって、だ。調理実習は担当外だ」
どうしても見たいならサイオンを磨いて頑張るんだな、目標は一階のキッチンだ。
あっちの方だ、と指差されたけど、やっぱり何にも見えなかった。ママがお昼御飯の用意をしている姿も、どんな食材が並んでいて何が出来そうなのかも。
絶望的に不器用なぼくのサイオン。
ハーレイがキッチンに立ってくれても、何も見えそうにないぼくのサイオン…。
心底ガッカリしたんだけれども、出来ないものは仕方ない。
サイオンを磨けと言われたところで、磨き方だって分からない。もうお手上げになった、ぼく。
料理をするハーレイの姿は見られそうもないから、切っ掛けになった気になることだけをズバリ訊いておくことにした。これだけは絶対に知りたかったし、訊かなくちゃ…。
「ハーレイ、料理は諦めるから…。一つ教えてよ」
「何をだ?」
「えっとね…。ハーレイ、今の野菜スープって、レシピは変えていないよね?」
「レシピ?」
ハーレイは怪訝そうな顔をした。
「なんだそれは? いったい、何の話だ」
「野菜スープのシャングリラ風だよ」
いつものスープ、とぼくはハーレイの鳶色の瞳を見詰めて尋ねた。
「この間も作りに来てくれたよね? その後で気が付いたんだけど…。見た目は前の野菜スープとおんなじなのに、前よりも凄く美味しいんだ。…なんで?」
「前って、その前に作ったヤツか?」
「ううん、前のぼくが飲んでた野菜スープよりもずっと美味しいんだよ」
ハーレイ、レシピは変えていない、って最初の時に言ったのに…。
だから変えないだろうと思っていたのに、知らない間に変えちゃった?
ぼくが気付いていなかっただけで、ずいぶん前から変わっちゃってた…?
「なるほどなあ…。そういうことか」
それで作る所が気になり始めて、欲張って俺が料理する所を見たくなったな?
ハーレイの言葉は図星だったから、ぼくはコクリと頷いた。そしたらハーレイは「はははっ」と可笑しそうに笑って、ぼくの頭をクシャクシャと撫でた。
「うんうん、お前は実に可愛い。欲張りな所も可愛くていいな」
それから嬉しそうに目を細めながら。
「俺はレシピを変えていないぞ、前のお前との約束だしな? あの味がいいと言っただろうが」
「でも…。でも違うんだよ、ホントのホントに変えてない?」
「ああ、変えていない」
お前に黙って変えはしない、とハーレイはキッパリ断言して。
「それでも味が違うと言うなら、そいつは多分…。地球のせいだな」
「地球?」
どうして地球のせいなんだろう。
圧力は料理に関係するけど、シャングリラの気圧は地球と同じに調整してあった筈。座標すらも知らなかった地球だけれども、アルテメシアの気圧は地球のそれと同じ。地獄だったアルタミラの気圧も地球と同じで、それが人間が暮らす惑星の基本。
ナスカの空気は希薄だったと今のハーレイに聞いたけれども、そのナスカなら与圧しないと味が変わるだろうけど、地球のせいで味が変わるだなんて…。
変な話だ、と首を傾げて考え込んでいたら、ハーレイは「分からないか?」と窓のガラスを軽く叩いた。窓の外に何かあっただろうか?
「見ろ、本物の地球の太陽だろうが。味を変えたのは地球の光だ、それに水と土だ」
シャングリラの中とは違うんだ、とハーレイが穏やかな笑みを浮かべる。
「人工の光や本物の風が吹かない畑で育った野菜は、どんなに上手に育てても違う。…俺たちにはそれが普通だったし、それが野菜の味だと思っていたんだが…」
ナスカの野菜は美味かったんだぞ。
ゼルはトマトを投げ捨てたりもしたが、本当はとても美味かった。
本物の地面で育った野菜は、まるっきり味が違うんだ。
「ナスカじゃ空気が薄すぎたからな、露地栽培は出来なかったが…。それでも格段に美味かった。それがどうだ、今じゃ本物の地球の太陽を浴びて育った野菜を使った野菜スープだ」
美味くないわけがないだろう?
前のお前が食ってた野菜の何十倍、いや、何百倍も美味い野菜を贅沢に使うんだからな。
「そっか…。美味しいのは地球のせいだったんだ…」
野菜スープの味を変えたのはレシピじゃなくって、使われた野菜の味だった。
前のぼくが焦がれた青い地球。前のぼくたちが生きていた頃には何処にも無かった青い地球。
蘇った地球の水と大地と、降り注ぐ本物の地球の太陽とで育った野菜。
前のぼくが夢見た、青い地球の野菜。
ハーレイが言う通り、それが美味しくないわけがない。
野菜スープのシャングリラ風は野菜も味の決め手なのだし、美味しい野菜なら美味しく出来る。わざわざレシピを変えなくっても、最高の味が出来上がる。
そうか、地球か、と、ぼくは納得したのだけれど…。
(…地球だけじゃないよ)
青い地球で育った美味しい野菜。
地球の大地で地球の水を吸い上げて、太陽の光をふんだんに浴びて育った野菜。
前のぼくの夢だった地球で採れた野菜は、野菜スープのシャングリラ風の最高の調味料だけど。最高の旨味成分だけれど、それだけじゃない。
他にもっと、もっと大切な調味料があったと気が付いた。
野菜でさえも信じられないくらいに美味しく育つことが出来る、青い水の星、地球。
その地球の上に、前のぼくが焦がれた青い地球の上に、ハーレイと二人。
人が皆、ミュウとなって争いもSD体制も無くなった平和な宇宙に、ハーレイと二人。
ハーレイと一緒に生まれ変わって来て、毎日のように地球の上で会える。
まだ二人一緒には暮らせないけれど、今日みたいに会えて、二人で幸せな時間。
そんな暮らしが、そんな毎日が野菜スープを美味しくするんだ。
ハーレイが作ってくれる野菜スープのシャングリラ風を、シャングリラに居た頃よりも、もっと美味しく、ずっと美味しく…。
そう、この幸せな日々と時間が何にも勝る調味料。
地球で育った野菜よりももっと大切で素敵な、美味しくするための調味料…。
「ハーレイ、野菜スープが美味しくなったの、野菜が美味しいからだけじゃないよ」
分かったんだよ、と大発見をハーレイに笑顔で話した。
ハーレイと二人で地球に居るから、野菜スープは美味しくなった、と。
前の生での何倍も何十倍も、ううん、何百も何千倍も。
「絶対、ハーレイと一緒だからだよ。ぼくがとっても幸せだからだよ」
「なるほどな…。今でもそうなら、俺と結婚した暁には更に美味くなるというわけか」
ハーレイが「そういうことだな?」と訊いてくれたから、「うん」と大きく頷いた。
大好きなハーレイと結婚したら。
一緒に暮らせるようになったら、野菜スープのシャングリラ風は今よりももっと美味しくなる。ハーレイが作ってくれる所も、きっと見られるようになる。
もっとも、せっかくハーレイと暮らしているのに、あまり寝込みたくはないけれど。
それでも身体の弱いぼくだから、やっぱり寝込んでしまうんだろう。そしてハーレイがスープを作ってくれる。野菜スープのシャングリラ風を、地球の美味しい野菜を使って。
(…そうだ、野菜…!)
素晴らしいアイデアが閃いたから、ぼくはハーレイに提案した。
「野菜スープを作るんだったら、庭で作った野菜だったらもっと美味しいと思わない?」
ハーレイと二人で美味しい野菜を育ててみたい。
もちろん沢山は作れないだろうし、野菜スープを何回か作れば無くなってしまいそうだけど。
「ふむ。…お前用の野菜スープ専用の野菜を育てる畑か」
いいかもしれんな、とハーレイの唇に楽しげな笑みが浮かんだ。
「農作業は健康にいいんだぞ? お前も丈夫になるかもしれんな、野菜スープが要らんくらいに」
そうなったら野菜は二人で食うか。
サラダも美味いが、野菜の料理は実にバラエティー豊かだからな。
煮て良し、焼いて良し、炒めて良しだ、とハーレイはパチンと片目を瞑った。
「野菜スープが要らなくなったら、美味い料理を食わせてやろう。四季折々の野菜もあるしな」
「えっと…」
それって、野菜スープが要らなくなることが前提だろうか?
ぼくが丈夫にならなかったら、ハーレイ御自慢の野菜料理の出番は無いの…?
ちょっと困る、と縋るような目でハーレイを見たら。
「なんだ、普通に野菜料理も食いたいのか? 野菜のスープだけじゃなくて、か」
「うん…。ハーレイの得意料理を食べてみたいよ」
「よし。なら、頑張って早く大きくなってくれ。結婚したら食わせてやるから」
「うんっ!」
結婚して一緒に住むようになったら、ハーレイお得意の野菜の料理。
ぼくとハーレイと二人で育てた庭の野菜で、野菜スープだけじゃなくって野菜の料理…。
(…どんな料理が食べられるのかな?)
野菜スープが今よりもグンと美味しくなるに違いない、ハーレイと二人で暮らす家。
その家の庭で採れた野菜でハーレイが料理をしてくれる。前のハーレイより料理の腕が上がったハーレイ。こだわりの豪華弁当だって作れるハーレイ。
(きっと最高に美味しくて、幸せになれる料理なんだよ)
ハーレイと二人で食べられるのなら、簡単な料理でもきっと美味しい。
トウモロコシを茹でただけでも、ジャガイモをふかして塩やバターで食べるだけでも。
凝った料理も素敵だけれども、食材の良さを生かした素朴な料理も美味しいと思う。
野菜スープのシャングリラ風はそういう料理で、前のぼくのお気に入りだったから。今のぼくも大好きで、レシピが変わったかもしれないと考えただけで寂しくなったくらいだから。
(…レシピが変わってなくて良かった…)
ハーレイとぼくとを遠い昔から繋いでくれていた絆の料理の、野菜スープのシャングリラ風。
恋人同士になるよりも前から、ハーレイが作ってくれていたスープ。
今も変わらないレシピが嬉しい。
それなのに美味しく変えてしまった、青い地球の恵みと幸せという名の調味料。
いつかハーレイと暮らす家で味わう時には、もっともっと美味しく感じるだろう。
寝込んでしまってもきっと幸せ、ハーレイと一緒に居るというだけで最高に幸せな未来のぼく。
庭にはハーレイと二人で作った家庭菜園があるに違いない。
何を植えようか、育ててみようか。ねえ、ハーレイのお勧めは、なに……?
美味しさの秘密・了
※地球で育った野菜の美味しさ。野菜スープのシャングリラ風も美味しくなるのです。
素朴すぎる野菜スープなだけに、味の違いが分かりやすいのかもしれませんね。
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