シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
秋が深まり、シャングリラ学園では一ヶ月後に学園祭が開催されます。1年A組でも例年のように演劇か展示かを決めるクラス投票が行われたのですが、今年は会長さんも「そるじゃぁ・ぶるぅ」も姿を見せませんでした。去年の投票日に現れた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は劇がしたくて投票したのに、展示になってしまったからです。
「…あーあ、今年もファッション・ショーかなぁ…」
学食でランチの山賊焼きを頬張りながらジョミー君が呟きました。
「グレイブ先生、劇より展示が好きだしね。ぶるぅもそれはよく知ってるし、投票に来なかったってことは去年みたいに別行動をしたいんだよね?」
「そうだろうな…」
ゲンナリとした表情のキース君。私たち特別生はクラスから独立してグループ行動をすることが可能です。去年はその方法で劇をしようと届けを出して許可が下りたんですけど、劇の演目が決まらなくって挙句の果てにファッション・ショーに…。男子全員が女装で舞台に立って大ウケでしたが、男子にとっては心の傷です。
「だが、今年は俺は逃げられるんだ」
堂々とな、と宣言するキース君に男子の視線が集まりました。スウェナちゃんと私も思わず凝視。どうやって逃げる気なんでしょう? キース君はニヤリと笑って自分の頭を指差すと…。
「…これだ、これ。去年も特別講座を受講するからって最初の間は外れてただろう? 今年はいよいよ本番だ。三週間の道場入りと学園祭の準備期間が見事に重なる。…つまり劇の練習をする余裕はない」
「……それってズルイ……」
ジョミー君が頬を膨らませて。
「髪の毛を本当にカットするなら許せるけどさ…。サイオニック・ドリームで誤魔化すんだよね? 自分は楽して逃げ出しといて、ぼくたちはファッション・ショーなわけ? またドレスなんてうんざりだよ!」
「だったらお前も修行してみるか? 厳しいんだぞ、道場暮らしは…。しかも昼間は大学で普通に講義を受けなきゃならない。朝早く起きて掃除にお勤め、大学から戻って講義とお勤め。…こっちの学校に顔は出せても、ぶるぅの部屋で遊んでる暇はないと思うぞ」
お坊さんの卵は大変なのだ、とキース君は力説しました。
「お前たちは何をやらされるにしたって遊びだからな。ぶるぅが張り切ればおやつも自然と豪華になるし、精進料理で三週間も暮らす俺とは大違いだ。…だが、女装が嫌だというのは分かる。バニーガールも大概だったし…」
「それを言わないで下さいよ…」
シロエ君がハアと深い溜息。
「あの服、会長が回収しちゃったんですよ? エロドクターが特注したと思うと目障りだからとか言ってましたけど、きちんと始末したのかどうか…。ファッション・ショーで持ち出されないか心配です」
バニーガールの衣装というのは、キース君の健康診断絡みでドクター・ノルディが持ち掛けてきたコンテスト用のヤツでした。しかも黒幕はソルジャーだった上に、男子全員、バニーガールの格好をしてドクターの家から会長さんの家まで歩かされたというオマケつき。通行人には普通の服に見えたとはいえ、これも男子の心の傷で…。
「すまん、あの時は俺のせいで迷惑を…。あの借りは今も返せていないし、ぶるぅが劇だと言い出した時は俺が演目を考えてやる。…ファッション・ショーにならないようにな」
「えっ、ホント?」
たちまち飛びつくジョミー君。
「…ああ。ぶるぅがやりたがりそうな劇を幾つか見つくろってある。こんな展開になるんじゃないかと薄々予想はしてたんだ」
「凄いや、キース! ファッション・ショーをしなくていいなら劇くらい…。あ、劇って女装じゃないんだよね? ちゃんと男の役だよね?」
「もちろん配役も考えた。女装はないから安心しろ」
大丈夫だ、と太鼓判を押すキース君に男子全員が大喜びです。道場入りを理由に一人サッサと逃げ出すことにも文句を言う人はなくなりました。これで今年の学園祭は安心ですよね、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も納得の劇!
さて、放課後。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと焼きたてのパイの香りがしていました。パンプキン・パイみたいです。
「かみお~ん♪ いらっしゃい! マザー農場でカボチャを貰って来たんだよ♪」
「やあ。今日は学園祭で何をやるかの投票だっけね」
御苦労さま、と会長さん。
「グレイブは今年も展示をプッシュか…。投票前にお祭り騒ぎの愚かさについて演説をぶたれちゃ劇はキツイよ。それでも半数近くが劇に一票というのが凄い。あと数票で劇だったのにさ…。君たちは劇に入れたのかい?」
「そりゃあ…グレイブ先生の思惑どおりじゃつまらないですし?」
上からの押し付けには逆らってこそですよ、とシロエ君が笑っています。私も劇に入れました。グレイブ先生の悔しがる顔を見たかったのに、結局、1年A組は展示に決定。しかもグレイブ先生のお好みは格調高い内容なので、模擬店や去年のようなお化け屋敷は禁止と言い渡されたのでした。
「で、君たちはどうするんだい?」
会長さんが紅茶のカップの縁を指で弾いて尋ねます。
「お堅い展示に協力するか、特別生の立場を生かして学園祭を楽しむか。…独立するなら届け出は任せて欲しいんだけど、どっちがいい?」
おおっ、選ぶ権利があるんですか! だったらこの際クラス展示で、と誰もが思ったのですが…。
「…そるじゃぁ・ぶるぅの生活、だっけ?」
「「「は?」」」
会長さんの言葉に私たちは首を傾げました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がなんですって?
「忘れちゃった? 君たちが入学した年の学園祭の1年A組の展示テーマさ。ぶるぅの生活を調べるんだって言って24時間密着取材」
「「「あ…」」」
そうだっけ、と蘇ってくる1年生の時の学園祭の記憶。あの頃はまだ普通の生徒で、会長さんや「そるじゃぁ・ぶるぅ」と親しいから…とクラスメイトに取材を任され、会長さんの家に初めてお邪魔して泊めてもらって…。思えば遠くへ来たものです。
「思い出してくれたみたいだね。…そるじゃぁ・ぶるぅ研究会なんかもあった時代だけど、あれも解散しちゃったねえ…。ぶるぅが外を歩き回るのは珍しいことじゃなくなったし」
「それって珍しいことだったの?」
いつも普通に出歩いてるよ、とジョミー君が言い、サム君が。
「だよなあ? 俺が最初に聞いた噂じゃ、滅多に姿を見せないっていう座敷童子みたいなヤツでさ…。見つけて頭を噛んで貰えば入試に絶対落ちないって」
「そういえばサムは噂を信じてぶるぅを一発殴ったんだっけな」
キース君が突っ込み、サム君が頭を掻いています。
「あははは…。あの時は俺も必死だったし! ぶるぅ、ごめんな、殴っちまって…。お客様だぁ、って喜ばれたから、噛んで貰うには殴るしかないと思ったんだ」
「ううん、サムだって痛かったでしょ? ぼく、思い切りガブッってやっちゃったもの」
ぼくなら平気、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は健気でした。
「あのね、ぼく、あの頃はお部屋から出て行く用事がなかったんだ。ブルー、授業とか出なかったしね…。今もサボッてばっかりだけど試験は必ず受けてくれるし、水泳大会とかも出るようになったし! ブルーが学校で何かするなら、ぼくも一緒に出られるもんね♪」
「そういうこと」
だから珍しくなくなったんだ、と会長さんが引き継ぎました。
「そるじゃぁ・ぶるぅ研究会の連中も最初の間は喜んでたけど、珍しくなくちゃ研究するだけの価値がない。それに今の三年生は君たちの元同級生だ。ぶるぅがいるのが当たり前の学校生活をしてきたんだから、研究会はもう要らないよね。…それでもぶるぅは不思議パワーで知られてる」
「そうですね…」
色々とやってきましたから、とマツカ君。会長さんは大きく頷き、紅茶で喉を潤して…。
「そしてもう一つ、今も謎なのがこの部屋だ。ぶるぅの部屋が何処かにあると遥か昔から囁かれてきて、今回、ついに存在がバレた。…キースのサイオン・バーストでね」
「「「………」」」
それは確かな事実でした。夏休みでしたから全校生徒が見ていたわけではありませんけど、全壊したお部屋を捉えた写メが出回り、噂も広まり、生徒会室の奥に普段は見えない部屋があるのはバレバレです。普通の生徒は生徒会には関われませんが、今でも生徒会室の扉の前で中を窺う一般生徒がよく見られたり…。
「そんなわけだから、どうだろう? ぶるぅの部屋を学園祭で一般公開するっていうのは?」
「「「え?」」」
「学園祭の期間限定で一般公開、君たちは案内係ってことで…。それなら溜まり場もキープできるし、グレイブの退屈なクラス展示に付き合わされることもない。どうだい、今年も独立しないかい? グループ名は去年と同じの『そるじゃぁ・ぶるぅを応援する会』で」
「…劇じゃないの?」
ジョミー君が聞き返しました。
「劇?」
「うん、劇。…ぶるぅは劇がしたいんじゃあ…」
「去年で満足したみたいだよ? 今年は部屋の公開でいい、って言ってくれたし…。それともジョミーは劇がいいとか?」
ファッション・ショーでも構わないよ、と言われてジョミー君は真っ青です。
「そ、そんなことは! ぼくの意見なんかどうでもいいから!」
「じゃあ独立でもいいのかな? 他のみんなは?」
赤い瞳が私たちをぐるっと見渡します。この状況では反対意見は言うだけ無駄というものでしょう。そもそも反対する理由も見つかりませんし、今年も独立でいいんですよね? 想定していたファッション・ショーだの劇だのと違って目的は至極平和なものです。お部屋の一般公開かぁ…。普通の生徒に大人気かも!
会長さんの行動は早く、翌日の放課後には独立の許可が下りていました。しかし…。
「ここから先が問題なんだ」
おやつのマロンタルトをフォークでつつく会長さん。
「ぶるぅの部屋を公開するには許可が要る。ぼくとぶるぅのプライベートな空間だけど、所有権は学校にあるんだよね。それも普段は隠されている特殊な部屋だ。…許可を取る自信はあるんだけどさ…。そのためには長老会議を招集してもらう必要がある」
「「「長老会議?」」」
「そう。…ぼくたちのサイオンに関わる話は長老会議に諮らないと…。これがシャングリラ号の中のことならソルジャー権限で決められるけど、学校のことでは長老の方が上になるんだ、先生だから」
なるほど…。シャングリラ学園は一般社会と接してますから、会長さんに好き放題にやられたのでは事後処理なんかに困りそうです。会長さんはクスクスと笑い、「まあね」と舌を出しました。
「ぼくはイマイチ信用がない。…仲間の不利益にならないように気をつけてると言っているのに、ゼルとかエラがうるさいんだ。…いざとなったら記憶処理って手もあるのにね」
「会長…。それはマズイでしょう」
相手は普通の人間ですよ、とシロエ君が額を押さえています。けれど会長さんは全く気にせず、私たちのお皿からマロンタルトが消えるのを待って。
「長老会議、今から頼めば間に合いそうだ。…行くよ」
何処へ? という疑問はサラッと無視されました。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」を先頭に部屋を出、向かった先は本館です。あぁぁ、これってお約束のルートなのでは…。案の定、立ち止まったのは重厚な扉のすぐ前で。
「…失礼します」
軽くノックして会長さんが入って行くのに私たちも続きました。奥の机で羽根ペンを持っているのは教頭先生。
「なんだ、どうした? ゾロゾロ揃って」
「そるじゃぁ・ぶるぅを応援する会の代表として、お願いがあって伺いました」
「………? お前が敬語だと不気味だな…」
会長さんの丁寧な口調に教頭先生の顔に不安の色が。いつもタメ口で偉そうなだけに、そりゃ心配にもなるでしょう。私たちだって嫌な予感がしてきましたよ、なんと言っても場所が悪いです。会長さんはクッと喉を鳴らし、唇の端を笑みの形に吊り上げて。
「真面目にお願いに来たんだけれど、不気味と言われちゃ仕方ないね。…長老会議を頼みたいんだ。今日は全員残ってるんだろ、今夜は麻雀大会だから」
「…知っていたのか…」
「そりゃね、みんながウキウキしてるし。…で、負ける予定? 長老を招集してくれるなら霊験あらたかなお守りなんかをあげちゃおうかな…と。これさえあればツキまくりさ」
「ツキまくりだと? ぶるぅの手形か?」
心が動いたらしい教頭先生を会長さんは見逃しませんでした。
「そんなとこかな。長老会議を開いてくれたら後で謹んで進呈するよ、ぼくたちは学園祭を楽しみたいから」
「学園祭だと? さっき妙な会の名前を口にしていたな、そっち絡みか?」
「そるじゃぁ・ぶるぅを応援する会。学園祭で活動するためのグループ名で、ぼくが代表。去年も活動実績はあるし、怪しい会じゃないってば。…だから長老会議を頼むよ」
「ふむ…。目的はどうせ言わんのだろうな?」
教頭先生の問いに会長さんは。
「二度手間になるだけだからね。長老会議できちんと話すし、まずは招集。お礼は約束するからさ」
「ツキまくりアイテムをくれるんだな? …今度負けたら財布が空になるからな…」
また米と味噌だけの食生活になってしまう、と教頭先生は内線電話をかけ始めました。長老の先生方はちょうど時間が空いていたようで、すぐ集まってくれるとか。場所は本館の会議室です。ここから近い所ですけど、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋の公開許可は出るのでしょうか? 会長さんは自信があると言ってましたが、どうなるのかな…?
会議室に行くと既に長老の先生方が揃っていました。最後に入った教頭先生が扉に鍵をかけ、誰も入ってこられないようにします。長老会議は去年に一度『見えないギャラリー』として見学したことがあるんですけど、今回は私たちも出席者でした。そういえば前の長老会議では会長さんが教頭先生にセクハラされたと大嘘をつき、謹慎処分にしてましたっけ。それに比べれば今日の議題は遥かにマシです。
「…ブルー、長老会議を願い出た理由は何なのですか?」
エラ先生が口を開きました。
「ハーレイに頼んで招集をかけた所までは分かっていますが、目的は…?」
「学園祭での活動許可。そるじゃぁ・ぶるぅを応援する会として、ぶるぅの部屋を公開したい」
「「「ぶるぅの部屋!?」」」
先生方の声が引っくり返り、ゼル先生が。
「公開じゃと? 一般公開しようというのか、あの部屋を?」
「うん。どうせ所在は知られてるしね、キースがバーストした時にさ。今も時々、部屋を探しに来る子がいるよ。それならいっそ公開したら…と思ったんだ。学園祭の期間限定」
「いかん!」
「いけません!」
ゼル先生とエラ先生が同時に叫びました。
「わしらの力を明るみに出してどうするんじゃ! 危険すぎる!」
「そうですよ、ブルー。私たちの力は世間一般には知られていないからこそ今まで平和に…」
異口同音に告げる二人に他の先生方も加わりましたが、会長さんは。
「平和だからこそ今の間に…と思わないかい? ぼくたちが並外れて長命なことは知られている。隠しているのはサイオンだけだ。そのサイオンも今ならぶるぅの不思議パワーで片付けられる。少しずつ、少しずつサイオンの力を示していけば遠い未来には隠さなくても済むかもしれない」
「「「………」」」
先生方は難しい顔をしています。私たちはサイオンに目覚めて二年しか経たないヒヨコですから実感があまりないのですけど、長老の先生方は会長さんと一緒に長い年月を過ごしてきた人たち。普通の人との間で摩擦が起こらないよう、あれこれ考えてシャングリラ学園を創設したり、万一の時の逃げ場所としてシャングリラ号を建造したり…。サイオンをお気楽に不思議パワーとは呼べないのかもしれません。
「そんな渋い顔をしなくってもさ。いいじゃないか、ぶるぅの力は今やすっかり名物だよ? ぶるぅの部屋が明るみに出たのも一つのチャンスだと思うんだ。あんな立派な部屋をまるっと隠す力があります、凄いんです…ってアピールするには最高だってば」
「…そうなのかのう? 言われてみればそうかもしれんが…」
心配じゃわい、とゼル先生。
「ぶるぅの力だけで一般人が納得すればいいんじゃが…。わしらの方にまで目を向けられたら後々マズイことにならんか?」
「問題ないだろ、長寿で知られてるんだから。それを目当ての求人も来るし、長寿に加えて不思議パワーも持ってるとなれば今より価値が増すかもしれない。…まあ、今回はそこまでバラすつもりはないけどね。とりあえず、ぶるぅの部屋の存在が噂になってしまっているのをキッパリ片付けておきたいだけさ」
「ふむ…。ぶるぅの部屋に興味を持つ子は多いようだね」
気になってはいた、とヒルマン先生が応じました。
「学園祭の期間限定か…。公開するのも一つの解決策かもしれない。下手に隠して騒がれるより、学園祭の限定イベントで表に出してしまった方がそういう部屋もあるということで噂の方も落ち着くかも…」
「あたしもヒルマンに賛成だ。ぶるぅの部屋は一回くらい見せといた方がいいんだよ。特別生が年を取らないのだって受け入れてくれる生徒たちだし、この際、パーッといこうじゃないか」
ブラウ先生は乗り気のようです。
「ハーレイ、あんたはどっちなんだい? 賛成なのか反対なのか、ハッキリおしよ。今の所は賛成二人に反対二人だ、あんたの意見で流れが決まる。…もっとも議題が議題だからね、全員の意見が一致するまで結論は出しちゃダメなんだけどさ」
「「「???」」」
あれ? 多数決ではないんですか? 長老会議ってよく分かりません。私たちの顔に出ていた疑問にエラ先生が。
「覚えておくといいですよ。長老会議がどういうものかはブルーに聞いてきたでしょうけど、特に重要な事項については全員の意見が同じになるまで討議することになっています。…今回のケースはそれですね」
「そういうわけじゃ。これは継続審議じゃな…。それはともかく」
ゼル先生が教頭先生をジロリと眺めて。
「お前の意見はどうなんじゃ? ブルーにベタ惚れのお前といえども流石に私情は挟めんじゃろう。…どっちなんじゃ?」
「…私情抜きでも…ここは公開すべきかと…。キースのバーストで壊れた部屋の写真が校内に出回っている。ぶるぅの部屋が存在することはもう隠せない。ブルーが公開する道を選んだのなら、後のフォローもする筈だ。…そうだな、ブルー?」
いつもより少し厳しい表情の教頭先生に会長さんは。
「分かってくれているじゃないか。…今回の公開で何か問題が起こるようなら責任を持って対処する。生徒会長としても、ソルジャーとしても」
約束するよ、と誓った会長さんに先生方は額を集めて少し相談していましたが…。
「では、全員の意見が合うまで継続審議とさせて貰おう」
ヒルマン先生が言いました。
「数日中には結論を出す。…公開が認められない場合は他の活動をすると言うなら、そっちも検討しておきなさい。そうそう、去年のファッション・ショーはウケたようだね。あれもサイオンを使っていたが、ああいうアピールは大歓迎だ」
応援する会を名乗るからには不思議パワーを大いに活用するように、と激励された私たち。お部屋の公開が没になったら演劇になってしまうんでしょうか? 長老会議の結果が出るまで暫く待つしかなさそうです…。
「ブルー、お前というヤツは…。いきなり長老会議だと言うから何かと思えば…」
教頭先生が眉間の皺を揉んでいるのは教頭室。シャングリラ号のキャプテンとして仲間の間ではソルジャーに次ぐ地位についている教頭先生、今回の件は寝耳に水の提案だったようでした。
「学園祭に絡むと聞いたし、去年よりも派手なマジック・ショーか何かなのだと思ったのだが…。瞬間移動をやりまくるとか、その程度かと…」
「気にしない、気にしない。ぶるぅの部屋を公開するのも瞬間移動もレベルはさして変わらないよ。普通の人の目から見たなら、どっちも不思議なんだから」
細かいことさ、と微笑んでいる会長さん。それはそうかもしれません。存在するのに見えないお部屋も瞬間移動も、サイオンを持たない人からすれば不思議だとしか表現しようがないわけで…。
「長老会議でいい結論を出してくれるのを祈ってる。頭が固い連中ばかりじゃソルジャーも肩が凝るからね。…麻雀大会でリフレッシュして今の時代に相応しい答えを出して欲しいな。シャングリラ号は一度も出番が来ていないんだし、きっとこれからも平和だと思う。…平和どころじゃない別の世界をハーレイは知っているだろう?」
会長さんが言っているのはソルジャーの世界のことでした。SD体制が敷かれた恐ろしい世界。ああいう世界にならないように会長さんも日々考えているのでしょう。普通の人と私たちの仲間との間に垣根が出来てしまわないよう、少しずつ理解を得ていこうと…。
「大丈夫だよ、ハーレイ。ぶるぅの部屋の公開はきっと上手くいく。…そうそう、長老会議を招集してくれたし、約束のお礼を渡さないとね。はい、どうぞ。ツキまくり間違いなしの御利益アイテム」
「ありがたい。…ぶるぅの手形か」
これで勝てるぞ、と教頭先生は手渡された封筒を開けました。会長さんが宙に取り出したヤツなんですけど、中身を目にした教頭先生、みるみる耳まで真っ赤になって…。
「な、な、な……」
「いいだろ、それ? ノルディの家から失敬してきた。ぼくじゃなくってブルーだから…って、聞こえてないか…」
教頭先生の鼻からツーッと鼻血が流れています。そのままドターン! と仰向けに倒れ、身体の上にヒラヒラと舞い落ちたのは一枚の写真。バニーガールの格好をして悩殺的なポーズを取った会長さんそっくりのソルジャーがそこに写っていました。
「…おい…。あんた、知っててやってるだろう? どこが御利益アイテムなんだ!」
キース君の非難めいた視線に、会長さんはクスッと笑って。
「ハーレイは毎晩夢見てるのさ、ぼくにあの格好をさせたいとね。…一目見られたらラッキーだ、とも思ってる。だったら写真をゲット出来たら万々歳だろ、もうツキまくりのラッキーデーに間違いないって」
「…ツキを呼ぶ前に落ちたんじゃないか? なけなしのツキが」
「そうかな? ラッキーデーに落ちるようなツキじゃ、最初からツキは無いんだよ。…この写真はぼくの写真じゃないから、どう使われても平気だし…ハーレイにプレゼントしておくさ。こうやって…と」
教頭先生の机の目立つ所に写真を置いている会長さん。
「これで奮起して麻雀に勝つか、ボロボロに負けて大泣きするか…。どっちにしても鼻血レベルの写真ゲットだ、今夜はいい夢が見られるさ。いい夢ついでにぼくたちの夢も叶えて欲しいね、学園祭の」
目指せ、ぶるぅの部屋の公開! と会長さんは燃えていました。教頭先生、今夜の麻雀、勝てるでしょうか? いえ、ボロ負けに負けて下さった方がゼル先生とエラ先生の御機嫌が良くなって長老会議の審査がちょっと甘めになるかも…。会長さん、そこまで考えての写真プレゼントなら凄いですけど、どうなるのかなぁ、学園祭…。