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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

学園祭に夢を・第1話

中間試験が終わると待っているのは収穫祭。行き先はマザー農場です。その年の作物の出来によって時期が変わりますから試験前の年もありましたけど、今年は試験の翌週でした。つまりキース君の副住職就任を内輪で祝った数日後ですが、それに先立つイベントが全校揃っての薪拾いというヤツで。
「うーん、今年もけっこうハード…」
なんでこういうイベントが、とジョミー君が文句を言っているのは昼食タイム。私たちは郊外の山の頂上に開けたスペースでサンドイッチを頬張っていました。体力優先だけに洒落た中身ではなく、カツサンドやコロッケサンドです。それぞれの脇には丈夫な布製の大きなトートバッグが置かれていて…。
「仕方ないだろう、収穫祭前のお約束だし」
諦めたまえ、と会長さん。マザー農場で暖房用に使う薪を拾い集めるのが毎年の行事で、ノルマはトートバッグに一杯分の薪ですから一苦労。山の管理をしている人たちがサイズに切り揃えた薪を置いてくれていますが、真面目にそれを拾った場合の重さは半端じゃありません。
「裏技だって教えてあげた筈だよ、下の方には枝つきの枯れ木を詰め込んでおいてスペース稼ぎ! その上に薪を入れるんだ、ってね」
「でもさぁ…。ブルー、毎年それを女子に教えているじゃない! でもって男子にはレディーファーストとか言って牽制するしさ」
枝つきのなんか拾えないよ、というジョミー君の嘆きは事実でした。枝つきの枯れ木は女子専用と看做され、男子が拾う現場を目撃されれば男女を問わずブーイングは必至。それでも男か、と詰られるのです。結果的に男子は漏れなく太い薪を集める羽目に…。
「そういうものかな? ぶるぅは軽い枝しか拾っていないし、ぼくも枝つきのを拾ったけれど?」
ほらね、と二人分の袋を示した会長さんに、キース君が。
「ぶるぅは軽くて当然だろうが! 子供なんだし参加しているだけで表彰モノだ。でもって、あんたはサイオンでズルが効くからな…。ちゃっちゃとノルマを果たしやがって!」
「袋一杯が条件だしねえ。それに重労働は向いてないんだよ、虚弱体質だって知ってるだろう?」
「…もういい、あんたには一生勝てん」
真面目に薪を拾ってくる、とキース君は腰を上げました。薪は充分に置いてあるのですが、拾いやすい場所では奪い合いです。出遅れてしまうと山の頂上まで行く羽目になり、キース君たちは毎年このパターン。普通の1年生だった時には気にせず拾っていましたけれど、特別生になった後は遠慮が先に立つらしく…。
「おい、お前たちもサボッていないで早く拾えよ」
あと一時間ほどで終了だぞ、とキース君が声をかけ、ジョミー君たちも袋を提げて林の中へと入ってゆきます。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」、スウェナちゃんと私は既にノルマを達成済みですから、のんびり座って熱いお茶を楽しんでいたのですが。
「うわっ!?」
ジョミー君の叫び声と共にザザーッと何かが滑り落ちる音。
「どうした、蛇か!?」
「ジョミー先輩、大丈夫ですか!?」
キース君たちが駆け寄ってゆくのが分かります。任せて安心、と放置したままティータイムを続け、制限時間終了と共に下の広場まで降りて行ってみれば…。

「おやおや…。派手に滑ったようだね」
泥だらけだよ、と会長さんがジョミー君のジャージを呆れ顔で眺め、ジョミー君が。
「仕方ないだろ、踏んじゃったんだし! なんで隠れているのさ、キノコが!」
キノコは自分の意思で逃げ隠れしたりしないだろう、と思いましたが、ジョミー君は至って真剣。なんでも落ち葉の下にあったキノコに気付かず、踏んだはずみに足を滑らせて数メートル滑り落ちたのだそうで…。
「靴にくっついてたキノコを見たらさ、真っ赤だし! 派手な色なら堂々と表に出ればいいだろ!」
「それは無理だと思うけどねえ…」
好きで隠れているんじゃないよ、と会長さんが宥めにかかってもジョミー君は不機嫌です。派手なキノコは表に出てきて存在をアピールすべきだと言うのですけど、同じアピールなら松茸の方が…。
「だよね、松茸に自己主張して欲しいかもね。せっかく独特の匂いなのに」
分からないのが不思議だよ、と会長さん。松茸の香りは強い筈なのに、堂々と顔を出しているものでも匂いは漂ってこないそうです。実地で確かめてみたいですけど、薪拾いで入る山には松茸はありませんでした。松茸が出る山はキノコ狩りのシーズン中には持ち主以外立ち入り禁止で、入ると罰金間違いなし。
「どうせなら松茸を踏みたかったなぁ…。それなら我慢できたのに…」
怪我の功名、というジョミー君のぼやきに、会長さんが。
「食べられるキノコはそう簡単には生えていないよ。素人がキノコ狩りに出掛けて食中毒ってニュースは多いだろう? まあ、世の中には食用キノコでも物凄いヤツがあるんだけどさ」
「え、どんなの?」
思い切りド派手な見た目とか、と尋ねるジョミー君に私たちも興味津々。三百年以上も生きてきている会長さんだけに、この話は期待できそうです。会長さんはクスッと笑って…。
「いやもう、普通には絶対食べられないってキノコだよ。そのまま食べると柔らかめの木に齧りつくような感じだと聞くね。…木の幹に生えてて、見た目はサルノコシカケを無数に重ねたような形で」
ふむふむ。食感はともかく、形の方はまだキノコだと思えます。それをどうすると?
「雪深い山の中にある木の高い所に生えるから、雪が積もると雪の重みで落ちてくる。それを拾ってお湯で茹でてさ、塩漬けにして待つこと半年」
「「「半年…」」」
「そこで数日間の塩抜きをして、気の早い人は料理する。そうでない人は味噌に漬け込んで半年待ってから食べるってわけ」
「ちょ、一年!? キノコなのに?」
嘘だろう、とジョミー君が突っ込みましたが、会長さんはサラッと流して。
「本当だってば。嘘だと思うなら調べてみれば? 正式名称、エゾハリタケ。通称、ぬけおち」
会長さんが言い終えた所でマツカ君がスマートフォンを取り出し、素早く検索。そこには確かに『エゾハリタケ』と書かれたキノコと調理についてのポイントが…。
「おいおい、マジかよ…」
「世の中、まだまだ広いですよね…」
もっと勉強しなくては、とサム君とマツカ君が言い交わしています。たかがキノコを食べるまでに一年。キノコでこれなら、サイオンについてはヒヨコレベルの私たちが成長するのに何年かかって、お坊さんの卵のサム君とジョミー君が一人前になるまでに何年かかるか、気が遠くなってきましたよ…。

薪拾いで集めた薪がマザー農場に送られた翌日は収穫祭! みんな揃ってバスに乗り込み、マザー農場へと出発です。サイオンを持った仲間たちだけで運営されている農場ですけど、宿泊可能な観光農場も兼ねているのでバーベキューなどのお楽しみスポットが色々と。去年まではジョミー君が渋っていましたが…。
「かみお~ん♪ 宿泊棟で特製ソフトクリームが食べられるって!」
搾りたてミルクのソフトクリーム、と聞けば「行かねば!」と思ってしまいます。とはいえ、宿泊棟にはジョミー君の心の傷がてんこ盛り。仏門入りの切っ掛けになってしまった上棟式の人形、テラズ様があるのは宿泊棟の屋根裏ですし、そのテラズ様の御縁だとか言って強引に出家させられましたし…。
「えっと、ジョミーはどうするんだい?」
あそこはパスかな、と会長さんが尋ねてみれば、ジョミー君は。
「行くよ、もちろん! 特製ソフトクリームだもんね、食べなきゃ絶対後悔するって!」
「「「えっ?」」」
テラズ様は、と全員の声が重なったのに。
「テラズ様くらい平気だってば、害は無いしね。拝んでおけばいいんでしょ?」
「ど、どうした、ジョミー…」
キース君が珍しく顔色を変えて。
「悪い物でも食ったのか? まさかと思うが、ブルーが言ってたエゾハリタケでも買ったのか?」
通販をやっている人があるんだよな、と話すキース君。なんでも家に帰って更に調べたら、通販のサイトがあったのだそうで…。
「食べていないよ、そんなもの。気楽に行こうって思っただけさ。お坊さんのプロは色々大変みたいだけれど、プロにならなきゃいい話だし」
食べなきゃ損々、とジョミー君は鼻歌混じりだったりします。どうなったのかと思いましたが、宿泊棟へ向かう道での話によると、キース君が副住職に就任したのが開き直りの切っ掛けだとか。
「あれで悟りが開けたんだよ。うっかりプロになってしまったら重荷がズッシリきちゃうんだよね。でもさぁ、それまでのキースって普通だったし、ソルジャー……いけない、えっと…。とにかく頼まれ事とか、されちゃうことも無かったし!」
だから新米のお坊さんライフを満喫するのだ、とジョミー君は明るい笑顔。不出来な弟子と呼ばれる間は普通の人生を送れそうだ、と判断を下したみたいです。ただし、朝のお勤めと剃髪はパス。不出来な以上、その辺は出来なくて当然だなんて言われても…。
「…要するに形だけ仏弟子なんだね?」
確認するけど、と念を押した会長さんに、ジョミー君は。
「形だと髪の毛まで入っちゃうから名前だけ! だから徐未って呼んでもいいよ」
お好きにどうぞ、と答えるジョミー君の頭にあるのは、ソルジャーに大量の頼まれ事を押し付けられてしまったキース君に違いありません。極楽往生を頼むだけでなく、極楽で御世話になる蓮の花の場所やら色やら、あれこれ注文してましたから…。
「名前だけ、ね。徐未でもジョミーでも変わり映えしないし、ジョミーにしとくよ」
百年後くらいにはプロのお坊さんになって欲しいんだけど、と会長さんが深い溜息をついています。けれどジョミー君には馬耳東風で。
「えっと、特製ソフトクリーム…っと。入る前にお念仏だよね、南無阿弥陀仏」
お邪魔しまぁーす、と宿泊棟の扉を開けて突入していくジョミー君。お念仏は唱えてましたが、ちゃんと合掌してましたっけ? 首を捻った私たちの隣で会長さんが。
「仏弟子失格。お念仏にはまず合掌! でもって基本は十回だよ。一回で済ますコースの場合は五体投地が必須だしさ」
何年かかれば仕込めるのやら…、と会長さんが呟く声はジョミー君には届いていませんでした。宿泊棟の職員さんとは顔馴染みですから早速ソフトクリームを貰って御機嫌でペロペロやっています。
「…あいつが坊主にされてしまったのは此処だったんだがな…」
俺の道場入りの壮行会で、とキース君がぼやけば、シロエ君が。
「出家させられた場所は管理棟ですけど、喉元過ぎればなんとやら…ってヤツですか?」
「なんで俺だけババを引くんだ…。さっさと修行を済ませてくれれば、あいつにも余計なオマケがだな…」
「先輩、その先はヤバイですってば」
あの名前は此処では出せませんよ、とシロエ君が小声で囁き、ソルジャーに纏わる話は無かったことに。ジョミー君も開き直りの境地ですから、今は私たちも収穫祭を楽しむべきです。
「かみお~ん♪ 特製ソフトクリーム、ぼくにもちょうだい!」
搾りたてミルクのソフトクリーム、と飛び跳ねてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」に続いて私たちも目指す品物をゲットしました。ジョミー君は立ったままで食べていましたが、会長さんがスタスタと一番奥の席に腰掛け、手招きします。そこには『予約席』と書かれた札が…。
「こっち、こっち。どうせならゆっくり食べなくっちゃね、他にも色々あるみたいだよ」
焼き立てアップルパイにスイートポテト、とメニューを読み上げる会長さん。農場ですから食材は全て自前です。よーし、お坊さんの話もソルジャーのことも、スッパリ忘れて食べまくろうっと!

マザー農場のお昼といえばジンギスカン。食堂に溢れ返っていた生徒たちはお昼時になると次々に席を立ち、ジンギスカンをやる広場へ向かってゆきました。私たちもそろそろ行かないと…、と思ったのですが。
「ジンギスカンもいいけど、ステーキもいいよ?」
会長さんがニッコリ微笑んでいます。
「キースの壮行会で美味しいのを食べさせて貰っただろう? あれを食べて行きませんか、って農場長さんから言われてるんだ」
「えっ、ホント!?」
ジョミー君の瞳が輝き、私たちもドキドキです。マザー農場のステーキ肉は宇宙空間でも味の落ちない飼育方法を地球で実践しているだけに、舌がとろけるような絶品。それを食べさせて貰えるなんて本当でしょうか?
「本当だよ。キースの副住職の就任祝いに御馳走するって。…他の生徒がいない間に、コッソリと…ね」
「「「食べる!!!」」」
ジンギスカンより断然そっち、と私たちは食堂に居座ることに。カレーやサンドイッチなどの昼食メニューも揃ってますから、収穫祭のベテランとも言える特別生がジンギスカンに姿を見せなくっても不審がる人はいませんし…。
「じゃあ、決まり。一般の生徒が戻らない内に食べちゃおう」
会長さんが食堂の人に合図をすると熱々のコンソメスープが運ばれてきて、お肉の焼き加減を尋ねられて。やがてジュウジュウと音を立てるステーキが鉄板を嵌め込んだ素朴な木製のプレートの上に…。
「「「いっただっきまーす!」」」
ナイフとフォークで切り分けながら次々と口に運ぶ間も楽しくお喋りしていたのですが。
「今年の学園祭のことなんだけどね」
切り出したのは会長さんです。
「週明けくらいにグレイブが例年どおり投票をすると思うんだ。クラス展示か演劇にするか、って恒例のアレさ。…君たちは投票に参加しないで独立にしといてくれるかな?」
「ぶるぅの部屋か?」
キース君が切り返しました。
「それとも舞台でファッションショーとか、ロクでもない催し物をやろうと企んでるのか、そこをハッキリしておいてくれ。…でないと俺たちも困るんだ」
「あ、そうか!」
同意したのはジョミー君。
「変な催しをやらされるよりクラス展示の方がいいよね。今まで素直にやってきたけど、1年A組の生徒なんだし、そっちに行っても良かったんだ…」
「そうだろう? 俺がサイオン・バーストを起こした年は巻き込んでしまって悪いことをしたが、冷静に考えてみれば去年は何も坊主カフェまで付き合う必要は無かったわけで…。今年は内容次第だな。俺たちにも選択の自由はある」
何をする気だ、と畳み掛けるキース君に、会長さんはペロリと舌を出して。
「バレちゃったか…。確かに去年は坊主カフェをやらなきゃならない理由は全く何処にも無かったねえ。ぶるぅの部屋を見たがる生徒が多数だった、というだけで。…それは今年も同じなんだけど、今年は嫌でも付き合ってもらう」
「「「え?」」」
「ちょっと考えがあるんだよ。…ただし、実現可能かどうかは不明。これからハーレイたちと話し合いをして、結果次第という所かな。長老会議は時間がかかるし、結論が出るのを待っていたんじゃ投票までに間に合わない」
だから独立にしておいて、と会長さんの表情は真剣なものに。長老会議は教頭先生にゼル先生、エラ先生、ブラウ先生、ヒルマン先生という『長老』の称号を持った先生方だけの会議です。これが招集される時には、サイオンやサイオンを持った仲間について色々と議論が交わされるわけで…。
「長老会議? 何を企んでいるんだ、あんたは」
キース君の問いに、会長さんは「まだ秘密」と答え、熱いステーキを頬張って。
「一つだけ言えるのは、ぶるぅの部屋を使うって事かな。ぼくの提案が通らなかったら、別のネタを捻り出さなきゃダメだけど……今年も公開するつもり。君たちの手伝いが必要だからね、学園祭の投票は独立で」
頼んだよ、と言われてしまうと拒否する度胸があるわけもなく、ましてや長老会議となると…。もしかしてステーキの昼食は釣り餌だったりするのでしょうか? キース君も同じ考えに至ったらしく。
「おい、このステーキはバイト料か? 俺の祝いというのは嘘で」
「違うよ、これは純粋にお祝いをしてくれてるんだよ。証拠にデザートに特製ケーキが出て来るさ」
会長さんの言葉は嘘ではなくて、ステーキの後はシーザーサラダで、それから木の実たっぷりの豪華なホールケーキが。真ん中に『おめでとうございます』と書かれたプレートが乗っかっています。農場長さんたちも食堂に現れ、キース君に祝辞を述べて。
「副住職就任、おめでとうございます。責任のある立ち場は大変でしょうが、頑張って務めて下さいね」
私たちも応援してますよ、と食堂は一転、キース君の副住職就任の祝賀会場に。みんなでケーキを食べて暫し談笑。農場長さんたちが引っ込む頃にはジンギスカンを終えた生徒の第一陣がやって来たため、学園祭の話題は立ち消えになってしまいました。それからは話すチャンスも無くて…。
「いいかい、投票は独立だよ。『そるじゃぁ・ぶるぅを応援する会』は今年も活動するんだからね」
拒否権は無し、と会長さんが念を押すだけで、それ以上のことは分からないままマザー農場とのお別れの時間。えっ、思念波で話せば良かっただろう、って? 会長さんに喋る気が無いんですから、綺麗サッパリ無視されましたよ…。

採れたての果物や野菜をお土産に貰ってシャングリラ学園に戻ってからも、会長さんは何も教えてくれませんでした。長老会議がいつ行われるのか、それも内緒にする気のようです。私たちはあれこれ考えを巡らせたものの、全く事情が掴めない内に学園祭についてのホームルームが…。
「さて、諸君」
グレイブ先生が眼鏡を押し上げ、お決まりの演説が始まります。学園祭には節度のある出し物が相応しい、というアレですね。
「クラス展示か演劇か。…演劇はバカ騒ぎに陥りがちなので私は嫌いだ。社会問題などに取り組むのなら演劇もいいが、それでは諸君が嫌だろう。クラス展示もお遊びではなく、見学者の心に訴えかけるような深い内容が望ましい。お化け屋敷の類は論外だ」
「「「えーっ…」」」
「不満のある者は私のクラスにいる必要は無い。テストで楽をしているのだから、学園祭は真面目にやりたまえ。…まずは展示か演劇にするかを投票で決める。で、そこの特別生は今年も別行動をするのかね?」
「はい」
キース君が代表で答えました。
「活動内容は検討中ですが、クラスとは別に動きます。届けはブルーが出す予定です」
「よろしい。では、君たちは投票に加わらないように」
こうして投票が始まり、グレイブ先生の希望通りに1年A組は今年もクラス展示に決定。終礼が済むと私たちはクラスメイトに取り囲まれて別行動の意味を問われましたが、答えられるほどの情報は無く。
「すまん、決定権はブルーにあるんでな」
俺たちにも詳細は分からないんだ、とキース君が頭を下げて、私たちも「ごめんね」「すみません」と口々に謝り、逃亡あるのみ。目指すは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋です。いくらなんでも、そろそろ話を聞かせてくれてもいいんじゃないかと…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい! 今日はリンゴのコンポートだよ」
赤ワイン仕立てでバニラアイス添え、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。リンゴはマザー農場で貰ったもので、アップルパイも焼かれています。紅茶やコーヒーなどの飲み物が揃うと、キース君が会長さんに。
「お望みどおり、クラス投票の方は蹴ってきてやったぜ。俺たちに何を手伝わせる気だ? いい加減、教えてくれてもいいだろう?」
「うーん…。まだ結論は出ていないんだけどな、長老会議の」
思った以上に時間がかかる、と会長さん。
「ハーレイたちが慎重になるのも分からないではないけれど…。少しずつオープンにしていくっていうのも大切だろうと思うんだ」
「なんのことだかサッパリなんだが…」
「学園祭の話に決まってるだろう? ぶるぅの部屋を公開するのは定番の行事になってきたけど、サイオンを使うとなると別だからね。…そこで揉めてる」
「「「サイオン?」」」
私たちは首を傾げました。学園祭でサイオンが使われたことは何度もあります。ファッションショーでマジックと称して着替えをしたり、サイオニック・ドリームで坊主頭に見せかけて坊主カフェとか…。いちいち長老会議に計っていたとも思えませんけど、それが問題になったんですか?
「違うよ、今度はサイオン自体が売りなんだ。正確に言えばサイオニック・ドリームを売るというべきか…。薪拾いでジョミーがキノコを踏んでいたよね? あれで閃いたんだけど」
「…キノコ?」
ジョミー君が間抜けな声を上げ、私たちの脳裏に蘇ったのは泥だらけのジャージ。落ち葉に隠れたキノコを踏んで滑り落ちたとかで散々文句を言ってましたが、あの件と、どう繋がると…?
「ジョミーが踏んだのはベニテングダケ。…覚えてないかな、君たちが普通の一年生だった時の薪拾いを。ぼくが毒キノコを集めていただろ、あの赤いキノコがベニテングダケだ」
「「「あ…」」」
それはすっかり忘れてしまっていた事件。会長さんがジョミー君たち男子を動員して集めたベニテングダケを使って怪しげなパイを作ったのでした。食べると思いのままの夢が見られるというミートパイ。教頭先生にプレゼントして食べさせ、眠り込んだ所で私たちと意識をシンクロさせてくれちゃって…。
「思い出したぞ、幻覚キノコだ!」
キース君が眉を吊り上げています。
「あの時は世話になったな、教頭先生も俺たちも。…あれを売り物にしようと言うのか? ベニテングダケのパイで思い通りの夢ってか?」
「…サイオニック・ドリームを売ると言っただろう? 流石にそうとは言えないからねえ、どんな名前がいいのかなぁ? 合法ハーブじゃ学園祭では流石にマズイし…」
その前に許可が要るんだけどね、と会長さん。まさか本気でサイオニック・ドリームを売り物に? 今までみたいなヤツではなくて、個人のお客を対象に…?
「そういうこと。でも、オーダーメイドのサイオニック・ドリームは手掛けないよ。何通りかのパターンを決めて、その範囲内で対応する」
「「「???」」」
「メニューを先に決めておくんだ。それ以外は対応いたしません、って感じかな。もちろん、ぶるぅの不思議パワーを使っているってことにするけど、長老は頭が固くていけない。サイオンは自然に融け込んでいくのが理想なんだよ、みんなの中に…ね」
それで学園祭なのだ、と会長さんは大真面目でした。
「学校を挙げてのお祭りだろう? シャングリラ学園が普通じゃないのは既に知られていることだしさ、在校生にサイオンってヤツを身近に感じてもらいたい。不思議で楽しい力なんだ、って」
そういうことを積み重ねていけばサイオンの存在が明るみに出ても恐れられたりしないだろう、と語る会長さんが危惧しているのはソルジャーが住む世界なのでしょう。サイオンを持つだけで排斥されて抹殺されるSD体制。そういう世界にならないように、と考えるのも会長さんの役目だろうとは思いますけど…。
「あんたの場合は本気か遊びか分からんからな…」
キース君が溜息をつけば、会長さんが。
「そこなんだよね、長老会議が揉める理由は。ぼくは至って本気なのにさ…。ブルーと出会っていなかったなら、まだまだ隠そうとしただろうけど…」
日頃の行いが悪すぎたかな、と会長さんは苦笑しています。長老会議は今日もあるらしく、会長さんも呼ばれているそうで。学園祭でサイオニック・ドリームを売れるのかどうか、私たちも大いに気になります~!



 

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