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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

店じまいの季節

 秋の日の午後、庭のテーブルで向かい合って座るハーレイとブルー。
 庭で一番大きな木の下に据えられた白いテーブルと椅子で過ごす時間は、暑い間は午前中が定番だったけれども、いつしか午後のお茶の時間へと移っていって。
 夏の盛りには考えられなかった、外での午後のティータイム。涼しい風が吹き抜けていた日も、夏場は早めの昼食くらいまでしか庭にはとても居られなかった。
 それが今では午後にお茶の時間。僅かに色づき始めた木を仰ぎながらの穏やかなひと時。
 紅葉の季節にはまだ早いけれど、ハーレイが紅茶のカップをコトリと置いて。
「このテーブルもそろそろ店じまいかもな」
「えっ?」
 どうして、とブルーは首を傾げた。いきなり「店じまい」だなどと言われても…。
 言葉の意味が飲み込めない様子のブルーに、ハーレイが「うん?」と優しい笑みを浮かべる。
「今年は終わり、という意味だ。じきに冷え込む季節になるしな、次の週末はどうなるか…」
 この季節の気候は気まぐれなもの。暖かい日が続くと思っていても、急な寒波が来る年もある。一週間後の気温がどうなっているか、正確な予想は難しいから。
「今のところは来週もまだ暖かそうだが、直前で変わることもあるだろう? 寒くなったらお前が風邪を引いてしまうし、外はちょっとな」
 来年の春が来るまでお預けになってしまうかもしれん、と聞かされてブルーは溜息をついた。
「そっか…。今日でおしまいなのかな、ハーレイとデート…」
「ははっ、覚えていたのか、デートの話。此処でお前と初デートだったな」
 ハーレイが「うんうん」と遠くなった初夏の日を懐かしく思い返して微笑む。「普段と違う所で食事をしたい」と強請ったブルーへのハーレイの答えが庭のテーブルと椅子でのティータイム。
「そうだよ、シャングリラの形の木漏れ日を見たよ」
「あったな、まるで誂えたように」
 テーブルの上で揺れていた木漏れ日が描くレース模様の中に、シャングリラがあった。
 遙か上空から見下ろしたシャングリラそっくりの、光と木の葉が作り出した形。二人で飽きずに眺めていた。日が射して来る方向が変わり、光のシャングリラが消えてしまうまで…。



「ハーレイが持って来てくれたんだよね、あの時に座った椅子とテーブル」
 ブルーは今でも鮮やかに思い出すことが出来る。ハーレイの車のトランクの中から魔法のように引っ張り出されて、庭に据えられたテーブルと椅子。「木の下にお前の椅子が出来たぞ」と笑顔で其処へと誘ってくれたハーレイの声まで覚えている。
「あれからも何度も持って来てくれたよ」
「お前、気に入っていたからなあ…。お前が喜んでくれるんなら、と俺もせっせと持って来ていたわけだが、お前のお父さんに感謝しとけよ」
「パパ?」
「俺が持って来るパターンのままで定着してたら、夏休みの終わりと同時に営業終了になっていただろうしな」
 この椅子とテーブルはお父さんが買ってくれたんだろうが、とハーレイの指がテーブルをトンと叩いた。ブルーの父が「いつも持って来て頂くのは申し訳ないから」と夏休みに入ってから買って据え付けたテーブルと椅子。
 屋外用のテーブルと椅子だったから、雨風で傷むことはない。ブルーにとっては「庭にあるのが当たり前」のもので、いつでも使えると思っていた。営業終了という言葉がピンと来なくて。
「なんで夏休みが終わっちゃったら、おしまいになるの? 夏休み、とっくに終わったよ?」
「まあな。しかしだ、俺の中では、あのテーブルと椅子は夏休みまでのものだったんだ」
 キャンプ用のテーブルと椅子だと言っただろう。夏の間に俺の家で来客用に使うヤツなんだ。
 来客と言っても教え子ばかりでガサツな運動部員どもだから、バーベキューだな。外でワイワイ賑やかに食って騒いで、親睦を深めるためのテーブルと椅子だ。
 そういったシーズンの終わりが夏休みの終わりで、其処で営業終了になる。秋の午後に使うって発想は俺には全く無かった。あいつらと優雅にティータイムなんぞは有り得ないしな?
「良かったあ…。パパが買ってくれてて。…ママの趣味で白いのになっちゃったけどね」
「白もいいじゃないか。前も言ったが、シャングリラの色だ。俺たちにピッタリの色だと思うぞ」
「そうだっけね。シャングリラは真っ白な船だったものね」
 ブルーが守った白い船。ハーレイが舵を握っていた船。
 どちらが欠けても、無事にジョミーに引き継ぐことは出来なかっただろう。
 そうしてシャングリラは地球まで運ばれ、新しい世代のミュウたちを乗せて旅立って行った。
 前のハーレイの生が終わった地球を離れて、遠く遙かな新天地へと…。



 今は写真だけしか残されていないシャングリラ。
 ハーレイとブルーがお揃いで持っている写真集には白いシャングリラが在るが、その船体は時の流れが連れ去ってしまった。ブルーの青の間もハーレイの部屋も、時の彼方に消えてしまった。
 それなのに二人は生まれ変わって、青い地球の上で再び出会った。
 同じ町に住み、同じ学校の教師と生徒。週末が来る度、ハーレイがブルーの家を訪ねて、二人で過ごしているのだけれど。
 前の生で恋人同士だったことをブルーの両親は知りはしないし、今でも秘密。
 ハーレイにキスさえ禁じられてしまったブルーは、この庭でしか大好きなハーレイとのデートが出来ない。夏休みの終わりと同時にデートも終わりとならなかったことは幸運だったが、どうやら寒さの訪れと共にデートは終わりになってしまうらしく。
「…寒くなったらやっぱり無理かな、ハーレイとデート…」
 寂しげに呟くと、ハーレイが頭上の枝を見上げた。
「この木の葉もいずれ、すっかり色が変わって散っちまうしな? …散ってる最中に此処に座ってティータイムだと、葉っぱがどんどん落ちて来るぞ」
 カップの上とか、ケーキの上にな。いくら秋でもケーキの紅葉添えはな…。
「そういうのもいいと思うんだけど…」
 お洒落だと思う、とブルーは食い下がった。
「ケーキに紅葉は添えてないけど、料理だったら添えたりするよ?」
「それはそうだが…。わざわざ秋らしく色が変わった柿の葉で包んだ押し寿司なんかもあったりはするが、しかしだな…」
 ハーレイの眉間の皺が深くなる。
「お前、寒くなったら風邪を引くだろうが。シールドも張れないレベルのくせに」
 紅葉の季節は風がけっこう冷たいぞ?
 いくらお洒落でも、風邪を引いたら話にならん。



 そう諭されても、ブルーはどうにも諦め切れない。ハーレイと初めてデートした場所が来年の春までお預けだなんて、まるで考えてもいなかった。だから俯き加減でポツリと零す。
「でも…。ハーレイとのデートが春まで出来なくなっちゃうなんて…」
 まだまだ秋は長いし冬もあるのに、と上目遣いに見上げられたハーレイは仰天した。
「冬って…。お前、雪の中でも此処でデートをするつもりか?」
「雪も綺麗だと思うんだけど…。秋も冬もきっと素敵だよ。葉っぱが散るのも、雪が舞うのも」
 どう見ても本気としか取れないブルーの眼差しに、「うーむ…」と腕組みをするハーレイ。
「落ち葉はともかく、雪の中だと? シールドを張れないお前がか?」
「…だって、ハーレイとデートがしたいよ。ちょっとくらい風邪を引いてもいいから」
「馬鹿!」
 一喝すればブルーは首を竦めたけれども、それでも縋るように揺れる赤く澄んだ瞳。
 こういう瞳で見詰められると、ハーレイは弱い。
 どんな我儘でも聞き入れたくなる。ブルーの望みを叶えたくなる。
 前の生から愛し続けて、一度は失くしてしまった恋人。奇跡のように戻って来てくれたブルーのためなら、全力を尽くしてやりたいと思う。
 まだまだ幼い小さな恋人。十四歳にしかならないブルー。
「お前なあ…。ちょっとの風邪でも命取りだと分かってるだろう、弱いんだから」
「早めに寝てればちゃんと治るよ、それとハーレイの野菜スープがあれば」
「お前は平気なのかもしれんが、俺の心臓が持たないんだ」
 俺がお前の側についていながら、風邪を引かせるなんて真似はしたくない。
 お前の分までシールドを張れればいいんだが…。
 生憎と俺はタイプ・グリーンで、前のお前みたいに広い範囲をシールド出来るわけじゃない。



「お前の分までシールドを張るとなったら、くっつかんと無理だ」
 それでブルーが諦めてくれれば、と思う一方で微かに期待もしていた。ハーレイが心の奥の奥で願った答えを読んだかのように、ブルーの顔がパッと輝く。
「じゃあ、くっつく!」
「こら、お前! 本気で俺にくっつく気なのか?」
「うんっ!」
 ブルーは嬉しそうにニッコリ笑った。
「それなら堂々とくっついてられるよ、ハーレイに! ぼくはシールドなんか張れないってこと、パパもママもちゃんと知ってるもの!」
 シールドに入れて貰っているなら、くっついていても変だと思われないよ。
 くっつきやすいようにハーレイの膝に乗っかっていても、パパもママも何も言わないよ。きっと「先生にあまり迷惑をかけちゃ駄目だぞ」って言われるだけだよ、だからお願い。
「ねえ、ハーレイ。秋の終わりも冬になってもデートしようよ、くっついて此処で」
「お茶が冷めるのはどうするんだ?」
 俺は其処まで面倒見きれん。そうそう器用じゃないからな。
「ポットだったら保温用のがあるじゃない。それにポットに帽子みたいに被せるカバーもあるよ」
 ティーコジーって言ったかな?
 シャングリラでは使っていなかったけれど、ママは寒い季節になったら使うよ。綿とか断熱材が入ったカバーで、ポットにすっぽり被せておいたらお茶が冷めにくくなるんだから。
「ママはポットの大きさに合わせてカバーを幾つか持ってるよ。あれ、使おうよ」
 保温ポットより断然いいよ、と主張するブルー。
 SD体制の時代よりも遙かに古い昔の道具で、寒い季節のお茶の時間にピッタリなのだ、と。



 ティーコジーはハーレイも知っていた。ハーレイの母はそういった昔の道具が大好きで、ティーコジーも愛用していたから。
 保温ポットなど無かった時代の素朴な道具。SD体制よりも古い時代の先人の知恵。
 それはともかく、保温用の道具が要るような季節になっても庭でのデートとお茶の時間を諦める気配も無さそうなブルー。
 ティーコジーだなどと言い出した以上、少なくとも晩秋は店じまいとはいかなくなるだろう。
 冬になってもブルーを膝の上に乗せて、庭でのお茶が続いてゆくかもしれないが…。
 まずは、とハーレイは我儘な恋人に釘を刺す。
「とりあえず、お前が風邪を引かずに無事なことが第一条件だな」
 これだけは譲れん、と厳めしい表情で言い渡しておいて。
「その上で焼き芋から始めてみるか」
「焼き芋?」
 ブルーはキョトンと赤い瞳を丸くした。
「石焼き芋を買ってくれるの? 寒くなったら、そこの道を車が通って行くけど…」
 SD体制の時代には無かった石焼き芋の移動販売車。
 遙かな昔にこの地域の辺りに在った小さな島国、日本の古い文化の一つ。笛の音にも似た独特の音を響かせ、石焼き芋を焼く釜を載せた車が寒い季節に住宅街を巡ってゆく。
 ブルーはそれだと思ったらしいが、ハーレイが考えたものは違った。
「やったことないのか、落ち葉で焼き芋。美味いんだぞ」
「…落ち葉?」
 怪訝そうな顔の小さな恋人は知らないらしい。
 生まれつき身体が弱いのだから、落ち葉で焚き火をするような季節は家に閉じこもって過ごして来たかもしれない。ハーレイにとっては子供時代のお楽しみだった焼き芋すらも知らないままで。



(参ったな…)
 本当にやる羽目になるかもしれんな、と思ったけれども、ブルーを楽しませてやりたいから。
 前の生では叶わなかった分まで幸せにしたいと思っているから。
 ハーレイはブルーに教えてやる。庭に落ちた木の葉を集めて焚き火をして芋を焼くのだ、と。
「ホント!? 本当にそれでちゃんと焼けるの?」
「上手く焼くには、ちょっとしたコツが必要だがな。だが、これが実に美味い」
 俺は焼くのが上手くてな。ホクホクの焼き芋が出来上がるんだぞ。
 もっとも、その前に、お前のお父さんとお母さんに訊かんと駄目だがな。
 庭で焚き火をしていいですか、と。
「やりたい! 焚き火で焼き芋、やってみたいよ」
 パパとママに頼んで許して貰うよ、とブルーの赤い瞳が煌めく。
 一人息子の願い事とあらば、ブルーの両親は快諾するだろう。
「ふむ…。許可が出たなら、焼き方のコツを伝授してやろう。だが、もう少し先の話だ。木の葉が色づいて散らんことには芋は焼けない」
 庭中に散った落ち葉を集めて、枯れ枝なんかもあるといい。
 お前と二人でこの庭をせっせと掃除するかな、焚き火と焼き芋作りのためにな。
「うんっ! じゃあ、それまではデート続行だね?」
 ねえ、とブルーは弾けるような笑顔になった。
「まだまだ終わりにしたくないんだ、ハーレイとデート」
 焚き火が出来る季節になるまで、此処でデートでいいんだよね?
 落ちて来る紅葉がケーキのお皿に乗っかる頃になっても、デートしていていいんだよね?
 ぼくが風邪さえ引かなかったら。
 学校で引くのは仕方ないけど、庭に居る時に風邪を引かなかったら…。




 ちゃんと暖かい服を着るから、とブルーは強請る。
 両親が心配しないように服も下着もしっかり着込んで
落ち葉の季節に備えるから、と。
「だって、ハーレイ。…学校の体育の授業は普通に外だよ?」
「お前、見学専門じゃないのか、そういう季節は」
「…ふふっ、見学と言うより体育館専門」
 だけど、とブルーは付け加える。
 身体が弱くて寒い季節は体育館でしか授業に参加出来ないけれども、今よりもっと小さい頃には雪だるまくらいは作っていた、と。雪合戦に参加するのは無理だったけれど、ほんの少しだけなら雪遊びだってしていたのだ、と。
「だからね、雪の季節も大好きだよ? 雪が降るのを見るのも、雪景色も好き」
 それに地球だ、とブルーは微笑む。
 前の自分が憧れた地球で迎える初めての冬で、初めての地球の雪景色なのだ、と。
「お前、そいつを俺と一緒に眺めるつもりか? この庭の椅子で」
「そうだけど? ハーレイと一緒に地球の上に生まれて来たんだもの。一緒に見なくちゃ」
「つまりは雪の季節になっても、此処でのデートを終わりにする気は無いんだな? …俺と一緒に雪景色だなんて言うってことは、だ」
「そうだよ、何回くらい雪が積もるかな? 春になるまでに」
 雪の中なら、ハーレイのシールドつきだよね?
 いくら厚着をして出て来たって、庭はやっぱり寒すぎるもの。
 ハーレイにくっついてシールドで包んで貰うのがいい。パパもママも絶対、気にしないから。
 ぼくがハーレイに迷惑をかけることしか心配しないし、堂々とくっついていられるから…。



 ブルーが頬を紅潮させて、寒い季節の庭でのデートを夢見るから。
 それは駄目だと突っぱねられなくて、ハーレイは「ふむ…」と暫く考え込んで。
「仕方ない、覚悟はしておこう」
 お前をくっつけてシールドで包んで、雪の最中に庭でデートという覚悟をな。
 お茶が冷めないようにティーコジーを出して来ると言うなら、あれだな、俺も工夫をするか。
 いっそ火鉢でも持ってくるかな、きちんと本物の炭を入れてだ。
 そうなると古典の世界になっちまうがな…。
 知ってるか?
 うんと昔の枕草子だ、「火など急ぎおこして炭もて渡るも、いとつきづきし」だ。
「火鉢! あれに出て来る炭櫃と火桶?」
「ああ。炭櫃は角火鉢で四角い火鉢だ。火桶は円形の火鉢だな」
 俺の実家に置いてある火鉢は円形のだから火桶ってトコか。親父の趣味でな、炭だってあるぞ。
 炭火を熾すための火熾し器まで揃えているんだ、柄杓みたいな形のヤツだ。
「そんなのもあるの? それも見てみたい!」
 持って来てよ、とブルーは自分の家には無い火鉢だの火熾し器だのに夢中になった。
 古典の授業でしか知らない道具がハーレイの実家にあるという。
 ブルーをハーレイの未来の伴侶として認めてくれている、ハーレイの両親が住んでいる家。庭に夏ミカンの大きな木がある隣町の家。
 その家の火鉢を一度借りてみたい。雪の舞う日に庭でのデートに使ってみたい…。



「おいおい、本気で火鉢なのか? 俺は火鉢で餅を焼くしかないような気がして来たぞ」
 半ば嘆きにも似たハーレイの言葉に、ブルーは素早く反応した。
「火鉢でお餅? 美味しく焼けるの?」
「ん? そりゃまあ、なあ…。火鉢で焼いた餅は美味いぞ、たまに焦げるが」
「焚き火の焼き芋と同じでコツが要る?」
「そうだな、火力が均等ってわけではないからな」
 間違えるなよ?
 芋は焚き火に埋めて焼くが、だ。餅は炭だの灰だのには埋めないからな。
 炭の上に網を乗っけて焼くんだ、でないと灰だらけになって食えなくなるぞ。
「ハーレイ、上手い?」
「当然だろうが。俺の実家じゃ餅は火鉢で焼くのが一番ってことになってたからな」
「それじゃ、お願い。冬になったら、火鉢で、お餅!」
 ぼくのお願い、とペコリと頭を下げられてしまい、こうなるとハーレイは断れない。
 我儘が過ぎる願い事だろうが、ブルーの頼みにはとことん弱い。
 無理ではないかと思いながらも「分かった、分かった」と微笑みながら頷くことになる。
「ただしだ、お前が風邪を引いてないのが大前提だぞ」
 其処をお前が間違えなければ、焚き火で焼き芋だろうが、火鉢で餅を焼く方だろうが、此処でのデートは通年営業にしといてやるさ。
 いいか、絶対に風邪を引かないことだぞ?
 風邪っぴきでダウンしちまったお前は、どう転んだって外には出られないしな。
「うん、頑張る!」
 だから約束、とブルーはハーレイの小指に自分の小指を絡み付かせた。
「約束だよ、焚き火で焼き芋をするのと、火鉢でお餅!」
 どっちも楽しみにしているから。
 ハーレイのシールドの中でくっついて此処で雪を見るのも、とっても楽しみにしているから…。



 そろそろ店じまいかとハーレイが口にした筈の、木の下の白いテーブルと椅子。
 店じまいどころか通年営業になってしまいそうな気配で、ハーレイは苦い笑みを浮かべる。
「やれやれ…。とんだ物を持って来ちまったんだな、俺というヤツは」
 庭に置くテーブルと椅子ってヤツはだ、本来は夏の間に使う物で、だ…。
「とんでもなくないよ、デートの場所だよ?」
 そしてこれからの季節が本番、とブルーは幸せそうに微笑んでみせた。
「ハーレイとくっついて座れるだなんて、寒い季節の方がいいよね。…ぼくのサイオン、不器用で良かった! ハーレイのシールドに入れて貰えるなんて最高だもの」
「だからだな、それはお前に風邪を引かせないための苦肉の策でだ、このテーブルと椅子は本来」
「店じまいは無し!」
 夏よりも冬、とブルーは言い張っているのだけれど。
 早々に風邪を引いてしまったなら、庭で一番高い木の下の白いテーブルと椅子とは出番を失い、来年の春まで何処かに仕舞われてしまうだろう。
(…多分、そのコースで間違いないさ)
 ハーレイはそう思うけれども、もしもブルーが望むのならば。
 風邪を引かずに頑張ったならば、焚き火も火鉢も夢を叶えてやらねばなるまい。
 前の生から愛し続けて、再び巡り会うことが出来た恋人。
 今度こそ幸せにしてやりたいと願ってやまない愛しいブルー。
 愛おしいブルーが望むことなら、どんな我儘でも叶えたいから……。




        店じまいの季節・了

※ハーレイとの初めてのデートの場所を、冬も維持しておきたいブルー。雪の季節も。
 火鉢でお餅も楽しそうです。ブルーの我儘、ハーレイはなんでも聞くのでしょうね。
 ←拍手して下さる方は、こちらからv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv






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