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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

見るなの扉

    ※葵アルト様のシャングリラに住むブルーとハーレイ、「ぶるぅ」のお話です。
     シャングリラ学園シリーズと直接の関係はございません。
     内輪で公開しておりましたが、ハレブル別館オープン記念に蔵出ししました。
     思い切りおバカ仕様です。
     

 

 

 

 悪戯と大食いとグルメ、ショップ調査が生甲斐の五歳児、「ぶるぅ」。
アルテメシアに花見のシーズンが近づき、花見弁当の下見を兼ねてアタラクシアの街で食べ歩いて
からシャングリラへ戻ってきたのだが…。


「あれ?」
 出掛ける前に『おでかけ』の札を下げておいた筈の部屋の扉が無くなっていた。瞬間移動する
先を間違えたのか、と慌てて目印になる居住区へ飛び、そこから出直してみたものの。
「…あれれ?」
 やはり扉は見当たらない。これは歩いてやり直した方が良さそうだ。食べ過ぎたせいで瞬間
移動に誤差が生じてしまったのだろう。仕方なく居住区まで戻り、トコトコ歩いて見慣れた
通路に入ったのに。


「……お部屋がない……」
 両脇の部屋の扉はちゃんとあったが、自分の部屋の扉が無かった。代わりに壁が広がっている。
曲線を描く天井まで続く無機質な壁で、部屋があったという形跡すら無い。住み慣れた部屋も、
お気に入りの土鍋の寝床も何もかも消えてしまったのだ。
「ど、どうしよう…。うわぁぁぁん、ぼくのお部屋が無くなっちゃったぁ~!」
 ポロポロと大粒の涙が零れ、「ぶるぅ」はおんおん泣き始めた。日頃カラオケで鍛えた喉は
半端ではなく、通路がビリビリ震えている。声を限りに泣きじゃくっていると…。
「や、やっぱり…! すまん、気付くのが遅かった」
 まだ帰らないと思っていたのだ、と謝りながら走って来たのはハーレイだった。

 

 

 

「つまり、アレだ。…シャングリラ学園のぶるぅの部屋と同じ仕掛けだ」
 部屋が無くなったわけではない、とハーレイは壁を指差した。
「よく集中して見るといい。此処に紋章があるだろう? これが転移装置になっている」
 シャングリラの船体やクルーの制服にあるのと同じ紋章に褐色の手が触れたかと思うと、
ハーレイはいなくなっていた。慌てて紋章に小さな手を伸ばすとフワリと浮き上がる感じが
あって…。
「あっ、ぼくの部屋だ!」
 そこにはいつもと変わらない部屋。いや、一つだけ違うのは扉が無くなっていることで…。


「ビックリさせて悪かった。だが、ブルーは言い出したら即、実行だからな」
「ブルーがやったの?」
「正確には工作班にやらせたと言うべきか…。これは実験用らしい。青の間でやろうとして
いたんだが、ゼルたちが他の場所で安全性を確認すべきだ、と」
「実験用? なんで?」
 何をするの、と目を丸くする「ぶるぅ」に、ハーレイは少し困った顔をして。
「青の間の入口の仕掛けは知ってるな? 入られたくない時はロックしておく」
「うん、知ってるよ」
「この前、ブルーが忘れただろう? そこへノルディが様子を見に来て…」
「思い出した、大人の時間をやってた時だね!」
 大騒ぎだったから覚えているよ、とニッコリ笑う「ぶるぅ」。この小さな子に目撃された
修羅場を思い返して、ハーレイは深い溜息をついた。

 

 

 

 それは一週間ほど前のこと。ソルジャー・ブルーは「長老たちとの花見の宴に備えて酒を
吟味する」という大義名分の元、人類側から失敬した大量の酒を居室の青の間に運び込んだ。
そして利き酒を始めたのだが、酒好きのブルーが利き酒だけで酒瓶を放す筈が無く…。


 記録係をしていたハーレイの制止も聞かずにブルーは次々と酒瓶を空にしていった。そこ
まではいい。よくあることだ。だが、その日ブルーが持ち込んだ酒は様々な種類が入り乱れて
いたらしく、いわゆる「ちゃんぽん」状態となった挙句に泥酔、翌日の朝は二日酔い。


 流石のブルーも酷い吐き気と頭痛に悩まされた末、メディカル・ルームの扉を叩いた。
ドクターの診断結果は「通常の人間なら急性アルコール中毒レベル」。ブルーは点滴を受ける
羽目になり、安静を申し渡されたのだが…。
「ねえ、ハーレイ」
 赤い瞳がハーレイを見上げたのは、その夜のこと。勤務を終えて青の間へ見舞いに訪れて
みれば、ブルーは心なしか潤んだ瞳で。
「…寝てるだけって退屈なんだよ、今日一日で思い知ったさ。なのに明日まで寝てろだなんて…。
退屈な病人を慰めてくれてもいいだろう? ほら、まだ身体がこんなに熱い。…もっと熱くして
くれないかな?」
 息があがってしまうほど、と普段よりも熱い手で握り締められたハーレイの手首から熱が
広がる。ブルーの体温は常に低くて触れると冷たく感じるのだが、その日はいつもと異なって
いた。誘うように熱く絡み付き、ハーレイの中の雄を煽ってゆく。後はもう……堕ちるだけ
だった。

 

 

 

「何をしてるんです、あなた方は!」
 ノルディの怒声が青の間に響き渡るまでの間に何回昇り詰めただろう? 我に返れば
ブルーは全裸の自分に組み敷かれたまま浅い息をしていて、ぐったりと手足を投げ出して
いる。そういえば見舞いに来たのだった、と思い出した時にはもう手遅れで。
「まったく…。お休みになる前に診察しようと来てみれば…。どうするんです、こんなに
消耗させて!」
「す、すまない…」
「…いい…んだ、ぼくが……ぼくから…誘って…」
「病人は黙っていて下さい!」
 長老の皆様にバラしますよ、と脅迫しながらノルディがブルーの腕に栄養剤を注射する。
ハーレイとブルーが「いい仲」なことはシャングリラ中にバレバレだったが、ハーレイは
気付いていなかった。ブルーを診察する機会があるドクターだけが知っている、と頑なに
思い込んでいる。


「いいですか、今度こそ絶対安静です。キャプテンは自制が効かないようでらっしゃいますから、
当分の間、此処へは立ち入り禁止で。…それと、そろそろ服を着て頂けませんか? 私は裸は
見飽きております」
 言われて初めて真っ裸なことに気が付いた。ブルーは夜着を着せられているのに自分は裸だ。
足の間には行き場を失った哀れな息子が潮垂れてションボリぶら下がっていて…。
 床に脱ぎ棄ててあった服をアタフタと身に着ける最中に、まん丸い瞳と目が合った。ベッドの
傍に置かれた土鍋の蓋が開き、「ぶるぅ」が顔を覗かせている。冷暖房完備の防音土鍋だったが、
あまりの修羅場に誰かのサイオンが乱れ、叩き起こしてしまったのだろう。
 ハーレイは思い切り恥ずかしかった。身も世もなく情けなく、いたたまれなかった。制服を
着てマントを着けると「申し訳ない」とだけ言葉を残して、逃げるように走り去ったのである。

 

 

 

 そのド修羅場から一週間。
 ブルーに反省の色は全く無くて、自分が扉をロックするのを忘れたことのみを悔やんでいて。
「…このシステムが悪いと思うんだよ」
 変更すべきだ、とブルーはハーレイに提案した。
「扉があるとロックが要るし、ロックするのを忘れてしまうと悲惨な結果になるからねえ…」
「しかし、扉を無くすわけには…」
「ほら、いい見本があるじゃないか。シャングリラ学園のぶるぅの部屋だよ。ああいう風に扉を
無くせば、入って来る時には仕掛けが必要。ぼくとお前とぶるぅ以外の誰かが仕掛けを使おうと
するとアラームが鳴るっていうのはどう?」
 実にいいことを思い付いた、と得意そうなブルーは早速それを実行に移すべく行動中という
わけだ。そのための試験運用の場として普段から人の出入りが少ない「ぶるぅ」の部屋に白羽の
矢が立った。「扉が無いのが当たり前」の部屋が問題無ければ、青の間の扉も廃されるらしい。


 そうしたいきさつを聞かされた「ぶるぅ」は「ふうん…」と扉が消えた壁を眺めて。
「で、どうなるの? いつまでこのまま?」
「さあな…。ブルーの気分次第だろう。青の間の扉がどうなるか知らんが、お前の部屋で
実験中だというのを忘れずに思い出して貰えるといいな」
 忘れられたらこのままだぞ、と言われて「ぶるぅ」は涙目になった。部屋が好きなのは勿論
だったが、扉に『おでかけ』の札を下げるのも好きなのだ。遊びに出掛けて留守だもん、と
アピールしたいのが子供心というヤツで…。
「…ぼくのドア、返してほしいんだけど…」
「それはブルーに頼むんだな。忘れないように元に戻してね、と毎日土下座するといい」


 私がベッドにいない時に、と釘を刺すことをハーレイは忘れはしなかった。あんな修羅場は
二度と御免だ。おませで無邪気な丸い瞳に覗かれるのもお断りだ、と心の中で叫ぶハーレイと
ブルーの『大人の時間』がその後どうなったのか、青の間と「ぶるぅ」の部屋の扉はどう
なったのか…。
 答えはブルーが知っている。勇気ある人は直接尋ねてみるといい。
「あの件はその後、どうなりましたか…?」

 

 

 


                     見るなの扉・了

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