シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
今年も夏休みがやって来ました。例によって柔道部三人組は合宿、ジョミー君とサム君は璃慕恩院への修行体験ツアーに旅立ち、スウェナちゃんと私がお留守番です。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」、それにフィシスさんとのんびり、まったり。
「かみお~ん♪ 今日のプールも楽しかったね!」
「やっぱり穴場は違うわねえ…」
空いてて良かった! とスウェナちゃん。この時期、何処のプールもイモ洗いですが、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は穴場探しが得意技。遠い所でも瞬間移動でヒョイとお出掛け。今日はアルテメシアから少し離れた町の町営プールへと。
「町営プールでもけっこういいだろ、設備とかがさ」
会長さんが言うだけあって、広くて綺麗なプールでした。もっと流行っていてもいいのに、と思ったら。
「あそこはねえ…。今はシーズンオフなんだな」
「「シーズンオフ?」」
なんで、と驚くスウェナちゃんと私。プールからは瞬間移動で帰りましたし、今は会長さんの家のリビングです。フィシスさんはエステに行くとかで先に帰ってしまいました。
それはともかく、シーズンオフとはこれ如何に。プールは今が書き入れ時では?
「あそこのプール。何処よりも早いプール開きと、遅くまでの営業が売りだからねえ…」
「少しでも長く水と遊ぼう、ってコンセプトだって!」
そして水泳の上手い子になるの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。町の外れを流れている川の水が綺麗で、夏本番には地元の子供はそっちへお出掛け。其処でウッカリ溺れないよう、町営プールでしっかり鍛えろと営業期間が長めだそうで。
「つまりね、川の水が冷たくて駄目な時期にはプールなんだな」
ゆえに只今シーズンオフ、と会長さん。お客さんは健康のために泳ぎに来る人が中心、「夏休みだからプールに行こう」と思う輩は少ないとかで。
「その代わり、他所のプールが営業終了してからは混むよ? ドカンとイモ洗いで!」
「「うーん…」」
なんとも不思議なプール事情もあったものです。まあ、お蔭で楽しく泳げましたが…。ちょっぴりお腹も空いて来ました、そういえばおやつの時間かな?
町営プールにはお弁当持参で出掛けて行って、プールサイドの出店でタコ焼きなんかも食べはしたものの。帰ってからおやつを食べていないな、とグーッとお腹が。
「あっ、いけない! おやつ、おやつ~!」
ちょっと待ってね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が駆けて行って。
「はい、今日は木苺のミルフィーユなの!」
「「美味しそう!」」
合宿中の男の子たちには悪いですけど、これもまたお留守番組の特権。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はフィシスさんへのお届け用に、とミルフィーユを二切れ、箱に詰めて。
「よいしょ、っと…!」
パッと姿を消した箱。瞬間移動でフィシスさんのお宅へ配達です。さてこの後はティータイム。アイスティーが出て来て、会長さんたちと食べ始めたのですが。
「えっとね、昨日、ブルーに会ったんだっけ…」
「「ブルー?」」
ブルーといえば会長さん。でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」がわざわざ報告するわけがなくて、何より元から同居人。では、ブルーとは…?
「ブルーだよ!」
いつものブルー、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「そうだよね、ブルー?」
「うん。あれはどう見てもブルーだったねえ…」
声を掛けてはいないんだけどね、と会長さん。
「なんだか真剣に買い物中でさ、ああいう時に声を掛けたら祟られそうでさ」
「「祟る?」」
いつものブルー、それはすなわち会長さんのそっくりさん。いわゆるソルジャーのことですけれども、何処で買い物をしていたのやら。祟られそうだなんて、漢方薬店…?
「違うよ、ぼくもぶるぅも漢方薬店には用が無いしね」
「うん、サフランを買う時だけだよ」
「「サフラン?」」
「サフラン・ライスとかに使うサフラン! 漢方薬店だとお得なの!」
あれってとっても高いから、と言われてみればお高いサフラン。ところが漢方薬店へ行けばお薬扱い、同じ値段で多めに買えるとはビックリかも~!
話のついでに、と見せて貰ったサフラン入りの漢方薬店の瓶。お値段は教えて貰えませんでしたが、二百五十ミリリットル入りのペットボトルがガラス瓶になったらこんなものか、と思うほどの大きさ。それにサフランがドッサリで…。
「凄いでしょ? お薬だからお得に買えるの!」
だからコレだけは漢方薬店、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。けれど昨日はサフランを買いに出掛けたわけではないそうで…。じゃあ、怪しげな下着売り場とか?
「昨日は百貨店には行っていないよ、ぼくもぶるぅも」
「スーパーで買い出しだけだもんね!」
「「スーパー!?」」
どうしてソルジャーがスーパーなんぞに、と驚きましたが、其処は会長さんたちにしても同じらしくて。
「スーパーでブルーを見かけたのなんかは初めてかな…」
「ぶるぅのおやつを買いに行くとは聞いてるけどね…」
だけど今まで会ってないよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。一緒に行ったとか、そういう機会はあるそうですけど、偶然バッタリは皆無だとか。
「おまけに表情が真剣過ぎてさ…」
「とっても真面目に選んでたものね…」
「「何を?」」
スウェナちゃんと私の声がハモッて、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。
「「納豆!」」
「「納豆!?」」
何故にソルジャーが納豆を、と引っくり返ってしまった声。ソルジャー、納豆、好きでしたっけ?
「いや、そんな話は聞いてないけど…」
「ぼくも知らないよ?」
好きなんだったら出しているもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ソルジャーは厚かましさが売りと言っても過言ではなく、食べたいものには貪欲です。もしも納豆が好物だったら、とっくの昔に納豆尽くしの昼食か夕食になっていた筈で。
「…なんで納豆なのかしら?」
スウェナちゃんが首を捻って、会長さんも。
「さあ…?」
健康にいいとでも聞いたんだろうか、という推測ですけれど。健康にいいと聞いたからって、あのソルジャーがスーパーに出掛けて納豆を…?
納豆の謎を解きたかったらソルジャーに訊くしかありません。とはいえ、それは自殺行為で、ほぼ百パーセント死を招きそうなコマンドだけに、会長さんも放置の方向で。納豆のお買い物は何だったのか、と悩む間に男の子たちが合宿などから御帰還で。
「「「納豆!?」」」
キース君たちの反応も私たちと全く同じでした。慰労会の焼き肉パーティーの席で出て来たソルジャーの話題に、みんなビックリ仰天です。
「あいつ、納豆好きだったのか…?」
知らなかったぞ、とキース君が言えば、シロエ君が。
「どっちかと言えば嫌いそうなタイプだと思うんですけど…」
「だよねえ、甘いものが大好きだしね?」
ついでに好き嫌いも多かった筈、とジョミー君。
「こっちの世界のは何でも美味しい、って食べまくってるけど、自分の世界じゃお菓子と栄養剤さえあったら生きて行けるって言ってたような…」
「そいつで間違いねえ筈だぜ」
だから何かとこっちに来るんだ、とサム君も。
「ぶるぅの菓子と料理があるだろ、それに外食はエロドクターがせっせと面倒見てるしよ…。待てよ、そういう所で納豆の味に目覚めたとか?」
「その可能性はぼくも考えたんだけど…」
それだとスーパーと噛み合わない、と会長さん。
「ノルディが贔屓にするような店で納豆の味に目覚めたんなら、スーパーなんかじゃ買わないよ。それ専門の店に行くとか、ノルディの紹介で気に入った店のを分けて貰うとか」
「「「あー…」」」
それはあるな、と納得です。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がソルジャーを目撃したという店、高級スーパーではあるのですけど、所詮はスーパー。ちょっとお高い納豆があっても、特別な納豆なんかではなくて。
「ある程度まとめて仕入れられるヤツしか置いていないよ、スーパーではね」
なにしろモノが納豆だから…、と言う会長さんはあれから納豆の棚を確認しに出掛けたそうです。どんな品揃えか、凄い何かがあるのかと。
「ごくごく普通に納豆だったよ、チーズとかならレアものも入荷するんだけどねえ…」
どうして納豆だったんだろう、と尋ねられても分かりません。ソルジャーがスーパーで納豆だなんて、何処で納豆の魅力に目覚めたんだか…。
サッパリ解けない納豆の謎。まるで謎だ、と焼き肉パーティーが終了した後も話題は納豆。リビングに移動し、冷たいミントティーをお供に納豆談義で。
「やはりだ、健康志向が有力説だと俺は思うが」
それしか無かろう、とキース君。でも…。
「その情報を何処で仕入れたのさ?」
ジョミー君が即座に切り返しました。情報をゲットしないことにはソルジャーは納豆に走りません。私たちの世界は何かと言えば健康にいいと色々なものが流行りますけど、情報源に触れない限りは何が流行りかも分からないわけで。
「…納豆、今はブームでしたか?」
ぼくは知らないんですけれど、とシロエ君が訊くと、会長さんが。
「それは無いと思う。ブームだったら棚にあれだけ揃っていないよ」
仕入れた端から売り切れる筈、と言われてみれば、それがお約束。これがいい、と噂になった食品、スーパーの棚が空になるのが普通です。納豆が豊富に揃っていたなら、ブームではないという証明で…。
「じゃあ、何処から納豆が出たのかしら?」
「「「うーん…?」」」
スウェナちゃんの疑問はもっともなもの。納豆のブームが来ていないのなら、ソルジャーと納豆の出会い自体が無いわけで…。謎だ、と考え込んでいた所へ。
「こんにちはーっ!」
「「「!!?」」」
飛び込んで来た噂の張本人。トレードマークの紫のマントの代わりに私服で、手にはしっかりスーパーの袋。これはもしかして、もしかすると…。
「あっ、これは差し入れじゃないからね?」
ぼくのだからね、とソルジャーは袋をしっかり抱え込んで。
「今日も色々仕入れて来たんだ、夫婦円満の秘訣なんだよ!」
「「「はあ?」」」
納豆の何処が、とウッカリ揃って反応してしまった私たち。ソルジャーは「あっ、知りたい?」と嬉しそうに袋を開いて中身を披露し始めました。あれも納豆、これも納豆。次から次へと納豆ばかりが出て来ますけれど、それのどの辺が夫婦円満の秘訣だと…?
リビングのテーブルにズラリ並んだ納豆いろいろ。夫婦円満の秘訣と言われても謎は一層深まるばかりで、どうしろと、と思った時。
「…キャプテン、納豆、お好きでしたか?」
シロエ君の口から出て来た言葉に目から鱗がポロリンと。そっか、キャプテンの好物だったら夫婦円満に役立つでしょう。ソルジャーと違って空間移動が出来ないキャプテン、納豆を買いに来られません。ソルジャーの世界に納豆なんかは無いでしょうから、好物を贈って夫婦円満。
「うん、嫌いじゃないみたいだねえ?」
最初は腰が引けていたけど、とソルジャーは笑顔。
「腐っているんじゃないですか、とか、臭いだとか…。だけど今ではバクバクと!」
もう喜んで食べているよ、という話。なんだ、やっぱりキャプテンの好物が納豆でしたか。そりゃあソルジャーもせっせと仕入れに来るであろう、と思ったのですが。
「ハーレイの好物って言うよりは…。夜の生活にお役立ちかな」
「「「えっ?」」」
夜の生活って…大人の時間のことですか? なんでそんなモノに納豆が…?
「ノルディの家で調べてたんだよ、ハーレイが絶倫になりそうなモノ! そうしたら!」
「「「…そうしたら…?」」」
「納豆です、って書いてあったわけ! ドロドロのネバネバが絶倫に効くと!」
山芋も効果的らしいんだけど…、と語るソルジャー。
「でもねえ、山芋はすりおろしたり手間がかかるしね? その点、納豆だったら合格! 買って帰ってパックを開ければ、即、食べられるし!」
かき混ぜる手間はハーレイ任せで、と流石の面倒くさがりっぷり。
「納豆に入れると美味しいらしいネギだって精がつくと言うから、刻んだヤツを買って冷凍してある。それと生卵を入れれば完璧!」
納豆を食べて絶倫なのだ、とソルジャーは威張り返りました。納豆ライフを始めたキャプテン、普段にも増してパワフルだそうで。
「もうね、疲れ知らずと言うのかな? 漲ってるねえ、毎日毎晩!」
だから納豆は欠かせないのだ、とソルジャーは自分が並べた納豆のパックをウットリと。
「これさえ食べればハーレイは絶倫、ビンビンのガンガンの日々なんだよ!」
もちろん基本の漢方薬も欠かせないけれど…、と列挙しまくるスッポン、オットセイ、その他もろもろ。それに加えて納豆パワーも導入するとは、ソルジャー、何処まで貪欲なんだか…。
「えっ、欲張ってもかまわないだろ?」
夫婦生活の基本は夜の生活、夫婦円満の秘訣もソレだ、とソルジャーの主張。
「そのためだったら納豆の買い出しくらいはね! それでさ、ちょっと訊きたいんだけど…」
「何を?」
会長さんの冷たい口調と視線は「早く帰れ」と言わんばかりで、それを向けられたのが私たちだったら真っ青ですけど、相手は図太いソルジャーだけに。
「納豆と言えばコレだ、っていうのを聞いたんだけれど…。藁苞納豆」
「…それが何か?」
「どんなのかなあ、って…。藁苞納豆」
「買えば分かるだろ!」
買いに行くなら本場は此処で…、と会長さんは地名を挙げました。納豆と言えば其処であろう、と誰もがピンと来る場所を。
「其処に行ったら色々あるから! それこそ駅の売店でも売っているかって勢いで!」
「それは分かっているんだけど…。そうじゃなくって…」
「お取り寄せなんかしなくていいだろ、瞬間移動で直ぐだから!」
お出掛けはあちら、と指差す会長さん。
「あの方向へね、ヒョイと移動すれば店もあるから! 君の力ならピンポイントで店の前でも飛べるだろ? 初めての場所でも!」
「もちろん簡単に飛べるけれどさ、ぼくが訊いてるのは其処じゃなくって…」
「じゃあ、何さ?」
「藁苞納豆の仕組みなんだよ!」
其処が気になる、とソルジャーの質問は斜め上でした。もしやキャプテンのために納豆の手作りを目指していますか、それも本格派の藁苞で…?
キャプテンに絶倫のパワーを与える食べ物を探して納豆を見付けたらしいソルジャー。本当に効くのかどうかはともかく、今の所は夫婦円満の日々のようです。スーパーで納豆を買い漁る内に藁苞納豆も知ったらしくて、仕組みを知りたいみたいですけど…。
「…作るのかい?」
君が藁苞納豆を、と会長さんが問い返すと。
「どうだろう? 仕組みによるけど、あれはどういうものなんだい?」
「簡単に言うなら、藁苞の藁に納豆菌が住んでいるから…。それを利用してってことになるかな、藁苞の中で熟成だね」
「やっぱり熟成?」
「そうだけど? 納豆はそういう食べ物だから」
藁苞の中で熟成させれば立派な納豆の出来上がり、と会長さん。ソルジャーは「ふうん…」と頷きながら。
「あの藁苞を手作りするのって難しいのかな?」
「藁苞かい? 流石のぼくも其処までは…。待てよ、ぶるぅは知ってたかな?」
どうだっけ、と訊かれた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「前に行ったよ、納豆教室! 子供向けのイベントでやってたから!」
其処で作った、とエッヘンと。
「ちゃんと藁苞から作ったんだよ、だから作り方は知っているけど…。作りたいの?」
「それって、ぼくでも作れそうかい?」
どうなんだろう、と心配そうなソルジャーはといえば、不器用を絵に描いたような人物で。私たちは端から「無理であろう」と即断したのに、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の答えはさにあらず。
「出来ると思うよ、ぼくが行ったの、子供向けの教室だったしね!」
小さな子供も作っていたよ、と「大丈夫」との太鼓判。
「作るんだったら教えてあげるよ、藁苞納豆」
「いいのかい? それじゃ是非ともお願いしたいな」
「任せといてよ! えっとね…」
何か書くもの…、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は説明を書こうとしたのですが。
「それは勘弁! ぼくはとにかく不器用だからさ、サイオンで技術を教えて欲しいと…」
「そっか、そっちが安心かもね!」
じゃあ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手がソルジャーの手をキュッと握って情報伝達。これでソルジャーも藁苞納豆の達人になれる筈ですけれども、キャプテンのために其処までするとは、ああ見えて愛情が深かったりして…。
藁苞納豆の作り方を教わったソルジャーはいそいそと帰ってゆきました。おやつも食べずに、納豆を詰めたスーパーの袋を抱えて。それに…。
「本気らしいね、藁苞納豆…」
まさか作るとは、と会長さんが感心しています。夫婦円満の秘訣とかいうアヤシイ目的に向かってとはいえ、キャプテンのために納豆手作り、それも本格派の藁苞納豆。藁は何処で手に入るのか、と訊かれた会長さんはマザー農場から取り寄せて渡していましたし…。
「あいつが納豆を手作りするのか…」
しかも藁苞から作るだなんて、とキース君も意外そうな顔。
「まさかと思うが、あいつのシャングリラの厨房に丸投げじゃないだろうな?」
「「「………」」」
それがあったか、と今頃になって気が付きました。ソルジャー自ら作らなくても、料理のプロなら厨房に大勢いるのです。作り方さえ教えてしまえば大量生産だって可能で。
「ひょっとして、それが目的だったとか…?」
大量生産、とジョミー君。
「買い出しに来るのが面倒になって、自分の世界で作ってしまえ、って…」
「それなら藁苞納豆になってくるからな…」
多少面倒でも納豆菌はもれなくいるし、とキース君がフウと溜息を。
「俺はそっちの方に賭けるぞ、愛情の手作り納豆よりもな」
「…そうなんだろうか?」
感心したぼくが馬鹿だったかな、と会長さんも。
「確かにキースの意見の方が当たっているって気がするよ。こっちの世界へ買いに来るより大量生産、それも本格派の藁苞で、って…」
「そうだろう? 藁の調達までしやがったんだし、俺はそっちの方と見た」
「「「うーん…」」」
愛の手作り納豆転じて、面倒だからと丸投げ納豆。如何にもソルジャーがやりそうなことで、そうなってくると買い出しに来ていた日々の方がまだ愛情が深そうで。
「でもねえ、スーパーで納豆を物色しているブルーを見かけた時には、まさかそういう目的だなんて思わなかったよ」
「ねえねえ、ブルー、ゼツリンってなあに?」
「あっちのブルーが喜ぶことだよ!」
「良かったあ! ぼくって役に立てたんだあ!」
藁苞納豆でゼツリンだよね、と無邪気に飛び跳ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。お子様はいいな、と思いますけど、とりあえず納豆は一件落着かな…?
翌日からは夏休みのお約束。私たちは遊び回って、キース君はお盆に備えて卒塔婆書き。三日間ほどアルテメシアでワイワイ過ごして、それからマツカ君の山の別荘へ旅立つことに。
「卒塔婆の方は目途が立ったな…」
後は帰ってからこんなもので、とキース君が残りの卒塔婆を数える山の別荘への出発前夜。会長さんの家でのスパイシーなエスニック料理の夕食目当てにキース君は夕方からの合流です。卒塔婆書きばかりだと消耗するとか言ってますけど…。
「此処に来ないで書いていればさ、もう何本かはいけただろう?」
なんでサボるかな、と会長さん。
「副住職たるもの、遊ぶ前には全力投球すべきじゃないかと…。どうせ明日から山の別荘だし、卒塔婆は追い掛けて来ないんだしさ」
「いい加減、気が滅入って来たんだ! 朝から晩まで卒塔婆だからな!」
此処で無理をすれば当然ミスも…、というのも一理あります。卒塔婆は墨での一発書き。失敗したなら削るしかなく、消しゴムや修正液でパパッと済ませるわけにはいきませんし…。
「俺は余計な手間をかけるより、ノーミスで走りたい主義だ!」
だから今夜はもう書かない、とキース君。
「出がけに親父が「もう逃げるのか?」と言ってやがったが、その親父も昨日はゴルフだしな!」
学生の俺が遊んで何処が悪い、と開き直り。まあ、卒塔婆を書くのはどうせキース君で、遊んだ分の尻拭いは自分でするしかないわけですから、どうぞご自由に、という気分。
「くっそお、早くサムとジョミーがモノになればな…」
そうすれば手伝って貰えるんだが、とキース君は捕らぬ狸の皮算用。
「嫌だよ、ぼくは棚経だけで沢山だってば!」
「俺は文句は言わねえけどよ…。まだ住職の資格もねえのに、本格的な卒塔婆はなあ…」
プロにはプロの技ってモンが、とサム君が「まだまだ無理だぜ」と言った所へ。
「プロの技ーっ!」
「「「は?」」」
何がプロだ、と振り返ってみれば紫のマントがフワリと揺れて。
「どうかな、プロが作った藁苞!」
こんな感じで! と出ました、ソルジャー。右手に納豆が入っているらしき藁苞を持って、ブンブンと振っていますけど。見せびらかしに来たかな、それともキャプテンに食べさせる前の試食ですかね、納豆っていう存在自体がこっちの世界のものですしね…?
夕食はもう終えていましたから、食後の飲み物にラッシーなんかを楽しんでいた私たち。ソルジャーは抜け目なくマンゴーラッシーを注文した後、藁苞をズイと差し出して。
「本格派だろう? この藁苞!」
「うん。でも…」
納豆は? と会長さん。藁苞は見事に完成していますけれど、どうやら中身が無いようです。肝心の納豆が詰まっていない藁苞なんかをどうしろと?
「ああ、これはね…。ぼくのお目当ては藁苞だったものだから!」
「「「えっ?」」」
藁苞で納豆を作るんじゃなくて、市販の納豆を詰めて気分だけとか、そういう話? 器も料理の一部だなんてよく言いますから、あながち間違いではないでしょうけど…。
「ううん、詰めるのは納豆じゃなくて!」
「豆だろ、さっさと帰って大豆を茹でる!」
サボッてないで、と会長さんが追い立てました。
「其処のキースも褒められたものじゃないけどねえ…。君も大概だよ、藁苞が出来たと自慢しに来るなら中身もちゃんと詰めて来ないと!」
「だから、これから詰めるんだってば! こっちの世界で!」
「…君は豆さえ買ってなかったと言うのかい?」
その上、ウチの台所で茹でる気なのかい、と会長さんが顔を顰めると。
「違うよ、君の家じゃなくって、こっちの世界のハーレイの家!」
「「「ええっ!?」」」
納豆用の大豆を茹でるのに、何故に教頭先生の家になるのか。確かに料理はしてらっしゃいますが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」みたいに大きな鍋とか各種取り揃えておられるわけではなかったように思います。そんな台所に何のメリットがあると…?
「台所の仕様云々以前に、ハーレイに用があるんだよ!」
そして藁苞の出番が来る、と力説されても何のことやら。会長さんも意味が掴めないようで。
「…ハーレイは藁苞納豆なんかは作っていないと思うけどねえ?」
「でも、こっちのハーレイの協力が要るんだ、この藁苞には!」
「なんで?」
「だって、ジャストなサイズだから!」
そうなるように作ったんだから、と藁苞を手にして胸を張っているソルジャーですが。ジャストなサイズって、いったい何が…?
「藁苞だよ!」
この藁苞、とソルジャーは手作りの藁苞をズズイと前へ。
「これにピッタリの筈なんだ! こっちのハーレイ!」
「…ハーレイが大豆を茹でてるのかい?」
それを失敬して詰めるつもりかい、と会長さんが尋ねれてみれば。
「失敬するって言うより、お願いだねえ…」
「分けて下さいって? 君にしては殊勝な心掛けだね、珍しく」
でもハーレイはなんで大豆を茹でてるんだろう、と会長さん。すると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が横から。
「お酒のおつまみに煮豆とか? お豆腐だったら大豆を潰してから茹でるしね!」
「なるほど…。それなら急いで行ってこないと味付けされちゃって台無しになるよ?」
さっさと行く! とソルジャーに発破をかけた会長さんですが。
「…あんまり急いで出掛けて行っても、ハーレイの気分が乗らないんじゃないかと…」
「やっぱり手伝わせるつもりじゃないか!」
納豆作りを、と呆れ顔の会長さんに、ソルジャーは。
「うん、ハーレイの協力が要るって言っただろう? だから行くんだ、って!」
「其処でサボらずに自分で作る! 愛の手作り納豆だったら!」
「ぼくが目指すのはその先なんだよ!」
「「「は?」」」
愛の手作り納豆の先とは、何なのでしょう? 試食だったら完成品を持って来ないと全く話になりません。藁苞だけを手にして出て来て、愛の手作り納豆の先…?
「だから、絶倫!」
「そのための手作り納豆だろう!」
話が前後しすぎているし、と会長さんはソルジャーに向かって右手を振ってシッシッと。
「早く出掛けて頼まないとね、本当に豆が無くなっちゃうから! 味付けされて!」
「その心配だけは無いんだよ! 味付けも何も、初心者以前の問題だから!」
「とにかく、豆が無くなる前にね、頼んで分けて貰ってくる!」
「詰めて貰わなきゃ駄目なんだってば、本当にジャストサイズだから!」
その筈だから、とソルジャーは藁苞をチョンとつついて。
「ぼくのハーレイので型取りしたしね、もうピッタリなサイズの筈!」
「「「…型取り…?」」」
藁苞作りに型取りなんかが要るのでしょうか? それに「ぼくのハーレイ」って、キャプテンで藁苞の型を取ったと…? 胃袋サイズのことでしょうかね、食べ切れる量の…?
キャプテンで型を取って来たから教頭先生にピッタリの筈、という藁苞。ジャストサイズの藁苞とやらはキャプテンの胃袋に丁度いい量の納豆が入るという意味でしょうか?
「そうじゃなくって! 絶倫パワーを熟成なんだよ!」
「「「…熟成?」」」
ますます分からん、と頭の中には『?』マーク。絶倫パワーは納豆を食べて得られるものだと聞いています。熟成するなら中身は納豆、藁苞の中に詰めて熟成。けれどソルジャーは「違う!」と一声、藁苞をグッと握り締めて。
「此処にハーレイを詰めて熟成! 藁苞にはきっとそういうパワーが!」
「「「へ?」」」
教頭先生を詰めるですって? それにしては小さすぎですよ? もっと巨大な藁苞でなくちゃ、と誰もが思ったのですが。
「肝心の部分を藁苞に詰めればオッケーなんだよ! ハーレイのアソコ!」
アソコで分からなければ息子で大事な部分、と聞いた瞬間、ゲッと仰け反る私たち。そ、それは教頭先生の思い切り大事な部分のことですか? まさか、まさかね…。
「そういう部分のことだってば! 其処に藁苞を!」
そして熟成させるのだ、とソルジャーは極上の笑みを浮かべて。
「ぼくのハーレイで型取りしたから完璧なんだよ、サイズの方は! これにアソコを入れて貰ってじっくり熟成、絶倫パワーを育てようと!」
「そういうのは君の世界でやりたまえ!」
こっちのハーレイなんかじゃなくて、と会長さんが怒鳴りましたが。
「ダメダメ、ぼくのハーレイ、忙しいしね? こんなのを着けてキャプテンの制服は着ていられないし、休暇中でないと熟成できない。海の別荘行きに備えて実験なんだよ!」
どんな感じに熟成するのか、そのタイミングを見定めないと…、とソルジャーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」直伝の藁苞納豆の知識を滔々と披露。腐ってしまったのでは意味が無いとか、腐りかけが一番美味しいのだとか、喋りまくって一息ついて。
「ぼくとしてはね、腐りかけの一番美味しい所を狙いたいんだよ!」
絶倫パワーも其処がMAXに違いない、というのがソルジャーの読みで。
「どのくらいの期間で熟成するのか、いつが一番食べ頃なのか! それをこっちのハーレイで!」
「迷惑だから!」
「でもねえ、ホントのホントに知りたいわけだよ、藁苞納豆の秘めたパワーを!」
この藁苞に詰まったパワーを、とソルジャーは本気。教頭先生のアソコに藁苞だなんて、しかも熟成させようだなんて、それは無茶とか言いませんか…?
どう考えてもカッ飛び過ぎている藁苞納豆の使い道、いえ、藁苞の使い方とやら。けれどソルジャーは全く譲らず、挙句の果てに。
「熟成パワーはぼくが面倒見るからさ! とにかく一緒に!」
「「「えっ?」」」
「君たちも一緒に来て欲しいんだよ、ぼくの納豆へのこだわりっぷりをアピールするには人数も不可欠!」
大勢で行けば説得力が…、という台詞と共にパアアッと溢れた青いサイオン。ソルジャー得意の大人数での瞬間移動に有無を言わさず巻き込まれてしまい、フワリと身体が浮いたかと思うと教頭先生の家のリビングに落っこちていて。
「な、なんだ!?」
ソファから半分ずり落ちかけた教頭先生に向かって、ソルジャーが。
「こんばんは。実は君に折り入ってお願いが…」
「何でしょう?」
「藁苞納豆は知っているかな、こういうのに詰める納豆だけど」
ソルジャーの手には例の藁苞、教頭先生はそれを見るなり「知っております」と頷きました。
「納豆も美味いものですが…。それが何か?」
「君のサイズで作ったんだよ、是非協力して欲しくってね!」
「…私のサイズと仰いますと…?」
「君の男のシンボルだよ!」
其処にピッタリの筈なのだ、とソルジャーは藁苞を教頭先生に突き付けると。
「はめてくれれば、きっと絶倫パワーが満ちてくるだろうと思うんだ! 藁苞で熟成!」
「…じゅ、熟成…?」
「そう! 腐りかけが一番美味しいと言うから、そのタイミングを見極めたくって…。ぼくのハーレイは忙しいから、海の別荘でしか熟成している暇が無いんだよ」
その時に一番美味しい状態で味わいたいから実験台として是非協力を、とソルジャーの舌が自分の唇をペロリと。
「もちろんタダとは言わないからさ! 一番美味しい時が分かったら、君にはぼくから素敵な御礼をドカンとね!」
恥ずかしい写真の詰め合わせセットでどうだろうか、と訊かれた教頭先生、唾をゴクリと。ソルジャーは更に。
「君さえ良ければ、御奉仕くらいはさせて貰うよ、絶倫パワーを持て余すならね」
「…ご、御奉仕…」
教頭先生の鼻から赤い筋がツツーッと。いつもの鼻血なコースでしたが、ぶっ倒れる代わりにグッと持ち堪えて「やりましょう!」と力強い声が。教頭先生、藁苞に詰まって熟成コース…?
「まさかあそこで承知するとは…」
頭痛がする、と会長さんが額を押さえるマツカ君の山の別荘。教頭先生は藁苞をアソコに装着なさって熟成コースを爆走中です。私たちは山の別荘に来ちゃいましたが、ソルジャーの方は来ていませんから、熟成具合の確認のために教頭先生の家に足を運んでいるようで…。
「納豆はともかく、藁苞なんかにパワーがあるとは思えないのに…」
馬鹿じゃなかろうか、と会長さんが呻けば、キース君が。
「それで、あいつはどうなったんだ? あれから通っていやがるんだろう?」
「うん、ウキウキとね…」
朝、昼、晩の三回コースでご訪問、と会長さん。
「いい感じに熟成しつつあるようなんだよ、困ったことに…」
「どういう意味です?」
シロエ君の問いに、会長さんは。
「ブルーが来た時の反応ってヤツ! ブルーの感想をそのまま述べれば、もうグッと来るという感じかな? しゃぶりつきたい気分になるとか…。おっと、失言」
今の台詞は忘れてくれ、と言われなくても今一つ意味が分かっていません。ともあれ、ソルジャーお望みの熟成とやらは順調に進んでいるわけですね?
「そうなんだよねえ、このまま行ったら最高に美味な腐りかけとやら…。ん…?」
ちょっと待てよ、と会長さんの手が顎へと。
「ブルーはハーレイの熟成どころか、藁苞納豆自体が初心者…。でもってタイミングを実験中で調査中だということは…。もしかしなくても、熟成しすぎになるってことも…」
「それは無いとは言えないな」
むしろ有り得る、とキース君が相槌を。
「熟成しすぎたらどうなるんだ? 俺にはサッパリ分からないんだが」
「ぼくにもサッパリ分からないけど、やり過ぎちゃったら面白いことになる…かもしれない」
そっちの方向に期待するか、と会長さんの口から恐ろしい台詞が。
「ハーレイが話を受けた時には腹が立ったけど、熟成しすぎになったなら! ぼくも一気に気分爽快、笑って踊って万歳かも!」
「「「…ば、万歳って…」」」
いったい何が起こるというのだ、と震え上がった私たち。熟成も美味しさも意味不明なだけに、その面白い結末とやらも理解不能だろうと思ったのですが…。
「素晴らしいねえ、納豆と藁苞のパワーはね!」
今夜が食べ頃、とソルジャーが舌なめずりをするプライベート・ビーチ。あれから日が過ぎ、お盆も終わってマツカ君の海の別荘です。ソルジャー夫妻と「ぶるぅ」も一緒で、キャプテンはアソコに藁苞を装着なさっているそうで。
「ブルー、私も楽しみですよ。装着している間は禁欲ですが、これを補ってなお余りある…」
「そう! 今夜は藁苞を外してガンガン!」
最高の夜になるに違いない、とキスを交わしているバカップル。その一方で…。
「そろそろか、マツカ?」
「あっ、そうですね! ウッカリしてました、流石です、キース」
時間ですね、とビーチで立ち上がる男の子たち。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が今年もバーベキューをしていて、獲れたてのサザエやアワビなんかも焼かれていますが、海で獲物を探す面子は今回、一名、欠けてしまっていて。
「教頭先生、こんな感じで如何でしょう?」
シロエ君が尋ねると「うむ」と返事が。
「…ほどほどの熱さといった所か…。世話になるな」
「いえ、ぼくたちにはこれくらいしか…。早く治るといいですよね」
砂蒸しがけっこう効くそうですから、とシロエ君。教頭先生は首から下が砂に埋まった状態で。
「かみお~ん♪ お日様で焼けた砂の入れ替え、またするんだよね?」
「そうなるねえ…。此処で全快すればいいけど?」
恥ずかしい病気、と会長さんが情けなさそうにボソリと。
「腐りかけを過ぎたら、何とは言わないけど皮膚病だなんて…。白癬菌には砂蒸しなんだよ」
それで水虫が全快したって人もいるから、と教頭先生の方をチラチラと。
「あんな所に白癬菌ねえ…。藁苞にそういう菌はいないと思うんだけどね?」
きっと元からキャリアだったに違いないんだ、と酷い決め付け。けれども実際、教頭先生、痒くてたまらないのだそうで…。
「かぶれたんじゃないの?」
ジョミー君が声をひそめて、マツカ君が。
「ええ、多分…。ですが…」
「会長がそうだと言い切る以上は白癬菌になるんですよね…」
お気の毒です、とシロエ君。バカップルの納豆生活のために身体を張った教頭先生、別荘ライフは砂蒸し三昧で終わりそう。これに懲りたらソルジャーの口車には乗らないことだと思うんですけど、藁苞パワー、恐るべし。まさか本当に絶倫だなんて、やっぱり禁欲効果なのかな…?
納豆を買いに・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
納豆を食べれば絶倫なのだ、と思い込んだソルジャーの欲望は藁苞の方へまっしぐら。
毎度のように実験台にされた教頭先生、気の毒な結末に。砂蒸しで治るといいですけど…。
シャングリラ学園シリーズ、4月2日で連載開始から11周年を迎えます。
12周年に向けて頑張りますので、これからも、どうぞ御贔屓に。
次回は 「第3月曜」 4月15日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、3月は、お馴染みの春のお彼岸。今年も法要をするわけで…。
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