シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
今年も心浮き立つクリスマス・シーズンがやって来た。華やかなイルミネーションに彩られた
アタラクシアの街には敵わないながらも、ミュウたちの船、シャングリラの船内も美しく飾り
付けられる。居住区の扉などにはクリスマス・リース、公園にはお馴染みの見上げるような
クリスマス・ツリーだ。
「えーっと…。今年は失敗しないんだもんね」
今度こそきっと大丈夫、とツリーを眺めて呟いている子供が一人。ミュウの長、ソルジャー・
ブルーとお揃いの服を着込んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」、シャングリラ中のクルーを悩ます
大食漢の悪戯小僧である。
「サンタさんは会ってくれないけれど、お願いは聞いてくれるよね、うん」
神様みたいに凄いんだもん、と独り言を続ける「そるじゃぁ・ぶるぅ」は一昨年のクリスマスに
サンタクロースに願い事を叶えてもらった。だから今年も、と欲張りすぎたのが去年のこと。
サンタクロースに直接会って願いを聞いて欲しかったのに、大失敗をやらかしたのだ。
確かに事前に聞かされてはいた。もしもサンタクロースを見てしまったら、サンタクロースは
酔っ払いの男に変わってしまってプレゼントも消えてしまうのだと。それなのに「そるじゃぁ・
ぶるぅ」はサンタクロースを捕まえようと罠を仕掛けて、サンタクロースもプレゼントも
ものの見事に逃してしまって…。
「去年サンタさんは手紙をくれたし、お返事くらい書いてくれると思うんだ♪」
すぐ書けるよね、と取り出したのは小さなカード。公園の入口に置かれた大人の背丈より
少し高いクリスマス・ツリーに吊るすカードだ。クリスマスに欲しいプレゼントを書き込んで
吊るしておけばサンタクロースの所に届く。いい子でいればクリスマスの朝、枕元に
プレゼントが見付かるわけで。
「そるじゃぁ・ぶるぅ」が持つカードには願い事が既に書かれていた。お世辞にも上手な
字とは言えないけれど、一所懸命に頑張った。それを『お願いツリー』と呼ばれるツリーの
枝に結び付け、満足そうな笑みを浮かべる。
「これでよし…っと。みんなは何を書いてるのかな?」
お願いツリーには大人もカードを吊るしてゆく。意中の人のカードを持ち去り、クリスマスの
日に希望のプレゼントを贈るのが人気だ。それだけにカードに書かれたリクエストの品は
色々で…。
今の時点で吊るされたカードをチェックし終えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はエヘンと偉そうに
胸を張った。
「うん、ぼくのお願いがやっぱり最高! ブルーも喜んでくれるよね」
これで来年はブルーの夢が叶うんだもん、と踊るような足取りで立ち去った「そるじゃぁ・
ぶるぅ」が結んだカードにはこう書いてあった。
『地球のある場所を教えて下さい』。
ソルジャー・ブルーが焦がれ続ける青い星、地球。未だ座標も掴めない星の在り処を、
サンタクロースは果たして教えてくれるのだろうか…?
「…今年も凄いのを書いてきたねえ…」
どうしようか、と首を傾げるのはミュウたちの長、ソルジャー・ブルー。青の間の冬の名物と
なった炬燵に座り、熱い昆布茶が入った湯呑みと蜜柑、煎餅が盛られた器を前にする彼の視線の
先にはハーレイが居た。
「どうするも何も…。地球の座標は謎なのですよ、答えられるわけがありません!」
「だけど、ぶるぅの願い事だ。欲しい物が沢山あるのだろうに、ぼくのために願って
くれたんだよ」
「それはそうですが…。叶えられない願い事というのもあるわけでして」
私は去年で懲りました、とハーレイの眉間の皺が深くなる。カンが鋭い「そるじゃぁ・
ぶるぅ」にサンタクロースからのプレゼントを届けるのは毎年ハーレイの役目だった。
他の子供には保育部の者がコッソリ配りに行くが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の所にだけは
サンタクロースに扮したハーレイが行く。
つまり昨年、罠に掛かったサンタクロースはハーレイだったというわけで…。
「あの願い事は撤回させるべきです。でないと今年も何が起こるか分かりません」
「大丈夫だと思うけどね? ぶるぅも去年で懲りた筈だよ」
二度と捕まえようとはしないだろう、と言いながらブルーは蜜柑の皮を剥く。
「でも…適当な返事で誤魔化すことは可能だけれど、ぶるぅが欲しいのは誤魔化しじゃない。
本当に本物の地球の座標だ。でも、それが分かるならシャングリラはとうに地球まで辿り着いて
いる。…ぶるぅには本人が欲しがっているプレゼントというのをあげたいな…」
「ですから書き換えさせるのです。その方向でお願いします」
「やっぱり君も同じ意見か…。仕方ない、ぶるぅには諦めさせよう。丁度いい歳になるわけ
だしね」
「は?」
怪訝そうな顔をしたハーレイに、ブルーはにこやかに微笑んでみせた。
「ヒルマンに説得を頼むことにするよ。ぶるぅはクリスマスで6歳になる。このシャングリラで
6歳と言えば…」
「ああ、ヒルマンの講義が始まる歳でしたね。…ぶるぅだけに失念しておりましたが」
「ぶるぅは永遠に子供のままだとフィシスの占いにも出ていたからね。…大人しく講義を聞く
ような子供ではないし、他の子供の邪魔になるだけだ。でも今回は特別に」
就学前の講義体験、と語るブルーにハーレイが頷く。そんなこととは夢にも知らない
「そるじゃぁ・ぶるぅ」は今日も楽しく悪戯三昧、アタラクシアに出掛けてグルメ三昧。
夕方遅くまで食べ歩きをして戻ってみれば、部屋に一枚の紙が置かれていた。
「…学校へ来てみませんか…?」
何だろう、と読んでみた紙はヒルマンが受け持つ就学前の体験学習のお知らせと日時。幼少期に
シャングリラに保護された子供なら6歳を前に誰でも受け取るものである。しかし「そるじゃぁ・
ぶるぅ」の頭に『学校に行く』という選択肢は無い。こんなモノ、とゴミ箱に捨てようとしたが。
「あれっ、ブルーからだ…」
お知らせの最後に大好きなブルーの手書きのメッセージが追記されていた。
『ぶるぅへ。一度、学校へ行ってごらん。いいお話が聞けると思うよ』。
「……学校……」
あんまり行きたくないんだけどな、と思いはしたが、ブルーが書いてくれたのだ。行かないと
ブルーはガッカリする。仕方ないや、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は体験学習に行くことにした。
指定された日時は翌日の午後。悪戯目的でしか学校に来た経験が無い「そるじゃぁ・ぶるぅ」が
ドキドキしながら教室に入ると、そこに居たのはヒルマンだけ。ミュウの歴史などを簡単に教えて
くれたが、その内容は三年前にソルジャー候補にされかけた時に教わったよりも簡単なもの。
なのに…。
「もっと楽しいお話してよ! 難しい話は分からないもん!」
綺麗サッパリ忘れ果てたらしい「そるじゃぁ・ぶるぅ」にヒルマンはフウと溜息をついた。
「…これは基本のことなのだがね…。ミュウなら学んでおかねばならない。…地球を目指す
ために」
「じゃあ、習わなくてもいいもんね! 来年は地球に行けるもん!」
サンタクロースにお願いしたよ、と得意げな「そるじゃぁ・ぶるぅ」に、ヒルマンが
「そのようだね」と相槌を打つ。
「しかしだ、ぶるぅ。…そのお願いに答える方法をサンタクロースは知らないだろう」
「えっ、どうして?」
橇に乗って地球から来るんでしょ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は仰天したのだが、ヒルマンは。
「だからだよ。…地球は一度は人が住めなくなった星だ。それでもサンタクロースは地球を
離れず、宇宙に散らばった子供たちの家をクリスマスの度に訪ね続けた。そして今では
シャングリラにまで来てくれる。サンタクロースは我々とは違う方法で広大な宇宙を旅して
いるというわけだ」
レーダーも無ければワープ航法も無い、とヒルマンは言った。
「サンタクロースは地球の位置を知っているだろう。我々はそれを座標と呼ぶ。だが、その座標を
我々のために説明する言葉をサンタクロースは持たないだろうね。ここを真っ直ぐ行くだけ
ですよ、だとか、右に曲がって次を左ですとか、そんな言葉が返ってくると私は思うよ」
「……そんなぁ……」
涙目になる「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭をヒルマンの大きくて暖かな手がポンポンと叩く。
「仕方ないだろう、ぶるぅ。サンタクロースは人類が宇宙へと漕ぎ出す前から橇で走って
いたのだよ。何歳になるのかも分からない。今のやり方はこうなんです、と教える人が誰も
いないから、座標の計算は無理なのだ。…諦めなさい。それともサンタクロース風の行き方を
教えて貰うかね?」
欲しいプレゼントの代わりにそれにするかね、と尋ねられた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は
考え込んだ。欲しいものなら山ほどある。役に立たない地球への道を教わるよりかは、新しい
カラオケマイクや美味しいお菓子や、他にも色々…。ブルーが書いて寄越した「いいお話」とは、
このことだろうか?
「…そっか…。サンタさんには分からないんだ、地球へ行く道…」
仕方ないね、と肩を落とした「そるじゃぁ・ぶるぅ」がその後の講義を上の空で右から
左へと聞き流したのは当然の結果と言えるだろう。その夜、『お願いツリー』に吊るされた
「そるじゃぁ・ぶるぅ」のカードを調べたハーレイはホッと安堵し、ブルーに報告しに行った。
新しいお願いは最新流行のカラオケマイク。願いは叶うに違いない。
クリスマス・イブまでのシャングリラの日々を「そるじゃぁ・ぶるぅ」は悪戯とカラオケに
励んで過ごし、クルーは悪戯の犠牲になったり後始末をしに駆り出されたりと散々だった。
カラオケの方もブリッジ以外の全域でゲリラ・ライブの如くに披露されまくり、こちらも
犠牲者で死屍累々。
そんな毎日を繰り広げたくせに、クリスマス・イブにはピタリと悪戯もカラオケも止んだ。
サンタクロースが来るのは良い子の所。「いい子なんです」とアピールするためにクリスマス・
イブだけは大人しくするのも「そるじゃぁ・ぶるぅ」の年中行事だ。
クリスマス・イブのパーティーが開かれ、普段より少し遅い時間までシャングリラの船内は
華やいで賑わい、その喧騒も過ぎ去った夜更け。
「では、ソルジャー。行って参ります」
ハーレイが青の間でブルーから「そるじゃぁ・ぶるぅ」へのプレゼントの箱を受け取り、一礼を
して出て行った。船長室で恒例となったサンタクロースの衣装に着替え、大きな袋に最先端の
カラオケマイクや長老たちからのプレゼントなどを詰め込み、通路に出る。
すれ違った夜勤のクルーに「御苦労様です」と挨拶されたりしながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」の
部屋に辿り着き、昨年の痛い経験から緊張の面持ちで抜き足差し足、土鍋の寝床を覗き込んで
みれば、土鍋の主は丸くなってスヤスヤ眠っていた。プレゼントを脇の床に順番に並べ終わって
部屋を出ようとした時である。
ピコーン! と妙な電子音が鳴った。
(なんだ!?)
振り返ったハーレイの目に映ったのは土鍋からムクリと起き上がる影。
「サンタさん、待って!」
ぼくを地球まで連れてって、と大声で呼び止められたハーレイは大慌てで部屋から飛び出した。
去年の設定が有効だったらサンタクロースは酔っ払いへと変身している頃である。しかし今年は
その打ち合わせをブルーと交わしていなかった。ブルーは恐らく寝ている筈だ。
『ソルジャー、緊急事態です!』
追われています、と絶叫したハーレイの思念は相手をブルー限定にしたので「そるじゃぁ・
ぶるぅ」には聞こえていない。ついでに寝起きの「そるじゃぁ・ぶるぅ」にはテレポートという
発想が無く、ハーレイよりもずっと短い足で必死に後ろを追い掛けて来る。
「待ってよ、サンタさん、待ってってばーーー!!」
ぼくも地球に行く、と懸命に走る「そるじゃぁ・ぶるぅ」はトナカイの橇に乗るつもりだった。
自分が地球まで連れて行って貰えれば地球へ行く道が分かるだろう。帰りはきっと何とかなる。
地球の座標とかいう難しいモノは分からないけれど、ヒルマンやハーレイに道を説明すれば
いいのだ。
「サンタさぁーーーん!!!」
置いて行かないで、と息を切らして船内を駆ける「そるじゃぁ・ぶるぅ」とサンタクロースに
扮したハーレイとの距離は、悲しいかな、ぐんぐん開いていった。足の長さが違うのだから
無理もない。
しかしシャングリラの船内という限られた空間での逃走劇を何処まで続けられるのか…。
『ソルジャー! ダメです、ぶるぅに追い付かれます!』
この通路の先は行き止まりだった、と思い出したハーレイが顔面蒼白で放った思念に答えが
返った。
『奥のハッチから飛び降りろ!』
『ええっ!?』
『いいから飛ぶんだ!!』
私は空を飛べないのですが、というハーレイの思念に対するブルーの指示は「飛び降りろ」。
通路の角を曲がって小さな影が追い掛けて来る。万事休す。
ハーレイは腹を括って非常脱出用のハッチを開くと、夜の雲海へと飛び降りた。耳元で寒風が
ヒュウと音を立て、もうダメだ、と目を瞑った時。ドスン、と何かがハーレイを受け止め、
落下が止まる。
シャン、シャン、シャン…と響く軽やかな鈴の音。ハーレイは何頭ものトナカイに曳かれた
空飛ぶ橇に乗っていた。
「サンタさん、待って! サンタさぁーーーん!!!」
涙まじりの「そるじゃぁ・ぶるぅ」の呼び声とシャングリラを振り捨て、トナカイの橇が
舞い上がる。それがブルーのテレキネシスとサイオニック・ドリームとの合わせ技だ、と
ハーレイが気付いた時には橇は鈴の音だけを残して「そるじゃぁ・ぶるぅ」の視界から消えた
後だった。
「…す、すみません、ソルジャー…。御迷惑をお掛けしました…」
申し訳ございません、と謝りまくるサンタクロースにブルーが熱い昆布茶を勧める。
「いいよ、君こそ怖かっただろう? それに船の外はとても寒かっただろうしね」
温まるよ、と柔らかく微笑まれてハーレイは有難く湯呑みを手に取り、啜ろうとして真っ白な
サンタの髭に阻まれた。ブルーがクスクスと可笑しそうに笑う中、髭を外して湯気の立つ昆布茶で
喉を潤す。死ぬかと思ったダイブの後だけに、それは温かく身体に染み透っていって…。
「すまなかったね、ぶるぅが仕掛けを作っていたとは全く知らなかったんだ。扉が二度目に開いた
時にアラームが鳴るようになっていたらしい。サンタクロースを見てしまったら酔っ払いに
化ける、と懲りていると思っていたんだけどな…」
ダメ元で仕掛けをしたのだろう、とハーレイに詫びつつ、ブルーはサンタクロースに取り
残された「そるじゃぁ・ぶるぅ」をも案じていた。トナカイの橇が飛び去るのを見送った後、
自動で閉まったハッチの脇でシクシク泣いているという。
「テレポートすることを思い付かなかった自分を責めているんだよ。来年からはサンタクロースも
用心するだろうし、橇に乗り込めるチャンスは二度と無い。もちろん地球にも辿り着けない。
…地球の座標はもう分からない、って泣いているんだ。………ぼくのためにね」
ぶるぅは地球に用は無いから、とブルーは儚い笑みを浮かべた。
「今夜の出来事をぼくに話すべきか否か、小さな頭を悩ませているよ。…もしも正直に打ち明けて
きたら、ぼくは叱らないでやろうと思う。ぼくを思ってやってくれたんだ、叱ったら可哀想
だろう? それとも雷を落とすべきかな、寿命が縮んだキャプテンとしては?」
「いえ、私は…。ソルジャーがそれで宜しいのでしたら……」
逃がして下さったのはソルジャーですし、とハーレイは昆布茶を飲み干した。今年の
サンタクロース役は体力も気力も削ぎ取られたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が地球への道を
探しているのが誰のためなのかが分かっている以上、ここで文句を言うべきではない。
いや、それよりも………長年シャングリラの船長という立場に居ながら、未だに地球の
座標を掴めぬ自分の方が愚かなのかもしれないのだ。明日でまだ6歳にしかならない子供の
「そるじゃぁ・ぶるぅ」ですら、懸命に地球を探しているのに。
「ソルジャー…。私も、ぶるぅを叱る気持ちにはなれません。確かに酷い目に遭いはしましたが、
あれは悪戯ではありませんから。…明日は何も知らないキャプテンとして誕生日を祝ってやろうと
思いますよ」
夜遅くまでお邪魔した上に御迷惑をお掛けしてすみませんでした、と深く頭を下げて出てゆく
ハーレイをブルーは炬燵で見送った。青の間に初めて炬燵を持ち込んだのは「そるじゃぁ・
ぶるぅ」だ。その悪戯っ子が泣きじゃくりながら青の間への通路を一人でトボトボ歩いている。
『…ぶるぅ? どうしたんだい、こんな夜中に? サンタクロースが来なかったのかい?』
そっと優しく送った思念に、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はハッと顔を上げて。
「ブルー! ごめんなさい、ブルー! ぼくね、ぼくね…」
テレポートして飛び込んでくるなり大泣きに泣き始めた小さな身体をブルーは両腕で
抱き締めた。サンタクロースを、地球への道を逃したことを何度も詫びる「そるじゃぁ・
ぶるぅ」。いつか一緒に地球に行こうと夢見てくれる「そるじゃぁ・ぶるぅ」なら、
遠い未来にきっと、必ず…。
「ぶるぅ、お前なら行けるよ、きっと。…地球へ」
「ブルーもだよ! ブルーも一緒でなくちゃ行かない、来年はダメでも再来年とか、
その次とか!」
絶対に行くのだ、とポロポロ涙を零す「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、その夜、久しぶりに
青の間のブルーのベッドで眠った。サンタクロースが置いて行った筈のプレゼントのことは
すっかり忘れて、大好きなブルーの腕の中で…。
一夜明ければクリスマス。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の誕生日だ。青の間で目覚めた
「そるじゃぁ・ぶるぅ」は昨夜の出来事を思い出すなり泣き顔になったが、その目の前に
ブルーがテレポートさせて来たものは。
「あっ、プレゼントだ! なんで?」
消えちゃったんじゃなかったの、と尋ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭には去年の惨劇が
蘇ったらしい。サンタクロースが酔っ払いと化し、プレゼントも酔っ払いの持ち物に変わった
大惨事。けれどブルーは小さな銀色の頭をクシャリと撫でて。
「今年のサンタクロースはビックリし過ぎたみたいだね。変身するのをすっかり忘れて
いたんだろう? だからプレゼントも土鍋の隣に置きっぱなしだったよ」
「ホント? じゃあ、これは…」
開けてみようっと! と包みを開いた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が歓声を上げる。お願いカードに
書いたカラオケマイク、それも最新流行のだ。次の包みに入っていたのは特大鍋敷き。寝床に
している土鍋の下は絨毯なのだが、そこに重ねると良さそうなそれはブルーが選んだ品だった。
そうとも知らない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は自分の好みをよく知っているサンタクロースに
大感激で。
「サンタさん、ごめんなさい…。色々選んでくれたのに…」
「ぶるぅの気持ちはサンタクロースにも届くと思うよ。来年はもう追いかけたりしないようにね」
やんわりと諭され、悪戯小僧は素直にピョコンと頭を下げる。地球のある場所は分からない
から、サンタクロースが飛び去って行った方向へ。
「ごめんなさい! また来年も来てね、いい子にしてるから!」
「おやおや…。本当にいい子に出来るのかな? 悪戯もせずに?」
「うー…。む、無理…。それ、絶対に無理だから!」
でもサンタさんは来てくれるもん、と元気に主張する「そるじゃぁ・ぶるぅ」は今年も
懲りていなかった。そんな悪戯っ子を祝福するように仲間たちからの思念波が届く。
『『『ハッピー・バースデー、そるじゃぁ・ぶるぅ!!!』』』
パーティーの用意が出来ていますよ、とハーレイが迎えに来てくれた。彼が昨夜の
サンタクロースで決死のダイブをやり遂げたことを知る人物はブルーだけ。
「かみお~ん♪ ブルー、パーティーに行こうよ!」
「そうだね、じゃあ、その前にプレゼント。ほら、開けてごらん」
ブルーが取り出した箱から出て来たものは黄色いアヒルちゃんのケープだった。
「わあ、アヒルちゃんだぁ! フードがついてる!」
「寒い季節にピッタリだろう? ショップ調査に着て行くといいよ」
「ありがとう、ブルー! ブルー、大好き!!!」
一番好き、と大喜びの「そるじゃぁ・ぶるぅ」はブルーの手を握って公園の真ん中へ
テレポートした。そこがパーティー会場だ。青の間に置き去りにされたハーレイが肩で息を
しながら駆け付けるのを待ってバースデーケーキが運び込まれる。年々巨大化しつつある
ケーキは厨房の人々の肩に担がれ、お神輿の如く賑やかに…。
サンタクロースの橇に乗り込んで地球を目指そうとした「そるじゃぁ・ぶるぅ」、本日で
生後ちょうど6年。地球への道は掴めなかったが、いつの日か辿り着くだろう。その時まで
ブルーの側を離れず、ブルーを連れて、きっと地球まで…。
「そるじゃぁ・ぶるぅ」、6歳の誕生日おめでとう!
聖夜を飛ぶ訪問者・了
※悪戯っ子な「そるじゃぁ・ぶるぅ」、2012年12月25日で満6歳でございます。
葵アルト様の2007年クリスマス企画で誕生してから5年以上が経ちましたが…。
これからも元気な悪戯小僧のままで地球まで辿り着いてくれますようにv
大好きなブルーと一緒にね!