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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

怖すぎるパイ
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




食欲の秋です、これから色々と美味しい季節。学校がある日は放課後が楽しみ、お休みの日はお昼御飯も晩御飯も。お料理大好き「そるじゃぁ・ぶるぅ」が腕を奮ってくれてますから、普段だって充分に美味しいんですけどね!
今日も放課後、みんなで「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ出掛けて。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日はカボチャのパウンドケーキなの! と迎えてくれた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。紅茶やコーヒーも出て来て、楽しいお喋りタイムが始まりましたが…。
「えとえと…。今度の土曜日なんだけど…」
ちょっとお料理作ってもいい? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が質問を。
「ちょっとって…。なんだよ、土曜日、出前の予定でもあったかよ?」
聞いてねえけど、とサム君が言って、ジョミー君が。
「いつも、ぶるぅの料理だよ? 作っていいかって訊かれても…」
「作らなくてもいい? という質問なら分かるがな」
まるで逆だな、とキース君。
「何か作りたいものでもあるのか、俺たちに断った上でないとマズイとか、そういうのが」
「ぶるぅの料理が不味いなんてこと、ありましたっけ?」
ぼくの記憶では一度も無いです、とシロエ君が。
「変わった料理に挑戦してみた、って言ってる時でも必ず美味しいですけどね?」
「だよねえ、そこは間違いないよね」
どんなものでも美味しいし、とジョミー君が頷き、スウェナちゃんも。
「百パーセントって言えるレベルよ、どんな料理でも美味しいわよ」
「ぼくもそうだと思います。うちのシェフより腕は上ですよ」
間違いなくプロ級の料理ですから、とマツカ君も太鼓判を押しました。
「アレンジだって上手いですしね、どんな料理をしようとしているのかは知りませんけど…」
「わざわざ断らなくてもなあ?」
いいんでねえの、とサム君がグルリと見回し、「うん」と頷く私たち。
「ホント? 作っていいの?」
土曜日のお昼御飯にしてみたいけど、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。お昼御飯なら軽めのお料理か何かでしょうか、今の季節だと食材も色々ありますもんね?



土曜日のお昼に作ってくれるらしい、何かの料理。前もって訊かれると気になりますから、どんな料理か尋ねてみようかと思っていたら。
「ぶるぅ、作りたいのは何の料理だ?」
一応、参考までに聞いておきたい、とキース君が切り出してくれました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコッと笑って。
「えっとね、パイだよ、伝統のパイ!」
紅茶の国のパイなのだ、という返事。紅茶の国と言ったらアフタヌーンティーの国、でもでも、食事はとっても不味いんでしたっけ?
「…なるほどな…。あの国のパイか、それは訊かれても納得がいく」
美味い料理は朝飯しか無いと昔から言われているらしいしな、とキース君。
「やたら貴族が多い割には、どうにもこうにも酷いと聞くし…」
「何故なんでしょうね、貴族だったら美味しい料理も食べ放題だと思うんですけど…」
シロエ君が首を捻ると、会長さんが。
「説は色々あるけどねえ…。貴族の味覚音痴ってヤツが根源にあるって話もあるね」
「「「味覚音痴?」」」
なんですか、それは? 美味しい物を食べれば舌は肥える一方、一般人なら分かりますけど、貴族が味覚音痴だなんて…。
「今の時代は大丈夫だろうと思うけれどさ…。昔が酷かったらしいんだよ、うん」
会長さんが言うには、貴族の仕事はいわゆる社交。子育ては使用人にお任せ、子供部屋だって大人の部屋からは完全に隔離状態だったらしく。
「そういう所で子供たちが食べてた食事が不味かったんだと言われているねえ…」
オートミールのポリッジとかね、と会長さんが挙げた不味い食べ物の代表格。そういったもので育った子供の味覚がマシになる筈がなくて。
「そのまま大人の社会に出たって、不味い料理で満足なんだよ、そういう子供は」
「「「うわー…」」」
それはヒドイ、とイギリス貴族に同情しました。不味い食事で育ったばかりに、成長しても不味い料理でオッケーだというわけですか!
「らしいよ、もちろんグルメもいたけど…。そんな人は別の国から来たシェフを雇うんだよ!」
フレンチの国から本場のシェフを、という説明。とどのつまりが、紅茶の国では料理人の腕ってヤツからしてもダメダメなんだということですね?



味覚音痴な貴族と腕が駄目なシェフ、それのコラボが不味いと評判の紅茶の国の最悪な料理。そうなってくると、腕のいい「そるじゃぁ・ぶるぅ」が同じ料理を作るとなったら…。
「美味いんでねえの、元の料理は最悪でもよ」
ぶるぅだしな、とサム君がグッと親指を。
「舌は肥えてるし、腕はいいんだし、絶対、美味いのが出来るって!」
「そうだな、ぶるぅのパイは美味いしな。…それに、あの国のパイにしたって…」
ミートパイはけっこうイケる筈だ、とキース君。確かにミートパイは美味しいです。あの国で生まれた料理ですよね、ミートパイ?
「うん、ミートパイはあの国だねえ…。クリスマスプディングとかと同じで」
伝統料理、と会長さんが答えてくれて、シロエ君が。
「それなら、ぶるぅのパイにも充分に期待出来そうです。…どんなパイなんですか?」
伝統のパイにも色々あるんでしょうけど、という質問に「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「んーとね、お祭り用…なのかな?」
「「「お祭り?」」」
「その時だけ作るパイなんだって! 今はそうでもないらしいけど…」
ああ、ありますよね、その手の伝統料理ってヤツ。昔はこの時期しか食べなかった、っていうのが年中食べられるだとか、そういうの…。
「お魚のパイで、漁師さんに感謝でお祭りなの!」
「「「は?」」」
魚料理は漁師さんがいないと無理ですけれども、そこで感謝のお祭りまでしますか、伝統料理のレベルとなったら毎年やってるわけですよ?
「そだよ、十六世紀って言うから、ぼくもブルーもまだ生まれてない頃のお話!」
そんな昔からあるお祭りなの! と説明されると、ますます気になるお祭りの由来。漁師さんに感謝し続けてウン百年って、その漁師さんは何をやったと?
「お魚を獲りに行ったんだよ! クリスマスの前に、たった一人で!」
勇気のある漁師さんのお話、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が語った話はこうでした。魚が食卓のメインだった漁村で海が荒れまくったクリスマス前。このままでは皆が飢えてしまう、と船を出したのが勇気ある漁師。充分な量の魚を獲って戻って、皆は飢えずに済んだのだそうで…。
「それで魚のパイを作ってお祭りなの!」
分かった? と訊かれて、全員が「はいっ!」と。そういうお祭りならば納得、土曜日は魚のパイらしいです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の腕に期待で、楽しみになってきましたよ~!



伝統ある魚のパイが食べられると聞いた土曜日、私たちは揃って朝から会長さんの家へ出掛けてゆきました。どんなパイだか、誰もがワクワクしています。
「美味いんだろうなあ、ぶるぅが作ってくれるんだしよ」
ド下手な料理人と違って、とサム君が言えば、ジョミー君も。
「プロ並みだもんね、きっと貴族が食べてたヤツよりずっと美味しくなるんだよ!」
「俺もそう思う。…魚のパイなら、きっと見た目もゴージャスだろうな」
スズキのパイ包みだとか、あんな感じで、と例を挙げられて高まる期待。魚を料理してパイ皮で包んで、パイごと魚の形に仕上げる料理はパーティーなんかにピッタリです。
「昼御飯からゴージャスなパイはいいですねえ…!」
最高に贅沢な気分ですよ、とシロエ君が言った所で部屋の空気がフワリと揺れて。
「こんにちはーっ! 今日は伝統のパイなんだってね!」
ぼくも食べたい! と現れたソルジャー、今日もシャングリラは暇みたいです。正確に言えば、ソルジャーが暇にしているというだけで、ソルジャーの世界のシャングリラに休日は無いんですけど…。土曜も日曜もキャプテンは出勤、それでソルジャーが来るんですけど…。
「…君まで来たわけ?」
会長さんが顔を顰めても、ソルジャーの方は悠然と。
「いいじゃないか、別に食べに来たって…。それより、おやつ!」
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
わざわざ食べに来てくれたんだあ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキッチンの方から飛び跳ねて来ました。パイの支度を抜けて来たようです。
「はい、おやつ! 栗たっぷりのタルトなんだけど…。それと紅茶と!」
「ありがとう! ぶるぅはパイを作ってたのかい?」
「うんっ! 後はオーブンに入れるだけだよ!」
下ごしらえは済んだから、と流石の手際良さ。ソルジャーも「凄いね」と褒めちぎって。
「凄く歴史のあるパイらしいし、食べさせて貰おうと思ったんだけど…。なんていうパイ?」
名前がついているのかな、という質問。そこまでは誰も気が回ってはいませんでした。単なる魚のパイというだけ、やはりソルジャー、歴戦の戦士は目の付け所が違います。こうでなければソルジャー稼業は務まらないんだな、と見直したりして…。



ソルジャーが訊いた、伝統ある魚のパイの名前。誰も尋ねはしなかったポイント、果たして名前はあるのでしょうか?
「名前だったら、ついてるよ?」
ちゃんとあるよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ずっと昔からその名前なの! と。
「ふうん…。名前も変わっていない、と」
ソルジャーが相槌を打つと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「だって、伝統のパイだもん! スターゲイザーパイって言うの!」
「「「…すたー…?」」」
なんじゃそりゃ、と思ってしまったパイの名前。スターって星の意味ですか?
「そうだよ、お星様を眺めるパイっていう意味の名前!」
「へえ…! それは素敵な名前だねえ…!」
来て良かった、と喜ぶソルジャー。
「ぼくにとっては星と言えば、地球! いつも心に地球があるしね、もう行きたくて!」
此処も地球ではあるんだけれど…、と窓の外の青空に視線を遣って。
「こっちに来る度に、ますます地球へ行きたくなるねえ、ぼくの世界の本物の地球に!」
だからいつでも星を見てるよ、と夢見る瞳。スターゲイザーパイの名前はソルジャーのハートを射抜いたようです。
「ぼくの憧れの地球で食べるのに相応しいパイだよ、その魚のパイ!」
「ホント!? 食べてくれる人が増えて嬉しくなっちゃう!」
作って良かったあ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」もピョンピョンと。
「それじゃ続きを作ってくるね! 焼き加減も大事なポイントだから!」
焦がしちゃったら台無しだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキッチンに戻り、私たちとソルジャーは魚のパイで盛り上がりました。
「星を眺めるパイと来たか…。なんとも洒落たネーミングではある」
伝統のパイともなれば違うな、とキース君。
「正直、あの国の料理を馬鹿にしていたが…。名前もただの魚のパイだと思っていたが…」
「ぼくもそうです、まさかお洒落な名前があるとは夢にも思いませんでした」
世の中ホントに分かりませんね、とシロエ君も感心していて、ソルジャーが。
「訊かなきゃ駄目だよ、そういうのはね! ぼくへの感謝は?」
「「「はいっ!」」」
感謝してます、と頭を下げた私たち。星を眺めるスターゲイザーパイ、楽しみですよね!



どんなに素敵なパイなのだろう、と待ち焦がれた伝統ある魚のパイとやら。「お昼、出来たよ!」と「そるじゃぁ・ぶるぅ」に呼ばれて入ったダイニングのテーブルの上には、魚のパイは置かれていませんでした。
「…あれっ、パイは?」
パイが無いけど、とジョミー君が見回すと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「主役は後から登場だもん! 座って、座って!」
「「「はーい!」」」
サラダやスープは揃っていますし、テリーヌなんかのお皿だって。お昼御飯からなんともゴージャス、この上にまだスターゲイザーパイが来るんですから、誰もがドキドキ。
「…どんなのだろうね?」
「きっと凄いんだぜ、もったいつけて後からだしよ」
見た目からしてすげえパイだろ、とサム君が言って、ソルジャーも。
「ぼくも大いに期待してるんだよ、名前を聞いた時からね! 星を眺めるパイだしねえ…」
さぞ美しいパイに違いない、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が消えた扉の方を見ているソルジャー。主役のスターゲイザーパイを取りに行ってるんです、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「…あんた、覗き見していないのか?」
得意技だろうが、とキース君が尋ねると。
「そんな無粋な真似はしないよ、新鮮な驚きと感動が減るよ!」
「君にもそういう感覚は一応あったんだ?」
ちょっと意外、と会長さん。
「でもまあ、それだけの価値はあると思うよ、ぶるぅのパイは」
「そこまでなのかい?」
君が絶賛するほどなのかい、とソルジャーの瞳が期待に煌めき、私たちだって同じです。それから間もなく、ダイニングの扉がバタンと開いて。
「かみお~ん♪ お待たせ、スターゲイザーパイ、持って来たよ~!」
はい、どうぞ! とテーブルのド真ん中にドンッ! と置かれたパイ皿、誰もが仰天。
「…なんなんだ、これは!」
キース君が怒鳴って、ソルジャーも。
「こ、これが…。これが星を眺めるパイなのかい…?」
言われてみればそうなんだけど、と愕然としたその表情。そうなるでしょうね、これではねえ…。



星を眺めるパイという意味の名前な、伝統あるスターゲイザーパイ。それは確かに星を眺めるパイでした。もしも今、空に星が出ていたら。此処に天井が無かったら。
パイからニョキニョキと突き出した幾つもの魚の頭が星を見ています、まあ、魚はとっくに死んでますけど。パイに入れられる段階で死んでいるんですけど、焼き加減があまりに絶妙なので…。
「…ハッキリ言うけど、怖いよ、これ!」
魚に睨まれているみたいなんだけど! とジョミー君の顔が引き攣り、シロエ君だって。
「あ、有り得ないパイだと思うんですけど…。なんで魚が刺さってるんです!」
「んとんと、これはそういうパイだから…」
スターゲイザーパイのお約束だから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「漁師さんに感謝のお祭りなんだ、って言ったでしょ? お魚に感謝!」
中に魚が入っています、と一目で分かるように魚の頭が突き出すパイがスターゲイザーパイらしいです。中に入った魚の数だけ、魚の頭。
「「「…………」」」
どうすれば、と呆然と星ならぬパイを眺める私たちですが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「だから訊いたのに…。ちょっとお料理作ってもいい? って!」
「そ、それは…。確かにそれを訊かれはしたが…」
モノがコレなら先に言ってくれ、とキース君も腰が引け気味です。魚の菩提を弔っているのか、それとも自分がブルッているのか、左手首の数珠レットを指で繰りながら。珠を一つ繰ったら南無阿弥陀仏が一回ですから、絶賛お念仏中で。
「このパイは俺も知らなかったぞ、あの国は此処までやらかすのか!」
「んとんと…。今だと、海老とかでも作るみたいだけど…」
「「「海老!?」」」
「うん! 海老さんの頭がニョキニョキ出てるの!」
そっちの方が良かったかなあ? と尋ねられたら、海老の方がマシだった気もしますけど…。
「いや、海老にしたって、これは無い!」
このセンスだけは理解出来ん、とキース君が呻いて、私たちも理解不能でしたが。
「…いいんじゃないかな、味さえ良ければ!」
こういうパイもアリだと思う、とソルジャーが手を挙げました。
「ぶるぅ、一切れくれるかな? 美味しいんだよね?」
「美味しいと思うよ、見た目はこういうパイだけど!」
下ごしらえはちゃんとしたしね、とナイフを入れる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ソルジャー、ダテに戦士を名乗ってませんね、このパイもアリで、食べる勇気があるなんて…。



ソルジャーのお皿にドン! と載せられた一切れのスターゲイザーパイ。魚の頭がニョキッと一個だけ生えているソレを、ソルジャーはナイフとフォークで切って、口に運んで。
「あっ、美味しい! いける味だね、スターゲイザーパイ!」
「そうでしょ、ぼくも試作はしたんだもん!」
ちょっと見た目が変なだけだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」も自分のお皿に乗っけています。会長さんも「ぼくも貰おうかな」と魚の頭が生えた一切れを貰いましたし…。
「…どうします?」
ぼくたちはどうするべきなんでしょう、とシロエ君。
「味は美味しいみたいですけど…。あの人はともかく、ぶるぅと会長が食べるからには、多分、ホントに美味しいんだと思うんですけど…」
「…問題は見た目なんだよなあ…」
アレが問題だぜ、とサム君が溜息、ニョキニョキ生えてる魚の頭。とても食べたいビジュアルではなくて、どちらかと言えば逃げたい方で。でも…。
「いいねえ、中身も魚なんだね、頭とは別に」
ソルジャーがパクパクと頬張り、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「そうなの、頭が見えるように魚を入れてあるけど、丸ごと入れるってわけじゃないしね!」
ちゃんと下味とかもつけて入れるし…、という説明通りに、テーブルの上のパイの断面はパイ生地と魚とホワイトソースらしきもののコラボレーション。食材だけから判断するなら、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ったからには間違いなく美味しい筈ですが…。
「キース、一番に食べないと駄目じゃないかな?」
いつも食べ物を粗末にするなと言ってない? とジョミー君。
「…そ、それとこれとは別問題でだな…!」
「でもさ、やっぱり日頃の心構えが大切なんだと思うんだよ」
見た目がどんなに酷いものでも食べ物は食べ物、とジョミー君が日頃の恨みを晴らすかのように。
「お坊さんはさ、みんなのお手本にならなきゃ駄目でさ…。此処でキースが逃げるんだったら、ぼくに坊主の心得がどうこうって言うような資格は無いと思うな」
「あー…。それは言えるぜ、頑張れよ、キース」
元老寺の副住職ってのはダテじゃねえだろ、とサム君からも駄目押しが。
「…お、俺に食えと……!」
この強烈なパイを食べろと、とキース君は焦ってますけど、お坊さんなら頑張って食べるべきでしょう。魚の菩提を弔いたいなら、無駄にしないで食べないとねえ…?



ピンチに陥ったキース君。私たちの中でスターゲイザーパイを食べるなら一番手だ、とジョミー君とサム君がプッシュ、シロエ君たちも頷いています。
「キース先輩は適役でしょうね、毒見をするのに誰か一人が犠牲になるなら」
その精神もお坊さんには必須じゃなかったですか、と更なる一撃。
「我が身を捨てて人を救うのは、王道だったと思うんですけど…。仏教ってヤツの」
「うんうん、お釈迦様の時代からある話だぜ、それ」
腹が減った虎に自分を食わせるとか、「私を焼いて食べて下さい」と焚火に飛び込んだウサギだとか…、とサム君が習い覚えた知識で補足。
「やっぱキースが食わねえとなあ…。坊主が一番に逃げていたんじゃ、その魚だってマジで浮かばれねえよ」
食ってきちんと弔ってやれよ、と会長さんの直弟子ならではの言葉、完全に断たれたキース君の退路というヤツ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」も瞳がキラキラしてますし…。
「キース、食べないの? ホントに美味しいパイなんだけど!」
ねえ? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が会長さんとソルジャーに視線を向けると、二人は揃って「うん」と。
「美味しいけどねえ、この魚も地球の海の幸ってヤツでさ」
「ぶるぅの腕を疑うのかい? 見た目はアレでも、このパイは実に美味しいよ?」
それを食べないとは何事だ、と会長さん、いや、伝説の高僧、銀青様。
「ジョミーもサムも、シロエも言っているんだけどねえ、坊主の心得というヤツを…。ジョミーたちはともかく、シロエは仏教、素人だよ?」
そのシロエにまで仏道を説かれるとは情けない、と頭を振っている会長さん。
「銀青として言わせて貰うんだったら、そんな坊主とは話をしようって気にもなれないね!」
最低過ぎて、とキツイお言葉。
「もっと立派な精神を持った人と話をしたいものだよ、スターゲイザーパイを外見だけで判断しちゃって、食べようともしない坊主よりはね!」
「…う、うう……」
どうしろと、と窮地に立たされたキース君ですが、救いの手は何処からも出ませんでした。本当に美味しいパイなのかどうか、毒見するならキース君が適役なんですから。
「かみお~ん♪ キース、食べるの、食べないの?」
食べるんだったら切ってあげるけど! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。キース君がガックリ項垂れて頷き、お皿にパイがドッカンと。さて、そのパイを食べられますかね、キース君は…?



星を眺める魚のパイ。あんまりすぎるビジュアルのスターゲイザーパイでしたけれど、キース君はブルブルと震えるフォークで口へと運んで…。
「キース先輩、どうですか?」
評判通りの味でしょうか、というシロエ君の問いに、モグモグしながら立てられた親指。もしかしなくても美味しいんですか、本当に…?
キース君は口に入れたパイをゴクンと飲み下してから、「美味い!」と声を上げました。
「やはり見た目で決めてはいかんな、なかなかにいける味だぞ、これは」
食事が不味いと噂の国のパイとも思えん、と口に運んだ二口目。じゃあ、本当に美味しいんだ…?
「疑ってるのか、俺に毒見をさせておいて? ああ、肝心の魚がまだか…」
魚の頭も食っておかんと、とキース君はフォークで刺して口へと。モグモグモグで、暫く経ったらゴックンで…。
「美味いっ!」
この頭がまたいい味なんだ、と緩んだ顔。外はカリッと、中はしっとり、そんな感じの食感だったとかいう魚の頭。味付けの方も抜群だそうで。
「…なんか美味しそう?」
キースの食べ方を見てる限りは、とジョミー君が言えば、キース君は。
「何を言うんだ、俺が嘘をつくと思うのか? この状況で!」
坊主の資質を問われたんだぞ、と毅然とした顔。
「ここで嘘八百を言おうものなら、もう間違いなくブルーに愛想を尽かされる。…いや、ブルーではなくて銀青様の方だな、銀青様に見捨てられたら坊主も終わりだ」
だから絶対に嘘は言わん、と大真面目だけに、これは嘘ではないでしょう。スターゲイザーパイの味は本当に良くて、見た目が変だというだけで…。そうとなったら、ここはやっぱり…。
「俺、食ってみるぜ!」
一切れ頼む、とサム君が名乗りを上げた横からジョミー君も。
「ぼくも食べてみる! 美味しいらしいし!」
「ぼくも食べます、キース先輩のお勧めだったら間違いは無いと思いますから!」
こんな調子で次々と勇者、勇気は感染するものです。気付けばスウェナちゃんと私の前にも魚の頭がニョッキリと生えたパイのお皿が置かれていて…。
「「「いっただっきまーす!!!」」」
みんなで食べれば怖くない! とばかりに突撃したスターゲイザーパイ。あらら、ホントに美味しいパイです、もっと早めに食べておいたら良かったかも~!



魚の頭がニョッキリニョキニョキ、怖すぎたスターゲイザーパイですが。キース君が毒見をしてくれたお蔭で、みんなで美味しく食べられました。パイはすっかり無くなってしまって、食事の後は飲み物を持ってリビングにゾロゾロ移動して…。
「美味しかったね、あのとんでもないビジュアルのパイ」
流石はぶるぅ! とジョミー君が褒めると、ソルジャーが。
「ぼくが美味しいって言っても信用しなかったくせに…。キースが挑戦するまではさ」
「え、だって…。味覚が違うっていうこともあるし、ぶるぅとブルーだって食べていたけど、悪戯だってこともありそうだしね」
騙されたら酷い目に遭うし、とジョミー君。
「ただでも食事が不味い国のパイだよ、それで見かけがアレなんだからさ、警戒もするよ!」
「なるほどねえ…。ぼくには美味しいパイだったけどね、いろんな意味で」
「「「は?」」」
いろんな意味って、なんでしょう? 名前が気に入ったことも入るんでしょうか?
「ああ、名前ね! そこも大きなポイントだねえ…!」
星を眺めるスターゲイザーパイだからね、とソルジャー、ニコニコ。
「うん、あのパイは使えるよ! うんと素敵に!」
「…君のシャングリラで作るのかい?」
あまりお勧めしないけどね、と会長さん。
「見た目がアレだから、食べたがる人はいないだろうと思うけど…。食べ物で遊ぶのは感心しないね、ましてや君のシャングリラではね!」
食べ物の確保も重要だろうに、という指摘。
「同じ魚を食べるんだったら、ふざけていないで、もっと真面目に! 誰もが食べたい料理にしてこそ、ソルジャーの評価もグッと上がるというもので!」
「シャングリラだったら、そうするよ。あんなパイを作らせちゃったら、ぼくの評価はどうなることやら…。ぶるぅに精神を乗っ取られたと噂が立ってもおかしくないね」
「ぶるぅねえ…。あの悪戯小僧なら確かにやりかねないけど…。君のシャングリラでは作らないとなったら、何処でアレを使うと言うんだい?」
まさか、こっちじゃないだろうね、と会長さんが尋ねると。
「こっちの世界に決まってるじゃないか、料理人はこっちにしかいないんだからね!」
スターゲイザーパイは、こっちのぶるぅが作ったんだし! と言うソルジャー。もしかしなくても本気でアレが気に入りましたか、また食べたいと希望するほどに…?



ソルジャー曰く、使えるらしいスターゲイザーパイ。美味しいパイだと言っている上に、名前も気に入ったらしいですから、度々アレを作って欲しいとか…?
「そうだね、本家もいいんだけれど…。あれも美味しいパイなんだけど…」
「「「本家?」」」
本家というのはスターゲイザーパイなんでしょうけど、アレに分家がありますか? ソルジャーにそういう知識はゼロだと思うんですけど、此処までの流れから考えてみても…。
「その手の知識はまるで無いねえ、海老のもあるっていう程度しか!」
「あんた、海老のを食べたいのか?」
悪趣味な、とキース君が言うと、ソルジャーは。
「海老はどうでもいいかな、うん。…ぼくの希望はソーセージだから」
「「「ソーセージ?」」」
ソーセージなんかでスターゲイザーパイを作ってどうするのだ、というのが正直な所。あのパイの肝はニョキッと生えた魚の頭で、海老でも多分同じでしょう。どっちも睨まれているような気がしていたたまれないのが売りじゃないかと思うんですけど…。
ソーセージの場合は目玉なんかはありませんから、パイからニョキッと生えていたって「変なパイだ」というだけです。ソーセージ入りのパイを焼こうとして失敗したか、という程度で。
なのに…。
「分かってないねえ、君たちは!」
あのパイは星を眺めるパイなんだから、とソルジャーは指をチッチッと。
「魚や海老なら星だろうけど、ソーセージの場合は眺めるものが星じゃないから!」
「「「はあ?」」」
やっぱりソーセージでも何かを眺めるんですか、目玉もついていないのに…。第一、頭も無いと言うのに、そのソーセージが何を見ると…?
「何を見るかは察して欲しいね、パイの名前で! ぼくが作りたいパイの名前は…」
ソルジャーは息をスウッと大きく吸い込んで。
「その名もブルーゲイザーパイ!」
「「「ブルー?」」」
ブルーと言えば青い色のこと。ソーセージが眺めるものは青空でしょうか?
「そのまんまだってば、ブルーと言ったら、ぼくかブルーしかいないんだけど!」
このブルーだけど! とソルジャーが指差した自分の顔と、会長さんと。何故にソーセージがそんなものを眺めて、ブルーゲイザーパイなんですか…?



サッパリ謎だ、と誰もが思ったソーセージのブルーゲイザーパイ。美味しさで言ったら本家のスターゲイザーパイと張り合えるかもしれませんけど、それを作って何の得があると?
それにソーセージが眺めるものがソルジャーだとか、会長さんだとか、ますますもって意味が不明で、作りたい意図が掴めませんが…。
「分からないかな、ソーセージだよ?」
でもってブルーか、このぼくを眺めるソーセージ、とソルジャーはニヤリ。
「そんなソーセージは二本しか無いね、こっちの世界と、ぼくの世界に一本ずつで!」
「「「…へ?」」」
間抜けな声が出た私たちですが、其処で会長さんがテーブルをダンッ! と。
「帰りたまえ!」
「えっ、ぼくの話はまだ途中で…」
「いいから、サッサと黙って帰る! パイの話はもう要らないから!」
「でもねえ、君しか理解してないようだしね? それにブルーゲイザーパイを作るには、ぶるぅの協力が必須なわけだし…」
ぼくのぶるぅにパイを焼くなんて芸は無くて、とソルジャー、溜息。
「ぶるぅどころか、ぼくだってパイは焼けないし…。ぶるぅに焼いて欲しいんだけど…」
「かみお~ん♪ ソーセージでスターゲイザーパイにするの?」
ソーセージだったら何処でも買えるし、今日の晩御飯でも間に合うけれど、と「そるじゃぁ・ぶるぅ
」は作る気満々。
「晩御飯は焼肉のつもりだったから、ソーセージのパイなら合うと思うの!」
「本当かい!? だったら、是非!」
ブルーゲイザーパイを作って欲しい、とソルジャーは膝を乗り出しました。
「ぼくのハーレイを連れて来るから、うんと立派なソーセージのをね!」
「分かった、おっきなソーセージだね!」
このくらい? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が小さな両手で作った形に、ソルジャーは「いいね」と嬉しそうな顔。
「それでさ、ついでにお願いが一つあるんだけれど…」
「どんなお願い?」
「ちょっとね、パイの中身のことで…」
注文をしてもいいだろうか、と言ってますけど、ブルーゲイザーパイは謎。会長さんが怒った理由も謎なら、なんでソーセージでブルーゲイザーパイなのかも分かりませんってば…。



まるで全く謎だらけのまま、夕食にはブルーゲイザーパイが出ることが決定しました。予定に無かった料理ですから、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は買い出しにお出掛け。ソルジャーの注文通りの大きなソーセージを買って来るから、と張り切って出てゆきましたけれども…。
「小さな子供に何をやらせるかな、君は!」
ブルーゲイザーパイだなんて、と会長さんは怒り心頭。
「それにコインを仕込むと言ったね、そのコインに何の意味があるのさ!」
「えーっと…。こっちの世界の名物じゃないか、パイとかケーキにコインというのは」
それが当たった人にはラッキー! とソルジャーが言うコイン、ガレットロワとかクリスマスプディングとかに入れてあるヤツのことですか?
「そう、それ! 当たった人はラッキーなんだろ、だからコインも入れないと!」
「ブルーゲイザーパイのコインなんかで、どうラッキーだと!?」
不幸になるの間違いだろう、と会長さん。
「第一、食べたい人もゼロだよ、君のハーレイはどうか知らないけれど!」
「ぼくのハーレイなら、喜んで食べるに決まっているじゃないか!」
それともう一人、喜んで食べてくれそうな人が…、と言うソルジャー。
「こっちのハーレイも御招待だよ、ブルーゲイザーパイを食べる会にはね!」
「なんだって!?」
「そのためにコインを入れるんだってば、万が一っていうこともあるから!」
こっちのハーレイがコインを当てたら、もう最高のラッキーが…、とソルジャーは拳をグッと握り締めて。
「ブルーゲイザーパイの中からコインが出るんだよ? そのラッキーと言えば、一発!」
「「「一発?」」」
何が一発なのだろう、と思う間もなく、ソルジャーは高らかに言い放ちました。
「ぼくが注文したパイだからねえ、コインが当たれば、ぼくと一発! こっちのハーレイでも、コインで当てたら大ラッキーなイベントってことで!」
ただ、初めての相手はブルーだと決めているらしいから、そこが問題で…、という台詞。ひょっとしなくても、その一発とかいうヤツは…。
「ピンポーン! ぼくとベッドで仲良く一発、君たちが当てても意味は無いけど!」
でも、せっかくのブルーゲイザーパイだから、というソルジャーの言葉でようやく理解出来てきたような…。ソーセージがニョキッと突き出すというパイ、そのソーセージが意味する所は、実はとんでもないモノですか…?



大正解! というソルジャーの声に頭を抱えた私たち。ソルジャーは得々としてブルーゲイザーパイを語り始めました。ソーセージが表すものはキャプテンと教頭先生の大事な部分で、会長さんやソルジャーを眺めて熱く漲るモノなのだ、と。
「それはもう元気に、ニョッキリとね! そんなハーレイの大事な部分がニョキニョキと!」
一面に生えたブルーゲイザーパイなんだけど、とトドメの一撃、そんなパイは誰も食べたいわけがありません。コインが当たるとか当たらないとか、そういう以前に。
「えっ、でもさ…。スターゲイザーパイは美味しいと言っていなかったっけ?」
ブルーゲイザーパイも似たような味だと思うんだけど、とソルジャーは分かっていませんでした。味の問題などではないということが。
「あんた、俺たちに死ねというのか、そのパイにあたって!」
俺もそいつの毒見はしない、とキース君がバッサリ一刀両断。
「コインを当てたいヤツらが食えばいいだろう! 二人もいるなら!」
「そうですよ! ぼくたちが下手に食べるよりかは、コインを当てたい人だけで!」
そしたら当たる確率も上がりますから、とシロエ君が逃げを打ち、私たちも必死に声を揃えて遠慮しまくって…。
「…仕方ないねえ…」
人数は多いほど盛り上がるのに、とソルジャー、深い溜息。
「まあいいや。…こっちのハーレイとぼくのハーレイを呼ぶとして…」
二人でコインを取り合って貰おう、とブツブツ言ってますけれど。それが一番いいと思います、私たちなんかがコインを当てても何の役にも立ちませんから~!



買い出しに出掛けた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、帰って来るなりキッチンに籠ってパイ作り。午後のお菓子も用意してくれましたけれど、「ゆっくりしてね」と言われましたけど…。
「…帰りたい気分になってきました…」
夕食の席にはアレなんですよね、とシロエ君がぼやいて、誰もが漏らした嘆き節。ソルジャーだけが嬉々としていて、会長さんは仏頂面で。そうこうする内に夕食タイムで…。
「こんばんは、御無沙汰しております」
キャプテンが空間移動で連れて来られて、ついでに教頭先生も。
「な、なんだ!? あ、これはどうも…。御無沙汰しております」
そっくりさん二人が挨拶を交わし終わると、ソルジャーが。
「今夜は特別なパイを用意したんだ、その名もブルーゲイザーパイってね!」
「「ブルーゲイザー…?」」
なんですか、と重なった声。ソルジャーは得意満面で。
「ぼくを眺めるパイって意味だよ、見れば分かると思うんだけど…。中にコインが入っていてね、それを当てたら、ぼくと一発!」
そういうパイで、という説明にキャプテンが慌てた表情で。
「お待ち下さい、私がコインを当てた場合はそれで問題無いですが…。そうでない時は…?」
「もちろん、当てた人とぼくが一発だってね! たまにはスリリングでいいだろう?」
ぼくがこっちのハーレイとヤることになるかもね、とソルジャーはパチンとウインクを。
「なにしろコインのラッキーだしねえ、ぼくを取られても恨みっこなしで!」
「そ、そんな…」
キャプテンは青ざめ、教頭先生は鼻血の危機です。ブルーゲイザーパイのコインは透視出来ないらしいですから、食べるまで何処にあるかは謎だとか。キャプテンが当てるか、教頭先生か、なんとも恐ろしいパイなんですけど~!



それから始まった焼肉とブルーゲイザーパイを食べる会。私たちは最初から遠慮しておいて正解でした。魚の頭の方がずっとマシ、パイの中からニョキニョキと生えたソーセージ。ソルジャーが得意げに「分かるだろう?」とソーセージの一つを指先でチョンと。
「ブルーゲイザーパイはさ、ぼくを眺めるパイなんだからさ…。こういうのが眺めているってことはさ、このソーセージの正体はぼくの大好物で!」
毎晩食べても飽きないモノで、とチョンチョンチョン。
「こういう立派なモノの持ち主に相応しい一発、期待してるから!」
どっちのハーレイでも、ぼくはオッケー! とソルジャーは言ったんですけれど。コインを当てたら一発ヤれるパイなんだから、と勧めたんですけれど…。
「…あの二人はまだ食べないねえ…」
無理もないけどね、と会長さんが焼肉をジュウジュウと。
「自分の大事な部分だなんて説明されたら、普通は食欲、失せるからねえ…」
「そうかなあ? ぼくはハーレイのアレが大好きなんだけど!」
なんで食べたくないんだろう、とソルジャーは愚痴り続けています。キャプテンと教頭先生はと言えば、例のパイを挟んで二人揃って溜息ばかりで。
「…お先にどうぞ」
「いえ、あなたこそ…」
「ですが、食べないことにはコインが…」
「ええ、分かってはいるのですが…」
ですが自分のアレだと思うと、と重なる溜息、二人前。スターゲイザーパイも怖かったですけど、その上を行くのが「誰も食べられない」ブルーゲイザーパイらしいです。最悪、ソルジャーが全部食べるしかないんですかねえ、大好物とか言ってますしね?
「えっ、ぼくが?」
あんな大きなパイを一人で、と叫ぶソルジャーに「食べ物を粗末にするなと言った!」と会長さんが突っ込み、キース君たちも「仏の教えに反する」と説教モードです。ブルーゲイザーパイは誰が食べることになるんでしょうか、なんとも謎な雲行きですけど…。
「やっぱアレだな、魚でもソーセージでもビジュアルが怖いっていうことだよな?」
「うん、怖すぎ…。美味しいんだって分かっていても、怖すぎ…」
食べる前の段階で恐怖が凄い、とサム君とジョミー君が頷き合って、私たちも「うん」と。ニョッキリニョキニョキ、何かが生えた変なパイ。美味しくっても怖すぎるパイは、今回限りで遠慮したいと思います~!




          怖すぎるパイ・了


※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 今回登場した、スターゲイザーパイ。実在してます、検索すると怖い画像も出て来ます。
 いくら美味しくても、ビジュアルは大事。ブルーゲイザーパイにしたって、同じですよねえ?
 さて、シャングリラ学園番外編、来年で連載終了ですけど、毎日更新の場外編は続きます。
 今年もコロナ禍で大変な一年。さて、来年はどうなりますやら、早く日常が戻りますように。
 次回は 「第3月曜」 1月17日の更新となります、よろしくです~! 

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 こちらでの場外編、12月といえばクリスマス。パーティーの季節ですけれど…。
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