シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園、只今、夏休み真っ最中。キース君たち柔道部三人組は柔道部の合宿、ジョミー君とサム君は璃慕恩院へ修行体験ツアーに出掛けてお留守です。こういう時には、男の子抜きで会長さんや「そるじゃぁ・ぶるぅ」と遊びに行ったりするんですけど。
「かみお~ん♪ 明日はベリー摘みに行くんだよ!」
「「ベリー摘み?」」
スウェナちゃんと私はオウム返しでしたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「あのね、ちょっと作ってみたいものがあるから…」
「いろんなベリーが欲しいんだってさ」
だから農場へお出掛けしよう、と会長さん。マザー農場かと思いましたが、それとは別。サイオンを持つ仲間が経営している農場の一つで、ラズベリーだとかブルーベリーだとか。コケモモなんかもあるのだそうで…。
「ぶるぅは、サフトって言ってたかな? 寒い北の国の飲み物を作りたいらしいよ」
「えっとね、夏の太陽がギュッと詰まったベリーで作るのがいいらしいの!」
栄養ドリンクみたいなものかな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「柔道部の合宿も璃慕恩院も大変でしょ? だから作ってあげたいな、って!」
「いいわね、自然の栄養なのね」
身体に良さそう、とスウェナちゃん。私も大いに賛成です。サフトとやらは色々なベリーに砂糖を加えて作る保存食と言うか、濃縮シロップと言うべきか。水やソーダで割って飲むためのジュース、お菓子なんかにも使えるのだとか。
「というわけでね、明日はみんなでベリー摘み!」
フィシスも一緒に行くからね、と会長さん。これは楽しくなりそうです。農場はアルテメシアに近くて涼しい山の中らしく、瞬間移動でお出掛け可能。避暑をしながらベリー摘みだなんて、いつもと違って面白そう!
次の日の朝、会長さんの家に行くと、フィシスさんが先に来ていました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はベリーを入れるための籠を人数分用意していて、後は行くだけ。青いサイオンがパアッと溢れて、身体がフワリと浮き上がって…。
「「わあっ!」」
山に囲まれた農場はベリーが一杯、待っていた仲間の人が「お好きなだけ摘んで下さいね」と迎えてくれて、摘み放題。普段はお菓子に飾ってあるのしか見ないような様々なベリーが沢山、せっせと摘んでは持って来た籠へ。
「沢山摘んでね、余った分はお菓子にするから!」
いくらあっても困らないもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言ってくれますから、スウェナちゃんも私も籠に何杯も摘みました。無論、会長さんたちも。ベリー摘みの後は農場主の仲間に昼食を御馳走になって、それから瞬間移動で帰宅で。
「えとえと…。一杯摘んだし、サフト、作るねー!」
まずはベリーを洗って、と…、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は山のようなベリーを手早く仕分けて、使う分を洗いに出掛けました。それから計量、分量に合わせた砂糖を計って。
「煮て作る方と、煮込まない方と…。両方やってみたいんだもん!」
どっちも頑張る、とサフト作りの開始です。ベリーを潰して布で濾す方と、お鍋でグツグツ煮ている方と。サフトにしないベリーの方は会長さんとフィシスさんが仲良く保存用の袋に詰めて、傷まないように冷蔵庫へ。あちらはお菓子に姿を変えて近い内に登場するのでしょう。
「甘酸っぱい匂いが一杯ねえ…」
スウェナちゃんが言う通り、家の中はすっかりベリーの匂い。煮込んでいたサフトも、濾していたサフトも砂糖たっぷり、それを消毒した瓶に詰めたら出来上がりです。
「かみお~ん♪ サフト、飲んでみる?」
「「うんっ!」」
「こっちが煮た方、こっちが煮てない方だからね!」
はいどうぞ、と水で割って出されたジュースは宝石みたいに綺麗な真っ赤で、飲んだらベリーの味が爽やか。栄養ドリンクと言うよりも…普通に美味しいジュースですよ?
「そりゃね、パワーアップのためのジュースじゃないからね」
サフトはあくまで身体にいい飲み物、と会長さん。けれどビタミンたっぷり、サフトが生まれた北の国では食卓に欠かせないそうで。
「キースやジョミーたちの慰労会もさ、たまにはこういう飲み物がいいよね」
この夏は健康的に過ごそう! と会長さんもサフトを飲んでいます。今年の夏休みはベリーで作った赤いジュースがセットものかな?
「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ったサフトは、男の子たちが合宿と璃慕恩院から戻った翌日の慰労会で早速披露されました。夏の太陽がギュッと詰まった、健康的な飲み物として。
「こいつは美味いな、その辺のジュースなんかと違って」
味も深いし、とキース君が褒めると「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大喜びで。
「ベリー、沢山使ったから! 一種類だけってわけじゃないから!」
「なるほどな。…焼き肉パーティーのお供にも、なかなかいける」
「でしょ? おんなじ材料でソースとかも出来るの、肉料理とかの!」
夏のベリーは栄養たっぷり! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「キースはお盆の用意とかもあるし、サフト、一瓶あげてもいいよ」
「くれるのか?」
「うんっ! 沢山作ったし、持って帰ってお家で飲んでね」
好みの量の水で薄めて飲んでよね、とサフトを詰めた瓶がキース君へのプレゼント用に出て来ました。卒塔婆書きに疲れたら飲んでリフレッシュ、気分も新たに挑んでくれという心遣いで。
「有難い。…正直、麦茶とコーヒーだけではキツイものがな…」
こういう非日常な飲み物があると非常に助かる、と押し頂いているキース君。
「例年、何か飲み物を、と思うわけだが…。買いに行ってる暇があったら卒塔婆を書こう、と思い直して麦茶とコーヒーの日々なんだ」
「じゃあ、ちょうど良かったね!」
足りなくなったらまたあげるね! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は気前が良くて、サフトの瓶は確かに沢山。私たちと摘みに行ったベリーの残りはお菓子になるのか、それともサフトが追加になるか。この夏休みは何かと言えばサフトで、キース君もサフトを飲んでお盆を乗り切るのかも…。
華麗に登場したサフト。要はベリーのジュースですけど、有難味を演出しようと「サフト」と呼ぶのがお約束。猛暑でバテそうだからとサフトで、卒塔婆書きに疲れたとサフトをゴックン。マツカ君の山の別荘にお出掛けする時も、向こうで飲もうと瓶を持って行ったくらいです。
そんなサフトが定着する中、八月を迎え、キース君のお盆はいよいよリーチ。今日は棚経にお供するサム君とジョミー君の仕上がり具合のチェックだそうで。
「違う、そいつは其処じゃなくて、だ!」
間違えるくらいなら口パクでもいい、とジョミー君に向かって飛ぶ怒声。
「俺はともかく親父は怖いぞ? それにだ、檀家さんにも失礼だろうが、坊主がお経を間違えるなどは!」
「こんなの覚え切れないよ!」
「覚えるも何も、それが坊主の仕事だろうが!」
次は所作だ、と歩き方などの指導が始まりました。墨染の法衣を着せられた二人をキース君がビシバシしごいて、トドメが自転車。法衣が乱れないよう自転車を漕ぐ練習とやらは、会長さんのマンションの駐車場でやってくるのだそうで。
「ブルー、自転車は借りられるんだな?」
「うん、管理人さんに話はつけてあるしね。言ったらすぐに出してくれるよ、二人分」
「恩に着る。…行くぞ、二人とも!」
さあ練習だ、とキース君はサム君とジョミー君を連れて出て行ってしまい。
「うわー…。早速やっていますよ」
シロエ君が窓から下を見下ろし、私たちも。
「暑そうですねえ…。キースは日陰にいるようですけど」
マツカ君が気の毒そうに呟いたとおり、法衣の二人は炎天下の駐車場を自転車で周回させられていました。キース君はといえば夏の普段着、日陰に立って鬼コーチよろしく叫んでいる様子。
自転車修行を終えた二人はもうバテバテで、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が「大丈夫?」と差し出したサフトを一気飲みです。
「あー、生き返ったぜ…」
「ホント、死ぬかと思ったよ~…」
まだ八月の頭なのに、と討ち死にモードの二人のコップにサフトのおかわり。グイグイ飲んで、再びお経の練習だとか。ご苦労様です、頑張って~!
年に一度のお盆の棚経、普段は法衣を忘れ果てているジョミー君たちも二日もしごけば身体が思い出す様子。そうなれば後は当日に向けて英気を養い、のんびりと過ごすわけですが。
「俺の方もやっと終わったぞ…」
今年の卒塔婆が、とキース君。
「後は飛び込みの注文くらいで、地獄って数じゃないからな。…親父め、なんだかんだで今年も多めに押し付けやがって!」
しかし、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の方へと向き直ると。
「サフトのお蔭で乗り切れた。…感謝する」
「ホント!? 良かった、やっぱり夏のお日様が詰まったベリーは凄いんだね!」
作って良かったぁ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が跳ねた所へ。
「うん、本当に凄いよね」
「「「は?」」」
振り返った先に、優雅に翻る紫のマント。誰だ、と叫ぶまでもなく分かってしまった、会長さんのそっくりさんが其処に…。
「こんにちは。そのサフトとやら、ぼくにもくれる?」
「かみお~ん♪ ちょっと待っててねー!」
ブラックベリーのムースケーキもどうぞ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がササッと用意を。ソルジャーは真っ赤なサフトをコクリと飲んで。
「うん、飲みやすいね、これ。それに美味しいよ」
「でしょ、でしょ! 今年の夏はサフトで元気に乗り切るの!」
夏バテ知らずで元気にやるの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ソルジャーは「いいねえ…」とサフトを飲みながら。
「夏のお日様のパワーだっけか? これの秘密は」
「そうだよ、お日様たっぷりのベリー!」
「赤って色がまたいいんだよ。ぼくの瞳と同じ色だし、なんともパワーが出そうでねえ…」
如何にもハーレイが漲りそうだ、と妙な台詞が。ハーレイって…まさかキャプテンのこと?
「決まってるじゃないか、サフトを飲んでぼくのハーレイもパワーアップと行きたくってさ」
「無理だから!」
これはビタミンたっぷりなだけの健康飲料、と会長さん。
「栄養ドリンクみたいに見えるけれどね、君が期待するような効果は無いから!」
ただのジュースだ、と言ってますけど、ソルジャー、それで納得してくれるのかな…?
「…効かないのかい?」
君たちを見てると効きそうなのに、とソルジャーは首を捻りました。
「キースはパワーアップして卒塔婆を書いたし、サムとジョミーもバテバテだったのが元気になったし…。ぼくのハーレイがこれを飲んだら、きっと!」
「言っておくけど、他のみんなは普通だから!」
元気が余って仕方がないってわけじゃないから、と会長さんはツンケンと。
「要は気分の問題なんだよ、お日様のパワーが詰まったベリーで健康に、って!」
「えーっ? 分けて貰おうと思って来たのに…」
「欲しいんだったらあげるけどさ…」
でも効かないよ、と念を押す会長さん。
「せいぜい気分転換くらいで、その手の効能は全く無いから! おまけに甘いし!」
「甘いね、確かに」
「君のハーレイ、甘いものは苦手なんだろう?」
「効くんだったら、甘くても喜んで飲むだろうけど…。でも効かないのか…」
困ったな、とソルジャーの口から溜息が。
「なんで困るわけ?」
「ぼくのハーレイに言っちゃったんだよ、凄く効きそうな飲み物を貰って来られそうだよ、って」
「それで?」
「ハーレイも期待しちゃってるんだよ、この夏はパワーアップが出来る、と!」
なんとかならないものだろうか、と尋ねられても困ります。サフトはサフトで、ベリーのジュース。私たちは美味しく飲んで夏を乗り切るつもりですけど、ソルジャーお望みの精力剤とは違うんですから…。
「自業自得だね、帰って潔く謝りたまえ!」
「それはいいけど、パワーアップには、ぼくだって期待してたんだってば!」
サフトさえ貰えれば凄い夏になると思っていたのに、と勘違いについて述べられたって、どうすることも出来ません。サフトはサフトで、ビタミンたっぷりのジュースに過ぎず。
「…ぶるぅがベリー摘みだって言った時から、ワクワクしながら見守ってたのに!」
「材料が何か分かっているなら、効かないことだって分かるだろう!」
「プラスアルファかと思うじゃないか!」
いわゆる真夏の太陽のパワー、と言いたい気持ちは分からないでもないですが。生憎とベリーが真夏のお日様の光を浴びても、妙な変化は起こりませんから!
「…すっごく良く効く、赤い飲み物って言って来ちゃったのに…」
ハーレイも楽しみにしているのに、とソルジャーは零していますけれども、サフトはサフト。ただのベリーのジュースでいいなら「そるじゃぁ・ぶるぅ」も気前よくプレゼントするでしょうけど、効果の方は全くゼロで。
「いっそ手作りで何とかすれば?」
そういうドリンク、と会長さんがサフトをクイと飲みながら。
「ぼくたちもベリー摘みから始めたんだし、君も効きそうな材料を集めて煮込むとか!」
「…スッポンとかかい?」
「赤にこだわるなら、今の季節は赤マムシだねえ…」
あれなら太陽のパワーもあるかも、と会長さんの口から凄い言葉が。
「赤マムシ? …漢方薬の店で売ってはいるけど、あれに太陽のパワーだって?」
「夏はマムシのシーズンだからね」
何処に行っても田舎なら「マムシ注意」の立て看板が、と会長さんは言い放ちました。
「燦々と太陽を浴びたマムシが潜んでいるのが今の季節で、特に水辺の草叢なんかが高確率でマムシ入りかな」
「ふうん…。それで、赤マムシもその中に?」
「レアものだけどね!」
そう簡単にはいないんだけどね、と答える会長さん。
「マムシの中でも赤っぽい個体が赤マムシ! 普通のマムシより効くってことでさ、重宝されているんだけれど…。なかなか見つかりません、ってね」
「その赤マムシを見付けて煮込めば、いい飲み物が出来るのかい?」
「他にも色々、工夫してみれば? 野生のスッポンも今の季節はお日様を浴びているからね」
その辺で甲羅を干しているであろう、という説明。
「後はウナギも川で獲れるし、君の頑張り次第ってことで」
「うーん…。ぼくの手作りサフトになるわけ?」
「サフトという名が正しいかどうかは知らないけどね」
あくまでベリーのジュースとかがサフト、と会長さんは解説を。本場のサフトはベリーに限らず、エルダーフラワーとか色々な材料があるそうですけど、要は草木の実や花が素材。葉っぱや枝を使うものはあっても、動物由来のサフトは無し。
「だけどサフトにこだわりたいなら、ブレンド用に分けてあげてもいいよ?」
ぶるぅ特製のサフトを一瓶、という提案。さて、ソルジャーはどうするでしょう?
「…ブレンドかあ…」
それに赤マムシでスッポンなのか、と考え込んでしまったソルジャー。流石に作りはしないだろう、と誰もが高をくくっていたのに。
「よし! その方向でサフト手作り!」
一瓶分けて、とソルジャーは真顔で「そるじゃぁ・ぶるぅ」に頼みました。
「ぼくの世界で煮込んでみるから、サフトを分けてくれないかな?」
「えとえと…。ブレンドもいいけど、ちゃんとベリーから作ってみない?」
冷凍してあるベリーがあるから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「作るんだったらレシピをあげるよ、お砂糖の量も好きに調整出来るでしょ?」
「でも、ぼくは料理というものは…」
「大丈夫! ベリーをお鍋で煮るだけだから!」
それにスッポンの甘いお料理もあるの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言ってビックリ仰天。スッポンの甘煮とか、そういった料理?
「んーとね、甘煮って言うんじゃなくって…。フルーツ煮かな? ライチとかが沢山入って、スープは甘くて赤かったよ?」
サフトほど真っ赤じゃなかったけどね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「そうだよね、ブルー?」
「うん、アレの煮汁はほんのり赤いって感じだったね。まさかスッポンを甘く煮るとは、と驚いたけれど、味は悪くはなかったよ」
案外、果物と相性がいい、と会長さんまでが。中華料理の本場の国へお出掛けした時、現地で食べたらしいです。スッポンの肉のフルーツ煮だとは…。
「なるほどねえ…。スッポンが甘いスープや果物と相性がいいとなったら、赤マムシだってベリーと合うかもしれないねえ…」
それにウナギパイは甘いものだし、とソルジャーは納得したらしく。
「分かった、出来上がったサフトとブレンドするより、ベリーから煮込んで作ることにするよ」
「そっちに決めた? だったら、ベリーは好きなのをどうぞ!」
ブルーベリーでもクランベリーでもコケモモでも、と名前をズラズラ挙げられてもソルジャーに区別がつくわけがなくて。「そるじゃぁ・ぶるぅ」に連れられてキッチンに行って、冷凍庫の中身を覗きながら決めたみたいです。
どうせならあれこれ混ぜるべし、と考えたのか、何種類ものベリーを貰ったソルジャーは。
「それじゃ、頑張って挑戦するよ!」
また来るねー! とパッと姿が消えましたけれど、はてさて、サフトは…?
その日の夕方。今夜は火鍋と洒落込もうか、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が赤いスープと白く濁ったスープを用意し、真ん中に仕切りのある専用鍋も出されて、食事の時間を待つばかり。火鍋はうんと辛いですから、もちろんサフトも出る筈で…。
「お邪魔しまーす!」
「「「!!?」」」
また来たのかい! としか言いようのない、昼間に見た顔。会長さんのそっくりさんが今度は私服で現れて。
「ごめん、ちょっと訊きたいことがあってね」
「どういう用事?」
会長さんの問いに、ソルジャーは。
「スッポンとウナギはゲットしたんだ、どっちもお日様パワーたっぷり!」
「そりゃ良かったねえ…」
「ノルディに訊いたら教えてくれてさ、ウナギのいる川とスッポンのいる池!」
お蔭で真夏の太陽をたっぷりと浴びたスッポンとウナギをゲットなのだ、と得意満面。
「後は赤マムシだけど、ノルディもこれが確実にいる場所を知らなくて…。水辺の草叢って言ってたっけか?」
「その辺が狙い目だと思うけどねえ?」
ついでに今なら獲りやすいのでは、と会長さん。
「マムシは夜行性だし、昼間よりは夜! 君の目だったら夜でも色くらい分かるだろう?」
「それはもちろん! オススメの赤マムシ獲りのスポットは何処?」
「ぼくだって知るわけないだろう! 当たって砕けろで数を当たっていくしかないね」
「やっぱりそうか…。ノルディが無知ってわけじゃなくって」
なら仕方ない、と大きな溜息。
「ぼくは赤い飲み物を早く作らなくっちゃいけないからねえ、行ってくるよ」
美味しそうな火鍋だけれども今日はパス、と瞬間移動でソルジャーは何処かへ消えてしまって。
「…マムシ獲りか…」
火鍋を食うより赤マムシなのか、とキース君が呆れて、シロエ君が。
「スッポンとウナギはゲット済みとか言いましたよね?」
「らしいね、赤マムシが獲れたら本気でベリーと煮込むんだ…?」
なんかコワイ、とジョミー君。サフトはとっても美味しいのですが、ソルジャーが目指すサフトは別物。ウナギにスッポン、赤マムシ。それはサフトと呼ぶのでしょうか…?
赤マムシは無事にゲット出来たらしく、火鍋の席にソルジャーは乱入しませんでした。せいぜい頑張ってサフト作りに励んでくれ、と安堵した私たちですが…。
翌日、例によって会長さんの家で午前中からたむろしていると。
「失敗したーっ!」
一声叫んで、リビングに降って湧いた紫のマントのソルジャーなる人。失敗したって、サフト作りに…?
「ど、どうしよう…。せっかく材料を頑張って集めて、ぶるぅに貰ったベリーもたっぷり入れたのに…。ぼくのシャングリラのクルーも動員してたのに!」
「「「は?」」」
クルーを動員したのに失敗? なんでまた…?
「サフト作りは秘密だからねえ、青の間のキッチンでやることにしたんだけれど…。スッポンだのウナギだの赤マムシだのは、ぼくにはとっても捌けないから…」
その部分だけをクルーにやらせた、という話。ソルジャーの常で厨房のクルーに時間外労働をさせて、記憶は綺麗サッパリ消去。そうやって手に入れたスッポンとウナギと赤マムシの肉をミキサーにかけたと言うから凄いです。
「「「ミ、ミキサー…」」」
「え、だって。肉がとろけるまで煮込んでいたら何日かかるか分からないし…。ミキサーの方が早いってば!」
ドロリとしたのをベリーと混ぜて鍋に入れた、と言うソルジャー。「そるじゃぁ・ぶるぅ」に貰ったレシピを見ながら砂糖も加えて、火にかけたまではいいのですけど。
「目を放したって?」
それは失敗して当然、と会長さん。
「どうせ焦がしたんだろ、煮てた鍋ごと!」
「焦げてないけど…。それに、ぶるぅに「ちゃんと混ぜて」って言っておいたし…」
「「「ぶるぅ?!」」」
あの悪戯小僧の大食漢か、と唖然呆然。そんなのに鍋を混ぜさせておけば、どう考えてもトンデモな結果しか無さそうですけど?
「そういうわけでもないんだよ。食べ物で釣れば、あれで案外、使えるものでさ」
その上、パパとママの役に立つこととなれば! と主張するソルジャー、「パワーアップ用の飲み物を作る」と「ぶるぅ」に教えていたようです。大人の時間のための飲み物と聞いた「ぶるぅ」は、真面目に混ぜると元気に返事をしたらしいですが…。
「だからと言って、丸投げしたら駄目だろう!」
相手は子供だ、と会長さん。
「君がきちんと責任を持ってチェックしなくちゃいけないんだよ!」
「分かってたけど、つい、うっかり…。ハーレイが「それは何ですか?」って訊いて来たから、例の赤い飲み物を作ってるんだ、って答えたら感激されちゃって…」
その場でディープなキスだったのだ、と言うソルジャー。
「普段だったら、ぶるぅが見てたら駄目なくせにさ…。こう、大胆に触って来た上、ファスナーも下ろされちゃってハーレイの手が中に…」
「その先、禁止!」
喋らなくていい、と会長さんがレッドカードを突き付けましたが。
「でもさ、ホントに凄かったんだよ、「ぼくは鍋の番をしなくちゃいけないから」って言っているのに、「それは、ぶるぅで充分でしょう?」って、大きな手で包まれて擦られちゃうとねえ…」
「もういいから!」
とにかく黙れ、とブチ切れそうな会長さんが振り回しているレッドカード。そういえばサフトも赤いんだよね、と現実逃避をしたくなります。
「それでさ、ついつい、ヤリたい気分になっちゃって…。ぶるぅに「ちゃんと混ぜるんだよ」って鍋を任せて、二人でベッドへ」
「それで焦げないわけがないから!」
「焦げてない!」
焦がしてしまったわけではないのだ、とソルジャーはムキになって反論しました。
「ぶるぅはきちんと混ぜてたんだよ、真面目に徹夜で!」
「「「徹夜!?」」」
「そう、徹夜」
キャプテンと熱い大人の時間を過ごしたソルジャー、鍋を火にかけていたことも忘れて朝までグッスリ。目を覚ましてからハッタと気が付き、慌ててキッチンに向かったそうなのですが。
「…それって、いわゆる火事コースだから!」
鍋から火が出るパターンだから、と会長さんが怒鳴り、私たちも揃って「うん、うん」と。火にかけたお鍋を一晩放置って、どう考えても燃えますから!
「ちゃんとぶるぅが見ているんだから、焦げそうになったら火を止めるって!」
「だけど失敗したんだろう?」
ぶるぅは役に立たなかったんだろう、と会長さん。失敗したなら、そうなりますよね?
「…焦げたわけではないんだよ」
そこは本当、とソルジャーは「ぶるぅ」がきちんと役目を果たしたことを強調しました。
「ぼくが行った時にもまだ混ぜていたし、本当にうんと頑張ったんだ」
ソルジャー曰く、徹夜でお鍋を混ぜ続けた「ぶるぅ」はお腹が減ったか、厨房から様々なものを瞬間移動で取り寄せ、食べながら混ぜていたようです。キッチンの床にはお菓子やチーズの包み紙などが幾つも転がり、「ぶるぅ」の頬っぺたには溶けたチョコレートがくっついていたとか。
「ふうん…。君よりよっぽど真面目じゃないか、ぶるぅの方が」
「…そうかもしれない…」
だけどサフトは失敗したのだ、とソルジャーはとても残念そうです。ぶるぅがきちんと混ぜていたのに、何故に失敗?
「…煮詰めすぎたんだよ…」
あれを液体とはもはや呼べない、とソルジャーが嘆く鍋の中身は、赤い飲み物になるサフトではなく、真っ黒なタールのようなもの。何処から見たって飲み物には見えず、強いて言うならペースト状の代物だそうで。
「何と言うか、もう…。飲むんじゃなくってパンに塗るとか、そんな感じになっちゃったんだよ! ぼくの大事なサフトが出来上がる筈だったのに!」
「…なら、塗れば?」
塗れば、と会長さんが顎をしゃくって。
「焦げてないなら、それこそ塗ればいいだろう! 君が自分で言ったとおりにパンに塗るとか、ソース代わりに料理に添えてみるとかさ!」
「…えっ?」
「それで効き目があったら御の字、駄目で元々、試してみれば?」
どんな出来でも材料はサフトだったんだし…、と会長さん。
「スッポンだのウナギだのが入っているのをサフトと呼ぶかどうかはともかく、ベリーや砂糖は入ってるんだし…。それを煮詰めて出来たものなら、焦げていないなら食べられるだろう」
「…そうなのかな?」
どうなんだろう、とソルジャーが首を捻った時。
『助けてーーーっ!!!』
物凄い思念が炸裂しました。小さな子供の絶叫です。頭を殴られたような衝撃を受けて、誰もがクラリとよろめきましたが。…今の思念って「そるじゃぁ・ぶるぅ」じゃないですよね?
何事なのか、と部屋を見回した私たち。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の目も真ん丸です。やっぱり「そるじゃぁ・ぶるぅ」の思念じゃなかったのか、と思った所へ。
『たーすーけーてーーーっ!!!』
誰か助けて、とまたも思念が。しかも「死ぬ」とか「殺される」だとか、穏やかではない内容です。ガンガンと響く思念ですけど、このマンションに住んでいる筈の仲間たちの反応がありません。これだけ響けば、普通は誰かが「どうしたんだ!?」と騒ぎ出す筈で。
「「「も、もしかして…」」」
この凄まじい思念は私たちにしか届いていないということでしょうか? この部屋限定で響き渡って、救助を求めているのだとか…?
「こ、この思念って…」
ジョミー君が目を白黒とさせて、キース君が。
「ぶるぅか、あっちの世界の方の?」
「でも、助けてって叫んでますよ?」
あの「ぶるぅ」が、とシロエ君。
「しかも本気で死にそうですけど、そういうことって有り得ますか? あのぶるぅが?」
「シャングリラの危機…じゃなさそうだよね?」
それならブルーが反応するし、とジョミー君の視線がソルジャーに。そのソルジャーも事態が飲み込めていないみたいで。
「な、なんで助けてって言ってるんだろ?」
「ぼくが知るわけないだろう!」
ぶるぅの保護者は君なんだろう、と会長さんが眉を吊り上げ、「助けて」の声は今や悲鳴に変わっていました。キャーキャー、ギャーギャーと只事ではない雰囲気です。
「どう考えてもこれは普通じゃなさそうだから! 早く帰って!」
「…そ、そうする…」
サフトの件はまた今度、とソルジャーの姿がパッと消え失せ、それと同時に「ぶるぅ」の悲鳴もパタッと聞こえなくなりました。
「…ブルー宛のメッセージだったのかな、あれ?」
ジョミー君が顎に手を当て、サム君が。
「そうじゃねえのか、止んじまったし…。でもよ、ぶるぅに何があったんだ?」
「「「さあ…?」」」
それが分かれば苦労はしない、と誰の考えも同じでした。「助けて」で「死ぬ」で「殺される」。あまつさえ最後はキャーキャー、ギャーギャー、悪戯小僧に何があったと…?
「オオカミ少年って言うヤツなのかな?」
いわゆる悪戯、と会長さんが述べた意見に、私たちは「それっぽいか」と頷くことに。「ぶるぅ」だったら空間を超えて「殺される」という偽メッセージだって送れるでしょう。
「…一晩中、鍋を混ぜさせられたんだったな?」
多分そいつの腹いせだろう、とキース君も。ソルジャーとキャプテンはベッドで楽しく過ごしていたのに、「ぶるぅ」は食事も与えられずに自己調達しつつ、お鍋の番。徹夜で頑張って混ぜ続けた挙句、失敗作だと言われてしまえば仕返しの一つもしたくなるかも…。
「傍迷惑ねえ、死ぬだの殺されるだのってビックリするわよ」
スウェナちゃんが頭を振り振り、言ったのですけど。…オオカミ少年だったにしては、あれから時間が経ちすぎてませんか?
「そういえば…。ブルーだったらガツンと殴って戻りそうな気も…」
会長さんが眺めるテーブルの上には、私たちが食べかけていた甘夏のシフォンケーキのお皿や、お馴染みになったサフトが入ったコップ。ソルジャーの分はまだ用意されておらず、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出しそびれたままになっています。
「…甘夏のシフォンケーキが好みじゃないってことはない筈…」
「うん、前にも出したけど、おかわりしてたよ?」
好きな筈だよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「…好物を食べに戻って来ないって…。ブルーなら絶対に有り得ないんだけど…」
「まずないな。ついでに午前中に湧いて出たなら、昼飯を食って帰るのが基本の筈だが」
平日の場合、とキース君が指差すカレンダーの今日の日付は見事に平日。つまり、オオカミ少年な「ぶるぅ」を一発殴って、おやつと昼食を食べに戻るのが普通なわけで…。
「…まさか、ホントにシャングリラが危なかったとか…?」
会長さんの声が震えましたが、マツカ君が。
「それだけは無いと思います。ぶるぅがあれほど絶叫するなら、それよりも先に戻る筈です」
確か思念で常に様子を見ている筈です、と冷静な指摘。言われてみればそうでした。こっちの世界でのんびり別荘ライフを楽しんだりする時は「ぶるぅ」までが留守。そんな時でもシャングリラを放って来られる理由は、ソルジャーが監視しているからで…。
「じゃあ、何が…?」
「サッパリ分からん…」
俺が知るか、というキース君の言葉は全員に共通、これは放置しかないですね…。
そうやって思考を放棄してしまった、「ぶるぅ」の「助けて」「殺される」事件。すっかり綺麗に忘れ去ってから三日ほどが経ち、いよいよお盆も迫って来た頃。
「こんにちはーっ!」
明るい声が会長さんの家のリビングに響いて、紫のマントのソルジャーが。
「あっ、今日のおやつも美味しそう! それと、サフトも!」
よろしく、とソファに腰掛けたソルジャーの姿に、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がパタパタとグレープフルーツと蜂蜜のタルトを切り分け、真っ赤なサフトも運んで来て。
「えとえと…。ぶるぅ、元気にしてる?」
「それはもう!」
おやつも食事も食べ放題で幸せ一杯、とソルジャーは笑顔。
「ぶるぅのお蔭でぼくは天国、ぼくのハーレイも天国ってね! 食事もおやつも御礼にドカンとあげなきゃ駄目だろ、死にそうな目にも遭ったんだしさ」
「本当に死にそうだったわけ!?」
会長さんの声が引っくり返って、私たちも唾をゴクリと飲み込む羽目に。あの日、「ぶるぅ」に何があったと…?
「話せば長くなるんだけどねえ、ぶるぅが徹夜で煮詰めたサフト! ぼくがこっちに来てしまった後、ぶるぅはハーレイに食べさせたんだよ。新作のジャムを作ったから、って」
「「「し、新作…」」」
悪戯小僧な「ぶるぅ」の新作。食べればロクな結果になりそうもなくて、さりとて食べねば悪戯されるに間違いなくて。キャプテンの心境はドン底だったに違いありません。
「そりゃね、ハーレイもぶるぅの怖さは知っているしね…。だけどトーストに塗り付けて渡されちゃったら仕方ない。見かけの割にやたら甘いな、と思いながら食べたらしいんだけど…」
「「「らしいんだけど…?」」」
「直後に、身体に漲る活力! もはやヤるしかない勢いで! だけど肝心のぼくがいなくて…。最初は堪えていたみたいだけど、何処かでプツンと理性が切れてさ」
これもブルーの一種なのだ、とばかりにキャプテンは「ぶるぅ」を青の間のベッドに放り投げた上、服を毟りに掛かった次第。それって、つまり…。
「そうさ、ぶるぅとヤろうとしたのさ、ハーレイは!」
「「「うわー…」」」
それは「助けて」で「死ぬ」であろうと、「殺される」と叫んだ挙句にキャーキャー、ギャーギャーになるであろうと顔面蒼白。ソルジャーのサフト、効きすぎですって…。
ソルジャーが慌てて戻った時には、真っ裸に剥かれた「ぶるぅ」の身体に素っ裸のキャプテンが圧し掛かろうとしていた所だったとか。
「流石のぼくも頭が真っ白になったけれどね、何が起こったか分かったらもう、嬉しくて! 直ぐにぶるぅを床に投げ飛ばして、代わりにベッドに!」
それからはもう天国目指してまっしぐら…、と満足そうな顔のソルジャーはキャプテンと心ゆくまでヤリまくった末に、例のサフトを愛用する日々。
「毎日、トーストを焼いてあげてね、それにサフトをたっぷりと! そうすれば、もう!」
疲れ知らずのハーレイと朝までガンガン、とソルジャーはそれは嬉しそうで。
「お盆が済んだら、マツカの海の別荘だろう? ぼくたちはもちろん、サフト持参で!」
そして毎日が天国なのだ、と言うソルジャーがキャプテンと共に部屋に籠りそうなことが容易に想像出来ました。凄いサフトを作った「ぶるぅ」は御馳走三昧で過ごすのでしょう。
「君たちがサフトを飲んでたお蔭で、ぼくたちも充実の夏なんだよ!」
太陽のパワーを集めた飲み物はやっぱり凄い、と褒めまくっているソルジャーですけど。サフトってそういうものだったでしょうか、ただのベリーのジュースなのでは…。
「…サフトが間違っている気がするんだが…」
あれは俺の卒塔婆書きの友でリフレッシュ用の飲み物なんだが、とキース君。その認識で間違っていないと思います。けれど何故だか出来てしまった、まるで別物のカッ飛んだサフト。夏の別荘が荒れませんよう、神様、よろしくお願いします~!
太陽の飲み物・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
夏に美味しい、ベリーのサフト。本来はスウェーデンの家庭で作られる飲み物です。
効きそうだからとソルジャーが作ったサフトは、失敗作が転じて、凄い代物に…。
シャングリラ学園、11月8日に番外編の連載開始から10周年の記念日を迎えました。
ついに10年に届いたというのが、我ながら、もうビックリですね。
次回は 「第3月曜」 12月17日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、11月は、スッポンタケの戒名が消せるかどうかが問題で…。
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