シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
《ブルー……まだか?》
《もう少しだ。頑張ってくれたまえ。君はぶるぅの父親だろう?》
青の間に生息する座敷童的存在――と表現するとぶるぅ本人が怒って噛み付いてくるのだが、実際そんな存在だ。
いつの間にか青の間にあった石。いつの間にか大きくなり、それが卵で暖める必要があると悟ったブルーはベッドに持ち込んだ。
だが一人で暖め続けられるはずもない。
指名されたのは当然ハーレイだった。
ベッドの中央で、時々は端っこで暖め、ついに孵化して出て来たのはちっちゃいブルーだった。だから「ぶるぅ」と名付けられた。
そしてぶるぅは最初に見たハーレイをパパと呼んだ。
それは理解出来る。
だが次に目にしたブルーを見て口を閉ざす。
生まれた瞬間、たくさんの情報がぶるぅの中で目覚めた。卵を暖めるのはパパとママの役目だと知っていたが、目の前にいるのはどう見てもパパとパパだったのだ。
そんな混乱をブルーは楽しんだ。
そしてパパとパパでもいいじゃないか、と提案した。
卵を暖めたのは確かにブルーとハーレイなのだから。
ママがいないことは残念だが、パパが二人なんてないことで、自分は特別なんだ!と思うぶるぅはウキウキとした。
だがブルーとハーレイはどちらが真に父親かという論争を今でもたまにしているのだ。
もちろん娯楽の一つとして。
父親の座を譲らないハーレイは今、ブリッジで苦悶の表情を浮かべている。
原因はハーレイを見ればすぐに分かる。
ハーレイの膝丈くらいの身長であるぶるぅが、ガブリとハーレイの腕に噛み付いてそのままブラブラと宙に揺れているからだ。
とにかくとんでもなく痛くて、いつもならば怒声を浴びせているところだが今日はそうはいかない。
理由を知っているブリッジクルーも何も言わず、ぶるぅを引きはがそうともしない。
――なんかへんだぞ?
そう思うが噛み付いたまま目をキョロキョロさせてぶるぅは様子を伺う。
《ハぁレイ》
思い切ってぶるぅは思念で尋ねてみる。
ちっさいブルーであるせいか、サイオンタイプもブルーなのだ。しかし出力全開は三分間というリミッター付なのだ。
全開でなければ思念波も普通に操ることが出来る。
《なんだ?》
《なんかヘンだよ?》
《そうか?》
《だって、ハぁレイ、離せって怒らないもん》
《そういえばそうだな》
《言う? 離せって言う?》
《言う。もう少ししたらな》
《どうして今じゃないの?》
《どうしてだろうか》
《ハぁレイにも分からないの?》
《ああ》
《じゃあブルーに聞いてみる?》
そうだな、とハーレイが答えようとした瞬間、まだ駄目、とブルーから思念が届いた。
《ぶるぅ。ブルーは今忙しいようだ》
《先に聞いてくれたの?》
《あ……ああ》
《さすが僕のパパ!》
そんなことで喜ぶぶるぅは可愛い。
可愛いと思うが歯は鋭すぎる。
腕の先でプラプラと揺れているぶるぅは嬉しそうにしている。
《あ……あ……ぶるぅ、うれしいのは分かるがそれ以上揺れるな。……痛い》
《ごめんなさい》
それきりしばらく話しかけてこなくなった。
できればこのまま時間をやりすごしたいと思ったがそ上手くはいかないように出来ているようだ。
《……ハぁレイ》
《なんだ?》
《腕、痛い?》
《痛いな》
《じゃあ何があるのか教えて》
《それは出来ん》
《出来ないってことは、何かはあるってことだよね?》
パタ、と床に落ちる音がする。
「ま……待て、ぶるぅ!」
まだブルーはOKしていない!
が、目の前でぶるぅの姿は消えた。
《すまん、ブルー》
《準備完了、危機一髪。それより早く》
ブルーの言葉にホッとしつつブリッジの出入り口から出ようとした瞬間、ハーレイは青の間にいた。
《……ブルー》
「ブリッジからここに来るのを待つ時間はないからね」
「そうだが……」
「ねえ、何? どうしたの?」
ブルーとハーレイの間でぶるぅが目をまんまるにして尋ねる。
「ハーレイにね、お願いしていたんだ。ぶるぅが青の間に来ないようにしてくれって」
「ああ! それで噛み付いても怒らなかったんだね? でも言ってくれればよかったのに」
「言ったら好奇心旺盛すぎるぶるぅは絶対に来るだろう?」
「もっちろん♪」
その場でくるりと一回転してぶるぅは答える。
「だからだよ」
「……どうして僕、来ちゃだめだったの?」
「それはね」
そう言いながらブルーはベッドの隣に置かれた大きな包みを指し示した。
「今日、あげたかったんだ」
「今日?」
「開けてみてごらん」
ブルーに促されて自分の身体よりちょっと大きい箱にかかった虹色のリボンを解き、箱を明けると……、
「かみお~ん♪」
喜びの雄叫びが青の間に響く。
「すごいやこれ。新しい土鍋だね!」
「そう。この土鍋で今夜、サンタクロースを待つといい」
「うん! 楽しみだなぁ」
言いながらぶるぅは土鍋の中に入る――と、しばらくして寝息が聞こえてきた。
「……土鍋の威力はすさまじい」
「ぶるぅが一番安心出来る場所だからね」
「ところでブルー。土鍋の用意にお昼までかかえるというのはどういうことだ?」
そのせいで噛まれていた左手は痛くて痛くてズキズキしているのだ。
「良く見てくれたまえ」
ブルーは土鍋を指さす。
「あ……ああ!」
用意すると言っていたのはアヒルの絵柄も土鍋だったが、今あるのはアヒル以外の絵も描かれている。
「せっかくだから描いたんだよ、お風呂隊を」
「ブルーが?」
「うん。僕が」
可愛いだろう?というブルーの問いを肯定しつつ、負けた気分になった。
これがきっかけでハーレイが木彫りを始めたということは、本人以外誰も知らない……はずだ。たぶん。