シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、役に立たないソルジャー補佐です。シャングリラの年末恒例餅つき大会は大騒ぎでした。ソルジャーの代理で出席しましたが、そこで目撃した光景は…。つきあがったお餅が臼から飛び出し、丸めようと待ち構えていた人たちの頭上を旋回したり、打ち粉をした板の上で転げまわったり。やっとのことで捕まえてみても、柔らかいお餅は伸び縮みして暴れます。その様子はまるで謎の生命体で、とてもお餅には見えません。
「…これはぶるぅの仕業だね」
そうおっしゃったブラウ様の案で「取り押さえたお餅をちぎっては、丸めて餡を詰める」ことに。餡餅作りです。やがてお餅は暴れるのをやめ、出来上がった餡餅が次々に消え始めました。ブラウ様はニヤリと笑って…。
「さぁ、餡の中にコレを混ぜるんだ。たっぷりと入れておくんだよ」
取り出されたものはコチュジャンでした。いわゆる真っ赤な唐辛子味噌。これをたっぷり混ぜた餡餅が出来、お皿の上に置かれると…。コチュジャン餅はフッと消え失せ、ほんの少しの間があって。
「お~ん!!!」
ものすごい悲鳴と共に何かが走り去る音がしました。その後、お餅は逃げも暴れもせず、無事に餅つき大会終了。ソルジャーへのご報告をしに青の間に戻ると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が涙目になってコタツの上で丸まっており、口から棒が突き出しています。アイスキャンデーの棒に似ていますけど…。
「棒つきキャンデーだよ。火を噴きそうだって言ったから」
ソルジャーが笑いながらおっしゃいました。
「悪戯が過ぎたみたいだね。口の中どころか身体中が熱くてコタツにも入れないそうだ。…盗み食いなんかするからだよ。大丈夫かい、ぶるぅ?」
ソルジャーに撫でてもらいながらも「そるじゃぁ・ぶるぅ」は涙をポロポロ零しています。当分、お餅が嫌いになるかもしれません。『雪見大福』のマイブームまで去ってしまったら可哀相かも。
そしていよいよ大晦日。ソルジャーは今日もコタツにおいでです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は青の間に顔を出して専用湯飲みで一服した後、上機嫌で「かみお~ん♪」と歌いながら何処かへ出かけてしまいました。相変わらずあの歌が大好きですが、調子っぱずれなのは直りませんね。
「オルゴールに合わせて歌っていれば直るかもしれない。せっかくサンタに貰ったんだし」
ソルジャーがおっしゃるオルゴールとは「そるじゃぁ・ぶるぅ」がサンタさん(実は長老方)から貰ったプレゼントの1つ。お気に入りの『かみほー♪』が流れるもので、私はエラ様の贈り物じゃないかと思っています。
「あの歌、本当に好きですね」
「ぶるぅが最初に覚えた歌だ。生まれてから一ヶ月ほど、ぼくと一緒に暮らしてて…その間にね」
え。もしかして『かみほー♪』はソルジャーもお気に入りですか?
「地球へ帰ろうという歌詞だろう。SD体制前の歌だが、ぼくは好きだ。最近カバーされたのは知っているかい?」
「教えてもらいました…「そるじゃぁ・ぶるぅ」に」
「ジョミー・マーキス・シンという歌手が歌っているんだよ。芸名だけど、ぼくはこの名も気に入っている。…この名前がいつかミュウに希望をもたらしてくれる…。そう思うんだ」
予知ですか、と聞こうとして私はやめました。ソルジャーの瞳に揺れている何か…希望のような、見果てぬ夢のようなもの。大切な想いなのでしょう。…ジョミー・マーキス・シン……ちょっと素敵な名前かも。
「あのぅ、ソルジャー…。名前で思い出したのですが」
しばらくしてから尋ねてみたのは、ある人物のことでした。
「女神ちゃん、って誰なのでしょう?「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお友達の」
フィシス様によく似た『女神ちゃん』ですが、フィシス様ご本人とは思えません。もしかしてフィシス様にも「そるじゃぁ・ぶるぅ」みたいな分身(?)が存在するのでしょうか。
「ああ、フィシスとは関係ないよ。かといって無関係でもない。…ぶるぅがフィシスの姿を真似てあの姿を創り出している。核になっているのは友達のレインだ」
「は?」
「ナキネズミのレインだよ。ぶるぅの部屋にいただろう?…ぶるぅはぼくがフィシスと過ごすのを見ているうちに、フィシスのような友達が欲しくなったらしい。レインではつまらなくなったんだ。いつの間にかサイオンでレインにフィシスの姿を映して一緒に遊ぶようになっていた。…あれがレインだと見抜くミュウはまずいないだろうね」
なんということでしょう!女神ちゃんの正体は…ナキネズミのレイン?!
「長老たちには伝えたけれど、彼らにもレインには見えないらしい。「箸で何かを食べさせてもらっているのを目撃した」という報告も聞いた。…本当はプカルの実をもらって食べていただけなんだが」
女神ちゃんがナキネズミ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のサイオン能力はやはり桁外れらしいです。
そんなお話を伺っていると、突然、青の間にコタツがもう1つ増えました。今あるものと同じ4人用です。そして間もなく「そるじゃぁ・ぶるぅ」が荷物を持って帰ってきたではありませんか。大きな風呂敷包みが…2つ?
「ブルー、予約しといたの貰ってきたよ!『地球に一番近い店』のおせち!!」
え?それって毎年発売と同時に完売と噂の、「地球に一番近い惑星」首都圏星ノアの高級料亭が作る限定おせち!?それを2セットも予約できたとは、「そるじゃぁ・ぶるぅ」、凄すぎです。
「せっかくだからコタツも買った。お正月にみんな座れるように」
青の間に新年のご挨拶にいらっしゃる方々は、長老方とフィシス様だと聞いています。ソルジャーと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の他に6名様。コタツの定員ちょうどですね。では、皆様で限定おせちを囲んでお正月ですか。
「ぶるぅ。…どうせなら年越し蕎麦も皆で食べようか?」
「えっ、ぼくの分…なくなっちゃうよ、そんなに呼んだら!」
「大丈夫。ぶるぅの分は好きなだけ食べられるようにしてあげるから」
そんなやり取りの後、私はソルジャーのご命令を受けました。
「ハーレイたちとフィシスに伝えてくれ。今夜は年越し蕎麦を食べにここへ来るように、と」
その夜、青の間は賑やかでした。長老方全員とフィシス様がお見えになって、コタツで年越し蕎麦をお召し上がりになったのです。リオさんが厨房から8人前の年越し蕎麦をワゴンで運んできましたが…。
「おかわり!」
「はい、只今すぐ!」
私は隠し部屋にある簡易キッチンでひたすら蕎麦を茹でていました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が「わんこそば」のような勢いで年越し蕎麦を食べまくっているのです。私、自分の分の年越し蕎麦を食べられない内に大晦日が終わってしまうかも。いったい何杯食べるのでしょう。あ、また「おかわり」?
「ソルジャー、増えたコタツはどうなさるんじゃ」
「そうだね…。明日は皆でおせちを食べるとして、その後はどうしよう?欲しいっていうならゼルにあげるよ」
「ふむ。休憩室にあると具合がいいかもしれんのう」
そんな会話を遮るように割って入ったのはブラウ様でした。
「コタツの行き場は後でいいじゃないか。それより、三が日は成人検査も正月休みだ。緊急事態はほぼ無いだろうし、おせちの後は麻雀大会にしないかい?もちろんサイオン使用禁止で」
「いいかもしれんな。…で、何か賭けるのか?」
冷静な言葉はキャプテンです。…っていうか、麻雀大会で決定ですか。
「そうだねえ。ネズミ年だし、負けたヤツは3日間、ネズミ耳のカチューシャをつけて過ごすとか」
「そ、それは…」
キャプテンが恐ろしそうにブラウ様を見ておられます。キャプテンにネズミ耳はキツイですよねぇ。…そこへ。
「ぼくはネズミ耳で構わないよ。…みんな、頑張ってくれたまえ。とりあえず、ぼくは負ける気はない」
あぁぁぁ。やる気でらっしゃいますか、ソルジャー!…あえて止める気はございませんが…ご健闘をお祈りします。
マザー、私は午前0時になる寸前にやっと年越し蕎麦にありつきました。長老方とフィシス様は明日の「おせち」と麻雀大会に備えてお部屋に戻られ、ソルジャーはベッドに。そしてコタツではお腹一杯になった「そるじゃぁ・ぶるぅ」が幸せそうな顔で爆睡中です。今夜は土鍋は要りませんね。
「そるじゃぁ・ぶるぅ」が地球に焦がれておいでのソルジャーのために買ったらしい『地球に一番近い店のおせち』がどんなものなのか楽しみですが、麻雀大会の行方も気になります。ネズミ耳はソルジャーになるといいなぁ…なんて夢を見るのはダメでしょうか?あ、今、年が変わりました。あけましておめでとうございます、マザー。