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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

羽織ってみた上着

 ふと目に入った父のスーツ。学校から戻っておやつを食べていたリビングの一角。風を通すためなのだろうか、上着だけがハンガーに掛けてあった。いつも父が仕事に着てゆくスーツ。
(やっぱり大きい…)
 ハーレイの体格には及ばないものの、ブルーの父も背は高い方。従ってスーツも大きいサイズ。ハンガーに掛けられたそれは、ブルーの制服の上着とはまるで大きさが違う。文字通りの大人用と子供用と言っても差し支えは無く、ブルーはその大きさが羨ましくなった。
(…早く大きくなりたいんだけど…)
 父ほどの大きさにはならなくていい。前の生と同じ背丈の百七十センチがあれば充分。そこまで育てば上着のサイズも今ほどの差は開かないだろう。
(でも…。ハーレイはパパよりももっと大きいよね?)
 いつか自分が大きくなっても、ハーレイの上着と並べて掛けたら大きさの違いが分かりそうだ。今の父と自分ほどには違わないだろうけれど、きっとブルーのよりずっと大きい。
(大きい上着かあ…)
 自分の体格よりも大きな上着。それを着てみたらどんな感じがするのだろう?
 背伸びして大人になった気持ちか、あるいは一人前の大人な感覚か。子供には縁の無いスーツ。制服を着るまでは改まった外出用に子供用のを持っていたけれど、それはあくまで子供用。仕事に出掛けるわけではないし、行儀よくしているためだけの服。
(…ちょっとだけ着てもかまわないよね?)
 大人に少し近付けるかも、とブルーは父の上着に手を伸ばした。背が高い父の上着を羽織れば、いいおまじないになりそうだ。そのサイズには届かないまでも、大きくなれる力が宿っていそう。
(んーと…)
 手に取るとズシリと重かった。制服の上着とは全く違う。袖を通して羽織ってみたら。
(…うわあ…。ホントに大きいよ、これ)
 肩にかかる重さもさることながら、余りすぎの肩幅に長すぎる袖。裾だって腰よりもかなり下にあり、案の定、ブカブカとしか言いようがない。
 上着と呼ぶより、これではガウン。上掛け代わりに着て寝られそうなほどに大きな上着。
(…分かってたけど、ぼくって小さい…)
 早く大きくなりたいな、と溜息をついて上着をハンガーに戻しておいた。一日も早くハーレイと一緒に暮らせる背丈になれますように、と願いをこめて。



 父のスーツで勝手なおまじないをしていたことは綺麗に忘れたけれども、その夜、パジャマ姿で自分のベッドに腰掛けた途端に思い出した。
 ガウン代わりになりそうだった父の上着。着て寝られそうだった大きな上着。
 今は秋だから、これから少しずつ寒くなってくる。パジャマ一枚で夜更かし出来る季節はやがて終わって、羽織るものが要るようになるのだけれど。
(…あれ?)
 なんだか着ていたような気がする。カーディガンや子供用のガウンではなくて、もっとズッシリした上着。パジャマの上から確かに羽織っていたような…。
(でも…)
 父のスーツを持って来たりはしない筈。ガウン代わりに父が貸してくれるわけがないから、もし着たとしたら、それは悪戯。目的も無いのにスーツで悪戯なんかはしない。なのに着ていた記憶がある。
 両肩に微かに残った感触。自分には重くて大きすぎる上着。
(…いつなんだろう?)
 もしかしたら父が着せかけてくれたとか?
 お風呂上がりにパジャマ一枚で遊んでいたら「風邪を引くぞ」と羽織らせてくれた?
 そういうこともあるかもしれない、と懸命に記憶を手繰っていて。
(…あっ…!)
 引っ掛かって来た遠い日の記憶。今の家とは違う場所の記憶。
(前のぼくだ…!)
 着ていたものは父のスーツの上着ではなくて、キャプテンだったハーレイの上着。ソルジャーの上着とお揃いの模様があしらってあったキャプテンの制服の上着を着ていた。
 ソルジャー・ブルーだった頃のブルーには大きくて重かった、ハーレイの上着。それを羽織って青の間に居た。ソルジャーの上着とマントの代わりに、ハーレイの上着をしっかりと着て…。
 蘇ってくる懐かしい記憶。ブルーはそれを夢中で追った。



 ソルジャーだったブルーは大抵、青の間に一人。
 戦いや新しく見付けたミュウの救出に出掛けない時は、シャングリラの中を一巡すればその日の役目はおしまいだった。アルタミラを脱出して間もない時代は皆と賑やかに過ごしていたけれど、ソルジャーとなり、青の間に住まうようになった頃には普通の役割は無くなっていた。
 唯一の戦える存在であって、同時に行く手を指し示すソルジャー。
 年若い者たちにとっては神にも等しい立ち位置となってしまったブルーに、一般のミュウと同じ仕事は回ってこない。戦闘も救出作戦も無くて暇だからといって農作業の手伝いをしようとしても視察扱い、却って作業の手を止めてしまう。掃除を手伝おうとしても同じこと。
 ブリッジに行けばソルジャーの巡視とばかりに皆が緊張するのが分かるし、機関部に出掛けても今の状況を説明するべく誰かが作業を抜けて来てしまう。
 あれこれと色々試してみた末、子供たちの相手をして遊ぶことが一番問題が少ないと分かった。保育部の者たちは恐縮するけれど、子供たちはブルーに懐いてくるから仕事の手伝いをすることは出来る。ブルーが子供たちの相手をしている間に他の作業が可能だから。
 とはいえ、子供たちは眠りに就くのも早い。大人たちより早い時間に夕食を済ませ、ブルーより先に眠ってしまう。ブルーが見付けた小さな仕事は子供たちが夕食に行けばおしまい。
 夜ともなれば船内の巡回にも出掛けられない。公園で散歩は出来るけれども、それ以外の場所を歩いていれば、出会った者に「ご用でしょうか?」と気を遣わせてしまうのが目に見えている。
 仕方ないから、夜になったら本当に青の間で一人きり。
 恋人のハーレイがブリッジでの勤務を終えて来てくれるまでは、たった一人で青の間で過ごす。そのハーレイが忙しい時は独り寂しく待つしかない。本を読むのに飽きてしまっても、一人で飲む紅茶が美味しくなくても、ハーレイにはキャプテンという大切な任務があるのだから。
 そうやって待って、ハーレイを迎えて、愛を交わしたり、ただ添い寝して貰うだけであったり。二人一緒にベッドで眠って、朝になったらハーレイをブリッジへ送り出す。その後はブルーは独りになる。どんなに仲間が大勢いようと、心の底から幸せを感じられる時間は夜まで来ない。



 それが日常だった、ある朝のこと。起き出して制服を着込んだハーレイが言った。
「今夜はこちらに来られないかもしれません」
「…忙しいの?」
「ええ。色々と片付けなければならないことが重なりまして…」
 でも、心配は御無用です。一つ一つは大したことではありません。ただ…。
 私の帰りがあまり遅くなると、あなたがお休みになれませんから。
「理由はそれだけ?」
 ブルーの身体を気遣う言葉は嬉しかったけれど、従うつもりにはなれなかった。「そうです」と答えたハーレイに「遅くてもかまわないから来て」と自分の望みを口にする。
「それだけなら、ぼくは待っているよ」
 先に眠ってしまっているかもしれないけれども、一人にしないで。
 朝に独りで目を覚ますのは嫌なんだ。
 夜中に目覚めて独りぼっちだと気付くのも嫌だということ、君は充分知ってるだろうに。
「…分かりました」
 遅くなるかもしれませんが、とハーレイは約束をして出掛けて行った。
 そういう会話を交わしていたから、遅くなっても仕方がないとは思っていた。けれど…。
(…まだ来てくれない…)
 本当にハーレイが戻るのが遅い。覚悟していたけれど、本当に遅い。
 とっくの昔にシャワーを済ませて、もう長いことベッドに腰掛けて待っているのに。



(寂しいよ、ハーレイ…)
 サイオンで軽く気配を探ると、ハーレイはまだ忙しそうで。どうやら幾つかの部署から幾つもの案件が同時に持ち込まれたらしく、どれもキャプテンの決裁が必要だからと急いでいる。如何にも生真面目なハーレイらしい。明日や明後日に持ち越したって支障の無いものも多そうなのに。
(…そういう所も好きなんだけどね…)
 シャングリラの仲間たちの暮らしが少しでも快適であるようにと、心を砕く優しいキャプテン。ブリッジで見せる厳めしい顔とは正反対の温かい心を持ったハーレイ。
 だからハーレイが好きになった。自分のことよりもブルーのことを大切に思い、いつだって側に居てくれたから。本当に側に居られる時間は短いものでも、心ごと寄り添ってくれたから…。
(まだかな、ハーレイ…)
 早く仕事が終わらないかな、と探ってみれば、また別件でハーレイの部屋を訪ねてゆくクルーの姿が見えて。他にも幾人か順番待ちらしき気配があった。夜間シフトの者も含まれているようだ。これでは半時間やそこらで全て片付きそうもない。優に一時間、あるいはもっと…。
 先に眠るべきかと思うけれども、眠る時にはハーレイが隣にいないと寂しい。
 ハーレイと二人寄り添い合って、生まれたままの姿か、アンダーだけか。
 どちらの格好で眠るにしても、ハーレイの温もりが側に無いとあまりに寂しすぎる。
 シャワーを浴びた後でマントも上着も脱いでいるから、ベッドにもぐれば眠れるのだけれど…。
 どうにも眠ろうという気持ちになれない。
 少しでいいからハーレイの優しい温もりが欲しい。
 ブルーの身体を暖かく包んでくれるもの。包み込んでくれる何かが欲しい…。



 眠れないままに、自分を包んでくれそうな温もりを頭の中であれこれと探し求めていて。
(そうだ、上着…!)
 ハーレイがいつも着ているキャプテンの上着。ブルーとお揃いの模様をあしらった上着。
 あれを羽織れば大きくてきっと暖かい。ブルーはガウンを持っていないけれど、ガウンみたいに暖かく包んでくれると思う。ハーレイの大きな身体を包む上着だし、充分ガウンに出来る大きさ。あれならばハーレイの温もりを身近に感じられそうだ。
(…えーっと…)
 青の間からは少し離れたハーレイの部屋をサイオンで覗く。何度も泊まったことがあったから、ハーレイが制服を仕舞っているクローゼットは直ぐに分かった。ハンガーに掛けられて並んでいるクリーニングを済ませた上着。替えの上着は何着もあったし、一つくらいはいいだろう。
(ちょっと借りるよ)
 机に向かっているハーレイの背中に心の中だけで声をかけた。もちろん思念に乗せてはいない。仕事の邪魔をしては悪いし、かと言って無断で持ち去るのも良心が咎めたから。
 手近な上着を一つ選んで、瞬間移動で失敬した。青の間のベッドに腰掛けたままのブルーの手の中に上着がバサリと落ちて来る。思っていたよりも重たいそれ。同じ模様があしらわれたブルーの上着よりも遙かにズシリと重い。
(大きいし、袖もついてるんだし…)
 重くて当然、とブルーは微笑む。この重い上着を軽々と着こなすハーレイの逞しさを思う。
(…こうして見るとホントに大きい…)
 両手で持って広げてみれば、彼の人の頑丈で大きな身体が直ぐ目の前にあるかのようで。
(ハーレイはこれを着てるんだ…)
 自分のマントと上着はシャワーを浴びた時に脱いでしまって、今はアンダーだけだったから。
 手に入れたばかりの素敵なガウンを早速羽織ってみることにした。まずは袖には腕を通さずに、マントのように肩に掛けてみる。それだけで肩と背中が暖かくなった。ハーレイに合わせてある丈だけに、ブルーが羽織るとハーレイのマントくらいの大きさになる上着。
 両方の腕を通して着れば、まるでハーレイに包まれているようで。
(…ふふっ)
 これを着ていれば寂しくない。ハーレイが側に居てくれるような安心感。
 どっしりと重いキャプテンの上着。いつもハーレイが着ている上着。
 前を掻き合わせて両方の手でキュッと握って、幸せに浸る。
 もう少し待てば、これの持ち主が仕事を済ませて戻って来る。
 あと少し、ほんのもう少し…。



 ブルーが着込んだハーレイの上着。キャプテンの制服の重たい上着。
 今もまだ部屋で仕事をしているハーレイと同じ上着を纏って、その暖かさに包まれて。ブルーは心が安らぐのを覚え、寂しさも和らいだような気がした。
 寂しかった心がハーレイの温もりを感じたからか、俄かに眠気が襲って来て。ハーレイの帰りを待とうと思っているのに、小さな欠伸が立て続けに出る。
(…もうすぐハーレイの仕事が終わる…)
 終わるまで待っていなくては。眠らずに待って迎えなくては、と堪えても欠伸を止められない。ほんの少しだけ横になろう、とベッドにぱたりと倒れ込んだ。眠るつもりは全く無かった。
 横になれば眠気が収まるだろうと、目を瞑らなければ眠りはしないと思って身体を横たえた。
 そう、目を開けていれば眠らずに済む。こうして眠気をやり過ごしてやれば欠伸も止まる。
(…少しだけ…。ほんの少しだけ…)
 眠気が去ったら起き上がるつもり。それが眠気に捕まってしまい、知らず知らずに瞼が閉じた。ブルーはベッドに倒れ込んだまま、ぐっすりと深く眠ってしまった。
 ハーレイの上着を上掛けにして、腰の辺りまですっぽりと包まれたままで…。



「…ブルー?」
 いったい何をしているんです、と呼ばれたブルーは「…ん?」と寝返りを打って目を覚ました。眠い目を擦りながら開けば、直ぐ前に恋人の顔があって鳶色の瞳に途惑いの色。
「…遅くなってしまってすみません。ですが、この格好は何ごとです?」
「…格好…?」
 何を言われているのか分からず、眠気を払おうと伸ばした腕が目に入った。見慣れた自分の腕の代わりにハーレイの腕。それも不格好に余りすぎた制服を纏った腕。
(………?)
 ブルーの半ば寝ぼけた頭が状況を把握する前に、ハーレイの瞳が覗き込んで来た。
「…私の上着が皺くちゃになってしまっているのですが…」
「……君の……?」
 なんで、と口にしかかった所でブルーはようやく気が付いた。
 無断で借りたハーレイの上着。ガウン代わりに着込んでみたらとても暖かくて、幸せで…。
(…そのまま眠ってしまっていたんだ…!)
 カアッと顔が赤くなるのを覚えたけれども、ハーレイに背を向け、ぶっきらぼうに言い放つ。
「君が遅いからいけないんだ。早く包んで」
「…は?」
「上着じゃなくって、君の身体でぼくを包んで。もう遅いから、それだけでいい」
 早く、とブルーは恋人を急かした。
「君が来ないから、代わりに上着で寝る羽目になった。これはもういい。早く脱がせて」
 上着より君の方がいい。早く脱がせて、君が包んで。
「…ええ、ブルー…」
 ハーレイの声に笑いが混じる。この恋人はなんと可愛いのかと、自分が来るのを独りで待てずに上着を持って来てしまったのか、と。愛らしい恋人がしっかりと袖を通して着込んだキャプテンの上着。細くて華奢な身体に纏うには大きすぎて余っている上着。
「ブルー、少し身体を浮かせて下さい。あなたの下敷きでは脱がせられません」
「…うん……」
 そう答えつつも非協力的なブルーの身体から上着を剥がすハーレイが小さな吐息を漏らした。
「…おまけに、私の上着を脱がせるというのは、なんとも妙な感じがするのですが…」
「そうかな? でもこれ、気に入ったんだよ」
 とても暖かくて、君が側に居るような気がする。また遅くなる時があったら借りるよ。
「はあ…」
 困り顔で脱がせていたハーレイ。自分の持ち物のキャプテンの上着を脱がせたハーレイ…。



(借りていたんだ、ハーレイの上着…!)
 小さなブルーは思い出した。前の生で過ごしたハーレイとの時間。青の間で過ごしていた時間。
 そんなことは滅多に無かったけれども、寂しい夜にはハーレイの上着。
 ハーレイの帰りを待ち切れない時、持ち主の部屋からキャプテンの上着を無断で借りた。何着も並んだクリーニング済みの上着の中から一つ選んで、瞬間移動で持ち出していた。
 持ち主のがっしりとした身体に相応しい重みと大きさの上着。それが気に入って何度も借りた。たまに昼間にも羽織っていた。急にハーレイに会いたくなったのに、叶わない時に。用を見付けて呼び出そうにも、キャプテンの仕事が多忙だった時に。
(…大好きだったっけ、ハーレイの上着…)
 ブルーがそれを着ている度にハーレイは苦笑していたけれども、それでも瞳は嬉しそうだった。
 自分の制服を脱がせないと恋人に触れられないとは、と嘆きながらも声に幸せが滲み出ていた。そうしてブルーの身体を包んだ大きすぎるキャプテンの上着を脱がせて、自分の身体で包み込んでくれた。温かくて広い褐色の胸に、逞しい筋肉を纏った腕で。
(本物のハーレイには敵わないけど、上着もとっても好きだったんだよ…)
 何回も借りていたハーレイの上着。
 ガウン代わりに、上掛け代わりにしていたキャプテンの制服の重たい上着…。



 思い出したら、あの上着が急に懐かしくなった。
 今はもう何処にも無い上着。時の流れが連れ去ってしまったキャプテンの上着。
 ブルーが着ていたソルジャーの上着とお揃いの模様があしらわれていたキャプテンの上着。
 存在しないものは着られないから、思考を別の方へと向けた。
(今のハーレイのスーツ、羽織ってみたいな…)
 記憶を呼び戻す切っ掛けになった、昼間に羽織った父のスーツの大きな上着。ハーレイほどではなくても長身な父の上着があの大きさ。ハーレイは父よりもずっと肩幅があって背が高い。
(…ハーレイのだと、パパのよりもっと大きいよね?)
 ブルーには大きすぎた父の上着。それより遙かに大きいだろうハーレイの上着。
 前の生でハーレイの上着を着ていたブルーは今よりも背が高かった。肩幅だって広かった筈。
 今のブルーはソルジャー・ブルーだった頃に比べれば小さな子供。そんな自分が前と同じようにハーレイの上着を借りたら、どれほど余ってしまうのだろうか。
 今のハーレイのスーツの上着は、キャプテンの制服の上着よりも大きくてきっと暖かい。
(でもって、うんと重たいんだよ)
 着てみたいな、とブルーは夢を見るのだけれど。
 週末の土曜日や日曜日に来てくれるハーレイはスーツではないし、着たいと頼み込むなら平日。
(…だけど……)
 平日にこんな思い出話は出来ない。前の生で愛し合っていた頃の話は出来ない。
(…週末に話して、次にスーツで来てくれた時に着せて貰えばいいのかな…?)
 着せてくれるかな、とハーレイのスーツ姿を思い浮かべる。今日も学校でスーツ姿のハーレイに会った。暑い季節にはワイシャツにネクタイだったけれども、今ではスーツが普通のハーレイ。
(ちゃんと頼んだら、着られるかな?)
 一度くらい着せて欲しいんだけど、とハーレイの身体を包むスーツの上着に思いを馳せる。
 着せて貰うなら今がいい。
 結婚したならいつでも着せてくれるのだろうし、勝手に着ることも出来るけれども、今がいい。
 前よりも小さな身体だからこそ、着せて貰う価値がありそうだった。ブルーの身体をすっぽりと包み込むハーレイの大きさ、温かさ。今なら前の何十倍にも感じられるに違いない。
(それにハーレイ、キスも許してくれないしね…?)
 上着くらいは着せて欲しいよ、とブルーは頑丈な身体を持った恋人のスーツの上着を狙う。
 何とかしてあれを着られないか、と懸命に考えを巡らせるけれど、全ては上着の持ち主次第。
 小さなブルーはハーレイのスーツの上着を着せて貰えるのか、拒否されるのか。
 キャプテンだったハーレイすらも苦笑したそれは、今のブルーには些か難しそうだった……。




            羽織ってみた上着・了


※キャプテン・ハーレイの上着をコッソリ拝借していたソルジャー・ブルー。
 とても幸せだったでしょうけど、脱がせる方のハーレイは複雑な気分ですよね…?
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