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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

困った誕生日

 もうすぐクリスマスなんだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がワクワク見上げたもの。
 シャングリラの公園に聳え立つ大きなクリスマスツリー、とっくに済んだ点灯式。毎晩、綺麗にライトアップされるツリーだけれども、今は昼間だから飾りだけ。
 それでも充分に華やかなツリー。天辺には星が煌めいているし、オーナメントも盛りだくさん。見ているだけで心が弾む光景、人類が住む都市にも負けてはいない。
(ブルーにもツリー、ちゃんとプレゼントしたもんね!)
 今年もうんと綺麗なヤツを、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大好きなブルーを思い浮かべる。青の間に似合うツリーを買うのも楽しみの一つ。このシーズンの。
 あの部屋は昼間も暗いのだから、クリスマスツリーの光がよく映える。自分の部屋に置いておくより、断然、青の間の方がいい。ブルーも喜んでくれるから。
(えーっと、今日は、と…)
 何を食べようかな、と瞬間移動で外の世界へと飛び出した。クリスマスツリーは堪能したから、次は人類の世界でクリスマス気分、と。
 アルテメシアの街にヒョイと降り立ち、あちこちの店を覗き込む。おろしリンゴが入ったホットレモネードも美味しそうだし、クリスマス期間限定のケーキなんかもいい。
 今日はデザートを食べまくりたい気分で、甘くて幸せになれる食べ物をお腹一杯。
(ちゃんと食べたよ、って言えばブルーは叱らないもんね?)
 御飯よりお菓子が多めでもね、とクリスマスの飾りが溢れる街を歩いていたら…。



「ママ、サンタさんはステーションにも来てくれるの?」
 耳に入った子供の声。十歳くらいの男の子。母親と一緒に歩いているから、今日は学校が早めに終わったのだろう。
(ステーションって…?)
 なんだっけ、と首を捻った所で、男の子の母が笑顔で答えた。
「そうねえ…。いい子にしてれば来るかしら? でも…」
 目覚めの日が来たら、大人の仲間入りでしょう?
 大人になっても、サンタクロースが来る方がいいの?
 多分、普通の大人の人には来ないわよ。だから、立派な大人になりたかったら…。
 サンタクロースは卒業かしら、と聞かされた男の子の方は…。
「そっか、大人になるんだっけね! じゃあ、サンタクロースが来なくなったら立派な大人?」
「ええ、そうよ。ステーションだと、色々な人がいるわよ、きっと」
 サンタクロースが来る人もいれば、来ない人だって。
 もしかしたら、サンタクロースが来ている間は、ステーションを卒業できないのかしら?
 ママの周りにはいなかったけれど、そういう人もいるのかしらねえ…。
「卒業できないって…。そんなの嫌だよ!」
 それじゃ大人になれないんだから、地球に行くことも出来ないよね?
 地球に行けるの、大人だけでしょ?
 ぼく、そんなのは困るから…。ステーションには来て欲しくないかも…。
「あらあら、今からそんな心配しなくても…」
 大丈夫よ、誰でもちゃんと大人になれる筈だから。
 ステーションで頑張って勉強したなら、サンタクロースも来なくなるわよ。
 だけど子供の間は、いい子の家にはサンタクロース、と微笑んだ母親。
 「今年もいい子にしていましょうね」と、「でないとプレゼントが貰えないわよ?」と。
「やだ、困る!」
 プレゼントは欲しいよ、えっと、今年は…。



 これとあれと…、と欲張りなお願いを並べ立てながら、歩き去って行った男の子。クリスマスに欲しいと思うプレゼントを幾つも挙げて。
(んーと…?)
 ぼくは今年は何にしようかな、と思い浮かべた「お願いツリー」。クリスマスツリーとは別に、ツリーがあるのがシャングリラ。
 大人の所にサンタクロースは来てくれないから、代わりにみんなで贈り合う。そのための注文を書いて吊るすのが「お願いツリー」で、子供の場合は…。
(サンタクロースが注文を見に来てくれるんだよ)
 今までに幾つも叶えて貰った、クリスマスの素敵なプレゼント。だから今年も、と算段を始めるサンタクロースへのリクエスト。
 此処にしようかな、と入った店のテーブルで。ケーキを端から注文しまくり、飲み物も幾つも。胃袋に限界が無いのが自慢で、いくらでも入るものだから。
(こういうお店を注文できたらいいのにね…)
 サンタクロースに、と思うけれども、それは流石に無理だろう。もっと他に、とリクエストする品を考える内に…。
(さっきの子供…)
 ステーションにもサンタクロースは来てくれるのか、と尋ねた子供。今から思えば、あれは教育ステーションのこと。人類の世界では、目覚めの日が来ると…。
(みんな行くんだっけ…)
 よく分からないけれど、成人検査というものを受けて。
 シャングリラで暮らすミュウとは相性が悪い検査だけれども、人類だったらパス出来る。検査が済んだら大人の世界へ一歩前進、教育ステーションへと旅立つわけで。
(サンタクロースは、其処にも行くけど…)
 いつまでもサンタクロースが来ている子供は、其処を卒業できないらしい。大人ではなくて子供だから。サンタクロースは子供の所に来るのだから。
(…それじゃ、サンタさんは…)
 大人になったら来ないんだよね、と今頃になってようやく気付いた。シャングリラにあるお願いツリーは、プレゼントが欲しい大人のためでもあったんだっけ、と。



(ぼくは毎年…)
 プレゼントを貰っているけれど、と指折り数えた、今までに迎えたクリスマス。生まれた年から貰い続けて、今度のクリスマスで九歳の自分。
(みんなとは少し違うから…)
 一歳の誕生日だった、初めてのクリスマスの朝もよく覚えている。今の姿と変わらなかったし、赤ん坊ではなかったから。けれど、よくよく考えてみれば…。
(最初の頃に、お願いツリーで一緒だった子…)
 さっきの男の子と同じくらいの年だった子供は、とうに育って十四歳を過ぎていた。あの子も、この子も、と頭に浮かんだサンタクロースが来なくなった子。
 シャングリラに成人検査は無いのだけれども、人類と同じで十四歳で変わる教育。ヒルマンが教える子供のための授業は終了、専門の教師に習うようになる。その子が将来やりたい職業、それに合わせて選ぶ先生。
(そっちのコースに移ってった子は…)
 サンタクロースがくれるプレゼントの対象外。欲しいプレゼントはコレ、と書いてあるカードをお願いツリーに吊るしておいても、サンタクロースは来ないのだった。
(クリスマスの日に、係の人から貰ってる…)
 その子が欲しかったプレゼントを。もっと大きな大人たちと一緒の扱いになって、「君の分」と係が渡しているプレゼント。十四歳になった子供にサンタクロースは来ないから。
(…シャングリラ、人類の世界より厳しいの…?)
 教育ステーションの方なら、子供によっては来てくれるらしいサンタクロース。いつまでも来てくれるようなら、ステーションを卒業できないけれど。
(だけど、そっちの方が良くない?)
 十四歳になった途端に、来なくなってしまうシャングリラよりは。
 やっぱりミュウの船だからかな、と溜息をついて「おかわり!」とケーキの注文をした。人類の世界は、シャングリラよりも恵まれているらしいから。
 前から薄々思ったけれども、サンタクロースの方でも、人類は恵まれていたのか、と。
(ケーキも山ほど食べられるんだし…)
 人類はなんて幸せだろう、と羨ましい気分。ミュウより優遇されてるよね、と。



 十四歳を過ぎてもサンタクロースにプレゼントを貰える人類はいいな、と考えながら瞬間移動で戻った船。散々おやつを食べまくった後で、クリスマスツリーが見える所へと。
(プレゼント、何を貰おうかなあ?)
 今年は何を注文しようか、と大きなツリーを見上げていたら、ハタと気付いた。もうすぐ九歳になる自分。クリスマスの朝が来たら九歳。
(十四歳から九歳を引くと…)
 五歳、と出て来た引き算の答え。
(あと五回しか貰えないの?)
 サンタクロースからのプレゼントは、と腰が抜けるほどビックリした。それから慌てて、小さな指を一本、二本と折ってみて。
(十四歳になった子供は、サンタクロースが来ないんだから…)
 クリスマスの日に十四歳を迎える自分は、その日もギリギリ、なんとかプレゼントを貰えそうな感じ。サンタクロースがプレゼントを配る夜には十四歳になっていないから。
(でも…)
 十四歳になったその日で打ち止めらしいプレゼント。次の年からは、もう…。
(お願いツリーに頼むしかないの?)
 そうなったのでは、凄いお願い事は出来ない。プレゼントをくれるのはシャングリラに住む仲間たちだし、スペシャルなことを頼んでも無理。
(劇場でリサイタルをやりたいです、って書いて吊るしても…)
 「ぶるぅの歌は勘弁だな」とカードを破って捨てる仲間が見えた気がした。誰もに迷惑がられる自分のカラオケ、それに歌声。きっとカードは見なかったことにされるだろう。
(そうなっちゃったら、お揃いのヤツ…)
 望み通りのプレゼントを手に入れられない仲間もいるのがシャングリラ。そういう人には、係が揃いのプレゼントを配る。今年はこれ、と色々な物をラッピングして。
 自分もそうなってしまうのだろうか、十四歳になった後には?
 人類の世界だったら、サンタクロースは教育ステーションまで来てくれるけれど…。
(シャングリラは無理…)
 十四歳でキッチリおしまい、残り五回のプレゼント。何度数えても十四から九を引いた答えは五だったから。今年のクリスマスが来たら九歳になるのだから。



 たったの五回、と溜息をついたサンタクロースからのプレゼント。生まれた年から何度も貰って来たのに、一歳から貰い続けて来たのに、もうすぐおしまい。たった五回で。
(九回の半分よりかは多いけど…)
 けれど九回には全然足りない、これから貰えるプレゼント。ほんの五回しか無いのだから。五回貰えばそれで終わりで、次の年からは…。
(お願いツリー…)
 願い事を書いて吊るしてみたって、「ぶるぅだからな」と破り捨てそうな仲間たち。いつも悪戯ばかりするから、余計に破られるかもしれない。リサイタルをしたいと書かなくても。
(他の子だったら、聞いて貰えそうなお願い事でも…)
 ぶるぅだから、と破られて終わりになりそうなカード。クリスマスの日に貰えるものは、頼んだ品物が手に入らなかった仲間たちのための、お揃いのヤツ。
(…そんなの嫌だよ…)
 あと五回だけでおしまいなんて、と涙が出そうなサンタクロースからのプレゼント。もっと色々欲しいのに。十四歳になった後にも、サンタクロースに来て欲しいのに。
(人類だったら、教育ステーションまで行ってあげるくせに…)
 シャングリラは駄目って酷いんだけど、と文句を言っても始まらない。サンタクロースは、元は人類のために橇を走らせていたのだから。SD体制が始まるよりもずっと前から。
(ミュウの船にも寄ってくれるだけマシなんだよね…)
 十四歳でおしまいとはいえ、ちゃんとシャングリラに来てくれるのがサンタクロース。ミュウの船なんかは知らないよ、と無視はしないで、きちんと橇で。
(トナカイの橇で宇宙を走って…)
 来てくれるのだし、文句は言えない。トナカイの橇も、サンタクロースも、ちゃんと見たから。追い掛けようとしていた年やら、捕まえようとした年やらに。
(サンタさん、ホントに凄いんだけど…)
 地球に行く夢は叶えてくれないけれども、他の願い事は叶えてくれた。とても頼もしくて頼りになるのがサンタクロースで、どんな奇跡でも起こせそうなのに。
(あと五回だけ…)
 残りは五回、と泣きそうな気分。五回だけしかお願い事が出来ないなんて、と。



 衝撃の事実に気が付いた日から、せっせと考えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。残りは五回しかない願い事の数、何を頼めばいいのだろう。今度頼めば、残りは四回。
(その次に頼んだら、残りは三回…)
 どんどん願い事の残りは減って、十四歳になったらゼロ。後はお願いツリーしかない。そんなの嫌だ、と叫んでみたって、人類の世界とミュウの船とは違うから。
(十四歳になったら、もう来てくれない…)
 いくら自分が子供のままでも、十四歳は十四歳。今が八歳なのと同じで、誕生日が来たら増える年の数。十四歳になったらプレゼントは来ない、サンタクロースからの。此処はシャングリラで、人類のための教育ステーションのようにはいかない。
(ぼくが小さくても、十四歳になったらおしまい…)
 誕生日が来ちゃったら駄目なんだよ、と思った所で閃いた。それは素晴らしいアイデアが。
(そうだ、誕生日…!)
 年の数がどんどん増えてゆくのは、誕生日が来てしまうから。誕生日が来る度に一つ増えるのが年の数。今年で九歳、来年は十歳、そうやって増えて十四歳になるわけだから…。
(誕生日が消えてなくなっちゃったら、来年も八歳…)
 九歳ではなくて八歳のままで次のクリスマス、と嬉しくなった。願い事の残りは減らないまま。たったの五回には違いなくても、それより減らない。
(十四歳にならなかったら、サンタクロースは来てくれるんだし…)
 これに限る、と思い付いたのがスペシャルすぎる願い事。サンタクロースなら、きっと願い事を叶えてくれる。地球に行くより簡単なのだし、相手はサンタクロースだから。
(これにしようっと…!)
 決めたんだもん、と部屋を飛び出した。目指すは例のお願いツリー。瞬間移動で行くのも忘れてパタパタ走って、辿り着いて。
(カード、カード、っと…!)
 側に置かれている専用のカード、それを一枚引っ掴んで…。
(これで良し、っと!)
 精一杯の字で読みやすく書いたお願い事。クリスマスにはこれを下さい、と。
 それをお願いツリーに吊るして、大満足で何度も眺めて、引き揚げた。これでサンタクロースが叶えてくれると、凄いプレゼントを貰うんだから、と。



 お願いツリーでサンタクロースに願い事をして得意満面、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はワクワクと帰って行ったのだけれど。自分の素晴らしいアイデアに酔っていたのだけれど…。
「ぶるぅは今年も派手に来たねえ…」
 どうするつもりなんだろう、とソルジャー・ブルーがついた溜息。青の間の冬の風物詩の炬燵に入って、向かいに座ったキャプテンにミカンを勧めながら。
「さあ…。ヤツの発想は、この私にも分かりかねます」
 ですが本当にコレですから、とハーレイが差し出したカードの写し。本物はまだお願いツリーに吊るされたままで、クリスマス・イブの直前に回収されるのだけれど…。
「うーん…。ぶるぅの頭を覗いた方がいいんだろうねえ?」
「他に方法は無いかと思われますが?」
 それとも此処に呼びますか、とハーレイの指がトントンと叩くお願い事。カードに書き殴られた願い事の写し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお願い事はこうだった。
「ぼくの誕生日を消して下さい」。
 どう考えても変な願い事で、誕生日が消えたら困るのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」だろうに。
「…誕生日が消えたら、バースデーケーキも無さそうだけどね?」
「ええ、御馳走もありませんとも。誕生日パーティーも消え失せますが…」
 今年は地味にやりたいだとか、とハーレイの眉間の皺が深くなる。地味にやっても、いいことは何も無さそうですが、と。
「同感だよ。…その分、何処かで別のお祝いをしたいんだろうか?」
「誕生日を別の日に振り替えですか…?」
 クリスマスとセットなのが気に入らなくなって来たのでしょうか、とハーレイも悩む妙な注文。誕生日を消したら何が起こるのか、どう素晴らしいのかが謎だから。
「振り替えねえ…。夏に誕生日を祝って貰って、アイスケーキでも食べたいのかな?」
 超特大のアイスケーキ、とブルーも考え込む有様。そういうことなら、船の設定温度を変えれば今でも充分出来そうだけれど、と。
「アイスケーキですか…。他に誕生日を移動させるメリットがありますか?」
「ぶるぅだからねえ…」
 ちょっと覗いてみた方がいいね、とブルーが飛ばしてみた思念。誕生日を消して下さいと願った理由は何かと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭の中を覗こうと。そして…。



「かみお~ん♪ 呼んだ?」
 何かくれるの? と青の間に瞬間移動して来た「そるじゃぁ・ぶるぅ」。おやつかな、と期待に胸を膨らませたのに、ブルーが「座って」と指差す炬燵。上にはミカンくらいしか無い。ついでにハーレイも帰った後だし、「なあに?」と炬燵に入ったら。
「ぶるぅ、計算の問題だけど…。十四から九を引いたら、幾つ?」
 ギョッとさせられた、その質問。何度も自分で数えた数字。十四歳から九歳を引くと…、と。
「んーと…。五だけど…」
「よく出来ました。それで、ぶるぅは何歳なのかな?」
「えっと、えっとね、もうすぐ九歳!」
「そうだね、クリスマスが九歳の誕生日だと思うんだけど…。誕生日、要らないんだって?」
 御馳走もケーキもパーティーもかな、と訊かれて真ん丸になってしまった目。そこは全く考えに入っていなかったから。
(嘘…。お誕生日が消えちゃったら…)
 八歳のままだ、と喜んだけれど、誕生日が消えればバースデーケーキも消えるのだった。山ほどある筈の御馳走も消えるし、誕生日パーティーも消えてしまうわけで…。
(ぼく、お願い事、間違えちゃった?)
 焦るけれども、誕生日が来るというのも困る。来てしまったら九歳になって、次の年には十歳になって、たった五回しかサンタクロースのプレゼントを貰えないままで…。
(十四歳になっちゃうんだよ…!)
 人類の世界とは違うシャングリラは、十四歳になったらサンタクロースが来てくれない。それは困るし、十四歳になるわけにはいかない。
(誕生日、サンタクロースに消して貰わないと…)
 困るんだけれど、と思うけれども、バースデーケーキも御馳走も、パーティーも誕生日と一緒に消えてしまうというから、どうしたものか。
(ケーキとかは残したままで誕生日だけ…)
 消せないかな、と考えてみても、誕生日だからバースデーケーキや御馳走、パーティーなんかがセットになってついてくるもの。
 その誕生日を消さなかったら、十四歳になってしまって、サンタクロースは…。



 サンタクロースと誕生日と御馳走、バースデーケーキを秤にかけて悩んでいたら。どうするのがいいか、小さな頭を悩ませていたら、「計算を間違えているよ」と声がした。
「ぶるぅ、十四から九を引くのはいいんだけれど…。その計算は合ってるけれどね」
 今度のクリスマスで九歳なんだし、引くのは九じゃないんだよ。そこは八だね。
 サンタクロースがくれる贈り物、残り五回というのは間違いだけど?
 九歳の今年も入れて六回、とブルーは指を順番に折った。「九歳の年と、十歳と…」と。確かにブルーと数え直したら、残りは六回あるらしい。だったら、今年の誕生日は…。
(オマケなんだし、消さなくてもいいかな?)
 五回なんだと思っていたから、オマケの一回、と前向きになった「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
 サンタクロースが来なくなるのは困るけれども、誕生日だって欲しいから。バースデーケーキも御馳走も。パーティーだって、やっぱり欲しいし…。
「誕生日を消して下さい、とお願いするのはやめるかい?」
 ぼくはどっちでもかまわないけどね、とブルーが言うから。
「えとえと…。今年のは消さなくってもいいけど、来年からのは…」
 消して貰わなくちゃ、と答えたのに。
「ふうん…? まあいいけどね、厨房のみんなも楽が出来るから」
 超特大のバースデーケーキも御馳走も作らなくていいし、きっと大喜びだろうけど…。
 でもね、ぶるぅ。シャングリラが人類の世界と違っていたって、サンタクロースは来るんだよ。
 ちゃんと本物の子供がいたら、その子の所へ。
 年が幾つになっていたって、サンタクロースは来てくれる。十四歳を超えていてもね。
「えっ、ホント!?」
 ホントなの、ブルー!?
 でもでも、ぼくの知っている子は、みんな十四歳になったらサンタクロースが来なくって…。
 クリスマスの日に係の人からプレゼントを貰っているんだけれど…。
「それは大人になろうとしている子供だからだよ」
 ぶるぅみたいに悪戯とグルメだけで充分、っていう世界で満足できない子供たち。
 大きくなったら素敵なことがありそうだよね、と思って大人を目指し始めて、サンタクロースを卒業したんだ。みんな、自分でそう決めたんだよ。
 だからね、ぶるぅがサンタクロースに来て欲しい内は、ずっと来てくれるよ、サンタクロース。
 他の子供たちにプレゼントを配るついでもあるから、何年でもね。



 三百年だって来てくれる、と大好きなブルーに教えて貰った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は喜んだ。もう誕生日を消さなくていい、と飛んだり跳ねたり、それは大喜びしたのだけれど。
「…ソルジャー、例のお願いカードですが…」
 ヤツは見事に忘れましたね、とハーレイが呟いたクリスマス・イブの夜。サンタクロースの服に身を包んで、これから「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋までプレゼントを背負って配達に。
「忘れたままになっちゃったねえ…。喜び過ぎて」
 誕生日を消して欲しいというのがプレゼントになっているわけで…、とブルーは笑う。
 せっかくサンタクロースに頼んだのだし、聞いて貰えるのが一番だよね、と。
「ですが、本当に大丈夫ですか? そんなプレゼントで…」
 怒って暴れないでしょうか、と悪戯小僧を恐れるキャプテンに「これ」とブルーが渡した封筒。
「サンタクロースからの手紙だよ。これを一緒に置いて来ればいい」
 他のプレゼントとセットでね。そうすれば、ぶるぅは暴れるどころか喜ぶから。
「はあ…。では、行ってまいります」
 今年は罠も無さそうですし、と大きな袋に長老たちからのプレゼントを詰めて、ハーレイは夜の通路に出て行った。毎年恒例、キャプテンのサンタクロース便。
 次の日の朝、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「クリスマスだーっ!」と勇んで飛び起きたけれど。



「あれ…?」
 ひい、ふう、みい…、と数えたプレゼントの数。いつもの年より一つ足りない。
(ゼルがケチッたかな?)
 それともハーレイが悪戯の罰に取りやめたかな、とラッピングされた箱を何度も数える内に…。
「あーーーっ!!!」
 プレゼントの注文に失敗したんだ、と思い出したのが例のお願いカード。誕生日は消さなくても大丈夫だから、とブルーに教えて貰って大喜びして、それっきり…。
(書き直しに行くの、忘れちゃってた…)
 それで無いのだ、と気付いたサンタクロースからのプレゼント。サンタクロースは願いを叶えてくれたのだから、それがプレゼント。つまりは消えた誕生日。
(ケーキも、御馳走も、パーティーも…)
 全部自分で消しちゃったんだ、とブワッと涙が溢れた所へ届いた思念。ブルーからの。
『どうしたんだい、ぶるぅ?』
「あのね、誕生日が消えちゃった! お願いカードを書き直すのを忘れたから!」
 サンタクロースが消しちゃったんだよ、ぼくの誕生日、クリスマスプレゼントで消えて…。
 バースデーケーキも御馳走も無しで、プレゼントも無し、と泣き叫んだら。
『おやおや…。だけど、パーティーの用意は出来てるよ? おかしいねえ…。あっ?』
 ぶるぅ、手紙が落ちてないかい? プレゼントの横に。
 サンタクロースからの手紙じゃないかな、開けて読んでごらん。
「手紙…?」
 本当だ、と見落としていた封筒を拾って開けたら、こう書いてあった。サンタクロースから。
「誕生日はね、消せないんだよ、ぶるぅ君。そんな悪戯をしたら、私が神様に叱られるよ」
 でも、プレゼントを配るのが私の仕事だからね。どうしようかと考えて…。
 君が悪戯小僧なことは知っているから、今年はプレゼントをあげないことに決めたんだ。
 悪い子には鞭を置いて行くのが約束だけれど、鞭は無しでね。
 来年は鞭を貰わないよう、ちゃんといい子にするんだよ。…悪戯小僧のぶるぅ君へ。



 サンタクロースより、と終わっていた手紙。すると、今年のプレゼントは…。
『無いみたいだね、ぶるぅ。…残念だけれど、その方が良かったんじゃないのかい?』
 誕生日は消えなかったから、というブルーの思念に「うんっ!」と返して万歳したら。
 「お誕生日だあ!」と躍り上がったら、一斉に届いた仲間たちの思念。
『『『ハッピーバースデー、そるじゃぁ・ぶるぅ!!!』』』
 九歳のお誕生日おめでとう、と幾つもの拍手がシャングリラ中に湧き起こる。それに、いつもの年と同じに、超特大のバースデーケーキも御馳走も用意されているようで…。
『ぶるぅ、ぼくと一緒に公園に行こう。パーティーをしなきゃ』
 パーティーには主役がいないとね、と大好きなブルーに誘われたから。
「良かったぁ…。消えてなかった、ぼくの誕生日…」
 プレゼントは貰えなかったけど、お誕生日は残っていたよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は急いで駆け出した。瞬間移動をするのも忘れて、青の間へ。大好きなブルーとパーティーだよ、と。
 クリスマスプレゼントを貰わなかったことが、今年は最高のクリスマスプレゼント。
 誕生日は消えてしまわなかったから、今年もみんなに祝って貰える誕生日。
 生まれた時からずっと子供で、これからも子供の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。来年も、その次も、そのまた次も。三百年でも、ずっと子供で、サンタクロースが来てくれる子供。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、本日をもって満九歳。
 悪戯は少しもやみそうもなくて、これからもグルメ三昧で好き放題の子供だけれど。
 ハッピーバースデー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。九歳のお誕生日、おめでとう!




          困った誕生日・了

※「そるじゃぁ・ぶるぅ」お誕生日記念創作、お読み下さって感謝です。
 悪戯小僧な彼との出会いは、2007年の11月末。
 葵アルト様のクリスマス企画で出会って、せっせと彼の話を捏造。BBSで。

 その投稿が初創作だった管理人。気付けば8年経っていました、アッと言う間に。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」と出会わなかったら、読み手で終わっただろう人生。
 BBS投稿からシャン学が生まれ、流れ流れて、とうとう此処まで。

 原点になった、悪戯小僧の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
 年に一回、お誕生日は祝ってあげなきゃ駄目でしょう。
 クリスマス企画の中で満1歳を迎えましたから、今年9歳になるんです。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、9歳のお誕生日、おめでとう!

※過去のお誕生日創作は、下のバナーからどうぞです。
 お誕生日とは無関係ですけど、ブルー生存EDなんかもあるようです(笑)
  ←悪戯っ子な「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお話v








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