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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

水筒と中身
(そっか、遠足…)
 その帰りなんだ、とブルーが眺めた下の学校の生徒たち。学校からの帰りに、バス停から家まで歩く途中で目にした光景。少し前の方を賑やかに歩いてゆく姿。
 普段だったら、この時間にはあまり見かけない。遊んでいる子供たちには出会うけれども、下校してゆく子たちの方は。
 リュックサックを背負った子供たち。遠足の続きみたいにはしゃいで、笑い合いながら。水筒の中身を飲んだりもして。
(中身、ジュースなんだ…)
 驚いたけれど、話の内容からして、水筒に詰まった中身はジュース。自分が通っていた頃は禁止だったけれども、今は許されているのだろうか?
「先生、気が付かなかったね!」
「大丈夫だって言っただろ? バレやしない、って」
 先生の近くで飲まなかったら大丈夫だ、と得意そうな顔の男の子。如何にもヤンチャそうな顔。
(…常習犯…)
 いつもやってる子供なんだ、とポカンとしてから気が付いた。やっぱり今でも水筒にジュースは駄目なんじゃない、と。
 遠足の時も、普段の時も、水筒の中身はお茶か水だけ。下の学校はそういう決まり。
(お茶の種類は決まってないから…)
 麦茶の子もいたし、他にも色々。紅茶を入れていた子は知らないけれど…。
(ミルクティーとかでなければ、良かったのかな?)
 紅茶も「お茶」には違いないから、たっぷりのミルクと砂糖入りでなければ許されそう。普通に淹れただけの紅茶で、過剰な味付けをしていないなら。
(甘いミルクティーだと、ジュースとおんなじ…)
 それを水筒に詰めていたなら、きっと先生に叱られる。「水筒の中身はお茶と水だけ!」と。
(だけど、ジュースを入れてくる子は…)
 自分の周りにも何人かいた。常習犯も、「遠足の時だけ」だった友達も。
 遠足となれば楽しみたいから、ジュースを詰めたくなるのも分かる。広々とした野原や、視界が開ける山の天辺。其処でお弁当を食べる時には、お供はジュース、と。



(ふふっ…)
 今の子たちも、みんな同じ、と微笑みながら帰った家。リュックの子たちを追い抜いて。
 制服を脱いで、ダイニングでおやつを頬張りながら考える。さっきのジュースと水筒のこと。
 今の学校では遠足に行っていないのだけれど…。
(学校に水筒を持って行くなら…)
 ジュースを中に詰めてゆくのは、やっぱり禁止。下の学校の頃と同じに。
 食堂でジュースを買うことだったら、許されるのに。お昼休みに飲んでいたって、叱られない。もちろん放課後も、他の短い休み時間でも。
(なんでかな…?)
 学校でジュースが売られているのに、禁止されるのが水筒のジュース。買って飲むのも、持ってくるのも同じだろうに。
 ジュースの味が変わりはしないし、冷たい温度も保っておける容器が水筒。
(誰も持っては来ないけれどね…)
 水筒を持って来ている生徒は、きちんとお茶を詰めてくる。先生に叱られないように。それに、同じジュースを飲むのだったら、水筒に入れて持って来るより買う方がいい。
 昼休みと帰りで違うジュースが飲めるし、その時の気分で選びも出来る。どれにしようか悩んでみたり、新しい味に挑戦したり。
(だけど、遠足とかに行くなら…)
 水筒にジュースを入れる生徒も現れるだろう。下の学校の子が、今もそうしているように。
 今の所は、遠足の予定は無いけれど。…水筒の出番がありそうな行事も。
 それでもいつか行くとなったら、ジュースを詰める子は絶対にいる。先生がどんなに「駄目」と言っても、持ち物リストに「ジュースは禁止」と書かれていても。
(水筒のジュース…)
 なんで駄目なの、と考えてみても出て来ない答え。
 学校に行けばジュースが買えるし、自分だって何度も飲んでいる。お昼休みや、夏の暑い頃には短い休み時間にだって。
 なのに水筒にジュースを詰めてゆくのは禁止で、先生にバレたら叱られる。規則を破って詰める子たちは、今も大勢いるというのに。ジュースは人気が高い飲み物で、今は学校でも買えるのに。



 分からないよ、と考えながら戻った二階の自分の部屋。おやつを美味しく食べ終えてから。
(水筒の中身…)
 お茶でなくても、ジュースでもかまわないように思う。下の学校の頃ならともかく、今の学校の方ならば。
(下の学校だと、ジュースは売っていなくって…)
 食堂も無かったほどなのだから、「ジュースは禁止」も分からないではない。水筒の中身として禁止する前に、学校そのものがジュースが飲めない場所だったから。
(小さい子供は、好きなものばかり欲しがるから…)
 健康のことなどを考慮した上で、ジュースは禁止だったのだろう。「美味しいから」と甘いものばかり飲んでいたのでは、身体に悪いし、虫歯の原因にもなりそう。
 けれども、今の学校は違う。もっと育った子たちが行く場所、義務教育の最終段階。卒業したら十八歳だし、結婚だって許される年。
(自分のことには、自分で責任…)
 きちんと考えて行動するよう教えられるし、ジュースを買って飲むのも自由。飲み過ぎないよう注意しながら、自分で好きに選んで買って。
 それが許されているというのに、どうして水筒にジュースを詰めては駄目なのだろう。禁止する理由が、いったい何処にあるのだろう…?
(買って飲むのも、水筒に入れて持って行くのも…)
 同じなのに、と思えるジュース。
 どちらかと言えば、水筒に詰めて家から持って行く方が…。
(健康的だと思うんだけど…)
 朝に搾ったオレンジのジュースや、作ったばかりの野菜のジュース。冷やしたままで放課後まで持つし、買ったジュースよりも身体に良さそう。
(食堂でもジュースは売っているけど…)
 生徒の数が多いのだから、その場でオレンジを搾ってはいない。野菜ジュースも、沢山の野菜をミキサーで砕いて作ってはいない。店で売られているジュースと同じ種類のジュースで…。
(注文したら、コップに注いでくれるってだけで…)
 家で作るのとは全然違う。健康的だと言えそうなのは、家で作ったジュースの方。



 考えるほどに、水筒に詰めて持って行く方が良さそうなジュース。野菜ジュースも、オレンジを搾ったジュースでも。その日の間に飲んでしまうなら、きっと傷みはしないから。
(絶対、そっちが良さそうなのに…)
 水筒にジュースを詰めてゆくのは禁止で、ジュースは学校で買って飲むもの。なんとも不思議で奇妙な決まり。下の学校ならまだ分かるけれど、今、通っている学校では。
(ハーレイだったら知ってるかな?)
 ジュースを詰めてはいけない理由。禁止する方の教師なのだし、知らない方がおかしいだろう。
 何故、禁止なのか、訊いてみたいな、と思っていたら聞こえたチャイム。そのハーレイが仕事の帰りに来てくれたから、テーブルを挟んで向かい合わせで問い掛けた。
「あのね、ハーレイ…。水筒にジュースは、なんで駄目なの?」
「はあ? ジュースって…?」
 何の話だ、とハーレイは目を丸くした。「水筒がどうかしたのか?」と。
「水筒にジュース…。今日の帰りに、下の学校の子たちを見掛けたんだよ。遠足だったみたい」
 みんなリュックを背負っていてね、とても賑やかだったんだけど…。
 その子供たちが、水筒にジュースを入れていたんだよ。お茶の代わりに。
 水筒にジュースは禁止だったけど、今も禁止のままなんだけど…。それでも入れていた子たち。
 ああいうの、今のハーレイも、やった?
 ぼくは一度もやってないけど…。ママに頼んだことも無いけど…。
 ジュースを入れて欲しいだなんて、と下の学校の頃のことを話して、ハーレイの答えはどうかと待った。水筒にジュースを入れていたのか、規則を守ってお茶や水だったか。
「俺か? 俺が学校に行ってた頃だな、下の学校」
 水筒の中身はジュースだったか、そうでないかと訊かれると…。
 デカイ声ではとても言えんがなあ…。これでも一応、今は教師というヤツだから。
 とはいえ、お前も知っての通りの悪ガキだ。武勇伝は幾つも聞いてるだろう?
 その辺で察しがつかないか、とハーレイが浮かべた悪戯っ子のような表情。悪ガキだったという子供時代は、ハーレイだって水筒にジュースを入れていた。
 遠足などに行く時ばかりか、普通に登校する日でも。
 搾り立てのオレンジジュースでなくても、冷蔵庫にあった市販のジュースの類も。



 健康的ではなさそうなジュースも、水筒に入れた子供時代のハーレイ。遠足でなくても、普通の日でも。「ジュースが飲みたい」と思った時には、迷いもしないで。
「それ、駄目なんでしょ。ハーレイが行ってた学校だって」
 入れてもいいっていう学校なら、大きな声で話せるものね。「悪ガキだから」って言わなくてもいいし、誰に喋っても良さそうだもの。
 そのジュース…。今の学校でも禁止されてるけど、どうしてなの?
 ジュースだったら、学校で売られているじゃない。食堂にもあるし、自動販売機だって。
 わざわざ水筒に詰めなくっても、いろんなジュースが飲めちゃうよ。昼休みと放課後で違うのを買ったら、水筒で持って行くよりも楽しそうだけど…。水筒だとジュースは一種類だけ。
 それに、水筒に詰めるんだったら、健康的なジュースを持って行けるじゃない。家でお母さんが作ってくれたオレンジジュースや、野菜ジュースとかを。
 そっちの方が身体に良さそう、とジュースについての意見を述べた。禁止するより、家で作ったジュースの持ち込みを許せばいいのに、と。
 そうしたら…。
「ああ、それはな…。お前が言うのも、確かに一理あるんだが…」
 ジュースの種類が問題なんだ。水筒に詰める中身ってヤツが。
 禁止されてる理由はそれだ、とハーレイが言うから驚いた。家からジュースを持って行く方が、いいことが沢山ありそうなのに。
「えっ、どうして?」
 家で作ったジュースだったら、うんと新鮮だし、栄養だってたっぷりだよ?
 オレンジジュースなら搾ったばかりで、野菜ジュースもミキサーで作ったばかりなんだし…。
 学校の食堂で買えるジュースより、ずっと健康にいいと思うよ。食堂のジュースは、工場とかで作ったジュースをコップに入れてるだけなんだから。
 買ったジュースを詰めるにしたって、そっちはそっちで、お小遣いが減らなくなるもんね?
 ジュースを買うお金、払わなくてもいいんだもの。家から水筒で持って行ったら。
 そうでしょ、ハーレイ?
 ジュースの種類が問題だって言うんだったら、決まりを作ればいいじゃない。こういうジュースだったらいい、ってメーカーを指定するだとか…。



 その方法なら、市販のジュースも絞り込める。学校の食堂や自動販売機で買えるジュースと同じものだけ、などと指定してやれば。
 家で作るジュースは栄養豊富に決まっているから、問題になるのはきっと市販のジュース。味は良くても栄養のバランスが良くないものとか、学校としては勧められないものも多いだろう。
 てっきりそうだと思ったけれども、ハーレイは「違うな」と苦笑い。
「下の学校でジュースが禁止な理由は、栄養バランスなんかも絡んでいるんだが…」
 お前が通っている学校だと、ちょいと事情が変わってくる。そう単純ではないってな。
 栄養面とか、小遣いのことを考えるんなら、ジュースの持ち込みも許してやれるんだが…。
 通ってる生徒の顔ぶれってヤツを思ってみろ。一番上の学年だったら、十八歳の子だっている。誕生日が四月のヤツらなんかは、もう早々に十八歳だな、一番上になった途端に。
 あの学年が卒業したら、上の学校に行くわけで…。
 上の学校に行けば、ちょっぴり大人の仲間入りってことになるだろう?
 二十歳になれば大人だからな、とハーレイが言う、今の時代の「成人」の年。二十歳になったら立派な大人で、酒を飲むことも許される。
 上の学校には二十歳になった先輩も大勢通っている上、二年も経てば自分たちも二十歳を迎えて大人。そういう学校に入れる時を、間近に控えているものだから…。
 一番上の学年の生徒たちの場合は、大人になる日をちょっと先取り、アルコール入りのジュースなんかを飲んでみたくもなるという。
 アルコールと言っても、ほんの少しだけ。酔っぱらうほどでもないジュース。
「学校としては、そういうジュースを、水筒に入れて持ってこられちゃ困るしな?」
 見た目だけだと、普通のジュースとまるで区別がつかないから…。
 元のジュースの入れ物があれば、直ぐに酒だと分かるんだがなあ…。水筒に詰められたら、もう分からん。「ちょっと寄越せ」と、取り上げて味見しない限りは。
 だから禁止だ、とハーレイは怖い顔をした。「学校で酒は論外だぞ」と。
「お酒って…。水筒にジュースを入れちゃ駄目なの、そんな理由なの?」
 絶対に駄目、って言っておいたら、誰もしないと思うけど…。お酒は二十歳からだもの。
 誰でもきちんと知ってることだし、学校になんか持ってこないよ。
 ジュースがあったらそれで充分、お酒まで飲もうとしなくたってね。



 第一、学校は勉強の場所、と瞳を瞬かせた。其処に酒など持ち込まなくても、飲みたいのならば家でコッソリ飲めばいい、と。
「そう思わない? 家なら、先生にバレて叱られたりもしないし…」
 好きな時間に部屋でコッソリ、それが安全。…ぼくは飲みたいとは思わないけれど。
「お前だったら、そうなるのかもしれないが…。馬鹿にしちゃいかんぞ、誘惑ってヤツを」
 あと一年で上の学校なんだ、と思い始めたら、飲んでみたくなるヤツらも出てくる。
 どうせだったら一人で飲むより、友達と飲みたくなるモンだ。水筒に入れて回し飲みとか、同じ日に揃って持ってくるとか。
 どんな味なのか、ワクワクしながら飲むアルコールは格別だってな。…学校って場所で。
 先生にバレたら大変なんだが、と話すハーレイは「悪ガキ」のような顔にも見える。今は教師で叱り付ける方の立場にいるのに、それとは逆の立場の悪ガキ。
「…ハーレイ、経験ありそうだね」
 学校に水筒を持って出掛けて、中身はお酒が混じったジュース。…下の学校でジュースを入れて行っていたなら、次の学校でも似たようなことをやりそうだけど…?
 そういう経験は一度も無いの、と興味津々。「ハーレイなら、やっていそうだよ」と。
「無いとは言わんな、悪ガキだしな?」
 駄目だと言われりゃ、余計に挑戦してみたくなる。規則を破るのもスリル満点というヤツで…。
 だが、勘違いをしてくれるなよ?
 悪さをするのも大好きだったが、やるべきことはきちんとやってた。勉強も、もちろん宿題も。
 そういや、水筒にジュースってか…。
 同じ理由で禁止だったな、あの船でも。
「船?」
 何処の船なの、学校から乗りに行くような船…?
 ぼくの学校では行ってないけど、学校によっては色々あるよね。船に乗り込んで、湖を回って、水質検査の体験をしたりする学校とか…。帆船で沖に出て行くだとか。
「体験学習用の船だな、お前が言うのは」
 その手の船でも、もちろん水筒にジュースを詰めるのは禁止だろう。
 乗っていく子供が下の学校の子でも、お前と同じ学校でも。しかしだな…。



 俺が言う船はそれじゃない、とハーレイは穏やかな笑みを浮かべた。「シャングリラだ」と。
「シャングリラと言えば、前の俺たちが乗ってた船だ。…白い鯨だ」
 覚えていないか、あの船の決まり。水筒とジュースで何かを思い出さないか…?
「えーっと…?」
 シャングリラだよね、白い鯨の方の…。あの船で水筒とジュースって…?
 ジュースは食堂に行けば飲めたよ、とキョトンとした。白い鯨に改造する前の船の頃でも、何か飲むなら食堂で注文。「これが飲みたい」と係に言えば、出て来た色々な種類の飲み物。
「基本は食堂、そうでなければ休憩室だな。飲み物が欲しくなった時には」
 休憩室にもジュースなんかは揃っていたから、自分で好きに選んで飲めば良かったんだが…。
 それが出来ない時もあったろ、休憩室とか食堂に出掛ける時間が無い時。届けて貰うという手もあったが、もっと手軽に飲み物を持って行きたいのなら…。
 水筒だったぞ、と挙がった容器の名前。
 持ち場に飲み物を運んで行きたい時には、休憩室か食堂で詰めてゆくのがシャングリラの規則。水筒の中身を詰める時には、必ず其処で。…自分の部屋で詰めるのではなくて。
「そうだっけ…!」
 水筒、そういう決まりだっけね、白い鯨になった後には。
 それまでは、水筒を持って行かなきゃいけないくらいに、大きな船じゃなかったから…。仕事の途中で喉が乾いたら、ちょっと戻って休憩室とか、食堂だとか…。
 其処で飲めたよ、と今も覚えている飲み物。改造前の船の頃には、水筒の出番は殆ど無かった。忙しい時に一部の仲間が使っただけで、出番が少ないなら決まりも要らない。
 ところが、改造した後の船は、改造前とは比較にならない巨大な船。食堂や休憩室はあっても、其処まで出掛ける時間が惜しい、と思う者やら、持ち場を離れられない者やら。
 お蔭で水筒が脚光を浴びた。
 持ち場を離れず、食事する者も少なくなかったから。メンテナンスなどに入った時は。
 それに機関部など、高温になる区画も増えた。船が大きくなった分だけ。
 食堂や休憩室に足を運ばず、何処ででも水分を摂れる水筒。飲みたい時に蓋を開ければ、欲しい量だけ飲むことが出来る。紅茶だろうがコーヒーだろうが、ジュースだろうが。
 けれど、水筒には決まりがあった。白いシャングリラだけのための規則が。



 水筒を持って出掛けてゆくなら、自分の部屋では詰められない中身。ジュースにしても、紅茶やコーヒーにしても。
 中身は必ず、食堂や休憩室で詰めてゆくこと。普通の飲み物を入れる代わりに、仕事中には禁止されている酒を詰められたら大変だから。
 合成の酒しか無かった船でも、酒は酒。飲みたい仲間は少なくないし、水筒という便利な容器が出来れば、持ち運びたい者も現れかねない。「仕事中にも一杯やろう」と。
「俺が思うに、今も昔も変わっちゃいないな、其処の所は」
 水筒にジュースを入れちゃいかん、と言っておかないと、アルコール入りのジュースを持ち込む生徒が出ちまう学校だとか…。
 中身を詰めるなら食堂と休憩室にしろ、と規則を作って決めておかないと、自分の持ち場で酒を飲みかねないヤツらが乗ってた船だとか。
 ずいぶん時が流れちまって、地球がすっかり青くなっても、水筒の中身は変わらないらしい。
 決まりが無ければ、ろくでもないことを考え付くヤツらがいるってこった。
 学校だろうが、白い鯨だろうが…、とハーレイは懐かしそうな顔。白いシャングリラが、今でも見えているかのように。
「シャングリラの水筒、そうだったね…。ジュースじゃなくて、お酒だったけど」
 お酒を詰めて仕事に行っちゃう仲間が出たら、大変だから…。中身を詰められる場所が決まっていて、自分の部屋からは詰めて行けない仕組み。必ず食堂か休憩室で、って。
 あんな決まりを作らなくても、前のぼくなら、お酒なんかは詰めないけれど…。
 水筒を持って何処かに行くなら、中身はジュースか紅茶だけれど…。
 ぼくはコーヒーも苦手だから、と顔を顰めた。「お酒も駄目だけど、コーヒーも駄目」と。
「お前の場合は、酒を飲んだら酔っ払っちまっていたからなあ…」
 ほんのちょっぴり舐めただけでも、真っ赤な顔になっちまうくらいに酒に弱くて。
 あれじゃ水筒に酒を入れたら、船の何処かで行き倒れだな。
 飲んだら倒れて眠っちまって、俺たちが探しに行く羽目になるんだ。行方不明のソルジャーを。
 眠っていたんじゃ、思念波だって返って来ないし、さぞかし苦労したろうさ。探し出すまでに。
 お前はそのくらいに酒が駄目だったし、水筒に酒を入れようとも思わなかっただろうが…。
 酒好きだった、前の俺なんかになるとだな…。



 欲しいと思うこともあった、と語るハーレイ。「水筒にコッソリ詰めてでもな」と。
 ブリッジでの勤務が長く続いた日ともなったら、帰り際には一杯やりたい気分だった、と。
「ゼルやブラウと「お疲れ様」と飲むってわけだ」
 あの二人もいける口だったしなあ、部屋に戻る前に、ちょいと飲みたいじゃないか。
 誰かの部屋へ飲みに行くんじゃ、余計な時間がかかっちまうし…。軽く一杯、一口だけな。
 そういう酒が欲しいじゃないか、と今のハーレイは言うのだけれど。
「でも…。お酒なんかは飲んでないでしょ?」
 前のハーレイも、ゼルも、ブラウも。…誰かの部屋で飲んではいたって、ブリッジなんかじゃ。
「それがだな…」
 やはり大きな声では言えんが、とハーレイがクッと漏らした笑い。教師になった今のハーレイの悪ガキ時代と同じくらいに、大きな声では言えないこと。
 前のハーレイが生きた時代に、白いシャングリラのブリッジで起きていた出来事。明らかに遅くなりそうな日には…。
「ゼルがお酒を持ってたの!?」
 部屋から持って来てたって言うの、知らん顔してブリッジまで…?
 水筒の中身を詰めるんだったら、休憩室か食堂で、って決まっていたのに、それを破って…?
「そうなるな。…決まりは決まりで、ゼルは破っていたことになる」
 もちろん百も承知の上で、マントの下にコッソリ隠して持って来ていたな。
 酒専用の水筒と言うか、ちょいとレトロなアイテムと言うか…。
 ゼルのお手製だぞ、こういうので…。スキットルという名前なんだが。
 携帯用の酒の容器だ、歴史はけっこう長くてだな…。
 尻ポケットに突っ込んでおくのに都合のいい形に出来てるんだ、とハーレイが両手で示した形。
 「こんな厚みで、こう曲がってて…」と教えて貰ったスキットル。
 水筒を平たい形に潰して湾曲させたら、それに似た感じになるのだろうか。真鍮で出来ていたという、ゼルお手製のスキットルの形。
 見たような気がしないでもない。遠く遥かな時の彼方で、白いシャングリラで。
 ハーレイの仕事はまだ終わらないかと、青の間から思念でブリッジを探った時に。
 そのスキットルを、マントの下から取り出すゼルを。



 遠い記憶を手繰り寄せてみれば、やはり見ていたスキットル。「変わった形の水筒だ」と思って眺めていたのだけれども、注目したのは形だけ。「ゼルの趣味かな?」と。
 水筒だけに、中身はゼルの好みのジュースかコーヒーなどだと、前の自分は信じていたのに…。
「あれって、中身はお酒だったの!?」
 おまけに今のハーレイの話じゃ、水筒そのものがお酒専用…。
 SD体制が始まるよりも、ずっと昔の時代からあったのがスキットルで…。ゼル、そんなものを作っていたんだ…。ブリッジにお酒を持ち込むために…。
「雰囲気ってヤツが大切なんじゃ、とゼルは何度も言ってたぞ」
 昔の地球の船乗りたちも、スキットルに酒を入れていたんだ、と。携帯用だから、船乗りだって持っていただろう。…人間が地球しか知らなかったような時代から。
 船を操りながら一杯やるならコレに限る、と作って来たのがスキットルだ。
 もっとも、ゼルがスキットルを持っていたのは、俺とブラウとゼルだけの秘密だったがな。
 エラは知らんぞ、そういうものがあったことさえ。
 ゼルのマントの下まで調べちゃいないからな、とハーレイは軽く肩を竦めた。「とても言えん」などと、シャングリラで一番うるさかったエラの名前を挙げて。
「当然じゃない。ブリッジにお酒を持ち込むなんて…。お酒専用の水筒だなんて」
 バレたら怒るよ、エラだったら。…眉を吊り上げて、凄い勢いで。
 普通の水筒を持って行くのも、全部禁止になっちゃいそう…。飲み物を飲むなら食堂に行くか、休憩室のどちらかで、って決まりが出来て。
 エラならきっとそうするよ、と光景が目に浮かぶよう。「今日から水筒は禁止です!」と厳しい顔で宣言するエラ。皆が集まる食堂か何処かで、仁王立ちして。
「お前だって、そう思うだろ? エラは怖いと」
 俺もゼルたちも、そいつは充分、分かっていたさ。だからだな…。
 バレないように気を付けてたぞ、と前のハーレイたちは用心していたらしい。ゼルがコッソリと持ち込んでいたスキットル。それがバレたら、水筒が禁止になりかねない。シャングリラ中で。
 そうならないよう、エラがブリッジから引き揚げない日は、飲めなかった酒。
 一杯やりたい気分になっても、どれほど疲れた日であっても。
 エラが「お先に」と姿を消してくれたら、「お疲れ様」と回し飲み。スキットルを出して。



 前のハーレイたちが飲んでいた酒。白いシャングリラのブリッジで。
 ゼルがマントの下に隠したスキットルを出したら、蓋を開けて、順に回していって。
「回し飲みって…。いいんだ、それで…?」
 キャプテンと機関長と航海長なのに、ブリッジでお酒…。専用の水筒まで出して…。
 そんなのでいいわけ、他のブリッジクルーがいても…?
 一番怖いエラにバレなきゃ、水筒の中身がお酒になっちゃってても…?
 みんなに示しがつかないんじゃあ…、と心配になった、前のハーレイたちがエラに内緒でやっていたこと。水筒の中に酒を入れて持ち込み、ブリッジで順に回し飲み。
 いくら仕事が終わった後でも、ブリッジで酒。しかも水筒の中に仕込んで、船の決まりを破っていたのがゼルなのだから。
「ブリッジのヤツらか? そっちは気付いていないと思うぞ、スキットルなんて」
 コアブリッジでは飲んでないからな。…俺たちが飲んでいたのは出口だ、出口。
 あそこだったら誰の目にも入るわけがない、と前のハーレイたちは酒を飲む場所も選んでいた。船の航行の中心になるのが、ハーレイたちの席があった中央。コアブリッジと呼ばれた船の心臓。
 コアブリッジを囲むようにして、他のクルーたちが配置されていた。操舵を担当する者も。
 其処を離れれば、常駐する者は誰もいなかったブリッジという所。白いシャングリラで一番広い公園、その端に浮かぶ「方舟」の名を持つブリッジ自体は、無人の場所が多かった。
 仕事が終わればコアブリッジを出て、もうアルコールの匂いも上までは届かない出口の近くで、コッソリと開けるスキットル。…ゼルがマントの下から出して。
 それが前のハーレイたちの楽しみ。遅くまで仕事をしていた時には、ブリッジで酒。
「…ぼくにも今日まで内緒だったんだね?」
 エラに内緒にしておいたのは、正しいことだと思うけど…。
 バレてしまったら、シャングリラ中から水筒が無くなりそうだけど…。でも、前のぼくは…。
 其処までうるさくなかったのに、と面白くない。「ぼくにも内緒だっただなんて」と。
「お前が気付かなかっただけだろ、俺もわざわざ話しちゃいないが…」
 隠しておこうとも思っちゃいない。だから、お前が見ようと思えば見られた筈だぞ、水筒の中。
 実は酒だということくらい…、と言われれば、そんな気もしてきた。
 前のハーレイは「見るな」と止めなかったし、ゼルもブラウも何も気にしていなかった。
 「ソルジャーに見られているかもしれない」とは、二人とも言わなかったのだから。



 ゼルとブラウと、前のハーレイ。ブリッジで酒を飲んでいた三人。
 彼らが恐れたのはエラの視線で、ソルジャー・ブルーの目ではなかった。ソルジャー・ブルーに覗き見されたら、どんな悪事も筒抜けなのに。サイオンの目は壁を通すし、サイオンの耳はどんな音でも聞き逃さない。…見聞きしようとしさえしたなら。
(前のぼくの方が、エラよりもずっと簡単に…)
 ゼルたちの秘密を知ることが出来た。マントの下のスキットルとか、その中身だとか。
 わざわざブリッジまで出向かなくても、青の間から覗くだけでいい。ゼルがマントの下に隠したスキットルを見付け出したら、中身の方は…。
(ハーレイたちの会話を聞いてみるとか、ゼルの部屋を監視してみるだとか…)
 そうすれば分かったことだろう。「あの水筒に酒を詰めている」と。
(前のぼく、なんで気付かなかったわけ…?)
 ハーレイたちがブリッジでお酒を飲んでいたことに…、と手繰ってみた記憶。前の自分は、どう思ったのか。ゼルたちの怪しい行動を。
(…スキットルっていう名前は知らなかったけど…)
 妙な形をした水筒だったら、知っていた。普通の水筒を押し潰したような、平たい水筒。ゼルがマントの下から出すのも、何度もサイオンで見ていたと思う。
 けれども、ゼルの趣味だとばかり考えていた。あの水筒の形も、マントの下に隠していたのも。
 仕事の途中に飲むのだったら、ブリッジにだって飲み物はある。休憩室から運ぶ時やら、食堂に出前を頼む時やら。多忙な時には、食事もブリッジで摂っていたほど。
(そんな場所だったし、普通の水筒だと、仕事気分が抜けないから、って…)
 ゼルが特別に作った水筒、それがスキットルだと信じていた。スキットルの名は知らないで。
 マントの下に隠しているのも、仕事とプライベートな時間の切り替えのため。仕事が終わったら出して飲もう、というゼルの考え方だろう、と前の自分は思い込んだ。
(それで話が繋がっちゃうから…)
 疑いさえもしなかった、スキットルの中身。
 あの水筒の中身は、ゼルが食堂か休憩室で詰めて貰ったものだ、と。
 まさか部屋から詰めて来たとは思いもしないし、酒だと気付く筈もない。仕事の後で、ハーレイたちが順に回して飲んでいたって。…その場所にエラの姿が無いのが、常だって。



 もう少し気を付けさえしたなら、きっと分かっていたのだろう。スキットルの中身が何なのか。白いシャングリラを預かるキャプテン・ハーレイが、ゼルたちと何を飲んでいたのか。
「…前のぼく、ちょっぴり間抜けだったかも…」
 スキットルのことは知っていたのに、変な形の水筒だとしか思ってなくて…。
 水筒なんだし、中身はジュースかコーヒーなんだ、って思い込んでて、信じたままで…。
 ジュースだったら、仕事の後で回し飲みなんかしないよね…。コーヒーとかでも。
 部屋に帰ったらゆっくり飲めるし、休憩室とか食堂に寄ってもいいんだから。
 あんな所で飲まなくたって…、と溜息をついた、前の自分の間抜けっぷり。何度も現場を見たというのに、酒だと見抜けなかったのだから。
「そのようだな。…キャプテンが酒を飲んでたのになあ、ブリッジで」
 航海長も機関長も一緒に、出口とはいえ、ブリッジで酒だ。…しかも禁止されてる水筒の中身。絶対に酒を入れちゃならん、と決まりも作っていたわけで…。
 思い込みとは酷いもんだな、と笑われた。「お前は酒が苦手だったが、間抜けすぎるぞ」と。
「うーん…。ホントに間抜けで、ソルジャー失格…」
 ハーレイたちを叱るつもりはないけど、気付かないのは、あんまりだしね。
 船のみんなに気を配っているつもりでいたって、お酒にも気付かないようじゃ、駄目だってば。
 でも…。前のハーレイたちでも水筒にお酒だったら、今の学校の生徒たち…。
「持って来そうだろ、アルコール入りのジュースってヤツを」
 水筒にジュースを入れて来るのを許可した時には、ジュースみたいなふりをして。
 背伸びしてみたい年頃なんだし、好奇心の方も一杯だ。「酒というのは、どんな味か」と。
 今の俺でも、ちゃんと覚えがあるんだぞ?
 悪ガキとはいえ、今は教師になっているような俺でもな。…他のヤツらは言わずもがなだ。
 「ジュースは駄目だ」と禁止してても、コッソリと入れて持ってくるのが生徒ってヤツで…。
 前の俺たちの時代みたいに、毎日が命懸けの日々じゃないから、余計にな。
 決まりを破って、アルコール入りのジュースを飲みたくなるってモンだ、と聞かされた話。今のハーレイの体験談も交えて、水筒とジュースの関係について。
「そうみたい…」
 持って来たくもなっちゃうね、それ…。水筒にジュースを入れていいなら。



 そういう理由で水筒にジュースは禁止なのか、と納得した。
 前のハーレイたちでさえもが、ブリッジでコッソリと飲んでいた酒。ゼルお手製のスキットルという酒専用の水筒に入れて、仕事の後に。
 あの船でも水筒に酒だったならば、今の時代の学校だったら、もう充分にありそうなこと。上の学校への進学を控えた最上級生たちが、水筒に酒を忍ばせること。
「どうだ、分かったか?」
 水筒にジュースを入れて来るのが、学校で禁止されてる理由。
 下の学校だと事情が違うが、ジュースが買える学校に上がっても、駄目な理由は酒なんだ。
 前の俺たちみたいな輩は、何処にでもいる。…時代がすっかり変わっちまっても。
 それと知らずに、今の俺もやってしまったようだが…、とハーレイは可笑しそうな顔。ブリッジならぬ学校へ酒を持って行ったのが、今のハーレイ。アルコール入りのジュースを水筒に入れて。
「分かったけど…。前のハーレイたちがやってたことは…」
 どうなるって言うの、シャングリラの決まりを破ってたんだよ?
 前のぼくは気付いていなかったんだし、どうすることも出来ないけれど…。エラが気付いてたら大変なんだよ、ブリッジの中でお酒だなんて。
 シャングリラ中の水筒が禁止になっちゃいそうだし、ハーレイたちも凄く叱られそう…。
「時効だ、時効。…何年経ったと思ってるんだ?」
 地球がすっかり青くなるほど、とんでもない時が流れた後だぞ。とっくに時効というヤツだ。
 それに、酒のせいでヘマをやってはいないしな。俺も、ブラウも、もちろんゼルも。
 シャングリラは立派に地球まで行った、と言われたらグウの音も出ない。仕事の後にはコッソリ酒でも、ゼルの水筒の中身が酒でも、前のハーレイたちは役目を果たしたのだから。
 それにハーレイは、恋人だった前の自分をメギドで失くしてしまった後は…。
(独りぼっちで辛かったんだし、お酒くらいは…)
 大目に見ないといけないだろう。
 悲しくて辛くて、眠れない夜も幾つもあったに違いない。それでも夜が明けたら仕事で、制服を着込んでブリッジに立った。シャングリラの指揮を執るために。
 夜遅くまで仕事をしたなら、「お疲れ様」とゼルたちと一杯やって別れて、また独りぼっち。
 一人きりの部屋に帰る前には、酒くらい飲んでいたっていい。水筒の中に隠した酒でも。



 そう思ったから、ハーレイの瞳を真っ直ぐ見詰めて謝った。
「ごめんね、ハーレイ…」
「なんだ、どうした?」
 いきなり何を謝ってるんだ、お前、なんにもしてないだろうが。
 それともアレか、水筒にジュースを入れていたのか、コッソリと…?
 酒なんか入れて行く筈がないし、学校には無いお気に入りのジュース、持ち込んだのか…?
 何のジュースだ、とハーレイが勘違いしたものだから、「前のぼくだよ」と俯いた。
「…前のぼく、いなくなっちゃって…。ハーレイを独りぼっちにしちゃって…」
 ジョミーを支えてあげてくれ、って言わなかったら、ハーレイの好きに出来たのに…。
 前のぼくがハーレイを縛ってしまって、シャングリラを地球まで運ばせちゃって…。
 お酒くらい無いといられないよね、独りぼっちで残されちゃったら。ブリッジの仕事が終わった後も、ハーレイは独りぼっちだし…。ゼルのお酒を分けて貰って、息抜きしなくちゃ…。
「馬鹿にするなよ、キャプテン・ハーレイを。…あの時は酒に逃げてはいない」
 どんなに辛い毎日だろうが、ブリッジでは普段通りの俺だ。顔にも出しちゃいなかった。
 ゼルが「どうじゃ」とスキットルを出しても、「お疲れ様」の一杯程度で終わりだったな。
 もっと飲もうとしてはいないぞ、ただの一度も。勝ち戦の時は、ゼルもブラウも御機嫌になって「もうちょっと」などと、二人で飲んでいたもんだが…。俺にも「もっと飲め」とか言って。
 しかしだ、前のお前に頼まれたことを果たすためには、俺がきちんと頑張らないと。
 勝ち戦で祝勝気分の時でも、コッソリ水筒に隠してあるような酒は、一杯分で充分なんだ。
 そして前の俺が地球まで我慢した分、今では酒も飲み放題で…。
 青い地球の水で仕込んだ酒だぞ、ゼルが持ってた合成の酒の何万倍も美味いってな。
 お前も帰って来てくれたんだし、もう最高の気分で飲める。お前と行きたかった地球の酒をだ。
 ただなあ…。その最高に美味いと思っている酒…。
 お前と飲めないのが残念だがな、とハーレイが言うものだから。本当に残念そうな顔だから…。
(お酒、やっぱり…)
 今度のぼくは飲めるといいな、と心から思う。
 前の自分が酒が苦手で、飲むと悪酔いしていたけれど。…ハーレイと飲めはしなかったけれど。
 けれど、今度は飲めたらいい。今のハーレイも気に入りの酒を、いつか二人で。



(今のぼくだと、学校に本物のジュースを持って行くのがせいぜいで…)
 アルコール入りのジュースなどは絶対に無理だけれども、もっと大きくなったなら。
 学校に酒を持っては行かないけれども、前の自分と同じ背丈に育った時には、酒が飲める体質になれたらいいと思ってしまう。
 ハーレイと暮らせるようになったら、二人で飲んでみたいから。
 「お前と飲めないのが残念だがな」と、ハーレイを寂しそうな顔にさせたくないから。
 乾杯をしたり、「お疲れ様」と、ハーレイのグラスに注いだりして、楽しむ酒。
 そんな時間が持てたらいい。今も昔も、酒が大好きなハーレイのために。
 きっと幸せな時間になるから、ほんの一杯でも酒が飲めたら嬉しい。
 「美味しいね」と微笑み交わして、キスを交わして。
 青い地球の水で仕込んだ酒を酌み交わしながら、二人きりの時をゆっくり過ごせたならば…。



               水筒と中身・了


※白いシャングリラで決められていた、水筒の中身。詰める場所まで指定していたほど。
 なのに、ブリッジでコッソリ飲まれていた酒。前のハーレイとゼルとブラウだけの、息抜き。
 
 先月も書いていた通り、ハレブル別館の月2更新は、今月で最後です。
 来年の1月からは月に1度の更新、第3月曜のみになります。よろしくお願いします。
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