シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、今度は航海士補佐になりました。とはいえ航海士のライセンスなんか持ってませんし、航宙学の心得もありません。いったい何をすればいいのかドキドキしながらブラウ様…もとい、航海長にご挨拶です。
「本日、航海士補佐に着任しました。…ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」
お部屋に伺い、緊張しきって敬礼するとブラウ様はプッと吹き出されました。
「あははは、なんて顔をしてるんだい。取って食ったりしやしないよ」
「でも…。私、ライセンス無いんです。船はペダルボートが精一杯で、ゴムボートだって漕げないんです!」
「なるほどねえ。…ついでに方向オンチかい?」
「はい!家にいた頃、ドライブのナビは任せられないって両親にキッパリ言われました」
私の答えにブラウ様は大笑いです。
「そりゃ凄い。ライセンスに関しちゃ、この船の航海士はあたしも含めて無免許みたいなもんだけどね、正式な試験は受けてないから。シャングリラ独自の資格試験はあるけどさ」
そうでした。人類側の資格認定試験を受けに行けないミュウにはライセンスなんか無意味です。でもシャングリラなりの資格試験があるってことは、頑張らないとダメなんでしょうか?
「…う~ん、とりあえず雑用からだね」
そういう訳で、まずは下積み。手が離せない航海士の皆さんの注文を聞いて「お茶くみ」に走り、空いたカップや湯飲みを回収して専用の棚に片付け、頃合を見て「おやつ」も配らなければなりません。今日のおやつは「どらやき」でした。片手で食べられるから便利だそうです。
「どらやきか…。最近、五平餅が出ないんだよな」
これはシドさんの言葉でした。厨房に伝えておくべきでしょうか?そこへキャプテンが休憩から戻ってこられました。
「配属になった新人か。ブラウ、彼女の適性は?」
「操縦可能な船はペダルボートのみで、方向オンチ。今のところは雑用係さ」
「なるほど。…ならばちょうどいい。ぶるぅが外出してしまったのだ。私の代わりに扉の前で待ってもらおう」
「そりゃいいや。今日は4度目の外出だっけか?いい加減、あんたも疲れる頃だ」
マザー、三等航海士の任務の中には衛生管理と雑用が含まれているそうです。航海士補佐だとそれがメインでも当然ですが、「キャプテンの疲労回復のため」に「そるじゃぁ・ぶるぅ番」を命じられるとは思いもよりませんでした。『おでかけ』と札の下がった扉の前でひたすら待たされ、やっと戻ってきたと思えばアイス片手にまた外出。もしかしたら「キャプテンの胃粘膜を守る」というのが仕事になるかもしれません、マザー…。