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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

波乱な川下り

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv







毎年恒例、夏休みの宿題免除のアイテム探し。会長さんは今年もアイテムを確保し、しっかり出店を出しました。ちゃっかり儲けた翌日からは夏休み。この夏は何処へお出掛けしようか、と会長さんのマンションにお邪魔して…。
「海の別荘は決まってるから、前半で勝負したいよね、うん」
会長さんがカレンダーを指差し、私たちも同意見。マツカ君の海の別荘に出掛ける時期は固定されたも同然なのです。ソルジャー夫妻があの別荘で結婚して以来、結婚記念日を含む日程を組むというのがお約束。ゆえに自由に動き回れるのは前半部分というわけで。
「おい、棚経も忘れてくれるなよ?」
サムとジョミーは今年も手伝え、とキース君がお盆の辺りを示すと「うへえ…」と情けなさそうな声が。
「今年もやるわけ?」
勘弁してよ、とジョミー君が泣き付いてみても、キース君は素っ気なく。
「お前も一応、僧籍だろうが。卒塔婆を書けとは言ってないんだ、棚経くらいはこなすんだな」
「でもさぁ…。暑いし、キツイし、膝は痛いし…」
「道場はそんなレベルじゃないぞ? いや、その前にまずは専修コースか…」
さっさと入学してしまえ、と僧侶養成コースをちらつかされたジョミー君は真っ青です。
「ぱ、パス! まだ棚経もこなせてないし!」
「だったらキリキリ修行しろ! 俺は卒塔婆も書くんだからな。…くっそぉ、親父め、今年もドカンと押し付けやがって…」
柔道部の合宿もあるというのに、とキース君はブツブツと。お盆のための卒塔婆書きはキース君にとって夏休みの宿題みたいなものと化していました。お盆までに書き上げないといけない卒塔婆が数百本、いや千本なのかもしれません。
「ふうん…。キースは今年も卒塔婆書き、と。書き上がらなかったら欠席だねえ?」
夏休み前半のお出掛けは、と会長さんが揶揄えば、キース君は憤然と。
「誰が休むか! 卒塔婆はキッチリ予定さえ組めば期日に仕上がるものなんだからな! 親父が余計に押し付けて来ても、徹夜で書けばなんとかなる!」
「そう? だったら今年は何処へ行こうか…。誰か意見のある人は?」
「川下り!」
ジョミー君がサッと手を挙げました。
「こないだ、テレビで見たんだよ。筏下り!」
「「「筏下り!?」」」
なんだソレは、と派手に飛び交う『?』マーク。筏といえば木材を組んで川に流して運搬する手段だったと歴史で習ったことがあります。そんなの、何処かでやってるんですか?
「えーっと…。あれって何処だったっけ…。観光筏下りなんだけど」
ライフジャケットを着けて乗って行くのだ、とジョミー君は説明してくれました。
「でもって筏から落ちないように手すりもついてたりしてたんだけどさ…。筏って作れないのかな? ラフティングとかより面白そうだよ、ボートと違って船端が無いから」
筏の上を水が流れ放題、と言われてみればその通りかも。夏はやっぱり水遊びですし、筏下りも良さそうです。観光筏下りとなったらイマイチですけど、自分で作って下るんだったら…。
「うーん…。確かに面白そうではあるけど…」
どうなのかなぁ、と会長さん。考え込まずにゴーサインを出して下さいよ! 夏休みってヤツは遊んでなんぼ、筏も作ってなんぼじゃないかと…。



「筏下りもいいんだけどねえ…。なかなかにハードル高いよ、アレは」
素人には筏作りからして無理、と会長さんはバッサリです。
「君たちに木の伐採が出来るのかい? 仮に可能だったとしてもさ、そこから筏に加工するまでが大変で…。遊びの筏なら簡単だけれど、川下りとなったら色々と技が必要なんだ」
下手に作ると壊れてバラバラ、と会長さん。
「それに筏で川を下るには年単位で技術を磨かないとね。ジョミーが言ってる筏下りは技術を絶やさないために立ち上げられた観光筏下りだし」
「そうだったの?」
知らなかった、とジョミー君が目を丸くすれば、会長さんは。
「観光目的で復活させるのも難しかったと聞いてるよ。筏を船として登録するとか、航路を決めて届け出るとか…。ぼくたちが勝手に下るとなったらその辺の許可は絶対、下りない」
「なるほどな…」
それは分かる、とキース君。
「諦めろ、ジョミー。筏下りは観光コースに参加でいいだろうが」
「えーっ…。ブルーならなんとかなるんじゃないの?」
「そりゃね…。サイオンで技術を盗むくらいは可能だけどさ、筏下りを目撃されたら場合によっては悲劇だよ? シャングリラ学園に通報されてガッツリお説教を食らうとかね」
身元を特定されたら終わり、と会長さんが肩を竦めると、ジョミー君は。
「それってサイオンで誤魔化せるよね? シールドで姿を消せるんだもの、筏が下っているっていうのを目撃出来ないようにするとか」
「無茶を言わないでくれるかい? 確かにそういうことは可能だ。だけど遊びでそこまでサイオンを使いたくないし、観光筏で我慢したまえ」
お出掛けするならこの辺かな、と会長さんがカレンダーを示した時です。
「…ぼくが代わりに手伝おうか?」
「「「!!?」」」
紫のマントがフワリと翻り、ソルジャーが姿を現しました。
「夏休みの打ち合わせなんだって? ぶるぅ、ぼくの分のおやつもあるかな?」
「かみお~ん♪ ちょっと待っててねー!」
キッチンに駆けてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ソルジャーはソファにストンと腰を下ろしてしまい、すぐにアイスティーとメロンムースタルトのお皿が。
「うん、夏はやっぱりメロンだよねえ」
美味しいや、と頬張るソルジャーに、会長さんが。
「で、何しに来たって?」
「ん? ぼくで良ければ手伝おうか、って。ぼくはね、その気になればシャングリラだってシールド出来る。それも一日や二日じゃないよ? 筏ってヤツがどんなサイズかは読み取れちゃったし、誤魔化すくらいはなんでもないさ」
爆睡しててもシールド可能、とソルジャーは唇の端を吊り上げて。
「こっちの世界は本当に水が豊富だよねえ、まさに水の星、地球って感じだ。その地球で川を下れるだなんて面白そうだよ、混ぜてくれるならシールドするよ?」
「えっ、いいの!?」
ジョミー君がソルジャーの案に飛び付き、私たちも食い付いてしまいました。せっかくの筏下りです。観光筏よりも自前の筏で、でもって好きに下ってこそです~!



「…肝心の筏はどうするのさ?」
仏頂面で口を開いた会長さん。盛り上がっていた私たちはアッと息を飲んだのですけど、マツカ君がおずおずと控えめに。
「あのぅ…。筏だったら多分、作って貰えます。観光筏下りの村に父が幾らか出資してますし…。撮影用に使います、とでも言えば何とかなるんじゃないかと」
「いいじゃねえかよ!」
それでいこうぜ、とサム君が歓声を上げ、キース君が。
「そうだな、それなら俺たちが使った後の筏も有効活用して貰えるか…。観光筏にすればいいわけだしな」
「手すり無しのを作って貰おうよ、せっかくだから!」
ジョミー君もガッツポーズです。けれど、会長さんはまだ苦い顔で。
「筏下りをシールドで誤魔化すとしても、何処でやるわけ? 今は夏だし、大抵の川はカヤックとかラフティングとかで大人気だと思うけど?」
「そっかぁ…。何処か無いかな?」
川下りの穴場、とジョミー君が首を捻れば、またマツカ君が。
「…それなら心当たりがあります。ずーっと昔は筏流しをやっていたんだ、って父に聞いた川があるんです。観光資源が無い場所ですから、わざわざ下る人もいないかと…」
登山をする人が川沿いを歩いてゆく程度です、と提案された場所は文字通り山の中でした。集落が点在しているだけの、いわゆるド田舎。それだけにシールドも最低限の力で済みそうで…。
「いいね、その案! 筏も運んで貰えるのかな?」
ソルジャーの瞳が輝き、マツカ君は早速執事さんに電話をしていましたが…。
「大丈夫だそうです。出発地点までトラックで運んで貰って、下りた後も回収してくれます。長い距離を下って行くんだったら宿泊地点にキャンピングカーを回しましょうか、とも言っていました」
民宿も何も無い田舎なので、とマツカ君。キャンピングカーと聞いた男の子たちは俄然やる気で、そうなってくるとソルジャーの方も…。
「キャンピングカーと河原のテントでお泊まりかぁ…。これはハーレイも呼ばなくっちゃね」
「「「!!!」」」
そう来たか、と思った時には後の祭りで、ソルジャーはキャプテンを連れて来ることを前提に日程を仕切り始めました。大迷惑な展開ですけど、もう手遅れというものです。
「ハーレイには是非、筏を操って欲しいんだよね。急流を下って行くんだろう? 男らしく逞しい背中を見せて下ってなんぼ! シャングリラの舵を握る姿よりも遙かにカッコイイんじゃないかと…」
「「「………」」」
その後にはロクでもない光景が待っているに違いありません。お泊まり付きだけにバカップルな時間が炸裂、会長さんのレッドカードと「退場!」の叫びが聞こえるようで。
「そうだ、こっちのハーレイも呼んであげれば?」
「「「は?」」」
唐突なソルジャーの言葉に誰も事情が飲み込めません。教頭先生と筏下りがどう繋がると?
「せっかくの筏下りだし…。こっちのハーレイ、速い乗り物はダメなんだよねえ? 筏下りもダメじゃないかと思うんだけどな」
「…ダメだろうねえ…」
絶対に無理、と会長さんがフッと微笑んで。
「君たちばかりが楽しむというのも腹が立つ。ぼくもハーレイで遊ぶことにするよ、まず断りはしないだろうし」
ぼくと一緒に川下りとお泊まり、と会長さんは教頭先生にロックオン。筏下りは賑やかなことになりそうです。ソルジャー夫妻と教頭先生までが加わる川下りの旅、果たして何が起こりますやら…。



こうして始まった夏休み。間もなく柔道部三人組は夏合宿に出発しました。その前にマツカ君が筏の手配を済ませてくれて、私たちは完成品の引き渡しを待って乗るだけです。面倒な届け出なんかは会長さんがサイオンで関係者の意識に介入して誤魔化し、下る間はソルジャーにお任せ。
「とりあえず、撮影用だと思わせといたよ」
筏を川に浮かべるだけなら問題ないし、と会長さん。スウェナちゃんと私は会長さんのマンションで「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製冷麺の昼食タイム。ジョミー君とサム君はどうしたのかって? 二人とも柔道部の合宿中は璃慕恩院の夏休み修行体験ツアーに参加するのが恒例ですし…。
「出発地点と回収地点がズレているのも撮影目的なら変じゃないしね。現地での移動は地元の業者が請け負うっていうのもよくあることだし、誰も不思議に思っていないさ」
筏下りを知っているのは執事さんだけ、と会長さんは唇に人差し指を当ててみせて。
「筏下りの技術はバッチリ盗んで来たよ。これをサイオンでコピーさえすれば、ハーレイだって筏を流せる筈なんだけど…。まあ無理だろうね、ぶるぅと同じで」
「ぼくはスピード平気だもん!」
プウッと膨れる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「もっと身体が大きかったら筏くらいは流せるもん! ちっちゃすぎるから無理なんだもん…」
「ごめん、ごめん。ぶるぅはサイオンを使えば出来るんだったね」
「やってもいい?」
楽しそうだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」も筏を操るつもりです。スウェナちゃんと私は会長さんが盗んで来たという筏下りの技術とやらを一足お先にコピーして貰ったのですが…。
「…ちょっと無理っぽい?」
「ちょっとどころの騒ぎじゃないわよ、どうするのよ!」
力仕事よ、とスウェナちゃんが言うとおり、それは男の世界でした。後ろの方の筏に乗ってバランスを取るくらいは出来そうですけど、操るなんて夢のまた夢。
「ぼくが盗んだ知識の中にも女性の筏師はいなかったしねえ…。第一号でやってみたいなら補助するけどさ」
「「……遠慮します……」」
乗せて貰うだけで結構です、と私たちは謹んで辞退しました。小さな子供の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が颯爽と筏を操る姿を見てしまうことはあるかもですけど、私たちには絶対、無理~。



男の子たちが合宿と修行体験ツアーから戻るのを待ち、そこから数日、お疲れ休み。その間にキース君は卒塔婆をガシガシ書き上げたようで、筏下りに出発する朝、誰もが元気一杯で。
「悪いね、マツカ。往復のバスまでお世話になって」
「いえ、筏を手配するついでですから。今夜の宿も手配済みです」
筏下りの場所からは少し離れていますが、とマツカ君。目的地の川まではバスで数時間以上かかるため、朝に出掛けても早くて昼過ぎの到着です。その日の内に下り始めるより一泊してから、と意見が纏まり、今日は現地のホテル泊まりで。
「高原のホテルなんだって?」
楽しみだねえ、とソルジャーがキャプテンと手を握り合っています。それを羨ましそうに眺める教頭先生。会長さんの誘いにホイホイと乗っておいでになりましたけれど、バカップルに加えて筏下りではロクなことにはならないのでは…。
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!!!」
全員で乗り込んだ大型バスは、会長さんのマンションの駐車場を後にして一路筏下りの出来る山奥へと。幾つかのドライブインやサービスエリアを経て、その度にバカップルが御当地グルメを食べさせ合ったり、一個のソフトクリームを二人で舐めたり。
「…俺は頭痛がしてきたぞ」
なんとかしてくれ、とキース君が呻く横ではサム君が。
「あの二人だしなぁ…。今更どうにもならないんでねえの?」
「だよねえ…。それにさ、教頭先生、嬉しそうだし」
また見惚れてるよ、とジョミー君。教頭先生は涎が垂れそうな顔でバカップルの熱々っぷりを見詰めていました。頭の中では会長さんと自分の姿に変換されているのでしょう。そんな道中を経て、ようやく着いた山深い川の河原には…。
「やったぁ!」
手すり無しだぁ! とジョミー君が狂喜し、他の男の子たちも筏を前にワクワクしている様子です。八本の丸太で組まれた立派な筏が全部で八つ。繋ぎ合わせたら三十メートル以上になるらしく…。
「先頭の二つで操るんだよ」
技を知りたい人はこっち、と会長さんが差し出した手に男の子たちが次々とタッチ。ソルジャー夫妻もタッチしましたが、ソルジャーは単なる好奇心で手を出しただけなのだそうで。
「力仕事は昔からハーレイの担当なんだよ、ぼくはのんびり見てるだけ! 筏下りも乗せて貰うだけのつもりで来たけど、こっちのハーレイもそうらしいねえ?」
「…わ、私はスピードが苦手でして…」
転げ落ちないように乗るのが精一杯です、と教頭先生は汗びっしょり。夏の盛りですけど、此処って川風で涼しいですよ? それに標高も高いですし…。
「汗をかくほど暑いのかい? だったら明日に期待したまえ」
川の水は思い切り冷たい筈さ、と会長さん。水辺まで行って手を突っ込んでみて、「うん、やっぱり」と微笑んで。
「春の雪解け水って程じゃないけど、アルテメシアの川とは違うね。この水に足元を洗われながらの筏下りだ、滑ったら一気にドボンだから! それとも筏師の技を習ってバランスを取る?」
どうするんだい、と会長さんが手をひらひらと振り、教頭先生は慌ててその手を取ろうとしましたが…。
「残念でした。一対一で手を触らせるほど甘くないから!」
技のコピーはこれで充分、と会長さんの白い指先が教頭先生の額をピンッ! と弾いておしまい。教頭先生、最初に腰が引けたばかりに手に触れるチャンスも逃しましたか…。



筏師の技をマスターした男の子たちと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は河原に置かれた筏の上で夕方近くまで遊んでいました。右に曲がるならこう動いて、とか、九十度曲がるにはこうだ、とか。川の流れは一定ではないため、常にぶっつけ本番なのが筏師の世界というヤツです。
「キャンピングカーが待ってる所まで何時間で下っていけるかな?」
ジョミー君が夜のホテルで川下りの地図と睨めっこ。マツカ君が手配してくれたホテルはコテージが売りで、お蔭でバカップルとは夕食を最後に縁が切れ…。
「休みなしで下れば早いと思うよ、水量は充分あるようだしね」
水が少ないと大変だけど、と会長さん。筏が座礁してしまった時は筏をバラして組み直さなくてはならないケースもあるのです。それに比べたら一人や二人転げ落ちたのを回収しながら進んで行く方が余程早いというわけで。
「ハーレイが落ちた場合は拾わなくてもいいと思うよ、自力で泳いで来るだろうから」
「い、いや、そこまでは無理だと思うが…」
「あれっ、泳ぎは得意なんだろ? それともアレかい、激流の中では泳げないとか?」
情けないねえ、と会長さんは深い溜息。
「ぼくが落ちたら助けてくれると思ったんだけどな…。仕方ない、救助はブルーに頼んでおこう。でなきゃぶるぅだ、どっちもサイオンで拾ってくれるさ」
「かみお~ん♪ 簡単、簡単!」
「ありがとう、ぶるぅ。頼もしいねえ、小さくっても男ってね」
大好きだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頬っぺたにチュッとキスする会長さん。教頭先生はガックリ項垂れておられます。スピードもダメなら、会長さんの救助もダメ。筏下りでカッコイイ見せ場はどうやら一つも無さそうですねえ…。



翌朝、コテージから出てきたバカップルは昨日にも増してベタベタの熱々状態でした。ホテルでの朝食は「あ~ん♪」と仲良く食べさせ合いで、何かと言えば熱いキス。筏を置いてある場所まで移動するバスでは…。
「何さ、そんなに冷たい目で見なくても…。ちゃんと昨夜は控えめにしたし!」
「「「は?」」」
「筏下りは体力勝負っぽいからねえ? ハーレイを消耗させちゃダメだし、ぼくも体力をしっかり残しておかないと…。だから二人でゆっくり、じっくり! 一回だけっていうのも燃えるね」
ヌカロクの魅力も捨て難いけど、と胸を張るソルジャーと咳払いするキャプテンと。教頭先生は耳まで真っ赤で、会長さんは怒り心頭。
「退場! よくも朝っぱらからイチャイチャと…」
「お断りだね、ぼくは筏に乗りたいんだよ。それに退場させていいのかい? 君一人だと筏をシールドし続けるのは大変だろうねえ、やりたいんだったら止めないけどさ」
「…うっ……」
痛い所を突かれてしまった会長さん。ソルジャーの方はしてやったりと上機嫌になり、昨夜はシックスナインがどうとか意味不明な話を滔々と。6とか9とか言われましても、分からないものは仕方なく…。教頭先生が鼻血を噴いておられますから、大人の時間のことなのでしょう。
「それでね、今夜はテントらしいし、星空が見えると嬉しいなぁ…って」
独演会状態のソルジャーの台詞に、マツカ君が。
「天窓つきのテントを用意してあるそうですよ。山の中は夜空が綺麗ですから、お好みで天窓を開けて頂ければ…」
「本当かい? やったね、ハーレイ、今夜は星空の下でじっくりと! 筏の上しか無いのかなぁ、って思ってたけど、テントから出ずに済むみたいだし」
「「「???」」」
「あ、分からない? 星空の下でヤりたいなぁ、ってハーレイに話してみたんだよ。筏の上でもいいからさ、って。だけどハーレイは筏の上だと無理らしくって…」
シールドしてても気になるらしい、とソルジャーがチラリと視線を投げれば、キャプテンは大きな身体を縮めています。
「ぼくは見られてても平気なんだけど、ハーレイは見られていると意気消沈! だから筏の上っていうのはダメなんだよねえ、ロマンチックだと思ったのに…」
「そんな目的で筏下りに参加したわけ!?」
サッサと帰れ、と会長さんが激怒し、ソルジャーが「それじゃシールドは?」と切り返し…。筏下りは始める前から既に荒れ模様を呈していました。今夜のテントは天窓つき。星空の下で眠れそうですけど、ソルジャー夫妻が泊まるテントの近くには行かない方が良さそうですね…。



河原に着くと男の子たちが筏をガッチリ繋ぎ合わせて、ソルジャーがサイオンでヒョイと浮かべて川の上へと。いよいよ筏下りです。ライフジャケットを着けて順番に乗り込み、最初の筏師は先頭がジョミー君で会長さんが二番手で補助を。
「…いいかい、落ち着いて漕ぐんだよ? 櫂が流れてもスペアはあるから」
「うん! 好きなだけ乗ってっていいのかな?」
「それはお勧め出来ないねえ…。他のみんなもやりたいだろうし、体力配分の問題もあるし」
適当な所で選手交代、と会長さんが次の漕ぎ手を募集し、キース君が名乗りを上げました。筏師の技は全員が持っているわけですから、次の二番手はその場のノリということで…。
「それじゃ、出発!」
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!」
筏を岸に結び付けていたロープを会長さんのサイオンがスパッと切り離し、ジョミー君がグイと櫂という名の木の竿を押して、八連の筏は川の中央へと。静かな流れに見えていましたが、なんと、けっこう速いです。えーっと、教頭先生は…。
「ふふ、こっちのハーレイはやっぱりダメかな?」
「そのようですねえ…」
四つ目の筏の上でイチャついているバカップル。視線の先には最後尾の筏でオロオロしている教頭先生が。隣には「そるじゃぁ・ぶるぅ」が乗っかっています。
「えとえと、ハーレイ、大丈夫? まだ速くなると思うんだけど…」
「わ、分かっている。…バランスを取るのが大切だったな」
転げ落ちないように頑張ろう、と拳を握る教頭先生は筏師の技を持っておいでの筈なのですが…。大丈夫かな、と二つ前の筏のスウェナちゃんと私が心配していたとおり、それから間もなく。
「あーーーっ!!!」
バッシャーン! と派手な水音が響き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の叫び声が。
「大変、ハーレイ、落っこちちゃったぁ~!」
「自力で上がれって言っといて!」
いいトコなんだ、と返す会長さんはジョミー君と二人で急な段差を流れ下っている真っ最中で。
「おい、いいのか!?」
急流だぞ、とキース君が声を上げれば「だから、後で!」と会長さん。前を見てみれば次の段差が迫っていますし、その向こうには岩までが。こんな所で筏を止めることは出来ません。筏師の技でも乗ってゆくのが精一杯で、救助に回る余裕など無く…。
「なんだかピンチみたいだねえ?」
どうしよう? とソルジャーが尋ね、キャプテンが。
「落ちたのがあなたでなくて良かったです。大丈夫ですよ、しっかり支えていますから」
「ありがとう、ハーレイ…」
嬉しいよ、と固く抱き合うバカップル。この激流でもそんな余裕があるというのが凄いです。筏師の技もさることながら、日頃SD体制がどうのと言っているだけのことはあり…。
「ぼくとしては、お前さえいれば充分だけど…。こっちのハーレイが報われないまま昇天したんじゃ、なんだか後味が悪いしねえ?」
一応救助しておこう、とソルジャーのサイオンがキラリと光って、バカップルの足元に教頭先生の身体がドサリと。ライフジャケットを着けておられたとはいえ、激しく咳き込んでおられます。
「…なんだ、助けたのはぶるぅじゃないんだ?」
会長さんがチラッと振り返り、ただそれだけ。筏下りに夢中になっているようです。急流の第一弾を乗り切った後に漕ぎ手交代、会長さんもサム君と交代して後ろにやって来ましたが。
「…邪魔なんだよねえ、落っこちるような筏師ってさ」
こうしておくのが一番だ、とロープを取り出した会長さんは、教頭先生をバカップルの筏に仰向けにギッチリ縛り付け…。
「熱々の二人が見られて丁度いいだろ? ついでにしょっちゅう水を被るし、頭も冷えていい感じだよね」
ぼくは後ろでぶるぅとのんびり、と最後尾へと行ってしまった会長さん。教頭先生は苦手なスピードに絶叫しながら流れ下る羽目になったのでした…。



筏下りは途中で何度か一休み。立ちっぱなしでの川下りですし、休憩タイムは必要です。最後尾の筏に積み込んであったジュースやお菓子、お弁当などを食べつつ休んで、下って、また休んで。午後二時頃にテントが張られた河原に辿り着きました。
「だいたい予定どおりだね、うん」
一人しか転げ落ちなかったし、と会長さんが教頭先生を縛ったロープを解く間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキャンピングカーの内部をチェック。早速、ベリーたっぷりのサマープディングと淹れたての紅茶でティータイムです。河原に据えたテーブルと椅子で、会長さんはゆったりと。
「命拾いをしたよね、ハーレイ? あのまま泳いでついて来るかと思ったのにさ」
「…そ、それは…」
「ブルーに御礼を言ったかい? それどころではなかったのかな?」
「…い、いや……」
しどろもどろの教頭先生の姿に、ソルジャーが。
「ふふふ、ぼくたちが聞く耳持たなかったし……ねえ? 掴まる所も無い筏の上ってスリリングだしさ、抱き合うだけでも身体が熱くなるって感じ! もうキスだけでイッちゃいそうで…。今夜は早めに失礼しようと思ってる。…ねえ、ハーレイ?」
「ええ、星空の下で二人きり…ですね」
早くあなたが欲しいですよ、と熱く囁くキャプテン。そういえば筏だか天窓だかがどうこうと…。テントには開閉式の大きな天窓がついてますから、バカップルは今夜はお籠りでしょう。教頭先生はバカップルをボーッと眺めてますし…。
「やれやれ、そんなに気になるんだったら今夜は混ぜて貰ったら? ブルーはきっと断らないよ」
会長さんの言葉を受けて、ソルジャーが。
「えっ、ハーレイも来るのかい? ぼくは勿論、大歓迎さ。ただ、明日も筏下りが待ってるからねえ、あまり激しいプレイは無理かな…。三人となると歯止めが利かなくなりそうだから、タイマーつきで良かったら」
「「「タイマー?」」」
なんのこっちゃ、と私たちの目がキョトンと見開かれ、ソルジャーはクスクスおかしそうに。
「そう、タイマー。時間を決めてヤるんだったら、少々激しくなったって……ね。盛り上がっていてもアラームが鳴れば一気に萎えて終わりだし!」
ぼくのハーレイも、こっちのハーレイも…、と赤い瞳で上から下まで舐めるように見られたキャプテンと教頭先生、思い切り顔が赤いです。バカップルのテントには近付かないのが吉であろう、と私たちが悟った瞬間でした。
「あれ? どうしたのさ、みんな、変な顔して?」
「君子危うきに近寄らずだよ!」
会長さんがビシッと言ってのけ、ソルジャー夫妻のためのテントは一番端ということに。そのお隣が教頭先生、いわゆる緩衝地帯です。テントが決まるとドッと眠気が。夕食まではお昼寝タイムで、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に起こされるまでグッスリで…。
「かみお~ん♪ 御飯の支度、出来たよ~!」
豪華鉄板焼きだもん、と河原のテーブルに大きな鉄板。お肉や魚介類がキャンピングカーから運び出されて、好みでジュウジュウ。締めはスタミナたっぷりガーリックライス。
「良かったねえ、ハーレイ。これでエネルギーはバッチリってね」
「星空も見事ですからねえ…。あ、よろしかったら、是非、いらして下さい。ブルーがお待ちしているそうです」
タイマー付きでよろしければ、と教頭先生に声を掛けたキャプテンは食事が終わると早々にテントに引き揚げてゆきました。教頭先生はまたも鼻血で、会長さんの視線は氷点下。早く寝ないとヤバそうです。明日に備えて、おやすみなさい~!



筏下り二日目、バカップルは朝から絶好調。キャンピングカーのキッチンで「そるじゃぁ・ぶるぅ」が焼いたパンケーキなどが並んだ河原のテーブル、「あ~ん♪」と二人の食べさせ合いが…。その一方で教頭先生、寝不足気味のようでして。
「かみお~ん♪ ハーレイ、疲れちゃったの?」
「シッ、ぶるぅ! 知られたくない事実ってヤツもあるんだよ」
だから放っておくといい、と会長さん。ま、まさか、昨夜はタイマーつきの時間とやらが…? サーッと青ざめる私たちに気付いた会長さんは大慌てで。
「ち、違う、違うよ、違うんだってば! ハーレイは単に隣のテントが気になって寝られなかったってだけで!」
「そうらしいねえ…」
悪いことをしちゃったかな、と詫びるソルジャー。
「君が来るかと思ってたけど来ないようだし、独り者には耳の毒かとテントをシールドしてたわけ。ごめん、声くらいは聞かせてあげるべきだった」
「…い、いえ、私は、決してそんな…!」
「ダメダメ、身体は正直だってば。寝不足なのがその証拠だよ」
筏から落ちないように注意したまえ、とソルジャーが笑い、会長さんも厳しく注意。教頭先生はソルジャー夫妻と同じ筏に正座の姿勢でガッチリ縛られ、また川下りがスタートです。今日は筏の回収地点まで下って行って、夜は豪華なリゾートホテルにお泊まりの予定。
「温泉だってさ、楽しみだよねえ」
「部屋つき露天風呂もあるそうですね」
イチャイチャ、ベタベタのバカップル。男の子たちは交代で筏の漕ぎ手を務め、急流を次々に乗り越えて行きます。やがてソルジャーがボソッと一言。
「ハーレイ、お前も漕いでみないかい? お前がやったら男らしいと思うんだ。…実は最初からそのつもりでさ…。昨日はこっちのハーレイが転げ落ちちゃって、それどころでは無かったし…」
「わ、私が……ですか?」
「うん。シャングリラの舵を握るより、絶対、似合うと思うんだよね」
やってみてよ、と熱い瞳で見詰められたキャプテン、暫し、考えていましたが。
「…分かりました、やってみましょう。文字通りあなたの命を預かるというわけですね」
振り落とさないよう頑張ります、とジョミー君と漕ぎ手を交代したキャプテンは、キース君を二番手に従えて見事に筏を漕ぎ始めました。体格が一番立派なだけに、誰よりも安定の漕ぎっぷり。それは見事としか言いようがなく…。



「…凄いね、あっちのハーレイは」
会長さんが正座で縛られた教頭先生の隣に、いつの間にやら立っていて。
「ブルーの命を預かるだけあって頑張ってるよ。…ブルーが惚れるのも分かる気がする」
「あっ、君も少しは分かってくれた? 今は筏だけど、シャングリラでも似たような気分になるんだよ。でも見た目では筏の方が断然上だね、男らしさが増すって感じ!」
あの筋肉が堪らないや、とソルジャーは惚れぼれとしています。会長さんは教頭先生の背中を軽く蹴飛ばし、鼻を鳴らして。
「同じハーレイでこうも違うと言うのがねえ…。片や筏を漕いでも凄腕、君は筏からも落ちるヘタレで、どうにもこうにも…。ぼくの命を預かろうとか思わないわけ? 筏師の技は伝授したのに?」
ちょっとは漕ごうと姿勢だけでも示してみたら、と会長さんの嫌味がネチネチと。ソルジャーも横から面白そうに。
「だよね、気持ちは黙っていたんじゃ伝わらない。ぼくのハーレイに二番手で補助をして貰ってさ、ここは一発、男らしさをアピールすべき! キャプテンたる者、どんな難所も乗り切ってなんぼ!」
行って来い、と二人がかりで発破をかけられた教頭先生、ついに決意をしたらしく。
「…分かった。私も男だ、逃げていたのではお前を嫁にも貰えないしな」
「その調子! ドンと構えて乗り切るんだよ、君なら出来るさ」
頑張って、とロープを解かれて送り出された教頭先生はキャプテンと漕ぎ手を交代しました。一漕ぎ、二漕ぎ、次で曲がって…。
「「「わーーーっ!!!」」」
ドーン! と急な段差を滑り落ち、水飛沫が筏を洗い流して………目を開いたら教頭先生の姿が何処にもありません。二番手だったキャプテンが先頭に走り、二番手の位置にジョミー君が駆け込んで。
「きょ、教頭先生は!?」
「分からん、ぶるぅ、後ろはどうだ!?」
早く探せ、とキース君が絶叫しています。次の段差が迫っていますし、このままじゃあ…。ん?
「ふん、馬鹿は死ななきゃ治らない、ってね」
「…こうなると最初から知ってて交代させたわけ?」
で、ハーレイは? とソルジャーが訊けば、会長さんは。
「お花畑に送ってやったさ、今夜の宿のリゾートホテル! ぼくたちが着くまで庭の花壇のド真ん中から移動出来ずにシールドの中。本人はきっと死んだと思って焦るだろうね」
動けない上に花畑だし、と会長さんは高笑い。男の子たちと「そるじゃぁ・ぶるぅ」、それにキャプテンはそうとも知らずに筏の上で大騒ぎです。聞いてしまったスウェナちゃんと私はこれからどうするべきでしょう? お花畑の教頭先生、お迎えが行くまで三途の川でお待ち下さぁ~い!




       波乱な川下り・了


※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 今月はアニテラでのソルジャー・ブルーの祥月命日、7月28日が巡って来ます。
 ハレブル転生ネタを始めましたし、追悼も何もあったものではないのですが…。
 節目ということで、7月は 「第1&第3月曜」 の月2更新に致しました。
 8月は 「第3月曜」 8月18日の更新となります、よろしくお願いいたします。

 7月28日には 『ハレブル別館』 に転生ネタを1話、UPする予定でございます。
 「ここのブルーは青い地球に生まれ変わったんだよね」と思って頂ければ幸いです。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv


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 こちらでの場外編、7月はお中元の季節。とんでもない人からお中元が…?
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