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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

憧れた大昔
(昔の地球…)
 ふうん、とブルーが眺めた新聞広告。学校から帰って、おやつの時間に。
 子供向けに書かれた本の広告、「昔の地球」というタイトルの本。小さかった頃に自分も読んでいた本で、中身のことを覚えている。流石に今は部屋の本棚には無いけれど。子供向けだから。
 ずっと昔の地球の様子が描かれた本。一度滅びてしまう前の。
(生き物は何もいなかった地球に、植物が生まれて、恐竜とかの時代が来て…)
 彼らの時代が終わった後には人間の時代。サルから進化した人間。
 二足歩行をするようになって、進化を遂げたら人間になって、文化を築いてゆくけれど。地球のあちこち、様々な文明が生まれて栄えていったのだけれど。
(やり過ぎちゃって…)
 滅びてしまった、青い地球。昔の人間たちが気付いた時には、やり直すにはもう遅すぎた。
 人間は地球を離れるしかなくて、SD体制の時代に入る。完全な管理出産の時代、子供も機械が人工子宮で育てる時代に。
 それでも元に戻らなかった地球。人間そのものを機械に委ねて、コントロールしようと頑張ってみても。人間の欲望を抑え込んでも。
 遠い昔の反省をこめて、今は色々な制限がある。自然に手を加える時は。
 地球だけではなくて、何処の星でも。テラフォーミングして作った自然を壊さないように。
(…滅びちゃった地球は、壊れないと蘇らなかったほどだから…)
 厳しい制限付きになるのも当然だろう。人間が好き勝手をしないようにと。
 SD体制が崩壊した後、ミュウと人類とで決めた規則がその始まり。いつか蘇るだろう、母なる地球にも当てはめるために。
 予兆は見えていたらしいから。…激しい地殻変動が収まった後には、きっと、と。
 当時の学者たちが思った通りに、青い地球は宇宙に帰って来た。気が遠くなるほどの長い歳月をかけて、あらゆる毒素を洗い流して。
 海も大陸もすっかり違う形に変わったけれども、青い水の星に戻った地球。植物の時代や恐竜の時代は全部飛ばして、最先端のテラフォーミングの技術を生かして。
 最初から人間が住める星として、ただし多くの制限付きで整備されたのが今の地球。



 SD体制に入る前の時代の人間たちは、「この方法で地球は蘇るだろう」と考えたけれど。青い地球が戻ってくるのだと信じていたから、全てを機械に委ねたけれど。
 地球を離れて広い宇宙に散った彼らが思った以上に、困難だった地球の再生。
(グランド・マザーが六百年かけても…)
 少しも進まなかったらしい、死に絶えた地球を元の姿に戻すこと。
 白いシャングリラが辿り着いた地球は、赤茶けた死の星のままだった。汚染された海と、砂漠化した大地。その上、朽ち果てたままで打ち捨てられた高層建築の群れ。
(ユグドラシルのこと、ゼルが毒キノコって…)
 揶揄したくらいに、何処も癒えてはいなかった地球。緑の欠片も見当たらなくて。
 それを思えば、SD体制の終わりと同時に燃え上がった後は早かった。みるみる形を変えてゆく陸地、蒸発して雨に姿を変えては降り注ぐ海にあった水。
 落ち着くまでには長い長い時が流れたとはいえ、グランド・マザーに任せておくよりは…。
(ずっと早くて、自然だったよね?)
 地球を再生させること。
 機械は介在していなかったし、何もかも地球が持っていた力。火山の噴火も地殻変動も、何度も降り注いだ雨も。
 そうやって青さを取り戻した地球に、今の自分は生まれて来られた。
 前の自分が焦がれ続けて、ついに見られずに終わった地球。最後まで見たいと願った星。宇宙の何処かにあると信じた青い地球。死の星だとは夢にも思わないままで。
(だけど、本物の青い地球だよ)
 まだ宇宙からは見ていないけれども、正真正銘、本物の地球。今の自分は地球生まれの子。
 この星の上で、ハーレイと一緒に暮らしてゆける。今は別々の家だけれども、いつか結婚したら同じ家で暮らす。前の自分たちが何度も夢見た、「青い地球の上にある家」で。
 しかも地球生まれの今の自分には…。
(ちゃんと本物のパパとママ…)
 血の繋がった両親がいて、トォニィと同じ自然出産児。今は当たり前のことだけれども、誰もがそういう子供だけれど。…人工子宮も管理出産も、とうの昔に無くなったから。
 本物の家族しかいない時代で、子供は誰でも母親から生まれて来るものだから。



 そういったことを考えてゆけば、生まれ変わって来た今の自分は…。
(前のぼくより、うんと幸せ…)
 なんて幸せなんだろう、と戻った二階の自分の部屋。空になったカップやケーキのお皿を、母に「御馳走様」と返して。
 勉強机の前に座って、さっきの続きを考えてみる。今の地球や昔の地球のこと。
(前のぼくだって、青い地球のことを夢見てたけど…)
 シャングリラで様々な本を読んでは憧れたけれど、前の自分が夢見たよりも、遥かに素晴らしい地球に来られた。生まれ変わって、時を飛び越えて。
 今では人間は誰もがミュウだし、平和で穏やかになった宇宙。戦争も武器も何処にも無い。SD体制の影も形も無い世界。マザー・システムも、グランド・マザーも、何一つとして。
 何もかもが遠い昔の通りで、まるで大昔の地球のよう。便利になってはいるけれど。人間は広い宇宙に散らばり、宇宙船も飛んでいるのだけれど。
(前のぼくの夢だと…)
 いくら青い地球の夢を描いても、SD体制の時代の影を引き摺っていた。どうしても消すことが出来なかったもの。
 そういう時代に生まれたせいで。…自分の生まれがそうだったせいで。
 本物の両親などはいないし、養父母に育てられただけ。人工子宮から生まれた子供は、そうして育つものだから。おまけに失くした、幸せな子供時代の記憶。成人検査と、その後に繰り返された過酷な人体実験のせいで。
 それが寂しくて、たまに思った。こんな時代でなかったら、と。
(ずっと昔の、大昔の地球に生まれていたら、って…)
 夢を見たのが前の自分。白いシャングリラでソルジャー・ブルーと呼ばれた自分。
 SD体制の時代ではなくて、もっと前の時代に生まれたかった。人間が地球で生きた時代に。
 たとえ火を絶やせない洞窟で暮らして、狩りをしながら生きる世界でも。木の実を集めて食べる時代で、飢えや寒さと背中合わせでも。
 家などは無い時代でもいい、洞窟が家の時代でいい。本物の家族の中に生まれて、地球の自然に囲まれて暮らしてゆけたなら、と。



 前の自分が描いた夢。大昔の地球で生きること。洞窟暮らしの日々でいいから。
(あの話、前のハーレイにする度に…)
 いつも可笑しそうに笑われていた。「ご自分で狩りをなさるのですか?」と。サイオンも無しでそれは無理だと。
 洞窟で暮らして狩りをした時代は、武器と言ってもせいぜい石器。それを頼りに、様々な動物を追い掛けて狩る。時には獰猛な動物と戦う時だって。
 サイオンも持たない「ただの人間」なら、細っこくて華奢な身体しか持たないのが自分。いくら頑張っても狩りなどは無理で、襲い掛かってくる動物から走って逃げるのも無理。
(それに、生きられないでしょう、って…)
 前のハーレイはそう言った。洞窟で暮らす一家の中に、前の自分が生まれたら。
 生まれた時から弱すぎる子供、それに恐らくはアルビノの子供。前の自分は成人検査が引き金になってアルビノに変化したのだけれども、前のハーレイが知るのはその姿だけ。
 「本当のぼくは、こうだったよ」と金髪と水色の瞳の姿の記憶を見せても、「そうでしたね」と笑ったハーレイ。「けれども、仮の姿でしょう?」と。
 前のハーレイと出会った時には、とうにアルビノだったから。アルビノとして生きた歳月の方が遥かに長くて、自分でもそのつもりだったから。
 「今の姿が本物のあなたの姿ですよ」というのが前のハーレイの持論。ミュウになったら色素が抜けたし、それが本当の姿だろうと。それまでの姿は仮の姿で。
(最初からアルビノの子供だったら…)
 普通の子供よりも遥かに弱いし、幼い間に死んでしまって、育つのは無理だと何度も言われた。
 「ずっと昔に生まれたかったよ」と口にする度に、「狩りは出来ないでしょう?」という言葉と併せて。「とても無理です」と、「あなたは生きてゆけませんよ」と。
 それでもいいから、と言い募ったのが前の自分。
 短い寿命で終わったとしても、幼い間に死んでしまってもかまわない。運よく育っても、狩りが出来ずに肩身が狭くてもいいから、と。「狩りが無理なら、木の実を集めて頑張るから」と。
 どんなに苦労をしてもいいから、地球に生まれてみたかった、とハーレイに夢を語っていた。
 ずっと昔の地球に生まれて、家などは無しで洞窟でも。狩りをしないと飢える暮らしで、地球の気まぐれな天候のせいで、寒さに震える厳しい冬があったとしても。



 そういう夢を見てたんだっけ、と思い出した。白いシャングリラで前の自分が。
 遠い昔の地球でいいから、其処に生まれて生きること。洞窟で暮らす時代でいいから。
(…ホントに地球に生まれちゃったよ…)
 前のぼくの夢が叶っちゃった、と見回した部屋。洞窟ではなくて、今の自分のためにある部屋。夢に見たより、ずっと素敵な世界に来ていた。本物の家族がいる地球に。
 弱く生まれたアルビノの子供でもちゃんと育って、ハーレイまでがついて来た。前の自分が恋をした人。いつまでも共に、と誓い合った人。
(前のぼくの夢、そんなのまで叶っちゃったんだ…)
 地球に生まれたかった夢とは別に、「ハーレイと行きたかった」地球。白いシャングリラで辿り着いたら、あれをしようと、これもしようと幾つもの夢を描いた星。
 そのハーレイと二人で地球に生まれて、とても幸せに生きている今。
 洞窟に住んで狩りをする時代じゃないけどね、と考えていたら、聞こえたチャイム。仕事帰りのハーレイが訪ねて来てくれたから、テーブルを挟んで向かい合うなり、大発見を話すことにした。
「あのね、ハーレイ…。前のぼくの夢、叶っていたよ」
 叶うわけがないと思っていたけど、とっくに叶っていたみたい。ぼくは気付いてなかったけど。
 本当に凄い夢なんだよ、と頬を紅潮させたら、「今度は何だ?」と尋ねたハーレイ。
「お前の夢は幾つも叶っているわけなんだが、いったい何が叶っていたんだ?」
「前のハーレイに笑われてたヤツ…。それは無理です、って」
 いつ話しても言われちゃったんだよ、前のぼくの夢。…昔の地球に生まれたかったよ、って。
 洞窟で暮らす時代でいいから、地球に生まれたかったんだけど…。
 大昔だったら人間は地球に生まれるものだし、家族だって本当に本物の家族。成人検査で別れてしまう家族じゃなくって、お父さんもお母さんも本物で…。
 そういう時代に生まれたかった、って話をしてたの、覚えてる?
 家なんかは無くて洞窟暮らしで、狩りをして獲物を捕まえる時代でかまわないから、って。
「あれか…。あったっけな、前のお前の夢」
 サイオンも無しじゃ獲物はとても捕まえられんぞ、と思ったもんだ。お前、身体が弱いから。
 おまけにアルビノに生まれて来たんじゃ、育つだけでも難しそうだし…。
 いったい何を言い出すんだか、と前の俺は呆れてたんだがなあ…。



 聞かされる度に無理だと笑っていたんだが…、とハーレイは少し困り顔。「俺の負けだ」と。
「前のお前の夢、叶っちまったな。お前は地球に生まれちまった」
 昔じゃなくて未来の地球だが、本物の家族も揃っていると来たもんだ。前のお前の夢を聞く度、無茶なことを言うと思ってたのに…。
 とびきりの夢が叶ったんだな、とハーレイも思い出してくれた夢。白いシャングリラで、何度も語って聞かせていた夢。「ぼくの夢だよ」と。
「ね、凄いでしょ? 前のぼくの夢、本当に叶っていたんだよ」
 洞窟で暮らす世界じゃなくって、普通の家に住んでるけど…。ぼくの部屋までくっついてる家。
 狩りをしなくても暮らせる時代で、木の実を集めて蓄えなくてもいいけれど…。
 お蔭で、ちゃんと育ったよ。生まれた時からアルビノのぼくでも。
 前のハーレイが言ってた通りに、本当のぼくは最初からアルビノみたいだけれど…。
 身体は弱いままだけれども、今だから育って来られたよ、と自慢した自分の細っこい手足。前と同じに弱い身体でも、今の時代だから此処まで大きくなれたんだよ、と。
「そのようだな。しょっちゅう寝込むようなチビでも、元気ではある」
 大きな病気はしてないそうだし、注射嫌いでも今の時代なら安心だ。怖い伝染病も無いしな。
 前のお前の夢が叶って良かったじゃないか、と微笑むハーレイの言葉で、ふと思ったこと。前の自分の夢は未来で叶ったけれども、過去の方ならどうだったろう、と。
「えっとね…。ぼくたち、未来に来ちゃったけれど…」
 前のぼくの夢は、こんな未来で叶ったけれども、過去の方だったら、ハーレイ、どうする?
 夢が叶うの、未来の代わりに過去だったなら…、と問い掛けた。
「過去だって?」
 なんだそれは、とハーレイが怪訝そうな顔をするから、「過去だってば」と繰り返した。
「過去は過去だよ、前のぼくの夢が叶う場所だよ」
 前のぼくの夢はこれなんだから、って神様が昔の地球に連れて行ってくれてたら…。
 夢が叶う場所が此処じゃなくって、ずっと昔の地球の方なら、色々と変わって来ちゃうでしょ?
 そしたらハーレイはどうするの、と鳶色の瞳を見詰めて訊いた。
 夢が叶って二人一緒に地球の上でも、大昔の地球の上だったなら…、と。



 どうなると思う、とハーレイにぶつけてみた質問。二人で生まれ変わって来たのが、今とは違う遠い昔の地球だったなら、と。
「おいおいおい…。二人揃って大昔の地球って…。前のお前が言ってた夢か?」
 洞窟で暮らして狩りをする時代に生まれていたら、ということなのか?
 俺もお前も、そういう時代にいるってことか、とハーレイは驚いているけれど。あまりに時代が違いすぎるから、ピンと来ていないようだけれども…。
「そうだよ、うんと昔だってば。人間が洞窟に住んでいたような」
 大昔の地球でも、神様が連れて行ってくれるんなら、ぼくも育つと思うんだけど…。
 アルビノの子供に生まれていたって、神様が守ってくれそうだから…。
 だってハーレイと二人だしね、と瞳を輝かせた。ハーレイに会うには、今と同じ姿に育たないと駄目だと思うから。…洞窟生まれの弱いアルビノの子でも。
「うーむ…。お前はきちんと育ってゆくかもしれないが…」
 どうなんだかなあ、と腕組みしたハーレイ。「それでもお前と出会えるんだろうか」と。大昔の地球に生まれ変わっても、今のように巡り会えるだろうか、と。
「会えると思うよ、ぼくには聖痕があるんだから」
 神様がくれた聖痕があるから、大丈夫。…今と同じで思い出せるよ、ハーレイもぼくも。
 前のぼくたちはホントは誰だったのか、誰のことが好きで、どう生きたのか。
 アッと言う間に思い出せるし、きっと会えるよ。ぼくに聖痕が現れたら。
 もしかしたら、最初から同じ洞窟に住んでいるのかも…。あの時代は人間が少ないものね。
 何も知らずに焚火を囲んで、話しているかもしれないよ。ぼくに聖痕が出るまでは。
 聖痕が出たら、お互いのことを思い出すんだよ、と夢見心地で言ったのだけれど。大昔の地球で出会っていたなら、きっとそうだと考えたけれど…。
「洞窟で暮らして、動物の毛皮を着ているような時代に聖痕なあ…」
 お前の身体中から血が噴き出すわけだな、いきなり何の前触れもなく…?
 本当に怪我したわけじゃないから、大昔でも死んじまうことはないんだろうが…。
 病院に運んで手当てしなくても、お前の意識が戻りさえすれば、もう心配は要らんだろうが…。
 その聖痕が問題だよなあ、洞窟暮らしの時代なら。
 聖痕なんて言葉も無ければ、聖痕の元になった傷を負った神様も生まれていないわけで…。



 こいつは色々と難しいぞ、とハーレイが眉間に寄せた皺。「今のようにはいかないだろう」と。
「お前の聖痕で出会えたとしても、其処から後の俺たちが大いに問題だ」
 周りの連中から孤立しちまうだろうな、あらゆる意味で。…それまでは普通に暮らしていても。
 俺もお前も、前の俺たちの記憶が戻った途端に、中身は未来の人間だから。
 考え方からして、他の連中とは違ったものになるんだろう。記憶が戻ってしまったら。
 元のようにはいかないぞ、とハーレイが指摘する仲間たちとの関係。家族はともかく、同じ洞窟暮らしの仲間とは距離が出来るかもしれないな、と。
「それって、大変…?」
 ぼくもハーレイも周りに溶け込めなくって、困るって言うの?
 頑張ってみんなに合わせてみたって、中身が違ってしまっているから…。一緒に何かをしようとしたって、前のようにはいかないだとか…?
 前のぼくの記憶が、それまでのぼくを変えちゃって…、と曇らせた顔。今の自分はストンと今の器に落ち着いたけれど、それは未来の世界だから。ソルジャー・ブルーを知らない人など、一人もいない今の世界。前の自分が生きた時代の遥か未来でも、続きは続き。同じ世界の。
 けれど、大昔の地球だと違う。前の自分とは何も繋がらない、遥かな昔で目覚めるだけ。此処は何処かと見回してみても、ハーレイだけしか前と同じものは見付からないのだから。
(ちょっぴり困っちゃうかもね…)
 いくら前のぼくの夢が叶う世界でも、大昔の地球だとビックリするかも、と瞬かせた瞳。恋人の他には何一つとして、馴染みのものなど無いとなったら。
 それでも頑張ればなんとかなるよ、と前向きに考えようとしていたのに…。
「お前、生贄にされかねないぞ。聖痕が出たら」
 とんでもない言葉をハーレイが言うから、「えーっ!?」と喉から飛び出した悲鳴。
 せっかく神様がくれた聖痕、それのお蔭でハーレイとまた巡り会えたのに、生贄だなんて。
 今の自分たちのような日々を送る代わりに、生贄にされてしまうだなんて。
「なんで生贄なの、どうしてぼくが殺されなくっちゃいけないの…?」
 聖痕は神様がくれたものだし、それが出ないとハーレイに会えない筈なのに…。
 ハーレイに会えたと思った途端に、ぼくは生贄にされてしまうわけ?
 そんなの酷いよ、殺されちゃったら、ハーレイに出会えた意味が無くなってしまうじゃない…!



 生贄だなんて、と抗議したけれど、自分でも薄々分かってはいる。生贄にされてしまう理由。
 今の自分が得た知識ではなくて、ソルジャー・ブルーだった頃の知識のお蔭で。
 人間が地球しか知らなかった時代は、遠い昔ならそういう世界。神や自然の怒りを恐れて、人が捧げていた生贄。大抵は動物なのだけれども、特別な場合は生きた人間。
(…特別な生贄は、神様にうんと喜ばれるから…)
 綺麗な子供を選び出しては、生贄に捧げた国があったと伝わるほど。贅沢三昧で育てた後には、祭壇の上で殺してしまって。
 記録が残る時代でもそういう具合だったし、それよりも古い時代となったら、なおのこと。
 傷も無いのに、いきなり大量の血を身体から流した変わった子供は、生贄にされても仕方ない。神の怒りに触れた不吉な子供と判断されるか、神が生贄に欲しがっていると思われるか。
(凄い血だから、どう考えても生贄にピッタリ…)
 不吉な方でも、特別な子供を捧げる方でも。
 アルビノに生まれただけのことなら、生贄の道は免れたとしても、聖痕では無理。洞窟の仲間は生贄にしようとするのだろう。今のハーレイが言った通りに。
「…どうしよう、ハーレイ…。ぼく、殺されちゃう…」
 ハーレイが言ったみたいに生贄にされちゃう、聖痕のせいで。…生贄にするのにピッタリの子供なんだから。変な子だったら殺さなくちゃ駄目だし、特別な子供の方でもおんなじ…。
 ミュウじゃないのに、サイオンなんか持ってないのに…。
 サイオンが無いから逃げられもしないよ、みんなが殺しにやって来たって。
 せっかくハーレイに会えたのに…、と泣きそうな気持ち。本当にそうなったわけではなくても、想像の中だけの世界でも。
 大昔の地球で暮らすのは自分の夢だったから。…前の自分の夢の世界に生まれられても、自分は殺されるらしいから。今の平和な時代と違って、洞窟で暮らす時代なら。
「安心しろ、俺がついてるだろうが」
 お前に聖痕が現れたのなら、間違いなく俺が一緒にいる。前の俺の記憶を取り戻してな。
 着ている服は動物の毛皮にしたって、中身は今の俺と同じだ。何処も全く変わりやしない。
 お前を抱えて逃げ出してやるさ、生贄にしようと皆が捕まえにかかったら。
 生贄にするんだと騒ぎ始めたら、迷わずお前を抱え込んで。



 俺がお前を助けてやる、とハーレイは請け合ってくれたけれども、生贄の子供を助けたら。皆が生贄に選んだ子供を助けて逃げたら、危うくなるのがハーレイの立場。
 同じ洞窟の仲間だったら、もう洞窟には戻れない。生贄を逃がすのは、掟に背くことだから。
 他の洞窟から来ていたにしても、その洞窟にも「そちらの仲間が生贄を逃がした」と使いが走ることだろう。「戻って来たなら、生贄と一緒に引き渡せ」と。
 大昔の地球では、生贄はとても大切なもの。捧げ損ねたら神の怒りを買うことになるし、生贄に決まった人間を逃がすなど許されない。逃がした者を捕まえて一緒に生贄にしても、神が許すとは限らないから。…もっと多くの生贄を捧げ、詫びねばならないかもしれないから。
 その筈だった、と覚えているから、心配になるのがハーレイのこと。想像の世界の話でも。
「…いいの? ぼくを助けて逃げてしまったら、大変なことになっちゃうよ…?」
 ハーレイも洞窟にいられなくなるよ。同じ洞窟の仲間にしたって、他所の洞窟から来てたって。
 生贄を逃がしたら、そうなっちゃうでしょ。神様の怒りを買うんだから。
 「一緒に捕まえて生贄にしろ」って、洞窟のみんなが大騒ぎだよ。別の洞窟に住んでいたって、そっちにも知らせが行くもんね…。「生贄と生贄泥棒を渡せ」って。
 事情が分かれば、誰も助けてくれないよ。ハーレイ、生贄泥棒なんだから。
 ぼくと一緒に生贄にしようと追い掛けられるよ、と震わせた肩。「大昔の地球は怖い所だ」と。聖痕がハーレイに会わせてくれても、生贄にされてしまうだなんて。
「そりゃまあ、ただでは済まんだろうが…。俺の方もな」
 お前と同じ洞窟の住人だったら、二度と戻れやしないだろう。別の洞窟に住んでいたって、俺を待ってるのは仲間に追われる人生だろうな。
 しかし、そいつはお前も同じだ。生贄の子供が逃げ出したんなら、追われるんだから。
 そうなった時は、俺もお前も、居場所が無くなっちまうということで…。
 住む場所が無くなっちまったんなら、新しい場所を探せばいいだろ。
 なあに、頑張って探し回れば見付かるさ。あの時代は人間の数が少ないから、きっと何処かに。
 二人で一緒に逃げている内に、丁度いい洞窟が見付かるんじゃないか?
 神様が下さった聖痕があるなら、洞窟だってあるだろう。
 大勢の仲間と暮らしてゆくには狭すぎるヤツで、追手にも見付からないようなヤツ。
 お前と二人で、其処で暮らしていける筈だと思うんだがな…?



 神様が過去に連れてったんなら、そういう用意もありそうだぞ、というのがハーレイの読み。
 「大昔の地球に生まれたかった」という夢を叶えるなら、二人で暮らしてゆける小さな洞窟も。
 新しい住まいが見付かったならば、洞窟の中に焚火を一つ。獣が襲って来ないようにと、焚火で肉も焼けるようにと。
「まずは焚火だ、そいつが無いと安心出来ないからな」
 お前が留守番するにしたって、焚火無しでは不用心だから…。薪もドッサリ集めて来ないと。
 焚火さえあれば、獣は中に入って来ないし、俺は狩りをしに行くとするかな。俺一人でも、何か獲物は獲れるだろう。大勢で狩るようなヤツは無理でも。
 お前は火の番をしていればいいが、退屈になったら木の実でも集めて来るといい。あまり遠くへ行ったりしないで、洞窟の側で。
 狩りの獲物と木の実で充分やっていけるさ、とハーレイが語る洞窟生活。二人きりでも、仲間は誰もいなくても。…二人分なら、食料も多くは要らないから。
「そういうのも、いいかも…」
 ハーレイと二人分の食事だけなら、きっとなんとかなるものね。大勢だったら、狩りをするには便利だけれど、獲物も沢山必要だから…。みんなの家族が飢えないように。
 二人分なら、量はそんなに要らないよ。ぼくは少ししか食べないだろうし、木の実だけでもお腹一杯になりそうだから。
 獲物が少なくなる冬だって、ハーレイなら上手くやれるでしょ?
 大昔の人たちには思い付かない、罠だって作れそうだから。…中身が前のハーレイなら。
 今のハーレイと違って、自然の知識は少なそうだけど、と肩を竦めてみせた。青い地球で育ったハーレイだったら、川での釣りはお手の物だし、罠の知識もありそうだから。
「確かになあ…。前の俺だと、今の俺がやるようなわけにはいかんな」
 今の俺なら、狩りをする前に罠を考え出しそうなんだが…。獣たちの通り道を見付けて。
 魚だって釣りを始めるだろうな、闇雲に川に入る代わりに。…網だって工夫するかもしれん。
 しかしだ、前の俺の方だと、自然の中での経験が何も無いんだから…。
 キャプテンの知識で何処までやれるか、ちょいと心配ではあるな。
 とはいえ、罠なら本とかで知っていたわけなんだし、「やってみるか」と作るだろうさ。
 木彫りに使うナイフは無くても、石で木を削って檻を作ってやるとかな。



 キャプテン・ハーレイだった俺の知識でも、洞窟生活の時代には無い筈の罠くらいは…、と今のハーレイが笑う。「なんとかなるさ」と、「今の俺ほど器用じゃなくてもな」と。
「お前を食べさせていくためだったら、頑張らないと。まだまだチビの子供なんだし」
 前の俺たちがやったみたいに、お前をきちんと育てないとな。飢えないように食わせてやって。
 俺が一人で育てるわけだが、料理の知識はあるんだから…。
 前の俺の記憶が戻ったんなら、美味い物を作ってやれるかもしれん。焚火生活でも、工夫すりゃ料理も出来るだろうから。
 大昔の地球で、お前と二人で駆け落ちか…。生贄にされる所を助けて逃げて。
 お前と一緒に生きていけるんなら、俺はそれでもかまわないがな。…大昔の地球で洞窟でも。
 快適な家も車も何も無くても…、とハーレイは頷いてくれたから。今の平和な地球でなくても、仲間から追われてしまったとしても、一緒に暮らしてくれるらしいから…。
「ぼくもかまわないよ。とても大変な暮らしになっても、ハーレイと二人なら平気」
 二人で暮らせる洞窟があったら、それで充分。…お腹が減らないだけの食事と。
 食事が足りなくなってしまったら、ハーレイ、ぼくに譲ろうとするでしょ?
 それは嫌だから、食事は無いと困るけど…。他は大変でも平気。大勢だったら暖かい筈の冬に、二人しかいない洞窟だって。
 ハーレイとピッタリくっついていたら、きっと暖かいと思うから。…焚火もあるから。
 うんと幸せに生きていけると思うけど…。ハーレイがいればいいんだけれど…。
 でも、ぼくたちがミュウじゃないなら、その内に年を取っちゃうのかな?
 サイオンで止められないものね…、と気掛かりになった身体のこと。前の自分は若い姿のままで外見の年を止めていたけれど、今の自分もそのくらいのことは出来る筈。サイオンは不器用でも、無意識の内に使っている分があるのだから。アルビノでも光に弱くないのは、そのお蔭。
 けれど、サイオンがまるで無ければ、年を重ねてゆくのだろうか。洞窟でハーレイと暮らす間に年老いていって、想像も出来ない姿になってしまうとか。
「いや、神様が大昔に連れて行って下さったんなら、年は取ったりしないだろう」
 前のお前と同じくらいで止まっちまって、若いままだと思うがな。…俺も恐らくこの姿だ。
 そいつを思うと、逃げ出して正解かもしれん。「あいつらは全く年を取らない」と周りの仲間の噂になったら、やっぱり生贄コースだからな。



 聖痕を上手く乗り切ったとしても、老けないことで生贄か…、とハーレイはお手上げのポーズ。
 「どうやら俺たちには、そのコースしか無いらしい」と。大昔の地球に生まれ変わっていたら、何処かで来るのが生贄の危機。結局二人で逃げるしかなくて、洞窟で二人きりの日々。
 それも悪くはないんだけどね、と考えていたら、ハーレイがこう口にした。
「俺もお前も老けないとしても、寿命の方は短いのかもしれんがな」
 神様も寿命までは面倒を見て下さらないんだろうし…。生まれた時代に相応しく生きろ、と他の人間と同じくらいになるかもしれん。前の俺たちや、今の時代みたいに長寿じゃなくて。
 ミュウなら三百年は軽いもんだが…、と言われた人間の寿命。今の時代はもう何処にもいない、人類と呼ばれた種族の寿命は、百年にも満たなかった筈。SD体制の時代でさえも。
 大昔の人間が進化したのが人類なのだし、洞窟生活だった頃の人間の寿命も短かっただろう。
「…その時代だと、何年くらい?」
 何年くらい生きていられたわけなの、洞窟で暮らして狩りをしていた人間たちは…?
 長生き出来たらどのくらい、と長めの寿命を訊いてみた。平均寿命は短いだろうし、子供の間に死んでしまうケースも多かった筈だから。「長生きする人はどのくらいなの?」と。
「俺も詳しくはないんだが…。四十年も無いかもなあ…」
 日本の国の江戸時代でさえ、平均寿命が四十年だと言われてる。洞窟の時代じゃないのにな。
 もっと昔なら、どんどん短くなるわけで…。たまに長生きの人がいたって、百には届かん。
 確かな記録が残る時代でそれなんだから、洞窟の時代じゃ四十年も生きたら長生きじゃないか?
 孫だっていた年だろう、と聞かされたから仰天した。四十歳でも長寿だなんて、と。
「たったそれだけ!?」
 長生き出来ても四十年なの、洞窟で生きてた時代って…。そのくらいの寿命しか貰えないわけ、年は取らないままにしたって…?
「仕方ないだろう、大昔の地球は厳しいんだ。自然ってヤツも、人間が生きる環境も」
 アルビノのお前は育つことさえ出来ないだろう、と前の俺だって何度も言っただろうが。
 前のお前が「大昔の地球に生まれたかった」と言い出す度に、それは無茶だと。
 どうする、洞窟で長生き出来ても、四十年ってトコなんだが…。
 お前がきちんと育った後には、寿命の残りは二十年ほどしか無いんだが…。
 前のお前と同じに育つの、十八歳くらいになるんだろうしな。どう頑張っても。



 四十年しか生きられなくてもかまわないのか、と問い掛けられた。大昔の地球に生まれ変わっていたなら、寿命は少ないかもしれない。ほんの四十年でおしまい。
 けれど、忘れてはならないこと。四十年しか寿命が無くても、洞窟で暮らす自分の側には…。
「四十年でもいいよ、ハーレイと一緒なんだから」
 短い間しか生きられなくても、ハーレイが一緒にいるんだもの。生贄コースから助けてくれて。
 それに本物の地球の上だし、ぼくは幸せ。洞窟で暮らして、うんと短い寿命でも。
 どっちかを好きに選べるんなら、今の地球の方がいいけどね。
 今だって地球はちゃんと青いし、本物のパパとママがいてくれるんだから、と今の自分の幸せを思う。前の自分は過去の地球に幸せを探していたのだけれども、未来に幸せがあったから。
「俺もだ、断然、今の地球だな。お前とたっぷり生きられるのが最高じゃないか」
 前と同じにミュウなお蔭で、寿命は山ほどあるってな。お互い、まだまだヒヨコってトコだ。
 それに駆け落ちもしなくていいのが有難い。
 お前に聖痕が現れたって、みんな心配しただけだ。大昔の地球なら、お前は生贄にされてるぞ。俺が抱えて逃げない限りは、下手すりゃその日に命が無い。…あの時代はそんな時代だから。
 物騒な時代に生まれて来なくて良かったな、とハーレイは言ってくれるのだけれど。
「そうかもだけど…。生贄にされてしまいそうだけど…」
 ほんのちょっぴり大昔の地球に行けるんだったら、洞窟で暮らしてみたいかな…。
 ハーレイと二人で逃げ出した後に、二人きりで暮らす小さな洞窟。
「何故だ?」
 逃げ出すってことは生贄の危機で、お前は懲りていそうなんだが…。地球は怖い、と。
 俺と一緒なら幸せだと言っても、今よりもずっと大変な暮らしが待ってるんだぞ、その時代は。
 なのにどうして洞窟なんだ、とハーレイが訊くから笑顔で答えた。
「ハーレイ、かっこよさそうだから」
 一人で狩りに出掛けるんでしょ、ぼくと二人で食べる獲物を捕まえるために。
 「こんなに獲れたぞ」って担いで帰って来そうだし…。何が獲れるか分からないけど、ハーレイなら沢山捕まえられそう。獲った獲物の皮を剥いだり、お肉にしたり…。
 きっと、とってもかっこいいんだよ、学校で先生をしているよりも。
 凄くかっこいいに決まっているから、そういうハーレイ、見てみたいよね…。



 ちょっぴり行ってみたいんだよ、と前の自分の夢と重ねる。大昔の地球にハーレイと生まれて、二人きりで暮らしてゆける洞窟。ハーレイが狩りをして、自分は焚火の番をして。
「お前がそういう夢を見るのは勝手だが…。好きにしていればいいんだが…」
 俺は四十年しか生きられない世界は御免蒙る、お前と一緒にのんびり長生きしたいんだから。
 たったの四十年で終わってたまるか、今、気付いたが、俺は二年しか生きられないぞ。
 お前と出会って逃げた後には、二年しか残っていないんだが…。
 俺の寿命は、とハーレイが苦い顔をするから、首を傾げた。どうして二年になるのだろう?
「なんで?」
 ぼくとハーレイが出会った後には、たったの二年って…。それは何処から出て来たの?
「俺の年をよく考えてみろ。今で三十八歳なんだ」
 四十年しか生きられないなら、残りは二年しか無いわけで…。
 お前が前のお前と同じ姿に育つ頃には、寿命を迎えていそうなんだが…。十四歳のお前は、二年経っても十六歳にしかならないからな。
 其処でお前とお別れらしい、とハーレイが告げた寿命の残り。四十年なら、そういう計算。
「それ、困るよ…!」
 たったの二年でハーレイがいなくなっちゃうだなんて、あんまりだってば…!
 辛すぎるってば、二年しか一緒にいられないなんて…!
 そんなの辛いよ、と泣き出しそうになった、ハーレイと別れてしまうこと。離れ離れどころか、寿命でお別れするなんて。ハーレイの命が尽きるだなんて。
 狩りに出掛けるハーレイがどんなにかっこよくても、それでは辛い。たったの二年で、何もかも終わってしまうだなんて。独りぼっちで残されるなんて。
 前の自分が憧れていた、大昔の地球での洞窟生活。あの頃から前のハーレイに笑われたけれど、実現したなら厳しすぎる世界。…大昔の地球は。
 弱く生まれたアルビノの自分が生き延びられても、聖痕が現れたら生贄にされる。不吉な子だと恐れられるか、特別な子だからと神に捧げられるか、どちらかで。
 ハーレイに助けて貰って逃げても、二人で暮らせる場所を見付けても、たったの二年で終わりが来る。長生き出来ても四十年なら、ハーレイが寿命を迎えてしまって。
 大昔の地球で生きてみたいと、前の自分は夢見たのに。洞窟生活でいいと思っていたのに。



 あれは間違いだっただろうか、と今だから思う前の自分の夢。前のハーレイに「無理ですよ」と何度も言われ続けた、大昔の地球で生きてゆくこと。
「…前のぼくの夢、やっぱり間違っていたのかな…?」
 洞窟で生きてゆくっていうのは、とっても大変そうだから…。ハーレイと二人で洞窟で暮らしていけても、じきに終わりが来そうだから…。ハーレイの寿命が短すぎて…。
 四十年しか無いんだったら、ホントに直ぐにお別れだもんね、と悲しい気分。本当にそうなったわけでもないのに、胸がツキンと痛くなって。
「間違っていたんだろうと思うぞ。前のお前が言ってた時から、俺は笑っていたろうが」
 サイオンも無しで狩りをする気か、と無茶だと指摘してたんだがな?
 それにアルビノだと育つだけでも大変だから、と身体のことも。
 お前が夢見た地球での暮らしは、未来の地球で丁度いいんだ。地球で暮らすのも、本物の家族の中に生まれて来るというのも。
 あの頃の俺たちには想像もつかない世界だったが、今がその未来になってるわけで…。
 神様はきちんと考えた上で、行き先を決めて下さったってな。お前が生まれ変われる場所を。
 大昔じゃ駄目だと、未来の地球に…、と話すハーレイがきっと正しい。
 神様は前の自分が夢見た世界を、今の自分にくれたから。地球での暮らしと本物の家族、自分は両方手に入れたから。大昔ではなくて、ずっと未来で。
「そうみたい…。洞窟の夢は諦めるよ」
 狩りをするハーレイは見てみたいけれど、たった二年でお別れだなんて、辛すぎるから…。
「是非、そうしてくれ。次の人生が洞窟になったら、たまらんからな」
 これがお前の夢なんだろう、と神様が願いを叶えて下さったりしたら困るだろうが。
「ホントだ、大変すぎるよね…。そうなっちゃったら」
 ハーレイもぼくも、とっても大変。
 駆け落ちはちょっぴりしてみたいけれど、神様が間違えてしまったら大昔だから…。
 次に生まれたのが洞窟だったら、悲しいことになっちゃうから…。



 前のぼくの夢は、もう見ないことにしておくよ、と今のハーレイに誓いを立てた。
 大昔の地球での洞窟生活を「無茶です」と止めたのが、前のハーレイ。
 サイオンも無しで狩りは無理だと、アルビノの子供が育つのも難しいからと。
 今のハーレイから聞かされたことは、生贄にされるとか、たったの二年でハーレイの寿命が来てお別れだとか、前とは違った色々な話。大昔の地球の暮らしはこう、と。
 夢と現実は違うらしい、と今度の生でも気付かされたから、大昔の地球の洞窟生活は諦めよう。
 前の自分が夢に見たより、ずっと素敵な未来の地球に来たのだから。
 本物の家族と一緒に暮らして、いつかハーレイとも結婚して家族になれるのだから…。



            憧れた大昔・了


※前のブルーが憧れていた、大昔の地球で暮らすこと。本物の地球の上で、本物の家族と。
 それは無理だ、と前のハーレイも、今のハーレイも厳しい現実を指摘。大昔よりは今の地球。
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