シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
学園生活も今日で3日目。教室に入ってきたグレイブ先生は思い切り不機嫌そうでした。
「今日は校内見学日だ。…ったく、いつになったら授業を始められるというのか…。この学園の気風とはいえ、私は未だに納得がいかん」
そりゃそうでしょうね。入学式の日に実力テストを始めるような先生です。授業もきっと厳しいだろうな…。
「だが、私の一存で変えられるような組織でもない。校長先生は絶対だ。校内見学、大いによし!と言っておこう。特にこれといった決まりはないから、各自、校内を自由に見学するように」
やったぁ!校内見学、楽しそうです。一緒に回るならやっぱりジョミー君たちですよね。昨日のカラオケも盛り上がりましたし。
校内見学は新入生全員の行事ですから、廊下に出るとすぐにサム君やシロエ君とも合流することができました。これからずっと7人グループってことで決まりでしょうか。まずは何処から見ていこうかな?
「食堂は何時からだっけ。まだ開いていないのかな」
「おいおい、ジョミー…。いきなり食堂って、腹が減ったのか?」
サム君が呆れた顔をし、私も食いしん坊だなぁ…と思ったんですけども。
「違うよ。昨日のエッグ・ハントで貰った食券に変なのがあってさ…本当にメニューにあるのかと思って」
「どんな料理だよ?」
「……クレープ冷麺」
「「「クレープ冷麺!!?」」」
私たちは思わず叫んでいました。そんなもの聞いたこともありません。
「嘘じゃないよ、ほら」
ジョミー君が財布から取り出した食券には確かに『クレープ冷麺』と書いてありました。え、えっと…間違いなく食券は存在しますね。
「俺は初耳だ。シロエ、お前は聞いたことがあるか?」
「ありませんよ。…でも食堂はまだ開いてませんよね」
キース君とシロエ君も興味がでてきたようですが…食堂は多分、お昼前にならないと開かないでしょう。クレープ冷麺は気になりますけど、まずは時間を潰さなくっちゃ。
「ジョミー、食堂の前にプラネタリウムに行ってみない?」
スウェナちゃんが言いました。
「私、プラネタリウム大好きなの。学校に小さなのがあるって聞いてずっと楽しみにしてたのよ」
「ああ、もしかしたら上映会をやっているかもしれませんね」
マツカ君の言葉が決め手になって、最初の見学先はプラネタリウムに決まりました。一番奥の校舎の最上階に天文教室があって、プラネタリウムはその隣です。エレベーターもありましたけど、柔道一直線のキース君は…。
「大した階段じゃないんだ、歩け、歩け!でないと筋力が衰えるぞ。そうだな、シロエ?」
「ええ。階段の上り下りはいい運動になるんですよ!」
そういうわけで5階まで階段で上ることになりました。あ~ん、いきなり運動ですよぉ…。
プラネタリウムに辿り着いてみると、見学者は誰もいませんでした。いきなり一番奥の最上階から回ろうという生徒は珍しいのかも。でもちゃんと担当の先生が待っていて下さり、照明を落として色々と解説しながら上映をして下さいました。
「プラネタリウムの機械は高価なので、生徒の皆さんに勝手に触っていただくことはできないのですが…天文教室の各種設備は授業などでも使いますから、見学していくといいですよ」
貸切状態でプラネタリウムを堪能した後、私たちは言われたとおり天文教室に入ってあちこち眺めていたのですが…。
「あら?…このモニター、勝手に電源が入ったわ!」
スウェナちゃんが指差したのは教卓の隣の机に置かれた先生用(多分)の大きなモニター画面でした。
「星だな…。いや、宇宙空間が映っているのか?」
キース君が言うとおり、真っ暗な空間に瞬かない星が散らばっています。天文学の教材でしょうか?
「先輩、ここに何かいますよ」
シロエ君が指差す場所に白い点がボウッと映っています。その物体に近づくようにモニターの星が流れていって、ぼんやりと形を取り始めると。
「…宇宙クジラ…?」
スウェナちゃんが呟きました。白いそれは輪郭がぼやけていますが確かにクジラのように見えます。
「マジかよ!宇宙クジラなんて嘘っぱちだろ?」
「ああ、UFOだとか言われてはいるが実在してはいないだろう。この映像は悪戯だな」
サム君とキース君が言いましたけど、スウェナちゃんは真剣に画面を見つめていました。
「でも、本物かもしれないわよ。本物だったらラッキーだわ。宇宙にクジラが泳いでるなんて、とても素敵だと思わない?」
「ちぇっ。スウェナはロマンチストだもんな」
ジョミー君が舌打ちをした時です。
「…スウェナが正しい。その映像は宇宙クジラだ」
背後からの声に振り返ってみると生徒会長さんが立っていました。いつの間に入ってきたのか全く気付きませんでしたけど。
「君たちにこれが見えたことにも意味がある。勝手に電源が入っただろう?…おや、他の生徒たちが来てしまったか…」
ガヤガヤと見学中の新入生グループが入ってきました。あっ、と思う間もなくモニターの電源が切れ、宇宙クジラの映像もそれきり消えてしまったのです。
「宇宙クジラもいなくなったことだし、ぼくは行くよ。君たちは校内見学を続けたまえ。気が向いたらぶるぅの部屋に来ていいからね」
生徒会長さんはキャーキャーと騒ぐ女子生徒たちをかき分けながら教室を出て行ってしまいました。凄い美形ですもん、騒がれるのも無理はありません。
「…会長さん、何が言いたかったんでしょう?」
マツカ君が首を傾げましたが、誰にも分かりませんでした。天文教室は混んできましたし、話すなら廊下に出なくては…。
「宇宙クジラだって言ってたわよね。会長さんは何か知ってるんだわ。生徒会室に行けば会えるかしら?」
「それもいいけど、そろそろ食堂が開くんじゃないかな」
「ジョミー、お前、食堂の話ばっかりだぞ」
「だって!気になるじゃないか、クレープ冷麺」
ジョミー君とサム君、スウェナちゃんが揉め始めたのを収めたのはキース君でした。
「そろそろ昼飯の時間ではある。…宇宙クジラの追求もいいが、まずは腹ごしらえだろう。腹が減っては戦はできぬ、と言うしな」
「さぁっすがぁ!キース、話が早いや」
「じゃ、次は食堂で決まりですね、キース先輩」
私たちはジョミー君の食券の謎を解き明かすべく食堂へ向かうことになりました。宇宙クジラとクレープ冷麺、どっちも気になる存在です…。