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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

無人島の戦い

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv





毎度お馴染み、元老寺での除夜の鐘イベントで明けた新年。アルテメシア大神宮への初詣も終えて残る冬休みを満喫中の私たちは、会長さんのマンションに来ていました。正月寒波の真っ最中でも中はぬくぬく、美味しいお菓子なんかも沢山あります。
「かみお~ん♪ 今夜は餃子鍋だよ!」
寒い季節はお鍋が一番だもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。餃子鍋とは楽しみです。豚肉入りやら海老餃子やらと何種類もの餃子が入るお鍋はお出汁も特製。締めは雑炊にして良し、ラーメンも良し。出来れば両方食べたいな、などとジョミー君たちが騒いでいたり…。
「両方食べるの? じゃあ、雑炊のお鍋とラーメンのお鍋と、両方だね!」
お出汁を取り分けておいても具を入れて煮込まないと味に深みが出ないから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はウキウキと。どうせ複数のお鍋で煮るわけですし、これは両方食べなくちゃ! 先に雑炊かな、それともラーメン? どっちにしよう、と食べる前から頭を悩ませていると。
「…ラーメンかぁ……。いいかもね」
会長さんが紅茶のカップを傾けながら口にしました。夕食の時間にはまだ早いものの、窓の外はもう暗くなってきています。
「今の季節は日が短くて気温も低い。ラーメン向きの季節かも…」
「そうか? まあ、真夏ならラーメンよりも冷麺だがな」
真逆の冬ならラーメンか、とキース君が言えば、シロエ君が。
「移動のラーメン屋台も冬が多いですよ。たまに夜食に食べるんです」
機械いじりの息抜きに、と話すシロエ君は毎年、三学期になれば大役が。卒業式に合わせて変身させる校長先生の像の仮装の制作です。衣装をまるっと作る年とか、「そるじゃぁ・ぶるぅ」との共作とか。どちらにしても機械仕掛けは外せません。
「チャルメラの音が聞こえてきたら、ついつい食べたくなりますよね」
「…俺は食わせて貰えないんだが……」
ガキの頃からダメだったんだ、と嘆くキース君の肩をサム君がバンッ! と。
「仕方ねえよな、お寺じゃなあ…。あれだけデカイ山門なんだし、買いに出てったら目立つしよ」
「…俺も分かってはいるんだが…。同じラーメンなら、ぶるぅの方が美味いってこともな」
分かっていても憧れる、と移動ラーメン屋台への夢を語るキース君の姿に、会長さんが。
「うんうん、ラーメンはロマンだよねえ? だからやっぱり、冬はラーメン!」
これぞ男のロマンなんだ、とか言い出しましたが、会長さんは餃子鍋の締めはラーメンですか? 雑炊は要らないというわけでしょうか、そこまでラーメン好きだったかなぁ?



とっぷりと日が暮れ、夜空から白いものが舞う中、暖かいお部屋で餃子鍋。キース君のチャルメラへの憧れも、会長さんのラーメン発言も誰もが忘れて「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製のお出汁に色々な餃子を次々と。フカヒレ餃子なんてゴージャスなのも…。グツグツ煮立ってきた頃合いで。
「「「いっただっきまーす!!!」」」
さあ食べるぞ、と男の子たちは大量に掬い、スウェナちゃんと私も遠慮なく。締めにラーメンか雑炊かなんて、餃子の前には吹っ飛びます。もう入らない、と思うくらいに食べまくっても、締めはやっぱり別腹だったり…。
「えとえと、こっちとあっちがラーメンで…。これとこれとが雑炊だね!」
おもてなし大好き「そるじゃぁ・ぶるぅ」が用意してくれ、いい感じにラーメンと雑炊が。そこで雑炊を器に掬った会長さんに、キース君の突っ込みが入りました。
「おい、ラーメンだとか言ってなかったか? それとも雑炊が先で締めにラーメンか?」
「え、どっちでもいいんだけれど…。そういえばすっかり忘れていたよ」
ぼくとしたことが、と苦笑いする会長さんの姿に不吉な予感が。会長さんの「忘れていた」は相当な高確率でロクでもないことが多いのです。ラーメン絡みでまた何か…?
「なにさ、みんなでジロジロと…。ラーメンとくればサバイバルだろ」
「「「は?」」」
なんですか、それは? 何故にラーメンでサバイバル?
「そうか、君たちは知らないかもね。とある有名食品会社の幹部候補生の研修がサバイバルなんだよ、チキンラーメンくらいしか持って行けない」
「「「チキンラーメン?」」」
そんな話は初耳でした。他にも僅かな水と小麦粉、釣り針と糸にビニールシートが貰えるらしいですけど、たったそれだけ。しかも研修期間は三日。
「これが一時期、話題を集めていたんだな。思い出したからには是非やってみたい」
「そんな趣味、無いし!」
お断りだよ、とジョミー君が即答すればキース君も。
「同感だ。それにサバイバルには冬は向かんぞ、坊主の修行なら話はともかく」
あっちは寒行もあることだし、とのキース君の言葉にコクコク頷く男の子たち。こんな季節にサバイバルだなんて、やりたいのなら一人で出掛けて下さいよ~!



恐ろしげな提案を回避するべく、私たちはラーメンと雑炊に集中しました。しかし会長さんは思い付いたら一直線が売り物というか、お約束。
「なるほど、寒行ってのもあったっけ…。ちょうどピッタリのシーズンかな? 三日間なら成人の日の三連休がすぐそこだしね」
「俺たちは断ると言っただろうが!」
一人で行け、とキース君が突き放したのに、「そう言わずに」と会長さん。
「君たちもきっと行きたくなるよ。…サバイバルをするのはハーレイだしさ」
「「「…えっ?」」」
「だから、ハーレイ! 君たちの仕事は監視役兼ギャラリーってことで」
もちろん食事は食べ放題、と言われれば話は別物です。おまけにテントどころか組み立て式のログハウスで暮らせると聞くと、俄然、興味が。
「…そっか、ぼくたちは普通にキャンプと思えばいいんだ?」
面白そう、とジョミー君が食い付き、シロエ君が。
「でも、なんで教頭先生なんです?」
「面白いからに決まってるだろう? ぼくにぞっこんの男だよ? サバイバルに耐えられればコレ、と適当な御褒美を出せばホイホイ来るって!」
おめでたい馬鹿を釣ってみせる、と会長さんの指がパチンと鳴ると、餃子鍋の匂いが立ちこめるダイニングに私服の教頭先生が立っていました。
「…な、なんだ? ブルー、私に何か用か?」
「用ってほどでもないんだけれど…。せっかく来たんだし、食べて行ってよ」
あまり残ってないんだけどね、と会長さんが手ずから器に入れて渡したラーメンに教頭先生は大感激。一人きりの夕食よりも遙かに美味い、とガツガツかき込んでおられます。
「ふふ、美味しい? 君に提案が一つあってさ…。それをこなしたら、孤独な食卓に花を添えてあげてもいいかなぁ…って」
「……花? 花束でもプレゼントしてくれるのか?」
「違うよ、花の名前はブルー。…ぼくが一緒に夕食を食べてあげてもいいかな、と思ったわけ。そこで素敵なムードになったら、もっといいことが起こるかも…」
君と二人きりの夕食なんだ、と切り出した会長さんに、教頭先生は耳まで真っ赤に。元から夢と妄想の世界に浸りっぱなしの教頭先生、サバイバルが条件と聞いても全く動じることもなく。
「分かった、やればいいのだな? 三連休には予定も無いしな」
「本当かい? じゃあ、決まりだね」
サバイバルの栞を作ってお届けするよ、と会長さんがニッコリと。一本釣りされた教頭先生は歓喜の内に瞬間移動で送り返され、サバイバルが決定したのでした…。



翌日から会長さんは教頭先生のサバイバルに向けて準備を始め、まずはサバイバルをする場所の選定から。
「王道は無人島だと思うんだ。候補は幾つもあるんだけども、ぼくとしてはサルが欠かせない」
「「「サル?」」」
何故に、と首を捻る私たち。サバイバルにサルって……大事な食料でも盗まれるとか?
「違う、違う。食料を盗んだりはされないようにキチンと対処しておくさ」
山から下りてこないように、と会長さん。サイオンでシールドを張るのだそうです。
「…そこまでするのにサルが要るとは、どういうわけだ?」
脅しなのか、とキース君が尋ねました。
「チラリと姿が見えるだけでも脅威だろうしな、サバイバル中は。食料を盗られる恐れがある上、寝場所も荒らされるかもしれないし…」
「脅しと言えば脅しかなぁ? サバイバルの華はヒャッハーだから」
「「「…ヒャッハー?」」」
なんのこっちゃ、と派手に飛び交う『?』マーク。チキンラーメンなサバイバル研修も初耳でしたが、ヒャッハーの方も初耳です。サバイバルの世界って深いのだなぁ、と思っていれば。
「ヒャッハーも通じないなんて…。昔ね、とても流行った拳法漫画があったわけ。「お前は既に死んでいる」って決め台詞で一世を風靡したけど、ヒャッハーは其処に出て来るんだな」
「「「………???」」」
「モヒカン刈りとかの悪漢だよ。大勢で群れて主人公に襲いかかる時の威勢のいい掛け声がヒャッハーだったのさ。それが転じて、そういう凶悪な集団のことをヒャッハーとね」
「それがサバイバルにどう関係すると?」
分からんぞ、というキース君に私たちも揃って「うん、うん」と。サバイバルに凶悪な集団なんて必要ないと思うんですけど…。
「普通は関係しないと思う。ヒャッハーなんか無人島にはまず居ないから」
だけど居ないと面白みに欠ける、と会長さんは悪魔の微笑み。
「サバイバルだと決めた以上は情報集めが必須だろう? そして見付けた。三日間のサバイバルだけなんて生ぬるい、って意見をね。最終日にヒャッハーを投入します、と予告しておいて対策を練らせるくらいのことはしないと、と言われてみれば納得だよ」
ゆえにサルの軍団が山を出るのは最終日、とニッコリ笑う会長さん。
「ヒャッハーなサルの大群が出ないと面白くない。…というわけで、行くなら此処かな」
行きと帰りは瞬間移動でいいだろう、と会長さんが選んだ島は、その昔、キース君が卒業旅行でお遍路の旅に出掛けたソレイドの北に沢山散らばる無人島の一つ。温暖な気候が売りの地方ですし、そこなら真冬でも大丈夫かな?



新学期が始まり、恒例の闇鍋に紅白縞のお届け物に…、と忙しい週の終わりが三連休。会長さんは栞を仕上げて教頭先生の家のポストに放り込み、いよいよ明日は出発だという金曜の放課後になったのですけど。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
サバイバルの前はオーブンを使ったおやつだよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がふんわり膨らんだオレンジ風味のスフレを熱々で出してくれました。私たちが泊まるログハウスにもキッチンはあるそうですが、流石にオーブンまでは無く…。
「オーブンを使ったお料理するなら、瞬間移動で持ち込みかなぁ?」
家で作って運んでもいいよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」もサバイバルを楽しみにしています。チキンラーメンと小麦粉で生きる教頭先生にコッソリ差し入れな計画なんかも。
「ブルーがね、ハーレイが匂いだけで釣れそうな料理もいいかもね…って!」
「しかしだ、もれなく狙撃だったな?」
水鉄砲で、とキース君。
「明日から寒波の予報だぞ。水鉄砲を食らうと分かっていても教頭先生がおいでになるか?」
「ふふ、そこはハーレイだけに無いとは言えない」
見付からなければ差し入れゲット、と会長さん。
「栞には差し入れはぼくの手料理だから、と嘘八百を書いておいたし、絶対に来ると踏んでるけれど?」
「……あんた、鬼だな……」
「そうかなぁ? 最終日のサルの軍団の方がよっぽど怖いと思うけどねえ?」
何の対策も出来なかったらスッポンポン、と会長さんはニヤニヤニヤ。なんでもサルには教頭先生が服の中に餌を隠し持っている、との偽の情報を与えるらしいのです。
「サル相手には細かい暗示は利かないからねえ、とにかく服の中とだけ! 服も下着もサルにしてみれば同列だから、捕まったら最後、紅白縞まで引き裂かれるかと…。ハーレイは単にサルが襲ってくるとしか知らないわけだし、どういう策を取るんだろうね?」
餌を撒いても回避不可能、と楽しそうな会長さんですが…。
「…ハーレイがサバイバルだって?」
「「「!!?」」」
いいねえ、という声が聞こえて優雅に翻る紫のマント。来ちゃいましたよ、ソルジャーが! ニューイヤーのイベントが一段落して暇になりましたか、そうですか…。



スフレを追加で焼いて貰ったソルジャーはソファに腰掛けてスプーンでモグモグ。至極ご機嫌な様子です。
「サバイバルもいいけど、スフレもいいね。…これが暫く食べられないって?」
「えとえと…。みんなが食べたいって言うんだったら家で作るよ!」
そして瞬間移動でお届け、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が得意そうに答えると、ソルジャーは。
「スフレは別に要らないかな? だけど三度の食事は欲しいね」
「「「は?」」」
いきなり何を言い出すのだ、とソルジャーの顔を見詰めれば。
「ぼくは料理は全くダメだし、ハーレイも上手いとは言い難い。だから届けて貰えると…。届けるのが面倒だったら同居でいいけど」
「「「同居?!?」」」
「うん。君たちが暮らすログハウスにさ」
部屋数はそこそこあるんだろう、との指摘は間違いではありませんでした。快適な無人島ライフを目指す会長さんはバスルームまでついたログハウスを用意しているのです。平屋とはいえ一戸建ての小さな家くらいのサイズは充分にあって。
「一部屋くれれば、ぼくとハーレイはそこに住むから! それが嫌なら食事の宅配サービスを…ね。ぼくとハーレイが住むログハウスのアテはちゃんとあるんだ」
ノルディに買って貰ったよ、とパチンとウインクするソルジャーに、ウッと仰け反る会長さん。
「き、君も来るわけ? …サバイバルに?」
「サバイバルは遠慮しておくよ。無人島での別荘ライフと、こっちのハーレイの努力を見物」
なかなかに楽しそうだったから、と語るソルジャーは早い段階で目を付けていたものと思われます。エロドクターにログハウスを買わせているのですから、下準備はもうバッチリで…。
「行ってもいいだろ、ぼくたちも? 特別休暇は申請したし、ハーレイは明日の出発に備えて大車輪で仕事を片付け中! ここは是非ともお邪魔したいね」
「………嫌だと言っても押し掛けるくせに…」
いつもそうだ、と呻く会長さんに、ソルジャーは「分かっているならいいんだよ」と満足げ。
「で、ぼくたちは一部屋貰って同居? それとも隣にログハウスを建てて食事を宅配?」
「宅配コースに決まってるだろう!」
誰がバカップルと同居するか、と会長さんがブチ切れました。ソルジャーは「ありがとう」と口先だけの御礼を言うと。
「君がハーレイに渡した栞に、ぼくたちのことは書いてないよね? 食事を恵んであげてもいいかな、可哀相だと思った時は?」
「……好きにすれば?」
どうとでもなれ、とヤケクソ気味の会長さん。ヒャッハーなサルの軍団も問題ですけど、ソルジャー夫妻が乱入となると、教頭先生のサバイバル生活は厳しさを増すか甘くなるのか、どっちでしょうねえ…?



翌日までに会長さんはログハウスを設置したようです。そのお隣にはソルジャー夫妻のログハウスが建っているのだとか。出発の日の朝、会長さんの家に集合した私たちとソルジャー夫妻がリビングで待つ内に玄関のチャイムがピンポーン♪ と。
「かみお~ん♪ ハーレイが来たよ!」
出迎えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が足取りも軽く跳ねて来て、その後ろから防寒用のウェアを着込んだ教頭先生がやって来ました。
「おはよう、今日から頑張らねばな。…おや、あなた方もおいでになったのですか?」
ソルジャー夫妻に驚く教頭先生に、キャプテンが。
「ブルーが是非行きたいと言い出しまして…。私は正直、見物などという悪趣味なことはあまり好みではないのですが…」
「ダメだろ、ハーレイ、それを言っちゃあ」
こっちのハーレイは頑張るんだからね、とソルジャーが窘め、ニコニコと。
「君が持ってるサバイバルの栞にぼくたちは載っていないんだって? そこを大いに活用してくれていいからね。いざとなれば食事も分けてあげるし、寝る場所だって提供するよ」
「…はあ…。お気持ちは有難く頂きますが、それはサバイバルとは言わないのでは?」
大真面目に返した教頭先生に、ソルジャーは。
「えっ、それでも充分サバイバルだろ? そこにある物を最大限に活用してこそ生き残れる。ぼくたちに取り入るっていうのも技術の内だよ、なかなかに難しいからねえ…」
「そうなのですか?」
「うん。ぼくたちは特別休暇を取って来たんだ。つまり三日間、自由なわけ。おまけに地球の無人島だよ、満喫しなくちゃ損だろう? 取り込み中の時も多いし、ドアを叩くのは度胸が要るかと」
「…と、取り込み中……」
教頭先生の鼻からツツーッと赤い筋が垂れ、それを見たソルジャーは艶やかな笑み。
「あ、ちゃんと分かってくれたんだ? そういうわけでね、取り込み中だとノックされても出られない。その代わり鍵は開けておくから、勝手に入って来てくれていいよ」
食料でも寝場所でもお好きにどうぞ、とソルジャーが言えば、キャプテンも。
「ええ、どうぞご自分の家のおつもりで。…ただ、私は見られていると分かってしまうとダメな性分ですからねえ…。その辺をよろしくお願いします。ブルーがキレたらおしまいですので」
「そう! そこが取り入るためのコツ! ぼくのハーレイを萎えさせないよう、ぼくの怒りを買わないよう……って所かな。そこを押さえればサバイバルはうんと楽になるかと」
美味しい食事と寝床つきだよ、とソルジャーは誘ってますけれど…。教頭先生、ソルジャー夫妻から食料とかをゲットですか? えーっと、取り込み中っていうのは多分、大人の時間のことなんですよね…?



こうして会長さんと二人きりでの夕食を目指す教頭先生のサバイバル生活が始まることになりました。無人島へと瞬間移動する前に会長さんが教頭先生の荷物を取り上げ、柔道部三人組に服のポケットの中まで調べさせた後、キチンラーメン三食分と水などが入った袋を渡して準備完了。
「かみお~ん♪ しゅっぱあ~つ!!」
パアァッとタイプ・ブルーの三人の青いサイオンが迸り、降り立った場所は海辺の砂浜。夏だったらさぞかし綺麗なのでしょうが、冬の最中でおまけに寒波襲来中。海は時化気味で空は鉛色、海の色もくすんでしまっています。
「さて、ハーレイ。今日からこの島で三日間だよ」
何処に住むのも君の自由、と会長さん。
「ただし山にはサルがいるから、住まいは海辺がお勧めかな。そして栞に書いておいたとおり、サルは最終日に山から下りる。襲われないよう策を講じておくんだね」
それじゃ、と会長さんは軽く手を振って。
「グッドラック、ハーレイ。…ぼくの手料理も是非食べに来てよ?」
狙撃されても構わないなら、と言われた教頭先生はグッと拳を握りました。
「もちろん頑張って食べに行く! なんとしても御馳走にならねばな」
「はい、はい。じゃあね」
行こうか、と促された私たちは教頭先生を砂浜に残して林の奥へと。枯れ草が広がる小さな草原があって、そこに立派なログハウスが二軒並んで建っています。大きな方が会長さんので、こじんまりとしたのがソルジャー夫妻のログハウス。
「うわー、けっこう本格的だね!」
ジョミー君が歓声を上げ、私たちは早速ログハウスの中をチェックして…。リビングの他に寝室が4つ、ちゃんとベッドも設置済み。バスルームもゆったりと足を伸ばせるサイズのバスタブが。
「いいだろう? ハーレイとは三日間、差をつけなくちゃ」
お隣さんも似たようなもの、と会長さんに言われましたが、見学会に出掛ける度胸は誰も持ち合わせていませんでした。ソルジャー曰く、お取り込み中が多い特別休暇。私たちと別れてログハウスの中に入った途端に大人の時間に突入している恐れ大です。
「あいつらの方は見て見ぬふりだな」
既に危ない雰囲気が、とキース君が指差す窓の向こうには全部のカーテンがピッチリ閉められたソルジャー夫妻のログハウス。あんな家より、断然、教頭先生です。サバイバルの模様、キッチリ見させて頂きますよ~!



サバイバル生活の成否を握る飲み水の確保。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が交代で見せてくれる中継画面の向こうで教頭先生は水場を求めてウロウロと。ようやく見付けた湧き水は塩味がしたらしく、更に彷徨って小川を発見。しかし…。
「飲用可能な水かどうかが謎だからねえ…」
山の中にはサルもいるし、と会長さん。安全な水を飲みたかったら沸かすしか道が無いのですけど、沸かすためには火が必要。ライターもマッチも持っていない教頭先生、空を仰いで深い溜息。
「…どうして太陽が出ていないのだ……」
冬の日差しでも使えるのに、と袋から出て来た飲料水入りのペットボトル。お水だったら、そのまま飲めばいいんじゃあ?
「一応、知識は仕入れて来たか…」
この天気では使えないけど、と会長さんがニンマリと。知識って……なに?
「水が入ったペットボトルが一本あればね、太陽さえ出れば火は楽勝。虫眼鏡で紙とかに火が点くだろう? あの要領で点火オッケー!」
でも曇りでは話にならない、と聞いて教頭先生が気の毒になってしまいました。ただでも寒いのに火も点けられず、飲み水を沸かす術も無し。歩き回ってお腹が空いたのか、ビニールシートを地面に敷いてチキンラーメンを齧っておられます。お湯は無いですから、そのままで…。
「ふふふ、いい感じに追い詰められてるね。ぶるぅ、晩御飯は何だったっけ?」
会長さんの問いに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ビーフシチュー! お昼は簡単に五目チャーハン!」
「じゃあ、ビーフシチューの仕込みを始めてくれるかな? ハーレイが夕食に釣れるようにね」
「うんっ!」
素直で良い子な「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキッチンで料理に取り掛かり、間もなく具だくさんのチャーハンとふんわり卵の中華スープの出来上がり。ビーフシチューを煮込む匂いも漂ってきます。
「夕方になったらビーフシチューを玄関の前に置かなくちゃ。そして君たちは狙撃班だよ」
ハーレイを見付けたら容赦なく撃て、と水鉄砲が配られました。付属のチューブをタンクに繋いでおけば弾ならぬ水は切れない仕組み。教頭先生、果たして訪ねて来られますかねえ?



午後も日は射さず、教頭先生はペットボトルでの着火を諦めて木を擦る方法を試みたものの、やっとの思いで点火した火は海風に吹かれてあえなく消滅。一日目は飲料水の確保どころか火も使えないみたいです。これでは釣り糸とかの出番も無くて…。
「そろそろシチューを出しておこうか、日が暮れる前に」
会長さんが大きな器にビーフシチューを入れ、ログハウスの外に出して間もなく、林の間から様子を伺う人影が。教頭先生登場です。ん? あの格好はいったい…。
「ビニールシートを被ってますよ?」
寒さよけでしょうか、とシロエ君が首を捻ると会長さんが。
「違うね、あれは防水用! 水鉄砲で狙撃されても濡れないようにってことだろうけど…」
如何せん身体が大きすぎ、との指摘通りに、たった二枚のビニールシートで覆い尽くすには教頭先生は些か大きすぎました。頭から被ったシートと腰に巻き付けたシート、どちらも胴体や足がはみ出しています。おまけにビニールシートは本来、寝場所を作るためのものでは…?
「そのとおり! 目先の欲に囚われてるとね、全体が見えなくなるんだな」
狙撃班、位置に! という号令で私たちは窓辺に素早く分散。教頭先生はシチュー目指して一直線に飛び込んでこられましたが、そこで会長さんの命令が。
「撃ち方、始めーっ!!」
ビシューッ! と発射される水鉄砲。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も水鉄砲を構えています。教頭先生、負けじとシチューのお皿を抱え込み、必死の勢いで逃げてゆくものの。
「は……は……ハーックション!!」
やはり身体がビッショリ濡れたのでしょう。寒風が吹き付ける中、走りながらクシャミを発したはずみに石に躓き、ドオッと転んでシチューのお皿が空を飛び……。
「………。ぼくは手出しはしてないからね?」
今のはホントに偶然だから、とケラケラと笑う会長さん。教頭先生が決死の思いでゲットしたシチューはお皿ごとパアになってしまいました。ビニールシートもずぶ濡れですし、今夜の寝床はどうなるのでしょう? 食事の方はチキンラーメンの丸齧りでいいなら残ってますけど…。



その夜、教頭先生はソルジャー夫妻のログハウスの軒下で寝たようです。特別休暇を満喫中のソルジャーが親切心に目覚めたらしく、ビーフシチューと毛布の差し入れ付きで。
「…まあ、あれでもサバイバルなんだろうけどさ…」
ブルーは甘すぎ、と会長さんが翌朝、ブツブツと。サバイバル転じてホームレス人生を歩み始めた教頭先生、今日も未だに、火を起こせないまま。いざとなったらソルジャー夫妻に泣きつけばいい、と開き直ったらしく、昼食のチキンソテーを狙って濡れ鼠になった後はお隣の窓の下でクシャミ三昧。
「…おや、風邪かい?」
お大事に、と窓とカーテンが開いてソルジャーが顔を出し、ポイとバスタオルを投げました。
「ぼくたち、これからシャワーなんだ。運動して身体が温まったし、お裾分け」
そう言うソルジャーが窓から覗かせた上半身には服も下着も無く、教頭先生は勢いよく鼻血。ソルジャーは妖艶な笑みを浮かべてみせると窓をピシャリと。ついでにカーテンも…。
「…おい。あいつ、サバイバルの意図を理解してるか?」
どうも間違っているとしか、とキース君が顎でしゃくる隣のログハウス。軒下では教頭先生がバスタオルにくるまってチキンソテーを齧っておられます。
「ブルーなりの解釈だろうねえ、とにかく生き残ればいいって感じ? ホームレスでもさ」
SD体制を生き抜いてきたブルーの性格を読み間違えた、と会長さんは悔しそうです。お取り込み中さえ邪魔しなければ、ソルジャー夫妻の好意に甘えて生き残れそうな教頭先生。ログハウスに足を踏み入れることなくクシャミだけでタオルが降ってくるなら楽勝っぽく…。
「会長、このままだと教頭先生と夕食ですよ?」
知りませんからね、とシロエ君。
「ぼくたちの仕事は狙撃だけですし、それも隣がバスタオルを投げてくれるとなると…。教頭先生、火を起こせなくても明日まで充分生き残れます」
「だよなぁ…。今日の予報も曇りだけどよ、火が要らねえなら太陽もなぁ…」
寒さだけなら隣の毛布で大丈夫だしな、とサム君も。ソルジャーは教頭先生にあげた毛布を取り上げるつもりは無いようですし、もしも湿って冷えるようなら毛布の追加も有り得ます。ソルジャー夫妻を利用するのもサバイバルの技術の一つだとしたら、会長さんの行く末は…。
「ブルー、間違いなくフラグ立ってるよね…」
教頭先生と仲良く夕食の、とジョミー君が呟き、マツカ君が。
「ですよね…。お隣さんが今更見捨てるとも思えませんし」
「自業自得よ、いい薬でしょ」
たまにはババを引けばいいのよ、というスウェナちゃんの言葉に全員が頷いたのですけれど。
「………。ブルーも甘いけど、君たちも甘いね」
会長さんの瞳に怪しい輝きが。今から逆転出来ますか? どう考えても無理そうですが…?



サバイバルならぬホームレス生活に活路を見出した教頭先生。釣り針と糸があるのに魚なんかは獲ろうともせず、木を擦っての火起こしも放棄。雨露を凌ぐためのビニールシートも会長さんの手料理ゲットのための鎧と化してしまいましたけど、逞しく生きておられます。
「…うへえ、今夜も軒下かよ…」
暗くなった窓の外をサム君が覗き、私たちもソルジャー夫妻のログハウスの軒下に丸まっている教頭先生を確認しました。水鉄砲攻撃を食らいつつゲットなさった海老ドリアは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が家に戻って焼いてきたもの。本当だったら海老は海で捕まえなくては食べられないのに…。
「あんたには悪いが、リーチだな。サバイバルは明日の昼までで終わりだろう?」
諦めて一緒に夕食して来い、とキース君。そう言う間にも隣のドアが開き、キャプテンが教頭先生に熱いコーヒーを差し入れに。…あれ? なんでコーヒーで鼻血になるの?
「イブニング・コーヒーのお裾分けです、と言われたようだよ」
フフンと鼻で嘲笑う会長さん。
「大人の時間の定番と言えば二人でモーニング・コーヒーでねえ…。それに引っ掛けて持ってったらしいね、お取り込みの時間が終わったらしい」
ああ、なるほど…! 大人の時間が終わったので、というお裾分けなら鼻血を噴くのも当然です。ここまで甘やかして貰えるんなら、教頭先生、余裕で明日のお昼どころか夕方まででも…。
「それが甘いと言うんだよ。…ハーレイもホームレスに馴染んで平和ボケして忘れたようだね、栞にしっかり書いといたのに…。明日はヒャッハーを投入します、って」
「「「!!!」」」
忘れてましたよ、ヒャッハーの名を持つサルの軍団! 教頭先生、何の対策もしておられません。もしかしなくても、明日のお昼には…。
「お隣のドアが開かない限りは裸祭りさ、サルに身ぐるみ剥がれてね。…ぼくはきちんと警告をした。それを忘れて低きに流れてサバイバルどころかホームレスなんだ、素っ裸にされるのがお似合いだってば!」
ぼくと夕食なんて百万年以上早すぎる、と会長さんは高笑い。教頭先生はサルの群れに対抗出来るのでしょうか? …出来ないんじゃないかな、この状況では…。



そしてサバイバル生活の最後の朝。凍てつく中で目覚めた教頭先生はキャプテンにモーニング・コーヒーを貰い、また盛大に鼻血を噴いてから私たちの方の玄関先へとやって来ました。会長さんの手料理だと信じて濡れ鼠になりつつオムレツを持ち去り、ソルジャーにバスタオルを投げて貰って…。
「…なんだか幸せそうですねえ…」
すっかり馴染んでおられますよ、とシロエ君が呆れ、キース君も。
「風呂も無い生活なんだがな…。日頃から心身を鍛えておられるとホームレスでもOKなのか」
「だけど、アレでもサバイバルだよね?」
生きてるんだし、とジョミー君。貰い物だけで生き抜いてこられた教頭先生、ようやく雲間から射した弱々しい太陽を仰がれましたが、ペットボトルの出番はありませんでした。火なんか無くても今日で三日目、最終日。今になって火を起こしても…。
「だから馬鹿だと言うんだよ」
火があればサルを防げるのにさ、と会長さんが窓から眺めてチッと舌打ち。
「松明を振り回していればサルは絶対、寄っては来ない。これが究極の対策なんだけど、それも忘れてしまった男に容赦する必要は無いってね。…ぶるぅ!」
「かみお~ん♪ シールド、解くんだね!」
おサルさん、山に閉じ込めちゃってごめんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。それから間もなく押し掛けて来たサルの軍団は百匹以上は群れていたかもしれません。会長さん曰く、野生のヒャッハーな大群に気付いた教頭先生は顔面蒼白。
「…な、なんなのだ、これは…!」
マズイ、と叫んで避難場所を求め、ソルジャー夫妻のログハウスのドアを思いっ切り開けて中へと駆け込んでゆかれましたが…。
「何するのさーーーっ!!!」
いいトコなのに、とソルジャーの怒りの絶叫が響き、鼻を押さえて飛び出してきた教頭先生。
「し、失礼しましたーーーっ!!!」
すみません、と言い終わらない内にサルの軍団は教頭先生の服の中に隠されていると思い込まされた食べ物を求めてビリビリ、バリバリ。厚着した防寒着もアッと言う間にボロボロで…。
「た、助けてくれーっ!」
服が、服がぁ…! と泣き叫ぶ教頭先生の声に、ソルジャーが窓から顔だけを覗かせて。
「なんだ、そんな所で脱いでるわけ? 混ざりたいなら後で来てよね」
ぼくは只今お取り込み中、とピシャリ閉まった窓とカーテン。えーっと、会長さん…。教頭先生の着替えって用意してますか? えっ、なんですって?
「それも隣から貰えばいいだろ、サバイバル技術を生かしてさ。もっともヒャッハーに負けた時点でサバイバルは失敗ってコトなんだけどね」
最後までサバイバルを貫き通せ、と会長さんは冷たい口調。あぁぁ、残った紅白縞が…! ビリビリ破かれる音がしますが、ソルジャー夫妻は服を恵んでくれるでしょうか? 教頭先生、御武運をお祈りしておりますから、大人の時間をものともせずに服を貰って下さいです~!




         無人島の戦い・了


※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 チキンラーメンなサバイバルは実在しますです、今もやってるかは謎ですが…。
 ペットボトルで火を起こせるというのも本当なんです、覚えておくと役に立つかも?
 次回、6月は 「第3月曜」 6月15日の更新となります、よろしくです~!


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 こちらでの場外編、5月はソルジャーがレア物のスッポンタケに御執心で…。
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