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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

変わり種の鳥

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv




秋のお彼岸が済んでから十日ほどが経った、ある日の放課後。衣替えの時期ですけれども残暑が厳しい年もあることから今は移行期、半袖で登校も許されます。私たち七人グループは長袖、半袖が混ざっていますが、キース君は流石のキッチリ長袖。
「暫く休んで済まなかった。俺がいなかった間に何かあったか?」
「何も無かったけど? 残念ながら」
会長さんが即答しました。キース君が欠席していた三日間の間は平穏無事。特に報告事項も無くて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がいつものようにお菓子の用意をしています。
「コーヒーと紅茶、どっちがいい? 今日は胡桃のタルトなんだけど」
「ぼく、紅茶!」
「俺はコーヒーで頼む」
ジョミー君を筆頭に皆が注文、アッと言う間にテーブルにおやつが並びましたが。
「ちょっと待ってくれ、これもあるんだ」
キース君が紙袋から包装された箱を取り出して。
「つまらないものだが、皆で食べてくれ。俺の土産だ」
「ふうん…。本当につまらないねえ」
芸が無いよ、と身も蓋も無い会長さん。キース君のお土産の包み紙には銘菓の文字があり、旅行先だった地方の名所旧跡のイラストも入っているのですけど、モノはありふれた御饅頭。遠慮なく箱を開けた会長さんが配ってくれてケーキより先に頬張ってみても…。
「普通だよな?」
サム君がモグモグと口を動かし、シロエ君が。
「あえて言うなら蕎麦饅頭ってヤツですか? 中は漉し餡なんですね」
「何処でも売っていそうよ、これ」
包装を変えただけじゃないの、とスウェナちゃん。会長さんが「うんうん」と。
「販売者じゃなくて製造元が書いてあるのは確かだけどさ…。もっと捻りが欲しかったよね」
「やかましい! 土産物を買うのに製造元が地元のを探すのは大変なんだぞ!」
大抵の土産は販売者名だ、とキース君が反論を。
「それだと下手をすれば全国チェーンで名称が違うだけだしな。これでも俺は頑張ったんだ!」
「そうだろうけど…。別に何でも良かったんだよ、ウケ狙いでもさ」
サファリパークにも行って来たくせに、と会長さんは不満そう。ライオン饅頭だとかキリン煎餅が欲しかったんでしょうか、そんな商品が存在するかは謎ですけれど…。



キース君が出掛けた旅行は二泊三日。メインは温泉、それと周辺の観光です。ただし普通のツアーではなく、キース君の属する宗派の青年会の支部が主催の親睦旅行。つまり参加者はもれなくお坊さんだというわけで。
「坊主がサファリパークかよ…。似合わねえよな」
なんかイマイチ、とサム君が言えば、キース君が。
「…その辺もあって、じっくり土産を探せなかった。ウケ狙いは俺も考えたんだが」
「えっ、なんで?」
気にせず選べばいいじゃない、とジョミー君。
「他の人のことは知らないけどさ、キースって普通に髪の毛あるし…。旅行じゃ法衣も着てないだろうし、営業妨害じゃないと思うな」
「ですよね、墨染に袈裟のお坊さんがゾロゾロいたら問題あると思いますけど」
お葬式を連想しますし、とシロエ君も同意。でもキース君は「それが…」と口ごもって。
「サファリパークに限らず、何処でも肩身が狭かったんだ。添乗員さんが真面目な人でな」
「「「は?」」」
添乗員さんが真面目だったら何がいけないというのでしょう? 何かと遅れがちな旅のスケジュールをやりくりしながら必要な時間をたっぷり取ってくれそうですが?
「よく通る声の若い女性で、実に有能な人だった。行く先々で点呼を取って、集合時間とかもキッチリ教えてくれるんだが…。問題は点呼とかなんだ」
「それって普通じゃないですか?」
揃ってますかと訊くヤツでしょう、とシロエ君が確認すると。
「まあ、普通だが…。俺たちのグループがマズかった。どこそこの団体さんはおられますか、と大きな声で言うだろう? そこで呼ばれるのが「アルテメシア組の皆さん」なんだ」
「「「アルテメシア組?」」」
「俺たちの宗派は地方によって教区が分かれる。その中で更に地域別に細分化をして組になるんだが、元老寺はアルテメシア組に属するわけだ。その組の名前で呼ばれてみろ!」
「何かマズイわけ?」
ジョミー君の素朴な疑問に、キース君は。
「組と言ったらヤクザだろうが! おまけに殆どが坊主頭の団体だ! そうでなければ建設業でも通りそうだが、坊主頭だけはマズイんだ!」
「「「あー…」」」
ヤクザの旅行と間違われたわけか、と同情しきりな私たち。それじゃ土産物もゆっくり選んでられないでしょう。周囲の視線が突き刺さりますし、店員さんだって怯えますってば…。



お坊さんとは正反対な稼業のヤクザの団体。行く先々でアルテメシア組の名を連呼されたキース君の旅行ですけど、サファリパークは楽しめたようで。
「土産物こそ買えなかったが、面白かったのはダチョウだな」
「「「ダチョウ?」」」
「記念写真を撮れるんだ。ダチョウに乗ってな」
こんな感じで、と見せて貰った写真の中ではキース君の友人らしい私服のお坊さんがダチョウの背中に乗っていました。へえ、ダチョウって乗れるんだぁ…。
「俺も一応、乗ってみたんだぞ? まあ見てくれ」
次の写真はダチョウの背中に颯爽と跨るキース君の姿。
「オプションで乗って走れるコースもあったが、そっちは時間が足りなくてな」
走ったヤツは誰もいない、とキース君は少し残念そう。
「乗り心地はともかく、鳥の背中に乗れるだけでも面白い。それで走れるなら楽しそうだが」
「うん、本当に楽しそうだね」
乗りたいかも、と相槌を打った声は会長さんにそっくりでしたが、その声は何故か背後から。
「「「!!?」」」
「こんにちは。胡桃のタルトとキースのお土産の御饅頭だって?」
ぼくにもよろしく、と優雅に翻る紫のマント。現れたソルジャーはソファに腰掛け、早速紅茶を注文しました。
「ダチョウって何処で乗れるんだい? ぼくもチャレンジしたいんだけど」
「…乗るだけだったらダチョウ牧場があるよ」
会長さんの台詞に「えっ?」と驚く私たち。それって何処にあるんですか?
「アルテメシアのすぐ近く。車だったら半時間もあれば着く所だね」
行ってみるかい? と会長さん。
「キースも未練があるみたいだし、ブルーも行きたいと言ってるし…。どうせならダチョウレースをお願いするのもいいかもね」
「「「ダチョウレース?」」」
「グループで申し込めるんだよ。コースがあってさ、ダチョウに乗って競馬よろしく疾走するわけ。ただしダチョウは乗って走るのが難しい。鞍も手綱もついてなくって、翼の付け根をしっかり握ってしがみつくだけだと聞いてるね」
やってみたい? という問いに瞳を輝かせる男子たちとソルジャー。もちろん小さな「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。
「かみお~ん♪ ぼく、乗りたい!」
ダチョウさんに乗って走るんだぁ! と拳を突き上げ、やる気満々。どうやら次のお出掛け先はダチョウ牧場になりそうですねえ…。



こうしてダチョウ牧場行きが決定しました。行楽の秋とはいえ、ダチョウ牧場はそんなに混んではいないスポット。今週末でも良かったのですが、キース君が旅行帰りとあって来週の土曜日に行くことに。早速、会長さんが電話をかけて…。
「うん、オッケー! ダチョウレースは貸し切っといた。でないと落ちた時に晒し者だし」
見物客がいた場合、と説明されて納得です。無様な姿は他人様には見られたくないもの。乗り方が難しいダチョウともなれば尚更で。
「えーっと、それって練習できるの?」
当日までに、とジョミー君が訊けば、会長さんは素っ気なく。
「自分で行ってくるならね。放課後の自主練、大いに歓迎。今度の土日も行っておいでよ」
「面倒だし! 他に行く人がいるならいいけど…」
誰か一緒に、とキョロキョロ見回すジョミー君ですが。
「ぶっつけ本番でいいじゃねえかよ。みんなそうだぜ?」
サム君が突き放し、キース君も。
「普通はぶっつけ本番だろう? 運だめしってことで俺は落ちても気にしない」
それも一興、との意見にソルジャーが。
「だよねえ、ぼくも自分の運動神経に賭けたいな。サイオンは抜きで」
一応自信はあるんだよね、とバランス感覚を自慢しています。
「ブルーも乗るだろ、サイオン抜きでね」
「うーん…。正直、ぼくは自信が無いんだけれど…。まあ、いいか」
落っこちた時はサイオンでガード、と会長さんもサイオン抜きを選択しました。これはなかなか楽しいレースが見られるかもです。えっ、自分の立場はどうしたって? スウェナちゃんと私は見学ですとも、記念撮影だけで充分満足。でもって、会長さんたちは…。
「そうだ、ハーレイも呼ぼうかな? サイオン抜きなら」
あの体格なら落っこちそうだ、とほくそ笑む会長さんに、ソルジャーが。
「それはどうかなぁ? 柔道とかで鍛えてるんだし、バランス感覚は良さそうだ。…ぼくのハーレイはどうだろう? ハーレイ同士で技を競うのもいいかもね」
「いいね、たまには健康的にスポーツなんかもお勧めするよ」
普段はロクな目的で来ないから、と会長さん。
「ちょうどスポーツの秋だしさ! こっちのハーレイは誘っておくから、君たちも二人で来るといい。ぶるぅも呼んであげたいけれどさ、悪戯がね…。ダチョウは怒ると怖いんだよ」
「そうなのかい? だったら、ぶるぅは留守番だね」
危険は回避しなくっちゃ、とソルジャーはキャプテンとの二人参加を決めました。ダチョウ牧場とレース、楽しみですよね!



その週末の日曜日。会長さんの家でピザ食べ放題のパーティーをしていた私たちの前に、いきなりソルジャーが現れて。
「ぼくにもピザ! そこのと、それと…」
誰もどうぞと言っていないのに椅子に座って好みのピザを鷲掴み。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が取り皿を持って来るよりも先に齧りついています。
「うん、美味しい! でもってダチョウも美味しいってね?」
ダチョウ牧場のメニューを覗き見したよ、とソルジャーは食い意地MAXで。
「ダチョウの卵のオムライスとか、チーズケーキとか、プリンとか! 丸ごとの目玉焼きなんかも捨て難いよねえ、もちろんダチョウステーキも! 当然、食べに行くんだろう?」
「そりゃあ、もちろん」
ダチョウレースでお腹もすくし、と会長さん。
「ハーレイを呼ぶから予算の方も心配いらない。好きなだけ食べて大満足だね」
「嬉しいなぁ。ぼくのハーレイもダチョウ料理でパワーアップだ」
「パワーアップ?」
なんでまた、と会長さんは首を傾げて。
「ダチョウ料理はヘルシーなのが売りなんだよ? 高たんぱく質、低脂肪、低カロリーってことで注目されてる食材なんだ。ダイエット志向の女性はもとより、メタボ気味な男性にもお勧めで」
「えーーーっ? 精がつくんじゃないのかい?」
そんな馬鹿な、と素っ頓狂な声を上げるソルジャー。
「だってダチョウって、絶倫だろう? 一夫多妻でヤリまくりの!」
「「「は?」」」
いったい何処からそんな話に、と誰もが顔を見合わせましたが。
「調べたんだよ、せっかくダチョウに乗るんだからね! ライブラリの資料じゃイマイチだったし、ノルディの家でパソコンを借りた。そしたらノルディが手伝ってくれて」
「…どんな風にさ? ガセ情報でも仕入れたんだろ?」
あのノルディならやりかねない、と会長さんが指摘したのをソルジャーはフンと鼻で笑って。
「甘いね、ノルディはきちんとダチョウ牧場について調べてくれたよ。…検索ワードが絶倫だったことは認めるけどさ」
でも本当に本物のダチョウ牧場のホームページが見付かったのだ、と胸を張るソルジャー。
「実はダチョウはスゴイんです、って書いてあったよ、取材に入った記者の視点で!」
「「「………」」」
どうスゴイのだ、と訊きたいような聞きたくないような。ダチョウってホントに凄いんですか?



「いやぁ、この時期で良かったよ。冬は繁殖期じゃないらしくって」
卵も産まないらしいんだよね、と話し始めたソルジャーは顔を輝かせて。
「そして繁殖期のダチョウってヤツは凄いんだ。一羽のオスにメスが二羽、三羽は当たり前! それを殆ど百発百中、有精卵の率も高いんだってさ。だから美味しい!」
「…それで? 有精卵の料理を食べてあやかりたいと?」
会長さんが突っ込みを。
「残念だったね、卵の方もヘルシーだから! 精がつくようなモノじゃないから!」
「そっちの方はいいんだよ。あやかりたいのはダチョウのパワーで、料理じゃないし!」
まあ聞きたまえ、とソルジャーの瞳がキラキラと。
「ダチョウが普通の鳥と違うのは知っている?」
「…飛べねえよな?」
サム君が真っ当な意見を述べた横から、キース君も。
「飛べない鳥なら他にもいるが、走る速さは馬並みらしいな」
「そう、馬並み! 時速七十キロまで出せるんだってさ、直線コースなら馬にも負けない」
でもそれだけじゃないんだな、とソルジャーは膝を乗り出して。
「馬並みと言えば有名な例えがあるんだってね?」
「「「は?」」」
「大事な部分が大きいこと! 男の分身で息子とも言うヤツ」
「退場!!!」
会長さんがレッドカードを突き付けましたが、ソルジャーに効果がある筈もなく。
「まだ猥談はしてないよ? ダチョウの話をしてるだけでさ」
しれっとした顔で返したソルジャー、更に続きを。
「ダチョウが他の鳥と決定的に違う部分は飛べない所じゃないんだな。飛べない鳥はダチョウの他にも沢山いるだろ? ダチョウのオスには大事な息子がついている。これが重要!」
「えっ? 鳥ってどれでも…」
交尾するよね、という後半部分をジョミー君は口にしませんでした。けれど誰もが思いは同じ。鶏にしたって有精卵を売ってるってコトは、それなりに…。
「違うよ、ダチョウと白鳥と鴨とか以外の鳥にはくっついてないんだってば! 代わりに専用の器官があってね、それを使って交尾するわけ。だからメスが合意しないと交尾は出来ない」
そんな話は初耳でした。そっか、ダチョウって他の鳥とは違うんだ…。って言うより、他の鳥の方が犬とか猫とかの動物とは違う身体の構造なんだ?
「知らなかったんだ? というわけで、ダチョウの凄さはここからなんだよ」
ぜひ聞いてくれ、とソルジャーは生き生きしていますけど。その話、聞いても大丈夫?



普通の鳥とは違っているらしいダチョウの身体。ソルジャーはエロドクターの力を借りて色々調べてきたようです。ん? エロドクター? なんだかとてつもなく嫌な予感が…。
「それでね、さっきの馬並みだけどさ…」
もうこの部分が最高で、とソルジャーは拳を握りました。
「ダチョウのアレって、サイズが半端じゃないんだよ! 首の半分はあろうかっていう特大サイズで、それを駆使してメスとガンガン交尾するわけ!」
凄いだろう、と胸を張られましても、どう返したらいいのやら。けれどソルジャーは滔々と。
「おまけにアレを持ってる所が素晴らしい。使い物になる状態であればガンガンやれるし、メスの合意は要らないってさ。つまりレイプも可能ってことで」
「その先、禁止!」
会長さんの必死の制止もソルジャーには届いていませんでした。
「自分さえ準備オッケーだったら相手を選ばずヤリまくる! それにさ、オスの準備が整っていれば人間がお手伝いもしているようだし」
「「「は?」」」
「分からないかな、ダチョウのアソコを丁重に持って、メスに突っ込んであげるわけ! そうすれば目出度く有精卵が出来るってことで、ダチョウ牧場では普通らしいよ?」
この図太さも素晴らしすぎだ、とソルジャーは感慨深げです。
「ぼくのハーレイは見られていると意気消沈だって言ってるだろう? なのにダチョウは見られるどころかお手伝いまでされてもOK! 馬並みといい、図太さといい、これにあやからずしてどうすると? そのためには食べてパワーを充填!」
精力のつく料理でなくても効果が無いとは言い切れない、と語るソルジャー。
「そしてダチョウの交尾ってヤツも本当に凄いらしいんだ。オスがね、メスにドサッと乗っかって腰を揺すってウンウンと…。それは気持ち良さそうにヤッてるんだって書いてあったし!」
この辺も夜の生活の基本、とソルジャーはパチンとウインクしました。
「気持ち良さそうに交尾する動物って、あまり聞いたことないだろう? ダチョウは実に素晴らしいよ。そんなダチョウを無事に乗りこなして、美味しい料理をしっかり食べれば御利益の方もバッチリだよねえ?」
ハーレイの中にダチョウのパワーを取り込むのだ、と燃え上がるソルジャーは、自分や会長さんや男の子たちも同じコースを歩む事実を綺麗に忘れているようです。ダチョウレースとダチョウ料理で変なパワーが身につくのなら、誰もやりたがらないと思いますけどね?



そんなこんなで思考がブっ飛んでしまったソルジャー、ダチョウのパワーを教頭先生にも伝えておきたいと言い出しました。教頭先生が会長さんに惚れ込んでいることを踏まえてです。
「ダチョウレースに参加する以上、知っておくべきだと思うんだよ」
「迷惑な! 第一、ハーレイはパワーにあやかる以前だし!」
そもそも相手がいないんだから、と会長さんは突っぱねましたが、次の瞬間、青いサイオンがパァッと走って教頭先生が私たちのいるダイニングに。
「…??? どうしたのだ?」
「やあ、ハーレイ。ちょっと伝えたいことがあってね」
ピザはすっかり食べちゃったんだけど、と舌をペロリと出すソルジャー。
「だけど話は美味しいと思うよ、聞いといて損はしないから!」
ぼくのお勧め、とダチョウの凄さを喋りまくるソルジャーと、耳まで真っ赤になった教頭先生と。鼻血レベルではないようですけど、刺激的な内容に違いはなくて。
「…というわけでね、今度の土曜日のダチョウレースは心して挑むべきだと思うよ」
何が何でもゴールイン、とソルジャーはニコリ。
「君はいわゆる攻めだろう? いや、まだ実践には至ってないけど、ブルーとヤるなら当然、君が攻めだよね? 攻めを目指すならダチョウくらいは乗りこなすべき!」
嫌がる相手にものしかかってこそ、と焚き付けるソルジャーに会長さんが眉を吊り上げて。
「のしかかられる趣味は無いけれど?」
「ご愛敬だよ、その点は! ダチョウはレイプも可能な変わり種の鳥! その勢いでいつかは嫌がる君を組み敷くのも男の甲斐性! そうだろ、ハーレイ?」
「…は、はあ…。まあ…。しかし、私は…」
「ブルーの嫌がることはしないって? それもいいけど、パワーは大切!」
まずはそこから、とソルジャーは力説しています。
「ダチョウレースで見事なゴールを披露するのも今後のための布石だよ。ダチョウは意中のメスを相手にダンスでアピールするそうだ。そんな感じでブルーに君のパワーをアピール!」
不幸にして落ちても追いかけて乗れ、と言うソルジャー。
「時速七十キロの相手を追うんだ、カッコイイなんてレベルじゃないよ? 追い付く自信が無いというなら落ちても根性でしがみつく! 背中に乗り直すのが不可能だったらダチョウを担げばいいと思うな」
ダチョウには足があるんだし、とソルジャーは斜め上な提案をかましました。
「あの長い足を肩に担いで肩車! それで疾走してゴールインするのも素晴らしいよね」
健闘を祈る、と言われた教頭先生、ダチョウパワーに圧倒されたか、はたまた妄想爆発か。ダチョウレースで会長さんにアピールする、と決意も新たにしておられますが、はてさて、結果はどうなりますやら…。



ダチョウレースに遊びしか求めていない面子と、ダチョウパワーを夢見るソルジャー夫妻と、ソルジャーに丸め込まれてレースに挑む教頭先生と。土曜日を迎えて、会長さんのマンションに集合してからマツカ君が手配してくれたマイクロバスに乗り、ダチョウ牧場に到着です。
「わぁーい、ダチョウさんが一杯だぁ~!」
何処で乗れるの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大はしゃぎ。まずは牧場を見学してから、レースに備えて腹ごしらえというコースですけど…。
「…うーん…。何処に行ったらやってるんだろう?」
ソルジャーの疑問に、会長さんが。
「ダチョウレースは一番奥に専用のコースがあるらしいよ。今日は貸し切りだし、行っても見学出来ないさ」
「それは知ってる。ダチョウレースは後でいいんだ。そうじゃなくって、肝心のアレ」
「何さ?」
「ダチョウの馬並み!」
走りじゃなくて、と言い放ったソルジャーの肩を会長さんの手がピシャリと一撃。
「いたたたた! 何するのさ!」
「君が悪いんだろ、場を弁えずに発言するから!」
「でもさあ、せっかく来たんだし…。こんなに沢山ダチョウがいるんだし、見学しないのは損だと思う。…ハーレイ、お前もそうだろう?」
見たいよねえ、と話を振られたキャプテン、頬を染めてゴホンと咳払い。
「そ、それはまあ…。凄いと話を伺いましたし」
「あの首をごらんよ、あんなに長い首の半分もあるんだよ? お前の何倍くらいだろうねえ…」
「…も、申し訳ございません…」
「いいって、いいって! 人間は人間に見合ったサイズってヤツがあるからね」
お前は大きい部類の筈だし、と嫣然と笑まれてキャプテンは真っ赤。その顔色にも負けない色をしたレッドカードを会長さんが突き付けているのに、ソルジャーは我関せずと。
「見るだけで御利益ありそうだしね? 絶対、現場を見なくっちゃ!」
馬並み、馬並み、と連呼するソルジャーが先頭に立ってキャプテンと腕を組みつつ牧場見学。私たちは恐ろしい現場に出くわさないよう祈るばかりです。…と、行く手に現れたおじさんが一人。
「見学かい? ダチョウのアソコはホントのホントに大きくてねえ…」
いきなり話し掛けられて目が点ですけど、馬並み発言が聞こえていたに違いありません。
「交尾をね、さっきもやっていたんだけど、見た?」
「えーーーっ!? 何処で?」
ソルジャーが大声を上げ、おじさんが。
「見逃したんだ? 残念だねえ」
ハッハッハ…と呵々大笑して去ってゆくおじさんは牧場のオーナーさんでした。「またその内にやり始めるから」と言われたソルジャー、それから後は右へ左へ。呪文の如く「馬並み、馬並み」と唱える姿が怖いですってば…。



ソルジャーの歩くコースが悪かったのか、ダチョウにその気が無かったのか。幸いなことに絶倫を誇るダチョウがパワーを発揮する現場には出くわさなくて済みました。そろそろ昼御飯の時間です。予約しておいた食堂に行くと、テーブルの上に大きなホットプレートが。
「何するんだろ、これ?」
ジョミー君が指差し、シロエ君が。
「…ステーキでしょうか? なんだか雰囲気イマイチですけど」
「だよなあ、ステーキも焼けるけどよ…」
焼いて鉄板に乗せて来るのがいいよな、とサム君がぼやいた所へ食堂のおばさんが大きな卵を抱えて来ました。大きいなんてものではなくて桁違い。
「はい、お待たせ~。ダチョウの目玉焼き、始めましょうね」
なんと卵を割るための道具がハンマーなどの日曜大工の世界なアイテム。分厚い殻をガンガンと割って取り除いていき、中身が見えるようになったらホットプレートの上にドロリと。超特大の目玉焼きが出来るまでの間にオムライスとステーキが出て来ました。うん、美味しい!
「いいね、これ! はい、ハーレイ。あ~ん♪」
「どうぞ、ブルー。あ~ん♪」
「「「………」」」
始まりました、バカップル。見ないようにと食事に集中、視線はホットプレートへも。固まりにくいというダチョウの卵の目玉焼きが焼けて切り分けられると、バカップルはこれまた「あ~ん♪」で、デザートのチーズケーキとプリンは甘いものが苦手なキャプテンの分までソルジャーが。
「ありがとう、ハーレイ。でもさ、ちょっとは食べてよね。あやからなくっちゃ」
「そうですね。ダチョウのパワーは凄いのでしたね」
「馬並みだしね? はい、あ~ん♪」
バカップルのやり取りを教頭先生が涎の垂れそうな顔で見ていて、会長さんに。
「…ブルー、そのぅ…。よかったら、私のケーキとプリンを…」
「くれるって? ブルー、君のぶるぅに差し入れはどう?」
ハーレイが気前よくくれるらしいよ、と会長さんはマッハの速さでソルジャーに回し、教頭先生の愛が詰まったケーキとプリンは空間を超えて「ぶるぅ」の胃袋に収まった模様。
「ぶるぅが御礼を言ってたよ。ありがとう、ハーレイ」
「い、いえ…。御礼でしたらブルーの方に…」
悄然と項垂れる教頭先生ですが。そもそも甘い食べ物は苦手なんですから、会長さんに譲った所で愛情は評価されないですよ?



昼食が終わって一休みしたら本日のハイライト、ダチョウレース。ダチョウの放牧場を抜けてゆく間もソルジャーは交尾中のダチョウを求めてキョロキョロと。ついに見付けられないままにレース場へと到着です。おおっ、ゲートもあって本格的~!
「かみお~ん♪ ダチョウさん、決めていい?」
どれに乗ろうかなぁ、と飛び跳ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお目当てのダチョウを決めると、他の面々も係員の人と相談しながらダチョウ選び。教頭先生とキャプテンには一際大きな身体のダチョウが選ばれました。
「いいですか、乗る時は翼の付け根をしっかり握って下さいよ。落ちたらすぐに逃げて下さい」
でないと蹴られますからね、と係員さん。しかしソルジャーは…。
「えーっと、ハーレイ? お前じゃなくて、そっちのさ…。落ちて逃げたらカッコ悪いよ?」
「分かっております。何が何でもゴールインでしたね」
ブルーにアピールするためにも、と胸を叩いておられる教頭先生。会長さんは「やれやれ」と。
「ぼくはどうなっても知らないからね? そもそも今日は反則無しだし」
あえてサイオンと言わない会長さんに、ソルジャーも。
「そうだよ、ぼくも頑張るつもり。ダテに場数は踏んでいないさ」
まあ見ていろ、と嘯くソルジャーを筆頭に会長さんや教頭先生、男の子たちもダチョウの背中に。スウェナちゃんと私もダチョウに乗って記念撮影タイムです。それから皆のゲート入りを見届け、スウェナちゃんと私は観覧席へ。間もなく係員さんが旗を振り上げ、ゲートが開いて。
「うわぁーっ!!」
猛ダッシュのダチョウから一番最初にジョミー君が落ち、続いてサム君。柔道部三人組は頑張ったものの、マツカ君、シロエ君、キース君の順にコースに落下。会長さんとソルジャーは共に見事な走りっぷりで、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がその後ろを。おおっ、ソルジャー、ゴールイン!
「やったね、勝った!」
ガッツポーズで飛び降りるソルジャーに続いて会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も走り込みましたが、教頭先生とキャプテンのダチョウはスピードの方がイマイチです。やっぱり二人とも重いですし…って、うわぁ、同時に落ちちゃったぁー!
「「「!!?」」」
転げ落ちたキャプテンはコース外に退避したのに、教頭先生はダチョウの足を両手でガッツリと。弾みで転倒したダチョウを担ぎ上げ、バタバタ暴れる足を掴んで肩車よろしくノッシノッシと…。ほ、本気ですよ、ソルジャーに唆されたとおりにダチョウを担いで歩いてますよ~!
「き、危険です! 放して下さい、ダチョウは怒ると非常に危険で!」
係員さんの絶叫も聞かずにノシノシと。会長さんのハートを射止めるためならダチョウを担いで肩車ですか、そうですか…。



早々に落ちた男の子たちや、ゴールインした会長さんたちが見守る中を教頭先生はダチョウの足をしっかり握ってゴールへと。やっぱりここは拍手でしょうか? あれっ、ゴールでダチョウを回収していた係員さんたちが逃げましたよ? なんで?
「ブルー、ゴールだ! 見てくれたか!?」
教頭先生が高らかに叫び、ダチョウを肩から地面に下ろしたその瞬間。前向きに下ろされたダチョウがクルリと教頭先生の方に向き直り、思いっきり足を蹴り上げました。ゲシッという鈍い音に合わせて『キーン!』と思念でアフレコした人がソルジャーだったか会長さんかは分かりません。
「……ぐうっ!!」
教頭先生、股間を押さえて地面に転がり、まさに悶絶。まだ蹴り付けようとするダチョウを係員さんたちが網で取り押さえ、間もなく担架が運ばれて来て。
「大丈夫ですか、すぐに救急車が来ますから!」
駐車場まで運びます、と教頭先生は抱え上げられ、担架の上に。唸っているだけの教頭先生に会長さんが冷たい一瞥。
「とんだアピールだねえ、使い物にならなくなるかもね、アレが」
「……うう……」
言葉になっていない教頭先生の心の声が零れて来ました。『それは困る!』と、切実に。
「使い物にならなくなったら大変だしねえ…。えっと、救急車を呼んだって? だったら搬送先を指定していいかな、ぼくが懇意にしている病院」
そこによろしく、と会長さんが係員さんに告げた病院はエロドクターが経営している総合病院。
「何処よりも頼れる病院なんだよ、任せて安心!」
「そうですか。では、救急隊員にそう伝えます」
とにかく早く運びませんと、と担架を担いでゆく係員さんたち。その後ろ姿を追うように、会長さんの思念波が。
『ふふ、本当に使い物にならなくなるかもねえ? ダチョウの蹴りは犬も殺すと聞いてるし…。ハーレイのアソコを潰すくらいは朝飯前だよ、それにノルディもついてるし』
『…な、なんだと…?』
教頭先生の脂汗が垂れそうな思念波が届き、会長さんが。
『ライバルはアッサリ処分かもねえ? 手間暇かけて治療するより切断手術をしてしまうとか』
『…そ、そんな…! そんなことになったら私は…!』
『困るって? ぼくは全然困らないんだな、どちらかと言えば大歓迎かも』
君が結婚出来なくなるし、と思念で嘲笑う会長さん。教頭先生、もしや本当に切断の危機? ダチョウにあやかってパワーどころか、肝心の部分が無くなりますか…?



「…悪いことをしちゃったかなぁ…」
ダチョウは蹴るなんて知らなかったんだよ、とソルジャーが係員さんたちがいなくなったレース場で呟きました。ダチョウレースに使われたダチョウは後で回収ということで大きな囲いに入れられています。
「犬も蹴り殺すんだって? ハーレイのアソコ、大丈夫かな…」
「私も心配でたまりません。御無事だったらいいのですが…」
やはり縫ったりするのでしょうか、とキャプテンの顔色も冴えませんけど、会長さんは他人事のようにクスクスと。
「…本人も気付いてないようだけれど、ちゃんとサイオンが発動したさ。タイプ・グリーンは流石だよ。表面はダメージ深そうだけどね、中身の方には問題ない、ない!」
「…表面って?」
ソルジャーの問いに、クスッと笑う会長さん。
「うーん、厚みはどのくらいだろ? 薄皮よりかは深い部分まで届く一撃ではあったと思う。あんな所の打ち身なんかは聞いたことがないし、やっぱり腫れたりするのかな? それともアザかな、どっちにしたって見たいと思わないけれど」
「そ、それは…。痛いのは思い切り痛そうだねえ?」
たとえ打ち身でも、と大袈裟に震えてみせるソルジャーに、会長さんは。
「当分、トイレが辛いかもね? だけど腫れたら自慢の部分の体積が増える。ノルディも大いに笑ってくれるさ、切ると脅すのもホントにアリかも」
「…じゃあ、君にアピール出来るようになるまで当分の間は入院とか?」
「どうだろう? ズボンが普通に履けない間は学校には来られないからねえ…」
全治一ヶ月か数週間か、はたまた二日か三日で復帰か、と会長さんは無責任なことを可笑しそうに喋っていましたが…。
「シッ、黙って!」
ソルジャーが人差し指を唇に当てて。
「始まりそうだよ、例の馬並み! あっちの牧場で羽をバサバサしてるだろ?」
「「「???」」」
レース場から少し離れた放牧場で一羽のダチョウが大きな翼をバタつかせていました。
「ノルディから仕入れた情報ではねえ、まずはダンスで始まるらしい。それから馬並みのアレがニュニュ~ッと出て来て、メスの上に乗ってひたすらヤる!」
見に行ってくる、とソルジャーはキャプテンの手をしっかり握って二人で走り去ってゆき…。



ヤリまくっているダチョウとやらは遠目にはサッパリ謎でした。けれどソルジャーとキャプテンは放牧場の柵に張り付き、しっかり見学しているようです。おまけに時々、頼みもしないのに歓喜の思念波が伝わってきたり…。
『凄いよ、まさに馬並みだって!』
『本当ですねえ…。あんなパワーを秘めた鳥に乗って走れた上に、料理まで…』
『だろう? おまけに現場も見られたんだし、もう最高にラッキーだよ! 今夜が楽しみ』
『私もです、ブルー。パワーが湧き上がってくる気がします』
頑張りましょう、とソルジャーの肩を抱いているキャプテン。毎度のバカップルがダチョウで更にパワーを増したようですけど、遠くの方では救急車のサイレンがピーポーと。
「…教頭先生、運ばれてったみたいだね…」
エロドクターの病院に、とジョミー君が言い、マツカ君が。
「ダチョウに蹴り飛ばされるなんて…。乗るのは面白かったんですけれど…」
「逃げなかったハーレイがバカなんだよ、うん」
ブルーの口車に乗る方が馬鹿、と会長さんは全く同情しませんでした。
「ダチョウなんかには馴染みが無い筈のブルーでさえも、あれだけ知識を仕入れてたんだよ? こっちのハーレイがダチョウの蹴りを知らなかったでは済まされない。うんと後悔すればいいさ」
そう簡単にぼくは落とせない、と嘲笑う会長さんの視線の先ではバカップルが固く抱き合っています。ダチョウのカップルは離れてますから交尾が終わったのでしょう。そして感銘を受けたバカップルが熱いキスを交わしているわけで…。
「結局、ダチョウで得をしたのはブルーかな? ダチョウレースは楽しかったけどね」
「かみお~ん♪ ハーレイが治ったら、また来ようね!」
今度はぼくが一番だもん! と純粋にレースの順位だけが気になる「そるじゃぁ・ぶるぅ」はダチョウ牧場にまた来る気です。それを聞き付けたらしいソルジャーが「ぼくも来る!」と手を振りながらこちらへと。ダチョウのパワーは表裏一体、吉だと絶倫、凶だと大怪我でよろしいですか?




        変わり種の鳥・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 ダチョウの話は嘘ついてません、本当にそういう鳥なんです。
 乗って走れる件も本当、やってみたい方はダチョウ牧場にお出掛け下さい。
 本年の更新はこれにておしまい、皆様、どうぞ良いお年を。
 次回は 「第3月曜」 1月18日の更新となります、よろしくです~!

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 こちらでの場外編、12月は、外来種のスッポンタケが欲しいソルジャーが…。
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