忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

楓のシロップ
(あれ…?)
 一枚だけ黄色、とブルーが見上げた木の葉。学校からの帰り、バス停から家まで歩く途中に。
 黄色く色づいている葉っぱ。他の葉はまだ緑色なのに、一枚だけが。
 気の早い紅葉、楓ではなくて桜だけれど。葉っぱの形も、佇まいだって楓とは違う木だけれど。
(紅葉の季節…)
 もう少ししたら、木々が色づく季節。
 一年中、緑色の葉をしている木たち以外は、どの木の葉っぱも染まってゆく。綺麗な色に。赤や黄色や、その木ならではの色合いに。
(やっぱり楓が一番だよね)
 あれが紅葉の代表だよ、と思い浮かべた楓の木。「モミジ」と呼ばれるのが楓。人によっては、モミジという言葉が「楓」の名前だと信じているほど。
 そうなるだけあって、楓の紅葉は美しい。赤く染まった木は、さながら紅葉の女王のよう。他の木々には出せない色合い、重なり合う葉が描き出す濃さや、鮮やかさや。
 それも葉っぱが小さい楓が最高、と楓の木たちを探しながら歩く。道沿いにある家の庭の中に。
 葉が小さいと、繊細に色づくものだから。葉っぱの数だけ、違った色も生まれるから。
 家に着くまでに見た楓は幾つも、家の庭にもある楓。
 制服を脱いで、おやつを食べながらダイニングの窓の向こうに眺めて、その後には二階の自分の部屋の窓からも。
(あの種類の楓が、一番綺麗に見えるんだよ)
 いつだったか、母が教えてくれた。
 楓の種類は多いけれども、葉が小さいほど色づいた時が綺麗なのだと。品良く、小さな葉を持つ楓。小さい葉だから、見た目も繊細。庭に植えたのも、そういう楓、と。
(楓の種類、ホントに沢山…)
 赤ちゃんの手を思わせるような楓の葉。「紅葉のような手」と言うほどだから。
 帰り道に見た楓も色々、どの木も楓ならではの葉っぱ。人の手のような。
 大きな葉をした楓の木やら、他にも様々な種類がある。最初から葉が赤くて、「もう紅葉?」と驚かされるものやら、葉っぱの縁がノコギリのようにギザギザになっている楓やら。



 種類が沢山ある楓。庭の持ち主の好みに合わせて、選んで植えてある木たち。今の自分には楓は普通で、紅葉の季節になれば目につく。「あそこにもある」と、何処に行った時でも。
(シャングリラには、楓、無かったけれど…)
 今の自分には馴染み深い木、紅葉の代表格の楓は。
 白いシャングリラにあった公園、あそこで紅葉していた木たちは、他の木だった。人の手の形の葉を持つ楓ではなくて。
(楓の木、とても綺麗なのにね?)
 紅葉の季節を迎えなくても、青楓と呼ばれる青葉の季節。それを眺めに行く人も多い。幾重にも重なる、繊細な葉を。写真を撮ろうと、カメラを構える人だって。
 けれど、そういう楓の木。白いシャングリラに無かったばかりか、一度も見かけなかったような気がする。アルテメシアで地上に降りた時にも。
 育英都市の街路樹はもちろん、テラフォーミングされていた山の中にも無かった楓。見ていないように思える楓。前の自分は、ただの一度も。
(なんで…?)
 覚えていないのか、本当に無かったものなのか。
 綺麗な木だけに、あっても良かったと思うんだけど、と不思議な気分。SD体制の時代でも。
(別に、邪魔にはならないよね…?)
 楓の木くらい、機械の時代の邪魔にはならない。ただの木なのだし、不都合は何も無いだろう。公園に植えても、テラフォーミングした山に植えても。
(…ぼくが忘れてしまったのかな…?)
 楓に関心が無かったものか、愛でる余裕が無かったのか。どうなのだろう、と首を捻った所へ、聞こえたチャイム。仕事帰りのハーレイが訪ねて来てくれたから、早速、訊くことにした。
 テーブルを挟んで向かい合わせで、ハーレイが腰を落ち着けるなり。
「あのね、楓の木は無かった?」
 紅葉って言うでしょ、楓のこと。あの楓の木は無かったかな…?
「はあ? 楓って…?」
 無かったか、って俺の家の庭のことを言ってるのか?
 無いことはないぞ、お前が気付いていなかっただけで。



 俺の家の庭にも楓はある、と答えたハーレイ。庭の何処かに植えてあるらしい。
 ハーレイの家の庭にもある楓。どんな楓か、そちらも訊いてみたいのだけれど、今はそれよりも楓が問題。前の自分が見ていないように思う楓が。
「ごめん。今の時代じゃなくって、シャングリラ…」
 前のぼくたちが生きてた頃だよ、SD体制の時代の話。楓の木、植えていたのかな、って…。
「シャングリラには植えていなかったぞ」
 どの公園にも楓は無かった。いろんな公園を作った船だが、楓は一本も無かったっけな。
 キャプテンの俺が言ってるんだし、間違いはない、と断言された。やはり無かった楓の木。白いシャングリラの何処を探しても。
「それは分かっているけれど…。前のぼくの記憶に残っていないから」
 あの船で楓を見たんだったら、覚えていそう。忘れたにしても、思い出せると思うんだよ。
 でもね、前のぼく…。アルテメシアに降りた時にも、見ていない気がして来ちゃって…。
 あそこの街路樹、秋には紅葉していたのにね。山に植えられてた、色々な木も。
 だけど楓の記憶が無くて…。何処かの家とか公園だったら、植えていたかもしれないけれど…。
 前のぼくが其処には行かなかっただけで、と説明した。「楓の木を見た覚えが無い」と。
「なんだ、そっちの方なのか。シャングリラの中だけの話じゃなくて」
 そりゃ無いだろうな、楓の木なんか。あの時代なら、アルテメシアには無いさ。
 他の星でも無理じゃないか、と返った答え。いとも簡単に、「無かっただろう」と。
「え? 無かったって…」
 アルテメシアに無いだけじゃなくて、他の星にも無いって言うの?
 テラフォーミングの時の都合で、アルテメシアには向かなかった木だったわけじゃなくって…?
「そうなるな。楓の木は何処にあるものなんだ?」
 特別に栽培するのでなければ…、という質問。どういう所で育つ木なのか。
「…日本とか?」
 今のぼくたちが住んでる地域。ずっと昔は、日本っていう島国があった場所…。
「その通りだ。俺たちがモミジって呼んでる楓は、この地域じゃありふれた木なんだが…」
 イロハカエデが有名なんだが、そいつはこの辺りに分布しているわけだ。
 お前も充分、承知しているように、地球の上には様々な植物があってだな…。



 青く蘇った地球も、滅びる前の青かった地球も、それは様々な植生があった。地球のあちこち、其処ならではの植物たちが育つもの。自然の中では。
 遠い昔に、SD体制の時代の文化の基本に選ばれた地域。機械が統治しやすいようにと、多様な文化が消された世界がSD体制の時代の宇宙。
 此処の文化を元にして世界を組み立てよう、と機械が選び出した地域に、楓の木は全く無かったらしい。人の手の形の小さな葉を持つ、今の自分に馴染みの木は。
「なんと言っても、日本風の庭が似合いの木だからなあ…。楓ってヤツは」
 お前の家や俺の家にあるような庭でも、植えておいたら見栄えはするが…。
 一番しっくり来そうな場所は、日本風の庭だと思わんか?
 どう思う、と尋ねられたから頷いた。実際、楓の名所と言ったら、その手の庭になるのだから。
「そうだね、そういう庭が似合うよ。あんまり沢山無いけれど…」
 日本風です、っていう大きな公園とかに行かなきゃ、本格的なのは見られないけれど。
「家がこういう造りだからなあ…。日本風の庭にしちまったら、今一つ似合わなくなるし…」
 やたら庭だけ浮いちまうだとか、家がおかしく見えるとか…。本格的な庭は無理だぞ。
 個人の家で作ろうとしたら難しい、とハーレイが指摘する通り。絵に描いたような日本風だと、家まで日本風の造りにしないと似合わない。遠い昔にそうだったように。
 ハーレイが教える古典の世界の時代だったら、庭にも山にも似合った楓。日本だったら。
 けれどSD体制の時代の基本になった文化には合わず、その文化があった地域にも無かった木。楓を愛でる文化が無いなら、植える必要も無いだろう、と考えたのがグランド・マザー。
 機械が「要らない」と判断したから、楓は何処にも植えられなかった。いつか地球が蘇った時に備えて、専用の施設で保存されてはいても。…「楓」という種を絶やさないように。
「そうなんだ…。今だと、山にも沢山生えているのにね」
 楓の木、と思い浮かべる紅葉の名所。木々の錦が染め上げる山には、楓の紅葉も混じるもの。
「そのように再現したからな。地球で植物がまた育つようになった時代に」
 もっとも、いくら楓の紅葉が綺麗だと言っても、楓ばかりが植わっている山は無いんだが…。
 俺たちが住んでる地域の中には、楓だけだという山は無い。森や林にしたってそうだ。
 本物の日本だった頃から、色々な木たちが育っていたわけで、そいつを元に戻したんだから。
 この地域の植生を再現しようと、もう一度、日本に似合いの山や林を作ろうとな。



 ところが、他の地域に行くと…、とハーレイが話してくれたこと。
 他の地域にもある紅葉の季節。楓を指すモミジのことではなくて、木々の葉が色づく紅葉の方。
「同じ紅葉でも、この地域のとはまるで違っているらしい。もちろん、地域によるんだが…」
 其処に生えてる木の種類によっては、味気ないほど同じ色で塗り潰されてしまうそうだぞ。
 この辺りだと、赤や黄色や、それは色々な色が混じっているんだが…。
 古典の時代から「紅葉の錦」と呼んでたくらいに、色とりどりなのが紅葉なんだがな。
「おんなじ色って…。そんな景色になっちゃうの?」
 ちょっと想像できないけれど…。街路樹とかなら、どれも揃って黄色や赤になるけれど…。
 山や森とかが同じ色って、同じ種類の木ばかりだったら、そういうことになっちゃうのかな…?
 ぼくが知ってる紅葉じゃないよ、と驚いたけれど、写真で見たようにも思う。他の地域で誰かが撮影した写真。一面の黄色に染まった森と、それを映した湖と。
 今の青い地球の上の何処かに、そんな景色もあるのだろう。揃って同じ色に染まる山や森やら。
「其処で暮らしている人間にすれば、そっちが普通なんだがな。色とりどりの紅葉じゃなくて」
 それだけ地球が広いってことだ、紅葉だけでも景色がすっかり違うくらいに。
 もっとも機械はお気に召さなくて、統一しちまっていたわけだが…。山で育てる木の種類まで。
 楓は似合わない世界なんだ、と判断したなら、公園からも除外しちまって。
 味気ない時代だったよな、とハーレイがフウとついた溜息。「前の俺たちには普通だが」と。
「楓が無いよ、って気付きもしていなかったしね…。前のぼくでも」
 あの頃だったら、楓とは違った一面の色の紅葉も、きっと何処にも無いね。山も林も、すっかりおんなじ色に塗り潰されちゃうような紅葉…。
「そこまで見事にテラフォーミングしていた、星が存在しなかったからな」
 あくまで人間が暮らす範囲を整える、というのが基本だから…。それ以外の場所は手つかずで。
 一番テラフォーミングが進んだ、ノアでもそいつは無理だったろう。見渡す限りの紅葉はな。
 しかし今では、この地球の上で見ることが出来る。
 そういう紅葉が普通になってる地域に行ったら、誰だって。…俺も、お前も。
 もっとも、俺は同じ色に染まる紅葉よりかは、この地域の紅葉が好きなんだが…。
 赤や黄色や、同じ赤でも、木によって違う色になっちまう山。
 色とりどりの山が好きだな、紅葉を眺めに出掛けてゆくってことになったら。



 紅葉は錦に限るんだ、と話すハーレイの好みは様々な色に染まる山。同じ楓も赤は色々、其処に黄色や橙色の葉を持つ木たちが混じる。まるで絵具のパレットのように。
「錦ってヤツは一色じゃないだろ、色が一つしか無きゃ錦とは呼ばん」
 それに錦秋とも言うわけで…。秋は錦に染まってこそだ。山も林も、色とりどりにな。
 紅葉を見るなら錦でないと、とハーレイがこだわる、様々な色に染まる秋。他の地域だと、違う所もあるらしいのに。一面の紅葉がそっくり同じ色に染まって。
「ハーレイがそう思うのは…。それは古典の先生だから?」
 錦に限る、って言ってるのは。古典の世界の時代の紅葉は、今と同じで錦だから…。色々な色が混じってるもので、一色だけの紅葉じゃないから。
 前のハーレイだと、紅葉どころじゃないけれど…、と付け加えた。白いシャングリラの公園でも色づいた、冬に葉を落とす落葉樹たち。船の中で人工的に作っていた秋、その頃になれば。
 けれど、紅葉狩りに出掛けられるほどの規模ではなかった。あの船で生きたミュウたちの中で、紅葉見物をしていたのは前の自分だけ。アルテメシアに降りた季節が秋だったなら。
「俺の紅葉についての意見ってヤツか? どうだかなあ…」
 古典の教師は、あまり関係なさそうだが…。言葉の方なら、色々と知ってるんだがな。
 紅葉を詠み込んだ和歌や俳句や、そういったものも馴染み深くはあるんだが…。
 錦に限る、と思っちまうのは、ガキの頃から見慣れた景色だからだろう。前の俺だと、あの船の中で見ていた紅葉が全てだったが…。楓なんかは無かった船で。
 そういや、楓か…。今じゃ紅葉は楓なんだな、前の俺たちの頃には無かった楓。
 主役が変わっちまったのか、とハーレイは顎に手を当てる。「楓だな…」と、考え込むように。
「どうかしたの?」
 今は確かに、紅葉は楓なんだけど…。楓のことを「モミジ」って呼んでる人までいるくらいに。
 面白いよね、前のぼくたちが生きてた頃には、楓は何処にも無かったのにね。
 地球が蘇った時に備えて、保存してあっただけなんでしょ、と今のハーレイに習った知識を確認するように口にした。前の自分が楓を一度も見なかったのは、記憶違いではなかったから。
「いや、楓だと思ってな…」
 今の俺には紅葉と言ったら錦なわけで、そういう紅葉を見ようと思えば、この地域の山だ。
 楓が自然に育っている山、赤や黄色で色とりどりの山が好みになっちまうんだが…。



 その楓…、とハーレイは「楓だ」と繰り返した。「楓にも色々な種類があるのが地球だ」と。
「俺たちが知ってる楓となったら、さっきから話している楓。それになるのが今なんだが…」
 一面の黄色や赤の紅葉になっちまう地域、其処にも楓はちゃんとあるな、と思ってな。
 前のお前が行きたがってた砂糖カエデの森がある辺りも、そういう紅葉になるらしいから。
 色が混ざっていない紅葉だな、同じ種類の木ばかりが生えているせいで。
 お前が行きたがってた頃には、その森だって無かったんだが、と言われた砂糖カエデの森。前の自分が夢見た地球は、本当は青くなかったから。蘇る兆しさえも持たない、死の星のままで。
「ホントなの? 砂糖カエデの森がある辺りは、同じ色をした紅葉になるの…?」
 この辺りとは違うんだ、と目を丸くした。砂糖カエデの森がある地域には詳しくない。いつかは行きたい場所だけれども、まだ下調べもしていないから。
「そうらしいんだが…。俺もこの目で見ちゃいないがな」
 で、その砂糖カエデの森。…よく考えてみろよ、前のお前の夢の森だろうが。その森で採れた、本物のメープルシロップをかけて、ホットケーキの朝飯を食うというヤツが。
 前のお前は行き損ねたから、今度は俺と行くんだっけな。結婚して旅行が出来るようになれば。
 出来立てのシロップでキャンディーも作って食うんだろう、とハーレイは忘れずにいてくれた。前の自分が描いた夢より、もっと大きくなった夢。今の自分が抱いた夢。
 メープルシロップを作る季節は、まだ森の中に雪がたっぷり。その雪に煮詰めた樹液を流せば、柔らかなキャンディーが出来るという。メープルシロップと同じ風味のキャンディーが。
 それが食べたくて「行くなら、そういう季節がいいな」と注文したのが今の自分。冬に積もった雪が解け始める、メープルシロップの材料の樹液を集める季節に旅をしよう、と。
「ハーレイ、覚えていてくれたんだ…。キャンディーのことも」
 砂糖カエデの話は何度もしていたけれど、そっちは前のぼくの頃からの夢だから…。今のぼくの夢はキャンディーの方で、前のぼくの夢に、ちょっぴりオマケ。
 砂糖カエデの森もやっぱり、一面のおんなじ色の紅葉になるのかな…?
 黄色くなるのか、赤くなるのか、ぼくはちっとも知らないけれど。
「赤いらしいぞ。ずっと昔は、国旗の模様にもなっていたんだ」
 砂糖カエデが名物だった国の国旗のド真ん中には、赤く染まった砂糖カエデの葉だったから。
 つまり一面の赤になるわけだな、砂糖カエデの森へ紅葉の季節に行けば。



 赤だけじゃ錦にならないが…、と今のハーレイの好みではない色なのが砂糖カエデの森が染まる秋。様々な色が入り混じってこその錦なのだし、砂糖カエデの森の紅葉は失格。
「俺の好みの紅葉にはなってくれないわけだが、その砂糖カエデを考えてみろ」
 紅葉は抜きで、メープルシロップもホットケーキも、キャンディーの夢も抜きにして。
 砂糖カエデっていうくらいだから、楓とついているよな、名前に。
 いわゆる紅葉の楓と同じに楓の文字、と言われてみれば、その通り。砂糖カエデの名前の中には楓の文字が含まれている。紅葉の楓と同じ響きが。
「うん…。でも、楓とは違うよね?」
 今のぼくたちが知ってる、紅葉の楓。あれは昔の日本の辺りにあった楓で…。今でもそう。
 SD体制の時代には無かった楓なんだし、砂糖カエデとは違うものだよ。砂糖カエデの方なら、ちゃんとあったんだもの。…メープルシロップは消えていなかったから。
 シャングリラには本物のメープルシロップは無かったけどね、と苦笑する。船の中では、育てることは無理だった砂糖カエデの木。
 だから「地球で」と夢を見ていた。いつか地球まで辿り着いたら、砂糖カエデから採れた本物のメープルシロップをかけて、ホットケーキを食べようと。地球の草で育った牛のミルクのバターも添えて、それは贅沢な朝食を。
「砂糖カエデは健在だったな、前の俺たちの時代にも。文化が消されていなかったから」
 ホットケーキは馴染みの食べ物なんだし、メープルシロップが欠かせない。砂糖カエデを育てて作っていかないと。…シャングリラでは無理で、合成品しか無かったんだが。
 それでもメープルシロップを作っていたほど、前の俺たちにも馴染み深かったのが砂糖カエデというヤツだ。前のお前が憧れていたくらいにな。
 その砂糖カエデの木なんだが…。
 お前が言うように種類は全く違うものだが、同じ楓には違いない。砂糖カエデの方だって。
 楓と名前がついている以上は、楓の内だ、とハーレイは話すのだけれど。
「んーと…。確かに名前は、ちゃんと楓とつくけれど…」
 別のものでしょ、紅葉の楓と砂糖カエデは。
 だって少しも似ていないじゃない、前のぼくだってデータくらいしか知らないけれど…。
 紅葉の楓と違うってことは直ぐに分かるよ、育つ地域が違うにしたって。



 名前に楓とつくだけだよね、と砂糖カエデを頭に描いた。前の自分が夢見た木だから、葉っぱの形くらいは分かる。紅葉の楓に似ているようでも、まるで違った木なのだと。
 けれど…。
「そうでもないんだ、どっちも同じに楓だから。…砂糖カエデも、紅葉の楓も」
 名前に楓とつくだけじゃない。紅葉の楓と砂糖カエデは、無縁ってわけじゃないってな。
 この地域だと砂糖カエデは生えてはいないが、紅葉の楓なら幾らでも生えて育ってくる。山でも森でも、林でも。…種が散らばりさえすれば。
 その楓から蜜が採れるらしいぞ、花の蜜ではなくて樹液だ。砂糖カエデの樹液みたいに。
 楓の幹に穴を開ければ採れるそうだ、と聞かされてキョトンと見開いた瞳。
 幹から樹液を集めるのならば、メープルシロップと変わらない。砂糖カエデの樹液を煮詰めて、濃くしたものがメープルシロップ。樹液が一番多く流れる、雪解けの季節に集める樹液。
「それ、本当?」
 紅葉の楓から蜜が採れるって…。樹液だなんて、そんなの、聞いていないけど…。
 楓の木は何処の山にもあるけど、あれは山の中に好きに生えてるだけで…。
 雪解けの季節に樹液を集めに行く人なんかは、何処の山にもいないんじゃないの?
 いるんだったら、楓の樹液で出来ている蜜がお店に並んでいそうだから…。メープルシロップの瓶の隣に、楓の木から採れたシロップの瓶。
 だけど、一度も見たことないし…。ぼくのママだって、買ってこないし…。
 採れるんだったら、ぼくも食べたことがある筈だよ、と疑わしい気持ち。ハーレイが嘘をついているとは思わないけれど、元の情報が間違っていたら、嘘ではなくても嘘になる。間違った情報を信じてしまって、それを話しているのでは、と考えたりもしてしまう。楓の樹液などは知らない。
「お前が疑っちまう気持ちも、分からないではないんだが…」
 この辺りの山じゃ集めてないしな、楓の樹液というヤツを。もちろん、専門の人だっていない。
 だが、俺は嘘など言ってはいないぞ。楓の木からも樹液は採れる。蜜と呼べるほど甘いのが。
 楓の種類と、その木が育っている環境によるって話なんだが…。
 どの楓でも採れるというわけじゃないし、同じ種類の楓の木でも、場所が違えば駄目らしい。
 砂糖カエデが生えている森は、冬になったらうんと寒くなる場所にあるだろう?
 それと同じに、寒い山の中がいいって話だ。…砂糖カエデの森ほどには寒くないそうだがな。



 本当に嘘じゃないんだぞ、とハーレイは念を押すように言った。「俺が嘘などつくもんか」と。
「嘘をつくなら、もっと上手な嘘をつく。お前が疑わないような嘘を」
 ただし、そういう嘘をつくなら、お前のためになる嘘だ。お前を騙した方がいいと思った時に。
 もちろん、嘘だと話しはしない。嘘をつく理由が要らなくなって、嘘だと明かせる時までは。
 お前のためになる時だけしか、俺は嘘などついたりしない。それは分かっているんだろう…?
 違うのか、と瞳を覗き込まれた。「前の俺の頃から、そうだったが」と。
「…そうだけど…。前のハーレイが嘘をついていた時は、いつだって、そう…」
 ぼくが本当のことを知ったら、悲しくなってしまう時とか、泣いてしまいそうな時だとか。
 ハーレイの気持ちは分かっていたから、心を読んだりはしなかったよ。嘘を信じておくだけで。話して貰える時が来たなら、ハーレイは話してくれるから…。
 だけど、楓の話なんかは、そんなものとは違うでしょ?
 「お前、アッサリ騙されたな」って、今すぐにだって笑い飛ばせそう。ただの楓のことだから。
 冗談に決まっているだろう、って言われちゃっても、おかしくないし…。
 ぼくが砂糖カエデの森にこだわってるのは本当だもの、と鳶色の瞳を見詰め返した。とびきりの冗談を言われたのではと、もっともらしい嘘の話では…、と。
「冗談なあ…。それも悪くはないんだが…。今のお前はチビだしな?」
 今のは嘘だ、と俺が言ったら、きっとプンプン怒るんだろう。「酷いよ!」と膨れて、唇だって尖らせて。そんなお前も可愛らしいし、やってみたいような気もするが…。
 残念なことに、楓の話は嘘じゃない。楓と名前がつくだけあって、砂糖カエデと似てるんだ。
 この地域にもある楓の木から採れるってだけで、甘い樹液には違いない。そいつを集めてやって煮詰めれば、立派なシロップが出来上がる。
 本物のメープルシロップにも負けない、楓の樹液から作るシロップがな。
「えーっ!?」
 ホントに本物のメープルシロップが出来ちゃうの?
 砂糖カエデの木とは違った楓でも…?
 ぼくたちがモミジって呼んでる楓からでも、メープルシロップが採れるだなんて…。
 ハーレイが嘘を言ってないなら、それ、本当のことなんだよね…?
 冗談でもないって言うんだったら、楓の木からも、メープルシロップ、採れるんだ…。



 前のぼくの夢だったメープルシロップ、この地域にもあったわけ、と目をパチクリと瞬かせた。
 砂糖カエデの木が生えている森は、此処からはずっと遠い地域にある。紅葉の色合いが此処とは全く違うくらいに、遠く離れた海の向こう。
 この地域の紅葉は色とりどりの錦だけれども、砂糖カエデの森の辺りは何処まで行っても一面の赤。他の色の葉は混じっていなくて、砂糖カエデの葉の赤い色だけ。他の種類の木の森だったら、一面の黄色にもなるのだろう。その色だけで塗り潰されて。
 錦のような紅葉を見慣れた今の自分には、想像もつかないその光景。それほどに遠い、何もかも違う気候と風土の、砂糖カエデの森が広がる場所。
 わざわざ其処まで出掛けなくても、メープルシロップに出会えるらしい。砂糖カエデの樹液から出来る、シロップにこだわらないのなら。
「…普通の楓のシロップでいいなら、メープルシロップ、此処にもあるんだ…」
 海の向こうまで出掛けなくても、楓の木がちゃんと生えているから。…種類が違う楓でも。
 庭に生えてる楓みたいなヤツだよね、と指差した庭。母が「この種類が綺麗だから」と植えた、小さな葉をつける楓の木を。
「あれの仲間になるんだろうなあ、楓だと書いてあったから」
 どういう名前の楓なのかは、詳しく書かれちゃいなかった。其処まで書かなくても、写真だけで楓だと分かるような楓だったから…。
 俺たちが見れば、ただの楓にしか見えないんだろう。楓に詳しい人くらいしか、区別がつかないようなヤツだな。こういう葉だからコレだ、と名前が出てくるような人でなければ。
 俺もたまたま、思い付いて調べていたんだが…。楓だっけな、と。
 お前とメープルシロップの話をした後、何かのはずみに、砂糖カエデだと気が付いた。楓という名前がついているなと、だったら普通に生えてる楓はどうなんだ、と。
 同じ楓なら採れそうな気がするじゃないか、とハーレイが言うメープルシロップ。砂糖カエデの木とは違っても、楓には違いないのだから。
「ハーレイ、それで調べてみたの…?」
 この地域に生えてる楓の木からも、メープルシロップが採れるかどうか。
 そんなの、ぼくは思い付きさえしなかったよ。だって楓は楓なんだし、砂糖カエデとは別の木になってしまうから…。第一、ぼくにとってはモミジで、楓はモミジなんだってば。



 秋になったら綺麗に色づくのが楓、と思い込んでいた今の自分。前の自分が生きた頃には、目にしなかった楓の木を。…秋の山や庭を鮮やかに彩る木だと、「楓」の名には気も留めないで。
 考えてみれば、砂糖カエデにも「楓」と名前がついているのに。同じ「楓」の名前を持つなら、同じ性質を持っていたとしても、不思議なことなど何もないのに。
「…ぼく、モミジだと思い込んじゃってた…。楓のこと…」
 砂糖カエデも楓なのにね、モミジの楓とおんなじ楓。同じ名前がついているなら、モミジの楓が砂糖カエデと似てたとしたって、少しもおかしくないんだけれど…。
 気付かなかったよ、と前の自分の夢の一つを思い出す。青い地球まで辿り着いたら、あるだろう砂糖カエデの森。その森で採れる本物のメープルシロップをかけて、ホットケーキを食べる夢。
「俺はお前より、二十四年ほど長く生きてるからな。…ついでに古典の教師でもある」
 古典を生徒に教えるからには、言葉ってヤツに敏感だ。ピンとくるのが早いってな。
 砂糖カエデとモミジの楓の共通点にも、気付いちまったというわけで…。
 前のお前がメープルシロップにこだわっていたっけな、と調べてみたのがモミジの楓だ。楓には違いないからなあ…。もしかしたら、アレからもメープルシロップが採れるのかもしれん、と。
 それで調べて見付けたんだが、それっきり忘れちまってた。
 お前と話すことは多いが、話題も多いもんだから…。それに、採れるのは北の方だし。
 この辺りの山で採れるんだったら、俺も覚えていたろうが、とハーレイの指が叩いた自分の額。「ウッカリ者め」と、「調べたのはかなり前だろうが」と。
「北の方…。場所を選ぶって言っていたよね、この辺りの山じゃ採れないの?」
 うんと寒い所へ行かなきゃ無理なの、楓の木からメープルシロップを作るのは…?
 砂糖カエデの森があるのと同じくらいに、冬は寒くて夏は涼しい所でないと…?
「どうなんだかなあ…。この近くにも、雪がドッサリ積もるような場所もあるんだが…」
 平均したなら、暖かすぎるってことになるのか、気温の差が小さすぎるのか。
 楓の樹液を集めようって人は誰もいないし、山に行っても採ってる所は見かけんな。
 きちんと探せば、採れる場所だって、まるで無いことはないんだろうが…。
 何処かの山の斜面だったら大丈夫だとか、この谷ならば、って場所があるだとか。
 楓の木からメープルシロップを作ってみよう、と思い立った人が調べさえすれば、それに適した場所や木なんかは、見付かりそうではあるんだが…。この辺りの山でも、何本かは。



 ただし採れても、趣味の範囲を出ないだろうな、とハーレイが浮かべた苦笑い。自分用にと少し採るならともかく、商売になるほどは採れないだろう、と。
「商売って…。この辺りの山だと、趣味の範囲だって言うんなら…」
 ハーレイが言ってる、北の方で採れる楓のメープルシロップ、ちゃんと商売になってるの?
 お店で見かけたことは無いけど、何処か大きな食料品のお店に行ったら、それ、売られてる…?
 売ってるんなら欲しいんだけど、と出て来た欲。
 本物の砂糖カエデのメープルシロップは家の食卓でもお馴染みだけれど、楓のシロップの方には出会っていない。この地域で採れる楓のメープルシロップがあると言うなら、そちらも是非とも、味わいたいもの。ホットケーキにたっぷりとかけて。
「残念なことに、其処に行かなきゃ買えないってな」
 なにしろ採れる所が限られてるから、大々的には売り出していない。蘇った青い地球の恵みは、欲張って沢山採り過ぎないのが今の時代の約束事だぞ。
 美味いシロップが評判を呼んで、飛ぶように売れることになったら、沢山作る方法は何だ?
 その山に生えてる他の木を切って、楓ばかりを植えることだろうが。それもメープルシロップが採れる種類の楓だけだな、他の種類の楓は無しで。
 それじゃ、昔の人類と何も変わらない。地球の自然を自分たちの都合に合わせて、好きなようにした人類と。…山を削って、木を切り倒して、原野を切り拓いていった挙句に何が残った…?
 地球の滅びは、そういう所から始まったんだ。最初は生きるための開墾、それがどんどん進んでいったら、手が付けられなくなっちまった。自然は滅びて、元に戻せなくなってしまって。
 そうならないよう、今の時代は、地球の恵みを欲張って奪わないのが約束だから…。
 楓の木から採れるメープルシロップにしても、同じことだな。その年に其処で採れた分だけを、近くの店で売っている。…その程度だったら、採り過ぎちまうことは無いから。
 欲しい人は出掛けて行って買うのだ、と教えられた。
 店で売られているシロップの他に、それを使ったお菓子やホットケーキが食べられる店も設けてあるという。けれど、あくまで「其処まで訪ねて来た人」にだけ。
 いくら気に入っても、頼んで取り寄せることは出来ないらしい。また欲しいのなら、その場所へ出掛けて手に入れること。…お菓子もホットケーキも同じで、其処だけでしか味わえない。
 どんなに美味しいと思っても。…其処まで行くのに、どれほど時間がかかろうとも。



 楓の木から採れるメープルシロップ。この地域でも採れる、砂糖カエデではない楓のシロップ。あると聞いたら食べてみたいのに、この町では手に入らない。其処まで出掛けて行かないと。
「…そうなんだ…。楓のシロップ、食べてみたかったのに…」
 お店に行っても売っていなくて、取り寄せることも出来ないだなんて…。
 北の方まで行くのは遠いよ、ぼくの家からだと旅行になっちゃう。泊まりがけでしか、無理…。砂糖カエデの森がある場所も遠いけれども、楓のシロップが食べられる所も遠いってば。
 せっかく教えて貰ったのに…、とガックリと肩を落としてしまった。
 前の自分が知らなかった楓、その楓から採れる甘いメープルシロップ。一度でいいから、どんな味なのか舐めてみたいのに。…買えるものなら、瓶だって買ってみたいのに。
「こらこら、しょげるな。今は食べられない、っていうことくらいで」
 いつか俺と一緒に行けばいいだろ、そっちの方も。…砂糖カエデの森を目指すみたいに。
 俺の車で出掛けてゆくか、他の交通手段を使うか、それはその時に考えるとして…。
 お前が食べてみたいんだったら、旅行に行くとしようじゃないか。せっかくだから、楓の木から樹液が採れる季節にな。…そしたら、出来立てを食えるんだから。
 雪の上に流して作るキャンディーまでは、あるかどうかは知らないが…、とハーレイが提案してくれた旅行。楓の木から採れるメープルシロップ、それを味わいに行ける旅。
「連れてってくれるの?」
 メープルシロップくらいしか無いような場所でも、ぼくを旅行に連れてってくれる…?
 周りはホントに山があるだけで、観光地とは違っても。…見に行くものは何も無くても…?
「当然だろうが。旅の目的は楓の木のメープルシロップなんだぞ?」
 他にも観光しようだなんて、欲張らなくても充分だ。お前の笑顔が見られさえすれば。
 それに遠くても、同じ地域の中だから…。
 砂糖カエデの森に行くよりは、ずっと近くて簡単だからな。思い立った時に出掛ければいいし、宿だって直ぐに見付かるだろう。他の地域じゃないんだから。
 お安い御用だ、とハーレイは頼もしい言葉をくれた。「俺が旅行に連れてってやる」と。
「ありがとう!」
 ハーレイと一緒だったら、うんと楽しい旅行になるよね。
 凄い田舎で、周りに何にも無くっても。…泊まる場所だって、とても小さいホテルでも…。



 きっとハーレイなら、いつか連れて行ってくれるだろう。楓の木から採れるメープルシロップ、それを味わえる所まで。其処でしか売られていないシロップの瓶を、お土産に買える所まで。
(でも、あの楓からメープルシロップが採れるだなんて…)
 ずっとモミジだと思っていたよ、と庭の楓の木を眺める。母が選んだ、小さな葉の楓。その方が繊細で綺麗だから、と幾つもの種類の中から選んで。
 メープルシロップが採れる楓は、あの楓の木と似ているだろうか。もっと大きい葉の楓だとか、背が高いだとか、何か特徴があるのだろうか…?
(ハーレイは、普通の楓みたいだ、って…)
 話していたから、見た目はさほど変わらない楓なのだろう。「モミジの楓だ」と思う程度で。
 そんな楓から、甘い樹液が採れるという。
 砂糖カエデの森でなくても、メープルシロップが出来上がる。樹液を集めて煮詰めされすれば。
 なんとも不思議な星が地球だ、と思わないではいられない。メープルシロップは砂糖カエデから採れるものだと信じていたのに、前の自分は楓も知らなかったのに。
「ねえ、ハーレイ。…地球って凄いね、楓からもメープルシロップが採れるだなんて」
 砂糖カエデの森からは遠く離れていたって、この地域でもメープルシロップ…。
 同じ楓の仲間の木だから、モミジの楓からも甘いシロップが採れるんだね。楓の種類と、気候がきちんと揃っていれば。
「そうだろう? 地球も凄いし、前の俺たちが知らなかったことも山ほどだ」
 楓の木は何処にも無かっただとか、紅葉を眺めに出掛けてゆくことだとか…。前の俺たちには、思いもよらないことばかりだよな、今の時代は。
 それに、今の俺たちが知らないことも沢山ある。
 楓の木から採れるメープルシロップの味は、今の俺だって知らないし…。あるらしい、と知っているだけのことで、食ってみたことは無いんだから。
 お前と一緒に色々と探して見付けていこうな、そういったもの。
 今ならではの味も文化も、楽しみ方も。…いつか二人で暮らし始めたら。
 幾つも見付けていかないとな、とハーレイが微笑むから、大きく頷いた。笑みを浮かべて。
「うんっ!」
 ハーレイと幾つも見付けていこうね、いろんなものを。…前のぼくたちが知らなかったこと。


 北の方にある、メープルシロップが採れる場所にも行こうね、と約束をした。指切りをして。
 いつか大きくなった時には、ハーレイと二人で出掛けてゆこう。楓の木から樹液が採れる季節を選んで、泊まりがけで。どんな味がするのか、ワクワクしながら。
 そして本物の砂糖カエデの森にも行こう。錦のような紅葉ではなくて、赤一色に染まる森。秋に行っても出来立てのメープルシロップは食べられないから、雪解けの頃に。
 前の自分の夢を叶えに、今の自分のキャンディー作りの夢も叶えに。
 幾つもの夢を叶えてくれる、青い地球。蘇った青い水の星。
 夢がどんどん増えてゆく地球に、ハーレイと二人で生まれて来たから、今の自分は幸せ一杯。
 砂糖カエデの森の他にも、メープルシロップが採れる場所に出掛けてゆけるから。
 前の自分は見たこともなかった楓の木から、甘いシロップが採れるそうだから。
 口に含んだら、きっと幸せの味がするだろう、楓の木の樹液のメープルシロップ。
 ハーレイと二人で旅に出掛けて、ホットケーキやお菓子を味わってみたら。
 そしてお土産に、瓶に入ったシロップも買おう。
 其処でしか買えない幸せの味を、青い地球の恵みの、楓の木のメープルシロップを…。



             楓のシロップ・了


※前のブルーが憧れた、砂糖カエデから採れるメープルシロップ。地球に描いた夢の一つ。
 ところが今では、別の楓からも作れるのだとか。ハーレイと行きたい所が、また増えました。
←拍手して下さる方は、こちらからv
←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv











PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]